グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
汐浜ファンタジーランドが大好きな女の子。ほぼ毎週遊びに行っていたところ、魔物に襲われて重傷を負い、そのショックで魔法使いに覚醒。ふわふわほわ~っとしており、きらきらのくるるん。兎がぴょんぴょんするととってもかわゆいんです。図書委員。争いごとが嫌いで魔物や危険人物でも仲良くできればと願っている。
「はぁ…はぁ…クァッ!フッ!ヘアッ!はぁ、はぁ…タイムは!?」
俺はコロシアムのゲート付近でストップウォッチ片手に修行の行く末を見守っていた我妻 梅に確認する。しかし、その表情は晴れることはなく、もはや呆れすら見え隠れしていた。
「…49秒。これでもう78回目なのに、まだまだ全然目標タイムに到達してないよ!あんた、ちゃんとルール分かってるよね!?」
我妻 梅との修行を始めて3日が経とうとしていた。修行といえば聞こえは良いが、課せられた内容といえばハッキリ言って無理難題・机上の空論・絵空事・夢物語・フィクション…どう呼ばれても良いほどの眉唾物だ。俺は反抗の念を込めて、嫌味ったらしく言い返してやった。
「あぁ分かってるさ。30秒以内に4人を倒す…但し、向こうは本気で襲い掛かってきて俺は常に“青”の状態で1人につき一撃しか攻撃が許されてない。攻撃力不足で二発目は無し、こんなん無理だろうが!」
「無理でも何でもやるの!全く、口答えだけは一流なんだから…生天目つかさは倍の人数を同じタイムで倒しきったよ!」
くっ…化け物の友達はみんな化け物ってか?俺だってせめて攻撃力の低い青じゃなければ…もっと強い力があれば、一撃で打ち倒せるだけの力が。まさか、これが狙いか?
「…もう一度だ!次は上手くやるっ!」
俺は何度失敗してもへこたれずに挑み、その度により強力な力を酷使する要求を自身に課した。
そして、それを達成したのは学園生の帰国日から1週間後…ロンドン出発からピッタリ1ヶ月経った頃だった。不穏な動きを見せていた“ライ魔法師団”が遂に学園近辺の学生街を襲撃してきたからだ。
「捕らえる?倒しちゃダメなのか?アイツらはリナ達を殺す気なんだろ?」
「えぇ、ですが絶対に殺さないでください。例え相手がテロリストであっても、私たち正規の魔法使いが倒すのは魔物だけです…魔法使いが人間を殺した時のバッシング、あなたも知ってるでしょう?」
私が言及すると与那嶺さんは納得いかなかったのか、私を見つめて唸っていた。霧塚さんが慌てて宥めていたけど、私だって内心ではこの決定に納得しているわけじゃない。
“優等種族である魔法使いは劣等種族である一般人を支配する”そんな危険思想を掲げている団体、百害あって一利なしだと誰もが思うでしょう。
すると、突然デバイスから通知音が鳴り響いた。相手は神凪さん?
「はい、冬樹です。どうかしましたか?」
《あぁ、委員長から伝言だ。冬樹はそのまま図書委員に付いてフォローしてやってくれとのことだ。それと…》
そこへ来て急に言葉を濁す神凪さん。何かあったのかしら…?
「神凪さん?何か言いづらいことなら無理に言わなくても構わないけど…」
《どうやら…JCがライの魔法使いと接触したようだ。それも、拘束したライの手下から聞き出した情報が正しければ、今回の騒動を指揮したとされる首謀者とらしい》
「何ですって…!JCさんの現在位置は把握しているんですよね!?」
私の問いかけに対して、明確な回答はなかった。それほどまでに絶望的なのか、はたまた状況は刻一刻と変化しているのでしょうか…?
《…詳しいことはまだ分からないが、私たちが全力で捜索する!冬樹の方でも余裕があれば気にかけてやってくれ!》
そこで一方的に通話が切れてしまった。まさか、ライがJCさんに?でも、一体何の用があって…今はそんなこと考えている場合じゃないわね。
「とにかく、今はライの魔法使いを拘束することが先決。そうすればいずれJCさんに辿り着くはず…」
私は何故か消えない一抹の不安を胸に抱き、襲撃跡の残る学生街を走り抜けた。
「……こっちか」
俺は“緑”から“青”へと変化させて、屋根と屋根の間を跳躍して移動していく。襲撃の報せを受けた俺は学園生の少し後から学生街へ到着すると同時に“緑”の力を発現させて襲撃者のおおよその位置を探していると、何処からともなく俺を呼ぶ声が聞こえてきた。他の誰もが騒いでいないことからこの声は自分にしか聞こえないほど遠くから発せられているものと判断した俺は、許諾を得ないままその場所へと向かって現在に至る。まぁ俺の出撃自体、単独では違反行為なのだが…もう金輪際、学園一の不良生徒ってことで通すから問題ないか。
そんなことを考えていると、視線の先に目深にフードを被った魔法使いと思われる人物が不気味に佇んでいた。
俺はその人物の数歩前に降り立つと、注意深く観察する…仕掛けてくる様子はない…のか?
すると、目の前の人物が僅かに距離を詰めてきたので迷わず制止の声を上げた。
「動くなっ!俺を呼んだのはお前か?仲間は他に何人か居る?」
俺が矢継ぎ早に質問するものの相手には特に焦った様子もなく、そしてゆっくりとその口を開いた。
「…やっと、逢えた……また、あの時のまま…!」
「えっ…なっ!?」
目の前の人物は独り言のように小さく呟くと、一目散に俺に駆けて来て…そのまま俺の体を抱きしめた。あまりの突然の出来事に困惑する俺は抱きついてきた人物を突き放した。その拍子にお互いに地面に倒れてしまったが、不意に顔を隠していたフードがズレてその顔が露わになる。
「もう…いきなり女の子を突き飛ばすなんて、相変わらずデリカシーが無いんだから…ふふっ」
淡い桃色の髪、一見物腰柔らかだが妙に強気な姿勢、そして過去の俺を知っている口ぶり…俺はこの女を知ってるのか?
「お前は、誰だ…?何故俺を知っている?」
それを聞くと、目の前で地面にぺたんと座り込んだ女は少し不機嫌そうな顔をして口を尖らせていた。が、すぐに何か良からぬことを思いついたのか俺の手を握って一気に顔を近づけてきた。
「じゃあ…こういうのはどうかな?」
女は俺の手をとって、そのままその手を自身の頰に添えるように動かした。
「“こうすると、痛いのなくなるってママが言ってた!どお?”」
その一言を受けて、俺は絶句してしまった。俺はこの動作を知っている。だって、それをした人物は…
「心、ちゃん…なのか?」
「…ふふっ、だいせーかい♪やっぱりお兄ちゃんとは強い絆で繋がってるんだねっ!ぐりぐり〜♪」
目の前の彼女は心底嬉しそうに俺の胸に顔を埋める。それはあの時の少女の面影を残したままの…それでいてあらゆる所が大人の女性へと成長した心ちゃんとの22年ぶりの再会の瞬間だった。
「…ふぅ、しかし危ねーですね。もう少ししっかりと縛っておいてくだせー」
「す、すみません…わ、私…っ」
話が飲み込めてねー方々に向けて説明すると、図書委員の霧塚萌木が拘束したライの魔法使いと接触・説得を試みたものの結果は失敗に終わり、逆に攻撃されそうになってた所をウチら風紀委員が合流して何とか事なきを得たってところですかね。しかし、まさか“あの”霧塚が直接交渉に乗り出すとは予想してなかったですねー。テロリストという存在を理解しているはずなのに、分かり合う為に話をした…つまりは知識ではなく経験を優先したということになりますが…そうだ、まだこのテロリストに聞いておかなければならないことがありましたね。
【アンタらの大将、ウチの学園生と接触したってのは本当ですか?大人しく吐いちまえば、国軍に身柄を引き渡すまでは丁重に扱ってやってもいーですよ?】
周りに聞かれると少し面倒な案件なので、敢えて英語で話します。しかし、良い返事は貰えませんでした。
【くっ…!誰が貴様等に話すものグアアァアアッ!?】
反抗的な態度をとってきたので、魔法による拘束をより強力なものに変化させて体から悲鳴が聞こえそうなほど締め上げます。テロリストといえど、ウチらに殺人は許可されてません。せめて脅しに屈してくれるといいのですが…。
【勘違いしねーでくだせー。これは交渉でもお願いでもねーですよ。最初からあんた等に拒否権なんて存在しませんから…ウチらはねぇ、学園とそこに通う生徒を守るためなら、アンタを躊躇なく今ここで消すことだって出来るんですよ。どうやらアンタのお仲間は助けに来てくれそうになさそうですねぇ。さぁ…命が惜しければ知ってること、洗いざらい喋ってもらいましょーか?】
ウチの念が通じたのか、拘束したライの魔法使いはその重く閉ざしていた口をよーやく開いてくれました。
【…突然、我々のもとに正体不明の人物から学園の周辺一帯のあらゆるセキュリティを一時的に使用不能にする旨のメールが送られてきたのだ。そもそもロンドンに戦力を割いていたが為に本拠地をIMFに襲撃などされていなければ、こんな確証の無い情報など利用するか】
なるほど…精鋭部隊や生徒会、執行部のお偉いさん方が執拗に隠していたのはこのことだったんですねー。予想するにグリモアがネテスハイムに協力した所為で負けたもんだから、その腹いせを一番規模の小さいウチらで済まそうって訳ですか…ったく、子どもの喧嘩じゃねーんですから八つ当たりは勘弁してくだせー。
【アンタらがグリモアを襲撃してきた理由は分かりました。んで、それを煽ってきた人物は一体何処の誰なんですか?】
【…詳しいことは知らん。我々にとって好都合な案件であるから利用したまでのこと、現に入国して以来誰も我々の存在を感知していなかったのだからな…】
…確かにそれは言えてますね。ライの魔法師団が日本へ入国しようとすれば、まずゲートで弾かれるか即刻連行されるはず。仮にパス出来てもその後グリモアに向かうにつれてそのセキュリティレベルはどんどん高まっていく…一度も発見されずに学園に辿り着くのは到底不可能。ならば、この男の言う通りセキュリティは気づかぬうちに無効化されていたということになりますね。その痕跡すら残さずにそんな芸当が出来る人物といえば…。
考え込んでいると、ちょうどいいタイミングで国軍の兵士が身柄を受け取りに来ました。拘束したライの魔法使いが連行されて行く際に“話したんだから減刑しろ、約束が違うだろ”とほざいていたみたいですが…ウチ、テロリストとは交渉しない主義なんで。
「さーて、そろそろJCさんを探している服部から連絡が来る頃です。それまでに全員連行して締め上げちゃいましょ!」
ウチはその場にいる風紀委員のメンバーに檄を飛ばす。しかし、その心は何故か曇っていました。まるで何か超えてはならない一線を超えた自分が何処かにいるような気配を感じて…。
「それで、君が心ちゃんなのは理解したとして…どうして君がここにいる?そもそもどうやってここに来た?」
俺は未だに胸に顔を擦り付けてくる大人の心ちゃんを引き剥がし、詰問する。すると、それが面白くなかったのかまたもや不満げな顔に戻る心ちゃん。
「むぅ…さっきからそればっかり。そんなのどうでもいいじゃん!こうやってまた逢えたんだから〜♪それとも…お兄ちゃんはぁ〜心に逢いたくなかったのぉ…?」
「いや…それは、その……逢いたくなかった、わけじゃない、けど…」
歯切れの悪い回答だったが否定ではなかったため、再び目を煌めかせて俺に抱きついてくる心ちゃん。こういう少し強引なところは初めて会った頃の少女のままで、戸惑ってはいるものの安心感も感じてしまっている自分がいた。
「…あっ、ちょっとだけ待っててね♪」
すると、急に改まってその場を離れる心ちゃん。何やら通信機器を使用しているようだが、その内容までは把握出来なかった。というより、まるで暗号のように不規則な文字列で表示されていて、“緑”の力を密かに発現させて見えたは見えたが意味が理解出来なかった。それから程なくしてぱたぱたと駆け寄ってきた心ちゃんは、さっきまでの元気は無くどこか申し訳なさそうに口を開いた。
「…お兄ちゃん、ごめんね。もう行かなきゃダメみたい、ホントはもっと一緒に居たかったんだけど…お詫びにこれ、あげる!」
「これは?何かの通信機みたいだけど…」
心ちゃんが俺に差し出したのは、ついさっき心ちゃんが使用していたものと同じ小型の携帯型端末だった。
「これでいつでも心とお電話できるからね!でも、これを貰ったことは誰にも話しちゃダメだよ?そしたらもうお話出来なくなっちゃうからね…わかった?」
「あ、あぁ…わかった、約束する」
俺がそう返事すると、不意に右頰に柔らかな感触を感じた。視線の先には妖艶で綺麗な心ちゃんの顔が間近に広がっていた。
「…うふふっ、ありがと。良い子のお兄ちゃんには、心からご褒美だよ♪じゃあね」
満面の笑みを浮かべた心ちゃんは、そのまま足早に走り去って行った。少しの間、俺は浮ついた気持ちに支配されてしまっていたがすぐに気を取り直して、貰った通信機を見つめる。
俺がいつまでもここに居れば、心ちゃんにもあらぬ疑いをかけられるかもしれない。それは絶対に認めたくなかった。
「さて、と…じゃあ俺も行くかな…フッ!」
さっき緑で探知した際に学園生と思われる魔法使いの気配を感じた。ここからそう遠くない場所にいるみたいだけど、別の知らない魔法使いも迫っている。助けるんじゃない、新しい力を試してみたいだけだ。
「…っ!アレだな、フンッ!」
眼前に捉えた学園生と思われる女生徒とそこに迫るテロリスト…たしか“ライの魔法師団”とか言ってたか。今にも女生徒に向かって魔法を放とうとしているテロリストに対して女生徒は防御の構えを一切見せない。まさか、魔力切れか!?くぅ…間に合えッ!!
俺は一気に跳躍し、女生徒とテロリストの間に割って入った。しかし、そのまま女生徒を退避させる余裕は無い…ならば、俺が盾になるしかねぇ!
俺は女生徒の前に立ち、テロリストの魔法を一挙に引き受けた。でもな、ただでやられるほど優しくはねぇぞ!
そう強く決意した時、俺の目は紫色の輝きを宿していた。
【何ッ!?き、貴様は…喰らえッ!】
テロリストが俺に何度も魔法による攻撃を行うが、それをものともせずに俺はどんどん距離を詰めるように歩みを進める。
「凄い…」
後ろで感嘆の声を漏らす女生徒。それはきっと障壁やバリアも張らずに距離縮めているにも関わらず、俺の体には見てとれるほどの傷は無く強靭な防御力と圧倒的なパワーを武器に攻めの姿勢で状況を支配しているからだろう。そして、その距離はお互いの拳が届くほどに近づいていた。
先に動いたのは…テロリスト。
【…死ね、化け物!!】
魔法による攻撃が効かないと判断したテロリストのその己の拳に最大限の力を込めたパンチが俺の顔面に決まる。にもかかわらず、目に見えるダメージは無く逆に左手でテロリストの手を掴んで逃げられないように拘束する。そして、気合を込めた掛け声と共に拳による渾身の一撃を炸裂させた。
「うぅぅううああああ…ヘヤァアア!!」
放った拳はテロリストの腹部にめり込むように決まり、その威力を殺すことなく後方の建設物の外壁まで吹き飛んでいった。加減は微妙だったが、殺しはしてないはずだろう…ものにするにはまだまだ調整が必要みたいだな。
俺は襲われていた女生徒の元へ駆け寄って手を掴んで、地面に座り込んでいた女生徒を立たせた。
「怪我は無いか?魔力切れならすぐに連絡して迎えに来てもらうんだな……あと、それは耳なのか?」
そう、さっきからずっと気になっていてあえて何も言わなかったんだが、女生徒の頭の横に別の耳がみょんみょん動いていた。何かの動物の耳のようにも見えるが…?
「…はぇ?はい、ハートちゃんにそっくりで可愛いですよねぇ〜!もし良ければ、触ってみますかぁ?」
「………いや、遠慮しておく」
「むぅ〜、今すっごく悩んで断りましたよねぇ…あっ、わたし“七喜 ちひろ”ですぅ。あなたは先輩、で合ってますかぁ?」
この妙にふわふわ〜っとした女生徒は“七喜ちひろ”というらしい。見たことない生徒であることから、きっと最近転校してきたのだろう。まぁ不良生徒と仲良くならない方がいいことは伝えておかなければな。
「俺はJC…学園ではこれから不良生徒ってことで通ることになってるから、見かけてもあんま話しかけない方がいいぞ?」
「何でですかぁ?先輩はわたしのこと、助けてくれたじゃないですかぁ。だから、悪い人じゃないと思いますっ」
うっ…またこのパターンか。ももちゃんといいこの子といい、何でそんな簡単に良い人って断言してくるんだ!?
「…とにかく人助けだと思って、なるべくそうしてくれよな?じゃあ、頼んだぜ。よろしく!」
俺は足早にその場を去ってしまった。あのままあの子と話していたら、流れるように上手く話に乗せられてしまいそうだからだ。自分の世界観を持つ子は簡単に騙されてくれないから苦手だ…変に巻き込みたくないんだけどな。
俺はそのままテロリストの拘束作業をしていた風紀委員に見つからないように、静かに学園に戻った……が、後日とんでもない仕打ちを受けることになるとはこの時は知る由もなかった。
登校時
「先輩っ、おはようございますぅ。もしよければ一緒に登校しませんかぁ?って、何で走って行っちゃうんですかぁ〜!?まだ遅刻じゃありませんよぅ!」
合同授業時
「あ〜、先輩っ。わたしまだ朝のこと、ちょっと怒ってますよ?置いてくなんて酷いですぅ…って、それよりも!先輩、まだ誰とも組んでませんよね?だったらわたしと一緒の班になりましょうっ。えっ、お腹痛いから早退する?頭と肩と背中と腰とあと心も?…さ、さぼっちゃダメですよぅ!」
昼食時
「…せーんぱいっ!お一人で食べてるんですかぁ?というかぁ、わたしに嘘つきましたよねぇ?こ〜んなにたくさん食べれるのにお腹痛いわけないじゃないですかぁ!これはもう流石のちひろちゃんでも堪忍袋の尾がチョッキンって感じです。プンプンですよぉ!罰として、お昼はわたしもご一緒させてもらいますぅ。あっ、それ美味しそうですねぇ…じーっ…」
「だあぁあああっ!!五月蝿ェエエ!!」
こっちも堪忍袋の尾がチョッキンしましたわ。何なのこの子、昨日俺の話ちゃんと聞いてたよな?なのに何で俺に話しかけてくる!?
「ぴゃっ!?お、おっきな声出さないでくださいよぉ!びっくりしちゃいますぅ…」
「俺に近づくなって言ったよね!?それなのに、どうして無視するんだ!馬鹿か君は…!」
俺があえて語気を強めて警告するも、このちひろちゃんという少女にはどこ吹く風ということらしい。頰をぷく〜っと膨らませて、俺に反抗の表情を見せてくる。
「むぅ〜…!たしかにわたしはおバカさんなのかもしれませんけどぉ…もし先輩が本当にみんなが言うような不良さんだとしてもぉ、ちゃんと知ろうとしないで決めつけちゃ、めっ、なんですよぉ!わたしは、先輩ともお友達になりたいんですっ!」
ちひろちゃんは彼女なりの強気な姿勢を示して、俺に食い下がる。こんなに突き放してもちひろちゃんは諦めずに俺との関係を紡ごうとしてくれている…信じても、いいのか?また、騙されてしまうのではないか?でも、この子は学園の中でも権力絡みの派閥争いとは特に関係ない位置にいるはず…それなら。
「…先輩、じゃない」
「えっ?」
「友達には敬称は要らない。今はまだ君のことを信じることは出来ないけど、俺も出来るだけの努力をする。それでも良いなら…名前で呼んで」
俺の突然の提案に一瞬、呆気にとられた表情を見せるちひろちゃん。しかし、それはすぐに好転し、溢れんばかりの笑顔で答えた。
「…はいっ。よろしくお願いしますぅ、JCさん…うふふっ♪」
「痛い痛い痛い…」
状況が全く飲み込めない。何とかちひろちゃんと和解(?)して別れてすぐに、えらい剣幕のイヴちゃんと紗妃ちゃんに俺の襟首掴まれてズルズルと引き摺られながら何処かへ連行されていた。
「放せよ!俺が何したってんだっ!?俺を捕まえて何企んでやがるっ!!」
「きゃっ!?ち、ちょっと…暴れないで下さい!」
「大人しくして貰えないならば、もっと強力な拘束の魔法をかけますよ。それとも手足の一本くらいは折ってあげましょうか?」
「上等だ!簡単に俺を消せると思うなよ…!うああああっ!!」
「JCさんも冬樹さんも短絡的にならないで下さい!JCさんに聞きたいことがあるんですっ!」
俺に、聞きたいこと?…うっ!?あ、頭が…割れそうだっ!?な、何だこれは?
《…会長、学園内に侵入していた不審者を捉えました。どういうわけか学園の内情に詳しいことから、おそらくJGJのスパイか或いは“霧の護り手”の一味かと…》
《僕はこの学園の生徒だ!それに危害を加えるつもりもない!さっき学園生が話していることを聞いた…魔物が学園に向けて大量に発生している、今は大規模侵攻の最中なんでしょう!?だったら僕にも協力させて下さい風子さ《黙れッ!!》グアッ…カハッ!?》
《気安く会長の名前を呼ぶな…出来損ないのスパイ風情が。会長、この男は何か知っていると見て、すぐに地下の懲罰房に連行し、拷問すべきです。もし、お辛ければ自分が…》
《…いえ、ウチが主導でやります。武田 虎千代なき今、ウチが学園を守らなければなりません。その為なら…アンタさんの知ってること、全部話して貰いますよ。服部、彼を連行して下さい…準備が整い次第、すぐに拷問を開始します。くれぐれも彼の存在は他の学園生に知られることが無いように配慮して下さい》
《承知しました…話は聞いたな?さっさと立て!貴様には洗いざらい話してもらうぞ。会長や学園を脅かした罪を負い、楽に死ねると思うな…》
《そ、そんな…!?待って、話を聞いてくれ!放してくれ忍者さん!風子さん!信じてくれェ!僕はこの学園のみんなを守るために…!このままだとみんなやられてしまう!》
《貴様…まだそんな戯言をォ!!黙れッ!》
《ウワァッ!?グフッ…だ、黙るもんか…ここで黙ったりしたら、ここまで来た意味が無い!僕には、この時間で助けなきゃいけない人たちがいるんだァ!!“僕”によって壊されてしまう…“僕たちの平和”を…!!》
《き、貴様…いや、しかし…》
《…服部、何をしているんです。早くそのスパイを懲罰房に連行して下さい。学園を危機に陥れようする輩は何人たりとも放っておけません…さぁ、早く…!》
《…はい。行くぞ》
《…っ!?風子さん、風子さぁああんっ!!畜生…何で、何で信じてくれないんだよォ…うっ、うぐぅう、うぅ…》
…カハッ!?はぁ、はぁ…何なんだ、今の…夢?妄想?幻術?わ、訳が分からない…何で俺が風子さんや忍者さんに襲われなければならない?これは俺が無意識のうちに作り出した虚構なのか…?
「…JCさん?何やら顔色が優れないようですが…もしかして、何処か体調が良くないんですか?」
俺の顔色が白くなっているのを心配して近くに寄り添って顔を覗き込んでくる紗妃ちゃん。今の変な記憶の中に紗妃ちゃんは出てこなかった…もし風子さんの言葉通りなら、紗妃ちゃんは無害なのか?
「…だ、大丈夫だ。それよりも早く行こう…」
「えっ…は、はぁ…」
俺は二人の介抱を拒絶し、再び一人で歩き出す。確証が得られるまでは、誰も信用できない。それはこれから会う風子さんや忍者さん、生徒会、精鋭部隊、学園生…全員が範囲内だ。一人一人精査して、自分にとって敵か味方かを見定めなければ。
「単刀直入に聞きますので、正直に答えてくだせー。昨日、ライの魔法師団が学生街を襲撃した際…無許可にも関わらずアンタさんも現場に出張ってましたね?その時、誰と接触したんです?」
場面は変わって風紀委員室、テーブル一つを隔てて俺と風子さんが対面して、それを他の風紀委員たちが見守っている。まぁ呼ばれた理由は案の定、昨日の件について…だったら尚更のこと、話すわけにはいかなかった。
「…別に。お世話になってる人の店が襲撃地点に近かったから、心配になって見に行っただけだ」
これは本当のことだ。我妻 梅が俺を運んだ店には学園生が不在の間、ほぼ毎日のように利用した。それだけあの店の味が気に入ったということだ。
「…まぁ、素直に教えてくれないってことは何か後ろめたいことがあるってゆーふうに捉えちまいますが…それでもいいんですか?」
「…そいつはお互い様だろ。学園の為に俺をどうして管理下に置こうか、或いは消そうかを考えてるんだろう?」
『!?』
俺の言葉に風紀委員たちに衝撃が走る。風子さんと忍者さんを除いて…やっぱりこの二人、何か知ってるんだな。
「…あまり変なこと言わねーでくだせー。どうしてウチらがJCさんをどうこうしなきゃいけねーんですか?」
「そうっスよ〜、きっとJCさんの考え過ぎっス!何かの映画の影響ッスか〜?自分もぜひ見てみたいっスねぇ」
風子さんはどこか疑うように、忍者さんに至っては悪ノリして便乗してきた…どういうことだ、俺を陥れようとしてるんじゃないのか?
「…あんた達だろうがもっと上の人間かはこの際どうだっていいさ。俺は俺の信じる道を進む、誰に理解されなくてもな…そいつらに伝えておけ。
“お前らの言いなりになるつもりはない。どう足掻いてでも生き残って運命に逆らってやる…簡単に消せると思うなよ”ってな」
俺はそれだけ言い残して部屋を出た。これでもし動くようなら誰が俺を狙っているのか、さっき頭に浮かんできたものの正体がはっきりするはずだ。学園からは既にマークされてるかもしれないが、その中で接触してくる奴が“首謀者”に間違いない。今度こそ尻尾を掴んでやるぜ…!
「…ふぅ、中々捗らないな。少し休憩するか」
その日の夜、俺は寮の自室にて自分の身の回りにいる人物の名前をメモに書いたものを使って、相関図を作っていた。頭で考えていたものを実際に目に見える形に表せば何か閃くと思ったが、謎が新たな謎を呼ぶ…これではいつまで経っても埒があかない。
俺はそれらを見ながら、移動させながら何度も何度も繰り返しグループ分けをしていく。
「やはり現時点で怪しいのは、生徒会・風紀委員・精鋭部隊の組織だって動いてるところか…だが今日の風紀委員の反応は明らかに態度に差があった。おそらく上層部の意向を聞かされているのは風子さんだけで、忍者さんはまた別ルートで情報を集めているのか?」
となると、一概に組織が怪しいとも言えなくなる。ならば個人か?学園生が戻ってから色々と動きがあったし。
「帰ってきたから俺に接触したのは桃世 もも、エミリア・ブルームフィールド、東雲 アイラ、間宮 千佳、七喜 ちひろ、仲月 さら、武田 虎千代、水瀬 薫子、結城 聖奈、朱鷺坂 チトセ、冬樹 ノエル、遊佐 鳴子、南 智花、立華 卯衣…うぅむ、多過ぎるし関連性も認められないか…」
七喜 ちひろ以外に関しては昨日今日知り合ったばかりだから情報量は少ないが、他のメンバーに関しては総じてロンドン行き出来なかった俺にお土産を買ってきてくれたという名目で会いにきた。その土地の名産品だったり有名な洋菓子店の詰め合わせだったり…あと何か喋る置き物みたいな奴をくれたのもいたな、扱いに困ったが。この中に一人でも別の目的で接触していた人物がいたら…?
「俺の感で言えば、怪しいのは…管理側は東雲 アイラ・水無月 風子・朱鷺坂 チトセ、排除側は不明、グレーは遊佐 鳴子、あとの一般生徒は多分シロだ。だとすれば、一番危険なのは……“科研”」
自分で選別をしていった結果、残ったのは宍戸 結希・如月 天の所謂“科研組”だった。軽くネットで調べただけでも科研という場所は、基本的に魔導科学発展のためなら人権は無視すると書かれている。結希さんはどうか知らないがもう一人の如月 天という研究者にはあまり良い思い出が無い。転入初日に喧嘩吹っ掛けられて以来、まともに会話すら交わしていないほどだ。デウスなんとかって機械以外は眼中にないと思っていたが…まさか?
その時、デバイスから呼び出し音が鳴った…相手は遊佐さんだ。これは丁度いいな…。
《やぁ、今大丈夫かい?》
「えぇ…俺も丁度聞きたいことがありましたから。でも、先にどうぞ」
さぁ、ここでボロを出すか…潔白を証明するか。
《そうかい?じゃあ、遠慮なく…来月の頭にまた裏世界へ行くことが決まった。今回接触を試みる相手はパルチザンのリーダー“仲月 さら”だ。生徒会は彼女を説得して今度こそ裏世界の住人をこちらに連れてくる算段らしい…勿論、君も来るだろう?》
パルチザンの…さら!?ミナの次はさらに逢えるのか!それなら行かない手はない。
「当然です。しかし、俺は単独ではクエストが受けられない。どうすれば…」
《それは心配ないよ。そう言うと思って、既に僕と朝比奈くんと仲月くんの名を連ねて申請しておいたよ。あの学園長のことだ、きっと君の名前を見つけたら無条件で承認してくれるだろうさ》
成る程、かなり手際が良いな。だがこれだけでは敵が味方か判別出来ないな…最後に揺さぶりをかけてみるか。
「もし今度の裏世界探索でパルチザンの説得に失敗したら…暫くさら達と一緒に戦おうと思ってます。遊佐さんはどう思いますか?」
さぁ、あんたが白か黒か…答えを聞かせろ!
《…少し、考えさせてもらってもいいかな?なるべく早く決断するつもりだが、これは僕にとっても岐路なんだ。だから…頼む》
「…わかりました、待ちましょう。でも、必ず答えを聞かせて下さい。それでは…」
そこで通話を終えたが、俺の中にはまだ蟠りが存在していた。最後の最後で、何かに迷っていた?管理派なら絶対に許すはずはないが、排除派なら快諾するだろう。しかし、遊佐さんは迷っていた?何か別の目的で動いているのか……分からん、分からんこと尽くめだ。
俺はふと思考を止めて窓にもたれかかり、暗い夜空の中で蒼白に輝く月を眺める。その月は腹立たしいほどに辺り一面を照らしていた。自分の力では輝けないくせにそんなに光を放ってどうするんだ。そんなに照らされたら明るくて眠れないじゃないか。
「…あっ、そうだ。これ、通じるかな…?」
俺はズボンのポケットに入れていたデバイスとは別の通信機器を取り出す。もしこれが本当に使えるなら、時空を超えて大人の心ちゃんと話が出来るはずだ。彼女なら、何か情報を知ってるかもしれない。
そう思い立った俺はすぐに操作し、数コール後に無事に繋がった心ちゃんとの連絡を夜が明けるまで堪能した。
そして、時は流れて約束の日。学園生はパルチザンを説得して表世界に連れて行く、俺はどう転んでもさら達と一緒に戦おう。結局遊佐さんの返答はまだ貰ってないけど、気持ちの整理はある程度ついている。さぁ、行こうか…俺の敵を探しに。
その思いを胸に抱き、俺はゲートをくぐった。
【秘密連絡】
「……あっ、心ちゃ《お兄ちゃん!!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん〜っ!》ちょ、話!話を聞けって!」
《あっ、ごめんなさ〜い…やっとお兄ちゃんとお話しできると思ってはしゃぎ過ぎちゃって、つい…》
「…いいよ、それは俺も同じ気持ちだし。一応確認しておきたいんだけど、君は街で俺と会ったことを憶えてるんだよね?」
《うんっ、勿論だよ!あれから22年も経っちゃったから…ほらっ、心もちゃんと大人の女になったよ!お兄ちゃんと…け、結婚だって出来るし子どもだって産めるんだよ!?》
「ひ、飛躍し過ぎだよ…でも、元気でいてくれて良かった。あれ、あの頃から22年ってことは…ゲートの先の裏世界と同じくらいの年代なのかな?来月の頭に向かうことになってるんだ」
《…へぇ、そうなんだぁ。それはお兄ちゃん一人で?それとも誰かと一緒?》
「学園生の何人かは一緒に行くよ。会わなきゃいけない人達がいるから」
《ふーん…わかった。ごめん、お兄ちゃん…心、ちょっとやること出来ちゃったから、今日はもう…》
「えっ?あ、あぁ…わかった。こっちもいきなりでごめん、今度はもっと時間取れる時にゆっくり話そうな?」
《うん!じゃあまたね!おやすみっ……あっ、そうだ!》
「うぇ?な、何…?」
《…さっきお兄ちゃんに言ったこと、本気だからね?いつかきっと心を迎えに来てね…“旦那さま”。うふふっ…!》
通話時間 5分56秒。