グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【東北守備軍特殊魔法隊】
公にされていない秘密軍。浦白 七撫が所属していた。
第7次侵攻以降も北海道に幾度と潜入、札幌までの詳細な地図を作製。北海道奪還に貢献した。


第弐拾六話 奪還せよ 魔法使い

3月初頭、グリモアの学園生たちは当初の予定通りに国連軍・国軍、PMC、中露軍、清・ロマノフ魔法学園の協力の元、北海道奪還作戦において中心部である札幌に赴いた。その札幌の地に最初に降り立ったアタシ、武田虎千代はその凄惨な光景を目の当たりにし、思わず愚痴を漏らす。

 

「ここが…札幌か。写真や動画などで見ていたとはいえ、見渡す限りに残されたこの生々しい傷跡や氷漬けの大地……第6次侵攻は日本人にとって大き過ぎたな」

 

「“時間の止まった大地”じゃ。お主、ここを訪れるのは初めてか。聞くと見るとでは大違い、じゃろ?」

 

アタシの愚痴を聞いた東雲がすかさず声をかける。しかし、肝心のアタシの方は数ヶ月ぶりにまともに会話する東雲の様子が戻っていることに驚いていた。

 

「東雲…もういいのか?前回の裏世界探索から気分が優れなかったように見えたのだが…」

 

「…あー、まぁそれは後で良い。どうせ奴が帰って来なければどうにもならんことじゃからな。それよりもさっき面白い情報を聞いたからお主にも教えちゃるわ。こっちゃ来い」

 

「面白い情報、だと?どれどれ…」

 

他の者に聞こえないようになのか、手招きして口元に耳を近づけるよう促す東雲。すると、アタシの耳に入ってきた情報は誰もが眼を見張るものだった。

 

「(遊佐の奴に盗聴させたんじゃが、どうもこの北海道…特に札幌の魔物の数が調査隊の事前報告よりも明らかに減っているらしい。表立った騒ぎにはなっとらんが、軍の内側はてんてこ舞いだろうに)」

 

「な、何だと…!?一体どういうことなんだ…まさか!」

 

軍隊が奪還地点の魔物の数を計り間違えるような失態を犯す訳がないと考える。その可能性を排除すれば、自ずと答えが出た。それを口にしようとした矢先、東雲から真に心のこもった言葉が漏れた。

 

「この北海道に奴が…JCがおる、おるのじゃ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真代ちゃん、お風呂の準備できたよ〜。すぐ入るなら着替えとタオル持ってきなよ」

 

真代ちゃんの案内の元、ものの10分足らずで真代ちゃんの家に辿り着くことができた僕は、彼女が所持していた鍵を使って開けてもらい招かれる。幸い、ガスと電気と水道などはまだ生きていたので彼女の要望通りに湯を張ってあげ、ついでに浴室の棚に置いてあったちょっと高価そうな入浴剤も入れておいてあげようかな。さらさら〜っと…うわっ、入れ過ぎた!しかもこれ泡風呂みたいになるやつ…。

 

「真代ちゃん、ごめん…なんか間違っていっぱい入れ過ぎちゃって、泡風呂みたいになっちゃった…」

 

僕が素直に非を認めて謝罪すると、真代ちゃんは泡風呂と化した浴槽を見て、何故か嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「…うわぁ〜!こんなの初めてですぅ!ねっ、せっかくですからお兄さんも一緒に入りましょう?」

 

「えっ…い、いいよ僕は。替えの服も無いし」

 

「えぇ〜、そんなこと言わないでくださいよぉ。絶対楽しいですからぁ。ねぇ〜、お願いしますぅ」

 

そう言って逃げようとする僕の腕を掴んで離そうとしない真代ちゃん。この子は2人で入るってことの意味が分かってないのだろうか?ここは人生の先輩として、しっかりとその意味を教えてあげなければ。

 

「あのね、真代ちゃん。君は女の子で僕は男だ。女の子は好きな人以外には裸を見せちゃダメなんだよ?」

 

「えぇ〜、何でですかぁ?私はお兄さんのこと、好きですよぉ?」

 

頭の上に?マークを浮かべて、一切隠すことなく告白してくる真代ちゃん。いや、この場合は告白って感じじゃないのかな。どっちかって言うと少し気のおける歳上のお兄さんって感じだと思う。

 

「多分だけど、真代ちゃんの“好き”は少し意味が違うと思うよ?」

 

「思うよぅ?なんで疑問形なんですかぁ?」

 

むっ、真代ちゃんメェ…子どものくせに痛いとこチクチク突いてくるじゃないか。誰か好きになったことなんかないのに、上手に説明なんかできるかってんだ。でもそう思ったのはフィーリング、つまりはパッションなんだよ!

 

「だって…嫌でしょ?知り合ったばかりの男に裸を見られるなんて」

 

「へぇ?いえ、全然。さっきも言いましたけど、私はお兄さんのこと大好きですから一緒に入りましょうよぉ?」

 

なんかただの好きから大好きに昇格してるんだけど……これ、うんって言うまで解放してくれないパティーンなのかな。覚悟、決めるか…ハァ〜。

 

「………わかったよ。でも、せめて上にタオル巻くとかしてお互いに直接見えないようにしよう。それが最低条件だ」

 

「えへへっ、お兄さんは恥ずかしがりやさんですね!それでいいですよ!わ〜い!」

 

そう言って、ポンポンポーンっと身につけていた衣服を脱ぎ捨てて浴室に消えていった真代ちゃん。言ったそばから…

 

「…ったく、とにかく何か隠せるものを拝借するしかないか。たしかさっきの部屋にタンスがあったよな……う、うっ!?」

 

突然、僕は今まで感じたことのない強烈な眼の痛みに襲われる。なんとか痛みに耐えつつ慌てて鏡の前に立って確認すると、そこに映っていたものを見て愕然とした。

 

「な、なんだよ…これ?なんでこんなに“青い”んだよ…」

 

鏡に映し出されたもの。それは普段の状態や戦闘時によく見られるようになった赤く光る瞳ではない、全く新しい青い光を宿した瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハー!まだ雑魚ばっかりだな!まとめて踏み潰してやるぜぇっ!!」

 

奪還作戦の攻略拠点設営の為、精鋭部隊が先行して周辺の魔物を殲滅していく。事前調査の情報の通り、まだ育ちきっていない小さな魔物ばかりなので、少数編成の精鋭部隊でも十分対応しきれた。主にメアリーが嬉々として大多数の魔物を霧散させていたが。

頃合いを見計らって、私は本部に連絡を入れる。

 

「エレン隊より本部へ。目標地点を確保した。補給要員を送ってくれ」

 

《…っ!わかりました。では引き続き、そちらの防衛をお願いします》

 

応答したのは副会長の水瀬薫子だったが、明らかに一拍遅れて反応したのを私は見逃さなかった。もちろんその原因も承知しているので、彼女が本調子になるよう少し悪戯してみる。

 

「…気にしているのか?私もさっき聞いたが、にわかに信じがたい話だな」

 

《べ、別に気にしてなんか…私は副会長としてJCさんの身を案じているだけで…》

 

「私が言ってるのは、報告より魔物の数が少ないということなのだが…。まぁ、彼氏が心配なのは分からなくもないが…あまり私情を持ち込むなよ?」

 

《ーーーっ!?!?》

 

デバイスの向こう側で恐らく彼女が発狂しているのが伝わってくる。むぅ…ジョークのつもりだったのだが、少し悪ノリが過ぎたか。報告は無事に済ませたので、彼女の尊厳のためにここは黙って切ってやるとするか。

すると、頃合いを見てなのか今回作戦に同行している東北守備軍特殊魔法隊の魔法使いの少女が私に話しかけてきた。

 

「…街まで攻め込まないんですね。やっぱり要望は聞き入れてもらえなかったか…」

 

「確か、浦白七撫といったな。不満そうだが、私のパーティにいる以上、私情を持ち込むことは許さんぞ?」

 

先に釘を打っておくと、当然と言えば当然だが、浦白からは軍人らしい答えを返してきた。

 

「えぇ、分かっています。こちらもプロですから、あなたの命令を聞きます。もし救援に駆けつける時は座標を教えて下さい」

 

「…我々のことを不甲斐ない存在だと思ってるのだろう?」

 

「えっ、いや…そんなことは…」

 

浦白は否定しているが、内心はそう思っているはずだ。故郷と仲間を魔物に奪われ、その悔しさをバネに軍に入って長年にわたり準備を進めて、そして今漸く自分たちの力で北海道を取り戻そうというところで、慎重な行動ばかりの我々グリモアの指揮下に収まるしかない。はっきり言って拷問、私が彼女の立場なら上官を説得してでも前線に出張るだろうに。

 

「…すまない、責めている訳ではないのだ。私も魔物に故郷を壊滅されてな…だから、浦白の悔しさや苦しみという気持ちは分かっているつもりだ。当然、軍という組織の考え方もな。本来ならば奴が…JCがこの作戦に参加できていれば…もっと積極的な奪還作戦を展開できたかもしれんな」

 

「お噂は予々…学園最強の呼び声の高い魔法使いだと聞いていますが。今はその、行方不明だと…」

 

浦白が私たちを気遣って、言葉を濁す。確かに奴がいるといないのとでは戦力的なことは勿論、一部の生徒のテンションにも影響しているのは事実だ。

 

「だが、私たちの成すべきことは変わらない。奴の力を借りずともこの作戦、私たちの手で成功させるぞ」

 

「…はい!よろしくお願いします!」

 

私が浦白を鼓舞すると、それに応えるように気合を入れなおす。私が誰かを励ますなど…どういう風の吹き回しだ。私がグリモアに感化されてきたということ…なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜♪とっても気持ちよかったですぅ…へにゃ〜」

 

「あっ、真代ちゃん。ちゃんと髪乾かさなきゃダメだよ。ほら、ドライヤーするからこっち来て」

 

「えへへっ、は〜い♪」

 

あの後、無事に痛みも消えたので何事もなくお風呂に入り終えた僕は寝る準備を整えつつも、真代ちゃんが濡れた髪のまま僕の前を素通りしてベッドで寝転ぼうとしたので、慌てて引き止める。まぁ、素直に言うこと聞いてくれる(従ってくれるとは言ってない)くらいの関係は築けたのかな?

 

「〜♪〜♪〜♪」

 

彼女の長く手入れされた蒼髪を手櫛でわしゃわしゃ〜っと掻いてあげながらドライヤーで乾かす。あまり上手に出来てるかはわからないけど、鼻歌混じりでご機嫌なところを見ると一応満足してもらえてるのかな?

すると、真代ちゃんが振り返って何気なく尋ねてきた。

 

「そういえば、お父さんの服のサイズで大丈夫でしたかぁ?お兄さん、意外とガッシリしてるから…」

 

「ん?あぁ、まぁ大丈夫かな…って、どこ見て言ってんのスケベっ!」

 

「へぇ!?わ、わたしはそんなつもりじゃ…そ、そんなこと言ったらお兄さんだってわ、わたしの裸を…あぅ〜」

 

少し突っついてみると、予想以上に反応する真代ちゃん。お互いにちゃんとタオル巻いてたから直接は見てないはずだけど、意外と想像力の豊かなおませさんだなぁ。

 

「お生憎様、ちゃ〜んと予防線張ってタオル巻いてもらったおかげで見えてないし、それに真代ちゃんのお子さまボディじゃ何の興奮も覚えないよ。はい、ドライヤーお終い」

 

「なっ!む、むぅ〜!」

 

当然凹凸の無い真代ちゃんの体に興奮したなんて言えるはずも無く即座に否定する……まぁ実際に興奮してないし。ただそれで真代ちゃんがむくれる理由がよくわからない。

だって真代ちゃんで興奮したって言ったら、それこそ変態じゃないか。

 

「…じゃあ、こうしちゃいます…えいっ!」

 

「…へ?のわぁっ!?」

 

すると、何を思ったのか真代ちゃんは立ち去ろうとした僕の背後から抱きついてきた。

 

「これでお兄さんもましろにメロメロ間違いなしですぅ。そう言ってくれるまで絶〜対に離れませんからね?ギュ〜!」

 

小さい手を僕の体に回して子供ながらに必死に抵抗してくる真代ちゃん。その姿がなんとなく儚げで、視線は僕を捉えているけど真代ちゃんの眼には何か別のものが見えている…僕にはそんな風に思えた。

でも、そんなことで懐柔されるわけにはいかない。僕はそのまま真代ちゃんをずるずると引きずって、先に案内されていた彼女の寝室まで行って、そのまま真代ちゃんをベッドにポーンと放り投げる。

 

「うわっ!もう…冗談なんですから、そんなに怒らないでくださいよぉ…」

 

ベッドのスプリングによって2、3回ポンポンと跳ねると、そのままベッドの上にぺたんと女の子座りで着地した真代ちゃんが抗議してくる。でも理由はちゃんと別にあった。

 

「そんなんじゃないよ。けど、もう子供は寝る時間だ、後は僕に任せてよ。今日ぐらいは安心してぐっすり眠りたいだろう?」

 

「で、でも…お兄さんは?」

 

「…これでも魔法使いですから。まぁ、今すぐ魔物を追い払うとかはできないけどさ。でも、真代ちゃんが安心して眠れるように見回ってあげるくらいはできる。また明日、頑張ろうぜ?」

 

そう言って、僕は真代ちゃんの部屋を後にする。恐らくだけど、真代ちゃんは本当に心の優しい子だからこんな状況になっても、知り合ったばかりの僕のことまで気にかけてくれるんだろう。でも、内心では薄々感づいている。

もう僕だけの力では、札幌はおろか北海道全土の魔物を退けるなんてことはできない。なら僕が囮になって魔物を引きつけてでも、真代ちゃんを本州に送り届けなければ…と。

 

「…でも、そんなのは真代ちゃんが許してくれそうもないよねぇ。ただ…この青い眼だけはどうにかならなかったかなぁ?」

 

真代ちゃんの目の前ではなんとか発現させないように頑張って耐えていたけど、もう限界だ…。僕は抗うことを諦め、体内から湧き上がる未知の力を素直に発動させる。そう、あの青く光る眼を…。

 

「あの赤い時と同じなら、この青い眼も何か能力があるってことなのかな?そういえば、僕ってあんなに速く動けたっけ…」

 

僕の孤独な呟きに答えてくれる者は、誰もいない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ〜っ…どうネ、明鈴?」

 

「お…?マ、マシロー!大きい魔物以外、全部凍ってるアルよー!」

 

再度、表世界の北海道奪還作戦に舞台は戻ります。ですが、事態は既に佳境を迎えようとしていました。転校生さんと料理部のメンバーはこの北海道を支配している魔物のボスと思われる存在と対峙しました。転校生さんの魔力譲渡の力をお借りして私の氷魔法でボスの魔物周辺の小型の魔物を全て凍らせることに成功させましたが、肝心の魔物にまでは届かず更にまた新たに小型の魔物が発生してしまいました。明鈴さんとレナさんが手当たり次第に撃退していますが、援軍が到着しない限り物量差で押されてしまいそうですね…。

 

「何か、何か手は無いのでしょうか……っ!?あ、頭の中に何か…!」

 

その時、突然私の頭の中に得体の知れない“何か”が過ぎりました。戸惑いながらも私はその情報を迷わずに、万姫さんに連絡をとっている小蓮さんに伝えました。

 

「小蓮さん!魔物の頭に傷があります!攻撃を集中させるならそこにお願いしますとお伝えください!」

 

「マシロ…わかったネ!万姫、ちゃんと聞こえたネ!?外したら一生バカにしてやるから覚悟するアルよ!」

 

小蓮さんが乱暴に通話を切っていましたが、一応こちらの考えは伝わったようですね。それにしても…何故私にあのような情報が?

 

「あと10秒…ましろ!一瞬でも良いからもう一度分厚いバリア作るべ!」

 

花梨さんが近くにいた小蓮さんと一緒に最大限の障壁を張って、援護攻撃に備えます。私も明鈴さんとレナさんをバリアで守ります。そして次の瞬間、私たちの頭上を凄まじい熱量を帯びた魔力による砲撃が通過し、氷の魔物の頭部に直撃しました。肉眼では視認できない距離から少しのズレもなく正確に攻撃を当てた人物は一体誰なのか?私に魔物の弱点を教えてくれたのは誰なのか…。

しかし、この好機を逃しはしません。今の攻撃で弱っている事実は変わりません、私の全てを賭けてでもこの一撃で北海道を取り戻します…!

 

「転校生さん…今から私の全力をもって攻撃を仕掛けます。なので決して、途中で魔力を止めないようにお願いしますね」

 

私がお願いすると、転校生さんは何も言わずに頷いてくれました。私は静かに深呼吸をして、叫びました。

 

「これで…終わらせますっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふがっ。ん、んぁ…やばっ!いつの間にか寝てたのか…ん?肩に感触が…」

 

時計を見ると時間は午前5時を指し示していた。昨晩から家の周辺を警戒して見回っていたけど、魔物の気配は感じられなかった安心感から、不覚にもリビングで寝込んでしまったみたいだ。多分最後の記憶から2時間くらいは経ってしまったと思うけど、今はそれよりももっと重要な案件で冷や汗をかいていた。

 

「…すぅ…んぅ〜…にへへ〜っ、お父さ〜ん…」

 

昨日しっかりと自分のベッドに寝かしつけたはずの真代ちゃんが、どういうわけか僕の肩の上に頭を預けて更には僕の体に腕を回して、気持ち良さげに寝言を漏らしていた。

 

「おいおい、勘弁してくれ…。誰がお父さんだって…って、この服の所為か……“お父さん”、ねぇ?」

 

僕は皮肉めいたことを考えつつも、隣で眠る真代ちゃんの頭をそっと優しく撫でる。眠っているので反応は返ってこないけど、少しでもこの辛い現実から解放されるのならそれで良い。

親はおろか自分のことすらまるで分からない僕と真代ちゃんでは、その存在価値には雲泥の差があるのは明白だった。

 

「絶対に…守るから。その為にも……っ!?」

 

その時、突然耳をつんざくような爆発音が響き渡った。僕は慌てて家の外へ飛び出して屋根の上に登り、音が聞こえてきた方向と爆発地点を探す。全身の神経が不思議な感覚に支配されて、自然とそれが何処で何が爆発を起こしていたのかいとも簡単に把握できた。

 

「あの方向は…昨日まで居た所か!?」

 

そう、爆発地点は昨日まで僕たちが居たあのコンビニがある方向だった。もし真代ちゃんの提案を断っていたら、きっと今頃…あの火中で死を迎えていただろう。

 

「お兄さ〜ん…今の大きな音は何ですかぁ?」

 

玄関を出た所から真代ちゃんが僕に問いかけてくる。僕は一飛びで真代ちゃんの元に着地すると、今見て得た情報と仮説を伝える。

 

「真代ちゃん、落ち着いて聞いてね。今の爆発音は昨日僕たちが居たコンビニの方向から聞こえてきた。でも霧の魔物はあんな風に人間みたいな爆発は起こさない。つまり、今あそこには武装した国軍の人が居るんだ!助かったんだよ…」

 

「ほ、本当…ですか?真代たちは、助かるんですか…」

 

僕の言葉を聞いた真代ちゃんが、目を潤ませながら問いかけてくる。なので、僕は自信を持って答える。

 

「そうだよ!国軍がまだ生き残ってる人たちを保護しに来てくれたんだ。さぁ、早く準備しなきゃ取り残されちゃう」

 

「は、はいっ!」

 

僕たちは家の中に戻って支度をすると、再び真代ちゃんを小脇に抱えて街の方へ跳んで移動する。そんな最中、真代ちゃんがおずおずと話しかけてくる。

 

「あの、お兄さん…真代の勘違いだったらいいんですけど、お兄さんの眼の色って“緑”でしたっけ…?」

 

「…えっ、それってどういう」

 

思ってもみなかった指摘に動揺していると、真代ちゃんは慌てて言葉を続けた。

 

「いえっ、さっき降りてきた時にそう見えただけで、その後は普通に茶色っぽかったですけど今は青いですし…」

 

緑…だって?ここに来てまた新しい力に目覚めつつあるのか。思い起こせばさっきの急に全身の感覚が鋭くなったのは緑の時の能力で、素早く動けるのは青い時の能力…ってことになるのか。

なら…自分の意思で使えるのか?

僕は建物の上を飛び移って移動していたのを止めて地上に着地する。

 

「あれ、お兄さん?まだ街に着いてないですよ……あっ」

 

僕の行動に困惑していた真代ちゃんだったけど、僕を見てすぐに何かを察してくれたみたいだ。ということは、今僕の眼は青から緑に変わっているらしい。

 

「よし…これで魔物と軍の正確な情報を知ることができる……うっ!?」

 

一瞬で軍と魔物の全ての位置と数を把握することができたがその状態も5秒と持たず、強烈な頭痛と疲労感に襲われ元の状態に戻ってしまう。

 

「お兄さん!だ、大丈夫!?」

 

真代ちゃんが心配の声をかけてくれたけど、事態が既に困窮しているのが分かった以上、急がないといけなくなった。

 

「いきなりだけど、国軍が押されててピンチみたい。すぐに救援に向かうよ。だから、ちゃんと掴まっててね!」

 

「は、はいっ!」

 

僕は再び青の力を発揮すると、真代ちゃんをしっかりと抱きかかえて国軍を視認できた場所へ急いで向かった。

移動している最中も、僕の中で不安と焦りが募っていく。今確認できただけでも魔物の数は一晩明けただけでかなり増えているし、国軍兵士の数も明らかに足りてない。生存者を全員保護する時間を稼ぐにしても、最早撤退は時間の問題だろう。それまでに必ず真代ちゃんを引き渡さなければならない。到着するまでに国軍が生き残っていればの話だが…。

 

「…っ!あそこか!たぁっ!」

 

一人で魔物に対して攻撃を仕掛けている国軍兵士を確認すると、僕はその近くに着地し真代ちゃんを下ろす。そして、そのまま兵士の頭上を跳躍して飛び越え小型の魔物に殴りかかる。しかし、ここである異変に気付いた。

 

「…!拳の威力が、弱くなってる!?」

 

明らかに一撃の威力が弱体化していて、小型の魔物ですら苦戦するほどだった。ここで僕はこの能力の数々の意義を再認識させられる。

 

「もしかして…この眼の色の能力って、力の均衡を崩して再分配するものなのか!?だとしたら…」

 

勝てない…。その事実だけが僕の頭に浮かんでくる。魔物はこの先10年かけて更に強力に育ってしまう。なのに、今の僕にはこの魔物たちを全滅させられる力は悔しいけど無い。例え赤の力を使ったとしても物量の差で押し切られ、最悪の場合、この兵士や真代ちゃんまでもが殺されてしまう…なら、もう答えは出てるはずだろう。

僕は一旦、建物の陰に身を隠している国軍兵士の側に飛び退いて、真代ちゃんを託す。

 

「もう…とっくに撤退の命令は受けてるんでしょう?だったら、早くこの子を連れて退いてください。その間、僕が時間を稼ぎます」

 

「…っ!?お、お兄さん!?何言ってるんですか!」

 

僕の言葉を聞いた真代ちゃんが狼狽えているけど、これはもうどうしようもない。僕は着ていた制服の上着を真代ちゃんの体に掛けてあげると、真正面から静かに諭す。

 

「これを着ていれば多少の攻撃からは守ってくれる。君はこの兵士さんと一緒に本土に避難するんだ。兵士さん、この子を宜しくお願いします」

 

「…大丈夫なのか?だったら私も」

 

兵士が僕一人に任せられないと引き止めようとしてくる。でも、僕には彼の体が戦闘に耐えられないことを知っていた。

 

「その傷ついた体で戦うつもりですか?だったら止めたほうがいい…死にますよ。それにあなたには、待ってくれている家族がいるんでしょう?」

 

僕は落ちていたペンダントを拾って兵士に渡す。

 

「ごめんなさい。中を見るつもりはなかったんですけど…ご家族の写真、ですか?」

 

僕がそう聞くと、兵士はペンダントの中の写真を眺めながら静かに話し始めた。

 

「…国軍に入る時に妹と撮った最後の写真だ。私が国軍に入ると知ったら、行かないでって暴れてね…だからこんな酷い顔で写っているんだ。妹はまだ9歳だ、その子も同じくらいだろ?本音を言えば、離れたくなんかないよな」

 

真代ちゃんが僕の服をギュッと強く握り締める。やっぱりこの子は僕を家族と置き換えて認識してしまうのだろうか。だとしたら、今回の僕が成すべきことは2つ。

 

「真代ちゃん、僕はこの北海道を魔物から守らなきゃいけない。でも、多分僕一人の力じゃ無理だろう。けどね、10年後に僕と同じ魔法使いが北海道を取り戻しに来てくれるんだ。だからそれまでに少しでも奴らにダメージを与えておかなければならないんだ。わかるね?」

 

真代ちゃんは黙っている。だったらもう一つの手を使おう。

 

「もし10年後、この北海道が解放されたら…その時に、この制服を返しに来て欲しい。それまで君に預けるよ…だから、そんな顔しないでよ。真代ちゃんには笑顔が一番似合ってるんだから」

 

僕は両手の人差し指を真代ちゃんの口元に当てて、端をキュッと吊り上げる。しかし不自然な笑顔になってしまい、その様子を見ていた兵士が苦笑していた。

あ、真代ちゃんがぷいって顔を逸らして恨めしさ半分恥ずかしさ半分みたいな表情で僕を睨んでいる。でも、目に溜まった涙は流れずに済んだみたいだ…よかった。

すると、お腹のところにポスッと小さな衝撃を感じた。言わずもがな、その正体は真代ちゃんだった。

 

「…わかりました。お兄さんの言うことなら、例えどんなことでも信じます。ですから、10年後に…絶対に会いましょう」

 

僕の体に顔を埋めたままそう告げた真代ちゃんを、優しく抱きしめ返す。

 

「…っ!魔物が迫ってる!」

 

しかし、再び目前まで魔物が迫ってきているのを確認した兵士が危険を知らせる。ここがリミットだ…よし。

 

「真代ちゃんを頼みます。真代ちゃん!狙うなら“ここ”だよ」

 

僕は頭を指差して、魔物の弱点を設定する。僕がやられたとして、最悪でもこれで真代ちゃんから伝えられた軍や魔法使いが後々北海道に来た時に有利に戦えるはず。

 

「お兄さん!負けないでくださいねっ!」

 

兵士に背負われた真代ちゃんが、去り際に僕にエールを送ってくる。僕は無言でサムズアップをして覚悟を決めて応えた。

 

「さぁ…ここから一歩も下がらないかんな!」

 

僕は赤の力を発揮し、眼に映る全ての魔物に対して間髪入れずに殴りかかる。そのやりとりは際限なく続いた。そう…僕の体と意識が限界を迎える頃、再び霧の嵐に飲み込まれる迄は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長、報告です!一帯を指揮していたと思われる大型の魔物、料理部と転校生さんの班により殲滅しました。それと…行方不明だったJCさんの身柄を保護しました。気を失っていますが、生きています…生きて、帰ってきました…うっ…!」

 

薫子が顔を涙で濡らしながらアタシに報告してきた。JCの無事はこの作戦の成功と同じくらい喜ばしいことだった。さて、このままでは薫子の副会長としての威厳が地に堕ちてしまいそうなので、最後の追い込みをかけようか。

 

「よし…学園生諸君!北海道を巣食っていたボスと思われる魔物は霧散を確認した。後は小型の魔物のみだが、最後まで気を抜かず作戦に当たってくれ。そして、人類最初の勝利を我々の手で収めようではないか!」

 

アタシの演説と言う名の鼓舞を受け、学園生の戦意が高揚するのがわかる。それからは流れるように魔物を霧散させ、我々人類の歴史にとって初めての完全なる勝利を得たのだった。

JC…アタシはお前の信用を取り戻せるだろうか?

そんな一抹の不安を胸に抱きながら。

 

 

 

 




【予期せぬ改変】
国軍兵士…一名生存。作戦後、家族と共に自宅療養を開始する。

雪白真代…魔法使いへ早期覚醒。規定値以上の力を持つことが確認される。保護した際に年代の異なるグリモアの制服の上着を所持していた。

謎の少年…少女を保護した兵士の提言により、後日再度北海道に軍の調査隊を派遣するも発見出来ず、複数の魔物の霧散の痕跡を確認するのみに至る。現在も行方を鋭意調査中。




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