――忠犬は、如何にして忠犬となったのか。
……サブタイトルは、"忠犬、赤井秀一の1人でお留守番できるかな?"です。
今回は、様々な登場人物の視点から、赤井さんの様子を観察(笑)してもらいました。
盛大に捏造、及びキャラ崩壊していますので注意して下さい。
~6年前――SIDE:荒垣和哉~
――よく晴れた日の朝に、俺は長期任務でヨーロッパへと旅立つ事になった。空港にはFBIの仲間達が見送りのために一緒に来てくれて……その中に、秀一の姿もあった。
ボスや仲間達が俺に声を掛けてくれる中で、秀一は少し離れた場所にいる。
『カズヤ。そろそろシュウに声掛けてやったらどうだ?』
『言われずとも、そのつもりさ』
古参の1人に言われるまでもなく、俺はそのつもりでいた。
それから俺は、仲間達から離れて秀一に声を掛けた。
「秀一」
「……和哉さん」
「……お前ならまず大丈夫だろうが、念のために言っておく。俺がいない間も、日々の鍛練を欠かさないようにな」
「はい。分かっています。……あなたから教わった事は、決して忘れません」
「ならば、よし。……もう、俺から教えてやれる事はないな」
「ご冗談を……俺はまだまだ教わりたい事がたくさんあります」
冗談ではないんだが……
「だから――無事に、帰って来て下さい」
「……!」
いつも通りの無表情だったが、こいつと今まで師弟関係にあった俺だからこそ、気づいた。
深緑の瞳が、少しだけ不安そうに揺れている事に。
(本当だったら、ここで免許皆伝と言いたかったところだが……これじゃあ言えねぇよなぁ……)
そう思ってから俺は、秀一の瞳を見据えて口を開いた。
「――分かった。約束しよう。俺は必ず無事に、アメリカへ帰って来る。必ずだ」
「……約束ですよ」
「あぁ」
「絶対ですからね」
「あぁ。……なんだ、そんなに俺が信用できないのか?それなら大サービスだ。今ならお兄さんがハグしてやるぞ、
まぁお兄さんって言っても、もう30を過ぎてるんだけどな!……と、両腕を広げつつ、頭の中で自分にツッコミを入れていたら、
「っ!!」
「おっ、と……!?」
突然、秀一が俺の腕の中に飛び込んで来た。……まさか、本気にするとは思わなかった。こいつってそんな奴だったっけ?
背後から仲間達の冷やかしの声が聞こえるが、秀一は全く気にしていない。
「…………絶対に、無事に帰って来て下さい。できるだけ、早くに」
「あ、あぁ……善処する」
秀一の意外な一面を見た俺は、その後すぐにヨーロッパへと旅立った。
……俺はこの時、6年後にこいつがとんだ変貌を遂げる事になろうとは、全く、これっぽっちも、予想していなかった――
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~5年前――SIDE:ジョディ・スターリング~
――最近、シュウの様子がおかしい。現場に出ている時はいつも通りだけど、それ以外ではほとんどが上の空だった。
例えば、私と2人きりで話している時に突然ぼんやりとし始めたり、デスクワーク中に手を止めてどこか遠くを見つめていたり、煙草の灰が服に落ちているのにも気付かずに吸い続けていたり……明らかに、おかしい。
その様子には仲間達も気づいているようで、恋人である私に何か心当たりはないかと聞いてくる人もいる。……確かに、1つだけ心当たりはあった。でも確信はなかったから、仲間達には黙っていた。
そんなある日。シュウが、2人きりで話したい事がある、と言って私を呼び出した。……ちょうどいいわ。私の予想が正しいかどうか、確かめてみましょう。
そして現在。私は自宅に彼を招いていた。
『……それで、話したい事って?』
『……今回、俺が任された黒の組織への潜入捜査の事で、少しな』
『!』
という事は、やっぱり……
『……やっぱり最近、あなたの様子がおかしかったのは、それが理由なの?』
『…………そうか。やはり気づいていたのか。他の奴らにも遠回しに心配されたし、自分でも隠せなくなっている事は自覚していたが……』
『質問の答えになってないわよ』
自分だけで納得しないで欲しいわ!まったく……
『……確かに、最近の俺の様子がおかしかった原因は、潜入捜査を任された件が関係している。……まぁ、直接の原因ではなく、あくまでも間接的なものだが……』
『間接的?』
『あぁ。……俺は潜入捜査で日本に行く事になる』
『そうね』
『そして潜入捜査中は当然、FBIの人間に安易に連絡を取る事ができなくなる』
『……えぇ』
『それはつまり――もしも和哉さんが戻って来たとしてもすぐに知る事はできないし、会う事もできない、という事になる』
『えぇ、そう……ね……?』
『和哉さんが戻って来たら1番に会いたいというのに、潜入捜査中ではそれが不可能だ。……確かに、例の組織への潜入捜査は俺の目的達成のためにも必要な事だが、その任務がよりによって和哉さんがまだ戻って来ていないタイミングで回って来るとは……あぁ、行きたくない……』
『…………』
「和哉さん……和哉さんに会いたい……」
――あなた、誰?本当にあの赤井秀一なの……!?
そう思ってしまう程に、彼は消沈していた。今でもテーブルに肘をついて頭を抱え、和哉さん和哉さんと呟いている。
『…………まさかとは思うけど……あなた、カズヤが長期任務に行った日からずっと落ち込んでいたの!?あれから1年も経ってるのに!?』
『……
『充分でしょう!?』
呆れた!まさか今までずっと引きずっていたなんて……いえ、それよりも、
『あなた、そんなにカズヤの事を慕っていたの?初めて知ったわ……』
『俺はだいぶ前から和哉さんの事を慕っていたさ。表には出さなかっただけで。……和哉さんは本当に凄いんだ』
それからシュウは、カズヤがどれ程凄い人なのかを語り始めた。……いつも無表情で無口な彼が非常に――非常に!――珍しく、子供のようにキラキラと瞳を輝かせ、饒舌に語っている……!!
そして、長々と数十分ほど語った後に、シュウはこう言った。
『あんなにカッコ良くて、男前の和哉さんが未だに独身だなんて信じられない!もしも俺が女だったら絶対に放って置かないだろう。……いや、逆にもしもあの人が女に生まれていたら、それこそ口説き落としてでも手に入れていただろうな……』
『…………シュウ?あなた、恋人である私の前で、よくもまぁ、そんな事を……!』
返答によっては
『あぁ、そうだ。その話なんだがなジョディ、』
『何よ!』
『――別れようか』
『――は?』
――よろしい、ならば戦争だ。
………その後。小一時間ほど口喧嘩をした後に、別れを切り出した理由が潜入捜査のためである事を知った。
言葉が足りないのよシュウは!!カズヤの事を語っていた時はあれだけ饒舌だったくせに!!
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~3年前――SIDE:スコッチ~
黒の組織での潜入捜査中。組織の人間として、とある任務を受ける事になり、つい先程それを完了した。
俺が運転する車で、一度黒の組織の拠点に立ち寄り、用事があるというゼロ……じゃない、バーボンを降ろして、ライと2人で帰る事になった。ライは車内で呑気に眠っていた。……どうやら、相当疲れていたらしい。確かに、今回ライはこき使われたしな……バーボンに。
特に問題もなく、そろそろライを降ろす場所まで近づいてきた。……その時だった。
「……っ、ぐ……う……!!」
「……?……ライ?」
「う、あ……っく……!!」
「!?お、おい、ライ!?」
突然、眠っていたライが魘され始めた。
慌てて車を止めてシートベルトを外し、後部座席まで身を乗り出して、ライの体を揺さぶる。
「ライ……っおい!目を覚ませ!」
「ぐ、あ……っ、かずや、さん……!!」
「ライ!!」
「っ!?」
そしてようやく、ライが目を覚ました。
「あ……?」
「あぁ……良かった。目が覚めたか」
「……スコッチ?」
「おう。……急にお前が魘され始めたものだから、驚いたぜ……」
「魘されて?……そうか……」
少し青ざめた表情を見せるライに対して、俺はつい好奇心を抑えきれずに、彼が先程口にしていた事について聞いてしまった。……潜入捜査官として、あわよくば、コードネームを与えられた幹部の1人である、この男の弱みを握れないかと考えたからだ。
「なぁ、ライ――カズヤさんって誰だ?」
――瞬間。特大の殺気を向けられ、俺の背筋は震え上がり、冷や汗がだらだらと流れ出した。
「――てめぇ……どこで聞いたんだ、その名を……!!」
いつの間に手にしていたのか、拳銃の銃口が目の前にあった。
(これはまずいな……)
どうやら、俺はピンポイントでライの地雷を踏んだらしい。
弱みを握る事は諦めて、ライを落ち着かせる事にした。
「あー……いや、お前がついさっき、自分で言ってたんだけど……」
「…………何だと……?」
「さっき魘されてた時に、カズヤさん、って言ってたんだよ、お前が」
「……本当か?」
「本当だよ!」
「…………そう、か……」
すると、ライはため息をついて頭を抱えた。
「えっと……ライ……?」
「……スコッチ」
「お、おう」
「すまなかった」
「え、あ、うん……って、えっ!?」
今、こいつ……謝った、よな!?ジンほどではないが、俺様気質のライが謝った、だと……!?
「……今のはどう考えても、俺の落ち度だ。……悪かった」
「あぁ、いや……俺も、余計な事聞いちゃって、ごめん」
「いや……それはいい。それよりも、だ。……今日の事は、誰にも言わないでくれないか?特に、和哉さんの事は。……無論タダで、とは言わない。今回の事はお前個人から、俺への"貸し"だと思ってくれて構わない。だからその代わりに……和哉さんの事は、黙っていてくれ……頼む」
……その強い眼差しに負けた俺は、ライの頼みに対して頷いてしまった。
「――ありがとう、スコッチ」
その後、あまりにもほっとしたという表情をしたライを見た俺は、こっそりとゼロに報告しようかと考えていたのだが、その気も失せてしまった。……甘いなぁ、俺。
「……なぁ。誰にも言わないからさ。聞かせてくれないか?そのカズヤさんって、お前にとってどんな人なんだ?」
「……あれだけの殺気を向けられた後にそれを聞くとは……馬鹿か、お前は。……まぁ、いい。答えてやろう。あの人は俺にとって心から尊敬する相手であり、目標だ。そして――俺の、唯一無二だ」
――そう言い切ったライの誇らしげな表情を、俺は一生忘れないだろう。
……その数日後。俺はそんなライの秘密を抱えたまま、自殺した。まだ"貸し"がそのままになってたんだけどなぁ――
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~1年前――SIDE:ジェイムズ・ブラック~
赤井君が本国に戻って来てから1年が経ったある日の事。古参の捜査官達が談笑している輪の中に、珍しく赤井君の姿があった。
『……そして、カズヤの奴はそのチームのリーダーに向かってこう言ったのさ。"任務を達成し、死地から帰還した部下に対して掛ける言葉がそれか!?上司の風上にも置けねぇ奴だ!"ってな。
それからカズヤは、カズヤの事を罵るそいつに向かって"文句があるなら自分も同じ死地から任務を達成した上で帰還してから言いやがれ。それができねぇなら口出しするんじゃねぇよ、臆病者が!!"って言ったんだ。……いやー、あの時はスカッとしたぜ!』
『……さすが和哉さん……カッコいい!』
……予想はしていたが、やはり荒垣君の話をしていたようだ。赤井君は古参の1人から荒垣君の話を聞き、まるで少年のように目を輝かせている。最近では、こんな光景を見る機会が多くなっていた。
初めて知った時は驚いたのだが……赤井君は弟子として、師匠である荒垣君の事を特別に慕っている。
5年前に黒の組織への潜入捜査を任されたあたりから、彼の様子がおかしくなり、その原因が荒垣君の不在にあるという事を、ジョディ君から教えてもらった。
赤井君は荒垣君と会えない事に耐えられず、それが表に出てきた結果、様子がおかしくなったのだ、と。……最初は、まさかあの赤井君が、と耳を疑った。しかし、ジョディ君は本気でそう言っているようだった。
その話を聞いた数日後に、赤井君は日本へ向かってしまったため、その真偽を確かめる事はできなかった。
しかし、2年前に帰国した赤井君のますますおかしくなった様子を見て、ジョディ君から聞いた話を思い出した私は、ダメ元で彼に昔の荒垣君の話を聞かせてあげた。もしもジョディ君の話が本当なら、そうする事で少しは元気になってくれるのではないかと、そう考えたのだ。
その結果。予想以上に効果が見られた。
深緑の瞳が輝き、生気が戻って来る様子を間近で見た私は、ジョディ君の話が本当だった事を知った。
それからは、部下達……主に古参の捜査官達にこの事を伝え、定期的に赤井君に荒垣君の話を聞かせてあげて欲しい、と頼んだ。最初は半信半疑だった彼らも、実際に赤井君の反応を見た事で、積極的に話してくれるようになった。彼らからしても、いつも無愛想な部下が、自慢の仲間の1人の話を熱心に、楽しそうに聞いてくれる事が嬉しいのだろう。
そんな経緯があり、今も彼らは赤井君に荒垣君の話をしている。
『よし、なら俺もおもしろい話を聞かせてやろう!ある事件に関わった時、ティーンだと勘違いされたカズヤの話をな!』
『何だそれ詳しく!』
『ただし!……カズヤには口止めされてるから、俺が話したって事は内緒で頼むぜ?な?』
……さすがに本人に口止めされているにも関わらず話してしまうのはどうかと思うが……私は止めなかった。
『……私も気になるな……是非とも聞かせてくれないか?』
『あ、ボス。……いいけど、カズヤには内緒にしてくれよ?』
『あぁ、もちろん』
すまない、荒垣君。私もその話は気になるのでな。
『じゃあ、さっそく話すとしよう。まだカズヤが20代だった頃の話だ――』
……荒垣君達はとある事件の捜査をしていた。そのとある事件というのが、10代の少年少女の連続誘拐事件だった。……その事件の大まかな内容は、私もよく覚えている。当時は特に話題になっていたからな……
その事件については、4件起こった誘拐事件にそれぞれ共通点があった事から、同一犯による連続誘拐事件である事。現場に残された痕跡から、犯人が複数いる可能性が高い事が判明していたらしい。しかし手掛かりは少なく、犯人達が見つからないまま、数日が経過してしまったのだという。
そんなある日の事。その日の捜査を終えた荒垣君は、帰宅途中に人気のない道を通ったところで見知らぬ女性に声を掛けられ、道を聞かれた。……なんとなく嫌な予感がした荒垣君は、気づかれないように警戒していたそうだ。
その予感は、見事に的中した。
荒垣君は女性に道を教えている最中、女性がやけに会話を長引かせようとしている事に気がついた。……同時に、背後から何者かが忍び寄っている事にも気づく。
そして、背後から拘束されそうになったが、荒垣君は速やかにその相手を無力化した。相手は男性だった。
また、その後に逃走しようとした、道を聞いてきた女性も捕らえ、応援を呼んだ。……そしてその2名が、連続誘拐事件の犯人だったのだ。
犯人達はネットの中で知り合いになった後、今回の犯行に及んだのだという。……見目麗しい少年少女を誘拐、そして監禁した後にペットのように扱って楽しむ……これが、動機だったらしい。
本当なら、犯行についてメディアでも話題になっていたため、4件のみで犯行を止めるつもりだったが……そんな時に女性の好みの容姿の少年……荒垣君を見かけて欲が出てしまい、これで最後にしようと男性を説得し、荒垣君を誘拐しようとした。
そんな自供を聞いた荒垣君は……
『――俺はティーンじゃねぇ!!とっくに20を過ぎてんだよ!つーか、20どころかあと4、5年もすれば三十路になるんだぞ!?』
……と、憤慨していたらしい。
『……とまぁ、そうゆうわけで事件自体は解決したんだが、しばらくはカズヤの機嫌が悪くてな……』
『……そういえば確かに、一時期カズヤの機嫌がとてつもなく悪かった時があったな……』
『あー、それが理由だったんだなぁ……』
古参の者達が当時を思い出していた時、赤井君が口を開いた。
『なるほど、そんな事が……しかし惜しかったな――当時俺が和哉さんの誘拐未遂に鉢合わせていたら、そいつら2人を半殺しにしてやったのに……』
眼光鋭く虚空を見つめ、そう呟いた赤井君の声音は常よりも低い。……その殺気に、我々は揃って背筋を震わせた。
『あーっと……そ、そうだシュウ!カズヤがアクション俳優並みの動きで事件の犯人を取り押さえた話があるけど、聞くか?』
『聞きたい!』
古参のうちの1人の機転によって、赤井君は再び少年のように目を輝かせる。……それを見て、我々は安堵した。
(……先程の様子から察するに……赤井君は荒垣君を尊敬するどころか、もはや崇拝しているのかもしれない……)
荒垣君は、赤井君の心境の変化に気づいているのだろうか?……いや。おそらく気づいていないだろうな。
彼は自己評価が低いせいか、自身に向けられる好意に対しては途端に鈍くなってしまうからなぁ……2人の間にある認識の違いが露呈した時、一体どうなるだろうか……
(最低でも口喧嘩にはなりそうだな……)
……まぁ、2人なら大丈夫だろう。どちらもいい年の大人だし、2人の間には今まで積み上げてきた信頼関係がある。最悪の事態にはならないはずだ。
そんな事を考えている私を他所に、赤井君と古参の捜査官達は、休憩時間中ずっと荒垣君の事を話し続けた。
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~数ヵ月前――SIDE:江戸川コナン~
今日は昴さん……否、赤井さんに誘われて、工藤邸に泊まりに来ていた。
黒の組織についての新しい情報と、日本の公安とFBIの合同捜査が決まった事について話しておきたい。長い話になるだろうから、泊まっていかないか?……というのが、赤井さんが俺を呼んだ理由だった。無論、俺がその誘いを断るはずがなかった。
昼前に工藤邸に来て、それから赤井さんに詳しい話を聞く。……それが終わる頃には、既に夜中となっていた。
赤井さんが作ってくれた夕飯を食べ終わり、彼が風呂から出てきた後に俺も風呂に入った。そして風呂から出ると……
「……あぁ、ボウヤ。すまないな。酒臭いだろうが……」
「大丈夫だよ!小五郎のおじさんもよくお酒飲むから、慣れてるし」
赤井さんがお酒を飲んでいた。ちらっと酒瓶を見ると、バーボンと書かれたラベルが貼られている。
「バーボン、か……仲直り、できるといいね」
「ん?……あぁ、安室君か」
誰と、とは言わなかったが、赤井さんには伝わったようだ。
「ふっ……彼なら、そもそも仲"直り"するほど仲が良かったわけではない、などと言いそうだな」
「あぁ……あ、ははは……」
あの人なら本当に言いそうだ……と思いながら苦笑いしていると、赤井さんがこう言った。
「なぁ、ボウヤ……少しだけ、俺の話に付き合ってくれないか?今日は話をしたい気分なんだ」
「……珍しいね。いつもなら子供は寝る時間だから、なんて言って部屋に追いやるくせに……」
「ホー……それがお望みならすぐにでもそうするが…」
「わーい!僕、赤井さんのお話が聞きたいなぁ!!」
慌ててそう言って、赤井さんの目の前のソファーに座った。
「くくっ……そうか。よし、分かった……少し待っていろ。暖かい飲み物を淹れて来る」
そう言って席を立ち、しばらくして赤井さんが持って来たのは……
「ミルクティー……?」
「……意外か?」
「あ、えーと…………うん」
思わず正直に頷いてしまった。……こうゆう時、淹れてくれるのはいつもホットミルクだったしな……それも蜂蜜入りの。
「赤井さんが僕に紅茶を淹れてくれた事って、今まで無かったんじゃないかな?大体がコーヒーか、寝る前のホットミルクだった気がする……」
「そう言われてみれば……そうかもしれない。俺も紅茶は久々に淹れたよ。……以前は、彼のために淹れていたからな……」
「彼……?」
「――彼は、俺が心の底から尊敬している人で、俺の唯一無二だよ」
俺は目を見開いて赤井さんの顔を見た。……赤井さんは、微笑んでいた。あの赤井さんが、穏やかに笑っている……!?
「あの人と出会ってから、もう少しで10年は経つか?
――初めて会った時、俺は生意気にもあの人の事を見下していたんだ。日本人で、童顔で、女顔で、身長も俺や他の男連中より低かったからな。そんな奴が俺の教育係だなんて、信じたくなかった。
だから俺は命令違反はよくやったし、あの人や周囲の人間への態度もかなり悪かったと思う。……まぁ、その分だけやるべき事はこなしていたからか、あまり文句は言われなかったが。
だからこそ、調子に乗っていたんだろうな……
ある日、俺はミスをした。詳しくは話せないが、下手をすればその作戦に参加した捜査官の全員を危険にさらしてしまうような……そんなミスをしてしまったんだ。しかし、あの人がうまくフォローしてくれたおかげで、なんとか事なきを得た。
そして、作戦が終了してFBIの本部に戻った先で、あの人は俺を殴り……」
――あの作戦はてめぇが1人で参加したわけじゃねぇ。チームに所属する全員が参加していたんだ。……つまり、てめぇのミスは全員のミスに繋がるんだよ。分かるか?――もしかしたらてめぇのミスのせいで、全員が死んでいたかもしれない!てめぇの行動次第で、他の捜査官達に影響が出る場合もあるという事実を、よーく考えて反省しやがれ!!
「……と、言ったんだ。だが、それだけではなくてな……」
――しかしだからと言って、俺はてめぇ1人で勝手に死ねと言っているわけじゃない。たとえ生意気でも、てめぇは俺達の期待のルーキーで、大事な仲間の1人なんだ。……お前が死ねば、皆が悲しむ。当然、俺もだ。――だから、もっと周りの人間を頼る事を覚えてくれ。俺は……いつかお前が1人で突っ走って死んでしまうんじゃないかって……心配してるんだよ。
「……とも、言っていた。……俺がその意味を理解したのは、あの人が作戦の指揮を取っていたジェイムズに、頭を下げるのを見た時だった」
――本当に、すまなかった。今回の一件は、俺の監督の不行き届きが原因だ。チームで行動する際の心得を、もっとしっかりとこいつに教えてやるべきだった。こいつのミスの責任は、俺にある。――罰するなら、それを踏まえた上でこいつだけでなく、俺にもそうしてくれ。ボス。
「……そう言ったあの人の背中が……とても大きく見えたんだ。
……結局、ジェイムズは俺に与えた罰よりも重い罰を、あの人に与えた。……その時俺に与えられた罰は、あの人のものよりは確かに軽かったが……俺には、今まで与えられた罰の中でも、一番重く感じられたよ。
その日から俺は、あの人自身に関心を向けるようになった。……すると、今まで見えなかった部分が見えてきて……あの人が当時の俺よりも、あらゆる意味で優れた捜査官である事を知った。
スナイパーとしても、近接戦闘員としても……そして推理力も、俺を上回っていて、FBIの中で一番だった。……上層部の人間には嫌われているようだったが……それ以外の捜査官達にはよく慕われているのが、目に見えて分かった。
その時、思ったんだ。――あの人のような男になりたい、と。
それからは、今までの態度を棚に上げて、あの人に弟子にしてくれと頼み込んだんだ。……もちろん、最初は良い顔をされなかったさ。今までの態度が悪過ぎたからな。それでも、どうしても弟子にして欲しいと何度も頼んだら、あの人はそれに応えてくれた。
あの人は師匠として、俺に様々な事を教えてくれた。自分のためにも、教えてくれるあの人のためにも、必死に学んだ。
……そして気がついた時には、俺はあの人以上の実力を持つようになっていて、いつの間にかFBIのエースなどと呼ばれるようになっていた。……全ては、あの人のおかげだ。……そういえば、その頃からだったかな。あの人が様々な知識や技術を身に付けるようになったのは。
それらは俺にとっては必要だとは思えないものばかりで、何故そんな事をやっているのか疑問に思っていたが……それらが所々で役立っているのを目の当たりにした時、改めてあの人は凄い人だと思ったよ。ますます尊敬した」
……バーボンを飲みながら、珍しく饒舌に話していた赤井さんが、そこでふと、大きなため息をついた。……これも珍しい。
今日だけで、今までに見たことがない赤井さんをたくさん見ている。
「そんなあの人は今、日本どころかアメリカにもいない」
「えっ?どうして?」
「6年前から長期任務でヨーロッパにいるんだ。……任務内容を考えると、彼と頻繁に連絡を取るわけにもいかなくてな。そのせいで6年前から電話もしていないし、直接会う事もできていない。……ましてや、今の俺は死人だからな……」
「あ……そ、その……ごめんなさい、僕のせいで…」
「何を言う。君が考えた策のおかげで、俺は今でもこうして生きていられるんだ。君のせいではない。恨んでもいないから安心してくれ。……あぁ、それにしても……」
すると突然、赤井さんはグラスをテーブルに置いて、座っていたソファーに横倒れになった。
「え、ちょ、赤井さ…」
「――さびしい」
「――っ!?」
滅多に口にしない言葉を、舌足らずにそう言った赤井さんは、どこか遠くを見つめながら、再び口を開く。
「……はやく……はやく、かえってきてください……あいたい、です。……ます、たー……――かずや、さ…」
…………見てはいけないものを見て、聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする……
"カズヤ"というのが、赤井さんが話していた人の名前なんだろうか。"マスター"とも呼んでいるようだが。
……それからすぐに、赤井さんはすやすやと眠ってしまった。
「……どうする?ここだと風邪引いちまうかもしれねーし……」
……仕方ない、起こそう。眠っているところで悪いけど。
そう思って、赤井さんが眠っているソファーに近づいた時、
「ん?……う、わ……」
そこでようやく、そのソファーの後ろに酒瓶が数本転がっている事に気がついた。……見た感じ10本には届いていないようだが、それにしたって凄い量だ!
なるほど。赤井さんが珍しく饒舌で、様子がおかしかったのはお酒のせいだったのか。納得した。
(酔っ払ってしまえば、この人もただの人、か……ちょっと安心したぜ)
こっそりとそう安堵しながら、俺は赤井さんの体を揺さぶった。
「赤井さーん、起きてー!ここだと風邪引いちゃうよーせめてベッドに、って!?」
その時、赤井さんが両腕で俺の体を掴んで自分の胸元まで持って行き、そのまま抱き込んで再び眠ってしまった。……えっ?ちょっと、嘘だろ……!?
「赤井さん!?赤井さーん!?……おいおい……!起きねーぞ、この大人……!!」
そうして四苦八苦しているうちに、気がつけば俺も寝てしまっていた。……そして翌日……
「……ボウヤ、すまない。昨日は何があったんだ?酒瓶が転がっているから酔っ払ってお前を抱き枕にしてしまった、というのは分かるんだが……全く覚えていないんだ」
「――赤井さんなんてもう知らない!ジョディ先生に言いつけてやる!!」
「なっ!?待ってくれボウヤ!ジョディに知られたら面倒な事になる!」
その後、やけに平謝りしてくる赤井さんを見て溜飲が下がったため、許してあげた。……ジョディ先生と何かあったのだろうか?"もう説教じみた喧嘩はこりごりだ"と言っていたが……
とりあえず、昨日見た"見てはいけない赤井さん"については、俺の心の中に閉まっておく事にした。
それにしても……あの赤井さんをあそこまで心酔させてしまう"カズヤ"さんとは、一体どんな人なんだろうか……
――まさか、数ヵ月後にその"カズヤ"さんと会う事になるとはつゆ知らず、俺はそんな事を考えていた。
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~現在――SIDE:赤井秀一~
「……やぁ。全員揃っているかな?」
「ジェイムズさん!……うん!全員いるよ。ジェイムズさんと、あなたが呼んだ助っ人の人で最後だよ」
「そうか。ありがとう、コナン君。……さぁ、入ってくれ」
「――失礼します」
その声を聞いた瞬間、まさか、と思った。まさか、あの人がここにいるはずがない、と。しかし……
(――
扉が開く。……姿を現した人物は、間違いなく、和哉さんだった。
多少髪が伸びているし、ほんの少しだけ顔つきが変わっていたが……俺が和哉さんを見間違えるはずがなかった。
……しばらくの間、俺は唖然としていた。自分でも間抜け面を晒していた事は自覚している。
そしてようやく、目の前に和哉さんがいるという現実を受け止められたため、和哉さんに話し掛ける事にした。……今の俺は、今までにないくらい緩んだ表情をしているのだろうな。
「――和哉さん」
それから少し和哉さんと話した後、何故彼が帰って来ている事を教えてくれなかったのか、とジェイムズに詰め寄った。……すると、ジェイムズはこれは俺へのサプライズである、と答えた。……なるほど、それで……これは嬉しいサプライズだな。
……あぁ、忘れるところだった。
「和哉さん――お帰りなさい」
「――おう。ただいま」
――あなたの帰りを、心待ちにしていました。
・寂し過ぎて死んじゃう病、な忠犬
和哉さん和哉さん和哉さん和哉さん――さびしいです……
6年前から年々寂しさが増していき、今では立派なオリ主中毒患者。禁断症状が発生していた最中にオリ主と再会できて脳内お花畑。
良い子にお留守番していました!褒めて下さい、マスター!!
・旅立った飼い主
忠犬をアメリカに残してヨーロッパに旅立った。まさか弟子が禁断症状を発生させていたとはいざ知らず、長期任務をこなしていた師匠。日本で再会して大混乱。
弟子のデフォルトよ!帰って来い!!
・忠犬の元恋人
オリ主が自分以上に赤井に慕われていたため、軽く(?)嫉妬。小一時間ほど説教…もとい喧嘩した。赤井に対して強気でいける女性は、おそらくこの人しかいない。
――よろしい、ならば戦争だ!
・英国産ウイスキー
赤井の地雷をピンポイントで思いきり踏んだ。冷や汗だらだら。これはやばい……(;・∀・)しかし、なんとか許してもらえた。むしろ謝られて目を白黒させた。
ライに"貸し"作ってやったぜ!……と思っていたら――
・忠犬と飼い主の上司
忠犬と飼い主の行く末を心配している。だが、あの2人なら大丈夫だろう、と信用もしている。おそらく忠犬の心境の細かい変化に、一番最初に気づいた。
さて、これから先この2人はどうなるか見もの…ゴホン、心配だなぁ……
・見た目は子供…以下略
珍しい赤井の姿を見て、内心ではちょっと喜んでいたが、その後すぐに酔っ払いに絡まれて体力を消耗した。
赤井さんなんてもう知らない!……というのは嘘。今でもしっかり憧れています!