グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【とある報道部の記録】

……うん、そうだ。明日の朝には目を覚ますと思うから、なるべく今日中に連絡が行き届くよう手配してほしい。何、君の手広い人脈と人柄なら大丈夫さ。それにJCくんに惹かれているって生徒は意外と多いんだよ…君もその内の一人なんじゃないかな?って、ごめんごめん。でもそんなに慌てると本当に勘違いされてしまうよ。
え、僕かい?そうだねぇ…半分くらいは好き、かな。正直なところ、僕にもまだ掴みきれないんだよ、彼という存在は。だからこそ、追いたくなるんだ…!
とにかく今の話、ちゃんと受けてくれよ?あと、これはオフレコで頼むからね。楽しみが半減してしまうから。


第弐拾七話 養生せよ!魔法使い

「……暇だ」

 

北海道奪還に成功した学園生たちは、人類史上初めての快挙を成し遂げた達成感を胸に抱き学園に戻って来ていた。そこには当然僕も数に含まれているわけで…と言っても僕は作戦には参加していないし、そもそも意識を取り戻したのは昨日の話だ。作戦中に気を失って倒れていた僕を保護した学園の偉い人たちが躍起になって話を聞かせろって迫ってきたみたいだったけど、僕の体調を心配したゆかりさんが来週まで休めるよう学園に掛け合ってくれたおかげでこうして寮の自室で一人寂しくベッドに横たわっている…けど、いかんせんやることが無く暇を持て余しているというわけである。はい、僕の近況報告は終わり。

 

「そういえば、放課後にでも風子さんが事情聴取に来るって言ってたっけ…それより、朝飯食べたいなぁ」

 

時計を見ると時刻は既に9時を回ろうとしていた。腹の虫が収まらないわけだ。今のこの時間なら食堂に一般の生徒はいないはず、誰にも会わず騒がれずに食事ができそうだ。

 

「…よし、そうと決まれば遅い朝飯といきますか」

 

僕は軽く身支度を整えると、すぐに部屋を出る。

 

「おはよう、JCくん」

 

「のわぁっ!?う、卯衣さん?何で…」

 

扉を開けるとあらびっくり、そこにはどういうわけか知らないけど制服姿の卯衣さんが僕を待ち構えていた。

 

「マスターの新しい命令。今日からあなたのことを見守ること」

 

「あぁ…そうなんだ。それって、もしかして24時間365日?」

 

「えぇ、そうね。4年に1回は366日、でも基本的には365日…あなたの側に」

 

おぅ…それはそれは、大変困ったぞ?でもなぁ…お腹空いたんだよねぇ。

 

「…オッケー、じゃあとりあえず食堂に行きましょ。このままじゃ飢え死にしちまうわ」

 

「スキャンしたところ、餓死するに至るほどの空腹感は感じてないはずだけど?」

 

「…ジョークだよ、ジョーク。一々ツッコまないでよっ」

 

なんか、もうやだ…。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC&卯衣 食堂へ移動中 8:57〜

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしてこんなことになったの…あ、それひとつ貰っていい?」

 

「えぇ、かまわないわ。どうして、という質問に対してだけど…答えは簡単。JCくんが霧の嵐に巻き込まれている間に、私は裏世界のマスターに会って失われていた記憶のほとんどを取り戻した。そして新しく命令を受けたの」

 

僕は頼んだカレーライスをつっつきながら、卯衣さんのサンドウィッチを一切れ貰う。おっ、意外とイケるな…っと、そうじゃなかった。

 

「そっか…じゃあ、やっぱり結希さ…その宍戸博士が卯衣さんのマスターだったんだ。いや、ほら前に言ってたじゃん、結希さんが本当のマスターだったら良いのにねって。実際ちょっと嬉しかったんじゃないの?」

 

僕がそう聞くと、少し考える仕草を見せる卯衣さん。でもすぐに口を開いた。

 

「嬉しい…という感情が正しかったのかは、わからない。ただ…」

 

「…ただ?」

 

卯衣さんは一旦言葉を止め、僕に儚げな、でもそれでいて優しい笑顔を見せながら答えてくれた。

 

「心が…ぽかぽかした。とても、心地よいものだったと思う…何か変かしら?」

 

僕の顔が緩んだ所為か、卯衣さんが少し不安そうに尋ねてきた。僕はそんなことないと答えて、卯衣さんの気持ちを肯定する。

 

「…いや、人間らしくなりたいって言ってたのが信じられないくらい、もうすっかり“人間”だなぁって。僕にはそういう感覚って、いまいちピンと来なくてさ」

 

ハハハッと自虐気味に笑って見せるけど、卯衣さんは不思議そうな顔で見つめてくるだけだ。そういうところは前と変わらないのね。

 

「話は変わるけどさ、その監視するってやつはもっとこう、どうにかならないのかな?僕にも卯衣さんにもお互い生活があるわけだし、ずっと付きっきりってわけにもいかんでしょ?」

 

「それがマスターの命令だから…でもJCくんがそう思うなら、違う方法を考えるわ」

 

オッケー、じゃあそれで手打ちってことで。

 

「もしやるんなら、本当にやることなくて暇になった時だけでいいよ。最悪『More@』でも連絡とれるし。でも、その為に卯衣さんの評価は落としちゃダメ…わかった?」

 

「…そう、わかったわ。だけど、なるべく直接確認できるようにする」

 

上手くお互いの論点に落とし所が見つかったことで話し合いが終了し、僕もちょうど朝食も食べ終えた。

 

「…よしっ、ご馳走さまでした。じゃあ僕は寮に戻るけど、卯衣さんは少し遅れたけどちゃんと授業受けに行ってね?」

 

僕がしっかりと念押しすると、卯衣さんは自分の口元に指を触れさせて、少し恥ずかしそうな素振りを見せた。

 

「うん、わかったわ。明日から方法は改善する…あっ、久しぶりに…キス、する?」

 

「…冤罪ってこういう感じで生まれるんだって、わかった気がする」

 

こうして僕と卯衣さんの邂逅は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC 寮へ移動中 9:43〜

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

約一時間ぶりの自分の部屋に挨拶をする。がちゃっと扉を開ければ、さっき見た景色がそこには…

 

「…よっ、おつか〜」

 

バタン。しっかり鍵かけてっと…。

 

「いけない、いけない。うっかり部屋を間違えてしまったみたい…さっ、行こ行こ」

 

「コラ〜ッ!!ナニ無視して逃げようとしてるんだよ!しかも律儀に外から鍵かけやがって!一瞬、ドア開かなくて焦ったぞ!?」

 

僕の部屋を牛耳っていた犯人が慌てて部屋から飛び出して僕の方に迫ってくる。うおっ、怖っ!勢いめっちゃ怖っ!

 

「望さん…人の部屋で何やってるんですか」

 

犯人…もとい望さんがどういうわけか知らないけど、僕の部屋に勝手に居座ってゲームして待ってた。いや、たしかに戸締りして行かなかったけど…まさか部屋の中に居るとは思わないじゃん。

 

「宍戸からお前が今週いっぱい部屋に篭るって聞いたからさ…ほら、早く入れよ」

 

痺れを切らしたのか、望さんが僕の腕を引っ張って部屋に引きずりこむ。ここ、僕の部屋なのに宿主完全に望さんになってるよね…。

 

「暇だと思って色々ゲーム持ってきてやったんだぜ。携帯機だろ、家庭用の据え置き機だろ、それからPCゲー用に大容量ノートパソコン!まぁ、全部現行型の型落ちだけどな」

 

そう言ってパパパっと室内の至る所に勝手に配置していく望さん。数分後、がらーっとしていた僕の部屋は見る影もなく充実したゲーム空間へと変貌していた。

 

「うはぁ〜…これ全部望さんの私物?」

 

僕があまりの光景に驚いていると、望さんはやけに得意げになって答えた。

 

「へへっ、これでもまだ一部だけどな。でも、ここにあるのはお前にやるよ」

 

「えぇ!?これ、くれんの?でも、お金持ってないし…」

 

流石に無償で貰うのは気が引けたので断ろうとする僕だったが、そんなことは御構いなしという様子で望さんは言葉を続けた。

 

「金はいらないよ。これは布教だから、たくさん遊んでゲームって楽しいもんだなぁって感じてくれればいいんだ。なっ、簡単だろ?特に風紀委員とか生徒会とかに是非伝えてやれよな」

 

あっ、望さんの魂胆が見えた。僕を利用してゲームに対する罪悪感を払拭させる気だ。でもまぁ…タダでくれるっていうなら有り難く貰っておこうかな。

 

「オッケー、そうさせてもらうよ。使い方を教えてもらってもいいかな?初めてなんだ」

 

「…ふふんっ、いいぞ。ボクの手ほどきでお前を優秀な警備員に仕立ててやるよっ。じゃあ、まずはこれにするか!」

 

そう言って嬉しそうにゲーム機の説明を始める望さん。そういえば初めて会った時もそうだったけど、ゲームの話をしてる時はこんな風に可愛らしい笑顔だったもんなぁ。

本当に好きなんだな、ゲームのこと。

 

「…あっ、警備員って要するにニーt」

 

「それ以上言うなっ!最近気にしてるんだからな…」

 

あぅ…これは失敗だったか。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC&望 ゲーム中 11:13〜

 

 

 

 

 

 

「うげっ!?宍戸から呼び出しだぁ…しゃーないなぁ」

 

ゲーム中の望さんのデバイスから音が…どうやら結希さんから呼び出しの連絡が入った模様です。最初こそかったるそうにしていた望さんだったけど、すぐに諦めたのか出て行く支度を始めた。

 

「ちょうどいいところだったのに…説明、途中になっちゃってゴメンな。検査の日って今日だったっけ…?」

 

「ううん、操作はなんとなく覚えたから大丈夫。それよりも、検査って霧過敏症の?」

 

「そ〜だよ。前よりはマシになってきたって言ったんだけどさ、宍戸の奴が全然信用してくれないんだよぉ!全く困っちまうぜっ」

 

口では強がって悪態ついているけど、前よりも症状が軽くなっているのは本当みたいで、その様子はやけに嬉しそうだった。そんな望さんの姿を見て、僕も嬉しく思う…のは変かな?

 

「ふふっ、そうなんだ。でも、望さんが元気になって…僕も本当に嬉しいよ」

 

僕が素直な感想を伝えると、一瞬呆気にとられた望さんの表情がみるみる赤く色づいていく。

 

「…へ?ば、バッカじゃないの!?いきなり何気恥ずかしいこと言ってんだよっ!今どきギャルゲーの主人公でもそんなテンプレ口説き文句なんて吐かないぞ!?も、もうボクは行くかんな!」

 

「えっ、ギャルゲーって何それ?ってか、急に動いたら体に障るよ」

 

そそくさと手早く準備を終わらせ、急いで出て行こうとする望さんだったけど、扉を閉める直前でもう一度ひょっこり顔を出して一言置き土産を残した。

 

「…また一緒にゲーム、しような」

 

僕と視線を合わせずに、静かに投げかけられた言葉。きっと本心からそう思ってくれたのだと信じて…この友情を信じて、僕は答えた。

 

「うん、またやろうね…次は絶対もっと上手になってるから」

 

それを聞いて一拍遅れてぱたんと閉じられたドア。僕の気持ちがちゃんと伝わってるといいんだけど…伝わってるよね?まぁ最悪『More@』で言えばいいか。

さ、そうと決まればゲームだゲーム。結構な数のソフトを山積みにして置いていったなぁ…それにしてもさっき言ってた“ギャルゲー”って何だろう?すっごく気になるんだけど、もしかしてこの中にあるのかな…ちょっと探してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC ベッドで暇つぶし中 12:23〜

 

 

 

 

 

 

「コンコ〜ン、お兄さん元気〜っ!」

 

「JCさん、おひさしぶりですぅ!」

 

「ふ、2人ともそんなに騒いじゃダメだよぉ…あ、失礼します」

 

時間的にはお昼過ぎ、なのにそんな時間帯に小悪魔予備軍こと散歩部の3人が僕の部屋を訪ねてきた。いや、今まで一度だってそんなことはなかったんだけど…一体どういうつもりなんだろう?

 

「君たちは…あれ、今日なんか約束してたっけ?」

 

僕がそう聞くと、この中で恐らく一番しっかりしてるであろう秋穂ちゃんが少しオドオドしながらも答えてくれた。

 

「い、いえっそうじゃなくてですねっ、大規模な作戦の後は早く学校が終わるのが通例になっているんです。みんな疲れてるだろうからって…」

 

へぇ…そうだったのか。絶対に出席日数足りてない僕を学園側が素直に休ませてくれた理由がよく分かった。

一人で納得していると、ノエルちゃんとさらちゃんがやけに元気な素振りで僕を誘ってきた。

 

「でもでもぉ!だからこそ、こうしてお兄さんをピクニックに誘いに来たんだよっ!まぁピクニックって言っても、学園内のお庭のところで集まってお昼を食べながらおしゃべりするだけなんだけどね〜」

 

「JCさんも一緒にどうですかぁ?“はるのさん”が腕によりをかけた料理をふるまってくれる予定なんですよぉ!」

 

はるのさん…それを聞いて思わずビクッと体を震わせる僕。その一言によって、あの時の恐怖と忌まわしい記憶が蘇る。

 

「…それって、僕が行っても本当に大丈夫なやつ?会った瞬間あの世行きってことない?」

 

「あ、あはは…それは可能性あるかも」

 

「す、すみません…おねえちゃんにはちゃんとわたしから説明しますので、お願いできませんか…?」

 

ノエルちゃんに可能性を示唆されるも、その横で一回りくらいサイズが小さくなって申し訳なさそうにしている秋穂ちゃん。そんな姿を見せられたら、断れないよなぁ…春乃さん超怖いけど。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC&小悪魔三人衆 学園内の特設ピクニック会場に移動中 12:40 〜

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、こっちですよぉ。あっ、たつきさ〜ん!」

 

さらちゃんとノエルちゃんに両腕を引っ張られて(秋穂ちゃんは僕の背中を地味〜に軽く押している…申し訳なく思っているのか、他の2人が騒いで悪目立ちしているからなのかすご〜く恥ずかしそうにしながら)連れて来られると、さらちゃんが先に場所取りをしていたであろう因縁の不良少女に手を振っていた。

 

「おう、邪魔してるぞ…って!?な、何でテメーがいるんだよっ!」

 

「いや、何でって言われても…誘われたから。あっ、今日は喧嘩は無しだよ?」

 

「たつきさん、わたしがJCさんをお誘いしたんですぅ。ダメ、でしたかぁ…?」

 

あぁ、さらちゃんが今にも泣きそうな顔で不良少女に訴えかけてる。流石の不良少女もこれには強く出られないみたい。

 

「うっ…別に駄目じゃねぇけどよ。おい、お前!さら達に変な気起こしたら、俺が二度と立てねぇ体にしてやるからな」

 

こ、怖い人だなぁ…ごぶっ!?

 

「あーきーほーっ!!お姉ちゃん特製!マイエンジェル秋穂ラブリー無限大弁当よ〜!!なんかぶつかった気がするけど無視よ無視!さぁ私ごと召し上が…れ…って、秋穂っ!?」

 

うぅ…全く見えなかった。ぶつかった衝撃で空中を舞ったよ…5、6回全身を回転しながら。あ、誰かが介抱してくれてるっぽい…。

 

「じ、JCさん!?大丈夫ですか!?もぉ!お姉ちゃん、いきなりひどいよっ!JCさんは昨日意識を取り戻したばっかりで、まだ病み上がりなんだよ!」

 

…あぁー、やばい。意識が薄れていくのがわかる…やっぱ無理しすぎたか…。

 

 

 

 

 

 

 

〜5分後〜

 

 

 

 

 

 

「……んぁ…あぁ…」

 

…うわっ、太陽が眩しいな。全っ然目が開けられないよ、こりゃ…うおっ!?め、目の前に巨大な壁が…。

 

 

「…って、あれ?春乃さん…ぅわっぷ!」

 

僕が目を覚ますと、何故か視線の先には春乃さんの姿があって、急いで飛び退こうとしたら無理矢理引っ張られて体勢を戻された。というか、起きてすぐ空が見えるって仰向けの状態…所謂“膝枕”されてるってことだよね。うぅ〜、怖っ。

 

「おはよ。でも、あまり派手に動かない方がいいわ。症状自体は軽い脳震盪で済ませたから安心しなさい」

 

て、手加減されてアレなのか…本気で攻撃されてたらもっと恐ろしいことになってたと思うとゾッとする…。

 

「それで…どうして春乃さんに膝枕されてるんですか?というか、散歩部は…?」

 

僕が尋ねると、ある方向に頭ごと掴まれて強引に向けられる。すると、目線の先の少し距離の離れたところで散歩部+不良少女が楽しそうにおしゃべりをしながら食を囲っていた。そもそも場所を移動してたのは僕の方だったのか。

 

「悪かったわね。誰にも邪魔されずにアンタと話すには、こうするしかなかったの。特に秋穂には余計な心配かけさせない為にね…だから、このまま私のする質問に答えなさい」

 

「は、はぁ…そうですか。それで、僕に聞きたいことって…?」

 

僕が聞くと、春乃さんは僕に視線を向けないまま質問を投げかける。

 

「前にアンタが朝比奈 龍季の雷撃魔法を操ったことがあったでしょう。遊佐から詳しいことは聞いてるから、そう身構えるな。私はその原理を知りたい」

 

春乃さんの目…直接視線を交わさなくても、ビシビシ伝わってくる。この人、本気なんだ。だったら尚更僕は困ってしまうよ。

 

「原理って…そんなこと言われても、僕だってあの一回きりしか発動してないですし、ハッキリとした実感があった訳じゃないんです。だから…」

 

歯切れの悪い返答をする僕に対して、突然春乃さんの態度が豹変した。

 

「だからなんだって言うんだ!!現にお前は私の目の前でやって見せた!!アレがただのまぐれだったなんて言わせない!!そうでなければ秋穂が…!」

 

春乃さんが激昂して僕の胸ぐらを掴んで詰め寄る。期待していた答えを聞けなかった苛立ちと僕に希望を見出すことしかできないもどかしさ…そういった思いが見て受け取れる。春乃さんという人となりを知らなければまた彼女に言い負かされてしまいそうだったけど、今なら堂々と胸を張って僕の考えを明示できる気がした。

 

「だから…!僕もそれを知りたい。いや、知らなきゃいけないんですっ!そのために、学園に掛け合うつもりで色々準備している最中なんですよ」

 

「…っ!それって、どういうこと…?」

 

僕の意思をしてくれたのか単に揉み合いになるのが面倒に思ったのか、パッと掴んでいた手を放して僕の考えに傾聴の姿勢を見せる春乃さん。

 

「第7次侵攻で学園の北西の小鯛山から南下した地下で発見された実験施設。僕の全てを知るには、僕自身がそこに行く必要があります。ただ、そこは特級危険区域に指定されてて簡単に近づけないですし、僕は学園からクエスト自体が禁止されているので…まずはそれを交渉しなきゃです」

 

「何…アンタ、学園からそんな制約受けてるの?」

 

う〜ん、これ言っていいのか迷ったけど…春乃さん、本気みたいだもんね。そういう人は信用できるもん。

 

「はい…これあんまり言わないで下さいね?だからお金無いんです…あっ、春乃さんのお誕生日のプレゼントもあげられなくてごめんなさいです」

 

僕がそう言って謝ると、なんでかすごくびっくりしてる春乃さん。あっ…ちゃんと説明しないとダメか。

 

「さっき来る途中に聞いたんです。今日、春乃さんのお誕生日なんですよね?物はあげられないけど、せめてお祝いの言葉だけでも言わせて下さい……お、おめでとうございますぅ」

 

「…何で半泣きなのよ。調子狂うわね…ってか、アンタの印象かなり変わってきたんだけど」

 

だ、だってぇ…春乃さん超怖いんだよぉ!一回も視線合わせてくれないし、急にスイッチ入って怒るし、暴力を振るってくるし…ぬわっ!

 

「痛いっ!何ですか、急に立ち上がったりしてぇ…うぅ〜、地面に頭打ったぁ」

 

すくっと立ち上がった春乃さん。そのおかげで春乃さんの膝の上に頭を乗せていた僕は無情にも地面に転がり落ちた。

 

「…話は以上よ。今の話、全ての準備が整ったら…その時私を呼びなさい。でも、あまり長くは待てないわよ。私達には…時間が無い」

 

どこか物悲しそうに呟く春乃さん。私達ってことは春乃さんだけじゃなくて秋穂ちゃんにも関係する話なのかな。でも、今も元気そうに戯れているし命に関わるような大病を患っている風にも思えないけど…。

 

「それがわかったなら倒れてないでさっさと立ちなさい。主役とゲストが揃わないと、会は始められないわ」

 

そして、春乃さんは急に目の色を変えて絶叫しながら秋穂ちゃんめがけて走り出した。

 

「そう!お姉ちゃんとまいすうぃ〜とえんじぇるぅ!秋穂による甘くて濃密で濃厚な愛の語らいをするのぉ!秋穂は今日一日お姉ちゃんの言うことを何でも聞かなきゃいけなくてぇ〜…一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って、そのまま一緒のベッドで寝るのぉ!あぁん〜嫌々する秋穂も可愛い〜♡でもでもぉ!秋穂に悪い虫がつかないようにお姉ちゃんの匂いをい〜っぱい付けとかないといけないの!だから…今行くわーっ!秋穂〜っ!!」

 

地面に伏せている僕を置き去りにして、まるで野獣のような勢いで秋穂ちゃんに襲いかかる…もとい抱きつく春乃さん。

 

「お、お姉ちゃんっ!?く、苦しい…そ、そこはダメっ…キャーッ!?」

 

秋穂ちゃん、本当にご愁傷様…。

 

 

 

 

 

 

 

パート① 冬樹ノエル 編

 

「うわぁ…散々な目に遭ってる。巻き込まれたくないから見ないでおこ」

 

「あっ、お兄さ〜ん!こっちこっち〜!」

 

春乃さんより少し遅れて合流すると、いち早く僕の存在に気づいたノエルちゃんが手招きして自分が座っている隣を手でポンポンと叩く。そこに座れってことだよね?

 

「はい、これはお兄さんの分っ!いっぱいあるから遠慮しないでバンバン食べてね!」

 

そう言って、予め取り分けておいてくれたであろうお弁当の一部を僕に差し出す。

 

「うわぁ…なんて要領の良い、それに全部好きなものばかりっ!」

 

「ふっふーん!どうよ、お兄さん?ノエルちゃんにかかればお兄さん好みのお弁当を作ってあげるのだって、チョチョイのチョイだよ〜!まぁ、料理自体は春乃さんが全部作ったからあたしは特に美味しそうなの選んでるだけなんだけどね、アハハ…」

 

ノエルちゃんは発展途上の胸を張って自慢気にしている。寂しい!その行為は限りなく寂しいよ!

僕は何となくその姿がいたたまれなく感じたので、早急に話題を変えることにした。

 

「そ、そういえば!前にノエルちゃんに落書きした時の写真、イヴちゃんにも見せてあげたんだけどさ…イヴちゃん的には結構好評だったみたいだよ。笑い転げてたもん」

 

「えっ!お姉ちゃんが?本当かなぁ…」

 

ごめん、かなりオーバーに言ってる気がする。でも心の中ではそれくらいの衝撃は感じてたと思う。じゃなきゃあんなに一生懸命人のデバイスの中漁らないもの。

 

「そうだ…もし会ったらでいいんだけどさ、イヴちゃんに僕のデバイス返してくれるよう言っておいてくれないかな?ずっと借りパクされたまんまなんだよね〜」

 

「うぇ!?そうだったの?だからお兄さんに電話しても繋がらなかったんだぁ…たしかにみんなも全然繋がらないって言ってもんね〜」

 

ノエルちゃんが一人納得しているけど、僕にはそれ以上に気になることがあった。

 

「えっ、みんなって誰?僕の連絡先知ってる人って、そんなに居ないはずなんだけど…?」

 

「えぇ〜っとねぇ、あたしが聞いたのでも…たしか生徒会でしょ、風紀委員でしょ、あと精鋭部隊と料理部と歓談部、それと報道部と千佳ちゃんに智ちゃんだったかな?」

 

うんわぁ…見事に今まででなんらかの関わりがある人たちばっかりだ。こぞって連絡してくるなんて只事じゃないよなぁ……なんかやらかしたっけ?

げんなりしていると、ノエルちゃんがいやらしい笑顔を浮かべて話しかけてきた。

 

「それにしてもぉ…お兄さんも中々隅におけませんなぁ〜。こ〜んなに沢山の女の子から連絡が来るなんて」

 

「茶化さないでよ。ノエルちゃんが思ってるような関係じゃないって…というか!なんでこんなにたくさんの人に個人情報が知れ渡ってるの!?絶対犯人見つけて洗いざらい吐かせちゃる」

 

「あ、あはは〜…お兄さん、ファイト〜…」

 

ボウボウと瞳に怒りの炎を燃やしている僕を、ノエルちゃんは冷や汗をかきながら応援しながら、そぉーっと離れようとしていた。この感じだとノエルちゃんは恐らく氷山の一角に過ぎない…大元は別にいるっぽいな。

でも今は、この美味しすぎる料理に集中することにしようか…うん、美味しい。

 

「あっ、この埋め合わせはイヴちゃんと一緒に今度してもらうからね…ノエルちゃん?」

 

ガシャーンという音と共に僕の背後で盛大にずっこけるノエルちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

パート② 仲月さら(+朝比奈龍季) 編

 

「ふぅ…お腹いっぱいだぁ。ご馳走さまでした、春乃さん…って全然聞いてない。秋穂ちゃんを愛でることで我を忘れてるみたいだ」

 

秋穂ちゃんを顔を文字通りくまなくぺろぺろ舐め回している春乃さん。その様子に自然とモザイクがかかっている。特に秋穂ちゃんは恥ずかしさからなのか顔を真っ赤にしていて、春乃さんじゃないけど誰かに見せたらいけないと思ってしまう。

 

「あの〜、JCさん。お隣に座ってもいいですかぁ?」

 

すると、別方向から声をかけられる。その方向に視線を移すと、さらちゃんが柔和な笑顔を浮かべていた。

 

「えっ?あぁ…うん、いいと思うけど」

 

「えへへっ、それでは失礼しますですぅ!よいしょ…って、なんで手でふさいじゃうんですかぁ?」

 

僕の了承を得たさらちゃんは、さっきまでノエルちゃんがいたところにぺたんと女の子座りの体勢で座り込む。けど、それよりも先に瑠璃川姉妹の愛撫の模様を純朴なさらちゃんの視界に入れるわけにはいかない。向こうで酔っぱらったミナと恋がよくべたべたお互いの体を触りあったり脱がしあいする度にさらが僕の視界を遮ってくれてたけど、今漸くその気持ちと有り難みが理解できた気がする。

 

「いや、とにかくこっちは不味い。向こうは見ないで話そうね」

 

「…?わかりましたぁ」

 

なんとかそのまま向きを変えることに成功し安堵していると、そんなこととはつゆ知らずさらちゃんが気さくに話しかけてきた。

 

「こうやってJCさんとゆっくり話すのは初めてですねぇ。じつはいろいろと聞きたいことがあるのですよ…むぅ〜」

 

「聞きたいこと?僕に?」

 

僕の体をまじまじと見つめながら、まるで品定めするように唸るさらちゃん。そして、納得がいったのかズイッと身を乗り出して迫ってきた。

 

「JCさん!わたしは見てのとおり、体が小さいです。どうやったらJCさんのように大きな体になれますかぁ!?」

 

「どうすればって言われてもなぁ…たくさん運動して、ご飯を食べて、しっかりと夜眠ればいいんじゃないのかな?」

 

「それはいつもやってますよぅ!毎日散歩部の活動もしてますし、牛乳も10本以上飲むようにしてますし、夜はいつも8時には眠くなって気づいたら寝ちゃってますぅ…でも、全然大きくならないんですよぉ」

 

うーむ、これは難題だなぁ。その生活ぶりはまさに健康体そのものだしな…。

 

「そうだなぁ…そこまでやってるなら、あとは歳をとるくらいしか…思春期というか二次性徴というか…ブバッ!」

 

「テメェ!?さらに何吹き込んでやがる!」

 

後頭部に衝撃が走り、スパンッという小気味のいい音が響く。振り返ると、やけに息を荒くした不良少女が立っていた。

 

「たつきさんっ!いきなり叩いちゃいけませんよぉ!大丈夫ですかぁ、JCさん?」

 

心配したさらちゃんが思わず駆け寄ってくる。僕はある仕返しの方法を思いついたので、迷わず実行することにした。

 

「あー、大丈夫大丈夫。龍季さんは僕がどう言おうか困ってたのを助けてくれたんだよ。ほら僕たちフレンド、つまりは親友だから…そうだよね?」

 

「そうなんですかぁ、たつきさん?」

 

僕とさらちゃんに問い詰められた龍季さんは、予想だにしない質問攻めに狼狽していた。が、さらちゃんの疑惑の眼差しを受けて、すぐに掌を返した。

 

「うえ!?あ、あぁ…そ、そうだぜ!俺とコイツはフレンド、親友〜!だから、お互いを叩くのも信頼関係があるから問題ないんだぜっ!なっ!」

 

「ふぁ〜っ!そうだったんですねぇ!全然気づきませんでしたぁ。ふたりともわたしの大好きな人たちなので、仲良くしてくれて嬉しいですぅ!」

 

「あ、あはは…」

 

必死に作り笑いを浮かべて僕の首に腕を回してきた龍季さん…うごっ!?く、首が締まる!!

 

「(おいテメェ!!俺がいつお前と親友になったって!?さらの前だからって、調子いいこと抜かすんじゃねぇよ!)」

 

「(…だったら他にいい考えがあったの?あぁでも言わないと、さらちゃんずっと君を疑いの目で見続けてたと思うよ)」

 

「(けどよぉ…ろくに話したこともねぇのに親友って…流石に無理あるだろ?)」

 

「(意外とそうでもないかもよ?さらちゃんは純粋な子だから、君の言うことなら大抵のことは信じるんじゃないかな。それに、今更違うなんて言える勇気僕にはないよ)」

 

「(…ちっ、しゃーねぇな。さらの手前、話は合わせてやる。でもな、テメェがさらに手ェ出していいわけじゃねぇからな。そこは勘違いすんなよ)」

 

そう言って、龍季さんは僕から手を放して、少し離れたところで座り込みこちらの様子を伺っていた。そこで監視するってことか。

 

「たつきさん、どうしたんですかぁ?」

 

「お腹空いたから少し食べてくるって。それでさっきの話なんだけど、やっぱり僕には上手く説明できないっぽい。多分あと4、5年くらいすれば、さらちゃんも大人の女性になってるんじゃないかな?」

 

「はぁ…そうなんですかぁ。残念ですぅ…あっ、でしたらJCさんの体を触らせてもらってもいいですかぁ?」

 

うっ…またこの子は可愛い顔してどぎついことをグサグサと言ってくるなぁ。でも上手く答えられなかった僕に責任がないとも言えないし…背に腹はかえられないか。

 

「…ちょっとだけだからね」

 

僕は黙って右腕を差し出す。すると、さらちゃんはなんのためらいもなくその小さな手で感触を確かめるように触っていく。

 

にぎにぎ。さわさわ。むふ〜っ!ははぁ〜。びくっ!おどおど…。

その様子はまるで百面相。見ているこっちが楽しくなって仕方がない。時折腕に力を入れたり脱力させたりすると、その度に新しい表情を見せるさらちゃんはまるで小さな子どものようだった……いや13歳だから充分にまだ子どもなんだけど。

 

「はい、お終いね」

 

「えぇ〜!?そんなぁ…JCさんのいけずぅ…ですぅ!もっといろいろ触らせてくださいよぉ!」

 

いけず〜って、なんでそんな言葉知ってるのよ…?とはいえこれ以上さらちゃんのペースに乗せられるわけにはいかない。そしてなによりも…。

 

「うらぁっ!」

 

「だからこれじゃ仲良く見えないって!?」

 

「うるせぇ!これ以上テメェと仲良しごっこなんてしてられるか!さらに変なこと吹き込みやがって!」

 

いつのまにか背後まで迫ってきていた龍季さんの攻撃を寸でのところで躱して、跳ね起きや前宙を駆使してその場から逃げた。

 

「あぁ…!JCさん、待ってくださ〜い!」

 

「畜生っ!アイツ、さらをこんな筋肉バカにしちまいやがって…」

 

 

 

 

 

 

 

〜JC 自室に退避中 14:12〜

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか青の力まで使わされるとは思わなかった。病み上がりなんだから勘弁してよ、もう…とにかく休もう」

 

僕は色々引きずる思いで漸く辿り着いた自室のドアを開ける。すると、またもや異様な光景が僕の目に飛び込んできた。

 

「ベッドの下は見ちゃダメ、見ちゃダメなんだけど…やっぱり気になっちゃう〜!男子の部屋なんて初めて入ったし…」

 

「やっほ〜いっ!このベッド、めっちゃバウンドするぅ!おっ、JC!邪魔してるぜ〜」

 

「…何やってるの二人とも」

 

一人は僕のベッドをトランポリン代わりにぴょんぴょん跳ねている律さん、もう一人は顔を背けながらもベッドの下に手を伸ばそうとしている間宮さんだ。

 

「うひゃあ!?じ、JC〜!?居るなら居るって言いなさいよ!う〜、心臓止まるかと思った…」

 

「なっ、言ったとおりだろ?JCはロックな人間だから、女なんか日替わりで取っ替え引っ替え…エチ本なんて持ってる必要ねーってさ」

 

「…それはそれでちょっと傷つくし、全くの事実無根ってやつだよっ!」

 

珍しくぷりぷり怒ってみると、何か面白かったのか二人して顔を見合わせて笑っていた。むぅ…また僕にわからない話をしてるんだ。

そんな僕の心の声を感じとってくれたのか、律さんが面白がって話題にしてくれた。

 

「悪い悪い。いや千佳のやつがさ、3ヶ月もJCが音信不通なのは絶〜対女と遊びまわってるからだーっ!なんて言いまくるもんだからさ。ほら、JCも初めてあたしらと会った時、一緒に聞いてたから知ってるだろ?千佳がクリスマスに彼氏と街に遊びに行くっていう占いのやつ」

 

「なっ!?ち、ちょっと律!それ言わない約束…」

 

間宮さんが急に慌てて律さんに抗議している。そういえば、ゆえ子さんの占いの所為で僕が呼ばれたんだっけ?今となってはその占い自体が正しいものかどうかも怪しいけど。

 

「でも…それが何だって言うんです?僕と何か関係が?」

 

「それでこっからが面白いんだ!クリスマス当日、誰か誘って遊びに行けばいいじゃんって言ったらさ、千佳のやつ何て言ったと思う?“JCが誘ってくるはずだからずっと待ってるんだもん”って言ったんだぜ!すげ〜ロックだろ?」

 

「律っ!?あー、もう…うちは何も聞こえない、聞こえないから〜…」

 

そう言って、恥ずかしそうに両手で顔を覆う間宮さん。ちょうどその頃の会話を又聞きしたから、てっきり転校生くんと一緒に遊びに行って、僕のことなんか頭になかったとばかり思ってたけど…実際は違ったんだ。

 

「間宮さん…本当にずっと待っててくれたの?」

 

顔を覆っていた手を膝の上に置いたまま小さくこくんっと頷く間宮さん。なんか…ずっと我慢させちゃったみたいで申し訳ない気持ちでいっぱいだ。クリスマスは女の子にとって特別な日だから、絶対に彼氏作るんだーっ!って張り切ってたのを知ってるから尚更のこと責任を感じてしまう。

 

「…バカらしいって思うでしょ?占いなんか信用してあんたに勝手に期待してさ…けど、うちだって女の子だよ?そういうの…ちょっと期待しちゃうじゃん。あんたなら、いいかなって…でもっ!勘違いしないでよね!いいなって思ったのはちょっとだけ、ほんのちょっとだけだからね!」

 

恥ずかしさを隠すように声を荒げる間宮さん。それでも例え少しでも僕のことを考えてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「間宮さん、僕に何かできることはないかな?」

 

「は、はぁ!?ちょ、いきなり何なの…」

 

「おぉ〜!いいじゃん、それ!なぁ、千佳。JCと一緒に遊びに行ってもらえよ〜」

 

「遊びに行く?僕、間宮さんと行きたいっ!」

 

「えっ、ちょっと待っ」

 

「やったじゃん!でも、その次はあたしのバンド練習に付き合ってもらうぜっ!今度余ってるギター貸すからさ、ちゃんと弾けるようになろうぜ!」

 

「ギター!何それ!?面白いの?」

 

「あぁ、スッゲー面白ぇんだぜ!あたしもまだあんまり上手く弾けないけどさ、こうギュイーンって自分の魂の叫びをギターの音色に乗せると、もうたまんねーんだよ!」

 

「うわぁ〜!!それやりたい!律さん教えてっ!」

 

「もぉ〜っ!!うち以外で盛り上がんないでよぉ!?うちも話に混ぜろ〜!」

 

いつのまにか僕と律さんの会話が盛り上がりすぎて疎外感を感じたのか、間宮さんが強引に割って入ってきた。さっきまでの恥ずかしさはもはやどこにいったのかわからないほど元気な姿で。

でも、その方が僕たちの間柄には合っているのかもしれない。お互いに気を遣い過ぎず言いたいことをはっきり言い合える関係…友達と呼べるんだろうな。すごく…大切にしていきたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC 風紀委員による事情聴取の待機中 14:58 〜

 

 

 

 

 

 

「そろそろかな…」

 

僕の嗅覚が敏感に感じとった。他意はないけど、とにかく今な気がした。それは間宮さんたちも感じたようで、とりあえず風子さんが訪ねてくる予定があることを伝えると風のように走り去って行った。一体なにやらかしたんだ、あの人たち…。

そんなことを考えていると、不意に部屋の扉がノックされ、外から声が聞こえてきた。

 

「うぃ〜っす…どうもどうも、水無月風子です」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのは風子さん…だけではなく、その背後に紗妃ちゃんとイヴちゃんの姿もあった。というか許諾を得る前に普通に部屋に入ってくるなんて、もう僕のプライバシーは保たれていない気がしてきた…。

 

「あれ、昨日の話だと風子さんだけのはずじゃ…?」

 

僕のその質問に対して、何故か含みのある笑みを浮かべながら答える風子さん。

 

「えぇ、まぁ最初はそのつもりだったんですが…どーしてもJCさんに会いたいって聞かないもんでね〜」

 

ニヤニヤしながら後ろの二人をチラ見して弄っている風子さん。当然ながらその反応に反抗する人たちだ。

 

「なっ!?私は別に変な意味で言ったわけじゃなくて…ただ、あの時一人だけ消えてしまったJCさんが無事に帰ってきたかどうか確認しておきたかっただけで…あくまで仕事としてですっ!」

 

「同感ですね。私は彼に借りたままのデバイスを返しにきただけなので…第一、そこまで彼に個人的興味がありませんし」

 

そう言って、無表情のまま僕にデバイスを返してくれるイヴちゃん。うぅ…もう悲し過ぎる。なんで一々こんなに攻撃されなきゃいけないのぉ?

 

「…本当に素直じゃないですねー。JCさん、泣いちゃってるじゃねーですか。あっ、ウチはちゃあんとJCさんのこと心配してましたよ?おーよしよし」

 

風子さんが気怠げに僕の頭まで手を伸ばし撫でて慰めてくれた。なんて優しい人なんだろう…普段は小さくて偉そうで抜け目なくていつのまにか通帳の残高から無断でお金抜き取ってくる意地悪な人としか思わなかったけど、今はすごく安心できる。

 

「い、委員長っ!?安易に触れるのはいけませんっ!」

 

「何ですか、氷川。あんまり厳しいことばっかり言ってると、誰もついてこなくなりますよ?」

 

紗妃ちゃんが急に顔を真っ赤にして、風子さんに食ってかかっている。まぁ当の本人はどこ吹く風といった様子だけど。

すると、紗妃ちゃんは納得がいかないのか僕の机の上に積まれている望さんが強引に置いていったゲームソフトの中から数枚持ち出して、そのパッケージを見せつけた。

 

「き、厳しくなんかありません!だって見てくださいっ!彼の持ち物の中にはこのように…は、裸の女性が写っているものが沢山あるんですよ!?は、破廉恥極まりないでしゅ!!」

 

恥ずかしさからなのか最後の方思いっきり噛んでた紗妃ちゃん。それに対して僕と風子さんが必死に笑いを堪える……ぷふっ、くくっ!

 

「“でしゅ”って…いや〜、本当に氷川は面白いですねー。ってか、それただのゲームじゃねーですか。真っ裸じゃねーですし…それに、ウチは寧ろ健全だと思いますよ?JCさんの年齢を考えれば異性のことが気になるのは当然ですし、実際に現実の女の子達に手を出さないように努力してくれてるわけですから」

 

「そ、それは…そうかもしれませんが…」

 

風子さんの意見は妙に反論しようのないものだった。ただ、僕は必死にアイコンタクトで“それ僕のじゃありません、望さんが強引に押し付けた物です!”と伝えるも、風子さんはニヤニヤしながらどこか楽しむように頷いている。あっ、これ僕のじゃないのわかっててあえて楽しんでるな?

 

「はいはい。話もまとまったところで、そろそろ事情聴取始めますんで、二人とも外で待っててくだせー」

 

「えっ、ちょっと委員長っ!?お、押さないでっ…きゃっ!」

 

「…失礼します」

 

風子さんに強引に背中を押されて部屋から追い出される紗妃ちゃんと、自発的に出て行くイヴちゃん。

本当に用ってそれだけだったんだ……少しくらい心配してくれてもいいと思うのは贅沢な悩みなんだろうか?

 

「いやー、うちの役員共が失礼を。特に男子に対する考え方が偏ってる二人なもんで、あれで笑顔の一つでも見せれば恋人の一人でも出来るんですけどねー」

 

「ハハハッ、たしかにそれは思います…おっと、今のは内緒でお願いしますよ」

 

「…アンタさんは妬かないんですね。まぁ、ウチとしてはその方がやりやすいから構いませんけどねー」

 

「えっ?えっ?」

 

混乱する僕に、風子さんが微笑む。

 

「さて、JCさんが風紀委員に入るのに合意したということで…」

 

「ちょっと待ってください」

 

風子さんの発言に、僕がつっかかる。あまりにさらっと流してたもんだから、危うく聞き逃しそうになったよ。

 

「ぼ、僕がいつ風紀委員になるって言いました!?」

 

「あれっ、ウチに対してそれだけの恩義は感じてるんじゃねーですか?危うく氷川にアンタさんがとんでもない変態だーって、学園中に言いふらされるところを助けてあげたんですよ?」

 

むぅ…この人は本当に人の扱い方が上手いな。それも嫌なくらいに。

 

「…それは感謝してますよ。でも、風紀委員にはなれません。どこか一つだけに肩入れするつもりはありませんから」

 

「わかってます、ちょっと言ってみただけです。その代わり、いなくなったこの3ヶ月間のこと、包み隠さず全部ウチに話してください」

 

「えっ、全部…ですか?」

 

「えぇ、そっくりそのまま…マルッと全部、です」

 

ふふふ〜っと意味深な笑顔を浮かべる風子さん。僕は観念して3ヶ月間の北海道での戦い、ましろちゃんとの出会い、国軍兵士との出会い、そしてその最中で目覚めた青と緑の力についての全てを打ち明けた。その最中、その想いを馳せながら…体感する時間は悠久を感じたほどに。

 

 

 

 

 

 

 

〜JC 無事に事情聴取終了 17:53 〜

 

 

 

 

 

 

「…んじゃ、聴取は以上になりますんで…いちおー来週から普通に登校してもらいますけど、あまり無理しないでくだせーね?アンタさんにブッ倒られると、色々な方面からウチら宛にクレームやらバッシングやらがガンガン飛んでくるんで」

 

「は、はぁ…わかりました。けど、なんかあったら言ってください。僕、風子さんの頼みなら何だって聞きますから」

 

「…冗談でも、いちおー受け取っておきます。でも、それは転校生さんの役目なんで、アンタさんが気負う必要ありませんよ。あっ…そうそう、アンタさんが失くしたグリモアの制服、あれ目玉が飛び出るくらい高額な代物なので今後二度と失くさないでくださいね。ではでは」

 

ぱたん、っと力なく閉められるドア。お世辞じゃないんだけどな…。

 

「あっ、そうだ…電話だ電話。出るかな…」

 

通話待機音が数回鳴り続ける。流石に出ないか…と諦めかけたその時、デバイス越しに応答があった。

 

《もしもし、JCくんかい?すまないね、さっきまで記事の追い込みをかけていたもんで…それで、僕に何か用かい?》

 

「遊佐さん、昨日の今日でみんなに何吹き込んだんですか?」

 

僕が尋ねると、数秒の沈黙の後、遊佐さんは素直に吐露した。

 

《…流石の洞察力だ。でも、どうやって僕に辿り着いたんだい?君の考えたとおりなら夏海にだって可能性はあるだろう?》

 

遊佐さんは特に否定することなく、率先してこの話題に食いついてくれた。

 

「正直、午前中はまだ特定はしてませんでした。卯衣さんと望さんが訪ねてきたのは結希さんが手を回したのかと思いました。でも、その後散歩部や間宮さんたちが部屋に来て、挙句ノエルちゃんから僕のデバイス宛に色々な人たちから連絡が来ていたことを聞いて確信しました。手段はともかく考え方が普段の夏海ちゃんじゃないと」

 

《なるほど…君と夏海が悪友関係ということを忘れていたよ。それで、僕に謝罪を求めるつもりなのかい?》

 

遊佐さんは苦笑気味で尋ねてくるけど、僕には毛頭そんなつもりはない。寧ろ全くの逆である。

 

「…いいえ、その逆です。おかげで僕の知らないこと、知るべきこと、そしてやらなければならないことがある程度わかった気がします。ありがとうございます」

 

《…そうか。なら、僕も頑張った甲斐があるよ…なんて、あまり胸を張って言えるようなことじゃないか。今回ばかりは僕も反省だよ》

 

デバイス越しに少し声が落ち込んでいるように感じた。そこで僕は人助けという名目で、遊佐さんの実力をお借りすることにした。

 

「…それなら、一つお願いしてもいいですか?」

 

今日一日でリフレッシュできた。今から僕の反撃、開始だよ…!

 

 




【学園長】

ふっふーん♪きょうもがくえんのへいわをいじできたし!ほっかいどうもだっかんできたし!ゆくえふめいのお兄ちゃんもかえってきたし!それもこれもぜ〜んぶ寧々のおかげだよね!これでぐっすりねられる……ん?おでんわだ。もしもし?寧々だよー。あっ、報道部長さん!こんなおそくにどぉしたの?うん、うん…えぇ〜?それほんとに寧々じゃなきゃだめなの?…えっ?うん、うん…ほんとに!?わかった!じゃあ、そのお兄ちゃんがクエストにでられるように寧々がかけあってあげるね!じゃあうまくいったら寧々にごほうび!わすれないでね?
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