グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【第6次侵攻】
第7次侵攻の9年前。日本全国に現れた魔物が北海道に集中するという初めての事態で国軍も対処しきれず、日本で初めて魔物に北海道が占拠された大規模侵攻。
現在防ぐ戦力は十分あるのだが、年々魔物が強くなっているうえ、第8次侵攻の対策もあるので「取り返す」ということに戦力をさけず、北海道は占拠されたまま。


第弐拾伍話 跳べ 魔法使い

「……んっ?あれ、また街に出てるのか?それに、なんかさっきよりも寒くなってるし」

 

僕は霧の嵐に巻き込まれ、漸く学園に戻ることが出来たと浮かれていた。しかし、視界に入ってきたのはまたもや見知らぬ街。辺りを見回してみるも一緒に居たはずの学園生の姿は無く、ここで漸く自分だけが別の場所に飛ばされたことに気がついた。

 

「アラァ…こりゃ参ったな。とりあえずデバイスで呼びかけて……って、イヴちゃんに借りパクされたまんまだったな。えぇ〜っと、電話、電話っと……おっ、あったあった!」

 

僕はデバイスの代わりとして街灯の近くに備えてある公衆電話を見つけ、少ない所持金を使って学園に電話をかけた。すると、数回コール音が聞こえたところで繋がった。

 

《こちら、私立グリモワール魔法学園です。お名前とご用件をお願い致します》

 

「あ、僕グリモアの生徒のJCです。実はちょっと迷子になって困ってるんです。できれば迎えに来てもらいたいんですけども…」

 

《…確認しますので、少々お待ちください》

 

そう言って、小気味の良い音楽が受話器越しに流れてくる。あぁ、この間にも電話できる時間とお金がなくなっていく…。

そんなことを考えていると、再び受付の女性から連絡が来た。

 

《申し訳ありませんが、確認したところ在籍している生徒の中に貴方のお名前はありませんでした。緊急時にこういった悪戯は困ります。今後二度とこういったことが御座いませんように。それでは失礼します》

 

「あっ、ちょっと…!」

 

無情にも電話はここで切られてしまった。該当する生徒じゃないだって?そんなことあるもんか。たしかにあまり出席してないし成績も優秀じゃないけど、これでもれっきとしたグリモアの生徒なのは間違いない!あの対応した職員めぇ…今度会ったら職務怠慢で訴えてやる。

 

「とにかく、このままじゃダメだ。学園もあてにならない以上、自分の力でなんとかしないと。まずはここが何処なのかを調べるしか……なっ!?」

 

僕は電話ボックスから出たところで、言葉の途中で思わず絶句してしまった。何故なら目の前に広がる景色……図書室の本にあったものと同一の建設物が建ち並び、見渡す限り至る所に残された生々しい傷跡。そして、なんといっても先程とは打って変わって途絶えることのない人間の悲鳴と既に生気を失っている数えきれないほどの死体がそこにはあった。

僕が電話していたあの少しの時間でこんなに早く多くの命が奪われたというのか…?いや、違う。この異変にたった今気づいただけだ。

 

「あ、あぁ…そ、そうか。今、まさに今この場所で!起こっているんだな…“第6次侵攻”が!!」

 

考えるよりも先に身体が理解していた。僕が飛ばされたのは第6次侵攻真っ只中の、今まさに魔物に奪われつつある北海道であり、同時にここを奴らから守りきるのが今回の僕のやるべきことだということを。

 

「たしか、日本全国に現れた魔物が北海道に集中した…だったかな?文面で見る限りではイマイチ迫力なかったけど、実際に感じるのでは段違いだ…でも、今ここで奴らを叩くことが出来れば、後で奪還に来てくれるグリモアのみんなの手助けになるはず…だもんね。よしっ!」

 

僕は柄にも無く震えが止まらない身体に喝を入れ、気合いの言葉と共に闘う決意を固める。

 

「男は度胸!恐れたら負けだもんね!手当たり次第、蹴散らすだけだっ!」

 

闘志を燃やす、それが具現化されたように僕の眼を赤々と色づかせるのと同時に、僕はこの既に荒廃しつつある街へ駆け出した。終わりのない、孤独な奪還作戦を遂行するために…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さぁ、ちゃんと会いに来たわ、宍戸結希博士。約束通りあなたが5歳の時に会った、そのままの姿で」

 

JCが再び霧の嵐に攫われた3週間後、結希を中心とする探索班のメンバーはゲートを通過し、裏世界における人類最後の砦“ゲネシスタワー”の内部に足を踏み入れていた。道中、ガーディアンやPOTIといった科研の技術をコントロール下に置いたかのような手厚いもてなしを受けたことで、表世界と裏世界では技術の進歩に差があることを改めて実感する。さらには、より巨大な魔物もタワー内部に巣食っているようで、その追っ手から逃れる為に急いで最寄りの隠し部屋に入ったところでベッドに横たわっている裏世界の結希を発見し、さっきの言葉に戻る。

 

「…えぇ。覚えてるわ、結希ちゃん。折角来てくれたのに、こんな姿でごめんなさい。数年前に発病したALSの影響で、身体が自由に動かせないの。今は右腕がある程度動かすのがやっとかしら」

 

「ALS…筋萎縮性側索硬化症のことね。ということは、この車椅子も…?」

 

「考えてる通り、ALSはその車椅子に私を縛り付けたわ。でも、今それを知ったあなたなら、もしかしたら何とか出来るかもしれない。卯衣のことも…」

 

宍戸博士は側に寄り添っている卯衣の頰に右手を添えながら、言葉を続けた。

 

「…私はまだあなたを完成させてあげられない。きっと会うのはまだ先みたいね」

 

宍戸博士の言葉に、卯衣は目に悲しみを宿しながら静かに口を開いた。

 

「…マスターは私が生まれてすぐに、いくつかの事柄と命令を下しただけでいなくなってしまう。生きろという命令以外と、記憶を失くしてしまいました」

 

「…うっかりさんね。じゃあ、まだあなたの生みの親じゃないけど、代わりに答えるわ。耳を近づけなさい」

 

宍戸博士に言われた通り、彼女の口元に顔を近づける卯衣。そして少し会話を交わした後、離れて含みのある笑みを浮かべ、静かに頷いた。

 

「…はい、了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ、ハァ…っぐ、もう何日目だ…?たしか、太陽が昇ったのは昨日で22回目で…雨と曇りが合わせて37回、んでもって今日は曇りのち雨。おかげで中のシャツとパンツまでぐしょ濡れだぁ…」

 

僕は北海道防衛の根城にしているコンビニに戻って、日付感覚を忘れないために日課にし始めた売り物のノートに正の字を追記する。僕は書き終えると徐に濡れた服を脱ぎ始める。すると…

 

「…きゃっ」

 

今、たしかに店の奥から声が聞こえてきた。こんなところにまだ人がいたのか?

僕は声の聞こえた方向に向けて、手元の小石を投げてみる。もちろん声の主に当たらないように、かなり手前を狙って放つ。その仕草に驚いたのか、声の主は驚いた様子でバランスを崩し、その場で転んでしまった。

 

「わっ!?痛った〜い……あっ」

 

僕の視線に気がついたのか、気まずそうにこっちを見るのは…女の子?ってまた小さい子かよ…。

 

「あ、あの…わ、わたし…」

 

少女はおどおどした様子で僕に話しかけようと試みているも、恐怖心からか中々上手く話せずにいられなかった。僕はその意思を汲み取って、脱ぎかけの衣服を完全に取っ払い、露わになった背中を少女に向けて座り込んだ。

 

「…悪いけど、この塗り薬を背中の傷口に塗り込んでくれないかな?自分じゃ届かないんだ」

 

「…えっ?あ、うん…」

 

僕の提案に最初は戸惑い怯えるも、渋々といった様子で塗り薬の入った容器を受け取り、その小さく冷たい両手を使って塗り広げていく。暫くすると、少女の方から重い口が開いた。

 

「…しょ…んしょ…お兄さんの背中、すごい傷だらけだね…どうして?」

 

警戒心を持ったまま不思議そうに尋ねる少女。ちらっと少女の見た目を確認した僕は、素直な感想を言わせてもらおう。

 

「傷があるのは背中だけじゃない。それはもう全身の至る所、外側はもちろん内側も…ね。それはキミも一緒なんじゃないかな?」

 

「…っ!?そ、それは…」

 

僕の指摘を受けた少女は明らかに狼狽えていた。この時期にこの北海道で1人でいる子どもが普通でない事は薄々感じていた。きっと暫くの間、街を彷徨っていたこの少女は数日かけて僕が霧散させたこの近辺に辿り着いて、食料を漁っていたところを僕が帰ってきて鉢合わせ、ということだろうか。

 

「キミみたいな小さい子が1人でいる…状況が状況なだけに、生き残ったのはキミだけ…なんだろう?」

 

少女は何も語らない。その代わりに必死に声を押し殺して涙することに耐えているのが背中越しに伝わってくる。その事実を口にするのも憚られるほどに悲惨なものだったのか…。

 

「よく…頑張ったな。よかったよ…キミが、“生きる”ってことに前向きになってくれてさ。でなけりゃ、きっと絶望して、今こうして話すことも出来なかったかもしれないだろ?だから、今この瞬間ひとつ取っても奇跡なんだ……っていうのは、ちょっとクサかったかな?ハハッ…」

 

新たな服を着替え、少女に優しく笑いかける。すると、少女の様子が一変した。

 

「…!く、うぅ…えぐっ、うっ…うわあああぁんっ!!ああああぁんっ!」

 

遂に堪え切れなくなった少女が、目の前の僕を気にせずに抑え続けてきた感情を解放させる。僕は目の前の少女にかける慰めの言葉は見つからず、出来ることと言えば、開けっ放しの自動ドアを閉め、飲み物の棚からアレを取り出して泣きじゃくる少女に差し出すくらいだ。

 

「ほら、1本やるよ。結構美味いんだぜ、缶コーヒー」

 

「ぐすっ……へ?」

 

一瞬、面食らった少女だったが、戸惑いながらも受け取ってプルタブを開けてこくこくと飲み始める。それを確認した僕は、屈託のない笑顔を少女に向けながら言い放った。

 

「毎度、1本120円ね」

 

「ぶふぅ〜っ!?エホッ、エホッ…えぇ!?あ、あの…わたし、おかね、持ってない…」

 

「…ぷっ、ハハッ!ジョークだよ、ジョーク。ユーモアのセンスが無いのかい?どうせ、店もこんなだ。せめて生き倒れない程度に好きに使わせてもらおうぜ。僕も一緒に飲んで罪被ってあげるから、固いこと言いっこなしだぞ?」

 

「む、むぅ〜…!」

 

すっかりヘソ曲げられちゃったか。でも、さっきまでの涙でくしゃくしゃに濡れた顔は、見る影もなくなっていた。せめて、せめて今だけはこの少女を悲しみに満ち溢れた現実から解放してあげなければならない。たとえ終わりのない闘いを強いられようとも……それにしても、憎まれ役ってやっぱり辛いなぁ、はぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね。変に気を遣わせてしまって」

 

「いいえ、その辺の事情は事前に副会長には伝えてあったから問題ないわ……それで、わざわざ席を外してもらってまで話したいことって何かしら?」

 

再び時間軸は裏世界のゲネシスタワー内部に戻る。卯衣に新たな命令を下した宍戸博士は、結希に取り計らってもらい、他の学園生には別室に移動してもらって現在室内には2人の宍戸結希だけが残っていた。

宍戸博士は未だに事務的な対応をする結希の様子に少し呆れた様子で話し始めた。

 

「…一応先に言っておくけど、あの時あなたからもたらされたデータのおかげで、ある程度事態を把握できた。でも、その顔から察するにそちら側であまり状況は好転しなかったみたいね」

 

「そちら側では…?どういう意味かしら」

 

宍戸博士の言葉の真意を測りかねている結希。まるで裏世界では違うという口ぶりだったが…?

 

「文字通りの意味よ。こちら側…というよりも、“私個人として”の収穫は大きかったわ。そういえば、あの人の姿が見えないようだけど?」

 

「あの人?」

 

「…あのデリカシー欠落男よ。次にここに来る時は必ず同伴するように伝えたはずなんだけど?」

 

「彼は…あの後、霧の嵐に巻き込まれて3週間前から行方不明に。こちらとしても現在、北海道奪還の最終調整の真っ最中だから、JC君には悪いけど彼の捜索班は組めないのが現状よ…」

 

そう口にするも、宍戸博士はそれが真意ではないことを理解していた。何故ならば、今もそう発言する結希の拳からはうっすらと血が滲み出るほどに強く握りしめられていたからだ。その様子を見た宍戸博士は、ならばと結希の行動を後押しするような言葉を投げかける。

 

「…なら、今はそっちに専念しなさい。飛ばされた年代にもよるけど、“そっちの”彼ならきっと大丈夫よ。私の仮説が正しいとしたら、魔物や魔法使いが相手である限りは彼に敵う者は居ないはず」

 

「あなた、彼のことどこまで知ってるの?教えて」

 

結希が宍戸博士の仮説について追求する。すると、宍戸博士は少し考えた後、重く閉ざしていた口を開いた。

 

「…あなた達がJCと呼ぶあの魔法使い。彼はこちらの世界の“スレイヤー”と呼ばれる魔法使いと同質の存在よ。人類敗北の一端を担った霧の護り手のスパイだった双美心と規格外の力を持つスレイヤー…私はこの2人を許さない」

 

「だから、こっちの双美さんとJC君も許さないつもり…?」

 

結希が柄にもなく不安そうに尋ねると、宍戸博士は少し自嘲気味になって答えた。

 

「いいえ、実際に会って話してみて理解したわ。スレイヤーとあの人は間違いなく違う、もちろん双美心もね。ただ、毒をもって毒を制す…ということもあるんじゃないかしら。私たちにはそれが出来なかったけど、あなた達ならもしくは…」

 

「なるほど。相手が同じ人間なら、その弱点も熟知しているはず。それにまだこの時代の2人がこちらの存在に気づいていない今なら、その分だけ充分な対策が期待出来る…ん、何?その何か言いたそうな顔は…」

 

結希が独り言の途中で、含みのある笑みを浮かべる宍戸博士に気がついた。

 

「…いえ、側から見たらこんな感じだったのかなって、改めて実感してるだけよ。感情表現が乏しく、全然素直じゃない、頭は良くても色気がない上、いつだって理屈ばかり捏ねて研究しか頭にない面倒な女…そんな印象かしら、私って?」

 

「まさか自分に貶されるとは思ってなかったわね…まぁ、間違いではないけれど」

 

「でも、あの人のことはどんな時も忘れたことはなかった。それも嫌な覚え方ではなくて、何というか…その、心から想うって感じかしら?辛い時も苦しい時もこんな感覚って初めてだったから少し不安で…って、少し喋り過ぎたわね。とにかく私たちが成し遂げられなかった意思をあなた達に託すわ。しっかりなさい」

 

そう言って、結希から顔を背ける宍戸博士。しかし、結希には分かっていた。顔を背けたのは、今自分がどんな顔をしているのか誰にも見られたくなかったから。その仕草や原因など、そんなところまで全くと言っていいほど自分と同じだった……と思いたくない反発心が結希の中で悶々と渦巻いている。

 

「その様子だとまだお互いに打ち解けられていないようだし…あの人のことは必ず繋ぎ止めなさい。きっとそれが人類の未来の為になる。そのために若者同士、しっかりとぶつかって励みなさい。先に言っておくけど、子どもはなるべく早いうちに作っておくと良いわ。出来れば2人、理想は男の子と女の子ね」

 

「…っ!?そんなつもり、ない」

 

宍戸博士の本気かどうかわからない言葉にむくれる結希。しかし、そんな彼女の耳は真っ赤に染まっていたのは本人たちにしか知り得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へぇ〜。んじゃ、真代ちゃんはここ札幌の生まれなんだ。どうりで小さいのに土地勘があると思ったんだ…あっ、口元についてるよ」

 

「えっ?ど、どこですかぁ?」

 

「取ってあげるから動かんでね…うしっ、とれた。あんまガッツクなよ〜」

 

「あぅ…ごめんなさい。真代、はしゃぎ過ぎてしまいましたぁ…」

 

「まぁ、たしかにこんなにたくさんの物が売ってるコンビニって凄いよなぁ。非常時とはいえ、どれでも好きに飲み食いできるんだもんな。一応、僕の名前で領収書きっておこう…泥棒じゃないし、後払いなだけだし」

 

あれからお互いのことを少しずつ話しあった僕たちは、くきゅ〜と少女のお腹の虫が小気味良く鳴ったところで、とりあえず遅めの夕食をとることに。この少女…名前は真代と書いてましろというらしいが、どうやら空腹を満たすため土地勘を頼りに彷徨っていたら、唯一電気が生きているこのコンビニに辿り着いたという。目の前で菓子パンをむしゃむしゃと頬張っている真代ちゃんは、案の定予測通りに家族を魔物に襲われて1人生き残ったようだ。本人にも言ったことだけど、そこで絶望して生きることを諦めないでくれて良かった。でなければ、こうして一緒に食事をすることもなかっただろう。

 

「お兄さん…?ねぇお兄さんってば!」

 

「…っ!な、何かな?」

 

そんなことを考え込んでいると、気づけば目の前に真代ちゃんの幼い顔が広がっていた。いきなりだったもんで一瞬、心臓がドキッと跳ね上がってしまった。

 

「あ、あのね…ここってお風呂、あるのかな?」

 

急にしおらしくなった真代ちゃん。あぁ、自分では気がつかなかったけど、僕の匂いって相当キツくなってきたか?ここのところ碌に風呂なんて入れてなかったしな、服も自分の血で染まってきてるし。

 

「あぁ、風呂ね。って言われても、ここコンビニだしなぁ…トイレはあるけど流石に風呂は無いだろうよ」

 

「えぇ!じゃあ、お兄さんは今までどうしてたの?」

 

「う〜ん…一応、汗拭きシートで拭いたり香水で誤魔化したりはしてたけど、どうせ汚れるからって諦めてたし。シャンプーとか石鹸はあるから気合い入れて真水で体洗ったりもしたけど、あれはもうやりたくないな…」

 

僕の奇跡体験話を聞いて、ガクブルしだした真代ちゃん。ずっと男1人だったからあまり気にしてなかったけど、やっぱ女の子って風呂入りたいもんなのか…。

 

「えぇ〜…今日はお風呂入りたかったですぅ…あ、じゃあ真代のお家に行きませんか!」

 

「…何だって?しかし、こういう場合は拠点から動かないのが常套手段だしなぁ…」

 

ここで思ってもみなかった提案をしてくる真代ちゃんに悩まされる。一応、ここら一帯の魔物は霧散させたはずだけど、だからと言って確実に安全かという保証はない。何せ今は第6次侵攻の最中、全国の霧の魔物がここに集中する非常事態である以上、むやみに移動するのは生き残りたいと考えるならば…はっきり言って愚策だ。真代ちゃんには申し訳ないけどさ。

 

「で、でもぉ!すぐ近くですからっ!ねっ?行きましょうよ!?」

 

「お、おいっ…!?落ち着けって!いきなり何だってんだよ……っ!ま、真代ちゃん、キミは…」

 

僕がやんわりと断ろうとすると、急に意固地になって必死に食い下がる真代ちゃん。突然の豹変具合に戸惑ったけど、真代ちゃんの表情を見て、悟ってしまった。

 

「本当に、近くですから…お願い、します…」

 

今にも消え入りそうな声で震えながら懇願する真代ちゃん。そうか…もしかしてさっきのは建前で、本当は失ったばかりの家族の思い出が残っている家に帰りたかったのか…。なるべく口にしないよう耐えていたみたいけど、きっとこれが本心なんだろうな。

 

「真代ちゃん……ったく、子供なんだからもっと素直になりんしゃい。今準備してくるから、ちゃんと案内してくれよ?」

 

「…っ!うん!」

 

僕が提案に折れると、真代ちゃんは一気に花開いたような笑顔を浮かべて目に見えて喜んで外に走って出て行った。あぁ、ほんっと僕って自分より小さい子に強く出られないよなぁ…と思いつつ、数日分の食料と飲み物をレジ袋の中に詰めると、一足先にコンビニの外で今や遅しと待っている真代ちゃんの元へ急ぐ。

 

「ねぇ、お兄さん。真代のお家まで歩いていくんですかぁ?」

 

真代ちゃんが首を傾げて聞いてくる。だから僕も自信を持って答えてあげよう。

 

「いいや、跳んでいく。だから、ちゃんと捕まっててねっ!」

 

「へぇ?…うわぁ!?」

 

僕は真代ちゃんの小さな体を担いで横抱きの体勢にして持つと、大地を蹴って空高く跳躍した。2回、3回と建物を足掛かりにして一気にビルの屋上まで昇ると、そのまま真代ちゃんに指示された方向へビルとビルの間を飛び移っていく。その間、真代ちゃんはといえば…

 

「うっはぁぁああ〜っ!!すご〜いっ!!」

 

意外と乗り気だった。

 




雪白(ゆきしろ) 真代(ましろ)
霧の嵐に巻き込まれた先で偶然出会った蒼髪の少女。第6次侵攻で魔物に家族を奪われた彼女は、JCの前でも気丈に振る舞う。でもお風呂はまだ誰かと一緒に入りたい派。8歳。
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