グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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阿川奈城(あがわなじょう)
安土桃山時代に建造された城。現在は阿川奈城跡として観光地となっている。表世界ではオニの姿を模した魔物が出現した事件現場、裏世界ではパルチザンの隠れ家として使われている。


第参拾伍話 再認せよ 魔法使い

「…くっ、いきなりの誤算か!まさか魔物の襲撃に出くわすなんて…」

 

パルチザンに協力求めるため再度裏世界へ渡った私たちだったが、まるで示し合わせたかのように阿川奈城砦の襲撃場面に直面してしまった。突然の出来事に探索に参加した学園生たちが各々にパーティを組んで防衛に務めているが、今回の目的は仲月 さらとパルチザンのリーダーを引き合わせること…つまり“魔物を全て倒す必要はないが、会えなければこちらが追い込まれることになる”ということになる。退路を確保しているロカと到着後すぐに消えた遊佐は除外するとして戦力としては天文部、雪白と雀、仲月と朝比奈、そして“今の状態のJC”か…懸念している原因は、ここは向かう際に交わした会話の内容と学園に戻ってからのJCの態度にあった。

私はJGJの車両に乗った時にJCと交わした会話の内容を思い起こす。

 

〜回想開始〜

 

「……」

 

「…なぁJC、もう体調は大丈夫なのか?」

 

私はあえてJCの隣の席に座り、何気なく話しかける。すると、返ってきたのは以前のような明朗快活な言葉ではなく、妙に冷めたどこか皮肉交じりのような言葉だった。

 

「…駄目ならここにいない。それとも俺がいない方が好都合なことでもあるのか…“結城”?」

 

「っ…!JC、お前…」

 

私は突然突きつけられた現実に恐怖した。向けられたのは明らかな“拒絶”、“敵意”だった。以前のような純真さは消え、他を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているJC…一体何がそこまで変えてしまったというのか?

 

「そう身構えるなよ…少なくとも今はアンタらと敵対するつもりはない。どうせ水無月から聞いてるんだろ?」

 

「あ、あぁ…それは既に聞いているが…」

 

「…ふっ、やっぱりか。それでわざわざ俺のご機嫌とりに来たのか。じゃなければ結城が俺の所に来るわけないもんなぁ?」

 

肘掛に頬杖をついてかったるそうに私を見るJC。確かにそれは聞いた…風紀委員室でまるで宣戦布告とも取れる発言をしたということは。しかし謎なのはそこに至った理由だ…本人にも誰を疑えばいいかまるで分かっていないようだったと聞いているが…今の問答で少なくとも私たちは疑われていると理解した。すると窓際で外の景色を眺めていたロカが隣のJCに絡み始めた。

 

「うわぁーっ!ねぇねぇ兄さん!車から観る景色すごいよぉ〜!ほら、こっちで見てみなよ〜!」

 

「お、おいっ…引っ張るなって…おわっ!?」

 

「へっ?うわぁ!?もぉ…兄さんってば大胆だなぁ〜」

 

ロカが嫌がるJCの腕を引っ張って窓際に引き寄せるが、勢いあまって何故かロカの胸に顔を埋めてしまうJC。というより今のはロカの自業自得なのでは?

 

「ーーっ!!ーーーっ!?(テ、テメー!!くっ、またこれか…い、息が出来ねぇ…ち、窒息する…!?)」

 

「に、兄さん暴れないよぅ〜!擦れて…変な感じ…!?」

 

むっ…な、何だ何だ!胸なんかただの脂肪のかたまりじゃないか!ロカの胸なんぞハッキリ言ってデカすぎる!私のような手に収まるサイズが一番丁度いいに決まっている……JCも、大きいほうが好みなんだろうか?

 

〜回想終了〜

 

「解せぬっ!!」

 

「うぉ!?な、何だよいきなりでけー声出しやがって…」

 

「うぅ〜、びっくりしましたぁ…」

 

「す、すまん…取り乱してしまった」

 

私はふと我に返って、同行している朝比奈と仲月に謝罪する。いかん、私が奴に振り回されてどうする。

すると、背後から仲月が話しかけてきた。

 

「大丈夫ですよぉ。わたしも早くおっきくならないかなぁって、毎日牛乳を2ℓ飲んで運動も欠かさずに夜は8時にはおねむなんですよぉ!だからせなさんも一緒におっきくなりましょ〜ね!」

 

そう言って、私に笑いかけてくる仲月…ん?今、何て言った?

 

「…おい、仲月。一体何の話をしている?」

 

「はい?えっとぉ…“JCさんはおっきなお胸の女の人が好き”ってお話ですよねぇ?せなさんもちっちゃいってお悩みのようだったので、一緒にがんばりましょ〜!って思ったんですけどぉ「…れろ」え?今何て言いましたぁ?」

 

「全て忘れろォオオオオ!今すぐにィイイッ!!」

 

私は仲月の両肩をガシッと掴んで、ぶんぶんぶんぶん振り回す。仲月は目をグルグル回しながら小さな悲鳴をあげる。

 

「うわぁ、わわっ…どうしたんですかせなさん〜!?そんなに揺らしたら目が、ぐるぐる回りますぅ〜!た、たつきさ〜ん!?」

 

「お、お前らこの状況で何ふざけてんだよ!?」

 

仲月に助けを求められた朝比奈が慌てて止めに入ったことで引き剥がされ、その場は無事に収まった。くっ、まだ記憶の消去が済んでないというのに…!

 

「ったく、さらはともかく結城…お前まで一緒になってどうすんだよ?」

 

「うぅ…す、すまん。今日は特に調子が良くないみたいだ…」

 

「…ま、こんだけ中がシラけてっと気ィ抜けんのも分かるけどな。外の状況、聞いてるか?」

 

む?外というのは阿川奈城砦の外のことだな。学園生からは特に緊急性の高い連絡は入ってなかったはずだが?

 

「もしかして、みんなが大変なことになってるんですかぁ?」

 

「…いや、その逆だとよ。JCの野郎が魔物を根こそぎ狩ってやがるんだと。この感じだとアイツ一人で城の周りの魔物、全滅させちまうんじゃねーかって勢いらしいぜ?」

 

「ほわぁ〜、そうなんですねぇ!JCさん、すごいですぅ〜!」

 

「あぁ、全くだよ。本当、アイツがバケモンみたいに強くて助かったぜ「朝比奈!それ以上はよせ!!」…っ!?」

 

私の絶叫にその場が凍る。だが、たとえ何気ない言葉であろうと私はそれを認めるわけにはいかないのだ!

 

「大声で叫んでしまったのは謝る。だが、JCを貶すような言葉は使わないでやってほしい…頼む」

 

「べ、別にそうつもりじゃ…わ〜ったよ、ったく…いつも偉そうなアンタにそんな下手に出られると調子狂うぜ…」

 

私が頼むと、どういうわけかやけに素直に応じる朝比奈。正直、もっと馬鹿にされるとばかり思っていたが…朝比奈も丸くなったということなのか?一時は目も当てられないほどの素行不良な生徒だと思っていたが、こうも成長するとは…きっとJCの心も変えられるはずだ。その為なら私は出来ることを一つずつこなしていこう。そうすればいつかきっとまたJCと笑いあえる日が来るはず…そうだろう、JC?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……くっ、これでこの一帯は殲滅した、のか?」

 

最後の魔物を渾身の力で繰り出した拳で打ち倒し、肩で息をしながらもその眼前に広がる魔物がいた痕跡を見据える。魔物の物量は北海道の時よりも少ないが、霧が濃縮されている分個体ごとの強さが段違いだった。しかしそれを差し引きしたとしても新たに会得した“紫の力”は強力なものだった。我妻 梅の分析によれば俺の目の変化は力の均衡を分解し再構成したものらしいが、その理論によれば赤は攻防バランスのとれた形態、青はスピードに長けている分攻撃力に欠ける、緑は攻撃力とスピードを欠いた分全身の感覚が一気に鋭くなる。そして今回の紫はスピードを捨てた分だけ攻撃と防御が赤以上に跳ね上がった。どうやって知ったんだかはわからないが…我妻 梅、侮れない奴だ。

 

「やぁ、JCくん。うわぁ…相変わらずの強さだねぇ」

 

背後に降り立ったのはゲートを通過して以降、行方をくらませていた遊佐 鳴子だった。一体今までどこにいたというんだ?

 

「ん、別ルートで探し物をね。それに魔物だけなら君一人いれば殲滅させられると信じてたから」

 

こいつ…勝手に俺の心を読んで会話するんじゃねぇ。会話のつじつま合っててびびっただろうが。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。君ほど分かりやすい性格もないんだけどなぁ…急に悪ぶってるのは学園生を余計な争いごとに巻き込みたくない裏返しってこともね」

 

なっ!こ、こいつ…もう何も考えないぞ。俺はただの石、無の境地だ。

 

「ふふっ、じゃあ勝手に喋らせてもらうよ?ついさっき敵の中に“彼女”を見つけた…君もこの間の学園街襲撃事件は憶えてるだろう?あの時襲撃者たちを裏で操っていた者が裏世界をここまで追い込んだ電脳世界を統べる魔法使いだ」

 

「…双美、心か」

 

俺が唐突にその名を口にすると、遊佐 鳴子は初めて驚きを隠せないような表情を浮かべた。

 

「…驚いたな、僕が確証を得たのも数分前だってのに。なら話は早い…彼女は次は本気攻めてくるはずだよ。それこそ魔物なんて不確かな物は使わずにJGJという兵隊を率いて総攻撃を仕掛けてくるだろう」

 

遊佐 鳴子の言葉から察するに敵の中心には魔法使いに覚醒した双美 心がいて、今もこの阿川名城砦襲撃の手引きをしているのが彼女だと確信しているのだろう。だが、それだけでは俺の信条は揺るがない。

 

「…俺は、心ちゃんを信じたい。確かに襲撃と同じ日に表世界に来るなんて明らかにおかしいだろ。恐らく向こうにもゲートと同じような移動技術があるんだろうし、それを知る立場にもあるってことだろうさ……でも、あの頃の心ちゃんと全く同じだった。22年も経ってたのに、あの時と変わらない明るくて強気で…でもやっぱり女の子らしい心ちゃんのままだった。勿論、さら達を見捨てるなんてことは絶対にしない…だけど」

 

俺が言葉に詰まってしまうと、不意に遊佐 鳴子は俺に歩み寄りどこか優しげな表情で寄り添ってきた。急に感じた人一人分の重さに戸惑いながらも、今も微かにドギマギしつつ真正面で受け止めた遊佐 鳴子の言葉を静かに聞いた。

 

「君は…いつも過酷な道ばかり選ぶんだねぇ。多くを欲するってことは多くを喪うことと同義なんだよ?彼女たちを救う代償に君は自分自身を差し出すつもりなんだね…って、君自身にはそんな認識はないのか。参ったな…よしっ!」

 

遊佐 鳴子は俺の体から急に離れ、鞄の中から徐に取り出した物を俺に差し出した。これは…拳銃!?

 

「これは僕と…裏世界の僕からの餞別だよ。残念ながら彼女はこれで自殺してしまったっていう曰く付きの品で申し訳ないけど、彼女の遺志を尊重してやってほしいな。それにこれは君の武器になるんだよ?」

 

「…これでバンバン撃てってのか?一発も弾入ってねぇじゃんかよ。こんなんじゃ威嚇にもならんて…」

 

落胆する俺に対して妙に自信ありげな表情を見せる遊佐 鳴子だった。何か考えがあってのことなんだろうな…?

 

「我妻 梅との特訓のことは既に聞いているよ。だが僕に言わせればまだまだ分析不足かな?裏の僕はその先まで調べていたよ…そう“君の能力ごとに手に取った物質を武器に変化させること”がね。それは緑専用の銃だよ」

 

何だと?俺にそんな力があるってのか…信じられん。

 

「だが拳銃なんて物騒な物、俺に渡していいのか?俺は学園を離れて…アンタらと戦うことになるかもしれないんだぞ?」

 

俺は敢えて警告するように言葉にする。すると、俺の予感とは裏腹に遊佐 鳴子は優しくはにかんで断言した。

 

「それは、ないだろうな。君は君が思ってる以上に情の深い男だよ…少なくとも、僕はそう確信してるよ?」

 

「…学園一の嘘つき野郎に褒められたって、信用できねぇっての」

 

俺は妙に気恥ずかしくなって顔を逸らした。それを見た遊佐 鳴子はクスクスと笑いながら何処かへ行ってしまった……くっ、またしてやられた。

俺は手渡された拳銃を眺めて、ふとその想いを馳せる。

 

「裏の遊佐さんが俺に…か。あの時アンタを救えなかったことが悔しくてやりきれなかった…でも今はもう違う。アンタが与えてくれた力で、俺の信じるもの全部を守ってやる!だから、俺に抗う勇気を与えてくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

「さら…大丈夫?まだ気分が優れないのなら、私が向こうの学園生と話すけど」

 

ミナが私の体調を気遣って心配の言葉を投げかける。リーダーの私がこんなんじゃ駄目だよね。駄目なのは分かってるんだけど…。

 

「…ありがとう、ミナ。でも私が行かなきゃ…パルチザンのみんなは私が…くっ!」

 

私は奮起して休めていた体を起こして歩き出す。しかし、すぐに足がもつれて倒れそうになるところをミナに支えられて、何とか持ちこたえる。

 

「ほら、また無理するつもりなんでしょ?やっぱり私が行くから、さらはちゃんと休んでて」

 

ミナがお母さんみたいな強くも優しい表情で屈んで諭す。うぅ…一つしか変わらないのにぃ。屈んだ時にぷるんっと揺れたミナの大きめな胸が恨めしい〜!わ、私だって恋よりはあるもん!ちっちゃくないもん!

 

「…そうだ、一番大事なこと伝え忘れてた。さっき向こうの私に聞いたんだけど…“JCくん、一緒に来てるみたいだよ”」

 

「!?」

 

え、ミナ…今なんて言った?JCくん、ここに来てるの?魔物の襲撃を受けているこの最中で?何でこのタイミングで!?

 

「何で早く知らせてくれなかったの!?JCくんにまで危険が及ぶかもしれないじゃない!こうしちゃいられないわ!」

 

私は慌てて飛び起きると、すぐに隠し部屋から飛び出していく。そして、城の外に出た瞬間に異様な光景を目の当たりにした。

 

「こ、これは…?」

 

「ち、ちょっと待って!もう大丈夫だから…はぁ、はぁ…」

 

少し遅れて追いかけてきたミナが何か言いかけたみたいだったので、状況が飲み込めていない私は改めてその続きを聞いた。

 

「ミナ、これはどういうことなの?あれだけ大量にいた魔物は一体何処へ…?」

 

私の問いかけにミナは息を整えながら答える。それは耳を疑うものだった。

 

「私も直接見たわけじゃないんだけどね…JCくんがほとんど一人で倒したんだって向こうの学園生たちが話してるのを聞いたのよ。あれから生きて、そして前よりも強くなって帰ってきてくれたんだよ…!」

 

ミナは目を潤ませて涙声になりながら、JCくんの無事を心から喜んでいた。以前、偶然とはいえ一度彼と再会したことは聞いていたけど、その後突如として行方不明になってしまって…ミナは一時期かなり塞ぎ込んでしまったけど、何とかまた立ち上がってくれた。そのミナがJCくんの帰りを確認したというのなら、それは真実だし…私にとっても最愛の想い人にまた会えるというこれ以上ない幸せを噛み締め始めていた。

 

「行きましょう…きっとJCくんも私たちと早く逢いたいはずだよ!」

 

ミナが私の手を取り、引っ張っていく。その姿はまるでこれから何か楽しいことがあって待ちきれない様子のはしゃぐ子どものようだった。それに対して、私は自分でも驚くほどに冷静だった…たしかに彼とはまた会いたいと思っていた。でも、それは彼に対してパルチザンが抱いている誤解を全て解いて何の蟠りも無い状態での再会を望んでいたからだ。私は、まだその役目を果たしていない…当然説得は試みたけど、彼がどんなに真っ直ぐで正しくて頼れる存在かを説いても…誰も納得させられなかった。そんな私が…一人でJCくんとの再会を喜んで良いの?彼は強くなるという約束を果たして帰ってきてくれた。それなのに私はまだ何も出来ていない。それで胸を張って堂々と彼に“おかえりなさい”と言えるの?

 

「…そう、まだ駄目よね。私がみんなを説得して、本当の意味でJCくんを迎え入れる準備が整うまでは…」

 

私は自分の弱さを受け入れ、再度強く誓う。ここで腑抜けてちゃ駄目だ、私がやらなければならない使命を果たすまでは彼の優しさに甘えてはいけない。パルチザンのリーダー“仲月 さら”の意地とプライドにかけて貫き通すわ。そして、それが叶ったその時は…今まで我慢した分だけ、彼に甘えよう。きっと子どもみたいに大声で泣いてしまうかもしれない、彼に優しく抱きしめてほしいと我儘を言うかもしれない。でもそれが私の正直な気持ちなら、私は包み隠さずに伝えよう。そう、それがJCくんと私の誓いなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!!はぁ、はぁ…ま、不味いな…もう近くまで来てるのか…」

 

俺は遊佐 鳴子の言葉が気掛かりで緑の力を使って気配を探っていた。すると、その言葉通りに武装した人間の集団が近づいてきていることが判明した。予感っていうのは悪い時に限って当たりやがる…!

 

「…JCく〜ん!!」

 

危機感に駆られていると、阿川奈城砦の中からパルチザンとして防衛に務めていたであろうミナが近くに降り立った。と思ったら、視認するより早く俺に抱きついてきた。

 

「…おい、どうして俺の近くにいる女は揃いも揃って許可なく抱きついてくる?」

 

「あっ…ご、ごめんなさい」

 

俺が半ば嫌味ったらしく問いかけると、我に返ったミナが少し寂しそうに離れてしゅん…としてしまった。そのことに何故か俺の方が罪悪感を覚えてしまった…しゃーなしだな。

 

「…今は、これで勘弁な」

 

「へ…?うわっ!?」

 

俺は見るからに落ち込んでいるミナの頭に手を乗せて、少し乱暴に撫で回す。俺よりも歳上のくせに止めろと注意しないなんて…撫でられている間は“あぅあぅ”言いながらやられっぱなしのミナ。けれども、その表情は困惑しながらも何処か嬉しそうなミナ…こんなことしかしてやらなくて、ごめんな。

 

 

 

 

 

「もぉ!いきなり何するのよっ!」

 

あれから4〜5分続けて漸く撫でるのを止めると、この台詞を思い出したかのように吐いたミナ。いきなりやった俺も悪いと思うけど、でもそれを受け入れたミナも同罪だと思う。というか、いつのまにかミナの顔つきがかなり穏やかになってる気がした。俺がいなくなった後に何かあったのか?

 

「それよりも早く逃げるぞ。JGJの大群が攻めてくる…!」

 

「何ですって!?やっぱりそうなのね…」

 

ミナは驚きつつも何処か冷静だった。どういうことだ?まさか予感していたのか…?

 

「そっちの学園生たちが教えてくれたの…“近く、パルチザンは壊滅して人類の敗北は決定的なものになる”ってね。最初は信じられなかったけど、この攻め様を見て確信したわ……恐らく、今日がその日なんだってね」

 

「な、何だって…!?それは…いや、でも…そ、そうだ!さらにはこの事は!?」

 

俺は動揺したまま慌ててミナに問いかける。すると、ミナは安心させるように不安の一切を切り捨てた。

 

「大丈夫、勿論さらにも伝えたよ。教えてくれたおかげで私たちは全滅を免れて、双美 心の魔法にも対抗できる…だから心配ないよ」

 

「そうか……なぁ、ミナ。さらと恋に会えるか?」

 

俺がそう聞くと、ミナは何か悩んだ様子で一瞬躊躇ったが、次第にその口を開いた。

 

「…そう、だね。恋は別の場所で戦ってるからここには居ないんだけど、さらの所にはすぐに案内できるよ…行く?」

 

俺はミナの提案に黙って従うことにした。案内されている道中、恋からの伝言で“お主にその気があるならいつでも抜いてやるから遠慮せずに申すがよい。わっちが近くに居らん時はさらとかミナに頼めば嬉々として受け入れてくれるじゃろ。なっはっは〜!”と言っていたが、今はよくわからん。ミナに聞いても“わ、私からはちょっと…”の一点張りで全く埒があかない。何だってんだ、一体……後でさらにも聞いてみるかと独り言を呟いていたら、全力でミナに止められた。何故だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちは暫く身を隠すわ。バラバラに逃げてお互いの居場所を知らないまま、双美 心を倒す方法を探さないといけないものね」

 

「どうしてですかぁ!わたしたちの学園に来たほうが安全ですよぉ!」

 

学園生時代の私が涙を浮かべながら懇願してくる。でも、それを聞き入れることは出来ないの。意地っ張りだと言われても仕方ないかな?

 

「ううん、それは駄目。パルチザンだけが魔物と戦える存在なのに、その私たちがそっちに行ってしまったら…今度こそこの世界は魔物に屈してしまうもの。それだけは、絶対にさせないから…」

 

「そ、そんなぁ…」

 

感情の制御が効かなくなったのか遂に涙を流し始める過去の私。辛いのはわかるわ…全く、そんな顔されたら無下に断れないじゃない。

私は過去の私の目線の高さに屈んで、そっとその頭に手を置いて優しく励ますように言葉を投げかけた。

 

「じゃあ、こうしましょう?この件が片付いたら…その時また返事をさせてもらうわ。だから、それまでは私たちが負けないって信じて。いいわね?」

 

「はい、ですぅ…!」

 

「よしっ、じゃあこのことをあなた達の仲間に伝えてあげて。もうすぐ第ニ波が来るわ…それも魔物と霧の守り手と化したJGJが手を組んでね。私たちが時間を稼ぐから、あなた達は早く元の世界に戻りなさい」

 

私の励ましの言葉を受けて、過去の私はパタパタと仲間の元へ走って行った。やっぱり、私なんかより強いな…同じ頃の私はとにかく先輩に追いつこうって必死で気持ちに余裕なんかなかったもんね。そういう強さを持っていることが私とは違う歴史を歩んでるってことなのかな?

 

「もしその強さが私にもあれば、JCくんのことを「俺がどうしたんだ?」へっ?うわぁああ!?じ、じぇじぇJCくん!?」

 

いつのまにか私の背後にヌッと歩み寄っていたJCくんに驚いて腰を抜かしてしまった。もう!いるなら声かけてよ!すると、尻餅ついた私の手を取って立たせてくれたJCくん…もぅ、そういうところはズルいんだからなぁ。

 

「ほら、掴まれって…あっ、後ろ土で汚れてるぞ?」

 

「んぇ…?にゃ!?」

 

すると、突然私のお尻の部分に付いた土汚れをはたいて取ろうとするJCくん。だ、駄目だって!まだ私達、そんな関係じゃない…ひゃん!?あぅ!そ、そんなに強く叩いたら…き、気持ち良くなっちゃう〜!?

 

「…さら。いつまでそうしてるつもり?」

 

「えぇ〜……はっ!ミ、ミナ?」

 

私は浮かれていた気持ちのまま声のする方に視線を向けると、そこにあったのはミナの若干の不機嫌顔と私のお尻に手を添えているミナの手。近くにJCくんの姿は無く、少し離れたところでデバイスで連絡をとっていた。あ、あれぇ〜?

 

「願望があなたに幻を見せていたようね…これは私の手よ!」

 

「な、何ですってェ〜!?」

 

「…おい、お前ら何巫山戯合ってる?」

 

ぶぅ〜、ミナの所為でJCくんに怒られちゃったじゃん!ってそうじゃなかった!

 

「JCくんJCくんJCく〜ん!!くんかくんかくんかくんか…」

 

「ミナ、これは…」

 

「…えぇ、ギルティね」

 

私が久方ぶりのJCくんの感触を確かめていると、何やら良からぬ笑みを浮かべているミナとJCくんが私に近づいてきた。えっ…な、何かな?

 

「ど、どうして二人とも近づいてくるのかな?」

 

『………』

 

「何で黙っちゃうの!?」

 

困惑する私を他所に、無言で両手をわきわきさせるミナと渋々それに合わせているJCくん。えっ、私何されるの?

 

「悪い子にはお仕置きだよ。私も受けたんだから、さらもちゃんと受けなきゃ駄目だよ?」

 

…えっ、いやいやちょっと待ってって。ミナ、何でそんなに嬉々としてるの?まさかJCくんも…?

 

「悪いな。だが、こうでもしないと分かってもらえないってミナがな…」

 

やっ、そんなの…駄目だって!そんなことされたら、私…。

 

「こ、壊れちゃうから〜っ!!」

 

 

 

 

 

〜2分後〜

 

「はぁ、はぁ、はぁ……も、もうお嫁に行けない…JCくんの鬼畜〜!変態〜!ケダモノ〜……でも好きぃ…」

 

「酷い言われようだな…」

 

「くすぐっただけじゃないの…それよりも、最後の一言は聞き逃せないんだけど?」

 

地面にぐったりした私を見て呆れるJCくんと追い討ちかけるように顔の前で睨みつけてくるミナ。どれもこれもJCくんがいけないんだよ!ミナの真似してくすぐってくるけど、恥ずかしがってなのかお腹とか頬っぺしかやってきてくれなかったし……JCくんになら胸とかお尻とか唇とか触られても、別に気にしないのになぁ…鈍いんだからぁ。

 

「それよりも…さっきのさらちゃんとの会話、聞いたぞ。こっちに残るって…本気なのか?」

 

JCくんが語気を強めて問いかけてくる。多分、その考えは間違ってるよって言いたいんだよね…わかってるよ、これは私の我儘だってことくらい。でも、これだけは絶対譲れないの。

 

「えぇ、パルチザンがあなた達と一緒に世界を渡ってしまったら、こっちで魔物と戦える人間が居なくなってしまうもの。それに敵は魔物や霧の守り手だけじゃない」

 

「…“スレイヤー”か?」

 

本当に驚かされるな…やっぱりJCくんは私の考えを理解してくれるんだ。

 

「うん、そうだよ。もしかしたら一番厄介かもしれない相手…パルチザンは勿論、そっちの魔法使いが束になっても勝てないかもしれない存在。私達がそっちに行った瞬間、最悪の場合その脅威も一緒に連れて来ることになるわ。そしたら、それはもう人類の敗北は決定的なものになってしまう」

 

「だからって…ならこっちに残っても勝算があるんだろうな?思いつきやただの意地だってんなら承知しねぇぞ」

 

JCくんの言葉に一瞬返答に詰まってしまった。まさか、そこまで読み切っていたなんて…何でもお見通しなんだな。

 

「大丈夫だよ、ちゃんと策はあるの。そっちの遊佐先輩や東雲さん…あっ、今は朱鷺坂さんだったね…二人からの情報で人類がどうやったら勝てるかを考えたの。まずは人類を一つにまとめないといけない…敵対勢力の大部分を占めるJGJを味方に引き入れて、霧の守り手を壊滅させて魔物に専念すること。これにはそっちの学園生の協力が必要だから、しっかりと準備しなきゃね」

 

「なるほどね…JGJってことはJCくんの世界にいる神宮寺の協力が不可欠ってことね。こっちではJGJの元の幹部は殆ど殺されてしまっているものね…」

 

「そう、だったのか…確か遊佐 鳴子が前に言っていたな。JGJの幹部連中が次々に暗殺されて、そこに霧の守り手達が居座ったことでJGJ自体が一気に共生派に傾いたことが人類敗北の原因の一端を担ったって。スレイヤーの方はどう対処するつもりなんだ?」

 

私は苦虫を噛み潰したような苦しい表情を浮かべ、どうにも変えられない事実を知らせた。

 

「…正直なところ、今の私たちに太刀打ちできる力も策も無いわ。魔法の一切が通用しない相手に対抗するには、方法は一つしかないんだけど…」

 

私がそこまで言ったところで、JCくんがふとその答えを代弁してくれた。

 

「…俺か」

 

「うん…スレイヤーと同一の魔法耐性を持っているJCくんなら、奴らと対等に渡り合えると思うの。ただそれは、JCくん一人に過酷な戦いを押し付けてしまうことになる。本当はこんなことにJCくんを巻き込みたくない…巻き込みたくないのに…」

 

私は堪えきれず言葉の途中で泣き出してしまう。私の言っていることは、以前のようにJCくん一人を矢面に立たせて私たちの代わりに傷ついてもらうことと同義なんだ。それも魔物なんかとは比べ物にならないほど協力なスレイヤー達を相手に…戦いで傷を負うだけでは済まない、もしかしたら今度こそ命に関わるようなことになるかもしれないのに、私が代わりに行くと言い切れない弱さが憎い。

 

「さら…ごめんなさい。私に、もっと力があれば…!」

 

ミナが慰めるように私の身体を優しく抱きしめる。それはあったかくて心地いい、ミナの優しさそのものだった。決してミナが悪いわけじゃない、それなのにまるで自分のことのように詫びるミナ…違うよ、本当に謝らなきゃいけないのはみんなをしっかりと導いて、JCくん一人に責任を負わせないようにしなきゃいけなかった私のほうだ。

すると、その様子を見ていたJCくんが少し考え込んだ後、静かに口を開いた。

 

「……さら、こういう時はちゃんと言わなきゃいけねぇことがあるんじゃねぇのか?」

 

「えっ…そ、それは…」

 

私は思わず困惑してしまった。何か言い忘れていたことがあったかな?

 

「俺に一言、“お願いします”…ただそれだけで俺はさらの頼みを何でも聞いてやる。迷惑掛けたくねぇって考えてんなら、それは大間違いだぞ。仲間が困ってるのに見て見ぬ振りなんか出来るかよ…それが“友達”ってもんだろ」

 

JCくんの言葉に、私は思考の一切が止まった。そっか…変に考え過ぎて、一番大切なことを忘れてたんだ。何でこんな簡単な一言が言えなかったんだろう…?

 

「でも、JCくん…これはあなたが考えてる以上に壮絶な戦いなのよ?敵はスレイヤーだけじゃない、魔物や霧の守り手…それにまだあなたのことを良く思わない人類だって少なくないわ。それでもやるつもりなの?」

 

ミナが改めて現状の厳しさを敢えて言葉で表す。こちらでは人類を攻撃したスレイヤーの一人とJCくんは同一人物とされている事実がある。その事実を放置したまま戦闘を行えば、その汚名をJCくん自身に着せられるかもしれないからだ。でも、JCくんはそんなことは御構い無しという風に拳を鳴らして強気な姿勢を示した。

 

「そろそろ暴れたいって身体が疼いてた頃なんだぜ。それに今の俺は一端の不良生徒…嫌われるのには慣れてるさ。元来、俺にいい子ちゃんは務まらないらしいからな。俺一人いなくなったって、向こうは何も変わりはしないさ…だから、いくらでもやれるぜ?」

 

そう言いながらも少し哀しそうな表情を浮かべるJCくん。JCくんが…不良?なんか想像出来ないなぁ。もしかして、かなり無理してるのかな…って、そうじゃなかった。

 

「あっ、違うの…そうじゃなくて、JCくんには私たちの準備が整うまで向こうの世界に戻ってほしいの。今のままだとパルチザンのみんながJCくんを敵と認識してしまう…だから私がその誤解を解いて、みんなの気持ちを一つにしないと…」

 

「…そうか。なら、俺はもっと強くなる。次に会う時までに、誰にも負けないくらいに…それでいいんだな?」

 

JCくんが確かめるように聞いてくる。私は全ての迷いを断ち切るような強い眼差しで…そして優しく微笑んで答えた。

 

「…うん、それが“私たちの約束”!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元の世界に戻ってきた俺は、コロシアムでただひたすらに鍛錬に明け暮れた。ただ強く、より強く、更に強くなる為に…。

何時間か経った頃だっただろうか…規定回数以上のトレーニングに集中していると、不意に背後から声を掛けられた。

 

「“おーばーわーく”は怪我の元なんですよぉ。だからちゃ〜んと休んで下さい…ねっ?」

 

振り返ると、そこにはスポーツドリンクとタオルを持った仲月 さらの姿があった。こいつ…今何時だと思ってるんだ?

 

「閉校時間とっくに過ぎてるのにJCさんがコロシアムの鍵返しに来ない〜って、紗妃さんが怒ってましたよぉ?それでどうしてかわたしが取りに行くことになっちゃいましてぇ…それで、どうします?もう少し続けるなら待ってますよぉ?」

 

「……いい、もう終わりにする。それ、貰ってもいいか?」

 

「あ、はい…どうぞっ」

 

俺は備え付けのベンチに腰掛け、仲月 さらから受け取ったスポーツドリンクで喉の渇きを潤す。その最中、仲月 さらはというと俺が拳で打ち砕いていった鉄屑に目を向けていた。

 

「はぇ〜…こんなふうにトレーニングしてるんですねぇ。うぅ…てやっ!えいっ!やぁ!こんな感じですかぁ?」

 

俺の見よう見真似で身体の前で拳を繰り出したり、足を上げて蹴りの真似をする仲月 さらだったが、それはお世辞にも威力のあるものではなかった。どうしてそこまで俺に構うんだ…?

 

「…俺に何か用か?ただそれを言いに来るだけなんて普通、断るだろう」

 

俺がそう聞くと、仲月 さらは手に取っていた鉄屑を地面に置いて、そのまま俺の隣に座って話し始めた。

 

「裏世界のわたしとお話ししましたですぅ。JCさんにはものすごくお世話になったって…初めは少し怖いなって思いましたけど、リーダーとしてみんなを引っ張るためだって教えてもらったら…ちょっとカッコよく見えましたぁ」

 

パルチザンのリーダーとして振舞っていた時のさらは、確かに大人びた感じで指示を出していたり前線で戦ってたりと、はたから見たら少し怖そうと感じるかもしれないな。まぁ、その後かなりの確率で抜けてる行動とるけど。着替え忘れたまま風呂入りに行ったり、何にもないところで転んでスカート捲れてパンツ丸見えになってたり…懐かしや。

 

「みんなが言うんです…“表のわたし達と裏のわたし達は同じ人間だけど、違う歴史を歩んできたからある意味別人だ”って。でも、わたし思うんですぅ…もし別人だったとしても同じ人を好きになったら、やっぱりそれは同じわたしだと思うんですよぉ!」

 

「…はぁ?誰が誰を好きだって?」

 

「わたしですよぅ!向こうのわたしもJCさんのこと、大好きって言ってましたっ!それに…うむっ!?」

 

なんかのっぴきならない事を口走りそうになっていたので、無理矢理その口を塞ぐように手で掴む。そのせいで口が突き出るような形になってしまっているが、このお子さまには言って聞かないなら実力で分からせるより他ない。

 

「…ガキのくせに、何一丁前なこと言ってんだよ。男見る目、ねぇんだな」

 

すると、手の中で急にもがき出す仲月 さら…あっ、離れやがった。

 

「…ぷはぁ!そ、そんなことないですぅ!わたし、JCさんがとっても優しい人だって知ってますもん!JCさんが授業抜け出して学園で飼ってるうさぎさんに会いに行ってたり、お散歩してたり、抱っこしてたりして「ダァァアア!?な、何で知ってやがるそんなことぉ!?」きぎょーひみつですっ…ふふっ」

 

俺の弱みを握ったことがよほど嬉しかったのか、悪戯っぽい笑みを見せる仲月 さら。それに対して冷や汗が止まらなくなってきたので、タオルで拭うが一向に収まる気配がない。くっそォ…辞めだ辞めだ!

俺はスポーツドリンクを一気に飲み干して立ち上がるとその場から離れるように歩き出す。が、その後ろを追いかけてくる影、一人有り。

 

「あぁ!待ってくださいよぉ〜…プギャ!?」

 

言葉通りに歩みを止めたら、仲月 さらは止まりきれず俺にぶつかって尻餅をつく。止まれというから従ったのに…だが、丁度いい。

 

「俺はこの鍵返してから寮に戻る。お前も早く帰るんだな」

 

俺は気にも留めず、さっさと走り出す。あんなのに付きまとわれたら面倒この上ないこと間違いなしだ。氷川 紗妃にどやされることは避けられないとして、余計な揉め事に巻き込まれるなんてごめんだ。俺は一刻も早く強くならなければならないのに、寄り道してる暇なんかないんだ。

俺はすぐに面倒ごと(4〜5分説教されたが、夜遅くに男女が密会していると報道部にあらぬ記事を書かれることを恐れた為に早く済んだ)を片付けてすぐに寮へ帰るために校門を走り抜けようとすると、門の陰から不意に視線を感じた。そこには何故かまた奴の姿が…。

 

「すぅ…すぅ……はっ!ね、寝てませんよぉ!JCさんが帰ってくるのを待ってたら、つい眠くなってたなんてことありませんよぉ……むにゃ」

 

「……寝言か?ってか、何で先に帰ってないんだよ…「JCさん?そこで何をしているのですか?」ん?氷川か…いや、こいつがな…」

 

どうしようか考えていると、風紀委員の業務を終えた氷川が遅れてやって来た。危うく騒がれるところだったが、視線で訴えると状況を把握してくれたのか特に喚くことなく率先して仲月 さらを背負った…俺に鞄持ちを押し付けて。

 

「おい…何で俺が荷物持ちなんぞせにゃならん?」

 

「仕方ないでしょう、仲月さんを背負っているおかげで両手がふさがっているのですから。女子寮の前までで結構ですよ」

 

「なら、俺がそいつを背負うからお前が荷物持てよ」

 

「…まさかあなた、寝ている女性に触れたいなどと邪な考えを抱いてはいませんよね?」

 

冗談キツイぜ、全く。何で俺がガキンチョなんぞに興奮しなきゃならんのだ。少しは常識って奴をだな…。

 

「うーん…わたし、絶対美人さんになりますぅ…背も伸びて、胸も大きくなってぇ、そしたら、JCさんの…お嫁さんにぃ…ぐぅ…」

 

仲月 さらの寝言…発言の真偽は問わず、氷川紗妃の取り締まりスイッチを入れるのには充分すぎた。

俺は理解するより早く、全身の持てる力の全てを出し切って光になった。くっそ…何だよ、何なんだよ今日!厄日かよ!?

 

「待ちなさ〜いっ!!今日という今日はしっかりと説明してもらいますよ〜!!」

 

畜生…この感覚、久しぶりでめちゃくちゃ楽しいじゃねぇか。

 




【表と裏 仲月 さら編】

「そう…あなたが過去の私なのね。あの頃の私って、こんなに小さかったんだ。みんなが可愛がってくれた訳が何となくわかる気がするわ」

「あぅ…でもわたし、もっと大きくなりたいんですぅ!だから毎日運動もして、牛乳も飲んで、夜も早く寝てますですぅ。でも、全然成長しませんですよぉ…」

「そうね…あなたくらいの歳の頃は魔物と戦ってばかりだったから、かなり不規則な生活してたものね。なのにどうしてミナの身体つきは恵まれて、私は歳相応なのかしら…腹立たしいわぁ」

「何でですかぁ?」

「何でって、そりゃあ当然…す、好きな人の、為っていうか…その…あぅ…」

「はわぁ〜…お顔が真っ赤ですぅ!さらさんには好きな人がいるんですかぁ?」

「…うん、すっごく大好きな人。真っ直ぐで裏表がなくて少し意地悪なところもあるけど、でもいつも私たちのために頑張ってくれる…そんな素敵な男の子」

「JCさんのことですよねぇ?」

「にゃ、にゃにゃにゃにをいいい言ってるのかかかしららら!?」

「にゃにゃにゃ?猫さんですかぁ?」

「うぅー…そうよ、JCくんのこと。改めて言われると、すっごく恥ずかしいわね…」

「大丈夫ですぅ!わたしもJCさんのことは大好きですからぁ!シローも大好きですよねぇ?」

「ウゥ〜、ワンワンッ!グルルッ…」

「ほら、シローも大好きって言ってますですぅ!」

「…いや、明らかに怒ってるように見えるんだけど」

「じゃあ、やっぱりさらさんの夢は“JCさんのお嫁さん”ですかぁ?」

「へっ?お、お嫁さん…わ、私がJCくんの!?一緒のお家に住んで一緒にご飯を食べて一緒にお風呂に入って一緒の布団で寝たりするあのお嫁さん!?たまに台所に立って一緒に料理したり味見で食べさせ合いっこしたり、お背中流しますってJCくんのたくましい背中をこの手で…その後私の身体も優しく洗ってもらって、その後はいい雰囲気のまま同じベッドでお互いの愛を確かめるように求めあって……はぁ、はぁ…!」

「さ、さらさん?ど、どうしたんですかぁ…?」

「元気な男の子とお淑やかな女の子の二人の子宝に恵まれて、JCくんは当然良いパパになって私もそれを支える母親になるの!そして二人の我が子が寝静まった頃、どちらからともなく囁くの…“そろそろ三人目が欲しくないか?”って。そしたらそこからまた燃え上がる激しい愛の炎が!ふふふふふふふっ、あっはははははっ!!」

「シ、シロー…さらさんが怖いですぅ…!?」

「クーン…」


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