グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
一度登校したきり不登校に陥った引きこもり。寮の部屋でゲームばかりしている。当然、昼夜逆転の生活で不健康さにおいては他の追随を許さない。慢性的な気怠さと頭痛に苛まれてるらしい。低気圧の日は特に酷いとか。普通の人じゃ感じないような濃度の霧でも気分が悪くなる“霧過敏症”患者の一人。
宍戸結希から常々、単位を餌に半ば強制的にあらゆる面で仕事を依頼されることが多い。JCのゲーム指南もその中の一つだが、意外にもJCの脳筋プレイに横から口出しするのは楽しかった模様。
「確かに強くなりたいとは言ったけどぉ…」
前回までのあらすじっ!僕、JCは見知らぬ女の人に強引に拉致され袋叩きに遭い、ボロッボロに負けた悔しさをバネにしてもっと強い力を手に入れることを約束した。でもそのまま山に置き去りにされてわんわん泣いていたところを忍者さんに助けてもらったり、学園に帰ったら薫子ちゃんにめちゃくちゃ怒られたり軽く泣きながら心配させて、ちょっと心がズキズキ痛んだ。
「おい、さっきからぶつぶつ独りでなに喋ってんだよ。宍戸に脅されてわざわざボクが付き合ってやってんだから、サクッとクリアしろよな……ってそこ!レアアイテム取り漏らしてんだろ!罠の上ばっか歩くなよ脳筋かよ!?もっとマップ全体を見ろよな!」
僕の横でギャーギャー騒いで口出ししてくる望さんと一緒に部屋でゲームしています。この状況、誰か説明してくれませんかぁ…?
「だーかーら!なんで武器屋と防具屋素通りするんだよ!RPGの醍醐味0じゃないかよ〜!?終始素手で倒すって脳筋縛りプレイ、今どき流行んないって!」
わなわな震えながら隣で意味の分からない言葉を連発する望さん。文句は言いながらも決して僕からコントローラーを奪うようなことはせずにただただ僕のプレイに助言と言う名の文句を浴びせてくる。そもそもなんでこんな事態になったのかよくわかってなかったので、望さんにいい加減教えてもらいます。
「ところで望さん、結希さんにこの部屋に行くように言われていきなりゲームさせられてるんだけど……それも初対面なはずのあなたを頼れって言われて」
「お前、宍戸の言うこと変だなとか思わなさそうだもんな……だからこそ扱いやすいんだろうけど」
「えっ、何ですって?」
なんか最後の方、急に小声になってほとんど聞き取れなかったんですけど。怖っ。
「…何でもないよ。ボクが宍戸から聞かされてる話で良いんだったら話してやってもいいけど……聞く?」
こくんと頷くと、望さんは部屋に設置してある棚からポテトチップスを取り出して、パーティー開けした流れで1枚ずつ掻い摘んで口に運びながらぽつりぽつりと話し始めた。因みに味はのり塩、基本的に全部一人で食べるから特にパーティー開けの恩恵は無いとのこと……少しくらいくれてもいいじゃないか!
「えぇ…っと、お前宍戸に強くなりたいって言ったんだっけ?そこで何でボクの所に押し付けようって思ったのかさっきまで謎だったけど……お前のプレイ見てたら何となく理由、わかったわ。頭悪そうだもんな、お前」
「えっ、初対面で普通そこまでボロクソに言う?」
僕は普通にショックを受けた。この不名誉に対して慌てて抗議しようとしたところ、望さんが仕切り直してきた。
「いや、勘違いするなよ。頭悪そうっていうのは根っからの馬鹿っていうんじゃなくて、知識が足りないって意味だかんな!」
「それってフォローになってないんじゃ…」
僕の追及に望さんはそこで一瞬詰まる……しかし、何か思いついたことがあるようでスッと顔を上げた。
「お前にゲームやらせろって言い出したの宍戸だかんな?前情報無しでやらせて、プレイスタイルを見極めろってさ。そして見事にお前は典型的な脳筋タイプ、しかも武器も防具もサブイベントも全部すっ飛ばす頑固一徹タイプ」
ムスッとしながら念を込めて送っていると、ここから更に軌道修正を加えてきた。
「そもそもそういうスタイルなのは“そういうものがある”っていう知識自体が無いからだ。だからボクが横で色々口出してサポートしてるんだろ?まぁ、あんまり聞き入れてもらえなかったけど…」
「うーむ、いまいち要領を得ない感じですね…」
相変わらずぴこぴことゲームを進めている僕に同調するように、望さんはベッドにゴロゴロしながら一枚、また一枚と手に取ったポテトチップスを口に運ぶ。どうやら本気でゲームに介入してくるつもりはないらしい。その証拠に食べたら手が汚れるポテトチップスの減りがさっきから止まらない。
「いーんだよ、子どもは大人の言うことを都合のいいように噛み砕いて吸収しちまえば。それに若いうちから頭使い過ぎると、その内ハゲるぞ」
あくまで楽観的な態度でいる望さんに嘆息しつつ、ふとポケットの中のデバイスから呼び出しの電話がかかってることに気がついて応答する。
「アイラさんからだ…はい、僕です。どうかしましたか?」
〈おー、ちゃんとかかったぞ。中々便利なものじゃな、こりゃ……あ、お兄ちゃん、やっほー♪〉
電話相手はアイラさんだった。何故番号を知られているのかというと、ついこの間行われた学園主催のクリスマスパーティーの際に番号交換を済ませておいたのだ。
「アイラさん…素が出ちゃってますよ。あと、思い出したかのように子どもキャラに戻るのやめて下さいよ」
〈ブーブー、相変わらず洒落の分からん奴じゃな〜…お主、今出られるか?ちと、頼まれてくれんか?場所は…〉
一通り話を聞いた後、通話を終える僕。少し考えた僕は、不思議そうに電話の様子を聞いていた望さんにその旨を伝える。
「望さん、ごめんなさい。ちょっとお呼ばれされちゃったので行ってきます。それとゲームなんですけど」
とそこまで言ったところで、僕の言葉は望さんに静止される。
「あー、分かってるよ。ちゃんとセーブしておくから行ってこいよ。お前、結構楽しんでたみたいだしな」
「望さん…」
少しでも楽しんだ気持ちが伝わってて、僕も実は嬉しかったりする。そんな感情を含んだ視線を送っていると、心なしか頰を紅潮した様子でまくしたてた。
「な、何だよ!ボクにだってそういうの、なんとなくだけど分かるんだからな!ほら、さっさと行けよ!」
シッシと手を振って追い出す素振りを見せる望さん。仕方なく部屋を出ようとする僕だったが、ふと望さんがポテトチップスに手を伸ばしていたのを見てある事を思い出し実行する。
「一枚、もらいますよ」
「えっ、ちょ、おま…」
手に持っていたポテトチップスが彼女の口に入る直前でその手をガッと掴んで、僕の口にそれを含んだ。
「…うん。やっぱのり塩好きだなぁ。んじゃ行ってくるね〜」
口をパクパクさせて固まっている望さんに挨拶して漸く部屋を出ようとした矢先、アフターケアをし忘れたのを思い出したので一度閉じかけた扉を少しだけ開けて忠告しておく。
「…食べ過ぎると、太りますよ。気づかないうちにお腹にぷにぷにの柔らかお肉が……なんて事にならないで下さいね?せっかくお綺麗なんだから」
そのまま僕は「ではでは〜」という言葉を皮切りに部屋を出てアイラさんにお呼ばれされていた場所に向かった。望さんの部屋の方でやけに騒がしい物音がした気がしたけど、きんきゅーじゃ!というアイラさんの電話を念頭に置いていたので、急ぐ足を速めた。
「ハァ…ハァ…つ、疲れた……あ、アイラさ〜ん!」
僕が呼び出されたのは私立グリモワール魔法学園の地下に存在する通称“魔法使いの村”と呼ばれる場所で、なんでも霧の魔物が地下からやってくるという過去の推論から造られたらしい。普段授業を受けないアイラさんからの受け売りです。当の本人はといえば…。
「おーい、こっちじゃ〜。何をちんたらしとったんじゃ全く……おっ、その顔は早速彼女ができたな?」
「……いいえ?」
答えると少し意外そうな表情を浮かべる。う、嘘は言ってないよ?
「そうか…?ふぅむ〜……虫の知らせというのは当てにならんもんじゃな。あ、そうそう…お主を呼んだのは聞きたいことがあったんじゃ。ほれ、こっちに来んさい」
手で招かれたのでアイラさんの近くに寄ってみる。すると、アイラさんは耳打ちをしてきた。
「(……もう学園生で童貞を卒業し)『フンッ!!』たのかなァと!?」
何やら良くないことを囁いていたらしく、ヌッとアイラさんの背後から現れたチトセさんにスパァン!という擬音が正しい感じに叩かれていた。
どうやら本気で痛がって叩かれた箇所を両手で抑えて悶えているアイラさんを尻目に、チトセさんはまるで何事もなかったかのように僕に話しかけてきた。
「ごめんなさいね〜、この子の戯れ言は気にしないでね………まったく、私が目を離すとすぐこれなんだから」
「い、いえ…それで、僕に何か用があったんじゃ?」
僕が若干引きつった表情で聞くと、チトセさんはアイラさんに話すよう促す。
「あぁそうそう。ほらいつまでもピヨってないで、ちゃんと説明してあげなさい」
「うぅ〜…あとで妾の代わりに彼奴を引っ叩いてヒーヒー言わせてやってくれ。っとそれはそれとして、実はの、ここの奥で魔導書が見つかってなぁ。いや、それはいいんじゃがその魔導書は特殊な魔法で封印されてて開けなんだわ」
ふんふんと話を聞いてみる。今のところ話の概要は掴めてないです。
「時間をかければ恐らく、いや百パー解除出来るんじゃが妾たちは兎に角その中身が見たい。早く見たいんじゃ。まさしくそれはエロ本の袋とじを開けるが如く!すぐにでも開けられる手段を持っているなら使うに越したことはないと思うじゃろ?」
うんうんと頷いてみる。話は更に難解なモノになってきた。
「……ぶっちゃけ、魔法に耐性があるお主なら何とかしてくれるかなぁと思った次第です、ハイ」
『最後のだけで良くなかった!?』
全てを話し合えての総評。僕とチトセさんはこの結論に至った。僕たちに追及されたアイラさんはといえば“てへっ☆”と可愛らしく舌をペロッと出して誤魔化してた。313歳のわりには頑張っている方だと思う!この前同じ類の話を本人にしたところ、冗談抜きで体組織の半分以上が吸われかけた。しかもみんなが見てる前で思いっきり首筋に喰らいつかれたし……アイラさん、ホント〜に血が好きだよなぁと遠い目をして物思いにふけていると、チトセさんが補足するように説明する。
「…認めたくないけど、私も彼女と同じ意見なのよね。だけど、これからやろうとしていることは私たちにとっても、人類にとっても未知の領域に足を踏み入れることになる。それがどういう結末を迎えても受け入れる覚悟が……貴方にある?」
チトセさんの言葉を受けて、初めて本気で考えてみる。こういう話を前置きしてくるってことは、多分“そういうこと”の可能性が高いんだろうにゃあ〜と勘ぐってみる。が、すぐにそれはやめた。少なくとも自分より頭のいい人たちが考えて決めたなら、その人たちよりも頭の悪い僕がうじうじ悩むことほど無駄な時間は無いだろうかな。そう思った時には既に僕の口は開いていた。
「…うん、わかった。やってみるよ……上手くいかなくても、笑わないでね?」
僕は苦笑気味に戯けてみせる。すると二人も僕の気持ちを汲み取ってくれたのか、思い思いに言葉を返してくれた。
「…私と東雲さんで絶対に魔導書の時間停止の魔法は解く。貴方にも孤独な戦いを強いることになるけど、絶対に追いついてみせるから」
「此奴に協力するのはひっじょ〜に気が引けるが、まぁ仕方あるまい。お主という妾の楽しみの一つが無くなる方がつまらんしなぁ……何よりお主のこれ(小指)としてはな!」
なんだかんだでちゃっかり協力関係にある二人を可笑しく思い、思わず笑ってしまう。
「んじゃ、行ってきます。何かあったら骨は拾って下さい」
僕は一息吐くと、そっと魔導書に触れる。アイラさんの説明にあった魔法の拒む感覚というのが感じられなかった。そして文字通り“開いた”その時、魔導書の中から何かが現れ、僕の体ごと包み込んだ。
それは決して交わることのない世界へ渡ることを意味していた。それを知るのは更に更に先の話である。
【
遺書や遺言、聖書の意。学園地下から発見された魔導書。
この魔導書の表紙に【TESTAMENT】と文字が刻まれていたためそう呼ばれる。
TESTAMENTには時間停止の魔法が掛けられており、封印されていた。封印されていた理由として、この魔導書が裏世界へのゲートとなっていたことが後に判明する。
(例によって魔法に耐性があるJCには、封印の魔法の影響を受けない為、単身単独でのゲート移動が可能)