忠犬と飼い主~本編~   作:herz

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 1つ目は、赤井さんとオリ主がポアロに突撃するお話。オリ主は自分の犬だけでなく、他所の犬の躾もお手の物!?

 2つ目は、モブ視点の話。"FBIきっての熟年夫婦"(赤井さんとオリ主)について、モブが愚痴をこぼす!……なお、途中からモブによるオリ主語り。




忠犬、赤井秀一 短編集②

~忠犬と飼い主、ポアロに行く~

 

 

・時期は黒の組織のボスとラムを逮捕した後の数ヶ月間のどこか

 

・コナンはまだ赤井とオリ主以外の仲間達に正体を明かしていない。

 

・世良は赤井が沖矢昴として潜伏していた事を知っている。

 

・梓さんは不在

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいま…お帰りはあちらです、さようなら!!」

 

「酷いな、安室君」

 

「赤井さん!?」

 

「えっ、秀兄!?」

 

「ちょっとちょっと!何、あのイケメン!安室さんとは違ったタイプで素敵!!……って、ガキンチョあの人の事知ってるの?それに世良さん、秀兄って!?」

 

「あ、あの人……!!」

 

「蘭まで知ってるの!?」

 

 

 ある日の夕方。ポアロに赤井秀一が訪れた事で、穏やかな空間は一気に騒がしいものへと変わった。

 

 

「あぁ、ボウヤ。お前もここにいたのか。それに、真純は久しぶりだな」

 

「う、うん……」

 

「久しぶり、秀兄!今日はどうしたの?何でここに?」

 

「ボウヤにも真純にも、ポアロの事は聞いていたからな。気になって一度来てみたんだ。それに、店員は個人的に知り合いだったからな……なぁ、安室君?」

 

「はぁ?どちら様でしょうか?僕にはあなたのような目付きの悪い男に知り合いはいませんがね!さっさと帰れ赤井秀一!!」

 

「知ってるじゃないか。……あぁ、そうだ。アイスコーヒーを1つ頼みたい」

 

「誰が貴様なんかの注文を…」

 

「おや、いいのかな?今の君はポアロの店員で、俺は客の1人だが?」

 

「ぐっ……かしこまりましたっ!!」

 

 

 肩を怒らせてそう言った安室がキッチンへと向かう様子に構う事なく、飄々とした態度でカウンター席に座る赤井に、園子が見惚れる。

 

 

「クール系イケメン……いいじゃない!ちょっとガキンチョと世良さん、あの人紹介してよ!!それに、蘭もあの人の事知ってるんだよね?」

 

 

 園子に催促され、コナンと世良は赤井を園子に紹介し、蘭はアメリカでの出来事を話した。

 

 

「……なるほどねぇ……ガキンチョは事件で知り合って、世良さんにとっては歳の離れたお兄さんで、蘭はアメリカで会ったのか……それにしてもFBIって……最近凶悪な犯罪組織を日本警察とFBIが協力して一斉検挙したってニュースで言ってたけど、もしかして……」

 

「……あぁ、そうだ。俺も少し関わっている。……だが、他の人間には俺自身の事も含めて他言無用で頼むよ?」

 

「っ!!……は、はい!もちろん秘密にします!!」

 

 

 赤井が口元で人差し指を立て、園子に流し目を送ると、園子は顔を赤らめて何度も首を縦に振ってそう言った。

 そんな様子を、コナンと世良がジト目で見る。

 

 

「……さすが秀兄。自分の顔の良さをちゃんと分かってる……」

 

「……女子高生ならイチコロだな……」

 

 

 そこでふと、蘭が赤井に話しかけた。

 

 

「あ、あの……赤井さんは安室さんとも知り合いなんですよね?」

 

「あぁ。ある事件に巻き込まれた時に知り合った」

 

「……そういえば、赤井さんに気を取られてたけど、あの誰にでも紳士的に接する安室さんがあんな態度を見せるなんて、私初めて見たわ!」

 

「確かに、そうだな。……秀兄、彼と何かあったの?」

 

「……まぁ、な。いろいろあったよ」

 

「えぇ、本当にいろいろありました!アイスコーヒーです!!」

 

 

 そこへ、安室がアイスコーヒーを持って戻って来た。……勢いよく置いたせいか、中身がほんの少しだけ零れた。

 しかし、赤井は気にする事もなく礼を言う。

 

 

「あぁ、ありがとう」

 

「それを飲んだらさっさと帰れ」

 

「…………安室さんが敬語を抜いちゃった……」

 

「本当に、珍しいわ……」

 

「!!」

 

 

 蘭と園子の言葉でようやく我に返ったのか、安室は慌てて取り繕う。

 

 

「あぁ、その……見苦しいところを見せてしまって、すみません。僕はこいつが相手だとどうしても態度が悪くなってしまって……あの、この事は他の方には内緒にしてもらえませんか……?」

 

 

 困ったような表情のまま、上目遣いで2人を見つめる安室。そんな安室の姿に、2人はそれぞれ顔を赤らめて頷いた。……そして、コナンと世良は再びジト目でそれを見る。

 それを横目で見つつ、赤井が安室に声を掛けた。

 

 

「そういえば、ここのハムサンドがうまいと聞いた。それも頼みたいんだが…」

 

「だからさっさと帰れと言ってるだろ!?」

 

「そうゆうわけにもいかない。今日はもう1人呼んでいるんだ」

 

「もう1人だと……?」

 

 

 ……その時、ポアロにまた1人来店した。安室がそれに反応して振り向き、目を見開く。

 

 

「――荒垣さん!?」

 

「おう、安室。邪魔するぜ」

 

「いらっしゃいませ!どうぞ、お好きな席へ!」

 

「ありがとう。……悪い、秀一。待たせたな」

 

「いいえ、それ程待っていませんよ。……さぁ、どうぞ」

 

「あぁ」

 

 

 荒垣に声を掛けられた瞬間、ニコニコとした笑顔を浮かべた赤井はすぐに席から立ち上がり、自分の隣の椅子を引いて恭しくそこに座るように誘導した。荒垣はもう慣れたものとばかりに堂々とそこに座った。

 ……それを、園子達3人――特に世良――が唖然とした様子で見ている。

 

 

「あー……荒垣さんがいると相変わらずだね、赤井さんは」

 

「えっ?どうゆうことだい、コナン君!あんな秀兄、僕見たことないんだけど!?」

 

「世良さんがそう言うって事は、やっぱり珍しいのね……」

 

「うん!秀兄が敬語を使った事なんてなかったし、あんなに誰かを敬うような態度を見せた事もないし……何よりあの笑顔!あれ程嬉しそうにしてる秀兄なんて初めて見たぞ!?」

 

「いきなり笑顔になった時は驚いたけど……ギャップ萌えもいいわぁ……!」

 

「園子はイケメンならなんでもいいのね……」

 

「もちろん、一番は真さんだけどね!!」

 

「はいはい」

 

「そんな事より!コナン君は彼の事を知ってるんだよね!?見た目は秀兄よりも年下に見えるんだけど…」

 

「外れ。俺はこれでも40に近いんだ」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

 突然、会話に入ってきた荒垣がそう言うと、女子高生3人が驚愕する。その流れで荒垣は自己紹介も済ませた。

 

 

「秀兄の師匠……!?そっか、だから秀兄もあんな態度に……いや、それにしても変わり過ぎだよ……」

 

「ほ、本当に38歳なんですか……?」

 

「信じられない……!!どんだけ若作りなの……!?」

 

「別に若作りはしていないが……ほら、安室だってこれでも29歳だろう?」

 

「確かに僕も年齢より若く見られがちですが、あなた程ではありません。……それより、ご注文は?」

 

「おっと、そうだったな。……じゃあ、アイスコーヒーと……確か、ハムサンドがうまいんだったな?それを1つずつ頼む」

 

 

 それを聞いて、安室は苦い顔をした。

 

 

「何故こいつと全く同じ注文を……!!」

 

「え?」

 

「ふふ……とても気が合いますね、和哉さん。さっき、俺もアイスコーヒーを注文して、今はハムサンドを注文しようとしていたんですよ。しかし、安室君がさっさと帰れと言って注文を受け付けてくれなくて……彼が作るハムサンドは絶品だと聞いていたので、残念です…」

 

「っあぁ、もう!分かりましたよ!やればいいんでしょう、やれば!!」

 

 

 安室は苛立ちを隠す事なく、キッチンへ向かう。

 

 

「…………今日だけで珍しい安室さんをたくさん見てる……」

 

「はは……まぁ、あいつは秀一にだけ辛辣だからな……もう憎んでいるわけではないはずだから、単に素直になれないだけなんだろう」

 

「子犬がじゃれてくるようなものだ」

 

「赤井さん。安室さんをあんまり煽ったらだめだよ?」

 

「善処しよう」

 

「……後でしっぺ返しくらっても僕知らなーい」

 

 

 ……やがて、安室が戻ってきた。

 

 

「お待たせしました」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「ありがとう、安室……って、なんで俺の隣に座るんだ?」

 

「今日はこれ以上お客さんが来る事はなさそうなので、僕は休憩します」

 

「それなら別にここじゃなくてもいいだろう?」

 

「僕はここがいいです」

 

「……あ、そう」

 

 

 てこでも動きそうにない気配を感じた荒垣は説得を早々に諦め、ハムサンドを食べる事にした。……その様子を、安室が頬杖をつきながらニコニコと見ている。

 

 

「お味はどうですか?」

 

「……うまい」

 

「それは良かった!」

 

「うまいぞ、安室君。さすがだな」

 

「赤井には聞いてません!黙って食え!」

 

 

 

 

「……なんだか、端から見てるとあの扱いの差が面白く見えてくるわね」

 

「あはは……そうね」

 

「秀兄は秀兄で全然気にしてないし……コナン君、あの2人はあれで通常運転なのかい?」

 

「うん、そうだよ。……まぁ、荒垣さんの事が絡んでくると立場が逆転するんだけど……」

 

「?……それはどうゆう…」

 

 

 コナンの言葉を不思議に思った世良が詳しく聞こうとした時、

 

 

「――ところで、荒垣さん。FBIをやめて日本に残る気はありませんか?」

 

「――あ"?」

 

 

 空気が殺伐としたものに変わった。赤井の柄の悪い声に女子高生達が驚く。しかし、コナンは動じない。

 

 

「あ、始まった」

 

「コナン君。始まったって、何が始まったの?」

 

「安室さんが反撃に出たんだよ。……だから僕、しっぺ返しくらっても知らないって言ったのに……」

 

「え、ちょ、どうゆうことよガキンチョ!あの2人、超睨み合ってるんだけど!?」

 

「……まさか、こんなところで手や足を出すような喧嘩を始めたりしないだろうな……?」

 

 

 4人の会話を他所に、赤井と安室の言い争いが始まった。

 

 

「……以前も言ったはずだぞ、安室君。和哉さんは絶対に渡さないと……!」

 

「さて、何の事でしょう?僕はFBIをやめて日本に残りませんか、と聞いただけであって、渡す渡さないの問題ではないはずですが?」

 

「……君がそうでも、()はどうなんだ?」

 

「あぁ……()ですか。どうでしょう?……まぁ、僕自身は荒垣さんがFBIをやめてくれたら、つてを頼って新しい仕事を紹介するつもりでいますが……荒垣さん、日本の警察には興味はありませんか?」

 

「完全に狙っているじゃないか、やめろ!」

 

「そうですねぇ……()もいる公安警察なんていかがです?」

 

「無視するな。しかも露骨だぞ!」

 

「うるさいですね。駄犬は黙っていて下さい」

 

「君が和哉さんを誑かすのをやめる方が先だ」

 

「人聞きの悪い事を言わないで下さい」

 

「事実だろう」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 そして、2人が睨み合いながら同時に立ち上がった。それを見た女子高生3人が焦る。

 

 

「ど、どうしよう……!」

 

「まさか本当に殴り合いを……!?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。荒垣さんがいるし」

 

 

 

 

「――秀一、Sit(座れ)……よし、Good boy(いい子だ)

 

 

 赤井が元の席に座ると、荒垣はその頭を軽く撫でた。赤井は幸せそうに目を細めてそれを享受していた。……ちなみにこの間、荒垣は一度も赤井の方を見ていない。

 

 ここ最近の荒垣は、開き直ったのか赤井を犬扱いする事に抵抗がなくなってきている。今ではもう慣れたものだとばかりに、指示に従った後に褒める事までが必ずセットになっていた。

 

 次に、荒垣は安室を見る。その冷たい視線に、安室は背筋を伸ばした。

 

 

「……安室」

 

「っはい!」

 

「隣に座る事は許したが、秀一とじゃれあう事を許した覚えはねぇぞ」

 

「はい、すみません!」

 

「分かったなら仕事だ。アイスコーヒーをもう一杯頼む。俺と秀一の分、どっちもだぞ」

 

「かしこまりました!!」

 

 

 

 

「…………ね?大丈夫だったでしょ?」

 

「……おかしいな。秀兄に犬耳と尻尾が生えてるように見えるよ……」

 

「……クール系のイケメンが、実はワンコ系イケメンだったのね……」

 

「あんな殺伐とした空気の中で仲裁ができるなんて、すごい……」

 

「あはは……荒垣さんの人身掌握術(人たらし)には誰も敵わないんだよね……」

 

 

 遠い目になりながら、最後にコナンが呟いた。

 

 

 

 

 

 

人身掌握術(人たらし)がカンストしている師匠兼飼い主

 

 今回、前々から行きたいと思っていたポアロに行く事ができて満足。ハムサンドうまい。コーヒーもおかわり!

 

 開き直って自ら飼い主になる事にした。他所のワンコと喧嘩してはいけません!

 

 なお、いつの間にか他所のワンコも躾していた事には気づいていない。

 

 

・他所のワンコと喧嘩した弟子兼忠犬

 

 オリ主とポアロで待ち合わせの約束をしていた。楽しみ過ぎて予定よりも早くに到着してしまった……

 

 最近オリ主が開き直り、積極的に飼い主になり始めた事でご機嫌。これで"自他共に認める忠犬と飼い主"の図が完成だ!周囲への牽制に役立つだろう。

 

 俺の飼い主は渡さない!和哉さんも、多頭飼いは認めませんからね!!(主に降谷君とかジンとかジンとかジンとか……)

 

 

・他所のワンコもとい、喫茶店の店員兼公安(())

 

 何故貴様がここにいるんだ赤井ィィ!!とっととアメリカに帰れ!ただし、荒垣さんは置いていけ!!

 

 オリ主と赤井が自他共に認める飼い主とその犬という関係になった事に、若干思うところがある。べ、別に羨ましいとかそんなんじゃないからな!

 

 本人も気づかないうちにオリ主に躾られていた。だがしかし、俺の飼い主は日本だ!

 

 

 

 

 

 

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~とあるモブの愚痴~

 

 

・組織壊滅後。まだボスとラムは捕まっていない。

 

・モブ視点。

 

・オリ主と赤井の距離が近い。

 

・短編集①の「忠犬の牽制」と少し繋がっている

 

 

 

 

 

 

 オレはFBI捜査官だ。名前は……どうでもいいか。とりあえず、FBIになってまだ2年程しか経っていない若手である事を覚えてくれたら、それでいい。

 

 

 さて……いきなりだが、オレには尊敬している人が2人いる。

 

 1人目は、赤井秀一。我らがエース。一流のスナイパーである事はさる事ながら、頭の回転が速く、周囲からの信頼も厚いという、天から二物も三物も与えられた男。欠点はおそらく無愛想である事と、たまに命令違反をする事ぐらいか?

 

 2人目は、荒垣和哉。6年にも及ぶ長期任務を終え、最近帰って来たベテラン捜査官。オレが最も尊敬している人物だ。

 

 最初は見た目だけで判断してしまい、荒垣さんの事を馬鹿にして反抗していた。しかし他の古参の人達から彼の武勇伝を聞いたり、本人の人柄を知ったりした事で、オレは自らの行いを恥じた。そしてある出来事をきっかけに、それまで尊敬していた赤井さん以上に彼の事を尊敬するようになったのだ。

 だから、荒垣さんと赤井さんが主導するパルクールのチームメンバーに選ばれた時、それはもう喜んだ。こんなオレでも役に立ちたいと思った。

 

 ……と、前置きはここまで。今日話したいのはオレが尊敬しているその2人の関係についてだ。

 

 

 2人は師弟関係にある。荒垣さんが師匠、赤井さんがその弟子だ。……正直、荒垣さん自身も認めていたが、荒垣さんよりも赤井さんの方が今では能力的に上である。

 しかしそれでも師弟関係が続いているのは、おそらく赤井さんに原因がある。

 

 赤井さんは荒垣さんを敬愛している。……いや、あれはもはや崇拝と言ってもいい。まるで犬のように荒垣さんに懐き、荒垣さんを貶した相手や、危害を加えた相手に対しては即座に噛みつく狂犬へと変貌する。

 赤井さんがあの態度を変えない限り、師弟関係が解消されたり、逆転したりする事はないはずだ。……まぁ、赤井さんの態度が変化する可能性なんて、万に一つもないだろうが。

 

 荒垣さんはそんな赤井さんに対して、最初はかなり戸惑っているようだった。しかし段々と慣れてきたのか、簡単にあしらうようになっていた。その様子はまるで犬とその飼い主のように見えた。……荒垣さんだけはそれを否定しているが。

 

 

 そんな荒垣さんと赤井さんは、とても仲が良い。羨まし…いやいや実に良い事だ。……その仲の良さがツッコミどころ満載である事を除けばな!

 

 

「秀一」

 

「はい、コーヒーですね。すぐに」

 

「頼む」

 

 

 

 

「秀一…」

 

「はい。その資料ならここにあります」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 

 

「…………秀一」

 

「仮眠ですね。どうぞ、行って来て下さい。残りの書類は俺が片付けておきますから」

 

「悪いな」

 

 

 ……お分かり頂けただろうか?

 

 荒垣さんは赤井さんの名前しか呼んでいないのに、赤井さんは荒垣さんの意図を完璧に読み取っているのだ。……何故読み取れるんだ!?普通は分からないだろ!?そんなんだから"FBIきっての熟年夫婦"なんて呼ばれるんだぞ!?まさか付き合ってるんじゃないだろうな!?

 

 ……とまぁ、さっそくツッコミしたわけだが。これはあくまで数多くあるツッコミどころのごく一部である。こんなものはまだ序の口なのだ。

 

 

 まず、彼らは基本的にセット扱いだ。食事をする時も、仕事をする時も、休憩する時も……とにかく大体は行動を共にしている。……まぁ、示し合わせたわけではなく、荒垣さんが行くところに赤井さんがついて行っているだけのようだが……

 赤井さん!あんたは親鳥について行く雛鳥か!?もしくは飼い主から離れない忠犬か!?……いや忠犬で合ってるな。うん。

 

 では荒垣さんはどうなのかというと、全く気にしていないようだ。ついて来ても来なくてもどちらでも構わないらしい。

 

 ……そういえば、そんな荒垣さんだが。ここ最近になって赤井さんへの接し方が変わった。それは決して悪い変化ではなかったのだが……やはりツッコミどころはあった。

 

 

「これは……俺が探していた資料じゃないか。秀一が見つけてきたのか?……そうか、よくやった。いい子だな」

 

 

 

 

「……もう終わらせたのか?苦手だというのによくやったな。……ん?……あぁ、そうだった。時間内に終わらせたら褒めてやるって言ったよな。……よしよし」

 

 

 

 

「ん……相変わらずお前が作る紅茶はうまいな。おいしいよ、ありがとう。……さすが、俺の弟子だな」

 

 

 ……このように、荒垣さんは積極的に赤井さんを褒めるようになった。しかも、頭を撫でるまでがセットだ。

 何があった、荒垣さん!?あんたはこの前まで赤井さんの飼い主って呼ばれても否定してただろ!?これじゃあ立派な飼い主だぞ!?

 

 あぁ、ツッコミが追い付かない……!

 

 

『というか赤井さん、そこ代われ!オレだって荒垣さんに褒められたい!!』

 

『……おい。いろいろ言ってたけどとりあえずそれが本音だな?』

 

『そうだよ!悪いか!?』

 

 

 ……現在。オレは荒垣さんと赤井さんのツッコミどころがあり過ぎる関係について、最近仲良くなった日本の公安所属の男に語っていた。オレに合わせてわざわざ英語で話してくれる、優しい男だ。

 

 

『……荒垣さんが初めて顔見せした時に殴り掛かった上に返り討ちにされた男のセリフとは到底思えないぞ……』

 

『それは忘れてくれ』

 

『いや、無理があるだろ。……本当に盛大な手のひら返しだな……』

 

 

 ……確かに、我ながら無理があるなと思っている。だが、あれは黒歴史なんだ!忘れてくれ!!

 

 あの日。オレは荒垣さんが赤井さんよりも実力が下である事を知って反抗し、さらには頭に血がのぼって同僚の制止を振り切り、彼に殴り掛かってしまった。……結果、彼の截拳道(ジークンドー)と彼が発する気迫によって返り討ちにされたわけだが。

 その時のオレと今のオレを比べると、確かに様変わりしている。

 

 

『最初は荒垣さんにあれだけ反抗していた奴が、今では赤井さんには及ばないものの、荒垣さんの忠実な部下になっているとはな……俺の同僚達も、お前の同僚達も驚いてたぜ。……そういえば、何がきっかけでそうなったんだ?』

 

『よくぞ聞いてくれた!!』

 

「うおっ!?」

 

 

 オレは身を乗り出して、そう聞いてくれた公安の男に、荒垣さんの事を尊敬するようになったきっかけを語った。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その日、オレは荒垣さんを探していた。彼が初めて顔見せした日に殴り掛かってしまった事を謝るために。

 

 荒垣さんに返り討ちにされてから、オレはできる限り彼に接触する事を避けていた。殴り掛かってしまったオレに対して何を言ってくるか不安に思っていたし、何よりも赤井さんの目が怖かったのだ。

 赤井さんはオレを完全に敵であると認識したようで、近くを通るだけで刺すような視線を送って来る。……あれはもう、視線だけで人を殺せるんじゃないか?

 

 そんなわけで、荒垣さんとの接触をできる限り避けていたオレだったが、そうゆうわけにも行かなくなった。古参の人達から荒垣さんの武勇伝について聞いたし、オレ自身も彼の人柄を知って、自分の行いを恥ずかしく思うようになったからだ。だから、彼に直接謝ろうと決意した。

 

 そしてようやく、荒垣さんを見つけて話し掛けようとしたのだが……

 

 

(あ、これはまずい)

 

 

 ちょうど、その側に赤井さんがいたのだ。案の定、彼はオレを鋭い目で睨んで来る。……だが今回ばかりは負けられない。

 その視線を無視して近づくと、赤井さんが発する威圧感がさらに増した。……それでもオレは、前に進む。

 

 周辺にいた他のFBI捜査官や公安の奴らの数名がその威圧感を感じ取ったようで、視線が集まっているのが分かった。……当然、荒垣さんも気づいた。

 

 

「……どうした、秀一…って、お前……」

 

 

 そして、赤井さんの視線の先にいたオレにも気づいた。

 

 

「今まで俺に接触する事をできる限り避けていただろう?今日はどうしたんだ?」

 

 

 どうやら、オレが避けていた事にも気づいていたらしい。

 

 

「あの……荒垣さん、オレ、」

 

「どの面下げて来た?和哉さんを侮辱した挙げ句、殴り掛かった男が……今さら和哉さんに何の用だ?」

 

「っ……!!」

 

 

 赤井さんが殺気を向けて来た。……今にも逃げ出したいが、今逃げたら2度と謝れない気がする。

 そう考えて、なんとか踏み留まっていると……

 

 

「よせ、秀一」

 

「……しかし、和哉さん……」

 

「……これだけお前が殺気を出しても逃げないんだ。余程の理由があるんだろう。……話を聞こう。場所を移すぞ。……秀一、お前は…」

 

「一緒に行きます」

 

「…………分かったよ。……悪いな。こいつも同席させてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 

 荒垣さんのおかげで、なんとか話ができるようになった。

 その後、個室に移動した。荒垣さんの背後には赤井さんが控えており、オレの事を警戒している。

 

 

『さて……じゃあ、話を聞こうか。一体どうしたんだ?今日は。あぁ、英語でいいからな』

 

『……ありがとう』

 

 

 荒垣さんの配慮に感謝した後、オレは頭を下げた。

 

 

『あの日……あんたを侮辱して、殴り掛かってしまった事について謝罪する。本当に申し訳なかった……!!』

 

 

 ……荒垣さんは無言のまま。何も返って来ない。こちらは頭を下げているから彼の顔は見えない。一体どんな顔をしているのかと不安に思っていた時、赤井さんが先に口を開いた。

 

 

『遅すぎる謝罪だな。本来なら和哉さんに殴り掛かったその日に謝罪するべきだというのに……』

 

『あぁ。その通りだ。自分でも今さらだと思っている。……許されないのも当然の事だ。だが、それでも謝りたかったんだ!古参の人達からあんたの事を聞いて、オレ自身もあんたの人柄を知って、自分の行動がどれ程恥ずかしい事だったのか、よく分かったから!これはオレの自己満足にしかならないかもしれない。それでも……!!』

 

 

 そう。それでもオレはどうしても謝りたかった。そうでもしないと気がすまなかったから。

 

 ……と、その時。ずっと黙っていた荒垣さんが口を開いた。

 

 

『……頭を上げてくれ』

 

『和哉さん?』

 

『お前は黙っていてくれ秀一。……さぁ、頭を上げてくれ、――――』

 

『えっ?』

 

 

 オレは思わず頭を上げた。……荒垣さんが最後に言ったのはオレの名前だった。

 

 

『……な、なんでオレの名前を知ってるんだ?』

 

『?当たり前だろう。同じFBI捜査官であり、今回共に戦う仲間の名前なんだから。さすがに公安の連中の名前はまだ覚えられていないが、今回の作戦に参加するうちの若手連中の顔と名前は全員分覚えたぞ。初めて顔見せしたあの日に、ジェイムズから仲間達の詳細が書かれた資料をもらってな。……もっとも、覚えるのに3日は掛かってしまったが……』

 

『…………』

 

 

 荒垣さんは当然のようにそう言っているが、それがどれだけ難しい事なのかを、オレは知っている。なんせ、今回の作戦に参加する人数は、FBI捜査官だけでもかなりの人数だ。それも、その大半が若手だった。

 この人は端から見ても仕事が多そうだった。そんな余裕もない中、たった3日で覚えてしまうとは、恐ろしい記憶力だ……

 

 

『……よく、覚えていてくれたな。あんな事をやらかした、オレの名前を……』

 

『あぁ。……お前の事は特に覚えやすかったよ』

 

 

 ……なるほど。あんな事をやらかしたオレの事なら、逆に覚えやすかったわけだな。

 しかし次の言葉を聞いて、目を見開いた。

 

 

『お前は若手の中でも、特に優秀だったからな』

 

『え?』

 

『研修中の成績は常にトップクラス。また、実際の現場でも臨機応変に動く事で事件の解決を早めた。最近まで逃走していた指名手配犯を発見し、捕らえたのもお前だったな。凄いじゃないか。まぁ、上官に対する態度が悪いらしいが……結果が出ているなら構わないだろう』

 

『……!?』

 

 

 ――面と向かって誰かに褒められたのは、初めてだった。

 

 それに、態度の悪さを許容された事も初めてだ。オレは褒められるよりも態度の悪さを叱られる事の方が多いから。しかも褒めてくれた相手は、オレが侮辱した挙げ句殴り掛かってしまった人だ。

 

 

『……で、謝罪だったな。……謝罪は必要ない。確かに、あの時のお前の行動は浅はかだった。だが、それは俺がそのつもりはなくとも挑発してしまったせいだ。だから、俺ももう1度謝る。……すまなかったな』

 

『!?い、いや、あんたが謝る必要はないだろ!?』

 

『そう思ってくれるなら……これで互いにあの日の事を水に流さないか?俺としては仲間のうちの1人であるお前に、距離を取られたくない。これからは黒の組織を壊滅させるという目標に向かって、共に戦いたいんだ』

 

『…………!!』

 

 

 ……あぁ、なんてこった。……器のデカさが違う。

 普通なら恨み言の1つや2つを言ってもおかしくないし、そもそも2度と関わるなと言われてもおかしくないというのに、この人は……!!

 

 

『……分かった。そうする』

 

『そうか……!ありがとう。助かるよ』

 

 

 そう言って、本当に嬉しそうに微笑むものだから、こちらまで笑ってしまった。

 

 そして彼はオレの元まで歩み寄って来て、オレの肩に優しく手を置く。

 

 

『――お前のような、将来有望な若者がFBIになってくれた事を、そして今回の作戦で共に戦ってくれる事を、とても嬉しく思う。これからのお前の活躍に期待しているぞ』

 

『――――』

 

『じゃあな。……行くぞ、秀一』

 

『はい』

 

 

 完全に固まってしまったオレを置いて、2人は部屋から出ていった。

 そして、オレはその場で膝をついて顔を両手で覆い、天を仰ぐ。

 

 

『…………あの人は聖人か……いや、神なのか!?』

 

 

 彼の言葉で完全に落ちたオレは、その日から赤井さん以上に荒垣さんの事を尊敬するようになったのである。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

『……と、いうわけなんだよ!凄いだろう、荒垣さんは!!神だろう!?』

 

「あー、うん。そうだな。…………さすが赤井秀一第2号……」

 

『なんか言ったか?』

 

『いや、なんでもない。……それより、話がズレてないか?』

 

『おっと!そうだったな』

 

 

 その後もオレは、公安の男に荒垣さんと赤井さんの関係について愚痴を吐き出し続けた。

 

 

 

 

 

 

・赤井秀一第2号なモブ

 

 短編集①で登場したFBI捜査官のモブ。今では立派なオリ主信者。

 

 赤井さん、そこ代われ!!

 

 その変貌ぶりから、第2の赤井秀一と呼ばれているが、その事には気づいていない。

 

 

・愚痴を聞いていた公安のモブ

 

 延々と続くFBIモブの愚痴を聞き続けた。

 

 さすが赤井秀一第2号。荒垣さん語りが止まらない……

 

 実は、赤井秀一第2号と名付け、それを広めたのはこのモブである。

 

 

・FBIきっての熟年夫婦な忠犬と飼い主(付き合ってない)

 

 既に赤井はそう呼ばれている事に気づいているが、そのまま放置している。別に困らないしな。

 そのうち、気づいたオリ主が否定して回る。俺達は夫婦じゃない!まだ飼い主と犬って呼ばれる方がましだ!

 

 なお、FBIきっての熟年夫婦と名付け、広めたのは公安の女性警察官(腐女子)。現在はFBIの女性捜査官達に赤井×荒垣もしくは荒垣×赤井を布教する事を企んでいる。

 

 

 

 

 

 

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