忠犬と飼い主~本編~   作:herz

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忠犬、赤井秀一6~後編~

 何やら寒気を感じたが……今はそれよりも取り調べに集中するとしよう。

 そう思った俺は、ジンに問い掛けた。

 

 

「……で?この質問に何の意味が…」

 

「なんで、」

 

「……あ?」

 

「――なんで、お前じゃなかったんだ」

 

 

 俺は思わず息を呑んだ。……ジンの目に、光がない。

 

 

「……あの時お前に出会えていたら、俺は、もしかしたら……」

 

「……ジン?」

 

「…………何でもねぇよ。……それより、次はお前からだ。聞きたい事があるんだろ?別に、さっき言ってたボスとラムの居場所を今すぐに聞いてもいいんだぜ?」

 

「…………」

 

 

 その言葉に対して、俺は……

 

 

「……ならば、ジン。――お前にとって、黒の組織のボスはどんな存在だ?」

 

「っ!?」

 

 

 あえて、意表をつく質問をしてみた。案の定、ジンはそこで初めて分かりやすく表情を変えた。

 

 

「そこまで驚くような事か?お前も俺に同じような事を聞いただろう。……互いに質問してそれに答える……これを条件にしたのはお前だったはずだぞ、ジン」

 

「…………」

 

「……で、どうする?答えるのか……それとも逃げるのか」

 

 

 途端に黙り込んだジンの様子を見つつ、俺は心の中で仲間達に謝罪した。

 

 すまない、皆。俺は組織のボスとラムの行方よりも、ジンの事を優先する。

 どうしても、知りたいんだ。こいつに何があったのかを……

 

 

 ……やがて、ジンは口を開いた。

 

 

「――あの方に出会った、あの日。俺は身も心も救われたんだ。

 俺は物心がついた頃には既に、アメリカのスラム街にいた。何故そこにいたのかは分からねぇ。そんな事を考える暇があるなら、それよりも先にそこで生き抜いて行く術を身に付ける必要があった。窃盗、暴行、殺人……世間では犯罪とされるそれらに手を出すのは当たり前だった。そうしないと死んじまうからな。

 ……スラム街に住んでいた奴らは、俺を含めて常に、"死"への恐怖と闘いながら生きていた。――死にたくない。……ただただ、その一心で生きていたんだ。

 

 そんなある日、俺はある金持ちに対して盗みを働いて、その護衛にボコボコにされて死にかけていた。だが、路地裏に捨てられていた俺の近くに偶然通り掛かったあの方がやって来て、俺を拾ってくれたんだ。

 あの方は衰弱していた俺を甲斐甲斐しく介抱してくれた。その過程であの方に敵意がない事を理解した俺は、全快する頃にはあの方を疑う気がすっかり失せていた。そして、あの方が目指している物――不老不死の実現について聞いた。

 

 ……俺にとってそれは福音だった。それが実現したら、もしかしたら俺も不老不死になって……"死"への恐怖から逃れる事ができるんじゃないか、と。……そう思ったんだ。

 だから、不老不死を実現させるためにあの方の手助けをして多大な恩を返すと同時に、俺自身も不老不死になりたい、とあの方に懇願した。……あの方は歓迎してくれた。その日から俺は、あの方への忠誠を誓ったのさ。

 

 ――俺を救い、不老不死へと導こうとしてくれたあの方は、俺にとっては神に等しい存在……だった」

 

「……だった(・・・)?」

 

「……さて、お前の質問には答えたぜ。次はお前が答えろ」

 

 

 ……どうやら、あくまでも条件に沿ったやり方で進めるつもりらしい。

 かなり衝撃的な話を聞いたから、すぐにでもいろいろ聞きたかったんだが……仕方ない。

 

 

「……分かった。何が聞きたい?」

 

「……お前は、死や不老不死についてどう思っている?」

 

「……ふむ」

 

 

 どう答えようか考えながら、ふと思う。……これって取り調べと言えるのだろうか、と。……本当に、今さらだが。

 

 とりあえず、以前俺が秀一達に話した、死と不老不死についての持論を話した。するとジンは困惑する様子を見せた。……最初よりもかなり表情が分かりやすくなっているな。ポーカーフェイスを保てない程に動揺しているのか?

 

 

「お前は……いや。次は俺が答える番だったな」

 

「あぁ」

 

 

 聞きたい事は、既に決まっていた。

 

 

「……他の幹部や構成員達から聞いたぞ。1ヶ月程前に組織のボスに会いに行って帰って来てから、お前の様子がおかしくなったと。……その時、何があったんだ?」

 

「……っ……」

 

 

 そう聞いた瞬間、ジンは悲痛な表情を浮かべた。

 ……こいつは本当にあの、俺達が特に恐れ、警戒していた黒の組織の幹部なのだろうか。今のこいつは、まるで迷子のようだ。……まさか、これが本来のジンの姿……?

 

 俺がそう考えている間に、ジンが話し出した。

 

 

「……俺はその日、キルシュの殺害に失敗した事と、赤井の生存を報告をするために、あの方の元へ向かった。

 ……俺はその時までは、この手で赤井に止めを刺せなかった事が惜しいと思っていたからな。その生存が分かって、機嫌が良かったんだ。自分の手で止めを刺す機会がやって来たんだ、と。……それに、お前という餌を見つけたからな。お前を利用すれば、赤井をさらに絶望させる事ができると考えていた。

 

 ……だが。報告した途端、あの方は突然顔色を悪くして怯え出したんだ。動揺したあの方は、いろいろ喚いていた。

 ……曰く。キルシュを敵に確保されてしまった事はまずい。組織の弱体化が露呈する。不老不死の研究について知られてしまう。それは自分だけの物だ。渡したくない。銀の弾丸(シルバーブレット)が生きているのならこの組織は終わりだ……とな。

 そこでようやく俺がそこにいた事を思い出したのか、焦ったように怒鳴って、俺を追い出した。……"この事実を他の幹部や構成員には黙っておくんだ。分かったらさっさと出ていけ、この役立たずが"……だってよ。

 

 言われた通りにあの方の元を離れて、命令通りに事実を誰にも言わないようにしようと考えてから、俺は……どうすればいいのか分からなくなった。頭の中がごちゃごちゃして、うまく考えをまとめる事ができなかった。……自分の感情も分からなくなった。だからその苛立ちを吹っ切ろうとして、ウォッカや他の構成員達に当たり散らしていたんだ」

 

 

 ……なるほど。ベルモットの女の勘は当たっていたという事か。

 そこで終わりかと思えば、ジンは再び口を開いていた。

 

 

「……あの方があんなにも動揺している姿を見たのは初めてだったんだ。いつも堂々としていて、頼もしいあの方の姿は――俺が信じていた神の姿は、どこにもなかった。

 ……不老不死が、自分だけの物?――俺にもその恩恵を分けてくれると約束したのに。

 赤井秀一が生きているのならこの組織は終わり?――俺を頼ってくれればそんな事はさせないのに。

 

 ――結局信じていたのは、俺だけだったのか。俺の独り善がりだったのか……!」

 

 

 最後に絞り出すような声でそう言ったジンは、悲痛な……泣きそうな表情をしていた。

 

 ……俺はたまに、今のジンと似たような表情を見せる奴と話す事があった。それは……虐待されていた子供や、幼少期に虐待を受けた経験を持つ犯罪者達。彼らは皆、泣きたくても泣き方を知らない、またはそれを忘れてしまった奴らばかりだった。

 そんな彼らと今のジンの姿が重なり、俺は自身の怒りの感情を必死に抑え込んだ。……そして、心に決めた。

 

 

(こいつにこんな表情を出させた元凶――黒の組織のボスを、絶対にこの手で捕らえてやる……!!)

 

 

 あと、ついでにラムも。

 

 

「…………次は、俺が質問する番だな」

 

 

 俺が決意を固めた時、ジンがそう言った。

 

 

「あぁ、そうだったな。次は何が聞きたいんだ?」

 

「……あの時、赤井は何故お前を撃ったんだ?そして、お前は自分を撃った赤井の事を恨まないのか?」

 

「おい。しれっと質問が2つになってるぞ」

 

「あぁ、分かっている。だから、次にお前が質問する事も2つで構わない」

 

「……分かった。……じゃあ、まず秀一が何故俺を撃ったのか、だな。それは……」

 

 

 そして、俺は昨日病室で降谷に向けて答えた事と同じ内容をジンに話した。

 

 

「……と、まぁそんなわけで。俺は秀一が俺の足を撃った理由を理解していたし、恨んだりなんてしない。――あいつの事を、信じているからな」

 

「…………」

 

 

 俺の話を聞いた後、ジンは俯いてしまった。

 

 

「……ジン?」

 

「…………やはり、な。お前らのその信頼関係こそが、俺が望んでいたものだったんだ。特に、お前は――お前こそが、俺の理想の主なんだよ、荒垣和哉。……あの方が、お前のような人間だったら、どんなに良かったか……」

 

 

 そう言ったジンの表情は、よく見えない。……だが、きっとあの泣きたくても泣けないような、悲痛な表情を浮かべているんだろうと思った。

 

 そこで俺は、ジンに質問する。

 

 

「……お前は、俺と秀一のような信頼関係を望んでいて、特に俺自身はお前の理想だと言っていたな。……もしかしてそれは、お前が俺を捕らえていた時の、俺へのやけに優しい対応と何か関係があるのか?」

 

「……あぁ。そうだ。……あの方に追い出されたあの日、俺はFBIの本部にハッキングを仕掛けて、お前の事を調べ上げた。

 ……比べてみようと、思ったんだ。俺という犬の飼い主であるあの方と、赤井秀一という犬の飼い主であるお前の事を。……そうする事で、あの方の方が優れているという事を確認したかった……いや、そう信じたかったのかもしれないな。

 

 しかし、お前の事を調べれば調べる程、赤井との信頼関係の深さが分かり、お前の方が主として優れている事を理解した。……それを知ってから徐々に、あの方への忠誠心が消えていくのを感じていた。

 ……完全にそれが消え去ったのは、組織の拠点にお前らが襲撃を仕掛けたあの日。あの方がラムと共に即座に逃げ出した時だったな。

 

 それからは何もかもがどうでもよくなった。組織が壊滅しようがどうだっていい。……そう思った。

 しかし、最後に試したくなったんだ。……お前と赤井の間の信頼関係――絆がどれ程の物なのかを、な。

 

 それからはお前も知っているように、まずはお前を人質にした。……実を言うと、お前という俺の理想に、致死性はないとは言え毒を盛る事はかなり心苦しかった。お前への対応が丁寧だったのは、それによって生じた罪悪感が原因だろうな。

 それから……赤井に選択を迫った。……まさか、あんな方法でお前とお前らの司令塔を助けるとは思わなかったが。……結果的にこうして、お前と赤井の間にある信頼関係の深さを確かめる事ができたし、満足はしている。

 

 気にくわない事は確かだが――あの方が恐れている赤井なら、俺の理想であるお前を守ってくれるだろうと、期待していたんだ」

 

 

 ……今、ようやくジンの行動の謎が明らかになった。

 まさか、そんな理由があったとは……今まで考えていたジンのイメージが、全て覆されてしまった。

 

 というか俺が理想の主、だと?俺のどこが?一体何がジンの琴線に触れたのか……

 

 ……まだいくつか分からない事があるが、そろそろ最後の質問をしないとだな。

 

 

「……そうか。よく分かった。……確か、もう1つ質問していいんだったな?……これが、最後の質問になる」

 

「!……あの方と、ラムの居場所についてか?」

 

「そうだ」

 

「…………分かった」

 

 

 ……そして。ジンは組織のボスとラムの居場所の詳細を語ってくれた。……これで、奴らを捕らえる事ができる!

 

 ……ジンには、お礼をしないとだな。

 

 

「……協力に感謝する」

 

「あ?……犯罪者に感謝するなんて、変な奴だな」

 

「たとえ犯罪者であろうと、協力してくれた相手には礼儀を払うべきだと、俺は思っている」

 

「……ふっ……律儀な野郎だな」

 

「何とでも言え。……さて、その礼の代わりと言ってはなんだが……他に何か質問したい事はあるか?今なら1つだけ、答えられる範囲で答えるぜ?」

 

「……それなら、1つある」

 

 

 ジンは俺の目をまっすぐ見つめた。……どこか、緊張した様子を見せながら、口を開く。

 

 

「お前はさっき、人生はタイムリミットがあってこそだ、と言っていたよな?」

 

「あぁ」

 

「お前は――"死"が怖くないのか?」

 

「――怖いよ。当たり前だろ?」

 

「!?……なら、何でさっき……」

 

「確かに、人生は終わりがあってこそだと言う考えは変わらない。

 しかし、"死"が怖いのは当たり前だ。誰だってそうだろう。だって、生きているうちはその先に何があるのかを確かめようがないんだからな。……でも、きっとその瞬間に悔いが残っていなければ、"死"への恐怖も少しは和らぐんじゃないかと思っている。

 そう思っているからこそ、俺は今を必死に生きようとしているんだ。生きているうちにできる限りの事をやってみようと考えてな。そうすれば、死ぬ時にも悔いが残らないはずだ。

 

 ――つまり、"死"への恐怖も少しはましになるんじゃないか?」

 

「…………」

 

 

 思ってもみない事を言われた、とでも言いたげに、ジンの目が点になっている。

 ……確かに、俺の考え方はちょっと独特かもしれないな。

 

 

「お前だって、これからはその恐怖も少しはましになるはずだ」

 

「……何?」

 

「お前が"死"を怖がるのは、スラム街にいた時のように餓えで死ぬ事とか、誰かに殺されて死ぬ事が印象的になっているせいで、死にたくないという気持ちが強くなっているからじゃないか?」

 

「それは…………そう、かもしれない」

 

「だったら心配ない。これから待っているのは獄中生活だ。お前はおそらく最低でも獄中から解放される事はないだろうから、残りの人生をそこで過ごす事になるはずだ。

 しかし、獄中では飯も食えるし、中で勤務している刑務官が目を光らせているから、余程の事が起こらない限りは殺人なんてあり得ない。

 そう考えれば、獄中はスラム街よりもよっぽどいい環境じゃないか?

 

 ……って、あぁ!悪い、結構無神経な事を言ったな。すまない!」

 

 

 今さらだが、こんな言い方はさすがに駄目だろうと思って、慌てて謝れば……

 

 

「ふっ……くく……ふふふ……!」

 

 

 ジンが顔を伏せて必死に笑いを耐えようとしていた。

 あのジンが、こんなにも分かりやすく笑っている……?しかも嘲笑のような笑い方ではない!?

 

 

「はははっ…………っあぁ、全く……お前は――言葉1つで人間1人を救えるんだな……さすが俺の理想の主だ……!赤井の事が心底羨ましい……」

 

「はぁ……?……よく分からねぇが、とりあえず質問の答えはこんなものでいいのか?」

 

「あぁ。――ありがとう。充分だ」

 

「お、う……そ、そうか。ならいいが」

 

 

 今度は微笑を浮かべるジン。……久々に言うが、デフォルトはどこ行った!?そして滅多に笑わない美形が微笑んだ時の破壊力よ……

 秀一の事が原因で慣れていたから、そこまで驚く程でもなかったが。

 

 

 その後、俺は取り調べを終えて部屋を出た。……その直後に隣の部屋から出て来た秀一に腕を掴まれてどこかへ引きずられていく。

 

 え、ちょ、おい!?

 

 

「荒垣さん、頑張ってねー!」

 

「後の事は公安にお任せ下さい!」

 

「ご協力に感謝します!」

 

「赤井君の事は任せたよ、荒垣君」

 

「頑張ってね、Owner(飼い主さん)!」

 

「えっと……が、頑張って下さい荒垣さん!」

 

 

 コナン達が、それぞれ続けて俺を応援した。

 

 いや、ちょっと待ってくれ!俺は秀一に何をされるんだ!?おい!!

 

 

「ちょっ、誰か……Help me(助けてくれ)!!」

 

 

 ……結局。誰も助けてくれなかった。

 

 

 

 

 

 






・助けを求めたが無駄に終わった師匠兼飼い主

 ジンに呼び出されて面倒事の気配を察知。何で俺を呼ぶんだよ……!てめぇのせいで"公安と仲良くなろう大作戦"が振り出しに戻ったらどうしてくれる!?

 しかしその後、ジンからの質問に困惑していたものの、ジンの過去や謎行動の真意を知って、態度を改めた。俺は子供の泣き顔に弱いんだよ……

 自分の言葉がどれ程相手に影響を与えているのかについて、全く気づいていない。今回はそれのおかげでジンの心を開く事に成功したが、それと同時に忠犬の嫉妬心を煽ってしまった。

 は?ちょっ、秀一!?俺をどこに連れて行くつもりだ!?誰か助けてくれ!!


・嫉妬で暴走中の弟子兼忠犬

 オリ主が語った自分に対する心境を聞き、撃沈。和哉さん……尊い……!!しかし聞き捨てならない言葉を聞いたぞ……!

 さらに、間近でオリ主がジンを口説く()場面を見て、嫉妬心が爆発。確かにジンが置かれていた状況は同情に値するが、それとこれとは話が別だ。

 さぁて、和哉さん。俺とちょっとお・は・な・し、しましょうか(#´∀`)


・オリ主の言葉に救われた元黒の組織幹部

 そろそろ回復したころか……?よし、呼び出そう。聞きたい事がある。

 そうして呼び出したオリ主との問答により、少しづつ心が軽くなっていき、最終的には完全に心を開いた。さすがは俺の理想……!!
 ……しかし、こんな調子で他の人間もたらし込んでいるのか?そう考えると気分はあまり良くない。……赤井も苦労しているだろうな。

 実は、取り調べ室の中で最後のオリ主の助けを求める声が聞こえていた。その事で後に部屋に入ってきた公安の若手を鬼気迫る表情で問い詰め、怖がらせる。

 あの人は無事なんだろうな!?


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