グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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我妻(わがつま) (うめ)
我妻家3姉弟の長女で我妻 浅梨の姉。
日本の始祖十家であり、妹の林檎とともに代表である。
魔法の力は我妻家の中でも梅が飛びぬけており、世界で2番目に強い魔法使いと言われている。
他の始祖十家は豪邸に住んでいるが、我妻は庶民的な一軒家。よく始祖十家が家に集まって宴会をする。
誕生日は1月24日


第参拾参話 再燃せよ 魔法使い

「……はぁ〜…」

 

グリモアの学園生が飛行機で日本を飛び立ってロンドンに到着して、今は空港からネテスハイム魔法学園に向けて出発したバスに揺られています。みんなは海外旅行に来たみたいで楽しんでいるけど、あたしはどうしてもそんな気分にはなれませんでした。大騒ぎするみんなを横目に窓際で頬杖をついていると、あたしの様子に気づいたのか隣に座っている椎名先輩が話しかけてきました。

 

「桃世さん?元気ないみたいだけどどうかしたの…もしかして“彼”のこと?」

 

“彼”という言葉を聞いて、あたしはビクッと体を震わせてしまいました。何故ならば頭の中にふと先輩の顔を思い浮かべてしまったからです。もう二ヶ月もまともに姿を見てない…でもあたしの瞼の裏には、いつも見せてくれたあの屈託のない笑顔は今でも焼き付いてます。その笑顔に魅せられて…あ、あたしは…。

 

「まぁ…今回は仕方ないわよ。彼にも色々事情があるのよ、きっと」

 

「は、はぁ…そうなんでしょうか?…でも、先輩と一緒に観光したかったなぁ…」

 

ふとそんな独り言が漏れてしまい、慌てて両手で口を塞ぐ…椎名先輩には聞かれてない、よね?

でも、想像したら…ちょっと良いかも、ふふふっ。

初めての海外旅行。一緒に街を歩いたりランチしたり買い物したり…先輩は兎に角視界に入るもの全部が新鮮で、子どもみたいにはしゃいであたしを連れ回したりして。それで最後は夜景が一望できる場所で二人きりになって、隣に座っている先輩と見つめ合って…それから顔が近くなって…それから、それから…っ!?

 

「だ、ダメですダメです!先輩…それ以上はぁ……はっ!」

 

気づけば隣に座っている椎名先輩が顔を引きつらせてこっちを見ていました。あぅ…またやっちゃったかな?気を利かせてくれた椎名先輩は、軽く咳払いをして話題を変えてくれました。

 

「…そ、それはそうと今回も彼は大変みたいね。さっき少しだけ聞いたんだけど、もう予定でいっぱいなんだって。もう自由に身動きも取れないくらいに」

 

「あー、やっぱりそうなんですね。先輩の都合が良ければあたしも誘いたかったんですけど…」

 

「…桃世さんって、意外と大胆よね。まぁ、今回は厳しそうね…色々な子と一緒に過ごすって言ってたし「一緒に過ごすゥ!?だだ誰とですかぁ!?」ひぃ!?そ、そこまでは私も知らないけど…って、桃世さん顔怖いわよ!?」

 

むぅ〜…先輩、一人だけ学園に残ってそんなこと考えてたなんてぇ!こんなことならあたしも学園に残って先輩のお世話係を買って出るべきでした。散歩の時は倒れないように先輩の体に寄り添ったり、食事の時はあ〜んってご飯を食べさせてあげたり…お、お風呂も一緒に入って体を洗ってあげたり!?挙句には一緒のベッドでそ、添い寝をしたりして…先輩の寝顔がものすごく近くて、無防備な状態の唇が私のすぐ目の前に…はぁ、はぁ…!

 

「も、桃世さん…顔、蕩けてるわよ?というか、あなた何かものすごい勢いで勘違いしてない!?私、転校生くんの予定のこと言ってたんだけど…も、戻って来なさ〜いっ!」

 

し、椎名先輩が何か言ってるけど…もうダメ!先輩、お土産買って帰りますからねーっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!?な、何だろう…この何とも言えない寒気というか……今日はもう帰るか」

 

ぶるっと体が震えたから今日はもう終わり。まだ病み上がりだし、どうせ自習だから学生寮でも出来ないことはないし…ただ、毎日ノートの提出と次回分の内容が記されてる紙を取りに来ないといけないってかなり面倒だ。正直、一回で全部バァーって範囲教えてくれればこっちで勝手にやるし。ってか、腹減った…もう13時か。

 

「寮に戻っても誰もご飯作って待っててくれてないからなぁ。この時間じゃ優子さんもまだ仕事抜け出せないだろうし…参ったな、これ」

 

昼飯にありつけるかどうかすら怪しくなってきたと考えながら歩いていると、正門のところに見知らぬ女性が立っていることに気がついた。が、お腹空きすぎてそれどころじゃない。

 

「…あっ、ねぇそこの君」

 

うぅ…無視無視。面倒ごとには巻き込まれたくない。

 

「ちょっと!?何で逃げるのさっ!」

 

脱兎の如く走り出した俺だったが、すぐ後ろに女性が迫ってきていた。くっ…仕方ない、なら“青の力”を使うしかない!

 

「…っ!スピードが上がった?でも、まだまだァ!」

 

俺のスピードが上がったことで一瞬だけ驚いた女性だったけど、すぐにそれを上回る速度で走って追いかけてきやがった。な、何だこの女!?俺についてくるなんて、化け物か!?

そんなことを考えたその刹那、突然背後から襟首を掴まれる。その相手は勿論あの女だ。

 

「ふひひっ、つっかまえた♪」

 

その顔は笑顔だけど、心は笑ってなかった。こいつは…全身が危険信号をビンビン出してやがるぜぇ…!

 

「っ!?は、放せっ!この野郎!」

 

「んわっ!?あぁ〜ったく、とんだ暴れん坊だなぁ…兎ノ助の奴、指導がなってないよ」

 

拘束から逃れるために繰り出した拳を最小限の動きで難なく躱した目の前の女は、何故か嘆くような素振りを見せる。くそっ…初動で躱したのか?ただの一般人じゃないのかよ!?

 

「あんた、何者だ!?何故俺を狙う?」

 

「えぇ?私はそんなつもりは無いんだけどねぇ…何だったら“試してみる”?」

 

「…っ!上等ッ!!」

 

その挑発とも取れる一言に俺は激昂し、青の力を発現させたまま一気に距離を詰めて殴り掛かった。初速は十分、多少直線的な動きで赤に比べてパワーも落ちるが初見ではまず間違いなく見えない!とはいえ直撃させるわけにもいかないから、少しずらして牽制だけで勘弁してやるか。しかし現実は残酷で、そんな甘いことを考えていた自分を俺は呪うことになる。

 

「…なっ!?お、お前ェ…!!」

 

俺の放った高速パンチ群は目の前の女に命中する前に、直前で全て捌かれて一発も決まることは無かった。そんな馬鹿なことあるもんか!まさかこいつは…

 

「ふ〜ん…結構期待してたんだけど、噂ほどじゃないかなぁ。動きが単調、拳の軌道も見え見え、フェイントもバレバレで本体に力がほとんど伝わってない。だからこうやって、すぐに捕まる!そらっ!」

 

「なっ、うわぁああ!?」

 

女は俺の放った拳を難なく受け止め、そのまま腕ごと締め上げて俺の体ごと宙に放り投げた。俺は体が地面に叩きつけられ全身に激痛が襲うまで、その事実すら認識できなかった。それほどまでに無駄のない鮮やかな動きだったと認めざるを得なかった。

 

「ふふん♪どぉよ、もう降参する?」

 

女は余裕に満ちた笑みを浮かべて俺を見下すように問いかける。こいつ…潰すッ!!

俺はその場で跳ね起き、同時に青から赤へと力を変化させる。もう加減はしない、全力で行く!!

 

「もう、手加減しねぇ!ウラァアッ!!」

 

地を踏みしめ再び一気に距離を詰める。青がスピードや手数の多さなら赤は一発に込めるパワーの大きさが長所だ。以前の生天目つかさがやって見せたように一撃における力の均衡を破る戦法だ。思惑どおり放ったパンチを難なく捌いていく女、だがそのおかげで俺の一撃ごとのパワーがみるみる増していく。これなら…勝てる!

 

「ッ…!これは、なるほどねぇ…」

 

女は俺の攻撃を防ぎながら、何か納得したような口ぶりで呟いた。今更力の差に気づいたのか?だがもう遅いぜ!

 

「っ…!これでェ、終わりダァア!!」

 

俺は左手で陽動を誘うようにジャブをかまし、そっちに女の注意が向いた一瞬の隙を狙って本命の最大限に力を乗せた右ストレートを女の顔面に向けて放った。防御はまず間に合わない顔面直撃コース、赤の力が最高の状態を発揮した拳は例えあの生天目つかさでも防げない!それ故にこの勝負貰った!!

ズドンッ!!という轟音とそれに伴って発生した衝撃波と土煙によって周囲の視界の一切が支配される。だが、間違いなく放った拳には手応えがあった!最後に見た景色では女の防御は間に合っていなかったはずだ。なら、これで終わり…みたいだな。そう思い安堵の表情を浮かべようとした矢先、噴煙の中から軽快な声が聞こえてきた…ま、まさか!?

 

「…はぁ〜、危なかったぁ!今のは流石に私も驚いたわ、なっはっは〜…でも、女の顔狙って殴るのはちょっとおいたが過ぎると思うけどぉ?」

 

俺は動揺を隠せなかった。この女、あの体勢から俺の全力の拳を左手一つで防ぎやがった!?俺の拳はすっぽりと包み込むように女の顔の手前、直前に出した左の掌に収まっていた…それも目立った外傷の一つもなく、完全に勢いを殺した上で防ぎやがったのだ!あまりの出来事に身動き一つ取れない俺に対して、女はニマァ…と悪戯っぽい笑みを浮かべながら右手を“ある形”にして俺の額の前に持ってきた。そして、その次の瞬間…。

 

バチィイイイイイイイインッ!!!!

 

女の折り曲げられた中指があらゆる思いを乗せて、俺の額へと発射された。反応すら出来なかった光のよう速度で発射された天を切り裂くようなデコピンの一撃。それはまるで戦車の主砲を彷彿とさせる一撃だった。当然、それをモロに受けた俺の体は宙を舞い遠のく意識の中でただ一つ、今までで初めての完膚なきまでの敗北を味わいながら暗闇に落ちるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長と生徒会長に次ぐ賓客が男性だとは聞いていたが…本当に貴殿がその学園生だというのか?確かに類い稀な体質とはいえ、見た目以上の強さは感じられないが…」

 

学園のみんなを乗せたバスが到着して少しした後、レティが転校生くんに疑惑の目を向けながらそう呟いた。ちゃんと事前に話しておいたのに、まだ疑ってるんだ…相変わらず堅いんだから。まぁ学園長の寧々ちゃんの子どもっぽさや生徒会長の武田さんのフランクさはネテスハイムではまず見られないもんね。

 

「…客人が足りないな。後の一人は何処にいる?」

 

「へ…?嘘っ、転校生くん…誰か来てないんですか?」

 

レティに指摘されて慌てて確認すると、転校生くんはJCくんが日本に残ったことを教えてくれた。どうやらみんなが出発したのと入れ違いで入院先の病院から戻ってきたらしい。

 

「ふむ…そうか、それは残念だな。どういうわけか分からんが何故かミス・タケダも明らかに腑抜けているようだ、せめてそのJCなる生徒が噂通りの実力の持ち主かどうか見定めておきたかったのだが…致し方あるまい」

 

「えっ、JCくんってそんなに知られてるの?」

 

私がレティに確認すると、何故か眉間にしわを寄せて険しい表情で詰め寄ってきた。な、何かまずいこと言っちゃったかな…?

 

「貴様…同じ学園に居ながら、何とも思わなかったのか?」

 

「え、えぇ〜と…彼はちょっと泣き虫?かなぁ…ひぅ!?」

 

レ、レティがものすごく怖い顔になってる!?だ、だって本当にそう思ったんだもん!

 

「…日本の言葉にもある、まさに“灯台下暗し”というやつだな。卿もただ遊びに行っているのではないならば、実力者のことは頭に入れておけ」

 

む、むぅ…悔しいけどレティの言う通りだ。でも、JCくんって滅多にクエスト受けないし、私が唯一彼を見かける機会って言えば、歓談部で東雲さんやあやせさんに揶揄われて半べそかいてる時の子どもみたいなJCくんしか見たことないし…改めて考えてみると、私ってJCくんのことあんまり知らないのかな?

そんなことを考えていると、デバイスで連絡を取っていたレティが急に態度を豹変させた。十中八九、この感じは…魔物の出現!

 

「…あぁ、分かった。優先すべきは市民の避難だ、殲滅はこちらで行う。あぁ、そちらの指揮はエイプリルに任せる、終わり次第援護に回ってくれ…エミリア、聞こえたな?魔物が市街地に出現した、それもかなり広範囲にだ。ネテスハイムはこのまま戦闘に入るが…」

 

「…うん、だったら私たちも手伝うよ。コーディの為にも、絶対に守らなくっちゃ!」

 

私が強くそう断言すると、レティも気持ちを汲み取ってくれたのか静かに頷いて生徒会長に緊急事態を伝えに行った。私も転校生くんとすぐにパーティを組んでレティの後を追った。

結局、途中になっちゃたけど…日本に帰ったら、思い切ってJCくんを何かに誘ってみようかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ!?こ、此処は…痛〜っ!」

 

目を覚ますと、見知らぬ部屋の中で寝かされていた。少なくとも寮やホテルではなく良く言えば生活感のある部屋、悪く言えば散らかった部屋という印象だ。訳もわからないまま取り敢えずゆっくりと体を起こすと、同時に部屋に誰かが入ってきた。

 

「…ったく、もぉ〜ちょっとは手加減してくれたっていいじゃんよ〜…おっ、やっとお目覚め…っ!?」

 

入ってきたのはさっき俺をブチのめした女だった。手で頭を押さえていることと独り言から何かしらの怪我を負ったようだが、俺自身は後頭部に一撃入れた覚えはない。それに何故か俺を見て妙に慌てた様子で取り乱す女…何なんだこいつは?

 

「…おい、何でこっちを見ない?」

 

「ち、ちょっと待って!何で裸なの!?早く制服の上着か何か着てよ!」

 

「…はぁ?そんなもん最初から持ってねぇよ。ってか何を言って…あっ」

 

女に指摘されて自分の体に視線を向けると、そこには何故か上半身裸の状態の俺が…何でだ?ともあれ女が急に態度を豹変させた理由が分かった。まぁ向こうからすれば上半身裸で下半身は布団に隠れて見えない→全裸の思考に直結しても仕方ないか…仕方ないのか?

 

「おい、俺の服何処やった?アレしか持ってねぇんだから隠してんじゃねぇよ」

 

「私が知るわけないでしょうが!そ、その辺に落ちてたりしないの?」

 

女は両手で視界を塞ぎながらも、部屋の中に服が転がっていないか一緒に探していた…なるべく俺に視線は向けないまま。そんなにまで見たくないんなら、部屋の外に出てもらっていた方が助かるのだが……おっ、これ俺のシャツか。俺はそれを掴むと、何の気なしに手繰り寄せた。

 

「へっ?うわぁっ!?」

 

「えっ…なっ!?」

 

どういう訳か女が身動きの取れない俺に対して全身で倒れてきた。ぐっ、苦しい…い、息が出来ない…!?

 

「痛た〜っ…ゴメンねぇ、知らないうちに踏んでて足取られちゃって…って、何うーうー唸ってんの?…あっ///」

 

そうだ、気づいたんなら早く退いてくれ。お前のその無駄にデカい胸に押し潰されてまともに呼吸が出来ない…。

すると、騒々しい物音を聞きつけたのかドタバタという激しい足音と共に二階に上がってきたであろうご婦人が部屋に入ってものの数秒で硬直した。

 

「あ、あの…おばちゃん、違うの…これは、そういうことじゃ「わかってるわ」へっ…?」

 

ご婦人の目に飛び込んできた景色といえば、上半身裸の若い男に覆い被さるように体を押し付ける女と胸で顔面を押し潰されそうになっている俺の姿。女がしどろもどろになりながら釈明しようと試みるが、それよりも先に何か悟った表情でご婦人が言葉を遮った。

 

「一目見た時からビビっと来てたのよね。おばさん嬉しいわぁ…“梅ちゃんにもやっと春が来てくれて”」

 

「んなっ…お、おばちゃん!?」

 

ふぅむ…このご婦人、何か盛大に勘違いしているようだが…まぁこの際どうでもいい。先に服を着ることにしよう。

 

「んじゃ、お邪魔虫は退散するわね…後は若い二人だけでどうぞお楽しみに…ふふっ♪」

 

パタンと閉じられた扉、その扉越しに聞こえてくる軽快に階段を下っていく足音と鼻歌。既にいなくなったご婦人に向けて尚も弁明を続ける女だったが、次第に諦めた様子でこちらに向き直した。

 

「うぅ〜、本当にそんなんじゃないのにぃ…ってか、君って何でそんなに落ち着いてられるの?」

 

「別に…年増に興味がないだけ「はっ倒すよ?」むぅ…」

 

冗談の通じない女だ…それを言うならあのご婦人もそうだ。俺とこの化け物女が恋仲に見えるってのか?あり得ん…。

 

「はぁ…まぁいいや。それより君も体動かしても大丈夫なら降りてきなよ。お腹、減ってるでしょ?」

 

そういえば、こいつに襲われて忘れていたが…昼飯を食い損ねていたんだ。なのに、何でそんな奴の世話にならなきゃならない…しかし、腹の虫が今にも鳴り響きそうだ。

 

「…飯を食ったら、帰らせてもらうからな」

 

人間って、食欲には逆らえないんだな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあっ!!」

 

エミリアが先陣を切って魔物を大群と戦闘に入る。以前から危惧していたこととはいえ、まさか現実にロンドンが襲撃されるとは…守備プランの作成が間に合っていなければ、被害は甚大なものになっていただろう。しかし、地下から出現している魔物に対してネテスハイムの戦力はやや数に劣る。人員の少なさを個々の戦力でカバーしきれるだろうか?

 

「転校生くん、今から全力で行く!だから魔力を渡し続けて!」

 

エミリアの要求に応えるように、転校生なる魔法使いが自身の持つ膨大な量の魔力をエミリアに譲渡する。なるほど、これがグリモアの魔法使いが魔力の枯渇を引き起こすことなく常に全力で戦える理由か…さしずめ“人類の希望”といったところだな。

 

「だが、私も負けてはいられん!ハァッ!」

 

エミリアの剣撃はどうしても複数の敵を相手に取れない。その討ち漏らしを私のマスケット銃による魔法攻撃で仕留める。今のところは侵攻は防いでいるが、いつ他の重要都市が危機に晒されるかわからん…速攻でケリをつけるか。

 

「エミリア、退がれ!これより私が広範囲攻撃を仕掛ける…巻き込まれるなよ!」

 

「…っ!?うんっ!」

 

私の行動を理解したエミリアはすぐさま魔物との対峙を打ち切り、一気に距離をとるように後退する。それを確認した私は眼前に広がる大量の魔物に向けてマスケット銃を向ける。数は約20〜30といったところか…エミリアがかなり減らしたようだな。ならば、ここで時間を食う訳にはいかんな…貴殿らの魂、滞りなく“送ってやる”!

 

「コーデリアよ……さらばだ!!」

 

私の言葉と同時に、マスケット銃から銃弾の雨とも比喩される私の最強魔法が発動した。轟音と共に連続発射された何百もの銃弾は全て魔物達へと吸い込まれ、討ち漏らしは0だった。

 

「…凄い、あの数の魔物を一度に…」

 

久々に私の魔法を見たエミリアが面食らったような顔をしているが、それに付き合っている時間は無い。

 

「感心している場合ではないぞ!ここは片付いたが、我々はすぐに他の場所の援護に入る!」

 

「…っ!わ、わかってるよ!行こう、転校生くん!」

 

自分で先導していてなんだが、恐らく他の重要都市はミス・タケダ率いるグリモアの魔法使い達が各々に魔物を殲滅していることだろう。魔物の出現を聞いた彼女の目の色が変わったことから、漸く本調子に戻ったと見える。となると、やはり原因はここに来ていない“もう一人の男子生徒”ということなのか?報告書で読んだ素性不明の魔法使い“JC”か…これは面白い。

 

「…ふふっ、益々貴殿という存在に興味が湧いてしまったようだ」

 

私は内心心を弾ませながら、まだ見ぬ未知の魔法使いへの期待感をより高めると共に、他の市街地の戦闘エリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ラーメンと餃子と炒飯の大盛り!育ち盛りだもん、これくらい食べられるわよね?」

 

「…えっ、は、はぁ…」

 

俺はご婦人と奥にいる親父さんが作ったとされる目の前に広がる料理の品々を見て言葉を失った。いや、確かに世話になるとは言ったけど…こんなにもてなされるとは思わなんだわ。

これは困惑している俺の横で一心不乱にラーメンを啜っている女に事情を説明してもらう他ないな。

 

「…おい、これは一体どういうことだ?というより、そもそも何で隣で食ってやがる?」

 

この女、俺を意識不明にまで追い込んでおきながら平気な顔して隣で俺に出されたものと同じ料理、同じ量を食ってやがった。すると、女は何食わぬ顔をして俺に飄々と告げやがった。

 

「んー?いや、私もお昼まだ食べてなかったし…それに、“昨日の敵は今日の友”って言うじゃん?それよりも、ここって私の行きつけのラーメン屋でさ…特にこのチャーシューの味が堪んないんだよねぇ〜!これの為に生きてるって感じ!」

 

「…いや、お前と会ったの2時間前が初めてだし日も跨いでないだろ」

 

「…あれ、そうだったっけ?ごめん、なんか随分前に会ったことあるような気がしてたから、ついね…ん、美味し〜!」

 

ダメだ…こいつとはまるで話が合わない。一体全体どうなってやがるんだ?

そんな俺の胸中を察したのか、ご婦人がカウンター越しから話に混ざってきた。

 

「うふふ…梅ちゃんが男の子の友達を連れて来るなんて、確か“ジェイソンくん”以来じゃなかったかしら?結構珍しいのよ」

 

「んがっ!?げほっ、がはっ…お、おばちゃん!だからそういうのじゃないんだって!この子はただの学園の後輩で、おばちゃんが想像してるようなことは何もないんだからっ!」

 

隣で女が咽せているが、食事中は出来るだけやめてもらいたい。同じもの食ってるから特に…というか、今聞き流してはいけないことを言わなかったか?

 

「おい、俺が学園の後輩だと言ったか?」

 

すると、その問いに答えたのは意外にもご婦人の方だった。

 

「あら、貴方知らなかったの?この子はグリモアの卒業生で日本の始祖十家でもある“我妻家”の長女なのよ」

 

「我妻?どこかで聞いたような……あっ、お前もしかして精鋭部隊の?」

 

頭の中で散らばっていた情報の欠片が一箇所に集まったその時、一つの答えが導き出された。そして、それはこの女の言葉によって裏付けされる。

 

「そ、私はその精鋭部隊の我妻 浅梨の姉…我妻 梅。よろしくねん♪」

 

そう言って、俺に向けて右手を差し出してきた我妻 梅。勿論、俺がその手を取ることはない。

 

「よろしくする訳ないだろ。何で生命の危機に晒された奴と仲良くせにゃならん…おっ、このラーメン美味いな…」

 

うぅむ…具と麺とスープが程よく混ざっている、これぞまさしく黄金比と言っても過言ではない。そして、この餃子!一見普通の肉餃子かと思いきや、食感に一工夫施されている。これは具を包んでいる皮に秘密があるのか?更に極め付けは炒飯だ。油が多過ぎず適切な火力と調理時間で仕上げられている…これは親父さんの経験から算出した秘伝の作り方に違いない!この店、侮れないな…!

 

「あらあら、そんなにがっついちゃって…この子も梅ちゃんと同じで“花より団子”みたいね」

 

ご婦人、そんなつもりありません。ただこの危ない女とは気が合わないだけです。

 

 

 

 

 

 

 

〜15分後〜

 

 

 

 

 

 

「んで、いい加減話してくれ…俺をつけ狙った理由」

 

「んぇ?あぁ、それか…別につけ狙ってたってのは本当に違うんだけどねぇ…ズズッ」

 

お互いに昼飯を済ませた俺と我妻 梅はカウンターから二階の元の部屋に場所を移し、本題へと話を移行させていた。にしても、こいつ食後のデザートの後に茶までゆっくり飲みやがって。足組んで座って…緊張感のない奴だ。

 

「君のことを知ったのはちょうど1ヶ月くらい前だったかな。君の看護を担当していた子から妹を経由して連絡を貰ってね…まぁグリモアの生徒がネテスハイムに行く間は国軍とIMFが学園の警備にあたるって前々から決まってたし、ついでに君の面倒も見てくれって正式に通達が…って感じかな?」

 

「優子さんが?そうか…だが、それならもう分かってるだろ?俺が魔法使いを見れば発作を起こしてしまうってことは。本当はこの期間に退学の手続きを済ませおきたかったんだが…」

 

「ま、それは無理な相談だろうね。いくら本人が退学を望んでも、それにはお偉いさん方の許諾が必要だし…特にあのお子様学園長は絶対に認めないだろうねぇ」

 

我妻 梅はニヤついた視線を俺に向ける。確かにそれは誤算だった。せめて学園長と顔見知りの仲じゃなければ、もしかしたら申請が通っていたかもしれない。

 

「それに退学したからって自由になるって訳でもないしね。そういう魔法使いは例外なく矯正施設に送られるし、もしかしたら一生をそこで終えるなんてことも考えられないわけじゃないよ。それよりも、もっと症状が良くなることを考えた方がいいじゃん。現に私とは普通に話せてるし」

 

「それは優子さんがリハビリに付き合ってくれたからすぐに卒倒するのは防いでるだけで、あんたはそもそも俺の中では悪い奴って認識だから別に裏切られたとかそういう感覚は無いから大丈夫なんだよ。それに、内心ではまだみんなと直接会うのは…怖いんだ」

 

ここで初めて、我妻 梅の表情が陰った。それは俺に対する同情なのか、はたまた期待外れともいうべき失望の念なのか…。

 

「ふ〜ん…そう。じゃあ“諦める”んだ?」

 

我妻 梅の残酷なほど鋭い言葉を受け、俺は…何も言い返せなかった。失望したか…そうだろうな。こいつは事前に俺のことを調べてきているはずだ。タイコンデロガを倒したことや何度も裏世界に飛ばされてもその都度生きて帰ってきたことを…それが実際に会ってみればこんな弱気な奴だと知れば、誰だって幻滅するか。

 

「何と言われたって、怖いものは怖い。アンタには分からないだろうな…いや、アンタだけじゃない。俺の気持ちが分かる奴なんて誰も居ないんだ…」

 

俺の独白は我妻 梅の場違いな答えによって上書きされてしまった。

 

「そんなの当たり前じゃん」

 

あまりにあっけらかんとした答えに、俺はまた別の意味で言葉を失ってしまった。普通、そんな簡単に肯定するなんて思わないだろう?

 

「自分以外の人間が何考えてるかなんて、そんなの分かるわけないって…ま、何となくだけど思いやることなら出来るかもしれないよ?」

 

そう言って、ニィと笑いかける我妻 梅。こいつ…突き放したり肯定したり、俺をどうしたいんだ?

すると、我妻 梅は持っていた茶を一気に飲み干してスッと立ち上がって俺の横まで歩いてくると、そのまま隣に座りこんだ。な、何のつもりだ?

 

「今からする話は私が勝手にそう思ってるだけだから、返事しなくていいから聞いててね「はぁ?何で俺が…」いいから!お願い…?」

 

うぐっ…何だよ、急にしおらしくなりやがって…調子狂うなぁ。

 

「ちょうど10年くらい前だったかな…まだ私が学園で生徒会長だった時にさ、北海道で魔物が大量に出現したことがあってさ」

 

それは俺の中でも記憶に残っている出来事だ。恐らく第6次侵攻のことを言っているのだろう。

 

「その時は魔物発生から軍や学園生の出撃の初動の対応が遅れてね…結局、私たちが北海道に辿り着いたのは最初に発生してから2ヶ月以上経った後だった。因みに何で遅れたのかってのは、国同士のいざこざのしわ寄せに巻き込まれてね。北海道で霧を払ったら中国やロシアに霧が移動してしまうから、どっちを救うか選べってこと。だから、今年の3月に北海道を解放してくれて…本当に良かったんだ」

 

俺もその話は聞いている。俺が過去の北海道に飛ばされている間に、こっちに残った学園生が軍と協力して北海道を巣食う大型の魔物を倒した話だな。

 

「それでね、その過去の学園に変な電話がかかってきたことがあったんだよね。魔物の発生が確認されたのとほぼ同じくらいに“グリモアの生徒を名乗る魔法使いが北海道の公衆電話から学園に直接救援を要請してきたってね”…工作員にしては随分とマヌケな行動だよねぇ…学園内部に直通の番号にかけてくるなんて」

 

「お、おい…何でそれを「待って。黙って聞く約束でしょ?最後まで言わせて」ぐっ、くくっ…」

 

くそっ…こいつ、分かってるなら最後まで言わせろ。

 

「んで話を戻すけど、私たちが北海道に着いた時にはもうほとんどの魔物は霧散しててボスのデッカい魔物とその取り巻きの小物だけ。流石にその場の判断で勝手に殲滅させる訳にもいかないから撤退したけど…その時一緒に負傷した国軍の兵士と何故かグリモアの制服を着た女の子が一緒のヘリに乗ってたんだけど、これがまた面白い話を聞かせてくれてね。この服はどうしたの?と聞いたらこう答えたよ…“私を助けてくれたお兄さんが貸してくれた。まだ一人で戦ってるから早く助けてあげて”とね」

 

その時、一人の少女が見せた儚い笑顔が脳裏に浮かんだ。それは俺が北海道で出会った悲しき運命と戦う芯の強い少女…真代ちゃんその人だった。

 

「ここまでが私の記憶にある変わった物語の話。まぁ、つい最近まで何故か忘れてたんだけどね…どぉ?少しは気が楽になった?」

 

我妻 梅…どこから聞きつけたのか知らないが、俺と真代ちゃんの関係を知っている?だが、おかげで思い出したぜ…俺にもまだ、信じてくれる人がいるってな。

 

「私は隠し事とかあんまし得意じゃないからハッキリ言うよ…私たちには君の力が必要なの。学園生たちが何て言ってるかは想像つくけど、私たち“IMF”としては正式にこれを要求するわ。その為に私たちが君を鍛え上げるつもりよ」

 

我妻 梅は壁の近くに立てかけて置いていた鞄の中から、数枚の書類を取り出して俺に差し出した。そこに記されていた内容は宍戸結希によって採取された生体データと赤・青・緑能力や特性について事細かに、まるで俺自身が証言したような内容だった。

 

「君の能力のことは最大限こっちで調べたわ。でも、まだまだ全然使いこなせてないよ」

 

「…何だと?お前、俺の何を知っている!?答えろっ!!」

 

俺は激昂し、我妻 梅に摑みかかる。が、すぐにいなされ次の瞬間には俺の腹に膝蹴りが直撃し、あまりの激痛に声にならない声を上げてその場に蹲る。

 

「ごめんね…でも、もし君自身を変える気があるなら…明日学園内のコロシアムに来て。そして、誓って…“自分の身の周りにいる人間全てを利用してでも必ず糧にする”と。まず最初に私を利用して、誰よりも強くなりなさい。君にはそれを選ぶ権利も自由もあるってこと、忘れないで。店を出て右の路地をまっすぐ進めば学生寮の前に出るから、今日はそのまま帰りなさい。じゃあ、また明日ね」

 

我妻 梅はそれだけを言い残して書類をしまうと、そのまま部屋を出て行ってしまった。くそっ、好き放題言いやがって…誰があんな女の言うことなんかに従うか!

 

「…けど、真代ちゃんが我妻 梅に託してくれた。燻ってる俺に立ち直るチャンスを与えてくれたのかもしれない…はぁ」

 

今の俺を真代ちゃんが見たら、何て言うだろうか?

 

(今のお兄さんは、ダメダメですっ!お兄さんは北海道の為に…あ、あと真代の為に頑張って戦ってくれました。だから、絶対また元気になれるって、真代は信じてます!じゃなければ、そんな弱々なお兄さんのことなんか…大嫌いですっ、ぷいっ……あっ、今のはその、本気で言ったんじゃなくて例えばの話で…って、そんなに落ち込まないでくださいよぅ〜!?本当は大好きですからぁ〜!!)

 

…うん、きっとこんな感じだろうか?ふふっ、想像だけでも何か笑えてきたな。それにしても俺は随分と忘れていたな…あの時、北海道で味わった悔しさや不甲斐なさを。もう二度とあんな無様な負けを味わいたくないと誓ったはずじゃなかったのか、俺は。

 

「…はぁ、分かってるよ。こうなったらトコトン利用してやる…誰にも負けない、誰よりも強く…!」

 

俺は滾る想いを拳に宿し、消えかけていた闘志を再び燃やすこととなる…それは新たなる力の目覚めの予感でもあったことは、俺はまだ知る由もなかった。

 




【左手】

「じゃあ、私もう行くから。また近いうちに寄るからね!」

「はいはい、次に来る時はお付き合いの報告でも待ってるわよ」

「なっ!?何言ってんのぉ!?だから違うって言ってんじゃん!もう行くからね…「おい、梅」えっ、何おじさん?」

「お前、左手どうした…?」

「えっ…別に何でもないって」

「…そうか、なら聞かん。だがな、隠すつもりならもっと上手くやれ」

「…うん。心配かけてごめんね、でも本当に大丈夫だから!じゃあね〜………やっぱおじさんにはバレてたか〜。JCの赤の一撃、こんなに効くなんてなぁ…私ももっと強くならなきゃね!よーし、明日から気合い入れてビシバシ鍛えてやるぞー!」
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