~忠犬の牽制~
俺が秀一達幹部と顔合わせをして、今後の方針を決めた日の翌日。作戦に参加するメンバー全員に顔を見せる事になった。……普通ならわざわざ全員に紹介する程でもないというのに、何故そうなったのか。これには訳がある。
作戦を立案する際に江戸川達に助言をする傍ら、素質のある者達にパルクールの技術を教えてやる事……これが、俺の役目となったからだ。よって、素質のある者を見つけ出すために、全員と顔合わせをしておく必要があった。
それに公安の面々や、俺が長期任務に就いた以降からFBI所属となった若手連中は、当然俺の顔を知らない。俺は一応、幹部という扱いになる。念のために顔を見せておかないとな。
という訳で現在、俺は会議室で自己紹介していた。
「FBI所属、荒垣和哉だ。6年前から長期任務に就いていたが、最近になってそれが完了したんで、戻って来た。俺が任務に就いてからFBIに所属するようになった連中とは、初対面になるな。古参の奴らは久しぶり」
「おう、久しぶりだな!」
「長期任務お疲れ」
「待ってたぜ、お帰りカズヤ!」
「おー、ただいま。……あ、最初に言っておくが、俺はこれでも38でな。10年以上はFBIにいる」
俺がそう言うと、予想通りざわめきが広がった。古参の奴らはニヤニヤと笑っている。
「さすがBaby face(童顔)!」
「Shut up Old face(黙れ老け顔め)。……さて。今後、俺は江戸川達に助言をしつつ、お前達にはパルクールの技術を教える事になる。ただし、これは習得に時間が掛かるため、教えるのは素質のある奴だけだ。習得する見込みのない奴に教えても、時間の無駄になるだけだからな」
すると、再びざわめきが広がった。……それはそうだろうな。これは、素質がある奴以外は全員素質がないと言っているのと同じだ。実際、若い奴らが顔をしかめたり眉をつり上げたりしている。今も……
「……ふざけてるな。素質のない奴はお荷物だとでもいいたいのか?」
「馬鹿にしやがって……」
『そもそも、あいつ本当にパルクールが使えんのか?』
『確かにな。体も細いし、他と比べれば背も少し低めだ。それに女顔だぜ?』
『男に体を売ってるとか?ホモか?』
『ははっ!』
日本語だけでなく、英語でもひそひそとそんな悪口が聞こえてくる。……俺、実は耳がいいから結構聞こえるんだよなぁ……
まぁ、そんな事はもう慣れた。いちいち反応してもしょうがない。無視して話を続け――
「っ!?」
突然、隣からとんでもない殺気を感じた。俺に向けられたものではないが……
「……しゅ、秀一?」
「…………」
その殺気の主は秀一だった。イケメンが凶悪面になって周囲に殺気を放っている……!
「……今、和哉さんを侮辱したのは、どこのどいつだ?」
常よりもドスの利いた声で、秀一はそう言った。
「……ちっ。黙るくらいなら最初から言うんじゃねぇよ……和哉さんは俺の師匠で、俺がFBIの面々の中で最も尊敬している男だ。彼を侮辱するという事は俺を侮辱する事に等しい。――身の程を知れ、屑共」
……表情を見るに皆、俺が秀一の師匠である事に驚愕しているようだが、声には出ない。彼の威圧感が、言葉を奪っているのだろう。
しかし、驚いた。まさか秀一が俺を尊敬しているなんて。昨日の様子から、慕われているのはなんとなく分かっていたが……実際に言葉にされると少し照れる。
無論、ポーカーフェイスは怠らない。
「……さぁ、和哉さん。お待たせしました。話の続きをどうぞ」
「……あぁ。……ありがとう、秀一。おかげで静かになった」
「勿体ないお言葉を頂き、恐縮です」
と、満面の笑みで恭しげに一礼して見せた。全く、イケメンは何をしても似合ってるよな……
なお、この時初めて秀一の満面の笑みを見た連中は唖然としていた。
「……先程の言葉がお前達への侮辱に聞こえたのであれば、謝罪する。だが、事は一刻を争うんだ。作戦決行までもう半年を切っている。その間に、それなりにパルクールを使いこなせるようになってもらわなきゃ困るんだ。何せ予定では、俺を含めたパルクールを使える奴だけのチームを作り、そのチームに重要な役割を任せるつもりだからな」
「何だって……?」
「その重要な役割というのは?」
「……今はまだ言えない。幹部とそのチームに選ばれた奴だけが、詳細を知る事ができる。だが今は……最悪の場合は命に関わる、とだけ伝えておこう」
これは俺が考えたものだが、最初は危険だからと、幹部達は納得してくれなかった。しかしその利点と必要性を訴える事で、なんとか認めてもらったのだ。ただし、条件付きだったが。
「ちなみに、このチームは俺と秀一が主導するからそのつもりでな」
その条件というのが、秀一から付けられたものだった。秀一は本来なら万が一の時に自由に動ける立場にいる必要があるというのに、自分をそのチームに参加させないと認めないなんて言ってきやがった。
江戸川達もそれに同調して、秀一をパルクールのチームにと推してきた。……そういえば、やけに必死だった気がするな。何でだ?
おっと。それはともかく。
「パルクールの素質があるかどうかをどのように確かめるのかは、後日説明する。……ここまでで、何か質問はあるか?」
「なら、1つ聞きたい」
そう言って挙手をしたのは、FBIの若い男だった。
「何だ?」
「赤井さんの師匠って事は、あんたには赤井さん以上の実力があるって事なんだよな?」
「いいや。秀一はとっくに俺を越えているぞ」
「はぁ?じゃああんたはそんなんで俺達に偉そうな事を言ってたのか?それで重要な役割を担うチームを主導するって?冗談はやめてくれ。そんな奴、俺は認めないぜ」
「おい、お前…」
「秀一、やめろ」
「しかし和哉さん…」
「秀一」
「…………失礼しました」
俺は秀一を押し留めて、男の方に向き直った。
「確かに、俺は秀一には劣る。……だが、お前程度の若造を軽くねじ伏せる事はできる」
『……ふざけるなぁっ!!』
『あ、おいっ!!』
仲間の制止を振り切り、男は俺に殴りかかって来た。……やれやれ。そんな様子でよくFBIが勤まるな。
――俺は殴りかかって来た男の目の前に、指先を突きつけた。
男は思わず身を引いた。
「その構えって……
「ん?よく知ってるな、江戸川。って、そうか。秀一が使っているのを見たのか」
そう。俺が今使った技は、截拳道の技だった。これは俺も秀一もFBIに入る前から習得していたもので、俺達の数少ない共通点のうちの1つだ。
まだ師弟だった頃に手合わせした事もある。互いに学べる事は多かった。
「……さて。とりあえず、今のは見逃してやろう。さっきのは挑発するような言葉を使った俺も悪かった。だがな――次はねぇぞ、クソガキ」
「ひっ……!!」
……ふん。この程度の気迫に怯えるくらいなら、最初から突っ込んでこなけりゃ良かっただろうが……
そう思いながらふと、振り返ると……
「さすが和哉さん。相変わらず惚れ惚れする程の腕前です……!」
キラキラと輝く緑の瞳と目があった。……眩しい……眩しいぞ、元弟子よ……!そんな目で俺を見るな……!俺はそんな腕前を見せたつもりはないぞ!?
なんか変なフィルターが掛かってないだろうな?眼科行くか?
「昨日も思ったが、こいつは本当にあの、赤井なのか……?影武者じゃないだろうな……?」
降谷のそんな呟きが聞こえた。……俺も最初はそれを疑った……でも俺が関わる時以外はいつも通りだからなぁ……
「むしろ、ますます磨きが掛かっているように見えます。今度改めて手合わせしませんか?」
「遠慮する」
やめてくれ。いや、マジで。
・女顔の師匠兼飼い主(仮)
女顔ですが、何か?顔や体格絡みで悪口を言われる事には慣れている。しかし、イラついてはいたので、生意気な若造に向けて截拳道を繰り出した。おっさんを嘗めるなよ!
赤井に手合わせを申し込まれた。だが断る!
・凶悪面の弟子兼忠犬
師匠を侮辱する事は弟子の俺が許さん!
怒っていた事は本当だが、ここでオリ主に対して自分が従順な様子を見せれば、周りも多少は大人しくなるかもしれないと考えた上での牽制だった。
腕に磨きが掛かっていたオリ主に手合わせを申し込むが、断られる。
(´・ω・`)ショボーン
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~忠犬はストーカー予備軍?~
「…………ふぅ」
会議室にて。書類を読み通した事で一区切りがつき、息を吐く。
今、俺が読み終わった書類は、今回の作戦に参加している面子の身体能力や思考力をまとめた物で、例のパルクールのチームを選抜するために使う。基本的に誰を選抜するかは俺の判断で決定して構わない、と幹部達から許可をもらっていた。
膨大な情報量を頭に詰め込んだせいか、少し疲れているようだ。
(……コーヒー……いや、紅茶だな。紅茶が飲みたい)
そう思って席を立とうとしたところで、目の前のテーブルに湯気が立つ紅茶が置かれた。……この香りは……
「アールグレイ……」
「さすが和哉さん。ご名答です」
声が聞こえた方へ振り向くと、柔和に微笑む秀一がいた。
「ちょうど飲もうと思っていたところだったんだ。ありがとな」
「どういたしまして。今の和哉さんなら、アールグレイが飲みたいだろうと思ったので、入れて来ました」
「そうか」
気が利くな。……って、ん?何で俺が紅茶を……しかもアールグレイを飲みたがる事が分かったんだ?
「シュウ!ちょっと来て!」
「おっと。……呼ばれたので、失礼します」
「お、おう」
それを聞こうとしたのだが、秀一はジョディに呼ばれて行ってしまった。……まぁ、いいか。
気を取り直して、秀一が入れて来たアールグレイを飲む。
「…………これは……」
ミルクの量が絶妙だった。これには驚いた。……美味しい。
俺は、疲れが貯まっている時には紅茶を……特にアールグレイを飲むと決めている。それも、疲れの溜まり具合によってミルクの量を変えるのだが……秀一が入れて来た物は、まさに飲もうとしていた物と同じだった。むしろ……
(参ったな……これ、俺が入れる紅茶よりうまいかもしれないぞ)
こんなところにまで天才的な才能が現れるのか?……俺の元弟子がハイスペック過ぎる……これは、もう一杯飲みたい。
そう思っていたところで、秀一が戻って来た。
「あ、秀一。時間があったらもう一杯もらっていいか?うまかったんだ」
「っ!!」
そう言った瞬間、まるで褒められた子供のように無邪気に笑い、すぐに入れて来ると言って立ち去った。……いや、子供というよりもあれは……
「まるで、飼い主に褒められて尻尾を振ってる犬みたいですね」
「……降谷か」
誰かが近づいてきているとは分かっていたから驚く事もなかったが、一瞬、心を読まれたのかと思った。
「何か用か?」
「いえ。例のチームに選抜するめぼしい人材はいるのか、と書類を読み終わった時点で聞いてみようとここに来たのですが……来てすぐに犬を見るとは思っていませんでした」
「あー……」
俺は降谷の言葉を受けて、苦笑いした。
「……お前の目から見て、そう見えたのか」
「えぇ。きっと、僕以外が見てもそう見えるでしょうね。……あの赤井秀一が犬のようになるなんて、一体何をすればあんな癖があり過ぎる男が従順になるんですか、飼い主さん?後学のために是非とも伺いたいのですが……」
「俺は飼い主じゃねぇよ。というか後学って……」
「いずれ、それなりの地位に就く予定なので、今のうちに駄犬の躾の方法を知っておきたいんですよ」
うちには躾のなってない犬が複数いるもので、なんて言いながら笑う美形の目は、決して笑っていなかった。あー怖い、怖い。
「……確かに、あいつは最初からあんな風だったわけじゃない。だが、生意気だったのは最初の方だけでな。それ以降は俺を師匠として敬ってくれていたよ。……しかし、それでもあんなに無邪気じゃなくてな。昨日再会した時にはもうあんな風になってて、こっちが驚いているんだぜ?」
「そうだったんですか?」
「あぁ。……って、あ……そういえばあいつが何でああなったのかって話をボス達に聞き忘れてた」
しかし、今は誰もが忙しいからな……最悪、全部が終わってからでもいいか。
と、そこで秀一が戻って来た。
「どうぞ」
「ありがとう。……やっぱりうまいな」
「喜んで頂けたようで、何よりです」
「あぁ」
「ふん。まるで荒垣さんの使用人だな」
「……ん?あぁ、いたのか降谷君」
「目の前にいただろうが!」
「君よりも和哉さんが優先だからな。気が付かなかった」
おそらくわざとだろうが、秀一は今気が付いたかのように降谷に対して答える。……わざと、だよな?
おっと、そういえば……
「なぁ、秀一」
「はい?」
「お前、何でさっき俺がアールグレイを飲みたいと思っている事が分かったんだ?それに、ミルクの量まで絶妙だった」
先程聞きそびれた事を聞いてみた。すると、秀一はにっこりと笑い……
「あなたを師匠と認めてから数年間その仕草や癖をずっと観察していたので、あなたが疲れている事や、どんな飲み物を欲しているのかなどが、すぐに分かるようになったんですよ」
……なんて、割と衝撃的な言葉を口にした。
「…………よし、赤井。両手首を差し出せ。ストーカー予備軍として逮捕する」
「おい、待て。何故そうなる?」
「数年間もずっと1人の人間を観察してたなんて、ストーカー予備軍以外の何者でもないだろう」
「別にその生活を一日中眺めていたわけではない。盗聴や盗撮をしていたわけでもないぞ」
「だから予備軍と言っているだろう?将来的に予備軍が外れる可能性は充分ある」
「ただ和哉さんの事を知りたかっただけだというのに……」
「ストーカーは皆そう言うんだ」
「おい、予備軍を外すな。そもそもストーカー扱いをやめろ、理不尽な……和哉さんからもなんとか言って下さい」
「あー、うん。降谷、一応冗談はそれぐらいにしようぜ?」
「……仕方ないですね……」
「しかしな、秀一」
「はい?」
「正直、一瞬ドン引きした」
……その後、秀一は地面に跪いて項垂れた。……え?いや、そんなになる程の事を言ったのか、俺は!?
俺が焦って秀一を慰めている中で降谷が大爆笑し、会議室にいる仲間達全員の視線が集まったのを感じた。
・ドン引きした師匠兼飼い主(仮)
最初は赤井のハイスペック具合に驚き、感心したものの、後の暴露に衝撃を受けた。一瞬だけ、本当に、一瞬だけドン引きしたぜ。
……って、え?あれ?そんなに落ち込む程の事は言ってないぞ!?
・ドン引きされた弟子兼忠犬
褒められて舞い上がったが、その後どん底に落とされる。リアルOrz。しかし、オリ主から慰められてなんとか立ち直る。
原因になった降谷君は絶許……!
・ストーカー予備軍を逮捕しようとした公安
腹筋がヤバイwwwww
なお、赤井に前科(阿笠邸の盗聴など)があることは知らない。