グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い   作:自由の魔弾

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【異変】

「はい、これで無事に受理されたわね。佐伯ちゃんの顔を見れるのも今日が最後かぁ〜……悲しいなぁ」

「先輩、まだ業務あるんですから泣かないで下さいよっ。ほらメイク落ちちゃいますよ?」

「うぅ……ごめんねぇ!佐伯ちゃんみたいな良い子がいなくなっちゃうと思うと、私……ぐふぅ!」

「うわぁ…ひどい顔になってますよ。一回メイクし直さないと先生とか患者さんびっくりしちゃいますから!」

「あぅ……あっ、書類提出しに行かなきゃいけないんだった。じゃあね!またいつでも会いに来て良いんだからね!?」

「はい!それじゃまた!ふぅ…先輩、美人なのに結婚出来ないのってああいうところなのかな?あっ、そうだ……今度いつ来れるか分からないもん、最後に一度心ちゃんに会っていこうかな……んっ?これさっき先輩が持ってた書類だ。知らないうちに落としちゃったのかな……えっ!?な、何これ…どういうこと!?何で心ちゃん………脳死判定から植物状態判定に切り替わってるの…!?」






第四拾八話 色話せよ 魔法使い

「……海老名、もう一度ゴーレムを頼む。今度のはもっと硬い奴にしてくれ」

 

「そうかしら?今のも結構自信あったのだけれど……えいっ!」

 

私は魔法で周囲の土を巨大なゴーレムへと変化させます。けれど、これでもう20体近く造っては壊してを繰り返してるけど、JCさんは全然休憩しないのよねぇ……熱心なのは良いことだけど、また具合悪くならないか心配だわ。あ、そうそう。何でこんなことになってるのかを説明しておかなきゃいけないわね。

あの日いきなり歓談部に訪れたJCさんは私に特訓相手のお願いをしてきたわ、それも年度末の3月31日までの空いてる時間をほぼびっしりと……女の子の予定を強引に確保するなんてJCさんって意外と肉食系なのかしら?因みに何で年度末までなのかというと、JCさんが学園長である寧々ちゃんに限界まで休めるのはいつまでかを直談判しに行った結果、“3月はお花見とかする予定だから学園生は強制参加!あやせお姉ちゃんはともかくお兄ちゃんは不良だから本当はもう何日も休めないんだけど、ネネが理事のおばちゃんを説得してあげるね!だってこの前の魔物からお兄ちゃんがみんなを助けたくれたんでしょ?だから特別っ!”なんですって。愛されてるわね〜……あの寧々ちゃんを懐柔するなんて一体どんな魔法を使ったのかしら?

 

「はあああぁぁ………くぅ…!うあっ!ぅおりゃぁああ!!」

 

そんな私の思惑を他所に、JCさんは何やら気を高める様な素振りを見せてゴーレムの頭部と心臓部だけを狙って何度も攻撃を繰り出す。防御力を格段に上げて造ったのに簡単に壊しちゃうんだもの……やっぱりあの“髪色が変わった”のが何か関係してるのかしら〜?

 

「JCさ〜ん、そろそろ休憩しましょうよ〜?」

 

「はぁっ!てやぁあ!!」

 

あら〜?JCさん、熱中していて聞こえていないのかしらぁ?

 

「あまり根を詰めると、また寝込む羽目になっちゃいますよ〜?」

 

「くっ……うぉおおわああ!!」

 

むぅ……何か無視されてるみたいで悲しいわぁ……ちょっとだけ意地悪しちゃおうかしら。

 

「えいっ。もぉ……そんなに自分を虐めたら駄目よ。暫くゴーレムはお預けですっ」

 

「なっ……おい海老名、話が違うぞ!?この期間中は俺に協力する約束だった筈だろうが」

 

私が魔法でゴーレムを土に戻すと、JCさんから抗議の声がすぐさま飛んできました。そうですそうです、もっと私に関心を持って下さい。

 

「いーえ、私はそんなことは一言も言ってませんわ。それに1ヶ月以上ずっと同じことの繰り返しで少し飽きてしまいましたし………そうだ!これから学園の近くで有名なお花見会場に行こうかしら〜?そっちの方が楽しいかもしれませんものね〜」

 

「そんな………分かったよ。無理に付き合わせて悪かったな。海老名の都合も考えないで俺の要求ばかり通すのは虫が良すぎるもんな……それに俺となんか一緒に居ても息苦しいだけだしな」

 

「…へっ?あ、あの…JCさん?別にそういう訳じゃ…」

 

何やら話が良からぬ方向に進んでいるみたいです。何でですか……そんな哀しそうな顔しないで下さい。何故か見ているこっちまで胸が苦しくなってしまいそうです…。

 

「いいんだ気にしないでくれ。俺が勝手言い過ぎたのが悪いんだ、海老名は何も悪くない。学園長には後で俺から言っておくから、花見楽しんでこいよ……じゃあな」

 

そう吐き捨てて、踵を返すJCさん。その背中は深い悲しみを物語っていて、とてもじゃないけれど放っておくことなんか出来そうにありません!私は急いでJCさんの手を掴み、弁解を試みます。

 

「ち、ちょっと待って下さい!さっきのは言葉の綾で本心ってことじゃないんです!だから、そんな寂しいこと……言わないで下さい…」

 

今の私はきっと動揺し過ぎて感情が上手く表現出来ていないかもしれません。だって、あんな顔を見せられたら誰だって……それにさっきまでの艶々としていた赤髪もすっかり元の黒髪に戻っていますし。

 

「…海老名は優し過ぎるんだ。だから俺なんかにも申し訳ないって感情が湧いてくる。でもそれは本当に感じることなのか?だって海老名に非は無いじゃんかよ」

 

「で、ですが……」

 

「…大丈夫。俺、1人でももっともっと強くなるからさ。漸く新しい感覚が掴めてきたんだ、あと少し……何かきっかけがあれば今より強くなれる。そんな気がするんだ」

 

そう言って、私に微笑むJCさん。でも、その笑みはどこかぎこちなく心の奥底から笑っていないことが痛いほど伝わってきます。私の所為でJCさんを追い込んでしまったのね……彼が不器用なのは分かってたことじゃない。なのに何で私は……JCさんに意地悪をしてしまったのでしょう?心のモヤモヤが無くなりそうもありませんわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、話してもらうぞ。間ヶ岾が言っていたことは真実なのか?」

 

グリモアの修繕作業が間もなく完了する頃、私はメアリーを引き連れて生徒会室に赴いていた。目的は武田 虎千代に間ヶ岾の言葉の真意を確認する為だ。先の戦闘中、霧の魔物と化した間ヶ岾は“転校生は裏世界でムサシへ変化し、甚大な被害を齎した”と遺言を残した。もし仮にそれが真実であるならば精鋭部隊として看過する訳にはいかない。学園内に魔物が存在すると認められたなら、執行部から討伐命令が出されるだろう。その場合、精鋭部隊は転校生を……だからこそ、学園の考えを知る必要がある。

 

「……間ヶ岾の言葉は、真実だ。確かに裏世界の転校生はムサシへ変貌し、街を壊滅させた。それはマーヤー・デーヴィーの一件で確定している」

 

「チッ……また得意の隠蔽工作かよ!」

 

武田 虎千代の言葉を受けて、メアリーが我慢出来ずに憤慨する。私も同感だが、今は耐えてくれ。私達にはより多くの情報が必要なのだ。

 

「メアリー、抑えろ。それで、これからどうするつもりだ?精鋭部隊としては、上から命令が出されれば討伐ということにもなりかねんぞ」

 

「それは……絶対にさせん。転校生はあくまでグリモアの生徒、生徒を守るのは生徒会長であるアタシの役目だ。現在、東雲や朱鷺坂、宍戸……それに伊賀忍者やネテスハイムにも魔物化の仕組みについて調査してもらっている。それが解明すれば転校生がムサシへ変わるのを阻止できるかもしれない」

 

「へっ……そんな夢物語見てて良いのかよ?その口ぶりだとまだその方法も見つかってねぇんだろ?」

 

メアリーの追及に一瞬、押し黙る武田 虎千代。しかし、再び口を開いたその瞬間……先程までの弱気な姿勢は消え失せ、強い意志を秘めた瞳と共に言葉を言い放った。

 

「…今年の9月、それまでに必ず見つかる。絶対に転校生を見捨てることはしない!」

 

これは……出まかせや言い逃れの為の言葉では無さそうだな。確たる方法は無いが本気度は伺える。その証拠にさっきまで憤慨していたメアリーも、一瞬だけ口元に笑みを浮かべていたしな。

 

「……そうかよ、だが覚悟だけはしとけよ。他力本願でどうにかなる様な簡単な問題じゃねぇってことだけはよ。マジでどうしようもなくなった時は……アタイが転校生を撃つからな」

 

メアリーはそう言い残して生徒会室を後にする。全く、素直じゃない奴め……安心したのならそう言えばいいものを。

 

「…幻滅、されたかな」

 

「気にすることはない。アイツの口が悪いのは生まれつきだ……それより私からも聞いておかなければならないことがある」

 

「あぁ、情報はなるべく共有しておいた方が良いからな。何でも聞いてくれ」

 

よし、許しが出たか……ならば、ここからは本題といこうか。

 

「先日の間ヶ岾との戦闘で見せたJCの戦い振り……あの異常なまでに飛躍した戦闘力は何だ?あれが以前から言っていた“スレイヤー”だというのなら、私は転校生よりも優先して対処するべきだと思うが?」

 

「…っ!お前!?」

 

私の言葉に動揺しているな……まぁ、これは私の本心ではなく執行部からの通達なのだがな。だが特筆すべきは我々が束になっても足止めするのが精々だった間ヶ岾を1人で打ち倒した戦闘能力と霧を取り込んだ状態から1ヶ月で復活した驚異的な回復力だ。

 

「勿論、JC自身が自分を制御出来ないのならば……という条件付きだがな。私個人としては奴に興味がある、だからこそ間違った判断はしたくない」

 

「アメディック……お前、いやアタシは誤解していたみたいだ。てっきりお前も執行部の命令でJCを排除しようとしているのかと…」

 

「ふっ……私がそこまで冷血に見えるか?確かに命令に従うのは軍人の務めだ。だが、今の私はグリモアの生徒……友人の身を案じるのは当然だろう?」

 

私がそう言って微笑むと、それを見た武田 虎千代もやけに嬉しそうな顔を見せる。こうも表情が変わると何故か面白いな。

 

「それで、当の本人は何処にいるんだ?復帰してから直ぐに何処かへ向かったとは聞いているが…」

 

「あぁ……確か裏世界に向かったと言っていたな。何でも“修業”をしに行くとか。それがどうかしたのか?」

 

「……いや、何とか不安から抜け出してほしくてな。あそこまで完膚なきまでに実力差を見せつけられて凹んでいるかと思ったが、それは杞憂に終わりそうだ」

 

JCの実力は世界的に見てもかなり高いものになっている筈だ。だとすれば綻びを見せるなら内面……それも精神的な部分だろう。まだ以前の様に学園生と触れ合っていないと聞く。それが乖離を促進させる要因にならなければ良いのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……先輩、また何処かに行っちゃった。元気になったのは嬉しいですけど、これじゃ生殺しですぅ…」

 

購買部のレジで1人項垂れているのはあたし、桃世 ももです。先輩の具合が良くなったことは風の噂で聞いたので、まずはホッとしてます。でも、その後暫くしてまた何処かへ行ってしまいました。何でも“海老名先輩と一緒に居る所を見た!アレは絶対にデートだ!”なんて言う人もいたけど、あたしはそうは思いません。だって、あたしの知ってる先輩はそんな節操なしじゃないもん!確かに女の子には甘々な所もあるかもしれませんけど、それは先輩が元々優しすぎる性格だからであって……でも、海老名先輩ってすごくおっとりしてて雰囲気も穏やかで大人の女性って感じだもんなぁ。あたしと違って美人さんだし、胸も大きいし………はっ!だ、駄目駄目!そうやって直ぐに人と比べちゃいけないの!あたしは純粋に先輩を心配してるだけなんだから!

 

「も〜も、何1人で百面相してんのよ。さてはま〜た“愛しの先輩”のことでも想像してたでしょ〜?」

 

「ツ、ツクちゃん!?も、もう…揶揄わないでよぅ!あたしは先輩がまた何か悩んでるんじゃないかって心配なだけで…」

 

「ふ〜ん……あんた達、もう付き合っちゃえば良いのに」

 

「……ふぇ!?つ、付き合う!?あたしと、先輩が……ふわぁ…」

 

「ちょ、もも!?鼻血!鼻血出てるから!どんだけハードな妄想したのよ〜!?」

 

ツクちゃんが慌ててポケットティッシュで拭いてくれます。でもでも!あたしはそれ以上に興奮しちゃってます!だって、あたしと先輩がこ…恋人になるってことだよね!?朝は並んで登校したり、お昼は手作りのお弁当を一緒に食べたり、放課後は勉強を教え合ったり街に遊びに行ったりしても良いんだよね!?門限いっぱいまでウィンドウショッピングを楽しんだり、それでもちょっと足りなくて先輩の声を聞きたくて夜電話してみたり……耳元で囁かれているみたいで少しくすぐったいけど、すごく幸せな気分になっちゃいます。先輩……あたし、会いたいです。先輩といっぱいお喋りしたいです。先輩の笑った顔、いっぱい見せて下さい……じゃないとあたし、切ないですよぉ…!

 

「…そういえば、さっきあやせ見たわよ。でも、JCの奴は一緒に居なかったけど「そ、それ!何処で見たの!?」わっ!?な、何よいきなり大声出して……えっと、確か訓練所を出てすぐにすれ違ったから“学生寮”の方に行ったと思うけど……って、もも?何でツクにエプロン渡してるの?」

 

「あたし、海老名先輩に会って先輩のいる場所聞いてくる!だからツクちゃん、代わりに店番お願いね〜!!」

 

「えぇ!?ち、ちょっと待ちなさいよ〜!ツク、店番とかやったことないんだけど……って、聞いてないじゃないのぉ!もぉ〜!?」

 

ツクちゃん、ごめん!でもあたし、もう何もしないことに我慢できないの。先輩だってきっと誰かに寄り添ってほしいって思ってる筈だもん。例えそれがあたしじゃなくても……ううん、今はそんなこと考えない。とにかく先輩に会って話さないと!

全力で走っていると、目的の学生寮が視界に入ってきました。海老名先輩の部屋は……あっ、あそこがそうかな?つい勢いで来ちゃったけど、なんて声を掛ければ良いんだろう…?

そんなことを考えて海老名先輩の部屋の前で悶々としていると、不意に扉が開きました。中から出てきたのは当然、海老名先輩です。

 

「……あらぁ、桃世さん?私の部屋の前でどうしたの?」

 

「あ、あの…!海老名先輩にお話しがありますっ。実は…!」

 

あたしがそう言いかけた時、海老名先輩は何かを察してくれたのかあたしの言葉を遮って部屋の中に招き入れてくれました。

 

「待って、その先は部屋の中で聞くわ。さぁ…どうぞ」

 

「えっ?は、はぁ……失礼します…」

 

海老名先輩に促される様に部屋にお邪魔するあたし。もしかして、海老名先輩も何か聞いてほしい話があるのかな…?

 

「はい、これ簡単なもので悪いけど……」

 

「あっ、新茶…ありがとうございます。あの、それでお話しなんですけど…」

 

「分かってるわ……JCさんのことでしょう?」

 

うっ、やっぱりバレてる!?そうだよね、いきなり押しかけてくるなんてそれしか考えられないもんね……よしっ、ここは当たって砕けろだよね。

 

「はい……年明けくらいからずっと意識不明だった筈なのに、学園が魔物に襲われた時はそんなの感じられないくらい元気だったと聞いています。でも、あたしにはそれがすごく不安なんです!どうしてか分からないけど……また先輩は何処かに行っちゃう様な気がして……海老名先輩は先輩と一緒に居たんですよね?先輩から何か聞いてませんか…?」

 

「そっか……だからあんなに強くなろうとしてたのね。あっ、ごめんなさい。桃世さんが心配している様なことは無いはずよ。ただ、多分焦っているんだと思うわ。桃世さんはこの前の襲撃で今までにないくらい強い魔法使いが現れたことは知ってるかしら?」

 

「……はい。直接見た訳じゃありませんけど、先輩でも敵わないくらい強かったって誰かが話してるのを聞きました。もしかして、それが原因なんですか…?」

 

あたしがそう聞いた瞬間、海老名先輩は何故か少し悲しそうな笑みを浮かべました。

 

「……さぁ?私が知ってるのはここまでなの。それに、もうそれ以上は聞けないかもしれないし……さっきね、振られちゃったの」

 

「えっ!?そ、それって…」

 

あたしが言わんとすることを理解したのか、海老名先輩は急にわたわたと手を振って慌て始めました。

 

「…あっ、違う。違うのよ!?そういう意味じゃなくて、JCさんを怒らせちゃったってだけで別にJCさんのことは何とも……いや、JCさんのことはどちらかと言えば……す、好き…だけど……って私、何言ってるのかしらぁ!?」

 

「海老名先輩……可愛いです!」

 

いつもみたいな余裕たっぷりの海老名先輩と違って、1人の男の子のことを想って取り繕うと空回りしている年頃の女の子チックな今の海老名先輩は普段の何倍も可愛いです!でも、こんなに可愛い人を振っちゃうなんて先輩って意外と選り好みが激しいんですね。それでもあたしは諦めませんけどっ!

 

「も、もぉ……そんなに揶揄わないで頂戴っ!でも、真面目な話……JCさんは思い詰めている節があるみたいね。今回の“特訓の件”についてもいきなりやって来て“月末まで付き合ってくれ”って言ったと思ったら、結局私のゴーレム目当てだったみたいだし………少しくらい私にも感心持ってくれたって良いのに」

 

「あ、あはは……先輩ってちゃんと話すとすっごく誠実って分かるんですけど、意外と思わせぶりな発言多いですからね〜」

 

「…あらぁ?その口ぶりだと桃世さんはものすっ〜ごくJCさんを信頼してるってことになるんじゃないかしらぁ?と言うか、信頼よりも“親愛”?“LOVE”?んふふ、どっちにしてもJCさんがだ〜い好きってことよねぇ〜?」

 

ものすごく嬉々とした様子であたしを弄り始める海老名先輩。あぅ……な、何でそんな話になるんですか〜!?

 

「あっ、あの……その……えっとぉ………はいぃ……///」

 

「んふふ〜、良いこと聞いちゃった〜♪そっかそっか〜、JCさんってば隅に置けないなぁ〜」

 

「あぅあぅ〜!誰にも言わないで下さいよぉ〜!?特に先輩には絶対内緒ですよぅ!?」

 

「あらあら〜、素敵なことなのに……あっ、そうだ!JCさんに謝りに行くついでに桃世さんが非常にひっじょ〜に心配してたわって知らせてあげなくちゃ♪」

 

「絶対駄目ですぅ〜!!!」

 

海老名先輩って、やっぱり謎だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よく、来てくれました。こちらの世界は、あなた達を…歓迎、しま…す……くっ、くくっ!もぉ〜!!我慢出来ません!仲月さん!今すぐJCさんから離れて下さいっ!」

 

「ねぇ、JCくん……もう身体は大丈夫?何処か動かすの辛かったら私が付きっきりで看病するから遠慮なく言ってね?」

 

「……さら、気持ちは有難いけど無視は良くない。水瀬、怒ってるからさ」

 

「あっ…ごめんなさい。久しぶりに会えたからつい……えへへ♪」

 

そう言って妙に可愛らしく笑いかける裏世界の仲月さん。こちらの仲月さんと非常によく似ていて愛嬌溢れる女性に成長した様子ですね。ですが、目の前でJCさんにべたべたと抱きつくのは全く別問題です。いきなり2人揃って裏世界から帰ってきたかと思った途端にこの始末です。元々グリモアとしては彼女たち裏世界の住人を受け入れる準備を整えてきましたが、流石に全員一度にこちらに来るということは無かった様ですね。

 

「今回は私だけです。いきなり全員で押しかけても困るでしょうし……それに、素直に提案を呑める程まだ心に余裕がない人たちが大勢いるから」

 

「…そうですか、心中お察しします。ですが、こちらも現在大変な事態に見舞われていて対応が遅れそうなので、正直なところ助かります」

 

「…どういうこと?」

 

間ヶ岾が学園を襲撃したことを報告するべきでしょう。しかし、それには付随するウィッチ……双美 心の死についても触れる必要があります。ですが、何故かこの話題に触れてはいけない様な気配を感じます。特にJCさんの前では……。

 

「さら、俺は先に部屋に戻ってる。また明日からの特訓メニューを考えなければいけないから……用があれば寮まで来てくれ。水瀬もじゃあな」

 

「あっ……JCさん!」

 

私の呼び止める声にも反応せず、歩いて去ってしまいました。むぅ……学園に戻って来てから少し冷たいですね。昔は“薫子さん 薫子さん”って無邪気に駆け寄ってくれたのに……あの頃のJCさん、凄く素直で可愛らしくてまるで弟が出来たみたいで嬉しかったですわね。今はあの頃よりもずっと逞しく身体も筋肉質になって男性らしく頼もしい殿方に成長して、少し恥ずかしい気持ちになりますね。でも、以前の様なとっつき易さはあまり感じられなくなっていて、結構寂しいですね……。

 

「もしかして、あなたもJCくんにラブラブな感じかな?」

 

「…っ!?な、何を仰るのですか!?私は別に……そ、そんなこと……」

 

こ、この人は突然何を言っているのでしょう!?何故いきなりそんな話になるのですか!?た、確かにJCさんのことはお慕い申しておりますけれども……私ってそんなに分かりやすいんでしょうか?

 

「ん〜?そうなのかなぁ……私はJCくんのこと、大好きだよ!いつも一生懸命で誰かの為に頑張れる人、でも色んな女の子に優し過ぎるのはちょっと頂けないかなぁ」

 

「あっ、それ分かります。本人にはその気は無いでしょうけど、結果的に好意を持たれるきっかけになることが多い様ですし……」

 

「分かるぅ〜!いつの間にか知らない女の子と知り合いになってて、しかも超〜仲良さげにしてたりするの!そのくせ後で問いただしてみると、“新しく出来た友達なんだ”ってすっごく目キラキラ輝かせて嬉しそうに報告してくれるの。それ見たら私もう何も言えなくなっちゃって……」

 

「それは……同感です!異性とはいえ友人を作ることは大切なことです。それ自体はとても喜ばしいことなのですけど、同時に何故か心が晴れない様な感覚と言いますか……そういう方に限ってJCさんに好意的な視線を向けていることが多いですし、かと言って私が勝手にヤキモキするのも烏滸がましいと言いますか…」

 

お互いの情熱を交わした私たちに一瞬の静寂が訪れます。そして、どちらからともなくお互いに差し出した手を握り締めて、ニィと笑みを見せます。

 

「…どうやら私たち、気が合いそうですわね」

 

「えぇ……でも、JCくんを譲るつもりは無いよ。だから、お互い頑張ろうね♪………すっごく強敵だけどね、JCくん」

 

「そう、ですね……ピュア過ぎるというか、鈍感というか……でも、そこがJCさんの良い所です」

 

「そぉ〜なの!すっごくいじらしいけど、すっごく可愛いんだよねぇ〜♪」

 

お互い話題は尽きない様ですね。恋敵の筈なのに険悪な感じはしませんし、同じ人を好きになることは、意外にも悪いことばかりでは無いのですね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい海老名、何でこんな所に連れて来られてる?」

 

「えぇ〜?お話ししましたよねぇ。新しい特訓の方法を思いついたと〜」

 

海老名と別れた数日後、暫く連絡を取っていなかったのだが唐突に呼び出されたのは風飛市にある有名な花見会場。確か、あのお子様学園長も3月は花見をする予定があると言っていた気がするが……まさか、今日がその日なのか?

 

「それがこれか?悪いが俺には花見なんてしてる時間は無いんだ。だから帰「さぁ、行きますわよ〜」えっ?ちょ、おわっ!?」

 

何やら良からぬ気配を感じ取った俺は即座に立ち去ろうとしたが、ガッチリ腕をホールドされて連行されてしまった………あまり言いたくないけど俺の右腕を両腕で抱きつく様に抱える海老名だが、その……胸が結構な感じで押し当てられてるんだ。本人が自覚しているのかどうかは知らないが………少し顔を見て確認しておくか?

 

「……うぅ…///」

 

……はっ?な、何か凄い顔赤くなってないか?風邪か?これ、止めなくていいのか?

 

「お、おい海老名……あんた、熱あるんじゃないのか?だったらこんなことしてないで病院行こうぜ?」

 

「…はい!?そ、そんなことありませんわ〜!?おほほほ〜…」

 

無理くり勢いで誤魔化そうとしている海老名。あんた、普段そんなことしないじゃんかよ……絶対何か企んでるよな?これ逃げるか……いや、そしたら具合悪そうな海老名を置いて帰ることになるのか。どういう理由があって俺を連行したのかは知らないが、それを無視して放っておくのも気が引けるよな…。

 

「無理するなよ、こんなに顔真っ赤になってんじゃんか」

 

「きゃっ!」

 

本当に体調が悪いなら休養させるべきだと感じた俺は、空いてる左手で海老名の左頬に添える。すると、突然触れられて驚いたのか軽く悲鳴を上げられた。でも、多分熱は無かった様に思えたのだが……それでもちょっとショックだな。

 

「あ……ご、ごめんなさい。いきなり触るからびっくりしちゃったわ〜…」

 

「……あぁ、悪い。やっぱり俺、帰るわ……あ、新しく考えた特訓メニュー、試さないといけないから…」

 

俺は気まずくなった空気を感じ取ってやはりその場を立ち去る為に来た道を戻ろうとしたが、唐突に海老名によって腕を掴む力が増した。

 

「だ、駄目です!これは、その……そう!辛いことにも耐える訓練と言いますか……だから、逃げないで下さい!」

 

「っ……!逃げる?俺が?何から逃げるって言うんだよ……放せって!」

 

俺は無意識のうちに力がこもってしまい、若干振り解く力が強くなってしまう。少し強引に振り解いてしまい、バランスを崩す海老名。駄目だ、これ以上ここに居たら海老名を傷つけてしまう。今すぐここを離れなければ…!

 

「…ま、待って下さい!あの、行かないで下さい……JCさんがお辛いのは、分かりますから……そんなに自分を責めないで下さい」

 

振り向き様の俺の背中を抱き締める様に止める海老名。ど、どういうつもりだ?俺が辛いのが分かるだと?そんなことない、そんなことあるはず……。

 

「私は大丈夫ですから……どうしても嫌なら、せめて少しだけでも私とご一緒して下さい……お願いします…」

 

きゅっと口元を結んでそう懇願してくる海老名。その目にはうっすら涙が浮かんでいる……一体何を知っているんだ?

 

「……他の学園生もいるんだろ?だったら俺なんか誘う必要無いじゃんか」

 

「そんなことありません。私はJCさんと一緒にお花見をしたいと思ったんです。ずっとじゃなくても大丈夫ですし、時々でも良いのでご一緒させて下さい。もしみんなと会うのがお辛ければ、私が人通りの少ない場所を手配しますので……どうかJCさんの側に居させて下さい」

 

海老名の抱き締める力が少しだけ強くなる。今日のあんたはどうしてこうも強引なんだ?これじゃ俺が頷くまでそうしてるつもりなんじゃないだろうな……仕方ないか。

 

「……また、特訓付き合ってくれんなら…いいけど」

 

「…っ、はい!じゃあ早速行きましょう〜♪」

 

俺の返事に気を良くした(?)のか、海老名が再度俺の手を引いて花見会場の中へ歩みを進める。暫く歩くと会場のかなり奥まった場所に案内された……確かに人通りも多くないし景観も良い様だ。所謂“隠れスポット”と言われる場所みたいだ。

 

「じゃあ私はシートと飲み物を持ってきますので、ここで待ってて下さいねっ。少し時間が掛かると思いますので、もしお暇でしたら辺りを見て回っていても大丈夫ですわ〜」

 

有無を言わさず海老名がパタパタと何処かへ駆けて行った……まぁ、また特訓に付き合ってくれるのなら少しくらい羽を伸ばしても良いのか?

 

「あの〜、そこのお兄さん?今、お一人ですか〜?」

 

「えっ……あ、まぁ…一応そうですけど…」

 

そんなことを考えていると、不意に誰かに声を掛けられた。視線を向けると明るい茶髪の活発そうな女性とその後ろにクールめな蒼髪の女性、そして更にその背後に若干怯えながらこっちを覗き込んでいる黒髪の女性がいた。

 

「本当ですか!あたし達近くで飲んでるんですけど、良かったらお兄さんも一緒に飲みましょうよ〜!」

 

「いや、でも俺未成年だし…お酒飲めないですよ…?」

 

「えっ、そうなんですか〜?お兄さん、すっごく大人っぽいから同い年くらいだと思いました〜!えっ、お兄さんいくつですか?」

 

「えっと……18、ですけど」

 

「えぇ〜!歳下なのぉ!?や〜ん♪あたし、すっごいタイプ〜!ねぇねぇ、絶対一緒に飲も〜よ!ほら、ノンアルコールもジュースもあるし……駄目?」

 

どう…しようか?でもまぁ、断る理由も無いし海老名も暫く戻って来なさそうだしな……あと、この人めっちゃ酒臭い。多分後ろの2人もベロンベロンに酔っ払ってるっぽいんだけど……そういうのって裏世界でミナとか恋みたいで何か放っておけないんだよな。酒はストレス発散の為に飲むんじゃ〜!って言ってしな……この人も酒で誤魔化すくらいストレス抱えてるんだろうな、きっと。

 

「まぁ、連れが来るまでの間だけなら…」

 

「やったー!じゃあ、ほらほら早く行こうよ〜!2人とも〜、この子一緒に飲んでくれるって〜」

 

俺の手をグイグイ引いて近くのシートまで連れて行く茶髪のお姉さん、そして先に着いていた2人が座る場所と飲み物(ノンアルコール)を譲ってくれる。あっ、俺本当に飲むのね。

 

「ほら、こっちに座ると良いよ。ごめんね、急に巻き込んでしまって」

 

「あぅ……ご、ごめんなさい〜。私、男の人苦手で…」

 

「はぁ、そうですか。でも、俺なんか誘って良かったんですか?」

 

「もういーのいーの!女3人で飲んでたってもう何〜も面白くないんだから!そ・れ・に……君みたいなイケメン漁るのも楽しそうだし♪そういえば君、名前は?」

 

「えっと、俺はJC…って言います。名字は無いっていうか記憶の一部が喪失してて分かりません。皆さんは?」

 

「あたし?あたしは赤城 さくら、23歳!“さくらちゃん”もしくは“さくらお姉さん”って呼んでね♪じゃあ次は百合ちゃん!」

 

「ボクかい?まぁ、いいけど。ボクは青山 百合、因みにここにいる全員は同い年でみんな幼稚園の先生だよ。最後は椿だね」

 

「は、はいぃ……私は黄瀬 椿ですぅ…。あの、その……は、恥ずかしいので、あまり見つめないで下さい〜っ!?」

 

三者三様の反応を見せるこのお姉さん方。楽しそうな人たちだ…。

 

「それじゃあお互いの自己紹介も済んだところで、あたし達の出会いを記念して祝杯をあげたいと思いま〜す!みんなグラス持って〜……せーのっ」

 

『乾杯〜』

 

さくらさんの合図でお互い持っていたグラスを突き合わせ、俺以外の3人がグラスを一気に煽る。うわ〜、3人とも良い飲みっぷりだ…。

 

「んくっ、んくっ……ぷは〜っ!休日の昼間から飲むお酒、最っ高〜♡桜も綺麗だし〜お酒も美味しいし〜……それに何と言っても、歳下イケメンとご一緒してるのが大きいよね〜!うりうり〜、もっと近ぅ寄りんさいよ〜」

 

「いや、俺は別にここでいいんで……うわっ、酒臭っ!」

 

酔っ払ったさくらさんが俺の身体に腕を回して絡み付いてくる。うっ、胸が当たってます…。

 

「ハハハッ、さくらは相変わらずだなぁ。そうやってまた彼氏くんに振られたんだろう?」

 

「そ、そうだよぉ……それにその子も困ってるみたいだし…」

 

「むぅ〜!何よ何よ百合ちゃんも椿ちゃんも!この子はあたしがゲットしたんだから、最初に楽しんでも良いでしょ!ねぇ、君もそう思うでしょ?それとも……あたしじゃ駄目?」

 

ウルウルした瞳で俺を見つめるさくらさん。百合さんも椿さんも変に煽るの止めて下さいよ……仕方ないな。

 

「いや良いとか悪いとかそういう問題じゃなくて……そんな簡単に知らない男に近づいちゃ駄目です。その人がもし悪い人ならどうするつもりですか?」

 

「んーっ、それがそうでもないんだよねぇ。さくらが好きになるのって決まってみんな性格の良い優男ばかりなんだよ。そういう意味では人を見る目はあるかな」

 

「さくらちゃん、いつも言ってるよね……付き合ってもエッチまでいかないで別れられちゃうって」

 

「あたしのプライベートダダ漏れ!?うわぁああん!慰めてよぅ!JCく〜ん!!」

 

そう言って俺に泣きつくさくらさん。酒の勢いに任せてなのか随分と俺に対してのボディタッチが激しくなる……あっ、そこ駄目。さすさすしないで……あぁ!!

 

「ふわぁ……JCくんって意外と筋肉質なんだねぇ。腕も太くて逞しいし……ていうかすっごいカチカチだよねぇ!もしかして腹筋も割れてる?」

 

「は、はぁ……まぁ、それなりには……ひぃ!?」

 

やけに目をギラギラさせて俺の方を睨むさくらさん。気がつけば百合さんと椿さんも同様の視線を俺に向けていた。やばい、何か嫌な予感がする…!

 

「ねぇねぇ、これ触っても良いかな?ていうか良いよね?あたしの方がお姉さんだもんね?」

 

「い、いや……それはちょっと…って、百合さんと椿さんもさくらさんのこと止めて下さいよ!?」

 

「…いや〜、実はボクも君に興味があってね。少し我慢してくれればすぐに済むと思うからさ」

 

「あぅ……ごめんね?ちょっとくすぐったいかもしれないけど」

 

「やっ、それマズいって!ちょ、服捲らないで……うひゃあっ!?」

 

マズいマズいマズいマズい!?今公衆の面前でそんなことされたら、隠し持ってる拳銃が見つかってしまう!弾は装填されてないが学園外での携帯及び使用は非常時以外認められないし、そもそも俺は学園に許可すらもらっていないから最悪の場合一発で逮捕されてしまう恐れが……かと言って俺から手をあげる訳にはいかないし……あぁ〜!どうすればいいんだぁ!?

 

「……JC、さん?一体、何をなさっているのですか……?」

 

「っ…!え、海老名……助けてくれ!この酔っ払いどもが」

 

海老名の方を向き直してそう声を掛けた俺だったが、海老名の顔を見た瞬間にそれ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。別にこの酔っ払い三人衆が俺に何かした訳じゃなく、単純に海老名の表情が鬼の様になっていたのが怖過ぎて黙っただけだ。

 

「JCさん、何を黙っているのですか?私はただJCさんの為にお花見用のシートと食べ物を取りに行った私を放っておいて何をしていたのかと聞いているだけですわ〜」

 

海老名、そのニコニコ具合が本当に怖い。何でそんなに怒ったんだよ…?

 

「むぅ〜…あなた!JCくんの何なの?まさか彼女じゃないよね?」

 

「か……あ、当たり前です!私はJCさんと同じ学園の生徒というだけで、別にそれ以上の関係では……」

 

発言の途中でどんどん尻すぼみになっていく海老名。おい頼むからちゃんと最後まで言ってくれないと聞こえないじゃんか。

 

「ふ〜ん……じゃあこのままあたし達がJCくんと遊んでても問題ないよね?良かった〜!百合ちゃん椿ちゃんこの後どうする?お家、連れてっちゃう?」

 

「…さくら、ちょっと待って。ねぇ君、さっきJCくんと同じ学園って言ったよね?もしかして2人とも……“グリモア”の生徒なのかな?」

 

ん…っ、百合さんの目つきが変わった?どうしたんだ…?

 

「はい…?えぇ、そうですけど……それがどうかなさいましたか?」

 

な、何だ?さっきまでの和気藹々な雰囲気が一気に消え去ったぞ。よく見たらさくらさんや椿さんまでもがまるで恐怖の存在を見たかの様な顔をしていた。何かあったのか…?

 

「……いや、何でもない。それより、ボク達も用事があるからそろそろお暇させてもらうよ。ほら、さくら……彼を放してあげなよ」

 

「うぇ?うぅ〜…しょうがないなぁ。じゃあね♪ほら椿、ぐずぐずしてると置いてっちゃうよ〜?」

 

「あっ、待ってよぉ……あの、失礼しますっ」

 

3人揃ってそそくさと行ってしまった。何だったんだろうか……って、おわぁ!?

 

「JCさん、まだお話が済んでいませんわ。さっきの続き、聞かせて下さいませ♪」

 

「ぐっ…海老名、首決まってる…!ちゃんと話すから、手ェ放してくれ…!」

 

俺が懇願すると、渋々ながら拘束していた腕を緩める。ふぅ……危うく死ぬところだったぜ。

 

「かはっ…!く、くぅ……良い技持ってんじゃねぇか。今度使わせてもらうわ…」

 

「そんなことはどうでもいいので、ちゃんと話してくださいっ」

 

そ、そんなにぷりぷりしなくても良いじゃんかよ。まぁ、別にやましいことがある訳じゃ無し素直に話すか…。

 

「そんな大したことじゃねぇよ。海老名がどっかに行った後、暇して待ってたらあの人たちが誘ってきたんだよ。別に断る理由もねぇし暫く付き合ってたら、酒の勢いもあってあれよあれよとさっきの状況に……でも、この後用事あるなんて一言も言ったなかったけどな。それに急に態度もおかしくなったし…」

 

「……JCさん、あなた自分がグリモアの生徒であることを教えましたか?」

 

「はぁ…?いや、名前と歳しか言ってないけど……それがどうかしたのか?」

 

俺が何の気無しに問いかけると、海老名は何かを考える様な素振りを見せて周りを見渡した後、静かに口を開いた。

 

「……JCさんは“モンマスの悲劇”のことは知っていますか?」

 

「モンマスの悲劇?何だそれ……聞いたことねぇな」

 

「そうですか……簡単に説明すると、魔法使いと一般人の間に生まれた軋轢のことです。魔法使いは選ばれた存在だ、一般人こそまともだという特異な意識からやがて人間同士の争いに発展してしまったんです。この風飛は魔法使いに寛容な人が多いですけど、中には魔法使いに苦手意識を持っている方も少なくありません。恐らくあの御三方も…」

 

そうか……今の海老名の説明からすれば、俺を魔法使いだと認識していなかったが為に普通に接してくれていたのか。俺が魔法使いだから……拒絶、したのか…。

 

「なんか……それすっごく悲しいな。さくらさん達が悪いわけじゃないんだろうけど」

 

「JCさん…」

 

ヤバいな、気を抜いたら目から涙がこぼれ出てしまう……様な気がしただけだった。大丈夫、最近なんだかそういう気持ちが込み上げることが無くなってきた気がするな。感情の起伏が無くなったとも言うべきなのか?

 

「…うしっ、うじうじ悩んでてもしゃーなしだな!海老名、色々持ってきてくれたんだろ?この際パ〜っと飲んで忘れちまおうぜ」

 

「えぇ!?お、お酒は持って来てないですよ?あ、あと未成年なので飲酒は駄目ですよ〜っ」

 

敢えておちゃらけて見せるとさっきまでの深刻な空気は吹き飛び、普段は温厚な筈の海老名のツッコミが軽快に決まる。結構珍しいよな、海老名のツッコミ。

 

「なぁ、海老名。一つ、言ってもいいか?」

 

「はい?まぁ、あまり失礼なことじゃなければ…」

 

俺ってどんなイメージだよ。そんなに信用ならんのか、俺って。まぁ、いいや。

 

「俺、海老名のこと……信じてるから」

 

「……はい!?な、何ですかいきなり……こ、困ります…」

 

何顔赤くしてるんだ。別に深い意味は無いぞ?

 

「良いんだよ、海老名はそのままで。変なしがらみやら権力やらに囚われないでいつでもおっとりのほほんとしてて、誰かの話を聞いてやる余裕と優しさを持ち続けてくれればよ」

 

「…それ、若干私のこと馬鹿にしてますよね〜?」

 

「いや、それ違ぐぁああっ!?」

 

指が若干変な方向に曲がった気がする。海老名の奴、照れ隠しのつもりなのか。可愛い奴めぎゃあああっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【モンマスの悲劇】
一般人の中には魔法使いを化け物扱い或いは魔物と変わらないとまで言う者もいる。魔法使いと一般人とで軋轢が生じ、イギリスのモンマスで隔離政策が行われたことが語源である。その結果、魔法使いは選ばれし者、一般人はまともな人類と選民意識を強めることになり、やがて人間同士の争いに発展してしまった。このことを教訓とし、現在の魔法使いは一般人に対して魔法を使用することを全面的に禁止することを旨としている。また、稀有な例だが学園生の中でも度重なる交流によって一般人との信頼関係を築いている者もいる。
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