グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【ヤヨイ・ロカ】
世界を股にかける冒険者アンドリュー・ロカの一人娘。南半球で生まれ、魔物の脅威に囲まれて育ったため、危機回避と度胸は人一倍。父親仕込みのサバイバル能力で他の生徒をサポートする。ビックリするほどの楽観主義で、慣れない人は不安に思うことも。JC・冷泉 葵とは学園三大世間知らず仲間として妙な親近感を感じている。


第参拾壱話 巡る 魔法使い

「…J〜C〜、妾は疲れたーもう歩けんー!おんぶじゃおんぶ〜!」

 

「………はぁ、ちょっとだけですよ?」

 

「あんた、今すっごく面倒くさそうに折れたでしょ。そういうの、他の子には絶対するんじゃないわよ」

 

僕の服を掴んで離そうとしないアイラさんを引きづりながらも、結局は根負けして背負ってしまう。そんな光景を横目で見ていたであろう春乃さんに変な忠告をされてしまったけど、こんな不躾なお願いしてくるのはアイラさんと恋くらいなものだと思うけど…。

 

「んしょ…っと、くは〜っ!これは極楽じゃあ!」

 

背中越しにアイラさんの柔らかい感触や時折香る甘い匂いを確かめると、どういうわけかむず痒いような気持ちに支配されそうになる。こんなにすぐ懐柔されてちゃダメダメだ、僕!

 

「あははっ、JCくんも大変だねぇ…おっと、目的地が見えてきたようだ、ここからは慎重に行こうか」

 

先頭を歩いていた遊佐さんがいち早く視認し、その言葉を受けた僕は気持ちを引き締める…背負ってるアイラさんに両頰を引っ張られながら。本当遠慮なくなったよね、アイラさん…むぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…あの子、迷惑かけてないかしら…」

 

「…どうかしたッスか?もしかして別班のJCさん達の方が気になってます?」

 

この子…相変わらず情報が早いというか地獄耳というか。忍者の服部さん、だったかしら?

 

「それ、一応極秘情報のはずなんだけど。一体どこで聞いてくるんだか」

 

「なはは…そこは企業秘密ッス。まぁ自分としてはJCさんのことは先輩に並ぶくらいの超重要案件と捉えてるので」

 

「…分かってると思うけど、他の子達には言っちゃダメよ?」

 

私が釘を打つと“了解ッス〜!”って言いながら、ゲネシスタワー内部を先行して行った生天目さんのお目付け役に徹するように施設の内部を進んで行った。前回の裏世界探索で遭遇した大きさ不明の超大型の魔物を追って行った生天目さん。始祖十家の我妻 梅と戦闘…というか稽古っていうかをして怪我したって言うのに、そんなの御構いなしに派手に動き回るもんだから見てるこっちがハラハラするわよ、まったく。

 

「でも、彼女がそこまでして強くなろうとしたのには理由があるはず。考えられるのは武田 虎千代、水無月 風子…まさか、JCくん?」

 

「…大丈夫?生天目さん、本当にしんどそうだったけど」

 

私が考え込んでいると、施設内の偵察を終えて帰ってきたヤヨイ・ロカさんが問いかけてきた。

 

「…まぁ、あそこまで動けるなら彼女的には問題ないんでしょう。一応何かあった時のために服部さんに付いてもらってるし…それより、偵察の結果は?」

 

「うん、一応地上に出るルートは安全みたいだよ。多分、こっちの宍戸さんが何か仕掛けをしておいてくれたんだと思うけど…またこの前の奴が現れない内に早く移動した方が良いかな」

 

転入してくるまで魔物で埋め尽くされた南半球をずっと生き抜いてきた彼女の言葉は、学園生の中でも特に真実味がある。その彼女が逃げた方が良いと警鐘を鳴らしている、それほどまでに読めない相手なのね。

 

「そう…なら、急いでここを出ましょう。ロカさんは精鋭部隊と風槍さんたちと一緒に先に地上に出て頂戴、私は生天目さん達に連絡してから合流するわ」

 

「オッケー!任せてよっ」

 

ぱたぱたと走っていくロカさんの姿を確認して、生天目さんに同行しているであろう服部さんのデバイスに地上での合流ポイントの座標を送る。きっと彼女なら上手く生天目さんを誘導してくれるでしょうね。それよりも気がかりなのはJCくん達について行ったあの子だ。いきなり連絡寄越してきたと思ったら、やれJCくんが話しかけてくれただのやれJCくんに授業サボってもらって一緒にお昼寝してただのやれJCくんと歓談部の部室で駄弁って楽しかっただの、口を開けば惚気惚気惚気の連続!ちょっと10ヶ月の間、絶縁状態だったからって急に態度変わり過ぎじゃないかしら。でも、“こっちの私”がそんなに夢中になれる男の子なら、もしかしたら私も…好きになっちゃうのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡易的な熱センサーで調べてみたけど、人の気配はなさそうだね。武装勢力が立てこもっていたらと警戒していたけど、一応大丈夫そうだ」

 

「…それでも霧の魔物は居るかもしれないでしょ?魔物は熱源として感知できないじゃない」

 

「ははは…春乃くんは手厳しいなぁ。勿論、そっちの警戒も怠らないよ。さぁ、行こうか」

 

遊佐さんを先頭に僕&アイラさん、春乃さんの順番で古びた建設物の中に足を踏み入れる。アスファルトで整備された地面も随分と痛みが目立つ。ここで何が行われていたのかはわからないけど、多分かなり昔に廃棄された研究施設だろうか…?

 

「…のぉ、JC。何か見覚えのあるものはあるか?」

 

僕の肩にちょこんと顔を乗せたアイラさんが、小さく問いかけてくる。まだ入ったばかりだから大したことはわからないけど、とにかく空気はひんやりと重い。施設内の至る所で剥がれかけた外壁が時折入り込んでくる風に揺らされてどこか物悲しく、そして恐ろしい雰囲気を醸し出していた。

 

「どうなんでしょう…初めてのはずなのにどこか懐かしさも感じると言いますか、身体が覚えてるというか…そんな感じですかね?」

 

僕の答えを聞いたアイラさんは、ふと何かを考え込んだように黙り込んでしまった。今の質問にはどういう意味があったんだろう?

僕達は周囲を確認しながら恐らく地下へと続いているであろう階段を降りる。すると、先程とは打って変わってこもった空気が流れ込んできた。そこには微かなカビ臭さに混じって妙に無機質な臭いが鼻につく。多分、何かの薬品かな?

暫く通路を進むと、うっすらドアの隙間から光が漏れている部屋を発見した。遊佐さんが視線で待機するように合図を送って、一人でその部屋のドアに手をかけた。軋みながらスライドしたドア、同時に部屋に入った遊佐さんだったけど内部に誰かが潜んでいる様子がないことを確認したのか、程なくして僕たちを呼び込んだ。

 

「…大丈夫、室内は無人だよ。それより、みんな来てくれないか…どうやら面白いものを見つけたようだ」

 

遊佐さんに促されて部屋の中に入ると、そこには地上の施設の雰囲気とは似ても似つかないほど大型のコンピュータや計測機器らしきもの、無影灯を備えた手術台や奥に並ぶ床から天井近くまで延びる円柱のよう形状の細長いガラスケースが目に飛び込んできた。

 

「な、何なのよ…これ?」

 

春乃さんが普段の落ち着いた様子とは変わって愕然とした表情を見せる。遊佐さんやアイラさんも顔にこそ出てないけど、その胸中はきっと同じだろう……ただ一人、僕を除いては。

 

(ーーー冷たい…おぞましく暗い場所…僕は、ここを知っている?どうして?いつ?わからない。何もかもがわからない…そのはずなのに、どうしてこうも頭から離れない!?)

 

理由のない感情が頭をもたげ、一気に僕を喰らい尽くそうとする。しかし、それは遊佐さんが室内のドア脇に備え付けられていた明かりのスイッチを入れたことによって、意識を引き戻された。

 

「さて、と…これからどうしようか。僕はこのままデータのバックアップを取ろうと思うけど…特にJCくんは?」

 

「…もう少しこの辺りを探ってみてもいいですか?出来れば、一人で」

 

僕にしては珍しく鋭い視線を向けると、その意思を汲み取ってくれたのか遊佐さんは少し力が抜けたように頷いてくれた。

 

「…わかった。でも、あまり遠くには行かないでくれよ?反応がないとはいえ、危険がないとは限らないからね。春乃くん、少し手伝ってもらえるかな?」

 

「私に手伝えることはほとんどないと思うけど…まぁ、いいわ」

 

二人がモニターに向き直したのを確認すると、僕は未だに背中から降りようとしないアイラさんにもなんとかお願いしてみる。

 

「あの、アイラさんも…「イヤじゃ!」えぇ…」

 

速攻で断られた。も少し粘ってみようかな。

 

「いやいや、流石におぶったままじゃ動きにくいですし。それに…」

 

そこまで言ったところで、僕は思わず口を噤んだ。さっきから密着しているおかげで、アイラさんの決して大きくはない胸の感触が気になってまともに思考ができないってことを。

 

「イヤじゃイヤじゃ!離れたらまたお主はどっか行ってしまうじゃろう!もう、あんな思いをするのはごめんじゃ…」

 

アイラさんが僕の服を掴み、小さく肩を震わせながら声を漏らす。

 

「…守る」

 

それは、突然溢れた言葉だった。どうしてそれが一番最初に出てきたのかはわからない。けれど、とてもあたたかくて心が和む言葉だった。

 

「あっ、いや…そう!約束。本当にちょっとその辺を見て回るだけだから、ダメ?」

 

そう伝えると、その思いを理解してくれたのか渋々といった様子で僕の背から降りてくれた。そして漸く動き出そうとしたその瞬間、アイラさんが振り返って僕に言い放った。

 

「…戻ってこんかったら、裸でグラウンド20周じゃからな!」

 

それに対して僕は満面の笑みで答えた。

 

「…絶対に、イヤ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ…なんでアタシがこんなこと…えぇっと、地図の通りだとやっぱりここが七枷の端っこだな。レジスタンスの拠点があるのは…」

 

メアリーの野郎にパシられるのは納得いかねぇけど、正直今回の探索で勘を取り戻したいと思ってたのも間違いねぇからな、その辺は利用させてもらうぜ。それにしても何でアイツが今回のキーマンなんだ?意味わかんねーよ…って誰かに見られてるな。

 

「そこで止まりなさい」

 

アタシを制止した声の主は、建物の陰から姿を現した。が、こいつは…。

 

「アンタ…風槍 ミナ、なのか?」

 

こっちにいる“あの”風槍 ミナとは明らかに態度が違う、まるで別人のように振る舞っているのが信じられなかった。

 

「えぇ、そうよ。私たちに会いにきたのは分かってる、でも簡単にアジトの場所を教えるわけにはいかないの。連中につけられてないかを確認したら、その時に会うと仲間に伝えて頂戴…あっ、それとこれは私の個人的な質問なんだけど…」

 

アタシはほとんど頭が理解に追いつかないまま、頼まれた言伝を持って帰った。

 

「はぁ?何だそれ、じゃあナニか。疑いが晴れるまではどうしようもねぇってか?」

 

「連中って、JGJのことかな?でも尾けられてる気配はないと思うんだけど…」

 

「…いや、多分そうじゃないわ。もしそうならこの時期に明言してなきゃおかしいもの、だからもっと別の存在…」

 

探索チームの要がすっかり頭を抱えてやがる。どうしたもんか…あっ、そうだ。

 

「そういえば、アイツ呼んでくれば信用してやるって言ってたぞ」

 

「アイツ?誰だよ、それ」

 

「いや、だから…JCの野郎とサシで話しさせるなら、すぐにでもアジトに案内するって」

 

アタシの言葉を聞いたメアリー、ヤヨイ、朱鷺坂の三人の視線が交錯して、すぐ後にひとつの結論を出した。そう、出しやがった。

 

『…今すぐ連れてくるわ(よ・ぜ)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ?いや意味分からんて。なぁんでJCが出てったらすんなり受け入れてもらえるんじゃ、そんなもん罠じゃ罠、罠に決まっておるわい」

 

朱鷺坂からいきなり連絡が来たかと思えば、今すぐJCを連れて来いじゃと?わざわざ名指しで呼びつける真意が分からん。絶〜対、朱鷺坂の奴が妾からJCを引き剥がそうと画策してるに違いないわい。その手には引っかかるもんかい!

 

「ふっふーん!お主の魂胆は分かっておるぞ…」

 

《な、なによ…》

 

おっ、朱鷺坂の奴…珍しく狼狽えておるわ。この際ビシッと言ってやろうかの。

 

「お主、ズバリ“JCに惹かれておる”んじゃろ。ん〜?」

 

ありゃ、なーんも反応が返ってこん。ぬわぁんか言い返してこんと面白くないの〜。

 

《……け…じゃ…い…》

 

「んぬ、何じゃって?聞こえんぞ」

 

何を急にぼそぼそ喋っておるのじゃ、もっとはっきり言わんかい。

 

《しょそんなことあるんけにゃ&_+*☆♪°%><=÷〆〒×\・!!??》

 

ブツンッ!と切れてしまったわい。そーとー乱しおってからに、ありゃ図星じゃな。何はともあれ今回は妾の完全勝利じゃ!なっはっは〜!

 

「とはいえ、奴がわざわざこんな嫌がらせ紛いの電話を寄越してくるほど暇とも思えんしぃ…一応遊佐に知らせておくかの。妾って超優しぃ〜」

 

妾は今もなおデータに目を通していた遊佐たちの背後に近づいてみる。

 

「お〜い遊佐、何か朱鷺坂の奴がすぐに来れんかって喚いてお、る…って、おい!?な、何ぞやこれは!?」

 

妾の問いかけに、遊佐が渋い顔で言葉を選びながら答えた。

 

「どうやら被験体…それも子供の、その管理の記録…らしいね」

 

遊佐の隣で同じように画面を見ていた瑠璃川の奴も、遊佐の言葉と画面に映し出されたデータの悪魔的な意味を理解してしまっておるようで、その顔を背けておった。まぁ、無理もないわな。

 

「東雲くん、これを見てくれないかい?ちょっと興味深いものを発見してしまったよ」

 

そう言って、遊佐の奴が画面をスクロールしてあるところで止めた。

 

「おい、此奴は…っ!」

 

画面に映し出された人物。それは今妾たちが最も見知っておる彼奴だった。

 

「そう、映っているのはどう見てもJCくんだ。だが何故か“JACKAL”という名で登録されている。ただ呼び分けの為につけられた名なのか、それ自体に意味があるのか…」

 

「それ、どういうことなの?なら、あいつはここの施設の出身ってことになるじゃない。でもそれっておかしくない?」

 

瑠璃川の指摘は理解できる。裏世界で登録されているはずのJCが表世界で発見されたことを言っておるのじゃろう。まぁ例外がいないこともないんじゃが、それにしたって稀有な例に違いないわな。

 

「それにここを見てごらん。2001年9月に“入所”、2011年8月に“廃棄処分”…出所ではなく廃棄処分ってなってるだろう?つまり、ここでは人が人ならざる扱いを受けた……生きた兵器、戦うためだけの人間の実験・製造施設だってことじゃないかな」

 

遊佐が妙に淡白な調子で言葉を漏らした。しかし、妾の中には自然とその事実が差し支えることなく胸に降りた。

長年生きている妾にとって、霧の魔物だけが人類共通の敵ではないと考える者たちが一定数おることは容易に想像できた。霧の魔物同様、自分たちからは知り得ない力を持っている魔法使いという存在を危険視或いは敵視している勢力…反魔法使いの思想を掲げる者たちが独自にこの施設を作り、JCのような存在を創ったことが裏付けられた。そう思うと、何とも言えぬやりきれない気分になるわい。

 

「ねぇ、遊佐…廃棄処分ってどういうこと?だってあいつは今、私たちと一緒に居るじゃない」

 

瑠璃川が神妙な面持ちで遊佐に問いかける。その疑問が湧くのは当然で、もしこの画面通りならばJCは既に死んでおり、妾たちと共にいるはずのJCは何者なのかと疑ってかかることになる。遊佐の奴もここで初めてその顔を曇らせる。

 

「どう、なんだろうね…言葉通りに受け取るなら、JCくんはやっぱり死んでいるか…もしくはこの時に表に飛ばされてきたから死亡扱いにされたのか。考えられるのはこの二つだと思うけど…ただ、一つ確信したことがある。僕や春乃くんが裏世界に飛ばされた時に過去のJCくんと遭遇しなかったのは、既にここに閉じ込められていたからだ」

 

その事実を共有した妾たちに受け止める自信が削がれる程重い沈黙が支配する。が、それを打ち破ったのは遊佐じゃった。

 

「…そういえば、何か言いかけていたんじゃないかな?」

 

「あ、あぁ…そうじゃったな。朱鷺坂たちがレジスタンスと接触したんじゃが中々信用されんらしくての、何かJCを呼んでくればすぐにでもアジトまで案内するってゴネてるんじゃと。んで、すぐにでもこっち来れんかって話じゃったんだが…」

 

妾がそう言うと、少し考え込んだ遊佐じゃったがすぐに答えを出した。

 

「ふむ…分かった。とにかく今は採れるだけのデータのバックアップ作業に入る。その間に二人はJCくんを呼び戻してくれるかな?」

 

「えぇ、それは構わないけど…」

 

瑠璃川の奴、流石に気丈に振る舞っておるがまだ立ち直ってはおらんな。分かっておるとは思うが、一応確認しておくか。妾はそっと瑠璃川の側に近づいて、本人にだけ聞こえるほどの声で話しかけた。

 

「のぅ、瑠璃川…このことはまだJCには」

 

妾が言わんとすることを察したのか、瑠璃川は静かに頷いた。

 

「心配しなくても、あいつに言うつもりは無いわよ。こんなこと、わざわざ教えるほうが酷じゃない」

 

「…すまん、恩にきる」

 

「勘違いしないでよね、私は秋穂に危険が及ばなければそれでいい。それ以外に意味はない」

 

むぅ…素直に喜んでくれたってよかろうに。愛想のない奴じゃのぉ。

JCよ、妾はお主を救ってみせるぞ。例えこの事実がお主に襲いかかったとしても、この身をもって共に運命に抗ってやろうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん…うん、そう…分かったわ。じゃあJCくんがこっちに着き次第、彼女に会わせればいいのね?一応、今は本人同士で話してるところだけど…えぇ風槍さんだけ、向こうの南条さんは別の地域の応援に行ってて不在なんですって。とにかくあなた達もなるべく早くこっちに合流して頂戴…例の魔物がどうやら近くまで来てるみたいだから。じゃあね」

 

「今のって、もしかして兄さんたちから?」

 

ちょうど連絡を終えたところで、ロカさんが話しかけてきた。

 

「えぇ、ついさっきこっちに向けて出発したって。JCくんはかなり先行してて、多分もうすぐ到着するかもって慌ててたわ。というか、あなたもJCくんのこと名前で呼ばないのね?」

 

私はふと疑問に思ったことをロカさんにぶつけた。これは決して妙に距離感が近いことへの嫉妬や妬みなんかじゃなく、JCくん本人が変に敬称を付けずに名前で呼んでほしいと常々口にしているのを知っているから。えぇそうなんだから。

 

「んー?まぁ、そうだね。この間の適正検査、だっけ?あの時に初めて会ったんだけど、なんか不思議な人だよねぇ彼って。だってさ〜、いきなり変なこと言うんだよ?」

 

「変なこと?」

 

そう聞くと、急に頰を赤らめぽりぽりと掻きながら気恥ずかしそうに教えてくれた。

 

「いや、いきなりアタシの…胸見ておっきいですねぇ〜って言ったんだよ!?もうビックリしちゃったよ〜、ナハハ…」←B90

 

「…それは、私から謝罪するわ。本当にごめんなさい」←B87

 

あ、あの子ったら…年頃の女の子に向かってなんてことを!まぁ確かに15歳にしては豊満よね…ユッサユッサユッサユッサ。多分、久しぶりにすっごくビックリしたんだろうなぁ。

 

「アハハッ、まぁその後話したら普通に話通じるし面白い人なのかなって思ったから、逆にちょっと興味湧いたかな?冷泉さんもそうだったけど、なんかアタシと同じくらい文明のこと色々知らないみたいだし」

 

…なんかムッとするわねぇ、目の前で気になってる男の子のこと得意げに話されるのって。それにJCくんも初対面の相手を特徴付けて覚えるの、いい加減やめさせないと。

 

「はぁ、はぁ…チ、チトセさ〜ん!」

 

あら、噂をすればご本人が…って、本当にあの距離を走ってきたの!?

 

「JCくん、あなた本当に一人なの?」

 

目の前でゼェゼェ言って強引に呼吸を整えながら、強い意志の宿った瞳を私に向けて答えたわ。

 

「ふぅ…えぇ、何かよく分かんないですけど、僕だけでも先に向かうようにって遊佐さん達が。多分距離的にあと4、50分くらいはかかると思いますけど…それより!パルチザンは今、本当にいるんですか…?」

 

「今、風槍さんが話してるけど…そっか、JCくんのことを確認したいって言ってたものね。案内するわ」

 

「…お願いしますっ!みんな、大丈夫かな…」

 

JCくんは無垢な目でパルチザンの身を案じている。この子にとってもパルチザンはある意味特別な存在と捉えているのかしら…ちょっと妬いちゃうわね。

そんなことを頭の片隅で考えていると、視線の先で会話をしている風槍さんと風槍 ミナの姿が見えてきた。

 

「ほら、あそこにいるわ…って、じ、JCくん!?」

 

私は突然のことに思わず言葉を失ってビックリしすぎて近くの建物の陰に隠れちゃったわよ。だって、私が全部言い終える前にJCくんが何を言う訳でもなく、あの風槍 ミナを真正面から抱きしめていたんだから。

えっ、いや特別な存在って言ったけど、そういう意味じゃなくて仲間的な意味だと思ってたんだけど!?もぉ〜!どうなってるのよ〜!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミナ…本当に、ミナだ…うっ、ううぅ…!」

 

一目見た瞬間、僕は心の底から溢れ出る思いを抑えることが出来なくなった。一度は喪ってしまったとさえ思い、自分が間に合わなかったことを何度も後悔した。でも、また今目の前にこうして感じることも現実で、もはや自分自身でも感情も思考も完全に制御不能になってただただ涙が止めどなく流れる僕の背中にミナは腕を回し、優しく諭すように小さく呟いた。

 

「…大丈夫、こうしてまた逢えたんだもん。だから、もう泣かないでよ…ふふっ、今すごい顔になってるよ?」

 

「ぐすっ…ミ、ミナだって…大人なのに、今にも大声で泣きそうな顔してるじゃないか…」

 

お互いにそんなことはわざわざ言われなくても自覚してる。そう言いながら、僕を小馬鹿にしつつも目に涙を浮かべているミナだって、人のこと言えないじゃないか。

 

「お、おい!お前、何故我とその…だ、抱きあっているのだ!?」

 

僕たちが再会の喜びを噛み締めていると、ミナのすぐ側にいた女の子が突然喚いていた。むぅ…せっかくの時間を邪魔するなんてなんて不埒な!

 

「邪魔しないでよ。今、すっごく大事なところなんだから」

 

「先に邪魔したのはそっちだろ!我が先に話してたのに!」

 

バチバチと目の前の女の子と視線が交錯する。でも、それを横で見てあわあわしていたミナが慌てて割って入った。

 

「あ、あのね…その、二人とも落ち着いて!私からちゃんと説明させて」

 

ミナがそう言うなら、僕だって事を荒げるつもりはないけど…まぁ、向こうの女の子もそういうつもりらしいし。お互いが一旦落ち着いたところで、ミナはこほんっと可愛らしく咳払いをして、説明を始めた。

 

「えっと、まずはこの子からね。この子はミナ・フラン…フラ、シ…何だっけ?「ミナ・フランシス・シルビィアンド・ウィンドスピアだ!」そ、そうだったわね…ゴメンね、私あんまり横文字強くなくて…要するに、この子は過去の私ってことらしいの」

 

ミナはそう言うけど、雰囲気といい言動といい僕の中のミナの人物像とは似ても似つかない目の前の女の子。静かに疑いの眼差しを向けていると、たじろぐ女の子。

 

「な、何だその目は…この最強の疾風の魔法使いを全然信じてないな!?」

 

「…だって、色々違いすぎるし。なんか変なこと言ってるし…胸もちっちゃいし…」

 

「こ、これから大きくなるもんっ!恋〜!恋〜!助けてぇ〜!」

 

うん…なんかこの感じ、酔っ払った時のミナにそっくりだ。泣き顔とか特に…あっ、もう一人ちっちゃい女の子が来た。

 

「なんじゃミナ、騒々しいのぉ…おや、お主はたしか“じぇーしー”じゃったな…って、おわっ!?」

 

「恋も無事でよかった…!前より小さくなっちゃって」

 

「こ、こらーっ!恋から離れろっ!恋も黙ってないで早く…!」

 

うぐぐ…!ちょ、顔引っ張らないで…痛い痛い痛い。

 

「こりゃミナ、やめんか。わっちは大丈夫じゃ」

 

「恋!?でも…」

 

背中に腕を回してトントンってあやすように心地よいリズムで優しく叩く目の前の恋は、僕の知ってる恋とは少し違ってすごく穏やかで包み込んでくれるような優しさを感じた。もしかして…別人、なのか。

 

「確かにちとビックリしたが、此奴に悪気が無いのはちゃんと分かっておる。のぅじぇーしー、ミナはそうでもないんじゃが、わっちは似ておるか?」

 

「う、うん…体型とかはほぼ変わらない感じだから…」

 

「…マジか、12年経ってもわっちはお子様ぼでぃのままなのか?知りたくなかったのぉ…」

 

あぅ…見るからに落ち込んじゃった。これはフォローしたほうがいいのかな?

 

「で、でも食生活の改善とかでまだまだ大きくなるかもしれないし!運動とか睡眠とかちゃんとすれば…」

 

必死に説明してると、いつの間にかクスクス笑っていた恋…さん。突然どうしたんだ?

 

「ぷっ、くくっ…いや、すまぬな。よもやそこまで必死に励ましてくれるとは思わなんだわ。二人とも、一つ聞いてもよいか?大人のわっちは、変わらずに絵を描いておるか?」

 

恋さんの質問を受けた僕とミナはお互いに顔を見合わせて、そして確固たる意志を持って答えた。

 

「えぇ、それはずっと続けているわ。戦いが激しくなっても、生きるのに辛くなっても…恋だけは学園生の時と変わらず前向きに、ね?」

 

「うん…よく僕をモデルしたいって部屋に閉じ込められたりもしたけど「えっ、何それ初耳なんだけど?」それ以外の出来上がった絵も何回か見せてもらったけど「ね、ねぇJCくん?」すごく綺麗で和むような絵ばかりだったよ」

 

「…ふふっ、それを聞いて安心したわい。ほれ、ミナ行くぞ。せっかくの水入らずじゃ、積もる話もあるじゃろう?」

 

「うぇ!?れ、恋〜!?まだ我は話し足りないのにぃ〜っ!!」

 

「…朱鷺坂もじゃ。盗み聞きは良くないぞ〜」

 

僕たちの答えを聞いて満足したのか、恋さんは不敵に微笑んだ後、ミナ…ちゃんを引っ張って連れて行ってしまった。あと完全に忘れてたけどチトセさんも居たんだよね…慌てて逃げてったけど。なんか、気を遣わせてしまったみたいで悪いことしちゃったかな…うっ!?なんか横から視線が…。

 

「ふーん…何回かいないなぁって思ってたけど、恋と一緒に居たんだぁ?へぇ〜…そう」

 

近くの椅子に腰掛けたミナの赤と青のオッドアイがジトーっとした視線で僕を貫く。こ、これはマズイ…何がマズイかはよくわからないけどとにかくマズイ!

 

「だ、黙ってたのはごめん!あの時はまだミナに疑われてたから言い出せなかったし、それに恋から口止めされてて…って、これじゃますます言い訳になっちゃうよな…あぁ、どうしよう?」

 

慌ててミナの隣…はちょっと怖かったので一人分空けて座って、変に取り繕おうとして更に焦っていると不意に僕の側に近づいたミナ。ヤバイ、怒られる!って思わず身構えたけど、拳が飛んでくることはなく逆に…

 

「…ズルい」

 

「えっ…これってどういう」

 

なんで頭撫でられてるの?!いや、う〜…とかむぅ〜…とか唸りながらって逆に怖いんだけど…ブルブル。

 

「さらは仕方ないよ?最初からJCくんにべったりだったし。でも、恋は面白がってちょっかい出してるだけだと思ってたのに…あの時は警戒してたから仕方ないかもしれないけど、それにしたって私以外でJCくんを独占してたのって…やっぱりズルいっ」

 

ムッとした顔で軽く睨みながら腕を組んでくるミナ。最初の頃に比べて色々な顔を見せてくれるようになったのは嬉しいし可愛らしいけど、あとさっきから腕に胸押し付けるの心臓に悪いからやめて…!

 

「ど、独占なんて…前にも言ったけど、パルチザンには幸せになってもらいたい。それには当然ミナも含まれてるし、僕に出来ることなら何だってするつもりだよ…それにほら、これ見てよ」

 

僕は改めてミナの方に向き直すと、赤の力を発現させる。そして青、緑と順番に色を変えて元の状態に戻して見せた。

 

「JC、くん…?どうしたの、それ…」

 

突然のことに困惑している様子のミナ。思ってた反応と違ったなぁ…。

 

「あの後、僕も色々な戦いに巻き込まれてね、その中で目覚めた力なんだ。誰かを守る、悲しませないようにする力を…それにほら、こうしてると見かけだけでもミナとお揃いみたいで…なんか嬉しいじゃん?」

 

そう言って笑いかけてみると、何故か少し複雑そうな顔をするミナ。やっぱりまだ目のことに踏み込むのは愚策だったか…。

 

「ごめん…無神経に踏み込み過ぎたよ。克服したって言っても、嫌な思いしたんだからあまり触れられたくない話だったよね」

 

話題選びに失敗してしまったと俯きがちになる。少し考えれば分かることだろう、僕の馬鹿野郎!

落胆していると、何故かミナが慌てた様子でフォローに入った。

 

「あっ…ち、違うのっ!そのことはもう気にしてないの…寧ろ、お揃いって言われてちょっと嬉しかったし……って、そうじゃなくて!JCくん、無理し過ぎてないかな?本当は自分のことに専念したいはずなのに、学園のことや私たちのことまで背負い込んで…」

 

…何だ、そんなこと気にしてたのか。ミナもまだまだ遠慮しがちだな…僕のことは遠慮なく使い古してくれていいのに。これはよく教えて仕込まなきゃダメだ。僕は思いつめた表情をしているミナの頭に手を乗せ、安心させるように語りかけた。

 

「僕は自分がそうしたいからそうしてる、それだけだよ。だからミナたちも心配しなくても大丈夫。普通に考えて、普通にすればいいんだよ…ね?」

 

少し乱雑にその頭を撫で回す。大人であるミナが歳下の僕にそんなことされてるのは多分すごく恥ずかしく感じてるかもしれないけど、そこには僕にだって当然恥ずかしさはあるわけで、ある意味照れ隠し的な行動だったのは秘密である。

心の中でそんな言い訳をしていると、いつの間にかミナの表情が何となく吹っ切れたように和やかなものに変わっていた。

 

「普通に、か…そんなの考えたことなかったな。やっぱり成長してる…JCくん、前より強くなったね」

 

「ミナだって、成長してるよ。特に胸周りとか前より…あっ」

 

やばっ、完全に今のは失言。思いっきり胸元を手で隠すミナ…ごめん、思ったことそのまま言って。

 

「…JCくんはそういうの、気にしないと思ってた。意外とえっちなんだね」

 

「…それより、さらと恋はどこに?」

 

「思いっきり強引に話逸らしたわね…」

 

「気のせいだ」

 

キリッとした表情で誤魔化す。そこ突っつかれたら色々終わりそうなんだ…大人なら察して。

 

「ま、まぁいいけど…恋は数日前から東で起きてる戦闘に参加してる。さらは他のパルチザンのメンバーのところに行ってるわ…JCくんのことを説得するためにね」

 

「…そっか。さらには嫌な仕事押し付けちゃったな…悪いことをしたよ、本当に…」

 

そう言うと、含みのある笑いを見せるミナ。な、何だ?

 

「くすくす…さらの言ってた通りね。このことをJCくんが知ったらきっと心配するって。だからこそ、JCくんのことをみんなに認めてもらわなくっちゃ!って張り切ってたもん」

 

さらには僕の考えることなんて全部お見通しってわけか。頭が上がらないよ、全く。

 

「…そうだ。宍戸博士に会いたいんだけど、案内してもらってもいいかな?約束してたから」

 

「約束?というか面識あったんだ?」

 

突然の申し出に困惑するミナに、僕はニヒルな笑みを浮かべながら答えた。

 

「うん…もう長いこと待たせてるから、早く彼女にはちゃんと答えを言わなきゃいけない」

 

 




【ジャッカル(JACKAL)】
・イヌ科の哺乳類、死肉をあさる。
・お先棒かつぎ,手先
・ぺてん師
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