災厄が生まれる時 作:ヤンデレ製造機
その日、出久は緊張していた。
憧れの学校、憧れのヒーロー科への入学初日だ、
うまくやっていけるのか、そんな不安で胸がいっぱいだった。
(出来れば怖い人と違うクラスが良いなぁ)
そう思いながらドアを開ける。
そこには怖いと思い、他のクラスだったら、と、思っていた2人、勝己と天哉がいた。
「俺は飯田天哉」
「僕は緑谷出久、よろしく。」
しかし、天哉は怖い人ではなくてただ真面目なだけな人だと分かると出久は少し安心した。
しかし、突如として出久と天哉の間に1人の少女が舞い降りた。
彼女は出久と同じくらいの身長で、腰までの長い黒髪に黒くて大きな瞳が特徴的だった。その次に目に入るのが胸だ。
まるでバレーボールでも入っているのかと疑いたくなるような大きさだ。出久もそれに目が行った。
(アレ? この人……)
そして、不思議な感覚となった。
どこかで会ったことがあるような懐かしさと、強烈な愛おしいさ。
出久にとってはじめての感覚だ。
彼の中にあるナニカが全身に広がり、彼女を求めている。
それは、彼が継承されたワンフォーオールと彼女の"個性"が惹かれ会っているせいなのだが、彼には分からない。
「私!
絹は出久の手を取った。
その手は柔らかくて、暖かくて、そして、優しかった。
出久の心臓が激しく高鳴る。
「あ、あの、ぼ、ぼ、僕。 緑谷、出久……です。 純日本人、で、す。」
女子に慣れていことと、彼女に対する不思議な感情のせいでいつも以上に緊張していた。
「うん、よろしく! 会えて嬉しいよ!」
抱きしめられた。
はじめは驚き、そして、恥ずかしくて心臓が高鳴った。
彼女が欲しい、と、出久の中のナニカが暴れまわる。
一緒に居たい、支配したい、と、激しい衝動が駆け巡る。
(なんだ、この感覚)
彼女にどうしてか惹かれる。
一緒にいたい。というよりも、一緒にいるのが当たり前だとさえ思えてしまう。根源的に彼女を欲している。
その理由が出久には分からないが、嫌な感情では無い。
しかし、それでも、少し怖かった。
◆
個性把握テスト、
最下位は除籍、そんな試験を彼らは受けさせられた。
しかし、"個性"の制御が出来ない出久には難しいものだった。
「嫌だよ! せっかく会えたのに! 離れたく無い!」
絹は泣いた。
はじめて会った少年に対して離れたく無いと涙を流した。
「うん、僕も離れたく無いよ。」
気がつくとそう言ってしまっていた。
絹から離れたく無い、一緒にいたい。自分のモノにしたい。
そんな思いがこみ上げてくる。出久にとってはじめての感覚だ。
とても心地よく流されそうな感覚なのだが、出久にはまるで自分が自分ではなくなるようで怖かった。
「まだ! 動けます!」
意地で出久は認められ、はじめの試練を乗り越えた。
その光景を見ていた絹は、感嘆していた。
カッコいいと、素敵だと、感動した。
しかし、それと同時に不安に襲われもしていた。
怪我した指だ。聞けば、出久は入学試験でも怪我していたという。そんなの怖すぎる。怪我して、ボロボロになって、その姿はカッコいいが彼女は心配でたまらなくなった。
「大丈夫? 出久君の"個性"ってこういうものなの? 怪我しないように出来ないの?」
帰り道、絹は出久に聞いた。
「うん、出来るはず。 まだ、うまく調整が出来なくて……。」
「よかった……。怪我する"個性"だったらどうしようかと思ったよ。 たしかに、出久君、カッコ良かったよ。でも、"個性"使うたびに怪我してたら私、心配で死んじゃうよ。」
そう、悲しそうに言う絹に出久は「ごめん」と、言うしかなかった。そして、"個性"のコントロール。これを急がないといけないと心に決めた。
◆
屋内訓練
オールマイト という存在に少し惹かれた絹だったがすぐに振り払った。
1戦目、爆豪と出久の戦いに絹はカッコいいと言う感情を腹立たしさが上回った。
彼はまた怪我をした。怪我をすることに躊躇いがない。
そのことに腹がった。もっと自分を大切にして欲しい。怪我して欲しくない。その自分の思いが彼が分かっていないんだ。
轟と組んだ彼女は何もすることなく訓練が終わり、授業後すぐに保健室に駆け込んだ。
「出久君! なんで! なんで! そんなに怪我するの?! 私の気持ちも考えてよ! 」
絹は声を荒げて叫んだ。
怪我して欲しくない、と、心配でたまらない、こんなんじゃ戦って欲しくないと、
そんな彼女に出久は謝るしかなかった。しかし、そんな出久に絹はさらに苛立ちを覚え、涙も出てきた。
今までの激しい衝動ではなく、優しいく思い。
そんなはじめての想いが制御出来ていない。
"個性"無しでの制御の仕方なんて知らない。興味がない。
「じゃあ! もう! 二度と"個性"で怪我しないで! もう見てられないよ……。 私ね、出久君のことが大好きなんだよ……。それが、こんな、怪我ばかりしてたらヤダよ。 」
泣きながらそう言う彼女に出久は頷いた。
頷くしか無かった。
「わかった。もう二度と怪我しない。コントロールするよ。」
それから、出久は絹とともに"個性"のコントロールの練習をしていった。USJ事件で、一度だけ成功したコントロールの感覚をヒントにイメージを手繰り寄せた。
幸運なことに、(当たり前だが)"個性"の扱い方が絹と似ているためそれもヒントに出久は体育祭までのわずかな間に習得できた。
「できた! 出来たよ!」
雄英高校の訓練室で出久と絹は喜びのあまりに抱き合った。
この部屋は自主練がしたい生徒に貸し出されている部屋なのだが、ただでさえキツイ授業後に借りに来る生徒は稀であまり使われることはない。
「ええ、良かった。 出久君、これでちゃんと戦えるね。」
「うん、ありがとう。操体さ……」
出久が絹の名前を言おうとした瞬間に出久の口は絹の方により塞がれた。
出久は何が起きたのか分からない。ただ、脳まで犯されているんじゃないかと誤認するくらいの心地よさが広がっていた。
そして、全身が熱くなり、ただ、絹を求める思いが強くなる。
彼女を本能的に欲する。
そして、口が離れる。
「私は出久君って呼んでるのに、なんで、下の名前で呼んでくれないの? 私のこと嫌いなの?」
「!! いや、あの、そんなんじゃなくて! その……」
出久の顔は真っ赤になり、絹から離れようとするが絹は離さない。
彼女は彼に近づきたい。1つになりたいという激しい衝動に従っていた。
そして、衝動にただ一緒に居たいという
その感情は明らかに違うものだ。 しかし、絹には理解ができない。
その違いが分かっていれば、もっと別の結末があったかもしれないのだが、
「その、嫌い……、じゃないと言うか、その……。す、好きだよ」
彼は絹に押されるまま告白した。
出久も絹と同じ想いがあった。
絹の全てが欲しいという熱い衝動とも言える想い、だが、それとは別に守りたい、傷つけたくないと言う優しい思いもある。
分からない。どちらも
一度、彼はオールマイトに相談したことがある。ワンフォーオール関連だとなんとなく思ったのだが、オールマイトは首を降った。
『青春だね! 緑谷少年!! ああ、分かるとも。男はそう言うものだ。どちらも大切なものだ。 好きな人を傷つけることはしてはいけないよ。 』
と、言われた。
オールマイトはただの性欲とかそう言うのだと思ってしまったのだ。
そのこともあり、彼女のことを大切に思っているのは本当で、好きなのは事実だ。だから、最後の最後に逆らうのをやめた。
「うん、なら、私と同じように下の名前で呼んで」
絹は出久を押し倒した。戸惑い、混乱する出久だが、それでも、彼女の勢いに負け出久も衝動に流される。流されてしまった。
熱い衝動、自分のモノでは無い熱い暴走。
この日、2人は1つになった。
なってしまった。
一度流された衝動に、出久は簡単に流されるようになっていった。
◆
体育祭、
"個性"を使いこなし、フルカウルも習得した出久は強かった。
轟に炎を使わせた上で勝利をもぎ取り、勝己にも勝って優勝した。
絹はその勝利を心から喜んだ。それが出久も嬉しかった。
絹が愛おしい、一緒に居たい。
そして、ヒーローを目指す自分を応援してくれる。そんな彼女のために、絶対に負けない。 傷つかないヒーローになろう。
そう心に誓った。
しかし、それとは逆に絹は不思議な不満を覚えていた。
ヒーローを目指す出久を応援したいと言う想い。側に立てるだけで嬉しくて、誇らしいと言う優しい感情と、自分ではなくて
優しい想いと、激しい衝動。
その違いをいまいち理解出来ない彼女は困惑していた。
その困惑に戸惑いながら絹は雄英生として過ごしていく、
職場体験で、ガンヘッドの元へと向い、出久以外ではじめてお茶子に心を開いた。しかし、ステインとの戦い間に合わず、傷ついた出久に涙を流した。
林間合宿で、幼馴染が拐われた出久を励まし共に取り戻しに行った。
神野での悲劇で傷つく出久を励ました。
出久、そして、お茶子と笑い合うのはとても楽しく、絹にとって初めての感情だった。
だが、出久はヒーローで誰かを助けることが一番だった。
泣いている人がいれば絹よりもそちらを優先してしまう、そんな優しい少年だった。
それは誇らしく、しかし、妬ましく悔しかった。
甘い想いと暗い衝動、
どちらも彼女2つの感情がぐちゃぐちゃに合わさった。
元より感情制御に頼った人生だった。"個性"なしに向き合うことなんてしてこなかった。
けれど、出久への感情だけは弄りたくなくて、
ただ、自分だけを見ていて欲しくて、
壊れた。
◆
分からない。
私が私で分からない。
出久君が好きだ。 大好きだ。
彼と一緒に居たい。彼と一緒にヒーローを目指したい。
ヒーローとなった彼を支えて、一緒に戦って平和を守る。考えるだけで幸せで、笑顔になってしまう。
けど、私の中で何かが騒ぐ、
彼の全てが欲しい、彼には私だけを見ていて欲しい、
分からない。
私が分からない。
不安になって、お茶子ちゃんに聞いた。
「うーん、誰かを好きになるのは欲張りなことなんだと思う。なんて言えばいいんやろ……。 ワガママになるのは当たり前だから……。
絹ちゃんは普通なんだと思うよ。」
普通と言われた。
けれど、それでも出久君への想いはどんどんと分からなくなっていった。
そのまま、ヒーローインターンへと突入した。
出久君はエリという女の子ばかり気にするようになった。
出久君はチサキという男ばかり気にするようになった。
羨ましい、妬ましい、悔しい
ふざけるな、出久君は私のものだ。
違う、アレが出久君のいいところだ。私が支えてあげないといけないんだ。
おかしい、私は出久君の恋人だ。 私が一番なんだ。
それはそうだけど、私は出久君と一緒に戦える一番ということなんだ。
分からない、分からない分からない!
出久君と並びたい!
出久君の全てが欲しい!
羨ましい、羨ましい!
出久君に一番気にしてもらえる
「SMASH!」
出久君がチサキを倒した。
エリが出久君の力を100パーセントにしたんだ。
私よりも彼とうまく戦える。私よりも彼に必要とされていた!
羨ましい、妬ましい、
私が出久君の1番じゃないんだ!
1番になりたい、
どうすればいい?強くなる?
無理だ、彼はいつも
ああ、そうだ。
そういうことだったんだ。
「出久君、大好きだよ!」
疲れ切っている出久君に抱きつくと、彼は一瞬だけ不思議そうな顔をした後、抱き返してくれた。
大好きだ。だから、私だけを見ていて欲しい。
◆
出久は、いや、その場にいた人たちは何が起きたのか理解出来なかった。
絹は拳を振り上げると、インターン先のリュウキューの心臓を貫いた。そして、そのまま、ねじれの首を切り裂いた。
「絹、さん? 」
出久は、いや、インターン生は動けない、しかし、プロの動きは早かった。まず、洗脳系の"個性"の疑いを強めた。
しかし、警官たちを殺し回る絹を止めるのが先だと襲いかかる。
だが、絹は止まらない。
かたや満身創痍のヒーロー達だ。
対して絹のスタミナは既に回復していた。
スタミナ回復の強化、言ってしまえば、リンクしているワンフォーオールから力を分けてもらっているのだ。
これが彼女の"個性"だ。
ワンフォーオールから力を引き出すことと、身体能力を制御すること、
この2つの"個性"を持っているのだ。
「あは、出久君!が見てる!私だけを見てくれてる! 嬉しい! 嬉しいわぁ! 」
彼女は笑っていた。
楽しそうに、嬉しそうに、頰赤らめて笑っていた。
「絹さん! やめて!」
出久は叫び、止めに入る。
しかし、簡単に止められてしまう。たしかに、出力は出久の方が上だ。だが、スタミナがもうない。満身創痍の出久には止められない。
「やまないよ。 私は
ただ、好きな人に見ていて欲しい。
たったそれだけのために、絹は
◆
これは、神野に並ぶ悲劇となった。
絹がデタラメに放った拳の風圧で100人を超える一般人が死んだ。
リュウキュー、ネジレチャン、サンイーター、ファットガム、フロッピー、サー・ナイトアイ、ら複数のヒーローが死亡した。
18人の警察関係者が死亡。
200人以上の怪我人を出した。
しかし
「絹さん、なんで?」
出久には何故、このようなことが起きたのか分からない。
怒ってもいい筈だ。大切な友人が殺され、沢山の人が死んだ。
なのに、怒らない、恨まない。
それどころか、まだ、絹への想いは無くならなかった。
「緑谷少年……。
恩師から告げられた言葉に出久は頷いた。
「分からないんです。 絹さんは、沢山の人に手をかけた、友だちも殺した。なのに! 恨まない! それどころか、まだ、彼女のことが好きなんです。」
「……そう悩むことじゃないさ。 緑谷少年、君はどうしたいんだ?」
そうオールマイト に言われ、出久は不思議と言葉が出た。
「絹さんを止めたいです。」
それにオールマイト は微笑んで頷いた。
答えは出た。
出久は最愛の人を止めるために戦うことを誓った。
絹は最愛の人の1番になるために戦うと誓った。
こうして最高のヒーローと最悪の