忠犬と飼い主~本編~   作:herz

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 ちょっと長いので、前編と後編に分けます。

 前編、オリ主や赤井さん以外にいつの間にか降谷さんの影が濃くなっていました……自分でも降谷さんの性格がよく分かっていないにも関わらず、拙い物を書いてしまったかもしれません。申し訳ないです……
 後編は逆に降谷さんが引っ込みます。

 また、今回は前編、後編共に捏造が特に激しいです。注意して下さい!


忠犬、赤井秀一3~前編~

 あれから数ヶ月が経過し、作戦の決行日時が迫って来た。数ヶ月の間に選抜したパルクールのチームも何とか軌道に乗り、今はさらに鍛え上げているところだ。

 

 そんなある日。バーボンとして潜入捜査を続けている降谷が、ある情報を持ち帰って来た。会議室に俺を含めた幹部達が集まり、降谷から話を聞く。

 

 

「――キルシュ?……確か、組織の研究員のうちの1人だったか?」

 

「えぇ。それも古参の研究員です。……そのキルシュが、近々組織を抜けようとしているという情報を入手しました。どうやら組織に対して不満があったらしく、海外への高飛びを計画しているようです」

 

「……それは朗報だな。そいつを確保する事ができれば……」

 

「組織の新しい情報を手に入れる事ができるね!」

 

 

 江戸川の言葉に俺達は大きく頷いた。こいつの言う通り、組織に関する情報を手に入れるためにもキルシュを捕まえなければ。

 

 

「降谷さん。先回りして確保する事はできそう?」

 

「もちろんだよ、コナン君。既にキルシュの逃走経路は確認済みだからね。奴を確保するのに最適な場所を数ヶ所に絞ってある」

 

「さすが降谷さん!」

 

「仕事の早い男だな。さすが、優秀だ」

 

 

 江戸川や俺がそう言って称賛すると、降谷はにっこりと微笑んだ。……何だ?いつもより含みのある笑みだな。

 

 

「ありがとうございます。……ところで、荒垣さん」

 

「……何だ?」

 

「僕と赤井の、どちらの方が優秀だと思いますか?」

 

「はぁ?」

 

 

 いきなり何を言ってるんだ、こいつは。

 

 

「バーボンとして情報収集を行っている経験があるので、ありとあらゆる情報を入手する自信がありますし、たまに参加しているパルクールの訓練にもついて行ける程の身体能力もあります。それに、相手の懐に入り込める程の話術もありますよ」

 

「お、おう。そうだな」

 

「でしょう?……という訳で、身体能力やスナイパーとしての技術ぐらいしか目立つものがない男よりは、僕の方が優秀だと思いませんか?」

 

「ちょっと待て降谷君。それではまるで、俺にはそれしか能がないと言っているように聞こえるのだが?」

 

「事実だろう?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 2人の間に不穏な空気が漂う。……これは駄目だな。しばらく放っておくとしよう。

 そう考えた俺は、残りの幹部4人のいる場所まで避難した。江戸川も同じ事を考えたらしく、先に避難していたようだ。

 

 

「……あいつら、あれで本当に関係がある程度修復されたんだよな?」

 

「えっと、ついこの間まではそうだったはずだよ」

 

「だよな。……じゃあ、何で最近はこうなる事が多いんだ?」

 

 

 最近は何故か、秀一と降谷の間で何度か小競り合いが起きる。そして、それは大体降谷が秀一を煽る事がきっかけになっている。

 それだけなら以前と同じように、秀一が受け流せばいいだけの話なんだが……

 

 

「関係が修復される前みたいに受け流せばいいだろうに、何で秀一はそれをやらないんだ?だから降谷が調子に乗ってるんだろ……」

 

 

 俺には分かる。降谷は絶対に、秀一が受け流す事なく反応を見せる様子を愉快だと思っている。以前は受け流されていたからこそ、余計にそう思っているはずだ。

 普段の秀一なら、すぐにそれに気づくはず。

 

 

「本当にどうしたんだ?秀一は……」

 

「カズヤ……あなた、分からないの?」

 

「珍しく、赤井さんが分かりやすい態度を見せているのですが……」

 

 

 ジョディが呆れた、とため息をつき、キャメルは苦笑している。ボスは困ったように笑い、風見は目を見開いて驚いており、江戸川は空笑いを見せた。……だから江戸川。それは小学生が見せる表情じゃないぞ?隠す気があるのか?

 

 ともあれ、それぞれの反応を見た俺は首を傾げた。

 

 

「…………分からねぇな。お前らは分かるのか?」

 

「分かるわよ!あの2人の会話を聞いていればね!」

 

「会話を?」

 

 

 そこまで言うなら、聞いてみるか。

 

 

「……俺は沖矢昴だった時に料理もできるようになったぞ」

 

「ふん。それも俺が安室透として鍛えた料理の腕に比べれば、それ程でもないだろう?荒垣さんの胃袋を確実に掴む自信があるぞ」

 

「!…………俺にだってある」

 

「さて、それはどうだろうな?煮込み料理程度で胃袋を掴めるか?」

 

「今では煮込み料理以外にもレパートリーが増えた。……まぁ、そもそも和哉さんは料理も得意だからな。その和哉さんを満足させる物を作れるのか、君は」

 

「ほう……それはいい事を聞いた。今度、料理談義を持ち掛けてみるとしよう」

 

「……降谷君は以前よりはましになったものの、FBIの人間が嫌いだったはずだろう?何故和哉さんには積極的に関わろうとしているんだ?ここ最近、その傾向がかなり強くなっているようだが」

 

「確かに、荒垣さんもFBIだからな。こんな状況じゃなければ関わろうとはしない。だが、彼は実に優秀だ。頭の回転は早いし、おかげで仕事も早い。身体能力にも優れているし、お前や他のFBIと比べれば良識的な人物でもある。そして何よりも日本人!公安に欲しい人材だ」

 

「何だと?……和哉さんは俺の(・・)師匠だ。絶対に渡さない!」

 

「今はそうでも、もしかしたらいずれは俺の(・・)部下になっているかもしれないな」

 

 

 …………ふむ。

 

 

「……最近の小競り合いの内容も合わせて思い出してみたが、とりあえず俺が関係している事は分かった。……しかし、だからと言って秀一が冷静でなくなる理由がよく分からん。俺程度が降谷君と交流しようが、公安に引き抜かれそうになろうが、秀一の不利になるような事はないはずだぞ?いや、もちろん俺はFBIを抜けるつもりはさらさら無いが」

 

 

 そう言った途端、江戸川達5人がそれぞれ驚き、次第に呆れた目で俺を見るようになった。

 おいこら、お前ら。そんな目で見るな!俺が何をした?

 

 

「…………荒垣君」

 

「ん?何だよボス」

 

「くれぐれも、赤井君が聞いている時はそんな言葉を口にしないように」

 

「そんな言葉って?」

 

「自分を卑下するような言葉だよ。それに、君は赤井君と再会してから今日に至るまで、彼がどれだけ君を慕っているのか、それを目の当たりにしたはずだ。ならば、彼が冷静さを失っている理由も分かるのではないかね?」

 

「…………あー……」

 

 

 なんとなく、分かる、ような……?

 

 

「という訳で、だ。荒垣君」

 

「ん?」

 

「あの2人の小競り合いを、君が止めて来てくれ。そろそろキルシュを確保するための作戦会議がしたいんだ」

 

「はぁ?俺が?」

 

「そうだよ!お願い、荒垣さん!」

 

「荒垣さん、お願いします。今の赤井さんを止められる人はあなたしかいません!」

 

「それに降谷さんも、あなたなら止められるはずです!」

 

「頼んだわよ、Owner(飼い主)!」

 

「揃いも揃って何なんだお前ら……というか俺は飼い主じゃねぇぞ、ジョディ。……まぁ確かにボスの言う通り、そろそろ作戦を立てないとだな」

 

 

 仕方ない、行くか。……しかし、俺が言って止まるのか?あの2人は……

 

 不安に思いながら、俺は未だに言い争いを続ける2人の元へ向かった。

 

 

「おーい、お前ら。その辺にしたらどうだ?」

 

「あぁ、荒垣さん。良いところに来てくれましたね。……赤井。ここははっきりと、彼に決めてもらうとしようじゃないか」

 

「……よし、良いだろう。……和哉さん」

 

 

 秀一が真顔で見つめてくる。……何だ?

 

 

「俺と降谷君。どちらがより優秀だと思いますか?正直に答えて下さい」

 

「さぁ、荒垣さん。はっきりと答えて下さい。僕ですよね?」

 

「いいや、俺だ」

 

「…………はぁ……」

 

 

 俺は溜め息をつき、頭を抱えた。……そもそも、どちらが優秀なのかで争う事自体がおかしい。秀一も、降谷も。それぞれがそれぞれの分野で優秀なのだから。

 

 まず、秀一。こいつは天才と言える。スナイパーの技術はもちろん、パルクールの技術も最初は俺に劣っていたというのに、たった数年で俺を越えた。頭の回転が早く、物覚えもいい。俺が教えた事を次々と自分の物にして行ったからな。

 それに観察眼、想像力、身体能力などが凡人を大きく上回っている。また、常に冷静さを失わないように心掛けている事も、秀一が優秀である由縁だ。……何故か、今回のように俺が関わるとそうではなくなるのだが……それはともかく。

 先程の話でも、潜伏中に料理まで出来るようになったという。以前はまともな食事を自分から積極的に取る事があまりなく、それを見かねた俺がたまに手料理を食わせていたというのに……成長したものだな。

 

 次に降谷。こいつもまた天才と言えるだろう。まだ付き合いはたった数ヶ月しかないが、とにかく仕事のできる男だ。

 先程自分で言っていたが、こいつは情報収集能力や話術に長けているし、秀一に負けず劣らずの身体能力がある。そして、トリプルフェイスを続けられる程の忍耐力や演技力もある。おまけに料理もできるとか。これらの能力を駆使する事で仕事を行う。……これを優秀と呼ばずに何と呼ぶ?

 さらには、公安の部下達を率いる上でのリーダーシップまである。こいつはきっと将来、日本の警察組織の中でさらなる権力を身に付けるだろう。

 

 ……といった事を2人に話して、それぞれがそれぞれの一面で優れており、2人揃って優秀である事を伝えたのだが……

 

 

「どうしたんだ?お前ら。顔なんて隠して……」

 

「いや、その、はい。降参です。まさか、まさかそんな褒め殺しが返ってくるとは思わなくて……!」

 

『俺の師匠がこんなにも尊い……!』

 

「?……よく分からんが、とにかく作戦を立てる事が優先だ。くだらない小競り合いは後にしろ」

 

「「はい!」」

 

 

 

「……ねぇねぇ、ジェイムズさん」

 

「うん?何かな、コナン君」

 

「荒垣さんって、人たらしなの?」

 

「……うむ。本人は全く自覚がないのだがね……」

 

「そうなのよねぇ……それのせいで、カズヤに反発してた若手のほとんどが既に落ちてるのよ……」

 

「えっ!?あんなに荒垣さんの事を目の敵にしてたのに!?」

 

「赤井さんがあれだけ尊敬している人だからという理由もあるでしょうが、あの人自身にたらし込まれた若手がほとんどでしょうね……」

 

「……そういえば、公安の部下達からも荒垣さんの話をよく聞くような……」

 

 

 

 

「おい、そこの5人。作戦会議を始めるぞ」

 

 

 何やら話し込んでいた江戸川達を呼び寄せると、それぞれ複雑そうな表情で俺を見つめてきた。……どうしたんだ?

 

 しかし5人は特に何も言わなかった。気になってはいたが、今はそれどころじゃない。そのまま作戦会議を始める事にした。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 会議は滞りなく進み、キルシュ確保のための作戦を立てる事ができた。作戦実行は数日後となる。

 会議が終わり、その場は解散となったが、俺は先に1人で会議室を出た降谷に少し話があったため、廊下で呼び止めた。

 

 

「待ってくれ、降谷。話したい事があるんだ。もちろん、手短に済ませる」

 

「構いませんよ。この場でできる話ですか?」

 

「あぁ。……これからは、あまり秀一をからかわないでやってくれないか?あいつはどうも、俺が関わると冷静ではいられないらしい。そのせいで不安にさせたくないからな。……まぁ、その理由は俺自身、未だにはっきりと理解はしていないがな……」

 

「……そう、ですね。すみません。赤井に今まで散々のらりくらりと受け流されていたもので、奴が分かりやすく反発してくる様子を見る事がストレス解消になってしまって……って、ちょっと待って下さい。分からないんですか?あの男があれ程あなたの事を慕っているのに?」

 

「……さっき、同じような事を江戸川達にも言われた。秀一に慕われている事は分かってるんだが、それが理由であったとしても冷静でいられなくなる程の事じゃないと思ってな」

 

 

 そう言うと、珍しく驚いていた降谷が、呆れたような表情を見せた。……さっきの江戸川達と同じ表情だ。

 

 

「荒垣さん。あなた、周りからよく鈍感とか、人たらしだって言われませんか?」

 

「……たまに言われるな。何で分かったんだ?」

 

「それは分かりますよ、当然。……それはさておき、赤井を煽る頻度は減らしますね。では、失礼します」

 

 

 分かった理由は教えてくれないのかよ。それに、頻度を減らすだけで、止めはしないんだな……頑張れ、秀一。

 

 降谷を見送った後に会議室内に戻ると、秀一が声を掛けてきた。

 

 

「和哉さん。降谷君と何を話していたんですか?」

 

「ん、ちょっとな」

 

 

 秀一自身に聞かれてしまって気恥ずかしくなった俺は、そう言って言葉を濁した。……お前のために降谷と話して来た、なんて言えねぇし……

 

 すると、途端に険しい表情に変わった。

 

 

「……まさか、FBIをやめたり、しませんよね?」

 

「はぁ?何でそんな話になるんだ。俺はFBIをやめる気はさらさらねぇよ」

 

「そう、ですか。……そうですよね。疑ってすみませんでした」

 

 

 納得したのか、ほっとしたように微笑んだ。……そこまで気にする事なのか?

 

 

「しかし、その話でないなら一体何の話を……?」

 

「大した事は話してない。そんなことより、腹減ってないか?ここのキッチンを借りて何か作ろうかと思うんだが、ついでだからお前の分も作ろうか?」

 

「是非ともお願いします!」

 

 

 おおう、食い付きがいいな。しかし、おかげで話を逸らせたらしい。

 

 だがその後、江戸川達まで食べたいと言ってきた。仕方がないから俺の分も合わせて7人分の炒飯を作った。しかし、全員揃って無言で食いまくるのは不安になるからやめてくれ。

 最後に全員うまいと言ってくれたから良かったが……また今度作ってくれと念押しされたのは何故だ?

 

 その翌日。俺の料理の事を風見から聞いたのか、降谷が自分だけ仲間外れにするなと言ってきた。とりあえず降谷の分も作った。すると、降谷まで無言で食べていた。だから不安になるだろ……うまかったらしいから良かったがな。

 しかし、その後の反応が違った。この炒飯のレシピについて細かく聞いてきたのだ。別に隠してるわけでもないから、俺がアレンジを加えたレシピを教えた。真剣な表情でそれを聞き終えると……

 

 

「……荒垣さん。一緒にポアロの店員に…じゃなくて、潜入捜査しませんか?この腕ならいけますよ。間違いなく!」

 

「ははっ!冗談言うなって。無理だろ」

 

「いえ、冗談ではなく……むしろそのまま公安に…」

 

「降谷君、何を言ってるんだ。和哉さんは渡さないと言っただろう!」

 

「うわ、赤井!?どっから湧いて来たんだ貴様!」

 

 

 いつの間にいたのか、秀一が乱入して来てそのまま話はうやむやになった。結局俺は、2人の言い争いを止める事になった……

 まったく、少しは仲良くできねぇのかこいつらは……

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 幹部の作戦会議から数日後の真夜中。作戦を実行する時が来た。俺達が狙っているのは、高飛びをする前にキルシュを捕らえる事だ。さすがに空港で大捕物をするわけにはいかないからな。

 降谷が言うには、キルシュは人目を避けるような逃走経路を選んでおり、その経路にはある港が含まれている。その港は今の時間帯、全く人気がなくなるようだ。捕獲作戦の舞台は、その港に決まった。

 

 

 作戦の概要はこうだ。……まず、キルシュは車で移動しているため、こちらも車で奴を追跡する。そして、奴が港に入ったら港の全ての出入り口を塞ぐ。そうして袋の鼠となったところで、確保。

 ……という段取りだ。実にシンプルだが、これが一番確実で、周りへの被害をゼロにできる方法だ。既に、港周辺の人払いは完了している。

 

 ちなみに今回、パルクールのチームは作戦行動を取る事はない。キルシュに対しては、組織の追っ手が掛かる可能性が高い。そうなった時に、組織の人間に俺達がパルクールを使っているところを見られるのはまずい。壊滅作戦中に何らかの対策を取られてしまうかもしれない。

 また、ほぼ同様の理由で、降谷と江戸川も今回は不参加だ。降谷の場合、組織の人間にあいつが公安と一緒にいるところを見られるわけにはいかないし、江戸川の場合も、司令塔であるこいつの姿を見せるわけにはいかない。

 そもそも、江戸川は一応小学生だからな。こんな真夜中に外に出せるはずがない。良い子は寝る時間だ。大人しくしてなさい。

 

 ……しかし、作戦中に万が一の事があった場合、俺か秀一がパルクールを使う事を視野に入れている。秀一は組織の人間に姿を見られても問題ないように、今回は顔や体格を隠せる服装で参加させる事にした。

 だが、特に何事もなければ秀一の出番はない。念のために、いつでも狙撃ができるようにベストポジションで待機してもらうが。

 

 

 ……さて、準備は整った。あとは実行するだけだ。

 

 

「荒垣さん!今、無線で連絡が来たぜ。予定通り、キルシュをこの港まで追い込んだと。それから、出入口も全て塞いだとの報告も入った」

 

「了解。……それじゃあ、袋の鼠を捕まえるとするかね。……だが、油断するなよ。窮鼠猫を噛むという言葉があるくらいだからな」

 

 

 俺の言葉に、FBIの若手や公安所属の者達が大きく頷いた。……最初に比べると、こいつらの俺に対する態度がかなり変わったな。何度もコミュニケーションした甲斐があった……

 

 しみじみとそう思いながら、仲間達と共にキルシュ確保のために動き出す。……と、その時。無線機から秀一の声が聞こえてきた。

 

 

「和哉さん。予定通り、キルシュはあなたが今いる場所の北東側から港に入りました。ご武運を」

 

「あぁ。ありがとう。……ハジメ(・・・)。念のため、いつでも動けるようにしとけよ」

 

「了解しました。では、切ります」

 

 

 そう言って、秀一は無線を切った。

 

 

 今、秀一の事を"ハジメ"と呼んだ理由は、この作戦内での秀一の偽名がそれだったからだ。無線を組織の人間に傍受された時の対策のためである。

 この偽名を決める時、秀一は何故か俺に決めて欲しいと頼んできた。……正直、何も思い浮かばなかったから、適当に秀一の"一"を取って、ハジメと呼んだ。するとあいつは心底嬉しそうに、それにします、と満面の笑みで言った。……適当に決めた、とは言えなかった。

 

 それから改めて、キルシュ確保のために行動を始めた。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 既に始まっていたカーチェイスに俺達も参加し、キルシュが乗った車をうまく誘導した結果、袋小路まで追い詰める事に成功した。……しかし、奴は諦めが悪いらしい。

 キルシュは、それまで乗っていた車を乗り捨てて、俺達が見逃していた小道を使って逃げ出したのだった。

 

 

「っ、まずいわ!逃げられちゃう!!」

 

「追いかけましょう!」

 

「まぁ待て。ジョディ、キャメル。落ち着け」

 

「荒垣さん!?何を呑気に……!」

 

「そうよ、カズヤ!このままじゃ…」

 

「落ち着けって」

 

 

 俺は焦る事なく、無線機を使う。

 

 

「……聞こえていたな?ハジメ」

 

「はい」

 

「――Go(行け)!捕まえて、俺の元へ連れて来い!」

 

「……くくっ――Yes Master(はいご主人様) 。必ず!」

 

 

 

 

 

 

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