短編にまとめようと思ったら、思いの外文字数がかさんでしまったので分割してお送りすることにしました。
では、よろしくお願いいたします。
朝の騒がしさが少し落ち着いた頃、とある喫茶店にて。
金髪を長く伸ばし色の違う瞳を持つ少女――ユミナ・エルネア・ベスファストは長椅子に腰掛け、縁に花柄の絵が装飾された白磁器のティーカップを優雅に持ち上げる。
「……お二方にお尋ねしたいのですが、冬夜さんと出会う前はどんな生活を?」
何気なく問いかけては、ティーカップに入っている紅茶を口に含むユミナ。
テーブルを挟んで、彼女と対面しているように座っているのは、銀髪に翡翠の瞳で顔立ちがよく似た少女たちだ。一見して分かるのは、髪の長さ程度で見分けが付かない。
「どんな生活ってね……あの頃の話は、思い出したくもないわ」
銀髪のロングヘアーの少女――エルゼ・シルエスカは、頬杖をついてお世辞にも行儀がいいと言えない姿勢で言い返す。包み隠さず嫌悪の表情を浮かべていた。
「私も……あ、でも、少しだけ良い思い出というか人というか……」
エルゼの右隣りに座っていた彼女と瓜二つの顔立ちをしている銀髪のショートヘアーの少女――リンゼ・シルエスカも最初は遠慮気味に言っていたが、途中で何かを思い出したようだ。
「何? まさか、“アイツ”のことじゃないでしょうね?」
眉根を寄せて、実の妹であるリンゼに対しても睨み付けるエルゼ。
もっともエルゼの言う通りらしく、リンゼは首肯する。「そうだよ、“あの人”のことだよ……今でも元気かなぁ……」窓辺を見つめて呟く。
「お二方が仰っている“あの方”とは一体……?」
二人の会話を静かに聞いていたユミナが形のよい片眉の尻を上げる。
彼女の好奇心を刺激してしまったと悟ったエルゼは一つため息を吐いた。できれば、二度と思い出したくなかった――そう言いそうな胡乱な目つきでユミナから視線を逸らす。
「冬夜さんと出会う前に、私たちを助けてくれた人がいたんです」
エルゼの意を介せず、リンゼはユミナの疑問に答える。「ちょっと、話すことないでしょ」若干の苛立ちを含ませながらエルゼは返答した声の主へ目を向けた。
「でも、話さないことはないじゃないでしょ?」
姉の睥睨にもめげるどころかキッパリと反論する。これにはエルゼも頬を歪めるぐらいしかできない。
「ふふっ、本当に羨ましいですね。兄弟や姉妹がいる方は」
この場で唯一兄弟も姉妹もいないユミナが、二人のやりとりを見て微笑む。彼女の言う通り、瑠璃と翡翠の瞳には羨望の光が宿っていた。
「それで良ければ、その方のことを話してくれませんか?」
文字通り箱入り娘だったユミナは外への好奇心――執着にも似た感情を持っている。だから、旅をしていた八重や冒険者として生計を立てていたシルエスカ姉妹には興味を持ち、こうしてせがむことがある。
今回だけは話したくないと思っているエルゼはどう躱そうか思案するが、隣にいるリンゼは迷うことなく了承した。
「良いですよ……ね? お姉ちゃん?」妹の言葉に圧を感じ、とうとう折れるエルゼ。「良いわよ。ったく、あんな奴のこと、思い出したくないけど」とても不満げではあるが、話し始める。
「あれは、冬夜に会う一年ぐらい前のことかな……」
語り始めたエルゼの口元はどこか嬉しそうに緩み、声もまた楽しそうに弾んでいた。――内緒だけど、話す機会ができて嬉しい。その気持ちをひた隠しにしているつもりで。