DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
「そらそら! それではワシをイかせることはできぬぞぉ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!」
魔王-マーラは己の体躯を、晴明は倶利伽羅剣を用い激しく火花を散らしている。
ときに刺突、ときに斬撃。縦横無尽に駆ける両者。
そんな二人の後方で、暴力的なMAGの奔流が立ち上る!
「ほうっ……!」
「なっ――!」
突然の事態に驚き、戦いの腕を止める両者。
そして振り返った先で、彼らは由紀の後方に突如として現れたペルソナ。マリアを視認する。
その姿を見た晴明は目を大きく見開いている。
「由紀さん……!」
いくら彼女がワイルドとはいえ、マリアほどの高位存在を降ろせるような実力はなかった筈。それこそ、彼女自身のペルソナが――。
そこまで考えて晴明は、はっと気付く。
「そうか、あれが彼女本来の――!」
ペルソナ使いは、己が持つ意志の力で降魔するペルソナを成長させることがある。
事実、彼の弟子である朱夏もまたその口で、彼女が覚醒させたとき顕現させたのはブラックマリアではなくハリティー、日本人には鬼子母神と言えば分かりやすいか。そのペルソナを降魔させていた。
その後、彼女は見滝原での一連の戦いで己の力を、意志を成長させペルソナをブラックマリアへと超覚醒させていた。
それと同じことが由紀の身にも起きたのだ。
もっとも、それにしたって彼女がペルソナを超覚醒させるには、あまりにも時が早すぎるとも感じられたが……。
「いや、違う。それが彼女の強さ、か……」
晴明も薄々感じていたことだが、出会ったときから彼女に他の人間とは違う、カリスマ性のようなものを見ていた。
それは、最初は小さなものであったが他の者たちとの交流。特に、彼女がペルソナ使いとして覚醒し、己に自信を着けていくにつれ顕著に感じるようになった。
それは本来、死にたくない一心で力をつけていた晴明には持ち得ないものだった。
言わば彼女の力は生来持ち得たもので、晴明のように後天的に手に入れたものではないのだから。
「いつまでよそ見をしておる! お主の相手は、このワシであろう!」
「くっ……!」
由紀の変化ぶりに放心していた晴明だったが、マーラの声を聞くとともに、背中に流れた嫌な予感を信じてその場から飛び退く。
それと同時に、さきほどまで晴明のいた場所にマーラの地獄突きが殺到。もし、あの場に晴明が留まっていたら、そのまま天に
「ちぃっ……!」
「そらそら、そらぁ!」
晴明に向けてマーラは幾度となく突きを放つ。それをなんとか回避する晴明。
もともと魔王-マーラは、晴明よりもさらに上の位階に立つ存在だ。
なにせ、かの魔王はルシファー、ベルゼブブに続く実質魔界のNo.3といっていい存在。単純な戦闘能力で言えば、かつてこの世界に晴明を転生させた大日如来、魔神-ヴィローシャナ。破壊神-アスラおうをも超える。
そのような存在と真っ向から戦うのは、今の晴明の実力を持っても難しい。としか言えない。
だからこそ、晴明はさきほどまでマーラに先手を打たせないよう、積極的に攻めていたのだが……。
しかし、計らずとも由紀の覚醒を見て動揺した晴明は、一瞬とはいえ攻め手を緩めてしまった。
……戦いには勢いというものがある。
たとえ、実力が劣っていたとしても、その勢いに乗れば強敵を打倒できる。そのようなものが。
だが、晴明が攻め手を緩めてしまったことで勢いが失われ、それどころか相手側に勢いが移ってしまった。
これを挽回するには、さらに突拍子のないこと。それこそ、マーラすらも怯むような一撃を叩き込む必要がある。
だが、そんな一撃など……。
マーラの一撃を紙一重で躱しながら晴明は機を待つ。なんとか、マーラに一矢報いるための隙を見つけるために。
「ここ、は……?」
ペルソナ-マリアを覚醒させた由紀は、目をぱちくりとさせながら周囲を見渡す。
さきほどまで聖霊、アルノー・鳩錦と問答をしていた時のように色褪せた景色ではなく、いつの間にか色づいた、時が動いているのを理解した。
それとともに、彼女は己の身にかつて初めてペルソナを覚醒させた時と同じような疲労を感じていた。
しかし、それでもあの時とは違いMAGの扱いに慣れたこと、総量が増えたことですぐに倒れるようなことにはならないのも分かった。
……このペルソナなら――!
自身でも戦力になる。そう、理解できた由紀は一歩足を踏み出す。
この力であれば足手まといにはならない、それどころか――。
そこまで考えた由紀であったが、彼女を呼ぶ声を聞いて正気に戻る。
「ゆき――! 手を、手を貸しなさい!」
「アヤカ、さん?」
由紀に声をかけていたのは、マーラたちが現れる前に行われていた模擬戦のダメージがまだ回復しきっていない筈の朱夏だった。
なぜ彼女がここまで切羽詰まった様子で……?
頭の中で疑問符を飛ばす由紀。だが、その理由はすぐに分かる。
視界の端でマーラ相手に苦戦している晴明の姿を見つけたからだ。
確かに、自身の想い人である晴明の苦戦を見せられれば切羽詰まるのも無理はない。
それに彼はめぐねえ、佐倉慈にとっても想い人。そんな彼に万が一があっては……。
朱夏に気取られぬよう、一瞬視線を慈に向ける由紀。
そこには、顔を青ざめながら十字架のアクセサリーを握りしめ、必死に祈る慈の姿。
それを確認した由紀は、一度大きく深呼吸して気を落ち着かせると朱夏に話しかける。
「アヤカさん、どうしたの? わたしに手を貸してって……」
「その、ペルソナ。マリアと、私のペルソナ、ブラックマリアが力を合わせれば、あの化け物に一矢報いれるわ!」
己の身体が既にボロボロで、立っているのもキツい筈なのに、必死の形相で由紀に語りかける朱夏。
それは二人の力を合わせれば確実にできる、という確信と、何より自身の愛する人を助けるためならなんでもできる、という彼女の覚悟の現れだった。
そんな彼女の様子に、少なくとも分の悪い賭けではないことが分かった由紀。ならば――。
「……わたしはなにすれば良いの?」
「――! 私に、私に合わせなさい! そうすれば、言葉にせずとも、本能で理解できるわ!」
朱夏に指示を仰いだ由紀だったが、まさかそんな抽象的な答えが返ってくるとは思わず面食らう。
しかし、彼女は、朱夏は話を聞く限りアレックスほどとは行かずとも、それなりの修羅場を乗り越えてきているのは確か。
そんな彼女がそう言うのだ。ならば、試してみるのも悪くない。
そんな考えで、由紀は己の力を振り絞りMAGを練り上げる。
「マリア!」
それに合わせるように朱夏も自身のペルソナ。ブラックマリアを顕現させる。
「ブラックマリア!」
由紀のマリアとは似ても似つかない姿。
しかし、それでも由紀は
並び立つマリアとブラックマリア。これからどうするべきか、そう考えていた由紀だが、自然と頭の中に次、行うべき行動が浮かんでくる。
驚いて朱夏を見る由紀。
そんな由紀に、朱夏はこくり、と頷くことで彼女の考えを肯定する。彼女の考えで間違いない、といわんばかりに。なら、もはや悩む必要はない。
由紀は、己の心が命じるままに力ある言葉を紡ぐ。
「――審判の光」
それに合わせるように、朱夏もまた力ある言葉を。
「――汚れ無き威光」
二人から放たれた聖なる力。それが混じり合い極光となっていく。
それはあらゆる者を裁く光、無慈悲なる力の波動。その力を解放するため、二人は言葉を紡ぐ。絶対なる審判の力、その名は――。
「「大いなるロゴス――!!」」
無慈悲な、あらゆるものを破壊し、破滅し、消滅させる力が魔王に向けて放たれた。