グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【知られたくない】

「はぁ…」

「千佳ちゃん、また溜め息ついてる。何かあったの?」

「あぁ〜、アレだろ。この前の“バレンタインまでに彼氏が〜”ってやつ。折角上手くチョコ作れるようになったのに、贈る相手がいねぇなんてなぁ…まぁ、毎年のことだけどさ」

「バカにするなぁ!もぉ〜!今年こそはってめっちゃ頑張ったのにぃ!」

「あ、あはは…でも、兎ノ助とか転校生くんとかに喜んでもらえたじゃん!男の子に渡すって意味なら大成功だと思うけど?」

「アイツらはもう毎年のことだからなぁ…今更喜びもへったくれもねぇだろうし…ほら、もう一人渡し損ねたのがいるだろ?」

「あっ、こら律!」

「もう一人?それって…あぁJCくんかぁ!」

「ちょ、みちるも何言ってんの!?」

「裏世界だっけ?あれ行ってから毎回病院送りになってんだよな、JCの奴…もう行かせねぇ方がいいんじゃねぇの?」

「そうだよねぇ…流石にちょっと心配かも。お見舞いとか行った方が良いのかな…?」

「うぅ〜、律もみちるも何で急にあいつのことを…そんなことより!ストレス発散しに行かなきゃ!」

「おっ、それなら丁度いいのがあるぞ。あたしらがよく行ってるカラオケ店で今日限定のイベントやるってよ。ほら、これチラシ」

「本当?うわぁ…結構良いの揃えてるねぇ。あっ、でもその時間帯は部活だ…」

「あれ、松島もか?あたしも用事があって行けないんだよなぁ…ってことで千佳!悪いけど…って、千佳?」

「…へ?あ、あぁ〜都合つかないのね、分かった分かった。うちだけで行くから気にしないでいーよ。ふふっ♪」

『…?』




第参拾八話 稼ぐ 魔法使い

「金が、無い…!」

 

翌日、退院した俺は早速通帳と財布の中身を何度も確認するが、どちらにも雀の涙ほどの金額しか入っていない事実は変わらない。な、情けねぇ…というか何でこんなに所持金少なくなってんだ!?何にも使ってねぇはずだぞ!

 

「…まさか、この間のIMFのクエストの報酬…ピンハネされてんのか?0が6つか7つじゃなかったのかよ!?よく見たら一銭も入ってねぇじゃんかよ!?」

 

くそっ!何が特別クエストだ!死ぬ思いした挙句、謹慎まで受け入れてやったのにその報酬もビタ一文払う気はねぇってか?完全に無駄骨じゃねぇか!

 

「…しゃーなしだな、文句言ってても始まらん。月末までの少ない日数で何とか金を作らないと…なるべく早く貰えて尚且つ高時給の仕事を探さなくちゃな…それも学園には内緒で」

 

勿論、俺の私情で報告したくないのではなくて、通常の学園生はクエストの報酬があるので所謂小金持ち…特別な事情がある場合を除き、基本副業が認められないのである。俺の場合違反しているのは俺の方という学園側のエゴがまかり通ってしまうので、金額が払われなくても向こうが咎められることはない。だったらこっちも従う義理はないし、その前に思いつく限りの知恵を絞って金策しよう。

 

 

 

 

①結城 聖奈の場合

 

「…何?おい、JC…私の聞き間違いだよな?確認の為にもう一度言ってくれないか?」

 

「…恥を忍んで頼みに来た。幾らか金を前借りしたい」

 

「…お前にこんなことは言いたくないのだが、金の管理が杜撰な人間は信用されない。それに、いきなり女の手を引いて暗がりに誘い込むなど…真面目な顔をして言うことはそれか」

 

…くっ、黙って聞いていれば好き放題言いやがって!学園が素直に報酬を寄越してくれさえいれば、こんな屈辱を味わうことなんか…!

 

「何と言われようが、俺には必要なものだ。つべこべ言ってないでさっさと寄越せ!」

 

「…悪いが断る。確かに私は生徒会の会計として財布を握っているし、お前に幾らか金を恵んでやることも容易いだろう。だが、それをすればお前は堕落した人間になるだろう。私は…お前のそんな姿は見たくない」

 

そんなのそっちの都合じゃんかよォ!?銭出せや、銭をよォ。

 

「人は真面目に働いてこそ、その報酬として金を受け取ることが出来る。“働かざる者食うべからず”という言葉にもある通り、まずは私の手伝いから始めないか?生徒会の業務や私の私生活諸々をサポートするんだ。勿論、その出来高に応じて駄賃をやるぞ」

 

「今、金のやり取りは辞めようって話じゃなかったか!?」

 

いつの間にか聖奈さんが壊れてた。あの人の眼鏡と思考回路、絶対曇ってるよ。

 

「畜生…アンタだけはまともだと思ってたのにっ!」

 

「あっ!待てJC!!」

 

俺は聖奈さんの呼び止める声を振り切って、その場を後にした。まず一人目、交渉失敗…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、準備は出来ていますわね?この為にお父様も反賀へと戻ってきてくれますから…万が一にも、漏れの無いように!」

 

うーん、お嬢張り切ってるっすねぇ。その分だけ自分のやる気が削がれるんすけど…そして、どーいうわけか刀子先輩の様子もおかしいんすよね。ダウナー系は自分だけで十分なんすけどっ!

 

「漏れって言っても、特別することも無いんすよね〜。強いて言えば“心の準備”くらいっすか?」

 

「ならばその“心の準備”とやらをしっかりと!転校生さんを紹介するにあたって、お父様にも転校生さんにも泥を塗らないようにしませんと!」

 

「うへぇ〜、そんなんだったら紹介しなけりゃいいのに「何か言いまして?」い、いーえ何でも…薔薇の手入れでもしてくるっす」

 

うぅ〜…えらい剣幕で睨まれた。怖っ!でも今回ばかりは自分がサボりたいだけじゃないんすよ…本家で聞いた“噂”の通りなら、先輩とJC氏に危険が及ぶ可能性があるっすよ。特にJCさんの方は何故か発見次第…みたいな空気になってますからねぇ。

 

「かと言って、お嬢の親戚を悪く言うのも自分の立場的にマズいっすからね…あぁ〜、本当に無くなればいいのに…!」

 

「おい、縁起でもないことを口にするな。姫殿に聞かれでもしたらどうするつもりだ」

 

もどかしく唸っていると、いつの間にか目の前に仏頂面の刀子先輩が立ってました。全く…こんな時まで真面目なんだから。

 

「んなこと言ったって…刀子先輩だって先輩のこと、お嬢に意見してるの知ってるっすよ?」

 

「そ、それは…転校生は格式のある家の出ではない上、野薔薇の選んだ相手でもない“姫殿個人”が選んだ相手だ。中には何処の馬の骨が野薔薇を継ぐことを快く思っていない者もいるだろう。拙者は姫殿の従者として、そして転校生の学友として身を案じているだけだ」

 

うーん…本当にそれだけなんすかねぇ?というか、さっきから先輩の名前しか出てこないって、もしかして…。

 

「あの、刀子先輩…一応、確認のために聞いときたいんすけど…」

 

「何だ、急に改まって…」

 

自分は恐る恐る、その事実を口にしたっす。

 

「いや、先輩はまだ良いんすけど…サンフラワーのJC氏、知ってます?前に本家の方に顔出した時にたまたま聞いたんすけど…なんか見つけ次第“コレ”するって周りのお付きに手配したらしいっす」

 

「…何だと!?おい自由、姫殿にこのことは…!」

 

首筋に右手の親指を当てて、そのまま横一線に掻き切る仕草を見せるっす。そこまで深い知り合いじゃないとはいえ、本当嫌なこと聞いちゃったっすよ…胸糞悪い話っす。

 

「…言えるわけないじゃないっすか。本家の人間は嫌いっすからバチくそに言ってやっても良いんすけど、それでお嬢が悲しむなら話は別っすよ。お嬢が決めるまでは本家の意向が絶対っすから…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②桃世 ももの場合

 

昼休みになり、丁度購買部付近にいたももちゃんを捕まえて、空きのあるバイト先を紹介してもらえないか尋ねてみることにした。

 

「…えっ、アルバイトですか?確かにあたしは何軒も掛け持ちしてますけど、先輩の条件に見合うのはあまり無さそうです…力になれなくてごめんなさいっ」

 

「そうか…いや、俺も突然だったしそこは気にしなくていい。しかし、頼みの綱の桃世でも見当がつかないとなると、いよいよ弱ったな…」

 

なるべく短期間で高収入の仕事はアルバイトに精通しているももちゃんでも思い当たる節はないらしい。というか、そんなところがあるなら誰もが入りたいか…夢見すぎだな。

 

「あの、もし良ければ普段あたしが勤めてるところに入れてもらえないか聞いてみましょうか?そしたらいつも先輩の側にいられますし…「は?」い、いえ!変な意味じゃなくて、その…そう!困った時に助けられるじゃないですかっ!そういう意味ですよぅ!」

 

「な、何だよいきなり!?そんなにがっつかなくても分かってる!」

 

何なんだよ、いきなりハイテンションになりやがって。かと言って、今は「全然分かってませんよぉ…」って嘆いているし…ちゃんとももちゃんが親身になってくれてるのは分かってるのに。

 

「折角だが、それはやめとくよ。出来るだけ自分の力でやってみたいんだ、桃世にそこまでお膳立てしてもらったら俺が頑張ったことにならないだろ?まだ時間もあるし、もう少し自分の足で稼いでみるよ。相談乗ってくれて、サンキューな」

 

「…っ!は、はい!頑張って下さいっ」

 

必要以上にももちゃんの厚意に甘えるわけにもいかないので、やっぱり自分でもう少し模索してみることにしよう。去り際に感謝の意を込めて手を振ると、ももちゃんも少し恥ずかしそうに小さく振り返してくれた…本当に優しい子だ。

しかし、第二の手も失敗…万策尽きたな、はぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、どうしたもんスかねぇ…頭領から直々の御通達とはいえ、これは心が痛むッス」

 

屋上で一人、悩みに明け暮れているッス。自分は“伊賀中忍” 服部 梓…世間一般で言うところの忍者ッス、にんにん。えっ、一体何をそんなに悩んでるかって?本当は他言無用なんスけど…皆さんが絶対誰にも話さないって約束してくれるなら、特別に教えてあげるッス。もし約束破ったら“御命頂戴”しちゃうッスからね?

自分は懐に忍ばせていた一見中身がまっさらな巻物を広げて、後ろから威力の弱い火の魔法で軽く炙るッス。忍者って何ぞや?ってよく言われるんスけど、意外にも結構世の中のイメージ通りだったりするんスよねぇ…あっ、魔法使ったのはここだけの内緒ッスよ?一応風紀委員の自分が率先して校則破ったとか知られたら、いいんちょにめたんこ怒られちゃいますからね。はてさて炙り出しで浮き彫りになった御通達の内容はと言いますと……

“グリモアに在籍するJCなる生徒の抹殺”ッス。

いや〜、本気で焦りましたよ。一体全体どうなってるのか全くわけわかめッス。確かに今まではJCさんの偵察が自分の任務だったッスけど、見ている限りでは周りに危害を加える様な兆候は全く無かったッス。寧ろ自分以外信じられないといった様子で周りの生徒との接触回数が極端に減ったくらいッスから。だからって里の仲間たちの実力を疑うのも違いますし…これぞ正しく板挟み状態ッス。与えられた任務に私情を挟むのは忍者としては最低ッス、それは分かってるんスけど…JCさんに情が湧かないと言えば嘘になるッス。それに、自分が危惧していることはそれだけじゃないッス。

 

「やっぱり正夢になっちゃうんスかねぇ…自分といいんちょがJCさんを拷問して、そのまま殺めちゃうってやつ「服部!!」うひゃあ!?な、生天目先輩…何用です?自分、今取り込んでまして…」

 

うんうん唸っていたら、ものすごい勢いで屋上まで駆け上がって来ました。でも自分、何も怒らせるようなことはしてないッスよ?

 

「虎千代から聞いたぞ。私にもクエストが発令される可能性があるらしいな…それも貴様の隠れ里とやらで。早く案内しろ」

 

生天目先輩が拳を鳴らしながら迫ってくるッス…うぅ、なんて迫力!でも今回ばかりは自分も引き下がれないッス!

 

「実はまだ里には魔物が出てないんですよ、里の仲間が頑張ってくれましたからね。でもまたすぐに現れるのは間違いないッス。ですから、その時は発令依頼という形で生天目先輩に知らせるッス。なので、それまで待っててほしいッス…お願いします」

 

自分が素直に頭を下げると、黙り込む生天目先輩。あ、あれ?いつもなら“そんなこと知るか、何なら貴様とやっても良いんだぞ?”とか言ってきそうなもんなのに…どうしたんスかね?

 

「…分かった、その時がきたら必ず知らせろ。だが約束は守れよ」

 

諦めてくれたのか生天目先輩は素直に引き返してくれました。ほっ…な、何とか切り抜けられたッスね。あっ、生天目先輩がいきなり振り向いた。

 

「貴様等が何を企んでいるのかは知らんが、JCは私の獲物だ…“手を出すなよ”」

 

は、はひっ…!?な、生天目先輩の目…本気だ!!っていうか、何で里からの通達内容バレてるんスか!?あぅ…全身の震えが止まらないッス。自分、一体どうしたらいいんスか〜!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③間宮 千佳の場合

 

「八方塞がり…ってか?」

 

一日中の努力も虚しく空振りに終わり、万策尽きた俺は放課後学園内の草っ原に仰向けで寝転んでいた。知り合いに直接援助してもらうのも無し、知り合いのバイト先も全滅と来たら俺の浅知恵にまみれた知恵袋は午前中の内に底を尽きた。とりあえず妙案が浮かぶまでは休憩だ。そう、木陰で風に揺られていれば自然と、良い案が…。

 

「こーらっ!こんなとこで寝てると風邪ひくよ?」

 

「…んっ、その声は間宮か?」

 

半分寝に入っていると頭の上の方から声が聞こえてきた。寝ぼけたまま目を開けると、不思議そうに俺の顔を覗き込む間宮さんの姿があった。というか、地面に寝そべっている俺とそれを上から見下ろしている間宮さん…位置関係がかなりマズいことになってるの、言った方がいいんだろうか?いや、言うべきだな。

 

「…水色の水玉三角形」

 

「っ!?」

 

俺の発した一言によって、急いで自分のスカートを手で押さえる間宮さん。最低限のヒントで伝わってよかった…間宮さんには男に対してもっと危機感を持ってもらわないとな。普段彼氏が彼氏がって言ってる分はね、変な男たちに引っかかってほしくないんよ。

 

「…み、見た?」

 

ほんのりと頬を赤く染めた間宮さんが言質を取る様に確認してくる。ここで変に取り繕っても事態は悪化する一方だ、素直に認めた上でフォローしよう。

 

「まぁな…だが、心配するな。女のパンツくらい裏世界で散々見てきた、今更驚いたりしない「バ、バカバカ〜ッ!?」うおっ!?」

 

フォローの途中で感情を抑えきれなくなったのか、寝ている俺に跨ってマウントを取ってそのまま力任せに拳を振り下ろしてくる間宮さん。い、痛い痛い痛い…。

 

「そういうこと言ってんじゃないのっ!見えてるなら見えてるって、ちゃんと言いなさいよォ!!」

 

「あぶっ!ぐへぁ!?いたっ、ちょ、待て!ってあ!?」

 

「バカバカバカバカ〜!甲斐性なし〜っ!!」

 

間宮さんによる拳の応酬はその後4、5分にわたって続いた。俺のフォローは失敗だったのか…難しい。そんなことを考えていると俺の腹の上に座ってマウントを取っていた間宮さんが不意に手を止め、先程までの強気な口調とは打って変わって少し自信なさげな声色で俺に質問を投げかけてきた。

 

「それで…どぉ?うちの…やっぱ子どもっぽくて変だった…?」

 

これは、もしかして気の利いた言葉を期待してるのか?うーん、どうしたものか…また下手なことを言ってさっきの二の舞になりたくないしなぁ。しゃーなしだな、一か八か思ったことをそのまま伝えてみるか。

 

「…別に変だとは思わなかったよ。普段はギャルっぽいもっと派手なやつかな〜とは思ってたけど、別に今のだって間宮らしい明るめなやつだったし……これじゃ、駄目?」

 

「そーいうのは女の子に直接聞くもんじゃないっての。相変わらずデリカシー皆無なんだから…」

 

くっ…また言われた。なんか会う人間にこぞって同じこと言われてる気がするぞ。

 

「んで、要するに“あんたは好き”ってことで良いんだよね?」

 

「あ、あぁ…まぁ平たく言えばそうだな…って、おい」

 

俺の言葉を聞いた間宮さんはすぐに俺の上から退いて、隣に座り直した…結局、何だったんだ?一応、許してもらえたってことで良いのか?

 

「それで結局何でこんなところで寝っ転がってたの?」

 

さっきまでのことがまるで何もなかったかの様に話し始める間宮さん。まぁ、そっちがその気なら俺はもう気にしないが…後から蒸し返すなよ?

 

「世の中ってのは俺が思ってるよりも厳しくて世知辛いってことを、改めて痛感した…そんなところだよ。正に"体力の限界”って感じ」

 

「はぁ?何それ…あっ、それって昔のお相撲さんのやつ?お爺ちゃんがよく真似してたっけ。そんな古いの誰もわかんないよ。っていうか、全然似てないのまじウケるんだけど」

 

そう言って、小馬鹿にした笑いを見せる間宮さん。ぐっ…こっちは本気で悩んでるってのに馬鹿にしくさって、何て薄情な…聖奈さんやももちゃんとは大違いだな!

 

「そんなことよりさ、あんた暇ならこれからカラオケ行かない?メンツ足りなくて困ってんだよねぇ」

 

「“カラオケ”…何それ?金掛かる?」

 

「そんなの当たり前でしょっ!てか、カラオケも知らないって本当世間知らず…もしかしてあんた、どっかのお金持ちのお坊っちゃまなの?ねぇそうなんでしょ〜!このこの〜!」

 

間宮さんが変に勘繰って、俺の頭を乱暴に撫で回してくる。俺がどっかの金持ちだって?もしそれが真実なら、こんなに金の問題で困ってねぇっての。

 

「雑に絡むなっ!鬱陶しい!とにかく俺は今金が無いから、遊んでらんないの。だから」

 

そこまで言い切ったところで、俺の次の言葉は途絶えた。何故なら目の前でチラつかせた間宮さんのデバイスに映っているもの、つまりは餌がある所為だ。

 

「ふっふーん!勿論無料(タダ)とは言わないけど…ジャジャーン!今日行こうと思ってるカラオケ店でさ、高得点出したら色んな景品が貰えるイベントやってるんだよね!それでさ、ここ見てみなよ」

 

間宮さんに促されて、俺は画面を覗き込んでみる…んなっ!?こ、これは…!

 

「最高得点賞…賞金五万!?五万ってあの五万か!?」

 

まさか現金が貰えるなんて…だったら俄然燃えてきた!俺はすぐさま跳ね起きて、そのまま間宮さんの手を握って目的のカラオケ店へ急ぐのだった……間宮さんの案内で。

結局、第三の手で決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…確かに間ヶ岾の言う通りだった。何故居なくなるのかは知らないけど、間違いない…“将来的に魔物は居なくなる”。これがゲートの先の真実なのか…!」

 

ネテスハイム近傍のヘリオットで発見されたゲートを通って見てきた世界。そこには既に霧は存在せず、全て戦いが終わりを告げた。勿論、あと100年以上持ち堪える必要があるが、終わりがあるという事実は公表するべきだ。僕は混乱の一端を担っている間ヶ岾に要求を突きつけた。

 

「ライフストリームとの関係を断たねば、ゲートの向こう側の真実を公表するだと?国連総会で人類が纏まろうとしていると言うのに…また要らぬ一石を投じる。光男くん、やはり君は“霧の守り手”だな!」

 

「…どういうことだ?将来的に魔物が消滅するなら、みんなに希望が…」

 

僕の言葉を聞いた間ヶ岾は心底鬱陶しそうな態度を見せる。な、何が言いたいんだ…?

 

「君も神宮寺の人間なら分かるだろう?国連総会で人類は魔物に対して戦い殲滅するという結論を出した。しかし“魔物はそう遠くない未来に消滅する”という事実を知れば、ならば無理に攻撃する必要がないのでは?という意見が出てくるだろう。もし権力者が堅守派に名を連ねたなら、人類は再び混沌を極めるだろうな」

 

「そんなの、単なる憶測に過ぎない。人類はちゃんと選ぶべき道を間違えたりしない…」

 

僕は自分で言っていて疑問に思う。間ヶ岾の言っていることは全くの事実無根ではない、寧ろその通りになる可能性の方が多いかもしれない。僕は、人類を間違った方向に導こうとしているのか…?

 

「それにしても、双美くんが連れて来た“あの男”…思い出すだけでも虫唾が走る。あの時は奴のおかげで折角進めていた計画に暗雲が…」

 

あの男?間ヶ岾の奴、一体誰のことを…もしかして黒いフードを被ったあの男のことか?双美という魔法使いに随分と尽き慕われているようだったが、口振りから察するに以前何処かで会ったことがある人物なのか。間ヶ岾と話しているのを聞いただけでは殲滅派でも擁護派でもない…そんな印象だったが真実はまだ知らない。これを機にもっと探ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、無事に辿り着いたわけだが…平日の昼間だってのに随分と人がいるな。間宮が戻ってくるまではとりあえずどんな景品があるのか見ておくか」

 

間宮さんがカウンターで色々好き放題注文しに行ったことで手持ち無沙汰な俺は、現金五万以外の景品が気になったので一覧表を見に行くことにした。はてさて一体どんなものがあるのやら…。

 

「えっと、上から順に…現金五万、菓子詰め合わせ(千円相当)、美顔ローラー、龍印のヌンチャク、有名ブランドの新作ブラ&パンティセット、最新携帯ゲーム機、EMS腹筋パッド、手芸装飾用の宝石(レプリカ)、一泊二日熱海旅行券、可愛らしいクマのぬいぐるみ、たわし、ポケットティッシュ、パジェロ…このラインナップだと現金五万がちゃっちく感じるな」

 

流石個人経営のカラオケ店…ある種の人間には穴場なんだな。間宮さんも美顔ローラー辺りを狙い目に来たのか?

そんなことを考えていると、伝票を受け取った間宮さんが何やら慌てた様子で戻ってきた。

 

「おーい!何も言わないで勝手にウロウロしちゃダメでしょ!一瞬、マジで焦ったんだから…」

 

「んっ、あぁ悪かった。景品の内容が気になってな…間宮は何目当てなんだ?」

 

「…えっ?あー、えぇっと〜…これ、かな?」

 

間宮さんは狼狽えながらよりによってあのセクシー下着セットを指差していた。誤魔化すならもっと別のものを選びなさいよ…。

 

「えっ、あっ!ち、違う違う!!これじゃなくて、その…そう!こっちの美顔ローラーだよ!本当だってぇ!?」

 

顔を真っ赤にして抗議してくる間宮さん。多分それもブラフなんだろうな…わざわざ隠したくなる物なら、そもそも俺とは来ない筈だ。まぁ言及はしないでおくが。

 

「分かったよ…それでごちゃごちゃ言ってたのはどうなったんだ?」

 

「うぅ…絶対分かってないよねっ!まぁ、良いけど…参加する人は一時間で利用して、その中の最高点数で競うの。時間内なら何回歌ってもOKで、最終的に点数が高い人がいた部屋から順番に景品を選べるんだよ。点数はリアルタイムで店長が見てるから不正の心配も無し。ほら、さっさと行くよ!」

 

間宮さんは意気込んで俺の腕を引っ張って連行して行く。もしかして、カラオケって歌を歌う場所…なのか?マズイマズイマズイ…!

俺は招かれた室内のソファに座って冷や汗をかいていると、手慣れた様子でパネルを操作していた間宮さんが様子を伺ってきた。

 

「…どしたの?具合とか悪いなら無理しなくてもいいよ?」

 

「いや、そうじゃないんだ…なんて言うか、その…“カラオケってのが歌を歌う場所”とは思ってなかったというか…」

 

「あんた、マジで良いとこのお坊ちゃんでしょ。野薔薇とか冷泉のお姫様と言ってること変わらないよ…このパネルで曲を選ぶのは分かる?ってか、そもそも知ってる曲ある?」

 

「わ、分からん…少し探しててもいいか?」

 

「別にいいけど…じゃあ、うちが先に歌っちゃうからね?」

 

すると、普段とは大違いのしっとりとした歌声が聴こえてくる。ラブソングというジャンルらしい…って、聴き入ってる場合じゃない!何か知ってる曲は無いのか?

 

「〜♪」

 

これ、グリモアの校歌とか入ってないのか?ちゃんと覚えてるわけじゃないけど、最後の方魔法学園〜♪って何となく合わせればいいんだろ?

っていうか、そんなこと考えてる場合じゃなかったな。早く何でも良いから歌える曲を………。

 

〜 JC 熟考中 〜

 

「ちょっとJC!あんたパネル見たり、ジュース飲んだり、トイレ行ったりで全然曲選んでないじゃん!もうすぐ一時間経っちゃうし、うちじゃ90点が良いとこだし…お願いっ!もう何でもいいからあんた歌ってよ!」

 

「いやぁ…面目ない。あっ、た、“体力の限界”!」

 

「思い出したようにモノマネするなぁ!それ全然似てないし、茶化していいやつじゃないからっ!そんなことより早く曲選んでよっ!」

 

むっ、これはマズいな…感覚的にはまだ10行程度しか経ってないと思っていたが、もうそんなにか。知ってる曲…知ってる曲は……あっ、これ知ってるな。ポチったな。

 

「おっ、やっと知ってる曲見つけたんだ。最後だからバシッと決めちゃってよね!」

 

間宮さんが威勢よく俺の背中をバシバシ叩く。よーし、やってやんぜ!

マイクを受け取った俺は喉の調子を確かめて、イントロが流れ出すのと同時に緑の力を発現させる。大丈夫、短めの曲なら最後まで緑の状態を維持できるはずだ…感覚を研ぎ澄ませ、気持ちを乗せるんだ。

俺は頭の奥底で眠っている記憶を頼りに歌い出した。

 

「とぉ〜きぉ〜 さたでな〜ぃ♪こさめのぉ〜 くぅ〜こぉ〜♪」

 

〜 JC 熱唱中 〜

 

「さよな〜ら こい〜びと〜よぉ〜♪」

 

無事に歌い終わり、静かにお辞儀をする。隣で聴いていた間宮さんは…ポカンとした顔をしていた。ちゃんと歌いきったぞ!

 

「…選曲、古くない?1985年って30年くらい前じゃん。何でこんな古いの知ってんのよっ!」

 

何故かご機嫌斜めの間宮さん。ちゃんと歌えたんだから良いだろ?大事なのは点数でしょうが。

 

「最高得点、お願いっ!」

 

「大丈夫…いける!」

 

俺と間宮さんの祈りがモニターに向けられる。時間的に最後のチャンス、緑の力で感覚が鋭くなっているおかげでかなりの高得点が望めるはずだ。

そして結果は…。

 

「…う、嘘っ!ひゃ、100点!?本当に100点だよねっ!?うぅ…やった〜!!」

 

「ほっ…流石にちょっと焦ったな。まぁ、結果オーライってことで」

 

横で100点取った本人よりも大喜びしている姿を見て、ちょっと面白くなってしまう。それ俺のセリフじゃないの?人のことでもこんなに喜んでくれる間宮さん、やっぱり良い人なんだ…さっきの話、受けてもいいかな。

 

「よっしゃ!勝確〜!早く景品貰いに行こっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…って、何でうちにクマのぬいぐるみプレゼントしてんのよ!現金五万が欲しかったんでしょ!?」

 

間宮さん、ぷりぷりだな。別にトチ狂ったわけじゃないんだぞ?

 

「…目線でそれ欲しがってたのバレバレだったぞ。それに普段はくっついて離れない音無たちと来てないってのは、欲しい景品がそれだってバレたくないから。それでも音楽やってる音無がいないと不安だったから、テキトーに暇してる俺を巻き込んだってわけだ?前のギターの時みたいなのを期待して」

 

「あぁ〜!!分かってんなら説明するなぁ!?改めて言われるとめっちゃ恥ずいじゃん!」

 

別に隠すことないじゃんかねぇ。可愛いものに目がないってことでイメージとかけ離れてるわけでもないし。

 

「それより、あんたお金どーすんの?」

 

「…まぁ、まだ時間はあるしもう少し策を練ってみようかな〜って感じ」

 

振り出しに戻ったが収穫はあった。一曲分くらいなら何とか歌いきれる…今度素人の歌番組オーディションとか出てみようか?って、あんなん結果出るまで何ヶ月も掛かってしまうから今月末までに間に合わないからダメか。

 

「そっか…あのさ、今週の日曜に学生街の広場でフリーマーケットやるんだけど…もし暇ならうちのこと手伝ってくれない?バイト代もちゃんと出すからさ、お願いっ!」

 

なんと…まさかの仕事の誘いが!これは願ってもないチャンス…だが聖奈さんのことが頭を過ぎるな。一応、仕事内容が健全かどうかを確認してから決めよう。

 

「因みに、売ってるものと俺にやらせようとしてることって?」

 

「売るのはうちが趣味で作ってるアクセサリーで、あんたにはお客を呼び込んでもらいたいの。沢山売れればその分上乗せするよ?」

 

これは、かなり良心的なのでは!前に一度見せてもらったことがあるが、素人目から見てもその出来栄えはかなりのものだったと思う。趣味のクオリティとは思えない逸品なら売れ行きも相当なはず…乗らない手はない!

 

「OK、乗った」

 

気がつけば、俺はいつの間にか手を差し出していた。そして、それに対してすかさず握り返してくる間宮さん。うわっ、手細いなぁ。

 

「ふっふーん!全部売り尽くすから、そのつもりで頑張ってよね♪」

 

その表情は自信に満ち溢れていた。こっちも俄然燃えてきたぜ。その時、間宮さんの手に握られているクマのぬいぐるみと視線が合った。そのぬいぐるみは何故かニヒルに微笑んでいる気がした。怖っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は数枚の諭吉さんを財布に忍ばせ白衣の天使の怒りを鎮めにきていた。諭吉さんの犠牲で済むなら安いもんだぜ…それでも俺も相当食わなきゃいけないんだろうな。覚悟、決めるぜ…!

俺は意を決して戦場(デザートフェスタ)に赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




神宮寺(じんぐうじ) 光男(みつお)
神宮寺家三男で初音の兄。神宮寺樹の下で、各国の復興団体と交渉の役を請け負っている。母親の血を濃く受けついでいる。
魔物共生派の一人。現在は霧の守り手の幹部である間ヶ岾(まがやま) 昭三(しょうぞう)(裏世界)と行動を共にして、魔物に対する理解を深めた上で魔物が人類にとってどういう存在になり得るのかを精査しているが…。
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