グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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朝比奈(あさひな) 龍季(たつき)
授業をサボってケンカに明け暮れる学園一の不良。寄るもの全て傷つける乱暴者の雰囲気が強いが、よく見ると犬の毛があちこちについている。仲月さらの飼い犬シローを撫でている所も結構目撃されており、彼女にも心を許すものはあるようだ。


第弐拾壱話 引っ張れ!魔法使い

「…何で起きて早々にCA○Sやらなきゃいけないの?ちゃんと説明してよ、ノエルちゃん」

 

「あ、あはは〜…そこは成り行きというか、その場のノリというか…」

 

そう言って何となく笑顔で誤魔化そうとしているノエルちゃん。もちろんそんなことで誤魔化される僕ではない、現に側にいる2人の女の子が犯人はノエルちゃんだって、僕に視線で訴えているし。お仕置きじゃ。

僕は無言でノエルちゃんのほっぺたを両手の手のひらで挟む。あ、自然と口がタコのような形になってる。

 

「うぇ!?にゃ、にゃにしてるのぉ!?」

 

「……ぷっ、くくっ…酷い顔だなぁ……アハハッ!」

 

「うわぁ〜!ノエルちゃんのお顔、タコさんみたいですぅ!」

 

「さ、さらちゃん…!面白がってちゃダメだよぅ…ふふっ」

 

2人にからかわれたことで勢いがついたのか、僕の拘束から抜け出して荒ぶるノエルちゃん。

 

「ぅあー!さらちゃんも秋穂ちゃんも、この私を裏切ったなぁ〜?この恨み、晴らさで置くべきか〜!」

 

怒りからなのか、2人の前に立つノエルちゃんのシルエットが普段の三割増しに見える。当然ちゃあ当然だけど、ノエルちゃんも本気で怒っている訳ではなく、それはあくまでポーズ…つまりは見せかけだ。でもそれだけでは終わらせるつもりはない。目には目を歯には歯を、である。

 

「でも、こっちが先ね。君たち、ノエルちゃんのこと押さえててもらってもいいかな?」

 

「はいですぅ!」

 

「ノエルちゃん、ちょっとは反省しないとダメだよ?」

 

「えっ?えっ!ちょ、何で腕掴んでるの?お、お兄さん…それ、油性ペン……にゃーっ!!?」

 

両脇を2人の女の子に固められたノエルちゃんは、抵抗むなしく僕の“お返し”を有り難く受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

同じ頃、歓談部の部室で1人静かにお茶を飲んでいるアイラの姿があった。しかし、いつものような覇気は無く、どこか哀愁漂う感じだ。その様子は同じ室内にいるエミリアとあやせも感じ取っているようで、本人に聞こえないように話題にしていた。

 

「(あやせさん、東雲さんは一体どうしてしまったのでしょう?もう1ヶ月くらいはあぁでは…)」

 

「(う〜ん…流石にずっとあの様子だと、少し心配よね〜…。やっぱり原因は“コレ”かしら?)」

 

あやせはデバイスから1ヶ月前に校内掲示板に張り出された記事の写真を見せる。報道部が書いた記事、そこには『JC×東雲アイラ 破局!吸血少女と不良少年の禁断の恋、終焉…か?』の文字が大々的に宣伝されていた。

その記事を見たエミリアがぼそっと率直な感想を口にする。

 

「(もしかして前にここに来た時も、お二人はその…お、お付き合いしていたんですか?)」

 

「(…うふふ。エミリアちゃんはそういうことに疎いものね〜)」

 

「(あ、あやせさ〜ん!?)」

 

恥ずかしそうに言うエミリアの様子が可愛かったのか、少しからかい始めるあやせ。案の定、エミリアは頰を赤らめ手をぶんぶん振り回しながら取り乱していた。およそ2頭身にデフォルメされて。

 

「(でも、やっぱり心配よね…ちょっと話してみるわ)」

 

そう言ってアイラと対面する席に座るあやせ。

 

「ねぇ、アイラちゃん」

 

「…んぁ?何じゃ、あやせ」

 

若干反応が遅いが、遠い目をしながら返事するアイラ。これは重症だ…。

 

「何かあれば、わたしたちにいつでも話してね〜。ほら、エミリアちゃんももっとたくさんお喋りしたいって」

 

「そうですよ!東雲さんが元気無いと、歓談部も活気がありませんし…」

 

「…心配するでない。奴とは何ともないわい」

 

そう言って儚げな笑顔で答えるアイラ。その返答を受けて一応の了承を得たあやせとエミリアはそれ以上の言及はしなかった。

そして、アイラは自分にしか聞こえない声で呟いた。

 

「…何とも、無くなったんじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ、これでオッケーっと。ほらノエルちゃん、出来たよ」

 

そう言って出来上がったのは、前髪をゴムで結んでおでこに“肉”の文字を携えた、ほっぺに大きなぐるぐる巻きの模様を描かれた不満顔のノエルちゃんだった。

 

「ぶーぶー!お兄さんってば酷いよぅ!そういうところ本当にキライだよっ」

 

「あれぇ?でもノエルちゃん、JCさんにラクガキされてる間、 すっごく嬉しそうなお顔してませんでしたかぁ?」

 

「うんうん、ほっぺに手を添えられてる時とかこの世の幸せみたいな顔してたけど…」

 

「…だってぇ〜!」

 

ぶんぶん顔を振って取り乱しているノエルちゃん。この学園の女の子はみんな多感なお年頃なんだって間宮さんとかが言ってたけど、こういうことなのかな…?

そんなことを考えている矢先、何処からか怒号とものすごい勢いでこっちに迫ってくる足音が聞こえてきた。

 

「さらから離れやがれェエエエエッ!!!」

「秋穂秋穂秋穂秋穂秋穂秋穂ーっ!!!」

 

ズドドドドドッ!!!という擬音がぴったりなほど別方向から僕目掛けて文字通り突進してくる謎の2人の女性。

 

「うわぁああああ〜っ!?」

 

『じ、JC(お兄)さん!!』

 

その勢いに任せて僕の体は見事に宙を舞い、高さ5.6mほどの木の枝に上下逆さまに吊るされる形で漸く留まることに成功した。

 

「さら、あの野郎になんかされなかったか!?」

 

「…?大丈夫ですよぉ。いっしょにおしゃべりしてただけですぅ」

 

「秋穂ーっ!お姉ちゃんが近くに居なかったばっかりに怖い思いさせてごめんねぇ〜!!」

 

「お、お姉ちゃん!?それよりはやくJCさんを助けてあげて!」

 

「えっ、えぇ〜…あ、秋穂がそう、言うなら…クッ!」

 

「たつきさんもお手伝いしてあげてくださいですぅ」

 

「…んぇ?いや、でも…「たつきさんっ」…わかったよ!ったく…」

 

あ〜…結構、雑に引っ張られてる…いだだだだだだ!!秋穂ちゃんのお姉さんが持ってる方の腕に爪食い込んでる!?あ、首から落ちた。

 

「ふがっ!」

 

ゴキィって首鳴ったけど、これ大丈夫か…って、うわっ!?

 

「ち、ちょっと…!」

 

「テメェ…さら達に手ぇ出しやがって!ただで済むと思ってんのかァ!!」

 

倒れた僕の胸ぐらを掴んで無理矢理体を起こさせるたつきさんと呼ばれる女性。凄んで見せるけど、でもこっちももういい加減に我慢の限界だよ!

僕は胸ぐらを掴んでいる手を掴み返して、宣言した。

 

「…こっちだって、手加減しないぞっ!」

 

そのまま掴んだ手を外側へ捻り、胸ぐらから離すことに成功する。これは護身術の一種で、本とかによく載ってるけど意外と決まる。お互い体が自由になったことで、自然と闘志に火がついた。

 

「っ!てめぇ…さら!止めんなよ!こいつだけは絶対ぇぶっ潰す!オラァ!」

 

勢いをつけて殴りかかってくるたつきさん。僕も応戦して嫌なくらいに大振りの拳を防御し、何度も捌く。

 

「……」

 

「…え、お姉ちゃん?」

 

「…あぁ!クソッ!何で当たんねぇんだよ!!」

 

何度も攻撃を躱したり捌いている内に、苛立ちと疲れを見せるたつきさん。今回は早めに終われそうだぞ…と思った矢先、正面のたつきさんとは別の人物から思いがけない追撃を受けた。

 

「…ウグゥ!?カハッ…」

 

背後から蹴り飛ばされ、体勢を崩して地面に倒される僕。慌ててその人物の方を見ると、さっきとは打って変わって冷徹な視線を向ける秋穂ちゃんのお姉さんだった。雰囲気から察するに2対1ってことよね……やりますか。

無言で向かってくるお姉さんに対抗する為、その場で跳ね起き激しい蹴りを何度も防ぐ。

 

「ふっ!…くっ!これ、激しッ!」

 

的確に関節の部分だけを狙い澄まして攻撃してくるお姉さんと雑だが大振りで威力もあるたつきさん。同時に2人に攻められ僕は自ずと防戦一方になりつつあった。

 

「おい、テメェ!何のつもりだ!?」

 

「勘違いするな。私はただ確かめなきゃいけないことがあるだけだ」

 

「…ちっ、邪魔すんなよッ!」

 

口ではそう言いながら、絶妙なタイミングで間髪いれずに攻撃して、まるで反撃の隙を与えてくれない2人に焦りを感じつつも、何とか攻撃を捌いて反撃のチャンスを狙っていく。

 

「お姉ちゃん!もうやめて!」

 

「あわわ、あわわわわっ!?ど、どーしよ!?止めなきゃマズいよね!?でもアレをどうこう出来そうもなさそうなんだけど…」

 

ノエルちゃんはそう言いながら、目の前で繰り広げられる拳の応酬と常人離れした回避を見て、そこに加わることを躊躇した。そりゃ平気で前宙とかバク転とかする奴が居るもんな、僕だけど。

 

「ハァ…ハァ…さ、流石に2対1はキツイな……うわっ!?」

 

一瞬、疲れに意識を支配された瞬間、お姉さんの足払いが決まり背中から地に倒される。そこに拳に雷撃を纏ったたつきさんが追い打ちをかける。ちょ、まさか、気づいてないのか!?

 

「それ、シャレにならんって!!」

 

僕は急いでその場を飛び退いて、ギリギリのところで拳は地面に激突する。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

「…っ!?やべぇ!?」

 

たつきさん自身がその力の危険性に気づいた時には既に雷撃が周囲に走り始めていた。どうやら本人にもまだ完全には制御出来ないらしい…ってそんな悠長なこと言ってる場合じゃない!

 

「くそっ!止まらねぇ…!?この前はちゃんと出来たじゃねぇかよ!?」

 

たつきさんが何とか自制を試みてはいるものの、一向に放電が止む気配は無い。その間にもお姉さんはノエルちゃんたちの前に立ち、障壁の魔法を張って身を守ってくれていた。でも、それはいつまでもは持たない。何とか打開する手立ては……ん?何だこれ…。

 

「これは…霧?いや、違う…たつきさんの魔法、なのか?」

 

突然、目の前にぼんやりと見えた複数の線状の気配。辿って見れば、たつきさんの雷撃魔法とその線が重なっていることに気づいた。僕は何の気なしにそれらを全部束ねるようにして、自分の方に引っ張った。

 

「あがががががが!ぉいいいややっほぉおおッ!!?」

 

「…!」

 

その刹那、全身という全身にたつきさんの放っていた電撃がその軌道を変えて集約し、僕に襲いかかってきた。何で!?

 

「…そ、そんな、バカな…がくっ」

 

電撃をモロに受けた僕は、強化の甲斐も虚しくその場に倒れこんでしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んぁ?あ、あれ…この天井ってことは…また保健室に運ばれたのか……あっ」

 

頭がぼんやりしながらも意識を取り戻した僕は、ふとベッドの脇の椅子に誰かが腰掛けていることに気がついた。

その人物はやけにやる気のなさそうな声色で、僕に話しかけてきた。

 

「…おや、よーやく起きやがりましたね。寝坊助さんは取り締まっちゃいますよー」

 

「は、はぁ…で、あなたは?」

 

僕が聞き返すと、少女は気怠そうに組んでいた足を組み替えながら答える。あっ…す、スカートの中がみ、見えそう…も、もうちょい…。

 

「どーも、風紀委員長の水無月風子です。いちおー説明しておきますと、これ演技なんで。ダラーっとしてた方が油断するでしょう?アンタさんも顔に似合わず“スケベェ”なんですねぇ…現行犯で懲罰房にぶち込みますよ?」

 

そう言いながら自分でスカートの端をつまんで、ひらひら〜と誘惑する風子さん。は、嵌められた!?

 

「とゆーわけで、ウチと取り引きしましょ?2、3質問に答えて頂ければ、アンタさんが今まで破壊した学園内の施設の弁償や落としてた分の単位を補償するように掛け合ってあげてもいいですよー。どうです?」

 

「うっ!…やっぱバレてたんだ。今までお咎めなしだったから、てっきり上手く誤魔化せてるのだとばっかり…」

 

「取り引きってゆーのは、交渉材料とタイミングが大切なんです。今までアンタさんを泳がせておいたのは、この為なんですよー」

 

ふっふーんっと腕組みしてドヤ顔を決めてくる風子さん。なんか子供が背伸びしてるみたいで可愛らしいな。

僕は素直に負けを認めて、風子さんの要求を呑むことにした。

 

「んじゃあ、まず1つ目。アンタさんが倒れた原因でもある朝比奈龍季の雷撃魔法、本人にも制御不能だったそれらの軌道をアンタさんが変えたらしーですね。一体どんな魔法を使ったんですか?」

 

「…さぁ、本当のところは僕にもさっぱり。ただ、雷撃の方向と重なるように、目の前に黒か紫色の線がぼんやりと見えたんで、それを引っ張ったら雷撃も僕の方向に…って感じですかねぇ?」

 

僕の話を聞いて、何かを見定めるように静かに頷いている風子さん。納得してくれたのかな?

 

「…じゃあ、2つ目。最近アンタさん、生徒会や宍戸結希、それに東雲アイラの所に顔を出してないらしーじゃねーですか。何かあったんですか?」

 

「…別に、ただ気づいたんですよ。みんな僕のことを気遣うフリをして、結局は僕の体質が目当てだったんだって…。言葉だけを正直に受け取って、踊らされて、利用される。それに気づかされたのはつい最近でした。自分が何者かもわからない、誰につけられたも知らない名前を名乗って、誰かの人生を代わりに生きてる!そんなの、もう…嫌なんです」

 

「…なるほど。それで不良疑惑に拍車が掛かったとゆーわけですね。あえて素行の悪い生徒を演じることで、周りの生徒からの接触の一切を断ち切る…と。ふーん…」

 

僕はここ最近の自分の行動を省みる。思い返せばいつまで経っても噂を鵜呑みにして打ち解けることが出来ない周りの生徒や優しい言葉をかけて巧みに利用してくる人たちに少し苛立ちを感じていたのかもしれない。どうして自分を分かってくれないんだ、他の人と同じように扱ってくれないんだ、可哀想な目で見るんだ…と。

 

「…ま、それでもいーんじゃねーですか?」

 

「…へ?」

 

風子さんのあまりにも心のこもってない言葉に、僕は思わず気の抜けた声を上げてしまった。

 

「だから、別に誰とでも仲良くする必要なんかねーってことです。むしろ似たような境遇なのに、誰からもよろしくやってる転校生さんとかのほーがおかしいんですよ。何であそこまで分け隔てなく誰とでも仲良くできるのか…。ふつーに生きてりゃ、人間どっかで蟠りみたいなのがあるはずです。よーするに、アンタさんはふつーなんですよ、ふつー」

 

「風子さん…」

 

僕は思わず言葉を失った。自分は特別だ、周りとは違うと過剰なまでに期待をかけられてこの学園や裏世界で過ごしてきたけど、そんなことなかったんだ。ただ無理をして背伸びしていただけの状態だったんだ。

 

「とは言え、風紀を乱す素行不良の生徒を更生させるのも、ウチら風紀委員の仕事なんで。あんまりメンドーごと起こさねーでくだせーよ?何ならいっそ、ウチらのところに来ます?なんかあれば授業も免除ですし」

 

「…え!?いや、それは…」

 

突然の誘いに戸惑う僕に、風子さんは何故か悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ、じょーだんですよ。あんまり本気にしねーでくだせー。んじゃ、そろそろウチは退散しますわ。いちおーこれでも風紀委員長なんで、放課後にチュッチュイチャラブしてる生徒さんをパクらないといけないもんで。あー、めんど」

 

そう言いながら、かったるそうに保健室を出て行こうとする風子。しかし、突然何かを思い出したかのように振り返った。

 

「あ、そうそう…さっき虎から聞いたんですが、もし第8次侵攻が来なかったら、来月の頭に裏世界に行くらしいですよ。まぁ、アンタさんは向こうに行くと必ずと言うほど体調を崩すみたいなので、今回は見送りだと思いますが…いちおー伝えておきますわ。それではー」

 

 

 

 

 




水無月(みなづき) 風子(ふうこ)
幼い外見、ヤル気のなさそうな言動とは裏腹に、違反を見つけたら瞬く間に拘束、処罰を与える【鬼の風紀委員長】。学園の治安を乱す報道部を目の敵にしており、特に部長の遊佐鳴子との、知力を駆使した対決は一種の風物詩。生徒会に対しても不満を抱いている。今まで沈黙を保ってきた風紀委員長がJCに近づいてきた理由とは…?
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