グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
繋がらない。毎日毎晩かけているけど繋がらない。アンテナ立っているけどJGJの奴とか言われてもよく分からない。特に分かったこととか無いけど、報告するよう言われてたからそろそろ何か言わないとアイラさんあたりが怒るだろうなぁ〜。あ、電源切れそう。充電器、充電器…完っ全に忘れてきたわ!
「でえぇやぁ!!」
僕の気合いの入った掛け声と共に放たれた蹴りによって、その攻撃を受けた霧の魔物の首から上が宙に舞う。どうやら今倒したのが最後の一体だったらしいです。ほとんど時を同じくして、少し離れた場所で戦闘をしていたパルチザンのメンバーが制圧を終えて集まっていた。そこに遅れて合流し、アジトに戻る道中にその戦績を讃える。
「こっちの分、終わったよ。みんな、やっぱり強いね」
「まぁ、伊達にレジスタンスを名乗ってるわけじゃないからね。と言っても私たちはほとんどバックアップ、JCくんに前線を任せてるのが現状だから、あまり誇れるようなものじゃないけどね…」
「そんなの気にしないでよ。ろくに魔法使えない僕が後ろにいても役に立たないし。僕の体質は攻撃受けてなんぼだから」
「勿論、理屈では分かってるんだよ?でも、やっぱりJCくんが傷だらけにならなきゃいけないのは……見ててちょっと辛いよ…」
そう言って俯きがちになるさら。もう一ヶ月以上共に過ごして分かってきたけど、多分これが本来のさらの性格なんだろうなぁ。たまに暴走するけど、それは底無しの優しさというか愛情の裏返しなんだろう。ちょっとフォロー入れとこうかな。
「…凄いなぁ、さらは。いや実はさ、こっちに来て色々不安だったけど、結構助けられてるんだよ?その優しさに」
「JCくん……うん!」
僕が優しく笑いかけると、暗い表情をしていたさらも次第に笑顔になる。
安堵していると、思わぬ横槍が入った。
「…JCくんとさら、くっつき過ぎ」
「全くじゃ。ほれ、わっちはいつも以上に疲れたからも〜歩けん。おんぶじゃおんぶ」
恋が僕の背に飛び乗り、ミナは理由はよくわからないけど膨れっ面をしている。多分これ、まだ警戒されてるんだろうな〜…もう一ヶ月以上一緒に戦ってるのに。そんなに似てるのか、僕?
「れ、恋!?ちょっと降りてよ、胸当たってるから!」
「良いではないか〜、良いではないか〜。絶〜対離れんからな!それにこんな“せくしーぐらまー”な美女を手放すなんてもったいないぞ?」
僕は悟られぬように彼女の体つきを不憫に思った。詳しく知らないけど、多分恋はせくしーぐらまーの定義には当てはまらない気がする。同い年のミナどころか、おそらくさらよりも小さいと思う。
僕がどう答えようか考えていると、何かを察したのかミナさんが庇ってくれた。
「ちょっと恋?JCくん、困ってるじゃない」
「何じゃミナ、嫉妬か?生憎此奴の背中は空いとらんぞ………下半身は空いとるかもしれんがなぁ」
『…!?恋!』
僕とミナが動揺して声を荒げる。この人、いきなりとんでもない下ネタをぶち込んできて!ミナだって……。
「………」チラッ、チラッ
うーん?な、なんかこっちをチラチラ伺ってる?いやいや間に受けちゃダメだって。
「何じゃミナ。まだJCと馴染んでないのか?そんなんじゃから未だに処女なんじゃぞ?どうせ貰い手なんかいないんじゃから、此奴で失っておけば」
「わーっ!!わーっ!!」
急にミナが大声で叫んだまま、僕の背中から降りた恋を追いかけ回している。けど恋が喋ってる途中でさらに両手で耳を塞がれてしまったから、何て言ってたのかは聞こえなかった。もちろん気になったのでさらに聞き直してみたけど、ニッコリしながら「JCくんは気にしなくていいよ〜」って遮られてしまった。大人ってズルい…。
「うがぁーっ!!何でじゃ!何で奴は一回も連絡を寄越さないんじゃ!?逐次報告せいって言っておったのに〜!!」
学園地下の空間、通称“魔法使いの村”に奥部に存在する魔導書“テスタメント”の前で地団駄を踏んでいる東雲アイラ。それを横で見ていた朱鷺坂チトセは嘆息しながらも、その意見に同意していた。
「(でも、確かに変ね。彼のデバイスに情報を入力した時に自動的にこちらに信号を送るよう細工しておいたのに、それも機能してないみたいだし……信じたくはないけど、まさか彼の身に何か?)それも含めての調査よ。先行して調査してるJCくんもちゃんと回収しないと」
チトセに釘を刺されて、あからさまに不満げな表情になるアイラ。もちろん彼女にも思うところはあるようで、すぐさま言い返していた。
「んなことは分かっておる。別に奴が死んどるとかはこれっぽっちも考えとらんよ。学園生の中でも上から数えた方が早いくらい強いはずじゃからな。それに連絡寄越さん理由もおおよその見当はついとるわ」
「まぁ、それについては同意見。はっきりは分からないけど恐らく“霧がある限り”は死なない身体なんでしょ、彼って?」
チトセの言葉を受けて、唸るアイラ。確かにその考察が強ち間違いではないかもしれない、というのが現状で言えることだ。こればかりは本人を連れ帰らないと立証できない。JCの精密検査をしていた宍戸結希がそう言うのだから仕方がない。
「立華卯衣のような存在もおるからのぉ。こればかりは本人に聞いてどうこうって問題でもないし…まぁ、気長に調べるわい。生憎時間もあり余っとるしな」
「はいはい。お婆ちゃんの余生に付き合ってらんないわよ」
「誰がお婆ちゃんじゃ!!ピッチピチの三百と十三歳じゃ!ロリじゃぞ、ロリ!」
ガルルル〜っと威嚇するアイラ。すると、彼女たちの元に選抜された学園生が集まってきた。
「む、漸く来たか。ちと遅かったぞ」
「すまんな、国軍の到着に時間がかかってな。だがすぐにでも行けるぞ」
武田虎千代が代表して遅れを謝罪する。どうやら今回の第一回裏世界探索に向けて錚々たるメンバーを集めたらしい。
「ある程度予想はしておったが、ここまでのメンツを集めてくるとは……本気じゃな」
アイラのつぶやきに虎千代が静かに反応する。そして深呼吸をすると、宣言した。
「これより第一回裏世界探索を決行する!目的はゲート先の世界を調査し、その全貌を明らかにすること。及び先行して調査をしているJCとの合流である。尚、期日は一週間とする為、今回の調査だけでは終わらないだろう。だがまず第一に、誰一人欠けることなく全員生還することを考えてほしい!」
「そういえばなんだけどさ…JCくん」
「ん?どうしたの、さら」
パルチザンのアジトに戻ってきた僕たちは、制圧した地点で手に入れられた食糧を使って夕飯の支度をしていた。ちなみに今日の調理係は僕とさら。料理が出来るまで恋とミナは先にシャワー浴びに行っている。恋が「今日は洗いっこじゃ〜!」と息巻いていたけど、本当に仲がいいんだなぁと思う。って、今はそんな話をしてるんじゃなかった。
「前に言ってたJCくんの世界の人たちと連絡は取れたの?」
「うーん、一応毎日寝る前に連絡を取ろうとはしてたんだけど、全然繋がらなくてさ。何日か前に一瞬だけ上手くいきそうだったんだけど、またすぐダメになっちゃって…。ついでにデバイスの充電も遂に切れたし」
まぁここまでよく持った方だけどね、と調理をしながら答えると、さらも静かに笑いながら話を聞いてくれる。たまに暴走するけど話はちゃんと聞いてくれるし、何だかんだ言って親身になってくれるから一番気のおける人かもしれない。
「一ヶ月以上も一緒に過ごして、良い意味で遠慮がなくなってきたもんね。名前で呼ぶのも抵抗無くなったみたいだし……ねぇ、JCくん。君さえ良ければ、ずっとここに居てもいいんだよ…?」
唐突にさらが調理の手を止め、僕にそう告げる。少し考えてみた結果を伝えてみる。
「う〜〜〜〜ん…。多分、というかほとんどそうなるかもしれないんだよねぇ…。こっちから一切のコンタクトが取れないわけだし、待ち合わせ場所も特に決めてないし」
「…!そ、そうなんだ……そっか〜、ふふっ」
返答を聞くと、なぜか嬉しそうに笑っているさら。こうなるといつも深読みしないといけない。この前も同じような場面に遭遇したけど、その時はたしか「一緒の調理場に立って料理して、なんか新婚さんみたいだね♪」って言ってた気がする。
意味はよく分からなかったけど、とりあえずサムズアップした記憶がある。
僕は鍋に入った具材を混ぜながら、もっと深いところの話題に切り込んだ。
「実はそのことも含めて、あとでみんなと話したいと思ってるんだ。この世界のこと、もっと知りたいんだ。調査を頼まれたのもあるけど、今はみんなの“仇”って奴のことをもっと調べてみようと思ってさ……うん、美味い!」
ちょうどいい感じで具材とルーが混ざり、仕上げに隠し味にリンゴを投入し味に深みを出す。試しに味見してみると、これまたけっこう美味しくできてるんだ、これが。
さらにも味を見てもらおう。
「さら、ちょっとだけ口、開けて?」
僕はスプーンですくって、それをさらの口へと運んだ。
「へ?あ〜んっ…!んぐ…んぐ…ごっくん……お、美味しい…!」
「本当?よかった〜…。じゃあ、みんなで食べよっか」
さらの後押しを受けた僕とさらは、気を良くしたまま皿に盛りつけたカレーライスを、恋とミナが待つテーブルへと持っていくのだった。
「ほーれほれ、ミナ〜。悔しかったら取り返してみろ〜」
「うへぇええん!!それ私のぉ〜!返してよぉ〜!!」
「な、何なの?この状況……まさか!」
僕たちが来た時、既にこの状況だった。さらが何かに気づいたらしく、冷蔵庫の中に入れていたであろう何かを探していた。
「や、やっぱり…!入れておいたお酒が無くなってる!二人が飲んじゃったんだ…」
多分テーブルの上に転がっている空き缶がさらの言っているお酒なんだろうなぁ。無事にこの近辺の霧も払えたから祝いたい気分だったんだろうかな。
「JC!ミナの脱ぎたて生パン、パ〜ス!」
「へぶぅ!?な、何これ……ほのかに暖かい」
「うわわっ!ふぅ〜…カレー、ギリギリセーフ」
恋が僕に投げた何かは見事に顔面に直撃して視界を遮る。その拍子に持っていたカレーが手から滑り落ちたけど、声から察するにさらがダイビングキャッチしてくれたみたいだ。僕は目の上に乗っている布切れと思われる物の存在を確認する。
「これは…!ミナの生パン!?」
目の前で広げてみると、それはそれは可愛らしいデザインの縞々模様の三角形。たしか前に洗濯物を干している時に見たことがあるものだった。てっきりさらのだと思ってたけど、ミナのだったんだ…。
「私の〜!!それ、返してぇ〜!」
「へ?うわぁ!!」
僕はいつのまにか目前まで迫ってきていたミナに、半ばタックルのような形で押し倒される。鈍い痛みを感じつつ視界を確保すると、眼前に頰を少し紅潮させたミナの整った顔があった。体勢はミナが僕の上に馬乗りになって胸ぐらを掴まれて顔を寄せている感じ。うぉ、酒臭っ!
「JCくぅん〜…聞いたよぉ?さらにキスしたんだってぇ〜?」
「いや、それは生命の危機を感じたから…」
「恋にぃ、ヌードモデルも頼まれてたんでしょ〜」
「JCくんのヌード!?ふわぁ〜…」
「それは上半身だけだし、エピソードとしても描いてないから説明面倒なの!あと、さらは幸せそうな笑顔でこっちを見ないで!鼻血も止めて!」
「私だけ何にもしてくれないなんて、ふこーへぇだよ〜!うえぇぇんっ!!」
まるで子どものように泣き出すミナ。一ヶ月以上一緒に過ごしてきたけど、僕はいつもミナに警戒されていると思ってた。だからさらや恋と接するのと同じようにミナに接することをしなかった。三人の中で一番“仇”のことを重く捉えているから、僕と重ねて嫌な思いをしてほしくなかったからだ。
「ミナ……」
僕は静かにミナの瞳を見つめる。オッドアイの潤んだ瞳に僕の顔が映るのが見える。普段は冷静に振舞ってる分、お酒の力とはいえ今の姿が素なんだろう。
僕はミナの背中に手を回し抱擁して、優しく問いてみる。
「ごめんね、ミナ。そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかったよ。何か僕にしてもらいたいことはある?」
愚図るミナは淡々と、恥ずかしげもなく口走った。
「……して」
「…して?何を?」
「……キス、して?」
『…マジか、こいつ』
この場にいたミナ以外の思考が満場一致した。多分アルコールのせいで気が大きくなっているんだ。そうに違いない。
二人にサインを仰ぐ。
恋は【いけ!ブチュっとな!舌を入れるとポイント高いぞ!】
さらは【上手くはぐらかして!JCくんの唇は私のものだから!】
不本意極まりないけど、ここはさらに従おう。後半はもう訳わかんない。
「ミナ、駄目だよ。こんなのって良くない…」
「うわぁあああん!!やっぱり私のこと、嫌いなんだぁああ〜!!」
だ、駄目だ。余計手がつけられなくなった…。しょうがない、フリだフリ。フリで誤魔化すしかない。
「…分かったよ。ゆっくり動いて、そう。屈んで」
僕はミナの顔をゆっくりと手繰り寄せ、少しずつ顔を近づける。二十センチ、十五センチ、十センチ、五センチと互いの息遣いが聞こえるほど近づく。
「JCくん……うぅ……うっ…」
ミナが嗚咽を漏らしている。感極まっているのだろうか。よーしよし、酔いが回ってこのまま眠ってくれると助かるんだ、本当に。
よし、良い感じだ。もう少し、もうちょい…
「うっ!……おうえぇ〜…」
安心しきっていた矢先、僕の顔に絶え間なく降り注ぐ吐瀉物の嵐…兆候なんか無かった。
「ぎゃー!!吐いたァ〜!!?」
「うっぷ……い、いかん、貰った……おぅえ〜…」
「ぎゃー!!こっちも〜!?」
さ、最悪や…。約一ヶ月半の戦闘、その報酬は美女たちからの顔面リバースかぇ…。
「さら…」
全てを出し切ったミナの拘束を解かれた僕は、ムクリと起き上がって静かに告げた。
「…貰わないように頑張って」
「……うん、頑張るぅ」
出逢ってから、これまでに類を見ないほど淡白な会話だった。
【魔女殺し】
度数40%の500ml缶のアルコール。一本飲み切ったらトイレに直行間違いなしのシロモノ。少量なら興奮剤の役割も果たす。