グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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冬樹(ふゆき)イヴ】
人とのコミュニケーションを拒否し、学業に没頭する少女。誰よりも秀でることを絶対唯一の目的とし、不要なものは全て切り捨てている。そのせいか学園では孤立気味だが、特に本人は気にしていない。魔法の実力も高いが、ワンマンな戦い方には賛否両論。JCのことは体良く内申点を上げる為に楽に利用できる扱いやすい不良(と思われている)生徒である反面、自分よりも妹のノエルと仲が良いことを内心嫉妬しているのは内緒。


第弐拾参話 芽生え 魔法使い

「あーっ!うそっ!ヤバッ!」

 

12月某日、その日の授業を終えた放課後のとある教室の前を通り過ぎようとした時、聞き覚えのある声が廊下まで響いてきた。ここは…あぁ、リリィの教室か。

気になったのでチラッと覗いてみると、騒ぎの主はやはり間宮さんだった。

 

「今思い出したんだけどさ…今月、クリスマスじゃん!」

 

「…そんなびっくりすることじゃねーじゃん」

 

一緒に居た律さんが見るからに呆れた様子で反応する。でも、それにめげる間宮さんじゃなかった。

 

「だって!クリスマスって言えば、女の子の一大イベントっしょ!?それなのに今の今まで忘れてたなんて…も〜、死にたい…。あ、うちもしかしたら女子高生じゃないのかも」

 

「何言ってんのか全然わかんねぇ…ってか、何も問題ないだろ?どうせ相手いないし」

 

「そ、そんなの当日までわかんないじゃん!」

 

間宮さんが苦しまぎれの反論をしているけど、それは経験上本人が一番分かっているようで、今も若干涙目になりながら抗議していた。な、なんて可哀想な姿…頑張ってほしいなぁ。

 

「んじゃ、とりあえず転校生とか誘ってみればいーじゃん」

 

「えっ?な、何よ急に…」

 

律さんが間宮さんに転校生くんを勧める。こんな時でも真っ先に名前が出るなんて、本当に人望があるんだな転校生くんって…僕と違って。

 

「…あっ、こんなことしてる場合じゃなかった。えっと、図書室図書室っと…」

 

僕は忘れていた目的を思い出して、中断していた図書室へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おっ!よ〜、イヴちゃ〜ん」

 

「……ちっ」

 

図書室に入って偶然にもイヴちゃんの姿を発見したから挨拶しただけなのに、僕の姿を視界に入れ早々に舌打ちで返事してきたイヴちゃん。め、めげないぞ!これぐらいじゃ!

 

「目が合ったから挨拶しただけなのに…酷いなぁ。一緒の手錠で繋がった仲じゃん」

 

「…」

 

もはやツッコミすらしてくれないで、イヴちゃんの視点はノートのみを向いている。無視である、無視。

僕はイヴちゃんと対面の席に座って、未だにこちらを向いてくれないイヴちゃんをエサで釣ってみる。

 

「そういえば、この前学園内の芝生のところで昼寝してたらさ、ノエルちゃんに顔落書きされちゃったよ。ハハッ!どうだい?」

 

僕は以前CATSにされた時の写真をデバイスの画面に表示させてイヴちゃんに見せてみる。

特に興味はありませんといった反応かな。仕方ない…ならば禁じ手を使おう。

 

「ちなみに、その時に反撃したノエルちゃんのやつもあるけど…見てみる?」

 

僕は再び画面を操作し、前髪をゴムで結んでおでこに“肉”の文字を携えた、ほっぺに大きなぐるぐる巻きの模様を描かれた不満顔のノエルちゃんの写真をイヴちゃんに見せてみる。すると…

 

「……ぷふっ」

 

一瞬チラッと画面の方に視線を移したのが悪手だったんだろう。表情を悟られまいと急いで顔を背けたけど、小刻みに肩を震わせてるところを見ると、相当ツボったらしい。

なんだかんだでノエルちゃんのこと、好きなんじゃん。

 

「…何ですか、その生暖かい視線は。不快です」

 

「僕、もう泣いてもいいと思うんだ!?」

 

漸くノートから視線を移してくれたけど、怨めしそうに僕を睨むイヴちゃん。そして素早く僕の手からデバイスを奪った。

 

「あっ、ちょっと何する…」

 

「貴方がこのような如何わしい写真を他にも持っていないか、風紀委員として確認させてもらいます」

 

「…とか言って、本当はノエルちゃんの写真を自分のデバイスに送るだけじゃ……い、いぇ何でもないです」

 

言葉の途中でものすごい剣幕で凄んできて、思わず僕も雰囲気に呑まれて口を噤んでしまった。イヴちゃんは視線だけで人を殺せると思う。

そんな僕の思惑を他所に、すっかり検閲に夢中になっているイヴちゃん。こうなったら暫くは何を言っても聞いてくれない。

 

「はぁ…仕方ない、先に北海道の資料を探すとするかな」

 

僕は席を立って、受付の席に座って読書に夢中になっている女生徒に声をかけた。

 

「あの、すみません。北海道のことが載ってる本ってどこにありますか?」

 

「…はふぅ…」

 

はふぅ?この子は一体何の本を読んでるんだ?ちょっとだけタイトルを覗いてみよう。何々…あ、あ・か・ず・き…

 

「って、“赤ずきん”かいっ!!」

 

「ひゃう!?痛たぁ…あ、あれっ、もしかしてわたし、また本に夢中になってましたよね…す、すみませんっ!えっと、何かお探しの本がおありでしょうか…?」

 

僕のツッコミで意識が現実世界に戻ってきたのはよかったけど、驚いた反動で椅子に座ったまま後ろに倒れてしまった女の子。その際にスカートがめくれ上がってチラッと中の下着が見えてしまったのは、本人の尊厳のために黙っておこう。見えてない、見えてない…可愛らしい動物のプリントが施されたパンツとか絶対見てない。

 

「…あ、あぁ。北海道のことが載ってる本っていうのがあればどこにあるか教えてほしいんだけど」

 

「北海道、ですか?わかりました…では、ご案内しますね」

 

少女はゆっくりと起き上がり、倒れた拍子に付いたスカートの埃を払うと、たどたどしく歩いて僕を先導する。暫く歩くとふと止まり、何かを目線で探し始めた彼女。不審に思ったので、何があったのか聞いてみよう。

 

「ど、どうかしたの?」

 

「あ、いえ大したことじゃないんですが…本がある場所は分かってるんですけど、高いところに置いてあって…あそこにあるやつなんですけど、見えます?」

 

「あー、あれね…なら、何か台になるものを使えばいいんじゃ。脚立とか」

 

「普段ならそうなんですけど、丁度クリスマスの準備とかで借りられちゃって…たぶん閉校時間になれば戻ってくると思うんですけど」

 

そこまで待てるか…という含みのある言い方をする彼女。あの位置なら手がないわけじゃないけど。

 

「んじゃ、僕が棚伝いで上に上がって取ってきてもいいかな?」

 

すると、さっきまでのおとなしい様子とは豹変したように、僕に顔を近づけて食ってかかろうとしてきた。

 

「そ、そんなことしたらダメですっ!!ここには貴重な文献や資料だってあるんですから!破損させるようなことはもちろん、書物を汚すことだって厳禁なんですっ!」

 

さっきまでおろおろしていたのがまるで嘘かのようにまくし立てる彼女だったが、想像以上に僕と顔が接近していたことに気がついて、シュボッ!っという音が聞こえてきそうなほど顔を赤く染めて、か細い声で謝罪をしながらどんどん小さくなっていく彼女。なんか、忙しそうな人だけど…可愛らしい雰囲気がして、なんか和むなぁ。

 

「…分かった。じゃあ、ちょっと危ないけど手伝ってもらってもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どーも。遅れて申し訳ねーです」

 

「お、漸く面子が揃ったね。それじゃ始めようか」

 

報道部の部室に立った遊佐鳴子が最後に集まったメンバーを確認し、静かに話し始めた。ちなみに今この場に集められたのは、武田虎千代、朱鷺坂チトセ、宍戸結希、東雲アイラ、エレン・アメディック、そして最後に入ってきた水無月風子である。何故このメンバーが召集されたのか、本人たちすら理解出来ていない中、唯一現状を把握している…というか呼び出した張本人の遊佐鳴子からそれも含めた説明が入る。

 

「…何故このメンバーが集められたか分からないって顔だね。まぁ、何人かは見当がついてるみたいだが」

 

鳴子はチラッとアイラに目線を向ける。一瞬、視線が合いドキッとしたアイラはすぐに視線を逸らす。すると虎千代から疑問が提示される。

 

「…というか、アタシ達が表立って会っても問題ないのか?三者不可侵の原則に従って学園を運営させなけらばならないだろう?」

 

虎千代の言い分である三者不可侵の原則とは執行部・生徒会・教員部の活動に関しては相互に不干渉であるという原則で、ひとつの勢力が強くなってしまうのを抑止するためのものである。それは学園内で一定以上の権力を持つ生徒会や風紀委員はもちろん、執行部の傘下である魔導兵器開発局に所属している結希、精鋭部隊の部隊長のエレン、あとここにはいないが学園長兼生徒の犬川寧々も対象である。そんな権力者たちの異例の大集合にはそれ相応の理由が必要なのだ。それも今まで守られてきた関係性を打ち壊すほどの決定的な“何か”が。

 

「…それが、そうも言っていられないんだ。集まってもらったのは他でもない。JCくんのことさ」

 

鳴子の一言を聞いて、思わず押し黙る。が、すぐにエレンが割って入った。

 

「ちょっと待て。私はこの前初めて奴のことを知ったのだぞ。そんな私に何の用があるというのだ?とても役に立てるとは思えないのだが…」

 

エレンの主張はもっともである。しかし、鳴子は説明を続けた。

 

「うん、君たち精鋭部隊と風紀委員には別の役回りをお願いしたいんだ。でも、その話はもう少し後でね。さて脱線したから話を戻すと……既に知っているかと思うけど、一応彼について分かっていることを説明させてもらうよ。何か間違っていると思ったら、遠慮なく指摘してほしい。まずは彼の能力についてだが、宍戸くんの検査協力や度々行われる学園生との小競り合いのおかげで色々明らかになったことがある」

 

鳴子は一旦言葉を止め、ホワイトボードに書き記していく。

 

「今書いたのは、裏世界の僕がパンドラとして残した裏世界で人類の敗北を決定づけた“スレイヤー”と呼ばれる魔法使いの能力だ。主だったものはあらゆる魔法に対する完璧な耐性、戦う度に強化されていく身体、圧倒的な回復力、そして対象の魔法を意のままに操る…というものだ。それは正しく魔法使いの天敵とも言える存在だろう。そして次が今のJCの能力を表したものだ」

 

鳴子はその横に新たに書き記していく。

 

「痛みによって強化される身体と高い回復力、そして最近では攻撃する度力が強化される現象まで現れたとか。中でも注目すべき点は一度だけ他人の魔法を操ってみせた事案が発生していることだ」

 

そこでずっと沈黙を保ってきた虎千代が机を叩き、鳴子の説明に食ってかかる。

 

「それは…それはJCが、アイツが裏世界を破滅させた張本人だと…言うのか?確証が無い段階で愚弄することは、アタシが許さんぞ…!」

 

虎千代の鋭い眼差しがその場に居合わせた者全員の意識を一気に支配する。一瞬の静寂の後、鳴子がゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

「…勿論、確固たる証拠をまだ僕は持ち合わせていない。それに彼を守る役目を引き継いだ僕としても、彼を元凶呼ばわりなんてしたくないよ。でもね、僕は裏付けのない情報は口にしない主義でね、それを結論づける現象も確認されてるのも事実なんだ。水無月くん、あとは頼むよ」

 

鳴子は風子に説明の役目を引き継ぐと、自分の席に座ってしまう。そして、入れ替わるように指名を受けた風子が自前のメモ帳を広げ、淡々と説明を始めた。

 

「えー、んじゃウチからの報告ってことで。ウチら風紀委員は丁度第2次裏世界探索の後くれーから、そちらさんに依頼されて不本意ながら彼の動向を観察してました。まぁ最初の頃は特に問題は無かったんですが、ハワイの直後ぐれーですかね。朝比奈龍季が制御不能だった雷撃魔法を操って一挙に引き受けたって事案がありましてね。これは本人からの証言も取ってるので、まず間違いねーでしょう。それともう一つ面白い情報がありましてね…」

 

風子はページをめくって違う文章を読み上げる。

 

「えぇ〜っと、彼曰く自分のことを体良く利用しようとしてる人たちがいるってウチに教えてくれましたよ。そう言えば、彼と以前親交があった生徒会、宍戸結希、東雲アイラ…その辺はどーなんです?最近彼と会いましたか?まさか彼を何かの実験台なんかにしてませんよね?」

 

風子がまるで取り調べのように質問を投げかける。当然これも本人から聞いていることなので、既に分かっている答え合わせをしているのだ。沈黙は肯定であることを。

 

「アンタさんたちが彼をどういう風に扱っていたのかは知りませんが、本人の意思を無視してっていうのはいけませんねー。彼が何を望んでいるのか知ってます?」

 

そこで風子は持っていた手帳をパタンと閉じて、神妙な面持ちで告げた。

 

「普通…平穏です。僕は普通の学園生として過ごしていたいのに、誰もがそうさせてくれない。みんなが僕を奇特な人間だと思って離れていく、たとえ自分が何者か分からなくても、僕は何もしていないのに…というのが彼の言い分です。彼、そーとー塞ぎ込んでますよ」

 

風子はそう言い終えると静かに席に座り、静聴していた鳴子が再び補足する。

 

「今、水無月くんが代弁してくれたことがJCくんの声だと思ってほしい。これほどの力を持っている彼でさえも、力の在り方に迷っている。言うなれば魔法使いと言う名の兵器であることを否定したがっている。同時に、霧と戦うことが使命の魔法使いにとって彼の力は大変魅力的だ。今後の戦いでは必要不可欠な存在とも言える。だから、彼を導くために僕はある手立てを講じることにした。それが風紀委員と精鋭部隊というわけだ」

 

鳴子の説明を受けて、エレンと風子がおおよその理解を口にする。

 

「…成る程、確かにあの力は魅力的ではある。それに間接的にとはいえ、うちの問題児を手助けしてくれた恩もある。OK、精鋭部隊は奴を受け入れるぞ」

 

「ウチらも特に問題ねーですよ。まぁ氷川あたりが暴走しなければ、なんてことねーでしょ」

 

両者の許諾を得て、鳴子は次のステップの説明に入る。

 

「よし、じゃあ次はその渦中の存在である君たちだ。なぁに、やってもらうことは簡単だよ。彼と良好な関係を築く…ただそれだけさ」

 

「ちょっと待ってくれ。少なくともアタシ達はJCを特別視したことは無い。それに不信感を覚えさせるような振る舞いもしてこなかったはずなのだが…」

 

「それについては私も同感ね。彼とはあくまでもデータ採りの関係でそれ以上に深く関わっていないもの」

 

虎千代と結希が自分たちの振る舞いに対して振り返り、特に問題がなかったことを呈する。しかし、ここで改めて鳴子の補足が入る。

 

「言ったはずだよ?彼との関係は“良好”でなければならない。±0では意味が無いんだ。1つでも彼に疑念を抱かせる要素は取り除かなければ、それはこの世界の終わりを迎えることと同義だ。僕たちが霧に打ち勝つには、彼が確実に“味方”である必要がある。敵でない…では駄目なんだよ」

 

鳴子の強い想いのこもった言葉が、聞いていた者たちの心を突き動かす。少なくともテスタメントの一件がある虎千代、アイラ、チトセには響いたようだ。ただ1人、宍戸結希を除けば。

 

「…話はそれだけ?悪いけど私は退席させてもらうわ」

 

普段通りの結希の発言に思わず虎千代が意を唱えようとするが、鳴子がそれを静かに制する。

 

「宍戸くん、頼んだよ」

 

「…えぇ、善処するわ」

 

退室の去り際になされた短い会話の中に、彼女の心境の変化を確認した鳴子は優しく微笑んでいた。

 

「遊佐、何故宍戸を帰した!まだ奴の意思を確認していないだろう!?」

 

「…いや、彼女はもう分かってるよ。今までの彼女なら、JCくんをどう有効活用するかって一蹴するはずだ。でも彼女は“善処する”と言ってくれたんだ。転校生くんや他の学園生と関わることで、彼女の中の何かも変わりつつあるって証拠じゃないか」

 

「遊佐…すまない、お前がそこまで考えていたとは…教えてくれ、アタシ達はどうすればいい?」

 

虎千代が自分の浅はかな考えを持っていたことを謝罪する。すると、鳴子は突拍子も無い提案をしてきた。

 

「男を悦ばせるのは、女の仕事だ。彼の疑念が解消されるまで、君達には“女”として彼と接してもらうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜ、絶対に上は見ないで下さいねっ!わ、分かってます!?」

 

「お、オッケー…ど、どう?これで届きそうかな」

 

僕たちはあれから試行錯誤を繰り返し、結局僕の肩の上に彼女を立たせることで本を取ろうという結論に至った。そして今まさにその作業中です。

 

「も、もう少し左ですね…んしょ、はいっ。取れました〜…きゃっ!?」

 

やっとこさ本を取ることに成功したみたいだけど、何やら上の方でよからぬ声が聞こえてきた。そのまま視線を上に向けると、現在進行形で足を滑らせて背中から落ちてくる彼女の姿が…って、マジか!?

 

「ぐえっ…!?お、折れる…」

 

「イタタッ…はっ!だ、大丈夫ですか!?」

 

咄嗟に動いたおかげなのか、運良く僕の身体がクッション代わりとなって彼女は大事には至らなかったようだ。でも、彼女が受けるべきだった衝撃をモロに請け負った僕の背中は彼女の尻爆弾によって悲鳴をあげていた。

 

「はわわっ…ど、どうしよう!?す、すぐに保健委員を呼んできますねっ」

 

彼女が小走り気味に駆けていくのを最後に、僕の視界が闇に支配された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んっ、あ、あれ?ここは……うぅ〜!寒っ」

 

あれからどれくらいの時間が経ったのか、そして何故学園の図書室に居たはずなのに、いきなり街まで飛ばされていたのか。全てが分からないことだらけだった。

 

「とにかく、帰る方法を考えないと…」

 

途方に暮れていても救助が来る保証はない。何か帰る手立てはないかとしばらく街を彷徨ってみる。すると…

 

「うわっ!」

 

建物の陰から不意に飛び出してきた女の子とぶつかってしまった。

 

「おっと…ご、ごめんね。怪我とかしてない?」

 

尻もちをついて倒れてしまった女の子に、僕は手を差し伸べる。すると、女の子は手を取って起き上がると、すぐに僕の背後に隠れてしまった。

 

「ち、ちょっとどうしたの……って、あなた達は一体?」

 

突然の行動に困惑していると、僕達の目の前に2人組の男が現れる。すると、途端に彼女が何かに酷く怯え始めた。その様子から察するに、この子の知り合い…というわけじゃなさそうだ。

 

「こら、君…知らない人に近づいちゃ駄目じゃないか。そっちの男の子も困っているだろう?」

 

2人のうちの歳上の方の男が物腰柔らかに女の子に語りかける。が、その言葉を恐れてなのか少女の体の震えは止まらない。

もしかして、この男が恐怖の元凶なのか…?

そう感じた僕の体は、自然に彼女を庇うように構えていた。

 

「…何のつもりかな?私達が用があるのはそこの少女だ、君ではない」

 

「そういうわけにもいかなくなってきました。だってこの子の体、こんなに震えてるんです。だったら…放っておけないっ!」

 

「間ヶ岾さん、こんなガキ1人なんてことありませんよ。さっさと片付けてしまいましょう」

 

「…仕方ない。あまり手荒な真似はしたくなかったのだがね…騒がれても厄介だ」

 

歳下の男の方が間ヶ岾という男に僕を倒してでもこの子を連れていくと提案し、間ヶ岾もそれに乗ってきた。どうやら本気らしいな…。

 

「君、危ないから少し下がってて。すぐに走れるように準備しててね」

 

僕がそう伝えると、少女はこくんと頷いて掴んでいて僕の制服の裾から手を離して、近くの建物の陰に隠れて顔を出してこちらを見ている。

 

「いくぞ……テァッ!!」

 

僕は戦う覚悟を決めて、歳下の男が振りかぶった拳を躱し、時間差で放たれた間ヶ岾の蹴りを受け止め、こちらに向かってきていたもう1人の男の脇腹に後ろ回し蹴りを炸裂させる。

 

「かはッ…!?」

 

男が蹴りの威力を殺しきれず地面にのたうち回る間に、僕は間ヶ岾に迫る。

 

「くっ…こいつ、化け物か!?」

 

僕の動きを見て狼狽した間ヶ岾がパンチを放ってくるが難なく受け止め、そのまま腕に足を絡めて組み付く。そして、重心と遠心力を利用して回転して間ヶ岾ごと地面に抑え込み、そのまま腕を固めて締め上げる。

 

「どうだ!降参するか?」

 

僕は痛みによる苦悶の表情を浮かべている間ヶ岾に対して、手を引くように問いかける。

 

「くぅ…誰が貴様なんぞに「うオリャア!」グアァア!?」

 

まだ反抗してきそうだったので、追撃で軽く手首を捻っておいた。その隙に起き上がっていたもう1人の男の襟首を掴んで頭突きを食らわせ、怯んだ体に空中で捻りを加えた蹴りを炸裂させ、男を地面に叩きつける。

そして、反撃する気力すらなくなった男を間ヶ岾の目の前に放り投げ、再度確認した。

 

「…まだやるつもりか!」

 

拳を構えて威嚇すると、もはや勝ち目がないと悟ったのか倒れていた仲間の男を背負い、僕たちの前から足早に去っていった。

 

「へへっ、おととい来やがれってんだ…うわっ!」

 

感傷に浸っていると、突然後ろから小さな衝撃を感じる。振り返ると、そこにいたのは隠れていたはずの少女が僕の足元に抱きついていた。

 

「お兄ちゃん、すごいね!カッコよかった!」

 

何故か目をキラキラ輝かせて屈託のない笑顔を向ける少女。ついさっきまで間ヶ岾への恐怖感で体を震わせていたのに、もうすっかり平気みたいだ。でも、1人で街を出歩くのはいただけないな…まぁ、迷子の僕が言えることじゃないかもだけど。

 

「えっと…君、お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」

 

「うん…さっきまでお買い物してて…それで心、迷子になっちゃったの。でも、パパもママもきっと探してくれてるもん」

 

にへへ〜っ笑ってみせる心という少女。まぁ、親が近くにいるなら一応は安心してもいいのかな。

 

「だったら、すぐに戻ったほうがいいよ。心配してるはずだからさ。じゃあ、僕はこれで」

 

そう言って早々に立ち去ろうとする僕。しかし、背後から力弱く制服の裾を引っ張られて上手く歩けないので、諦めて向き直してその犯人と話をすることにした。ちゃんとしゃがんで視線を合わせて、マナーですから。

 

「…あの、手ぇ離してくれないと歩けないんだけど」

 

「お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、やだっ!」

 

「そうしてあげたいのは山々なんだけど、実は僕も迷子なんよ。だから「だったら心が連れてってあげる!」すまんね…って、連れてく?どこに?」

 

「お兄ちゃんと同じような服のお姉ちゃん、さっき見たよ。ほら、こっちだよ!」

 

心ちゃんは僕の手を握って、街行く人々の合間を縫って先導していくのだった。

僕はまだ、この時の心ちゃんとの出逢いの重大さを、知ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




霧塚(きりづか)萌木(もえぎ)
いつでも本を読んでいる文学少女。彼女の読書範囲は【文字が書かれているもの】全般に及び、絵本を読んでいた翌日、よくわからない言語の分厚い本を手にしていることも珍しくない。そのせいか言語学も達者。妄想癖も完備…拗らせてるねぇ…。
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