Hero   作:巻波 彩灯

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終章

「――っで、ワーウルフの炎が館中に広がちゃったから、慌てて脱出したのよ」

 とユミナにその時のことを語り尽くしたエルゼ。非常に苦労したと顔に出ている。

「それで土谷さんという方やヴァンさんという方は、いずこに?」

 話の顛末をしっかり聞きたいユミナは、エルゼたちに質問を投げかけてはぬるくなった紅茶を啜る。

「それが……館を出て、手当てをした後に別れたきりで……」

「そうですか……」

「アイツらの行方もそうだけど、あの館の主も謎だらけよ」

「それについては、仮説がいくつかあります」

 ユミナの泰然とした口調に目を丸くする二人。「何か分かったんですか?」リンゼが興味津々に尋ねる。

 その問いにユミナは「ええ、あくまで推測ですけどね」と付け加えて話す。

「まず、リンゼさんが狙われた理由は恐らく魔法の適正数や魔力が優れていて、なおかつ生娘だったからだと思います」

「ああ、そう言えば、そうじゃないと食べられないって聞いたわね」

 エルゼは思い出したかのように言う。実際、自分は見聞きしていたわけではないので、実感がそこまで湧いていないが。

 彼女の様子を見て、理解度を確認しながらユミナはさらに話を進めた。

「古来より純白な女性は神性を帯びているとされており、さらには魔力が高ければ重宝していたとも言われたほどです」

「確かに神話系の話では、そのように女性が扱われることが多いですね」

「ええ、だから純白で魔力の高い女性を贄にして武器を作った逸話も生まれるんです」

「ってことは、リンゼを食べれば、そいつの体が強化されるってこと?」

「大まかな解釈としてはそれで良いと思います。恐らくリンゼさんを食べて、魔力を補給していたのでしょう」

 想像するだけで身震いをしてしまう話だが、二人は不思議と恐怖を感じなかった。むしろ疑問に思っていたことが解決されたことにより、モヤモヤしていたものが晴れてさえいる。

「狂った理由はハッキリとは分かりませんが、かなり長く生きてきた影響があるのでしょう。少なくとも私たちよりも長く生きていそうですから」

「だから、見境なく食い散らかしたわけ?」

 エルゼのストレートな発言にユミナは苦笑しつつも「ええ、そうだと思います」と肯定した。

「もう最期は愛していた人の幻想でも追いかけないと持たなかったのでしょうね」

 空になったティーカップの底を見つめ、ユミナはどこか悲しげに呟く。リンゼも同情しているのか憂いの表情を浮かべた。

 話が一段落した時に、ドアが開くと同時に入店を知らせる鈴が鳴る。一同は出入り口に注目した。

 黒髪を一つに結び、黒い瞳に彼女たちよりかは幾分か大人びた顔立ち、薄紅色の着物と腰に差した二振りの刀が目を引く少女――九重(ここのえ)八重(やえ)だと認める。

「八重さん、こちらです」

 ユミナは八重に呼びかけ手招きをする。それに気付いた八重は真っ直ぐに彼女たちが座る席に歩み寄った。

「いや、用事が思ったより長引いてしまってすまぬでござる」

「別にいいわよ、そんぐらい。それよりも八重が来たことだし、さっさと行くわよ」

「ええ……八重さん来たばかりだから、少し休憩してからの方がいいんじゃない?」

「リンゼ殿、心配には及ばないでござるよ。拙者は大丈夫でござるから」

「なら、行きましょう。私たちも少しでも腕を磨かなくてはいけませんから」

 こうして集まった四人は会計を済ませて、店の外へ出て行った。

 

 彼女たちは街から少し離れた森の中にいた。己の腕を磨くために冒険者ギルドへ赴き、クエストを受注したのだ。

 根っからの武人である八重や好戦的なエルゼだけでなく、リンゼもユミナも鍛錬をしなければならないと常々思い、こうして集まって修行している時がある。

 冒険者たる者、いつまでも他人に守られ続けては格好がつかない。だからこそ、こうして修行に出向くのだ。

「今回はリザードマンを十体狩ればいいのよね?」

「うん、そうだよ。でも、数が少ないからって油断しちゃダメだよ、お姉ちゃん」

「分かっているわよ! 増援があるかもしれないんでしょ」

 リンゼの忠告に対して、エルゼは耳にタコができるぐらい聞いたと言わんばかりに返す。

 彼女の言葉に八重は頷き、言葉を紡いだ。

「そうでござるな。下手をすれば十体どころか二十体も狩らねばならぬかもしれないでござる」

「あまり想像したくないことですが、想定するに越したことはないでしょう」

 最年少ながらユミナは落ち着いた様子で辺りを見渡す。彼女の手には弓が握られ、腰には矢筒があった。

 程なくして、近くの木陰が動いた。それを察知したユミナが「八重さん、エルゼさん」と前衛二人に呼びかける。

 二人は呼びかけに応じ、エルゼは拳を眼前に構え、八重は左手を鯉口に添えては切って抜刀できるように準備する。

 木陰から飛び出して来たのは、彼女たちが探し求めていたリザードマンだ。

 八重が先行して、刀を抜き放つ。銀色が一つ流れるとリザードマンの頭と胴体は切り離され、頭は放物線を描いて八重の背後の木にぶつかって落ち、体は力を失い膝から崩れる。

 それだけは終わらない。八重は振り返り周囲を見回す。もう既に何体かのリザードマンが出現しており、エルゼたちが交戦していた。

「炎よ来たれ! 赤き速弾、ファイアアロー!」

「雷よ来たれ。白蓮の雷槍、サンダースピア」

 リンゼは炎の矢を、ユミナは雷の槍を覿面にいるリザードマンたちへ放つ。直撃したリザードマンは燃え盛ったり、貫かれて感電したりと致命傷を負う。

 難を逃れてもエルゼのブーストによる筋力強化が行われた鉄拳で、頭の骨を砕かれてしまい、血と脳漿を撒き散らして頽れる。

 さらには八重の鋭い斬撃による嵐で為す術もなく次々と首を切り落とされていく。

 優に十体を超えただろうか――それでもリザードマンたちの進行は留まることを知らない。

「ったく、ホント、ツイてないわね」

「やっぱり想像した通りでしたね……少し厳しいですね」

 少女たちは互いの背中を預け合うように中央へ集まる。思った以上の数が出てきたが、対処できないことはない。

 だが、ユミナの言う通り、数が多すぎて少しばかり分が悪いのも確か。

「でも……これを切り抜けられなければ、冒険者の名が廃ります、よね?」

「左様でござるな。これぐらいは切り抜けなければ、笑われるでござる」

 八重の言葉は後ろへと流れて行った。再び先陣を切って、彼女は刀を振るう。

 眼前のリザードマンは胴を横一文字に斬られ、内臓と血を辺り一帯にばら撒いていく。

 仲間の一体が八重の背後から襲いかかるが、後頭部から幾本かの矢が額にまで突き刺さり、力を失って横へと体が流れる。

「かたじけない」

「どういたしまして。八重さん、そのまま前に出てください」

「承知したでござる」

 ユミナの指示に従い、八重は薄紅色の弾丸となりて、リザードマンたちを絶えまなく斬りつけていく。

 彼女の背後を弓矢と魔法を駆使してユミナが守る。たちまち数は減っていく一方だ。

 対して、エルゼやリンゼも負けじと息の合ったコンビネーションを見せつける。

 リンゼが放った炎の槍や矢でリザードマンたちの注意を引きつけ、エルゼがブーストを使った打撃で屠っていた。

 炎の槍や矢に運悪く当たった者は仲間を巻き込んで燃やしていく。一体がそれらを無視してリンゼに目掛けて爪を伸ばす。だが、その爪が彼女に届くことはなかった。

 肉を打つ重々しい響き、内臓が潰れる感触。

 リンゼの前にエルゼが割って入り、自慢の拳で突き飛ばした。拳を直に喰らったリザードマンは背後の木に背中を強く強打して、その場に倒れ込む。

 まだ倒し切れていないと察するが、今は無視してエルゼは次に襲いかかってきたリザードマンの爪を躱し、再び拳を叩きつけた。

 骨は砕かれ、眼球や脳が飛び出ていき、確実に相手の顔面を破壊して息の根を止める。

 しかし、何度もブーストを使った疲労かやや動きが鈍り、その次に迫る爪に反応が遅れた。

 八重が疾駆し、ユミナが矢をつがえ、リンゼが魔法を詠唱しているが間に合わない。

 爪がエルゼの顔へ触れようとした瞬間、黒緑の疾風が目の前を通り過ぎた。

 エルゼを襲おうとしたリザードマンは錐揉みしながら巨木の幹に激突し、構成していた中身を撒き散らす。

 先程、通り過ぎた黒緑の影は着地と同時に近くにいたリザードの顔を棒状なもので殴りつける。

 リザードマンはその速度に反応できず、首を二、三周させて仰向けに倒れた。

 エルゼはその黒緑の影に見覚えがあった。いや、エルゼだけでなくリンゼにもある。

 影の正体は――土谷惟真だ。

「何でアンタがここにいんのよ!?」

「この道をたまたま通りかかっただけだ」

 そう言いつつ、惟真は覿面のリザードマンを愛用のトンファーで粉砕していく。

 エルゼも続いてガントレットを血に染めながら、リザードマンたちの体を壊していった。

 救援に駆けつけた八重が、リンゼやユミナに近づく者たちを切り落とし、ユミナとリンゼは魔法を詠唱して相手を倒していく。

 あっという間にリザードマンたちは蹴散らされ、その場は鎮圧した。

 そして事後報告のため、冒険者ギルドへと戻ることに。

 

「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 事後報告をした後、建物の前でユミナが代表して礼を言う。

「礼はいい」と流す惟真。「別に助ける必要もなかったわけだしな」彼女たちの実力を認めていた。

「それでもエルゼ殿の身が危なかったのは確かでござる」

「べ、別にアンタの助けがな、なくたって、どうにかできたわよ」

 八重の言葉にエルゼは否定する。もっとも自分の身が危険に晒されていたのは、誰よりも理解している。

 けれど、認めると負けた気がして、中々肯定できない。

「あの……また会えて、嬉しい、です」

 素直になれないエルゼをよそにリンゼはおどおどしながらも惟真に声をかける。

「おう、そうだな。元気そうで何よりだ」

「その、土谷さんも元気そうで……」

 か細い声で返事をするリンゼ。その隣にいるエルゼは「今までどこをほっつき歩いていたのよ?」と訝しげな表情で尋ねる。

「今までって……普通にクエストをこなしていただけだぞ? まぁ、もっぱら馬車の護衛ばっかだったけどな」

 今までにないぐらい惟真は苦い表情をする。ひょっとすると馬車が苦手なのではという疑問がリンゼの中で生まれたが、それは押し留めることにした。

「んじゃ、俺はこれで。じゃあな」

 話が落ち着くと惟真は彼女たちに背を向けて歩き出す。そして右手を軽く掲げて振った。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 このままでは伝えたいことが伝えられないとエルゼは焦り、惟真を呼び止める。彼はエルゼの声に反応し、足を止めて振り返った。

 黒緑の瞳は相変わらず落ち着いており、何を言っても受け止めてくれそうな優しさがあった。

「あ、あたしの名前は、エルゼ・シルエスカ! 今度、アンタをぶっ飛ばす奴の名前よ、覚えておきなさい!」

 指差して強気な発言をするが、エルゼの顔は茹でたタコのように真っ赤になっており、本人としては格好がつかない状態となっている。

 それでもこれだけはと思い、口走ったのが挑戦状。これで良かったのかは本人も分かってない。

 けれど、惟真は怒ることもなく「そうか、楽しみにしている」と静かに微笑んだ後、再び踵を返して歩いて行く。「じゃあな、エルゼ」背中越しの言葉だが、エルゼの耳に深く残った。

「うっさい! バーカ! 気安く呼ぶんじゃないわよ!」

 初めて名前を呼ばれた照れ隠しにエルゼは思わず反抗する。周りのメンバーは素直になれない彼女の言動に笑いを堪えるばかり。

 そんな姉の反応にリンゼは思う。

 ――お姉ちゃんにもヒーローがいて、良かった。でも、私だって、お姉ちゃんのヒーローになりたい。

 リンゼもまた惟真に対して、静かに対抗心を燃やしたのであった。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 最初はそこまで文量はかからないでしょって思っていましたが、いざ書き始めたら……なので、分割することにしました。

 駄文だらけだったと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

 では、この辺りで筆を休めたいと思います。感想の方もお待ちしております。
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