グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【それぞれの猪口齢糖(チョコレート)
桃世 ももの場合
「はい、今年も友チョコを沢山……へっ!?わ、私は別に特別なチョコは作ってな……い、いえ何でもないです。本当にあげたかった人に渡せなかったのが心残りですかね…来年はきっと渡してみせます!」

間宮 千佳の場合
「チョコ?あー、そういえば結局作らないで終わったね。だって彼氏出来なかったのにチョコなんか作ってもしゃーないじゃん。でもさぁ、不思議なんだよね…彼氏出来なかったのは去年と同じなのにさぁ、なんかノリノリってかやる気満々って感じ?もしかしたら、見つけちゃったかも…!」

水瀬 薫子の場合

「チョコ、ですか?生憎、生徒会に暇な時期はありませんので……えっ、今何と仰いました?もう一度お聞かせ願えます……ふ、ふふっ、うふふ…!そうですかそうですか、JCさんが私の手作りチョコを御所望だと…今年も会長の分だけと決め打っていましたが、そうと決まれば話は別です!早速作業に取り掛からなければ!」

東雲 アイラの場合

「…はぁ?ちょこは好きじゃぞ、というよりすいーつ全般大好きじゃ。今年も小娘らの失敗作をたーんと食わせてもらったし…お主、何が言いたいんじゃ?ほれ、隠さず言うてみぃ?ほぉ…JCに作らんのかと。答えはノーじゃ!何故なら妾たちの関係はそんじょそこらのあべっくなんかとは別格じゃ。目が合った瞬間×××したりどちらからともなく×××したり情熱的に×××する仲で」

冬樹姉妹の場合

「チョコレート?興味ありませんね」

「ちょ、お姉ちゃん!?ごめんなさい、本当はお菓子作りすっごく上手なんです!子どもの頃はよく作ってくれたなぁ…」

「ノエル」

「ひゃあ!?ご、ごめんなさい〜!?」

「…まったく。申し訳ありません、ですが本当に答えられるようなことがないんです。もう長い間、そういったことをしてないものですから……え?そうですね、まぁ気が向いたら彼に作ってあげてもいいかもしれませんね」

「あっ!私も私も〜…って、何でお姉ちゃん睨むの〜!?」

生天目つかさの場合

「…くだらん。奴にくれてやるのはこの拳のみ。試しに貴様にくれてやろうか?」

記者 岸田 夏海の生命の危険を感じた為、取材続行不可。



第参拾九話 覆る 魔法使い

三月某日、相変わらず学園寮の自室で籠っていた俺のデバイスが唐突に鳴り響いた。どうやらメールが届いたみたいだが送り主は…執行部?聞いたことないな。

 

「内容は…“現在反賀町にて魔物発生、このメールを受け取った生徒は至急討伐クエストに参加せよ。尚、クエスト参加は強制でありこれを拒否することは違反行為に該当するものとして処理する”か。この学園は益々信用できねぇな…俺だけなのか?」

 

わざわざ名指しで参加を促してくるのは少しでも戦力が欲しいのか、それとも何か別の意図があるのか…どっちにしても俺が行かなきゃならんのは変わらないか。今度こそちゃんと報酬を支払って貰いたいもんだねぇ。

 

「まぁ、ここでうだうだ考えても仕方ねぇ。やるだけのことはやってやる…魔物の所為でこれ以上誰かの悲しむ姿を見たくないしな。その為なら、俺は…!」

 

脳裏に過ぎるのは霧によって運命を捻じ曲げられたパルチザンや過去の裏世界で出逢った真代ちゃん、魔物の襲撃で亡くなった数えきれない人たちの命の重さだった。自分に出来ることなんてたかが知れてるのかもしれない、あの時あぁしていればというのはエゴなのかもしれない。でも、俺にはもうそれしかない。学園も仲間も何も信じられない今の俺を唯一突き動かせる衝動は…霧に対する“憎悪”だった。その想いに呼応するかのように青い光を灯した瞳も、何故か普段よりも暗く強い輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「屋敷に入っている暇はありませんね…自由はお父様たちの無事を確認して下さい!私と刀子は先に町の外れの御首坂に向かいます」

 

「了解っす。まぁ避難の護衛は多分必要ないでしょうし、無事を確認したらすぐに追いつきます。あ、あとお嬢…」

 

「はい?何ですか自由」

 

私が問いかけると、いつにもなく歯切れの悪い自由。これは何かあったのでしょうか…?

 

「あ、まぁ…いえ、やっぱ何でもないっす。よくよく考えたら今言うことじゃなかったっすね!それじゃ自由ちゃん、行ってくるっす!」

 

「あっ!?自由、待ちなさい!」

 

私の呼び止める言葉も気にせず、自由は本家へ向かってしまいました。あの子は普段こそ自堕落に振る舞っていますが、決してその立場を蔑ろにすることはありません。なのに、私に何かを言いかけた後の戯けた振る舞い…あぁ〜!その真意は一体何ですのぉ!?

 

「…しっかりなさい。私は野薔薇 姫、あの子の主人でしょう。こんなことで取り乱してはいけませんね」

 

私は頬を両手でパチンと叩いて、自分に喝を入れ直します。故郷が魔物の襲撃を受けたことで少々取り乱してしまいましたが、もう大丈夫です。どこであろうと野薔薇の人間として完璧に立ち回るのですわ!

 

「転校生さん、両親への紹介は遅れてしまいますが、わたしたちにお力を貸して頂いても宜しいでしょうか?」

 

私は巻き込んでしまった転校生さんに協力を申し出ると、それを快諾してくれました。流石の懐の深さ、正しく私の伴侶としては満点の男性です。さぁ、まずは状況確認ですわね。

 

「ありがとうございます。刀子!魔物の数はどの程度ですか?」

 

「はっ…今のところ、魔物は南の方角からのみで量も少なくないでしょう。尚、討伐クエストが発令されており既に国軍と一部の学園生がこちらに向かって来ているとのこと。しからば、拙者たちの役目は応援が来るまでの間、この反賀町を守ることに他なりませぬ!」

 

「そうですか…魔物に対抗できるのは私たちだけ、ということですわね。それにしても、魔物も運が悪いですわ…他の誰かならいざ知らず“この野薔薇 姫が帰って来た”タイミングでこの町を襲撃するなど……ふっ!」

 

私はデバイスを掲げて、瞬時に制服から戦闘服に変身致します。そして、その強い思いを高らかに宣言しますわ。

 

「野薔薇家長女 “野薔薇 姫”…参りますわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、かなり時間かかっちゃいましたけど、お嬢たちが頑張ってくれてるおかげで何とか避難完了っすね……って、ちょっとどこ行くんすか!野薔薇のおっさん!!はぁ!?魔物の確認って、何の確認っすか!?そんなの自分が行くんで、いいから早くシェルターに避難してくださいっす!」

 

自分の柄にもない本気の説得で、何とかシェルターに避難していったお嬢の親父さん。なんて頑固っぷり…お嬢はしっかりと親父さんの血を受け継いでますね。それにしても、何で親父さんは魔物の確認なんて…あの口ぶりは“魔物が来ることを知ってた”って感じでしたねぇ。軍のお偉いさんとはいえ何で知ってたんすか……っ!あ、あれは、魔物の新手!?何でこのタイミングで!?

 

「こんなの、こんなのって無いっすよ!増援なしでずっと戦い続けて、もうやれるだけの力もほとんど残ってないのに…お嬢に決断してもらうしかないっすね…」

 

自分は覚悟を決めて、お嬢のデバイスにこれ以上の抵抗は無駄に命を散らすことを旨としたメッセージを送ります。いくら先輩の魔力譲渡の力があるとはいえ魔物の物量と自分たちの戦力差は歴然で、すぐに増援が到着する気配もない。最悪、自分が新手を食い止めてる間はお嬢たちが先に死ぬことはないんでしょうが…これは“詰み”って奴なんすかねぇ…?

 

「…って言っても、こっちもタダで死ぬほど根性腐ってないっすよ。これでも一応、野薔薇に仕えてる人間すからね。魔力はもうほとんど底を尽きかけてますが……気合い、入れるっす!うおおぉぉっ!!」

 

自分を鼓舞して、一目散に魔物の群れに突っ込んでいくっす。全滅は無理でもせめて、せめて一匹でも多く倒してお嬢たちの身の安全を確保する…それが従者としての務めっすから。

 

「死に晒せぇええっ!!「おい、そう早まんなって」っ!!えっ…な、何でここに…!?」

 

自分が今正に魔物の群れの中心に飛び込もうとして瞬間、突然後ろから声が聞こえてくるのと同時に襟首掴まれて引き止められました。慌ててその方向へ振り向くと、そこには今学園内で最も疑惑の多いあの人の仏頂面がありました。

 

「じ、JC氏…?ち、ちょっとどういうことっすか!?何でここに居るんすか!?ちゃんと説明するっす!」

 

「お、おい暴れんな!説明も何も、メールでここに来るよう言われたんだよ。この討伐クエストって奴に参加しねぇと違反行為とかでパクるって脅し付きでな…ったく、何時間もかかるこんな田舎まで寄越しやがって、ほんとはた迷惑な話だぜ」

 

そう言いながら、目の前で悪態ついてるJC氏。ですが、不思議と本当に嫌々来たという風に見えないんすよね…って、そんなこと言ってる場合じゃないっす!!

 

「そ、それよりも!このタイミングでJC氏が来てくれたのは本当有難いっす!実はお嬢たちの方がかなり追い込まれてるっす。自分がここの魔物を抑えてるんで、そっちに加勢してあげてほしいっす!そうすればきっと持ち直して、その間に他の増援部隊が到着するはず「そらっ」あうっ!?な、何でデコピンするんすか!?自分、今かなり真面目な話してるんすよ!」

 

真面目に今の状況を踏まえて打開策の提案をしていた自分に対して唐突にデコピンをして話を遮ってきたJC氏。も、もう何なんすかこの人は!たしかに普段は怠けてると思いますけど、有事の際は冷静に判断して

 

「バーカ、それじゃ小鳥遊が死ぬだろ。魔力だって無限にあるわけじゃなし、ずっとここで戦ってたんなら尚更危険だろ。それに、普段三人でセットみたいなお前らが離れてるってのは、あんまし力出ねぇんじゃねぇの?自分を選択肢から外して考えてんじゃねーよ」

 

…冷静に判断、できてなかったっすね。そっか…側から見ても分かるくらい、自分は焦ってたんすね。

 

「でも、それじゃあどの道アウトなんすよ!たしかに自分がお嬢の所に戻れば、その分生き残る確率は上がります。上がりますけど…自分がここを離れることは、目の前の魔物に背を向けてこの反賀を見捨てるってことと同じっす!お嬢の生まれ育ったこの反賀の土地が魔物に壊されるのを容認するなんて……そんなの耐えられないっす。絶対に認められないっす!だから、だから…!!」

 

「だから…“俺”が残る。そのために来た」

 

真っ直ぐに自分を見据えるJC氏の透き通るような青い瞳。純粋な思いに包まれたその言葉を投げかけられた瞬間、自分が残るという言葉が言い出せなかった。何で、何でなんすか…?

 

「…勘違いすんなよ。俺は今だって学園を信用してないし、そこに通ってる魔法使いも同じだ。IMFも結局クエスト報酬支払ってくれなかったしな…まぁ、俺を葬るためにどこかしらとグルになってる可能性もあるが」

 

「じ、じゃあ何で…?」

 

JC氏の言っていることの意味が理解できないっす。もし今の言葉通りに受け取るなら、自分たちを助けるつもりなんて更々ないんじゃ…。

 

「…小鳥遊が死ねば残された二人が悲しむ、その逆もまた然り。それが理解できたから…その感情にまで疑惑を持ったりはしない。少なくともここの魔物を全部倒すまでは残っててやる。だから早く行け」

 

シッシッと手で追い払う素振りを見せるJC氏。何でなんすか…余計にわからなくなってきましたよ。何で裏でJC氏のことを消そうとする流れになってきたのか!自分はJC氏のこと、そういう目線で見れなくなったっす…!

 

「…分かりました。もしお嬢たち以外の野薔薇の人間を見掛けたら、絶対に見つからないようにして下さいっす。そこの物置きの裏に人一人分が通れるくらいの、所謂緊急用のハッチみたいなのがあるんすけど、そこを通っていけば野薔薇本家の地下道を抜けて反賀町の外に出られるようになってるんで、危なくなったらちゃんと逃げて下さいっすよ?」

 

「…どういうことだ?学園以外にも俺の命を狙ってる奴がいるのか?」

 

あう〜、そうっすよね。いきなりこんなこと言われたら、そういう反応になりますよね。ちゃんと説明しなければ。

 

「確証があるわけじゃないので決めつけはできないんすけど、ちょうど年明けの国連総会の後くらいからっすかね…野薔薇は軍閥の名家で影響力が段違いだから特になんすけど、一部の政治家から圧力が掛かったって話っす。自分は野薔薇に仕える立場なんでほんとは大っぴらに協力しちゃいけませんし、こんなこと本人に漏らしちゃダメなんすけど……自由ちゃんは不真面目なメイドなので♪」

 

そう言って、可愛らしくウインクしてみるっす…んぁ!?JC氏、何すかその可哀想なものを見るような視線は!場を和ませるジョークなんすから、本気にしないで下さいっすよ〜!

 

「…まぁ、いいや。学園外の事情はほとんど知らなかったからな。それだけでも分かったのは大きいな…一応、感謝する」

 

…むっ、これはもしかして“クーデレ”というやつなのでは?顔面が良い人がやると映えますねぇ……はっ!そんなことはどうでもいいんすよ!今はとにかくお嬢たちのところに急がないと、刀子先輩辺りが“我が身を犠牲にしてでも反賀を守る!”って暴走しそうなので…って、さっきまでの自分がそうだったんすよね。反省しなきゃっす…よしっ!

 

「申し訳ないっすけど、ここは頼んだっすよ!自分はお嬢と刀子先輩が暴走しないように見張んなきゃいけないんで…落ち着いたら、間宮氏たちと一緒にカラオケでも行きましょ?」

 

「…また、カラオケか。うぅむ…まぁ、考えておく」

 

えぇ〜、なんかあからさまにテンションめっちゃ下がったんすけど…これ絶対間宮氏がなんかちょっかい出してますよねぇ?

なーんか知らない内に、青春してるみたいっすね〜…ちょっと羨ましいと思ったのは内緒っす。

 

「でも、ほんとに一人で大丈夫っすか?何なら先輩に魔力貰ってから、増援が到着次第また戻ってきますけど…」

 

「…いや、あの程度の物量なら俺一人で何とかなるだろ。だが、そうだな…これだけ借りてもいいか?」

 

JC氏はそう言って、足下に転がっている訓練用の刃が研がれていない薙刀(支倉家の物でたぶん野薔薇の親戚が避難する時に倒したんだと思う)を手に取ります。えっ、ちょっと謎っすよ?

 

「えっ?別に良いんすけど…それ、見た目以上に強武器じゃないっすよ?」

 

「あぁ、それなら心配ない……ふんっ!」

 

JC氏が持っていた薙刀を一振りすると、薙刀はその姿を特徴的な青い棒状の武器に変えました。えっ!何すかそれ!ロッドって奴すか!?リアルで見たの初めてっすよ!カッケーっすよ!テンションぶち上がりっすよ!!

 

「おい、いきなり我を忘れるな。早く行ってやれ」

 

「…はっ!そ、そっすね〜。んじゃ、行きますけど…後でじっくり見せて下さいよぉ?」

 

「…小鳥遊って、結構図太い神経してんだな」

 

「んもぉー!何で急にディスってくるんすかぁ!逆に冷静なんすよー!」

 

この人、やっぱりよく分かんないっす…信用してないってハッキリ言ったのに、その癖真面目に助けに来てくれてるんすよね。だから悪い人じゃないと思います、多分…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!?い、今の爆発は…?」

 

「お嬢ーっ!!撤退です、撤退!早く本部に戻りましょー!」

 

突然鳴り響いた爆撃音と衝撃が目の前の魔物を襲い、目に見える範囲の魔物を消し去りました。あれはJGJアーミー!?ということは…!

 

「自由、これはどういうことですか!?本部とは一体…?」

 

「へぇ?あぁ、そうっすよね…いきなりこんなこと言われても分かんないっすよね。これっすよ」

 

暫く離れて戦闘していた自由が息を切らした様子で走ってきて、私にデバイスの画面を見せました。

 

【野薔薇源之助である。JGJアーミーの諸君、救援に感謝する。我々は助けられる立場だが、日本国政府の名で討伐依頼を発令した…宜しく、頼む】

 

お祖父様…お力添え、感謝致します。

 

「さっき神宮寺のお姫様たちも到着して、話聞いて来たっす!なんかJGJの私兵部隊らしいっすよ!それで、前線張ってた自分らも本部に撤退だって…!」

 

「そうですか…わかりました。刀子!転校生さん!ここは増援部隊に任せて、私たちは撤退しましょう。自由、二人を連れて先に戻っていて下さい…私は少し遅れてから行きます」

 

「…?そっすか、じゃあ二人ともこっちっす!」

 

自由が刀子と転校生さんを連れて魔物迎撃部隊の本部と呼ばれる方向へ向かいました……さて、そろそろちゃんと説明してもらいましょう。

 

「さぁ、そろそろ出てきてくれませんか。どうせ近くにいるのでしょう…神宮寺さん、そして月宮さんも」

 

私が敢えて聞こえるほどの声量で言葉を投げかけると、少しして物陰から二人の人影が姿を見せました。

 

「よっ、野薔薇。大変だったな〜」

 

「野薔薇様、大事に至らず幸いでした。ここからはJGJアーミーが戦線を引き継ぎますので、どうかご安心ください」

 

やっぱり居ましたわ。でも、これで疑惑が確信に変わりましたわ…ここからは私が追及する番ですわね。

 

「前置きは結構。神宮寺さん、貴女…“一体何を隠していますの?”」

 

「…っ!野薔薇様、それは「あー、取り乱すなって沙那」…はっ、申し訳ありません」

 

私の言葉に一瞬身構える月宮さんとそれを制する神宮寺さん。やはり何かご存知のようですね。

 

「別にやましいことは無いんだぜ。こっちはあくまでビジネスとして付き合ってるだけで、癒着とかは全くなしだぜ。オールフラットだ…これ以上何を聞きたいんだよ?」

 

「野薔薇が軍閥の名家とはいえ、一個人の一声で大手企業の私兵部隊を動かせる程の影響力は持ち合わせておりません。それにクエスト発令のタイミングも変でした。未だ国軍が到着していない上、自由が受け持っていたはずの野薔薇本家の東の方角からの新手の魔物…これは今誰が受け持っているのですか?」

 

「…はっ?魔物の新手って…沙那、お前そんなの聞いてるか?」

 

「いえ、今のところそのような情報は何も…確認致します。索敵範囲内に小規模の魔物の群れを確認、先程同様の爆撃と同時にJGJの部隊の分隊が殲滅すると連絡があったようです「それ、どういうことすか…?」っ!」

 

月宮さんが新たに仕入れた情報を報告すると、私の背後から突然声が聞こえてきました。その憔悴しきった声色で言葉を漏らしたのは、いつまで経っても戻って来ないことを心配して私の様子を見に戻ってきた自由でした。

 

「今の、どういうことっすか…?新手が出た東側の魔物にも爆撃したんすか?まだ魔物が残ってたから?ねぇ…ねぇ、どうなんすか!?」

 

「自由!?落ち着きなさい!」

 

普段の様子とは全く想像がつかないほど取り乱す自由。事情はよくわかりませんが、この取り乱し振りは普通ではありません!

 

「更に調べた所、新手に対する爆撃の際…逃げ遅れた人々の姿は“無かった”とのことです」

 

「はぁ!?そんなの嘘っぱちっすよ!!絶対捏造してるんすよ!!誰も居なかったなんて有り得ないんすよ!!だって、だって…!」

 

「おいおい、何だってんだよ。私兵つったって流石に民間人いるの分かってんのに爆撃なんか許可しねぇって!」

 

「残ってたのは民間人なんかじゃないっす!!そんなのとっくに避難させましたから!あそこに残ってくれてたのは……JCさん(・・・・)なんすよ!!」

 

…今、自由は何と言いました?JCさんとは、あのJCさんということでしょうか?何やらお二人も話の要領を得ない様子ですが…。

 

「…おい、それってマジな話なのか?だとしたら……沙那」

 

「はい、直ちに作戦に当たった分隊のメンバーをリストアップします。申し訳ありませんが、少しの間外します」

 

神宮寺さんの視線を受けて、月宮さんが何やら確認をしに行った模様ですね。私が出来ることは…目の前で呆然としている自由の体を抱きしめてあげることくらいです。私はなんて無力なのでしょうか……おや、月宮さんが帰ってきましたね。結果はどうだったのでしょうか?

 

「…お待たせ致しました。部隊長に確認した結果、やはり魔物以外の反応はレーダー上で確認出来なかったとのことです。間違いなく“魔物以外の反応は存在しなかった”…だそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?宇宙に行きたい?アンタ、研究のし過ぎで遂におかしくなったの?」

 

「…私は別に錯乱したわけじゃないわ。アイザック・ニュートンが言っていたことが気になるの」

 

私は若干の不快感を込めて、その発言の発端であるアイザック・ニュートンが遺した“魔物は天からやって来た”発言の真意を検証したい旨を如月 天に伝えた。

 

「って言っても、まだそれ以上のエビデンスは無いでしょ?地球の状態を見るだけなら衛星写真で十分じゃない」

 

「勿論、衛星写真ならもう見たわ。でも、特に異常は無かった…なら、自分の目で確認するしかないし、速やかに宇宙に行けるよう準備を始めておくべきと思ったの」

 

「…ふーん、あっそ。ま、科研関連の事件も起こってないし、こっちに迷惑かけない範囲なら別に気にしないわ。好きにしなさいよ…その代わり、こっちはデウス・エクスの実験に専念させてもらうけど」

 

天はやけに淡白な様子で私の考えを受け入れた。自分に実害が無い限りは干渉しない性格は知っていたけど、こんなオカルト的な話を受け入れるとは思っていなかったので、私は内心驚きを隠せなかった。

すると、そんな矢先で不意に天が思いがけないことを口にする。そう、私にとってのもう一つの弱みを。

 

「そういえば“実験”で思い出したけど、アンタのお抱えの“モルモット”、また行方不明になったそうね。管理者としてどう責任取るつもりなわけ?」

 

「っ…!?そ、それは…貴女には、関係ない」

 

それが私の口から出た精一杯の言葉だった。彼が私を避けていることは分かってる、もうずっと私の所に顔を見せてないものね…それこそ半年ほどしか経っていないにも関わらず、もう何年もまともに会話してない感覚さえある。それは恐らく東雲さんたちが言っていた時間停止の魔法の影響だと思うけど…それ以上に何故か心臓が締めつけられるような痛みがあった。健康状態に問題はないはずなのに、何でなのかしら…。

 

「…まぁ、私の管轄じゃないからどうなろうと構わないけど。逃げられるくらいなら解剖でも何でもすれば良かったのに」

 

「…っ!!貴女!!」

 

天の言葉に思わず激昂し、彼女に掴みかかる。一瞬、驚いた表情を見せた天だったけど、すぐにいつもの仏頂面に戻って淡々と言葉を並べ始めた。

 

「…正直、今のアンタは見てらんないわ。私がアンタのモルモットに手を出さなかったのは、それがデウス・エクスにとって何のプラスにもならないって分かってたから。でもアンタは違うでしょ?」

 

「…彼を、モルモットなんて言わないで」

 

「でも、本人はそう思ってるわ。利用されたと気づいたから近寄らなくなったんでしょ。少なくとも未だに学生やってんのは本当に何も考えてないのか、自分以外全員敵って環境の中でも残らなきゃならない理由があったのか…アンタはどっちだと思う?」

 

天に追及されて、私は…何も言い返せなかった。JCくんにとって今まで私が取ってきた態度は科学者が実験動物に向けるものと大差ないことなのかもしれない。私にそのつもりが無くても、彼の受け取り方次第ではそれは恐怖であり猜疑心を生む要因になり得る。でも、それ以上に苦しかったのは……JCくんに信用されなかったことだった。

 

「…ま、それはいいけど。んで、結局どうすんの?学園内で騒ぎにはなってないけど、一部の生徒はもう行方不明だって勘づいてるわよ」

 

「それは大丈夫、もう手を打ってある。JCくんの行方は全力で探すし、彼を取り巻く“噂”についても早急に出処を見つけないと…!」

 

私は小さく拳を震わせて、今はここにいないJCくんに誓う。私は必ず貴方を見つけ出して、今までのことを謝罪してそしたらもう一度貴方との関係を構築していきたい。そう思うのは、私の我儘なのかしら…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、うぅ…くっ、ここは…?」

 

目を覚ました俺は見知らぬ部屋のベッドの上で寝かされていたようだ。全身に鈍い痛みと記憶に多少の混乱はあるが、少なくとも俺はまだ生きているということは理解できた。すると、暫くして部屋の扉が開いた。誰かが入ってきたみたいだが……っ!?

 

「お兄ちゃん、意識が戻ったんだね!あぅ…本当に心配したよぅ〜!!」

 

「うぐっ…わ、分かったから離れてくれ。窒息死する…」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

危うく胸に押し潰されるところだった。というか、最初にすることがそれなのか…。

 

「相変わらずなんだな、心ちゃん。でもどうして君がいるんだ?」

 

「ぶーぶー!折角“ないすばでぃ”になった心がゆーわくしてるのに、こういう時はもっと喜ばないとレディに失礼なんだよ!」

 

「…心ちゃん、君今いくつよ?」

 

「へっ?28だけど」

 

うん、知ってる。裏世界の心ちゃんは俺より10も歳上なのは知ってる。そのおかげですっかり大人の女性になってるのに、相変わらず出逢った6歳の時の無邪気な反応をしてくるから余計に変なことになってるの。凹凸の無いあの頃の心ちゃんならともかく、成長して出るとこ出ちゃってる心ちゃんがそれやるの反則だよ。

 

「…まぁ、今更言っても聞かないか。じゃあせめてどういう状況かだけでも説明してくれないか?」

 

「むっ!」

 

「…はっ?ど、どしたん?」

 

突然両手を広げて、不満顔を見せる心ちゃん。この感じ、まさか…。

 

「お兄ちゃんからハグして!そしたらちゃんと教えてあげる」

 

ふんすっ!といった様子で俺を見つめながら待っている心ちゃん。本当に大人になったのか怪しくなってきたぞ…まぁ、してあげるけどさ。

 

「…んふふ〜、お兄ちゃんの匂いだぁ♪ぎゅ〜!」

 

目を細めてより一層強く抱きしめ返す心ちゃん。見た目こそ気にしなければ、あの頃のままの純粋な心ちゃんの姿が重なる…かなり大胆になった気もするが。

 

「…はい、もう終わり。じゃあ改めて俺の状況を教えてくれ」

 

「ぶぅ…分かったよぉ。でもまた後でしてもらうからいいも〜ん!」

 

跳ねっ返りが強いな。だが、タダじゃ転ばないのはかなり頭がキレるみたいだ…本音を言えば、そのままの心ちゃんでいてくれたらどれだけ嬉しかっただろうか。さぁ、ここからは“裏取り”の時間だ。

 

「とりあえずお兄ちゃんのことから話すね。心が偶々表世界のことを探索してたら、野薔薇ってお家の所で魔物と軍隊が戦ってたの。だから気になって覗いてみたら、なんとそこにはお兄ちゃんが!?ってなって、もう一生懸命心のお家まで運んで手当てして…って感じだよ♪ほら〜!心、良い子だからいっぱい撫でて!」

 

嬉々として頭を差し出してくる心ちゃん、勿論撫でてあげるよ。よーしよしよし…もっと情報を寄越してくれ。

 

「う〜♪やっぱりお兄ちゃんのこと、好きだなぁ♡それでね、もう向こうの世界は危ないからお兄ちゃんはこっちで一緒に暮らそうよってことで…ね☆」

 

「ね☆…じゃないよ。そんなんで誤魔化せると思ってるの?じゃあ、ここからはこっちの番ね」

 

もういいや、これ以上は埒があかない。敵か味方か分からない候補の一人である心ちゃん…俺の持つ情報と突き合わせて判別しないと。

 

「まず野薔薇の土地は勿論、反賀町は全域立ち入り禁止区域として規制されてた。だから一部の人間以外は野薔薇の家どころか反賀町にも入れないはずだ。でも心ちゃんは魔物と戦闘中の俺を保護したと言った…矛盾してるよね」

 

俺の言及に対して、一瞬表情を引き攣らせる心ちゃん。さぁ、納得のいく説明をしてくれ。

 

「…そっか、やっぱり分かっちゃうよね。じゃあ、ちゃんと説明するけど…信じてくれる?」

 

「話してる内容がよっぽどトンチンカンじゃなければ、それが真実だと証明できるなら…信用する。さぁ、話してくれ」

 

俺からのパスは出した。ここから先は隠し事一切無しのぶつかり合い。あとは心ちゃんが俺を信用して真実を話すのか、何か言いくるめる為の策でも用意してるのか。

さぁ、どっからでも来い。

 

「…もう知ってるかもしれないけど、心は魔法使いに覚醒したの。その中でも情報に関する魔法が得意で、お兄ちゃんのことが気になってすぐに調べたの。そしたらね、変なことが分かったの……お兄ちゃん、研究施設と第7次侵攻…合わせて2回も死んでるんだ。ねぇお兄ちゃん、これってどういうことなの?お兄ちゃんは何で“まだ”生きてるの?」

 

…はっ?心ちゃんは、一体何を言っているんだ。俺が、もう死んでる…だと?じゃあ、今ここにいる俺は何者なんだよ…!

 




【裏世界の第7次侵攻の記録】
本日、グリモアの生徒が突如霧の嵐に巻き込まれる事案が発生した。これは無事帰還した生徒の証言を簡易的にまとめた報告書である。

・グリモアの生徒である「転校生」が霧の嵐によって裏世界の第7次侵攻に居合わせる。裏世界の風飛大深度地下に「転校生(裏世界)」の身柄があるという情報を裏世界の霧塚 萌木の魔法により発見。

・第7次侵攻中の学園内に侵入者の存在あり。抵抗するも生徒会役員の服部 梓(裏世界)により鎮圧、生徒会長の水無月 風子(裏世界)の元へ連行されるもその後の足取りは不明。(拷問の末、死亡?)

・侵入者の情報を補足すると、学園内の一部生徒の中に侵入者と面識がある者が少数いた模様。何れも幼少期に知り合ったとされるが侵入者の姿がその当時のものと同一であった為、どういう原理なのか又或いは何故同じ姿だったのか鋭意調査中である。
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