グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【続・佐伯 優子の決意】

……はい、そう言うわけで退職させてもらいたいんです。いえ、病院に不満があって辞めたいんじゃないんです。ただ、それよりも…やらなきゃいけないことが出来た…という方がしっくりくるかもしれません。へっ?け、結婚じゃないですよぉ!?私、まだ22ですよ!まだまだ独身を謳歌しますぅ!もぉ〜、全然寂しそうじゃないですよねぇ?でも、そっちの方が私らしいかもしれないですけどっ。えっ?これから何をしたいかですか?それはですね………結婚、かなぁ?


第四拾伍話 取り込む 魔法使い

①仲月 さら&結城 聖奈編

 

「…裏世界の大垣峰のゲートか。あの時は俺と我妻 梅、それにつかささんの3人がかりでやっと太刀打ち出来るくらい魔物が強かったんだよな……今回はそれとは比べ物にならないくらい強力な魔物がわんさかといるはずだ。今の俺に、どこまでの力が出せるだろうか…?」

 

ゲートを超えて裏世界の大垣峰へと到着したグリモアの一行は、合流予定の裏世界の武田 虎千代とパルチザンのメンバー、それに加えてもう1人の見知らぬ女性と落ち合った。その様子を遠巻きに見ていた俺は、今回の執行部の通達の文面に改めて目を通す。

 

「クエスト参加の報せ……内容はゲート到着後、最前線にて魔物の殲滅及び同クエストに参加する他の生徒の護衛か。要するに1番危ない所で戦って最悪他の生徒の身代わりになって死ねってことだろ?こんな時代になってまで何でこうも排他的なのかねぇ…」

 

毎回毎回俺に死のお誘いメールを送りつけてくる執行部には本当に頭を悩ませる。これなら単に暗殺の1つでもしてもらったほうがまだ気持ちは晴々とするってもんだ。あくまで自分たちは面倒を被る事なく正当な理由で俺を排除したいらしいな……まぁ、グリモアの生徒が奴等の手先でないことだけでも安心材料としては申し分ないか………うおっ!?

 

「JCくんっ!うぅ〜…すっごい久しぶりだよぉ!」

 

「…いきなり抱き着いてくるのは相変わらずなんだな、さら」

 

突然背後から衝撃を受けた俺は若干呆れ顔でその相手に向かって振り返る。するとそこには、俺の身体に腕を回したまま満面の笑みを浮かべるさらの姿があった。本来なら最後に会ってから2ヶ月程度しか経過していないのだが、時間停止の影響で1年以上会っていなかったことを考えるとさらの言うところの凄く久しぶりという感覚が正しいのだろう。

 

「えへへ、だって我慢出来なかったんだもん♪」

 

俺の呆れ顔など気にする訳もなく、ただただ俺に会いたかったと真っ直ぐに打ち明けるさら。今回の裏世界探索はパルチザンのメンバーも何人か参加するとのことだが生憎知り合いはさらだけで、そのさらが俺の護衛という役割を買って出たらしい。これでも一応レジスタンスのリーダーなのに、そんなに個人的な思いで動いてていいのか?

 

「むむっ、その顔は“そんな自由奔放に動き回ってて大丈夫なのかな?”って思ってるね?私がこの1年間、何もしてなかったと思ったら大間違いだよ!」

 

ぷく〜っと頬を膨らませて抗議してくるさら。妙に可愛らしかったので試しに指で突っついてみると、ぷふーっと空気が抜けた。さらは顔を蒸気させて抗議の意味も込めてなのか、身体に回していた腕の力をより強めてきた。うぐぐ…っ、痛いし何か柔らかい…。

 

「もぉ!真面目な話なんだから茶化さないでよっ。あのね、JCくんのことをパルチザンのメンバーにずっと説明して回ってたんだけど、結論から言うと……ほとんどのメンバーはJCくんのことを信じようとしてくれてるの。でも、まだ何人かは“スレイヤー”って事で協力を拒んでいるみたいなの。私もずっと説得を続けているんだけど本人たちの意思は固いみたいで、もしかしたら私の声は届かないのかもしれない…」

 

「こっちの桃世 ももみたいなことか…」

 

「うん……彼女はスレイヤーによる被害を間近で見てたから、話を聞いてただけの私たち低学年組よりその恨みは強かったみたいなの。あまり力になれなくてごめんね…」

 

先程とは打って変わって、見るからに落ち込んだ様子で俺にパルチザンの現状を教えてくれるさら。1年以上も俺の為に説得を続けてくれたことを考えれば、その殆どを説得してくれた時点で感謝以外の思いは湧いてこない。

 

「…何言ってんだよ。ずっと説得を続けてくれて、力になれないどころか大助かりだよ。こんな俺なんかの為に頑張ってくれて、本当ありがとう」

 

俺は向き直して、感謝の意味を込めて優しくさらの背中に手を回す。その身体は俺なんかよりずっと小さくて華奢で力を込めればすぐに壊れてしまいそうなくらい繊細に感じた。その当人はといえば、俺の腕の中で小さく声を上げた後に静かに抱きしめ返してくれた。一向に顔を上げてくれないのは真っ赤になっているのを俺に見られたくないから必死に隠してると信じたい……でも息遣いとか鼓動の速さで緊張してるのが分かるよ?

 

「…おい、そろそろ出発するぞ。そのくらいにしておけ」

 

背後から聞きなれない声が聞こえてくる。声の方に振り向くと、そこには特徴的なバイザーを装着した女性が不機嫌気味な表情を浮かべて立っていた。しかし、その冷静沈着ぶりとは裏腹に面積の小さい布一枚で上半身を僅かに隠しているという過激な服装をしていた為に俺は慌てて視線を逸らす。すると、俺の状態を察してくれたのかさらが女性の前に立って胸元が隠れるように配慮してくれた。ふぅ…何であんな過激な格好をしてるんだ?目のやり場に困るぞ……う、うぐっ!?

 

「うわぁあああっ!?JC、見るなっ!?それ以上“こっちの私”を視界に入れるなぁああ!!」

 

「ゆ、結城テメェ…!?」

 

何処から現れたのか急に俺の視界を塞ぐ聖奈さん。ぐぅっ!?首が絞まる…っ!

 

「今すぐ記憶から消せっ!いや、消してくれ…お前の望みを何でもきいてやるから頼む!?」

 

「うぐぉ……だったら今すぐ手を離しやがれェ!?」

 

「む、無理だ!?手を離したら、み…見えてしまうじゃないか!」

 

「は、話が違ェ…!?」

 

「…こいつらは一体何をやっているんだ?」

 

「あ、あはは……多分“乙女の恥じらい”ってやつじゃないのかな?」

 

聖奈さんに背後から首締め(に近い目隠し)を決められて、その様子を冷ややかな目線で眺めている裏世界の聖奈さんと困惑気味にフォローするさら。う〜ん、この状況は中々にカオスだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②武田 虎千代編

 

「JC、来てくれっ。お前に紹介しておきたい人がいる……といっても、アタシもJCも過去に一度会っているんだがな」

 

聖奈さん騒動を紆余曲折を経て解決した(逃げてきた)俺は、少し先を歩いていた虎千代さんに声を掛けられる。その言葉に従って近くに行くと虎千代さんの隣に更に大人びた虎千代さんに似た誰かが立っていた。

 

「久しぶりだな。あの頃と全く同じ姿で現れるとは……おい、何だその手は?」

 

「…いや、何故か無性にあんたの尻を引っ叩きたくなってしまってな。別に深い意味は無いんだが」

 

すっと手を掲げると、何かを感じ取ったのか急に自分の尻の部分を手で押さえる裏世界の虎千代さん。あぁ、やっぱりか……まだあの時(金的)のお仕置きは身体が覚えているみたいだなぁ?

 

「JC……だ、駄目だぞ?あの頃はまだ子どもだったから良かったもので、大人になったこっちのアタシにそんなことしたら色々駄目なんだぞ!?あ、あなたもそう思うだろう?」

 

「…あの時の衝撃は今も鮮明に覚えているさ。アタシの尻に一撃が入る度に全身に電流が走る感覚が忘れられない……JC、といったな。お前さえ良ければ今回のクエストが終わったら、もう一度アタシをお仕置きしてくれないだろうか…?」

 

「な、何でだ…!?」

 

虎千代さんが同意を得ようと話題を振るが、裏世界の虎千代さんは何故か恍惚の笑みを浮かべながらあのスパンキングをしてほしいと俺に懇願してきた。こっちの虎千代さんとの掛け合いが漫才みたいで面白いな………痛い痛い痛い痛い。さらさん、無言で脇腹つねらないで。

 

「お前は分かっていない!アタシはあの時、未熟ながらもこの男に可能性を感じたぞ。この男の拳には魔を討ち払う輝きが宿っていることを……さぁ、お前もこの男の平手打ちを受けて感じ取るんだ!ほら、早く尻を出さんか!」

 

「いや、ちょっと待て!?こんな公衆の面前でそんな破廉恥なこと……む、無理だ!JC、助けてくれ!?」

 

俺の目の前で虎千代さんの尻を露出させようと脱がしに掛かる裏世界の虎千代さんと、必死に抵抗する虎千代さん……表と裏で性格が変わるのなんて結希さんの時で耐性ついてるから、もう驚きもせんわ。

 

「…生憎だが、俺にそんな趣味は無いもんでね。他を当たってくれ」

 

当然だが、この非常時にそんな茶番に付き合う訳もなく俺はさらを連れて足速にその場を立ち去った。それにこれ以上あの場に居たら、さらが不機嫌を通り越した末に俺の身体が破壊されてしまう。さらは俺が他の女の人と仲良くしてると分かると、決まっていつも不機嫌になるんだよな……いつもの優しいさらの方が好きなのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③○○○ ○○○編

 

「さら…さっきから気になってたんだけど、あの場違いってくらいに清楚な女の人は?」

 

「えっ?あぁ…あの人は「裏世界の私だ」そうそう、生天目さんなんだよ……って、何だ知ってるんだったら聞かないでよ」

 

「……いや、俺一言も喋ってないけど」

 

俺とさらの会話に自然に入って来たのはいつの間にか俺の背後に立っていたつかささんだ。ということは、あの遠巻きに見ても分かるくらいに透き通った白い肌に腰まで伸びつつもしっかりと手入れされた艶やかな髪、落ち着いたドレス風の服装というこっちのつかささんには微塵も感じられない女性らしさを持ち合わせているこの女性は裏世界の…?

あっ、目が合った……と、思ったらこっちに近づいて来た。

 

「あの…もしかして、あなたはJCさん…ですか?」

 

「…えっ?あぁ、そうだけど……あなたはつかささん、で合ってるんですよね?こっちの世界の」

 

恐る恐る質問すると、裏世界のつかささんは胸に手を当てたまま俺にずいっと身を乗り出して暫しの間、まるで何かを品定めするように小さく唸りながら観察する。な、何だ…?

 

「…はっ!申し訳ありません。一度、そのお顔を拝見しておきたかったもので。実は私とあなたは初めまして、じゃないのですよ。あっ、勿論会うのは初めてなのですけど……うふふ♪」

 

上品に笑う裏世界のつかささんの印象は品があって包容力のある美人さんといった所だろうか。少し悪戯っぽい性格なのか、ついつい彼女のペースに合わせていると手玉に取られそうになる。恐るべし。

 

「初対面でこういうこと言うのも失礼だと思うんですけど、こっちのつかささんとは随分性格が違うんですね」

 

「あぁ、そのことですか……道中でそちらの私と少しお話をさせていただきました。確かにおおよその道筋は同じようなものを歩んでいるようですね。特に兄の戦死を機に好戦的な性格に豹変してしまったと聞いています」

 

その話は以前、つかささんから投げかけられた言葉と同じ内容であることを思い出す。確かお兄さんは国軍の兵士だったと言っていた様な……だとすれば、このつかささんのお兄さんも?

 

「…ふふっ、あなたの考えていることを当ててみせましょうか?恐らく“裏世界の私も兄を亡くしているのに、どうしてこうも違う成長を遂げているのか”…でしょう?それはですね……JCさん、あなたのお陰なのですよ」

 

優しく微笑む裏世界のつかささんだが、俺に明確な心当たりが無い為に少し狼狽してしまう。

 

「お、俺?いや、そんなはずは……だって俺、一度もつかささんと会ったことないのに」

 

「動揺するな。以前、表世界の大垣峰のゲートを確保した際にお前に聞いただろう。過去に国軍の兵士を助けたことがあるか?と。そして、お前はこう答えた。“第6次侵攻の最中の北海道で出会った女の子を国軍の兵士に保護してもらったことはある”と……これが裏の私との決定的な違いを生んだ原因だ」

 

こっちのつかささんに補足されて、何故このような歴史の唸りが生まれてしまったのかを理解する。そうか…あの時全く意識していなかったけど、真代ちゃんを保護してもらった兵士がつかささんのお兄さんだったのか。どうやら図らずして運命の岐路に立たされていたらしい。

 

「まぁ、こういう時代だから兄はもう亡くなってしまっているんですけどね。でも、その最期を戦場で孤独に迎えるんじゃなくて大切な家族に看取られることが出来たから、後腐れなく逝けたと思ってます。それに……私にも大切な目標が出来ましたし」

 

「目標?それは一体…」

 

俺が問いかけると、裏世界のつかささんは自信満々に答えた。

 

「あなたのように誰かの為に手を差し伸べられる人間になること。それが兄から私へ託された願いであり、私が今も戦える理由です」

 

真っ直ぐに見つめられて俺は思わず彼女の強い意志に言葉を失った。グリモアに在籍していた彼女なら、俺という存在がどういうものかちゃんと理解しているはずだ。いや、彼女に限った話ではない……それは虎千代さんにも言えることだ。彼女たちにとって忌むべき存在であるスレイヤーとしての俺に対して、仲間として迎え入れてくれるというのだ。そんな、そんなことってあるのか…。

 

「だが、戦力としては問題ないのだろうな?貴様やあの虎千代は余計な感傷に浸り過ぎているように見える。もっと言えば、魔物に対する憎悪が足りないはずだ」

 

つかささんが予想と反してこんなにも上品な自分と対峙すると思っていなかったのか、その強さについて厳しく言及する。しかし、当の本人は何処吹く風といった様子でくすくすと笑っていた。

 

「うふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。これでも今日まで生きてきたんですから。それに、私も虎千代さんもそうですが……力を出す為に必要なのは相手を憎む心だけじゃありませんから。時には誰かを思いやる優しさが思いがけない力を発揮させるのです。後ほどそれをお見せしましょう。あっ、それとですね…」

 

裏世界のつかささんはそこで一旦言葉を止めて、俺に聞こえるだけの声量で耳打ちをしてきた。

 

「(あなたのことは……私が必ず守りますからね♪)」

 

そう言って、俺に優しく微笑む裏世界のつかささん。その妖艶な笑みに不覚にもドギマギしてしまった。この後、さらに無言で尻をつねられたことは言うまでもない。お尻痛い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④???編

 

「…よし、ゲートが見えてきたな。それにしても到着まではアタシとつかさだけが戦うはずが、まさか過去の自分たちに獲物を横取りされるとはな。その強さ、当時のアタシたちよりも強いぞ?そうだよな、つかさ」

 

「えぇ、そうですね。少々荒っぽいところはありますが、魔物における経験の差は今の私たちとそう大差ないかもしれませんね。これでもう少し女の子らしい振る舞いを心がけて頂ければ、今よりもっと魅力的な女性に近づけるでしょうに…」

 

「まさか、つかさに女らしさを説かれるとはな……自信なくなってきたぞ」

 

「心配するな。こいつは私であって私ではない。あくまで可能性の1つに過ぎん……どういう訳か実力は期待通りなのが解せないがな」

 

俺の目の前で表裏の2人がたわいもない会話を繰り広げている。ゲート到着までの道中、この4人のみで殆どの魔物を殲滅していったのを目の当たりにしている他のメンバーは、やはり武田 虎千代と生天目 つかさという魔法使いは規格外だと改めて認識せざるを得ない。一応後ろには始祖十家の我妻 梅とフィンランドの何とかっていう魔法使いが控えているんだが、一切協力は求めないようだ。というより必要無いんだと思う……出現する魔物の殆どがタイコンデロガ級に相当するとしてもだ。

 

「うわぁ……2人とも、とんでもなく強いんだね。こっちの2人が別格なのは分かってたけど、多分それに負けないくらいの実力だよ」

 

「俺もここまで力をつけてたなんて知らなかった……本当にあの2人には限界なんか無いのかもしれないな………っ!?さら、危ないっ!!」

 

隣で感嘆の意を込めた言葉を漏らしていたさらに同調していると、不意に死角からよからぬ気配を感じて咄嗟に隣にいたさらを庇う様に飛び退く。すると、俺たちの居た場所に銃弾の様なものが撃ち込まれていた。いや、これは……植物の種?

俺はすぐに緑の力を発現させて、携帯している空の拳銃を緑の弓に変化させる。そして、一瞬の静寂を経た後、僅かに空間の歪んだ箇所を見つけそこに弓による圧縮空気弾を放つ。すると、撃ち込まれた箇所の歪みが次第に広がっていき、中から以前に対峙したあの魔法使いがその姿を現した。

 

「…あ〜あ、折角アレに気付かない内に殺してあげようと思ったのに。人の厚意を無視すんなよなっ」

 

「ぐっ…スレイヤーか、こんな所にまで現れるなんてしつこい野郎だぜ……一体何が目的だ!」

 

目の前に現れたのは表世界の病院で優子さんを襲ったあの魔法使いだった。今までの魔物ならいざ知らず、魔法使いの天敵とも言えるスレイヤーが相手では流石にグリモアを代表する魔法使いといえど分が悪い。それに彼女たちにはゲートを閉じるという使命がある……だったら俺がやるしかない!俺は赤の力に変化させて、虎千代さんに先にゲートへ向かうように要請する。

 

「虎千代さん、あいつは俺が引き受けます。その間にゲートの方をお願いします」

 

「ま、待て!そんな簡単に……アタシも加勢するぞ」

 

虎千代さんが私情に任せて俺に加勢しようとするが、隣にいたさらが冷静に宥めた。

 

「武田さん、今は堪えて。あなた達はあなた達の世界を救うことだけを考えて。その為に武田さんは無理をしてでもゲートを閉じる方法を教えるのよ」

 

「ぐっ……すまない。だが必ず助けに戻るぞ!」

 

さらの口添えもあって、虎千代さん達一向は渋々ながらもゲートに先行して行った。そっちは任せました、スレイヤーの相手は同じスレイヤーである俺に任せてください。

 

「……さら、君も向こうを手伝ってくれ。ここは俺が」

 

「何言ってるの。今日の私はJCくんの護衛だよ?それに、君を苦しめるなら誰だって私の敵なことに変わりはないんだからっ……駄目?」

 

口元をきゅっと結んで上目遣いで俺に懇願してくるさら。うっ…そんなのされたら強く出られないじゃないか。

 

「…あのさぁ、どーでもいいんだけどいつまで待ってなきゃいかんの?」

 

スレイヤーの心無い言葉が俺たちの……主にさらの怒りの沸点をMAXに引き上げてしまった。

 

「うるっさいわねっ!!今良いところなんだから邪魔しないでよ!!」

 

「…いや、年寄りの色恋話とか死ぬほどどーでもいいし…ヒィッ!?」

 

す、凄い…あのスレイヤーがさらの威嚇で怯んでいる!?がるる…って、シローみたいなことするんだ。

 

「だ・れ・が“年寄り”ですってぇ〜?お姉さん、でしょう?さぁ呼んでみなさいよ…お・ね・え・さ・ん!ほらっ!」

 

「…っ!?だ、誰が……お前なんかボクのお姉ちゃんじゃない!今日はむしゃくしゃするから相手してやるよ、JACKAL!」

 

以前までの余裕は微塵も感じられない程、感情を露わにするスレイヤー。よし、気持ちが乱れている今なら何とか勝負になるかもしれない。

 

「くっ…相変わらず凄い魔力だ……!さら、このスレイヤーは幻術の魔法を得意としてる。姿が見えても迂闊に攻撃しちゃ駄目だ」

 

「…本物に見えても幻ってわけね。ふっ…!どう対処すれば良いの?」

 

神出鬼没を体現するかの様に一瞬で姿を消したり、攻撃を食らわせた次の瞬間には別の場所に現れて死角から攻撃を仕掛けてくるなど自ずとこっちは防戦一方になる。

 

「実は、これといって対処法がある訳じゃないんだ…うおっ!?」

 

「えぇ!?じ、じゃあどうやって戦うつもり…きゃっ!?」

 

居るはずなのに姿が見えないスレイヤーの攻撃に翻弄されつつもギリギリで躱して、お互いに勝機を探る俺とさら。緑の状態もあまり長時間の持続性が無いことが欠点でここ1番の時しか頼れない。何か、何か手は無いのか……?

 

「あはははっ!そうやって避けてるだけじゃボクには勝てないよ!」

 

余裕を取り戻したのか、躱すので精一杯の俺たちを煽るスレイヤー。何処から放たれるか分からない種の銃弾……一瞬だけでも動きを止めることが出来れば…。

 

「…ねぇ、JCくん。さっきから何か聞こえない…?何かこう“鈴”の音みたいな」

 

「えぇ…?そういえばさっきからチリンチリン…これってあいつが音出してるのか?」

 

さらに言及されて今まで失念していた鈴の様な音が聞こえることに気づく。以前病院で対峙した時は一瞬だったから全然気づかなかったけど、そう言えば奴が姿を見せる瞬間に数秒だけ聞こえる気がする……もしかして、奴はまだ冷静さを取り戻していないのか?だったら……これが勝機になるかもしれない!

 

「さら、とっておきの秘策を思いついた。協力してもらってもいいかな?」

 

背中合わせにお互いの死角をカバーし合う体勢からさらに協力を申し出る。半分賭けみたいな作戦だけどこの方法ならきっと…!そんな俺の思惑が通じたのか、さらは嫌な顔することなく快諾してくれた。

 

「勿論だよ。それで私は何をすればいいの?」

 

さらは障壁の魔法をかけながら俺の考えに耳を傾けてくれる。負担かけてごめん…。

 

「俺がさっきの鈴の音を頼りに奴の出現ポイントを特定するから、さらはそのポイント一帯を覆う様に雷撃魔法を放って奴の動きを止めてほしい。その間に俺が攻撃をする……さらを頼るよ」

 

「…きゅん♡」

 

今回のポイントはさらの雷撃魔法に掛かっていることだ。雷の魔法は総じて高威力だが制御が難しい……しかし、一度でも嵌ればその効力は絶大だ。そこにもう1つの狙いがある。

このままさらの意識が正常を保ってくれれば安心なんだけど…。

俺はもう一度緑の力を発現させて、時折僅かに聞こえる鈴の音の位置を探る。意識を集中させれば奴の動き方が鮮明に見えてくる……時間はほぼ正確に5秒おき、そして聞こえる範囲は規則的且つ螺旋状に周期している……だとすれば!

 

「……さら!2秒後、前方右斜め30°に雷撃魔法を!」

 

「う、うん!これでも食らいなさいっ!!」

 

指示された方向に詠唱済みの雷撃魔法による広範囲攻撃を行うさら。攻撃されたその一帯がある意味電磁フィールドと化して逃げ場は無く、攻撃を止めるまで範囲内に残存する全ての物質を半永久的に焼き払う。そこには俺の予測通りあの空間の歪みも生じており、維持出来なくなったのか中からあのスレイヤーが遂に姿を現した。

 

「ぐぅ…!?く、糞ッ!!何だこれは……動けない…!?お、お前ェ…!」

 

「……よぉ、スレイヤー。まだまだ元気そうじゃねぇか?だったら俺からもこいつをプレゼントしてやるよ……ウオォオオリャアアッ!!!」

 

雷撃によって動きを拘束されたスレイヤーに俺は追撃を加える為、あえて自分もそのフィールド内に足を踏み入れる。当然、さらの本気の雷撃魔法は痛くないはずもないが、紫の力を発現させている俺には耐えられる上に痛みによる強化の作用も施されている。例えスレイヤーといえど、この一発は死ぬほど痛いだろうぜ…!

 

「ブグッ…!!くぁ…カハッ……!?」

 

俺の放った渾身の右ストレートはスレイヤーの顔面を真っ直ぐに捉えて、その身体ごと勢い良く吹き飛んでいった。初めてまともに攻撃が通った……これなら流石にスレイヤーでももう起き上がることはないはずだ。

 

「JCくん!!自分から攻撃範囲に入っていくなんて聞いてないよ!危ないじゃない!」

 

さらが俺に掴み掛かって迫ってくる。うっ…やっぱ言わなかったの怒ってるか。

 

「ご、ごめんって……だって言ったら本気で攻撃しないと思って」

 

「うぅ……そうかもしれないけど、でも私ってそんなに信用無いかな…?」

 

さらの潤んだ瞳が俺の良心をチクチクと痛めつけてくる。これは俺が謝んなきゃならんよね…多分。

 

「そんなことない!なんだかんだで付き合いの歴が長いし、連携だって取れるし…凄く安心するんだ」

 

「そういうことじゃないんだけどなぁ………あっ、でもそれって仲間を通り越して“恋人”……いやそれよりもふ、”夫婦”ってことじゃ…!?私とJCくんが………えへへっ♪」

 

何か凄い勢いでさらが勘違いしてる気がするんだけど……一応、怒ってないみたいだから上手く伝わったのかな?

そんな俺たちの間を引き裂くようにまたもやあの声が聞こえてきた。その出どころは……目の前で地面に倒れ伏しているスレイヤーからだった。

 

「……くふっ、ふふふっ…!あ〜あ、あんなに強く殴るから顔が崩れちゃったよ…」

 

雷撃によって皮膚は焼け爛れ、俺の拳によって顔面は砕かれてもはや形を保っていないスレイヤー。もうこれを人と呼んでもいいのかすら分からないくらい醜悪な姿をを見せているスレイヤーだったものはその場で身体を起こし、ゆっくりとこちらに向き直す。まだやるつもりなのか…?

 

「…いい加減に負けを認めなさい。もうあなたに勝ち目は無いわ」

 

さらが降伏を申し入れるが、スレイヤーはさっきまでの余裕のある口調とは打って変わって淡々と俺たちに言葉を投げかけてきた。

 

「降伏…まぁ、いいや。今日はこれくらいにしておいてあげるよ…ボクの“お人形”を倒した記念に良いことを教えてあげるよ。ゲートを閉じる魔法っていうの期待してるみたいだけど、あれってゲートから噴き出す霧を吸収して人を魔物に変えるっていう何の意味も無い魔法なんだよ。それに……ボクなんかに構っているから余計な犠牲者が2人も出てしまったようだねぇ…ふふっ、早く行って代わってあげないと魔物に変わってしまうよ、JACKAL」

 

「それって、どういう……っ!?」

 

さらが途中で言葉を詰まらせた。無理もない……一度に大量の魔力を消費した上に、スレイヤーが目の前で身体の節々が肉片となってボロボロと崩れ去ったのだ。崩れ去る最期の瞬間まで奴は……笑っていた。何て惨い死に方だよ…。

俺は口元を手で覆っているさらに駆け寄る。

 

「さら、大丈夫?何処にも異常は無い?」

 

「…うん、ちょっと気分が悪くなっただけで少し休めば大丈夫。それよりもさっきの言葉が気になるの。武田さんなら心配いらないとは思うけどゲートへ向かってもらってもいいかな?何か上手く言えないんだけど……胸騒ぎがする」

 

さらの直感がスレイヤーの言葉を警戒しろと警鐘を鳴らしているみたいだ。ゲートを閉じることが人を魔物に変える……俄には信じられないけど、だからといってあのスレイヤーの言葉がでまかせとも思えない。確かめるには直接見に行くしかないか…。

 

「…分かった、さらはここで休んでて。待機組には連絡しておこうか?」

 

「ううん、それくらい自分で出来るよ。心配してくれてありがとね」

 

そう言ってさらが俺に笑いかける。ごめん、物事に優先順位つけて。確か待機組には我妻 梅や薫子さんがいたはずだ。2人に任せれば大丈夫か…。

 

「そんなの気にしないで、仲間を心配するのは当たり前だから」

 

「……やっぱりそういう意味じゃないんだけどなぁ」

 

口を尖らせてむくれるさら。こんなこと言ったらまた怒られるかもしれないけど、むくれるさらって何故か二頭身くらいに見えて……何か可愛い。本人には言わないけど。子どもっぽく見られるのを嫌がってるって知ってるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……虎千代さん、つかささん……これは、一体……こんなのって…!?」

 

スレイヤーの言葉を危惧したさらに促されてゲートへ向かった俺は、そこで思いがけない光景を目にした。それはスレイヤーの遺言の通りに裏世界の虎千代さんとつかささんの2人がゲートから噴出する大量の霧をその体内に吸収していたのだ。別れてからすぐに吸い始めたのならもう相当の量の霧を取り込んでいると思われる。このままだと魔物に変わって……!

 

「ガアッ…!?グゥ……悪いナ、つかさ……オマエまで、付キ合ワセテ…シマッテ……ウアァッ!?」

 

「くっ…いいえ、私が好きでしていることですのでお気になさらず。ですが、少々苦しくなってきましたね……こんな痛みをあなたは今まで、我慢してきたのですね……感服しますよ」

 

お互いを鼓舞する様に言葉を投げかける裏世界の虎千代さんとつかささん。表面上では余裕を装っているけど、もう限界だ。虎千代さんに至っては魔物化の兆候が現れ始めている。駄目だ…2人まで失ったら裏世界は本当に崩壊してしまう。何より…もうこれ以上目の前で誰かを喪いたくない!

 

「……ぐぅっ!?くぉっ!こ、このォ…ッ!!」

 

『JC(さん)…!?』

 

気がつけば俺は2人の隣に並び立ち、2人が請け負っていた霧の吸収を自ら引き寄せる。大丈夫、多分俺は死なないはず…!致死量の失血だって耐えられたんだ、霧を取り込むくらいなんて事無いはずだ!!

 

「JC!お前は退がれ!ここはアタシ達で終わらせなければならないんだ!」

 

「そうです!それにあなたはこれからの戦いに必要な存在です。此処で失うわけにはいかないのです!」

 

俺の行動によって正気に戻った2人が俺を制止するように言葉を投げかけてくるが、その言葉…そっくりお返しするぜ。この2人以上に必要な人間が居るか?いーや、そんな人間は考えつかないね。だからもっと自分の価値に気づいてくれ。

 

「…五月蝿ェ!!病人は大人しく休んでろォオオ!!グアァアアッ!?」

 

俺は2人をゲートから突き放してその一身に霧を受け持つ。紫の力を発現しても殆ど痛みが変わらない…!?それに、何だコレは…!?俺のとは違う全く別の思想が頭の中に入ってくる…!?

 

「痛ミ、苦シミ、全テノ…命ヲ贄トシ…掴ミ取ルノハ血塗ラレタ……終焉ノ刻……脅威ハ去リ、新タナ時代ヲ生ム……ダガ、争イハ終ワラナイ……生キ残ッタ命ガ全テノ安息ヲ崩壊サセル……ウッ、ヴゥウウッ!?」

 

俺は、俺はどうしたんだ…?心の中はこんなにも鮮明に意識を保っているのに、何でこんなにも邪悪な衝動に駆られている!?いや、違う……まさかこれが今まで俺たち人類が戦ってきた霧の正体なのか!?だとしたら、これは霧という存在の意思……?

 

「人間ガ……我ニ抗ウ術ヲ持ツトハナ……我ノ思惑以上ニ、人間トイウ生物ハ………愚カナ醜イ存在ダッタカ…!」

 

そうか…さっきの虎千代さんの不可解な言動は、この体内に入り込んだ霧によって引き起こされていたものだったのか。しかし、正気に戻ったことでその症状も消え去った。ならば解決方法は1つ……俺自身が体内に入り込んだ霧に打ち勝つことだ。

 

「ガアッ…!?グッ、ククゥ……ま、負けねぇ…お前ナンカニ、絶対負けねぇ…!魔物ニなって、タマルかぁ…!?うぅああおおおぉ!!!」

 

俺は叫びと同時に体外に噴出しようとしていた霧を全て体内に押し込める。魔物になんか変わらない、その為には体内に霧を押し込め身体に順応させる以外に方法はない。今までに成功例は無いけど、どういう訳か今の俺にはそれが出来るような気概で溢れていた。

そして、その結果……俺はゲートから噴出した全ての霧を体内に取り込むことに成功した。しかし、その代償として……俺という人格の支配権を賭けて体内に混在する霧との暗く長い戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【殺戮者達の会合】

「…ちぇっ、もうゲームオーバーか。まさかあんな古典的な方法で見破られるとはねぇ」

「JACKALと戦ったそうだな。それで…“今回の”奴は如何だ?」

「んー?まぁ今までのよりは幾らかマシって感じじゃないの?君と一緒で頭の出来が悪い脳筋みたいだからさ。くっくくっ…!」

「貴様…如何やら死にたいらしいな。女と思って手加減してやったが、もうその必要は無さそうだ……奴と戦う前の肩慣らしに貴様を血祭りにあげるとしよう」

「ふふっ……ボクもお人形が壊されてむしゃくしゃしてたところなんだ。君が相手なら遠慮なく殺れそうだ♪」

「……君達、仲間内で揉め事は起こさないでくれないかな」

「あぁ…?おい部外者が口出しすんじゃねぇ………っ!?」

「そうだそうだ!1番歳上だからってリーダー面すんなよな………ぴっ!?」

「面白い……ならば試してみるか?今にどうなるか、身をもって知るがいい」

「な、何て目してんだよ…!?ジョーダンに決まってんだろ!本気にすんなよな!」

「フン……所詮は貴様も我々と同じ血に飢えた獣か。良いだろう、貴様に免じて此処は引き下がろう。だが…いずれ貴様とも戦うことになるだろう」

「…そんなことないよ、僕たちは仲間だ。同じ地獄を生き抜いた者、そして今度はあの子も救ってあげるんだ」

「アンタ、狂ってるよ……本当」




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