グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
事案は東雲アイラがJCに対して吸血を行った際に確認されている。詳しい経緯の説明は省くが、JCの血液を体内に取り込んだ際、一時的に魔法の一切が使用不能になる現象が発生した。幸い、少量だった為か症状は半日程度で回復した。それに伴って魔法抵抗力の増強、基礎回復力の向上、感覚神経の極限活性化などのメリットも確認済みである。
しかし、
・魔力腺の活動量の低下による魔法の使用不可
・魔力量の一時的な減少
などの副作用が確認されている。尚、現在この血液を培養実験し、副作用を抑える特効薬の開発も視野に入れて研究が進められている。
「……んっ?ここは…」
気がつくと、僕は見知らぬ土地で横たわっていた。ふと辺りを見渡してみたけど、そこにはアイラさんとチトセさんの姿はなかった。当然といえば当然だったか。あれで失敗しましたとか言われたら悲しくて仕方がない。
「それにしても……なんて淋しいところなんだろう」
僕は自分の目の前に広がっている景色に抱いた感想を吐露した。既に荒廃した街や山には何かが争って出来たと思われる痛々しい傷痕、倒壊したビル群の数々がかつては栄えていたことを寂しげに物語っていた。それに加えてもう一つ、感じていたことがあった。
「それに…もしかして、霧が濃くなってるのかな…?」
そう、体感だけどすこぶる調子が良くなっていることに気がついていた。その証拠にこっちに来る前は疲弊していた身体が、今は嘘みたいに軽く感じる。そういえばさっき望さんから少し聞いた話に似たような話があったのを思い出した。
「望さんの霧過敏症とは少し違うみたいだけど…う〜ん、イマイチはっきりしないかなぁ。あ、そうだ……早く調査しなきゃだね」
どうせ僕の頭じゃ直ぐに答えは出ないと高を括る。今はアイラさん達に頼まれたこの世界の調査を実施するのが先決なのは明白だった。僕は雑念を振り払い、早速調査に没頭するのだった。
『………ッ!?何でここに奴が、早くみんなに知らせないと……いや、一人でいる今なら倒せるはずッ』
何者かが遠くから僕を見つめていることに気づかずに。
「JCを一人で向かわせただと!?どういうことだ!」
生徒会室に虎千代の怒号が響き渡る。その矛先は当然実行犯である東雲アイラと朱鷺坂チトセの両名に向かっていた。
「貴女が怒るのも無理ないわ。でも、これは必要なことなの。まだ詳しくは説明できないけど、私たちが滅びの運命から生き残るために」
チトセの言葉には推し量れる以上の思いが込められているのがよくわかった。初めこそ与太話をと思われていたが、第7次侵攻や虎千代救出の際に尽力した彼女の行動は嘘偽りを微塵も感じさせないものだった。しかしよりによって現在まで彼女の考えを配慮しつつあったところに、今回の独断だ。大目に見ろという方が無理があった。
「東雲も同じ考えなのか?」
虎千代はチラッとアイラに目線を合わせる。彼女なりに考えがあるのを少なからず知っていたのもあって、尚且つチトセのことを毛嫌いしているきらいがあった。それもあってアイラがチトセに協力することが信じられなかったのだ。
「…実際に彼奴が魔導書の霧に呑まれるまでは、妾も半信半疑じゃったよ。まさか本気で封印の魔法を擦り抜けるとはな。じゃが、これでやっと彼奴の重要性を認識できたじゃろう?」
アイラの言葉にぐっとおし黙る虎千代。それに構わずアイラは言葉を続けた。
「攻撃魔法や幻術、解除式さえ判明していない封印の魔法すら擦り抜ける奴の魔法に対する高い抵抗能力。打たれるほど強くなる原理不明の特殊体質。精神年齢6歳にして驚くほど洗練されたモノの捉え方。もしかしたら妾たちはとんでもない“モノ”を拾ってしまったかもしれんぞ…?」
「うーん…結構探してるけど、ここのことが分かるものは無さそうだなぁ。どういうわけかデバイスも通じないし……“孤立無援”ってことかな」
僕は相変わらず飛ばされた地点から少し離れてせっせこせっせこ散策していた。とは言え出てくるものといえば瓦礫や鉄くずばかり、いい加減何か手がかりになりそうなものはないかと少し焦っていた。
だからこそ周りの変化に気づくのが遅れてしまった。
「…っ!ウグッ…!がああああああッ!?」
突然、僕は背後から誰かに襲われ身体ごと地に伏せる。攻撃と同時に全身が痺れて拘束される……これは雷撃魔法!?
その考えに至るまでに、僕を攻撃したと思われる謎の人物が近づいてくるのが分かったが、拘束されているため視界に捉える事が出来ず声のみが聞こえてくる。
「一人でここに来るなんて迂闊だったわね。抵抗は無駄よ、すぐに仲間が来るわ」
声の主は女性、おそらく本来の自分より少し年上と見える。未だに痺れて動けない僕は何とか腕の一本だけでも動かそうと試みる。
「ふんっ!「暴れても無駄」クアッ!「…往生際が悪いわね」フオオオッ!「いや、少しは聞きなさいよ!」おわっ!?」
が、頑張って気張っていたら怒られてしまった。でも、そのおかげでようやく体の感覚が戻ってきたぞ。まぁ力んだ所為で口の中が切れて鉄の味が広がっているけど。
「あの、できればどうして僕を襲ったのか教えてくれませんか?」
僕がそう聞くと、警戒を強めた様子の女性。まだ地面に横たわっている状態だから、本当にそうしているのかは想像だけど。
「…流石の抵抗力、もう効かなくなってきたようね。でも今の貴方なら私一人でも抑えられる…!」
女性はかなり興奮して同時に思い詰めている状態みたい……まぁ視界には土しか入ってないからあくまで想像。
(アイラさんに試してみろと言われてた“アレ"が使えるかな?でも、やっていいのか…いや、わかってる。死にたくない、死にたくないんだ!)
女性は僕の襟首を掴んで対面するように向き直させる。僕はどうにかして両手のどちらかだけでも動かせるように意識を集中させる。
「みんなの……仇、ーーーッ!?」
意を決して振り上げた拳と共に女性の言葉はそこで途切れた。何故ならば僕が強引に動かした腕で彼女の身体を抱き寄せてその口を塞いだからだ。
突発的な行動に気が動転したのか、はたまた僕の“血の効果”が効いたのか彼女は急に糸の切れた人形のようにその場で力なくへたり込んだ。
そこで僕もようやく魔法の効果が完全に切れて、身体の自由を得ることができた。
「ハァ…ハァ…し、死ぬかと思った〜…!!」
僕も九死に一生を得た気分で大地に大の字になって寝転がる。晴れ晴れとした空気に浸っていると、復帰したのか女性は目尻に涙を浮かべながらキッとした鋭過ぎる目線を僕に向けてきた。
「あ、あ、貴方!!な、何のつもりでこんなことォ!?」
む、落ち着かせようとしたはずなのに逆に興奮させてしまったかな。キスにリラックス効果があるとか言ってた人、誰だよぅ?
「ごめんなさい、しばらくの間魔法を使えなくしました。でもとにかく話を聞いてもらいたくて…。あ、諸説あるけどキスにはリラックス効果があって、更には特定の状況下で特異な経験をした男女は結ばれるとか結ばれないとか…」
僕は地に頭を擦り付ける勢いで謝罪の姿勢を見せる。土下座という誠意の込もった謝罪の仕方らしく、これはアイラさんに教わったものだ。日本人なら全員ができる必須アクション……僕、騙されてる?
すると、そんな僕の醜態を見て唖然としていた女性は不思議そうに考えを巡らせていた。
「……どういう事なの?人相といい背格好といい、ほとんど間違いないはずなのに……どうしてこんなにも認識にズレが生じるの?ねぇ貴方、何者…?」
彼女の透き通った瞳と言葉尻に、二つの異なる意思が見受けられる。一つは僕をどうしても“敵”だと認めたい気持ち、そしてもう一つはどうしても“敵”だと認めたくない気持ち……のように見える、気のせいかもしれないけど。
「本当の名前はわからない。みんなはJCって呼んでくれる。覚えてるのは魔法が効きにくいのと……あとは、このデバイスを見てもらえれば。あ、あとそれと……!」
僕はデバイスを手渡すと座った姿勢から立ち上がって、彼女の手を取ったままその瞳を見つめてその意思を伝えた。
「僕は…何だかあなたにも幸せになってもらいたいと思ってしまいましたぁ」
にへへ〜と笑いかける僕。すると最初はポカンという表情を浮かべていた彼女だったが、次第にその頰を紅潮させ………たりはせず、あくまでクール。あぅ、たぶん呆れられてるぅ!仲良くなりたかっただけなのに。
一人で勝手にショックをうけていると、彼女は顔を背けながら言葉を紡いだ。
「……JC、貴方のことを信用した訳じゃないから。何か怪しい動きをしたら容赦しない」
「え、それどんな表情で言ってます?ちゃんと顔見せてくださグベァッ!?」
彼女の顔を見ようとしたら容赦なく殴られた。怒ってないか確認したかっただけなのに……涙出てきた。
「と、とにかく!貴方には色々と聞きたいことがあるの。だから私と来てもらうわ」
「うーん、まぁ行くあても無かったし……それにお姉さんたぶん優しいから気に入っちゃったかも……いたっ、ちょっ!無言で叩かないで!」
結局僕は両手を後ろで拘束され(魔法は使えないのでロープ)、未だに名前も知らない彼女に連れられていくのだった。
【未知の世界で出逢った女性】
辿り着いた見知らぬ土地でJCにいきなり襲いかかった謎の女性魔法使い。魔法に精通しており、特に雷撃魔法に強い思い入れがあるようだ。一目JCを見た瞬間に彼女が放った「仲間の仇」という言葉、それにはどんな真実が隠されているのだろうか?尚、今のところJCは捕虜の扱いに満足している。