グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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雀 明鈴(チャオ メイリン)
中国からの留学生。食(食べる方)を我が道と定めてあらゆるものを食らいつくす。摂取したカロリーは運動で相殺するタイプらしく、食って動いて食って動いてと忙しい。嫌いなものがないため料理人にとっては嬉しい反面、生半可な量では満足しない。拳法(カンフー)を得意としていることから、戦闘スタイルが違うが拳を武器にしているJCに親近感という名の闘志を燃やし手合わせしたいと常々感じている。


第拾七話 心に刻め 魔法使い

翌日の待ち合わせ地点、時間は16時を回ろうとしていた。予定では今から1時間後の17時にこの風飛高校で受け渡す手はずになっている。でも、さっきから遊佐さんの表情が晴れない。まるで苦虫を潰したような焦りというか、苦しそうな雰囲気が感じ取れた。

少し不安に思った僕は隣を歩いていた夏海ちゃんにこそっと耳打ちで相談した。

 

「(夏海ちゃん…遊佐さんの様子がちょっとおかしくないかな?)」

 

「(まさかあんたと同じ意見とはね…。確かにちょっと変よねぇ、部長のことだから心配いらないとは思うけど…よし、あたしが探りを入れてみるわ!)」

 

夏海ちゃんはすぐに遊佐さんに駆け寄って何やらやりとりをしている。遊佐さんも夏海ちゃんの顔を見た瞬間、いつものように夏海ちゃんを煽って戯けてみせている。やっぱりさっきのは勘違いだったのかな…。

すると、次の瞬間、僕たちの周りを取り囲むように建物の陰から武装集団が現れた。

 

「な、何だ…こいつらは…?」

 

僕は自分の目を疑った。この世界で初めて魔法使い以外の人間に出会ってとても嬉しいはずなのに、何故か悪寒が襲ってくる。見るからに歓迎されていない雰囲気だ。

 

「おい、どーなってんだよ!?沙那!あれ、ウチの社員じゃねーか!」

 

同じく遊佐さんの近くにいた…確か神宮寺さんだったかな…が、お付きのメイドさんに慌てて詰め寄っている。もしかして、この武装集団のことを知っているのかな?

 

「各自、約束の時間までこの校舎を死守するんだ!特に西原くんと転校生くん、宍戸くんは必ず護らなくてはならない!少ないメンバーでの持久戦だが持ち堪えるんだ!」

 

遊佐さんの号令で各自戦闘態勢に入る。僕も数人編隊の懐に飛び込み手当たり次第に殴りつけていく。警戒すべきはライフルの類いだけど、銃身の先に体が留まらないように立ち回れば僕の攻撃範囲に相手を含めることが出来る。

 

「ヤァアッ!タァ!!」

 

躱しながら空いたボディに蹴りを入れ、更に蹲った相手の背中を利用して転がって、他の追撃を躱す。その流れで足払いを食らわせ、倒れてきた敵を背負い、残りの別の敵へ投げつける。辺りを見渡して周辺の敵を倒し終えたのを確認すると、近くで戦っていた明鈴ちゃんの背後に敵が迫っていることに気がつき、僕は飛びついた勢いのまま投げ飛ばした。

 

「…ッ!危ない!ハァッー!」

 

追撃で顔面に拳を打ち込んで気絶させると、すぐに明鈴ちゃんの安否を確認するために背後から彼女の方に手を乗せる。

 

「明鈴ちゃん、大丈夫ぐばっ!?」

 

なんか普通に殴られた。

 

「何で殴った!?」

 

「ごめんアル!だってみんな似てるアルよ!!」

 

「確かに乱戦ではあるけど……危ない!」

 

「へ?うわぁ!?」

 

明鈴ちゃんの背後から迫る敵に攻撃するため、明鈴ちゃんの足を掴んで持ち上げて空中に投げる。すると、空中でクルクル回転する彼女の足が遠心力で力を増した蹴りへと変化し、敵の攻撃を躱すと同時に頭部への痛烈な一撃を決めて、見事に着地した。

 

「ほわぁ〜!今の何アルか!?師範でもやったことない技アルよ!」

 

妙にキラキラした目で訴えてくる明鈴ちゃん。とても思いつきとこの前見た映画でやってたとは言いづらいなぁ…。

 

「……ムーンサルト、キック…かな?」

 

間違ってはないはず。月面宙返りの要領で攻撃を躱しながら、相手の後頭部へ回転蹴りを食らわせる技。うん、ムーンサルトキックだ(断言)

 

「すごいアルよ〜!!技の名前はちょっと“ダサい”けど…あれ?どうして蹲ってるアルか?」

 

うっ!?痛いところ突いてくるな…。悪意が無いぶん遠慮がないんだよなぁ。

 

「あ、そうだ。さっき遊佐から聞いたけど、時間なくなってきたらホワイトプラズマみたいなの撃つから離れとけって言ってたのだ!じゃ、ボクはまた遊佐のところに戻るのだ。手合わせの約束、忘れるんじゃないネ!」

 

そう言い残して風のように走り去っていく明鈴ちゃん。本当に元気っ子だよな〜。

 

「じゃなかった。早く逃げなきゃだ…っ!?」

 

「動くな。少しでも動けば頭をブチ抜くぞ」

 

僕は全身の血の流れが止まったような感覚に陥った。背後から突然現れた誰かに拳銃を突きつけられていたからだ。

僕は恐る恐る閉ざしていた口を開いた。

 

「…僕はどうすればいい?」

 

「…このまま建物の中に入るんだ。こちらは振り向くな」

 

僕は指示されるがままに近くの建物の中へ入った。奥部にある使われていない一室に誘導されると、僕を脅迫していた犯人は自らの装備を外して、その素顔を露わにした。

 

「…っ!?あなたは……」

 

「会うのは初めてだったね…。君がここにいるってことは、僕のメッセージは受け取ってもらえたかな…グフッ!」

 

吐血しながらも何とか言葉を紡ごうとするその人を介抱するため、側に駆け寄った。

 

「遊佐さん…ですよね?こっちの世界の…何だってこんな傷だらけなんですか。今、保健委員を呼んで回復魔法を…」

 

僕がデバイスで連絡を取ろうとすると、裏の遊佐さんに止められる。

 

「…いいんだ。それより君の血を貰うよ…」

 

「へ…痛ッ!!」

 

遊佐さんは持っていた小型ナイフで僕の左手の親指の先を切ると、その傷口から流れ出る血液を残さずその指ごと全部口に含んだ。

 

「んっ…はぁ…ちぅ……ぅん…んくっ……ぷはぁ…」

 

一心不乱に僕の指ごと血を吸い尽くした遊佐さんは、口元に着いた血まで舐め取り、妖艶な笑みを浮かべて僕を見据えていた。一方で僕はといえば、彼女の突然の奇行に何故か高揚感と気恥ずかしさが入り混じったような感情に支配されていた。

 

「あ、あの…!?今のはどういう…!?」

 

「やはりこの感じ……君には本当に唆られるなぁ…。さっきまでまともに言うことを聞かなかった体が君の血を飲んだ途端、嘘のように軽くなったよ。本音を言えばこのまま“君の初めて”を貰いたかったけど…それよりも僕の話を聞いてくれ」

 

裏の遊佐さんは表の遊佐さん以上に大人で只ならぬ色気を放つ女性だった。そんな遊佐さんは含みのある笑みを浮かべながら、真剣な眼差しで僕に語りかける。

 

「君はこれ以上こっちに来てはダメだ。薄々気づいているだろう?霧が体を受け付けなくなっていることに」

 

「…!!どうして…」

 

僕は絶句した。日に日に感じていた体を蝕む謎の現象については誰にも話していなかった。けれども目の前の遊佐さんはいとも簡単に見抜いていたのだ。

 

「ふふん…僕は生涯ジャーナリストだからね。表の僕はまだ気づいてないだろうけど…問題ない、それも含めて“パンドラ”として贈ろう。あぁそれと、今後パルチザンのアジトには行かない方がいい。彼女たちはある魔法使いに襲撃されて、今それぞれ身を隠しているからね…」

 

「なっ…!?どういうことですか!まさか遊佐さんの傷も…」

 

僕がそう聞くと、彼女は苦笑気味に答えた。

 

「…最後にドジっちゃったよ。でも安心してくれ、あの子たちは僕が責任を持って逃がしたから、きっと大丈夫さ。それよりも危惧すべきは君だ。君だけはあらゆる魔法を打ち消す魔法使いの天敵…“スレイヤー”とだけは絶対に戦ってはいけない」

 

“スレイヤー”初めて聞くその名前に沸々と怒気が溢れてくる感覚に襲われる。そんな僕の様子を察したのか、遊佐さんは自分の胸元に僕の頭を強引に抱き寄せた。

そして、静かに僕に問いかけた。

 

「…僕の心臓の鼓動、感じるかい?」

 

「は、はい!」

 

「それが“生きてる”って証拠だ。今、君は忘れていただろう?」

 

「…はい」

 

「君は唯一、スレイヤーに対抗できるかもしれない存在なんだ。だから何が何でも生き延びてくれ……それが、この世界の敗北者である僕たちの願いだよ」

 

「……え?ガハッ!!?」

 

突然、僕の体に電撃が駆ける衝撃に襲われる。僕は感電する体を支えきれずその場に倒れ込む。意識を失う寸前、僕が最後に見たものは…。

 

「この感じ、こっちの僕の合図か…あとは頼んだよ」

 

彼女の儚げな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くん……Cくん……JCくん、よかった…連絡とれなかったから立華くんに反応を辿ってもらって、追ってきたらいきなり倒れてるんだから」

 

「…んっ、あ、あれ…僕……遊佐さん?うわっぷ!」

 

ふと目を覚ますと、目の前には表の遊佐さんの顔があった。体を起こそうとすると、遊佐さんに強引に引き戻された。後頭部に伝わる柔らかな感触と横になって寝ている体勢から、僕は遊佐さんに膝枕されているのか…。

 

「まだ動いたらダメだよ。雷の魔法を受けたみたいだね。暫くは自由に体を動かせないだろう?」

 

「そ、そんなこと…あ、あれ?」

 

体に無理を言わせて起き上がろうとするも、まともに動く気配が無い。

 

「ほら、見たことか。JCくんには悪いけど、まだここで大人しく寝ていてもらうよ。精鋭部隊の帰還、それに加えて宍戸くんがこの周辺の調査を行っている。それが済んだら元の世界に戻れるから、それまでは居心地悪いかもしれないけど僕の膝枕で我慢してくれよ?」

 

普段は見たことのない自然で柔和な笑顔を向ける遊佐さんに、僕は何となくこっぱずかしい気持ちになる。

 

「わ、悪くないですよ、膝枕。遊佐さん、意外と良い匂いするし…」

 

「ふふっ…ありがとうね」

 

「あの、遊佐さん…その、こっちの遊佐さんとは会えましたか…?」

 

僕の問いかけに対して、遊佐さんは妙に残念そうに答えた。

 

「…いや、会えなかったよ。あれだけ派手に戦闘をしたから、流石に現れなかったみたいだ。でも、情報はちゃんと置いていってくれたから安心してくれたまえ」

 

その時の遊佐さんの表情を見たら、それより先の言葉は出てこなかった。

それから暫くして、調査を終えた結希さんと別任務を遂行していた精鋭部隊とゲートで合流した僕たちは、再びゲート潜って第2次裏世界探索を無事終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、密着取材と称して翌日からべったりくっつかれた夏海ちゃんによって裏の遊佐さんが拳銃自殺を図って死亡したことが不可抗力で伝えられてしまった。たしかに聞いた時はショックだったけど、表の遊佐さんの口ぶりや手に残っている傷口から、あの時確かに会ってたんだって証拠じゃないだろうか。

その日の夜、人知れず自分の無力さに泣いたのは内緒です。

裏の遊佐さんは僕に裏の世界は忘れて生きろと言った。もちろん僕もそうしたいし、多分そういう風に生きるんだろう。でもね、僕、中途半端はしません。しっかり関わりますからそれは全部終わってからの話だと思ってる。

だからそれまで見守っていて下さい。

その想いを胸に、僕はまた見知らぬ扉を開いた。

 

「皆さん、初めまして。今日から1ヶ月、このクラスでお世話になります…JCです!短い時間ですが何とか皆さんと仲良くなれるよう頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【裏から表へ 託された想い】
…うん、わかってるよ。僕自身が命を懸けて伝えた真実だからね…。後の務めは僕が引き継ぐから、今は安らかに眠ってくれたまえ。彼は僕が命を懸けてでも護るよ。ただ……彼が戦うことを望んだその時は、僕を許してくれよ?
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