DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
美紀と圭、それに朱夏とアレックスによる模擬戦が終わった巡ヶ丘学院高校の校庭。
模擬戦、というにはあまりにも本格的な戦闘による余波で地面が抉れ、焼け焦げている惨状は横に置くとして、ようやく戦場独特のひりついた雰囲気が弛緩し、和やかな空気が流れ始めていた。
そんな中で一人、いや二人。晴明とアレックスだけが言葉にしづらい。しかし、肌がざわつくような不快感を感じていた。
《どうしたのかしら、マスター?》
晴明の雰囲気を敏感を感じ取ったバロウズが、そう問い掛けた。
その問い掛けに、晴明は圭の介抱をしながら答える。
「いや、何だろうな……? 嫌な、ドロッとした
《……ドロッとした
厳密には生物ではない、AIであるバロウズには晴明の語る抽象的なものが理解できないようで、液晶画面内で個首をかしげるような仕草をする。
もっとも、晴明にしても経験から察した危機感。第六感のようなものなのだから言語化しての説明は難しかった。
敢えて言うならば、ここが修羅場に。生命の危機を感じる場所に変容した。そんな感覚。
……そして彼は、今までそのような感覚を重視して鉄火場を生き延びてきた。それ故に、晴明はその感覚こそを重要視し、辺りを警戒するように気配を探る。
――ミシ、ミシ……。
そんな晴明と、同じく警戒を行っていたアレックスの耳に
そのことに違和感を覚える二人。なぜならここは未だに屋外。付近にバリケードはなく――一応、今回模擬戦のため、校門付近に簡易的なバリケードは築いている――音が聞こえてくる筈がない。
そしてもう一つの違和感。それは――。
「なに、この音……? 上から聞こえてくる?」
二人以外にはじめて音に気付いた由紀は、不思議そうな顔をして空を見上げる。
明らかに不自然な音が上から聞こえてきたのだ。
そのことに疑問を覚えた由紀。だが、そんな由紀の仕草に目敏く反応するものがいた。
――晴明だ。
彼は由紀が空を見たことで一つの可能性にたどり着き、己の感覚を付近一帯に引き延ばし些細な変化も感じ取ろうとする。だが、そんな晴明を嘲笑うかのごとく付近に、彼らの足元に変化が訪れる。
「……なに、これ。赤い光?」
「――! あの時の、晴明さんたちが消えた時と似てる?!」
悠里が警戒するように地を奔る赤い光を凝視すると、今度は透子が以前晴明がエトワリアに消えた時の状況と似ている。と騒ぎ立てる。
そのことに驚くかつてエトワリアに召喚された者たち以外の面々。しかし、晴明と。そしてアレックスにはこの光が彼方へと召喚するものではなく、むしろ逆。こちらに何者かが顕現するものである、と。
「皆、下がれ!」
晴明の切羽詰まった言葉に端を切り、晴明自身と、そして先ほどまで模擬とはいえ戦闘を行っていたことで本調子ではないアレックスが身構える。
また、由紀も晴明が言葉を発するのと同時に嫌なものを感じたのか、率先して皆を誘導し始める。
「みんな、こっちへ!」
「ゆきちゃん?!」
「いいから早くっ!」
由紀の行動に驚いていた悠里だが、それでもなお由紀が強引ともいえる行動を続けることに良くないものを感じたのか、彼女の指示に従う。
また、貴依と胡桃は意識を失っている仲間である美紀と圭をそれぞれ抱えると由紀の後へ続く。
その一方、大学生組は実質的なトップの朱夏を看病していたことにより反応が遅れてしまった。
「え、え……?」
「蘆屋、さん?」
比較的晴明と親交があった――とはいえ、ほぼドングリの背比べだが――晶と篠生が反応した。
しかし、それも指示に従うものではなく、あくまで疑問を呈するだけ。
他のメンバーに至っては不安そうな表情を浮かべるだけ。
だが、彼女たちを相手にする余裕は晴明にはなかった。
そんな晴明の変わりに声を上げる者がいた。
「……いいから、皆。はる、あきさんの指示にし、たがって――」
「……アヤカ、あんた――!」
先ほどまでアレックスの猛雷撃を受け、意識を朦朧とさせていた朱夏だ。
彼女は自身の身体にMAGを循環させることで、なんとか己の身に最低限の治療を施していた。
それでようやく彼女は喋れるまで回復したのだが、その状況で今回の異変。
せめて晴明の邪魔にならないよう、仲間たちへの指示を優先した。
それが彼女たちを仲間を助ける一番の近道と信じて、だ。
彼女の指示を聞いた晶たちも慌てた様子で異変の範囲外に逃れる。
そして、その瞬間を待っていたかのように光が激しく発光。地面が水面のように激しく波打ち、異形の存在が
その異形の存在、下膨れた人の身体に像の頭を持ち単眼の化物を見て、晴明は思わず顔をひきつらせる。
その化物、悪魔に見覚えがあるのと同時に、本来、未だに大破壊すら起きていないこの世界に顕現するはずのない高位の悪魔だったからだ。その悪魔の名前は――。
「邪鬼-ギリメカラ、だと……!」
そう、多くのメガテンプレイヤーたちにトラウマを植え付け、油断してきた者たちを屠った怪物。邪鬼-ギリメカラであった。
恵飛須沢胡桃にとって、後輩たちや朱夏が繰り広げた模擬戦は想像を絶するものであるのと同時に、今の、魔人化した自分なら着いていくことが出来る、という自負があった。
だが、実際に模擬戦に参加しなかった以上、それを証明する術はない。
もっとも、晴明からすると胡桃の潜在能力。もっといえば魔人化したことによる
それを危惧したからこそ、胡桃を参加させなかったのだが、そんな理由を胡桃が知る由もない。
だからこそ、彼女は己の力を証明するため、機会を窺ってきた。
そんな彼女にとって、絶好の好機。それが目の前に転がってきた。晴明やアレックスが驚いてこそいるが何となく感じる権能では、己が勝り、一対一であれば負けないだろう相手。
その相手を倒し、由紀に、仲間たちに己の力を証明する。そのために背負っていた美紀を悠里に預け、彼女はギリメカラに向けて駆け出す。
「ちょっ、くるみ――!」
「りーさん、任せた!」
そのまま獲物へと駆け、自身の得物であるハルバートを呼び出す。
胡桃が起こしたまさかの蛮行に、目を剥くアレックスと晴明。
アレックスは胡桃が今から行おうとしていることに対して、制止の言葉を放つ。
「くるみ先輩、ダメです!」
「大丈夫だって、見てろよ。……おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アレックスの制止も聞かず、胡桃は自身が出来る今、最高の一撃をお見舞いする。
そして、それは間違いなく炸裂した――。
――
「……う、わぁぁぁぁぁぁ――!」
あり得る筈のない、己に対しての一撃を受け吹き飛ばされる胡桃。その身体には、致命傷。とまではいかないが血が滲むほどの裂傷が刻まれていた。
その事に困惑する胡桃と、彼女へ駆け寄るアレックス。
そしてアレックスは無茶な突撃をした胡桃を叱責する。
「くるみ先輩、また無茶をして!」
「――アレックス、これを!」
そのまま叱責を続けたかったアレックスだが、その前に晴明からなにか投げつけられる。
それをキャッチしたアレックスは、投げられたものを見て驚く、がそれをすぐさま胡桃に使用する。
「先輩、これを!」
「えっ、あ、アレックス?!」
胡桃の身体に押し付けられる円形の物体。それは、身体に触れると光輝いて溶けていく。
それと同時に胡桃の裂傷はみるみる塞がっていく。
晴明がアレックスに投げ渡したもの。それは宝玉であった。
胡桃の傷であれば魔石でも完治するかもしれないが、念には念を入れ、どんな傷でもたちどころに治してしまう宝玉を渡したのだ。
アレックスに宝玉を渡した後、晴明はギリメカラを睨み付ける。
「やはり、
そう、先ほど胡桃が自身の攻撃によって傷ついた原因はギリメカラが持っていた防御相性。晴明が言ったように物理反射が原因だった。
物理反射とは言葉通り、物理属性の攻撃。通常攻撃だけではなく、晴明が得意とする空間殺法や由紀のペルソナ、ガブリエルが使えるスラッシュなど物理スキル全般をそのままカウンター出来る、敵側からすれば悪夢のような耐性だ。
これが胡桃が己の攻撃でダメージを受けたカラクリの正体だった。しかし、同時に胡桃は運が良かった。ともいえるだろう。
……もし、彼女が魔人化しておらず、人のままギリメカラに全力で攻撃を仕掛けていれば、今頃彼女の頭はザクロのように割れていたのだから。
それはともかくとして、晴明はギリメカラたちを睨み付けながらも、あまりに不自然な状況に頭を回転させる。
(……なぜ、ギリメカラクラスの悪魔が複数体現れた?)
そう、今の現世であってもギリメカラ。それこそ一国を滅ぼしかねないクラスの悪魔が顕現するなど普通あり得ない。しかも、それが複数だ。あまりに不自然すぎた。
それに、先ほどの空間が軋む音。あれは、恐らく巡ヶ丘に張られた結界が――。
そこまで考えた晴明の脳裏に閃きが奔る。
――結界内の濃厚なMAG。
――顕現した
――ルイ・サイファーに高城絶斗。
――そして、今現れたギリメカラは本来……。
晴明の頭に導き出された答え。
それを理解した晴明は最悪の事態に顔を青ざめ、怒鳴るように指示を出そうとする。しかし――。
「お前ら、男どもを――……」
しかし、声を出す途中で晴明の姿が掻き消える。……続いて破砕音。その方向を見る面々。
そこには凄まじい衝撃を受けたのか校舎の壁が倒壊し、土煙が上がっていた。
そして、先ほどまで晴明がいた筈の場所にはギリメカラとは違う異形が――。
『……きゃああああああああ!』
――其は
――其は死、そのもの。
――其は
――其の名は。
――魔王-マーラが現れた。