DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第九十話 女神転生

 晴明とマーラ、アレックスたちがギリメカラと戦っている頃、一人焦燥にかられている少女がいた。

 

「わたしも、わたしだって……。でも――」

 

 由紀だ。彼女は自身が力――ワイルドというペルソナ使い――を持つにも関わらず、他の娘たちと同じように守られる側でしかなかったからだ。

 美紀と圭、彼女ら二人もある意味守られる側だが、それでも彼女たちは自らの力を示し、アレックスや晴明に認められた。

 しかし、由紀自身は……?

 

 彼女自身、以前巡ヶ丘学院地下の調査で己の意志を示した。が、それ以降は……。

 それもある意味仕方ない。なにせ、彼女よりも強く、戦い慣れているアレックスが側にいるのだ。

 ならば、戦闘者ではない由紀が率先して戦う必要はない。と、いうよりも皆に止められていた。

 それもそうだ。彼女、由紀は学園生活部の精神的支柱。そんな彼女をわざわざ危険にさらす必要がある筈もない。だからこそ、彼女は己が望む、望まないという意志を持つ以前に戦いの場に身を置くことができなかった。

 

 それもまた正しいことではあるのだろう。

 もし、彼女が負傷し、最悪死んでしまったらいったいどんな事態が引き起こされるか。

 あの時、胡桃が暴走していた時、悠里があそこまでの無茶をできたのは後ろに由紀がいる。という安心感から。

 もし、アレックスの、彼女の前世の記憶が戻る前。もしも、由紀がいなければ彼女は自らの記憶に翻弄され潰れていただろう。

 もし、もし、もし――。

 

 それほどまでに学園生活部にとって、丈槍由紀、という少女は欠かすことのできない存在だった。

 そんな彼女を危険から遠ざける。それをメンバーが選ぶのは必然だ。

 

 ……しかし、由紀の意志は?

 

 彼女は誰よりも優しく、そして気高く強い女性だった。

 それは聖典世界(がっこうぐらし!)で、慈の死から逃げ、記憶を封印していた時でもメンバーたちのために知恵を絞り、記憶を取り戻した際、悠里たちにすべてを押し付けてしまった。と懺悔したことでも理解できる。

 それこそ、普通なら私は悪くない。と、言ってもおかしくない状況だ。

 しかも、彼女の行動でメンバーが救われ、美紀という新たな仲間まで迎え入れることができているのならなおさら……。

 それでも彼女は己の過去と向き合い、一歩前へ踏み出してみせた。

 それほどの行動、いったいどれだけの人間ができるのか……。

 だからこそ、学園生活部の皆に頼られている、とも言えるが。

 

 そして、そんな彼女が自ら戦う力があるのに、ただ守られるだけの立場を良しとするか?

 ……するわけがない。

 彼女も本当であれば晴明と、アレックスと、美紀たちとともに戦いたい、と思うのは必然。むしろ思わない方がおかしいだろう。

 

 ノブリスオブリージュ、彼女の中に流れる血(受け継がれた魂)がそれを果たせ、と告げるのだ。

 高貴な血が流れる者の宿命として。

 何よりも自らの大切な者たちを守るために。

 

 ……しかし、どうすれば?

 

 彼女の中に確かに意志はある。しかし、彼女が戦うには、あまりにこの戦場は過酷だ。

 邪鬼-ギリメカラ、そして魔王-マーラ。

 神話に謳われた大悪魔たち、彼らを相手取るには彼女はあまりに無力。

 たとえ力を奮おうとも、まさしく蟷螂の斧。蛮勇という他ない。

 それでも由紀は、己の力で皆を――。

 

『ユキよ、なぜ貴様をそこまで力を欲する?』

「……え?」

 

 不意に聞こえてきた威厳のある声。それに困惑する由紀。それとともに彼女は違和感を感じ、辺りを見渡す。

 まわりはまるで()()()()()()かのように色褪せ、誰も微動たりともしない。

 そのなかで一つ、否、一体だけ色褪せていないモノ。それが由紀の目の前へ舞い降りる。

 

「アルノー・鳩錦……? 貴方の声なの?」

 

 目の前に降りた一羽の鳩。彼女たち学園生活部にアルノー・鳩錦と名付けられた聖霊が語り掛けてくる。

 

『そう、我である。……そして我は神、我こそが神。ゆえに問おう、人の子、丈槍由紀よ。なぜ、そなたは戦おうとする?』

「……え?」

 

 突然の質問に困惑する由紀。

 なぜ戦おうとするか、それはもちろん――。

 

『そなたが戦う必要などあるまい。戦いなど下銭な者へ任せれば良い』

「……なっ」

 

 聖霊のあまりに失礼な物言いに絶句する由紀。

 そんな彼女へ畳み掛けるように、聖霊はさらなる言葉を紡ぐ。

 

『人には役割がある。戦う者、守る者。そして()()()。そなたであれば、己がどの道を歩むべきか理解できるだろう?』

 

 疑問系で語り掛けながらも、実際にはどうすれば良いか理解できているのだろう、と確認を取る聖霊。

 そう、聖霊にとって彼女は導く者。下々を教え導くための存在だ、と説いていた。

 それは彼女のペルソナが聖霊の忠実な配下である熾天使-ガブリエル。そして、そのさらに内側から感じられる()からも確信していた。

 彼女こそがこの世界の英雄(ザ・ヒーロー)救世主(メシア)となり得る逸材だと。

 なればこそ、彼女が戦う必要などない。神の御言葉を民衆に伝え、導き、世界を救済すれば良い。ただ、それだけで皆救われるのだ。

 

 しかし、由紀は顔を悲しげに歪めると首を横に振って否定する。

 

「ううん、アルノー・鳩錦。それじゃダメなんだよ」

『……なにがダメだと?』

 

 由紀に否定されることとなった聖霊の声に、僅かながら怒気が混じる。

 それはお気に入りの人形を汚された子供のようで――。

 

「そんな世界、きっと寂しいだけだよ――」

『寂しい、寂しいだと……!』

 

 聖霊は以前、由紀とある意味同じペルソナ使いである朱夏から、窮屈、と評されたことがあった。

 そして、今回の由紀が発した寂しいという言葉。

 それと同じようなものを感じたのだ。しかも、今回は由紀に、人に同情されるというおまけ付きで。

 神として、唯一神として只人に同情されるなど。

 

 本来であれば赦せるものではなかった。しかし――。

 

『なぜ、そなたは――』

 

 それ以上に聖霊の心には困惑と、好奇が芽生えていた。

 人とは神を畏怖し、崇拝し、なにより縋り付くものだ。

 だが由紀は違った。彼女は縋り付くでも、盲信するでもなく、神の心に寄り添おうとしている。只の人間が、年端もいかない少女が!

 それが聖霊はおかしく、なによりも()()()()()()

 聖霊自身は気付いていないが、それはまるで子供の成長を喜ぶ親心のようであった。

 

「きっと、その道が正しくてラクなのかもしれない。でも、わたしはみんなと一緒に歩いて行きたい。それがどんな道で、どこに行き着くのか分からない。でも――」

 

 彼女は真剣な表情で聖霊を見る。そこには彼女の意志が、どんな苦難の道でも歩んでみせる。という意志が見えた。

 

「――だからこそ、価値があるんだと思う。これからも間違うかもしれない。転んで痛い思いをするかもしれない」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、胡桃が学園生活部を去った絶望。彼女が変わり果てた姿で現れ、殺し合いをしなければいけなかった苦悩。

 しかし、それらを彼女は、学園生活部は仲間と手を取り合って乗り越えた。ならば――。

 

「それでも、みんなと一緒なら乗り越えられる。また明日、おはよう。って、日常を送れる。だから――」

 

 彼女は力強い意志をもって宣言する。

 

「わたしはそんなみんなに誇れるわたしでありたい。だからわたしは戦うの。誰のためでもなく、わたし自身のために」

 

 そう言葉を放つ由紀。

 その時、由紀の心にすとん、となにかが落ちるような、パズルのピースがはまるような感覚があった。それを感じた由紀は、思わずといった様子で呟く。

 

「そっか、そうだったんだ」

『……どうしたのだ?』

「こんなにも、そう。こんなにも簡単なことだった」

 

 彼女の脳裏にいくつもの場面がかけ巡る。

 

 ――アウトブレイクで地獄の光景が生み出された日。

 ――悪魔、という超常的な存在を知った日。

 ――ベルベットルーム。イゴール、リディアと出会った日。

 ――神話覚醒。ペルソナ使いとして目覚めた日。

 

 そして……。

 

 ――学園地下の探索、アリスへ覚悟を示した時。

 

 

 ……ワイルドとは絆の力によって力を発現する。しかし、同時にペルソナ使いは意志の力によって発現、成長する。

 そう、意志だ。

 今までの由紀は皆のために戦いたいとは思っていたものの、同時に仲間の望みのため、戦ってはいけないとも思っていた。

 それは自身の安全のため、言い換えれば自らの力を疑問視していたから。

 だが、今は違う。彼女に力がない、というのは事実だろう。だが、それで諦める必要などない。

 諦める、ということは己に限界を定めること。可能性、という名の扉を閉ざすこと。

 そんなのごめんだ。それが由紀の意志。

 

 ――人間だけが神をもつ。可能性という名の内なる神を。

 

 とある作品で出た言葉であるが、それは一つの真理だ。

 諦めた者に勝利の女神が微笑む訳がない。なぜなら自らその権利を放棄したのだから。

 たとえ痩せ我慢でも、空元気でも、それでも、と言い続けた者に微笑むのだ。ならば、由紀がするべきことはただ一つ。

 

「それでも、と抗い続けること。そうだよね、()()()――」

 

 ――ええ、その通り。

 

 由紀の独白に答えるように、内なる声が返ってくる。それはガブリエルの声とはまた違っていて……。

 

「貴女はわたし――」

 

 ――汝は我。

 

「たとえ、かつてのわたしと違っていても――」

 

 ――我らが目指す場所は同じ。

 

「ただ、大切な人を守るため」

 

 ――大切な日々を守るために。

 

「そのために、この力を」

 

 ――我らの力を!

 

「だから力を貸して!」

 

 由紀の身体からMAGの奔流が巻き起こる。それはかつて、ペルソナ覚醒をした時と同じように。しかして、それよりも強力で――。

 彼女の、由紀の口からその力。存在の名が紡がれる。

 

「……マリア!」

 

 爆発したかのように膨れ上がるMAG。

 そのMAGが一つの形を作り上げていく。

 

 白い石像のような姿の女性。しかし、身体の一部にはライオン、鷲、雄牛などの姿も埋め込められている。

 それはかつてガブリエルの受胎告知によりキリストを産んだ女性。

 聖母、そして()()としては女神-マリアの姿であった。

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