DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第九十四話 長い一日の終わり

 無言のまま見つめあう二人。彼女らが知り合いだと知らなかった朱夏は、ヒソヒソとさやかに問いかける。

 

「ねぇ、あの二人知り合いだったの……?」

「いや、そんなのわたしに言われても……。それより、朱夏の方が詳しいんじゃないの? あの女の人のことも知ってるんでしょ?」

「確かにめぐねえのことは知ってるけど……」

 

 確かに朱夏は巡ヶ丘学院高校に在籍時、めぐねえ、佐倉慈に何かと良くしてもらっていたのは事実だ。

 しかし、それはあくまで生徒と教師という関係であり、プライベートな部分にまでは踏み込んでいなかった。

 一応、慈の名字である佐倉について、杏子と同じで珍しいとは思っていたが、それでも流石にまったくいない名字という訳でもなく、まさか二人が関係者だとは露とも思っていなかった。

 そんな二人を尻目に、杏子を見つめていた慈は、おずおずと重たい口を開く。その声は少し不安に、そして涙に濡れていた。

 

「杏子ちゃん、生きてたのね」

「それ、は――」

 

 慈の言葉にどう反応して良いのか分からない杏子は、何かを言わないと、と思いつつも口をもごもごさせて口ごもる。

 それで慈と杏子、二人の関係性がある程度見えてきた朱夏とさやかはお互いに顔を見合わせる。

 その二人の顔は、そういうことかという納得とともに面倒なことになった、と顔をしかめていた。

 そして、そんな彼女らの反応を見ていた由紀は、二人が何らかの事情を知ってることに気付き問いかける。

 

「ねぇ、アヤカさん。それに、えっと……」

「ああ、わたしのことはさやかで良いよ。まぁ、さやかちゃんでも良いけどねっ」

 

 由紀が少なからず緊張していることを悟ったさやかは、緊張をほぐすためにも冗談めかしてウインクする。

 その言葉で多少緊張がほぐれたのか、由紀はホッとした様子で話を続ける。

 

「それじゃ、さやかちゃん。……あっ、わたしは由紀、丈槍由紀だよ」

「あっはっはっ、ノリの良い娘はさやかちゃん大好きだよ? ……やっぱ、どことなくこの娘。まどかに似てるなぁ」

 

 由紀と話すことで、姿は似ていない筈なのに、どことなく親友の鹿目まどかを思い出すさやか。

 そして、続く次の言葉でさらにその思いを強くする。

 

「……あの二人のこと、なにか知ってるんでしょ。教えてほしいんだ」

「それを知ってどうするの?」

「わたしじゃなにも出来ないかもしれない。でも、知ればなにか出来るかもしれない。少しでも可能性があるんなら、めぐねえのために何かしたいんだよ」

 

 その言葉、由紀の覚悟を聞いたさやかはやっぱりか、と思いながら頭を抑える。

 

「……本当、お人好しなとこまであの娘そっくり」

「私もそう思うわ」

 

 さやかの感想に相槌を打つ朱夏。しかしその後、朱夏は由紀の、まどかと明確に違う点を告げる。

 

「でも、あの娘みたいに自己犠牲の塊じゃないだけまだマシよ」

「……あははっ、そんなことあの娘に言ったら、またむくれちゃうよ?」

「でも事実でしょ?」

 

 朱夏の指摘に肩をすくめることで答えるさやか。彼女自身もある意味無鉄砲すぎるまどかについて、否定するつもりはなかったようだ。

 なにせ彼女は友達のためと、自身に戦闘能力がないのにも拘わらず、魔女の結界に幾度か突入していたのだから、さもありなん、といったところだ。

 

 まどかの話題でひとしきり笑った二人。しかし、いざ由紀の質問に答えられるかというと……。

 

「で、由紀ちゃんだっけ? ちょっと、その質問については答えられない、かなぁ……。ごめんね?」

「今回のことに関しては、おもいっきり杏子のプライバシーに関わるのよ。……もしもの時は、こちらで何とかしてみるから。それで納得してくれる?」

 

 やはり、答えられない。という答えを返す二人。そして朱夏は、本当に申し訳なさそうな顔をしながら由紀を説得しようとする。

 由紀もまた、朱夏が本心からそう言っていることを理解したのか、渋々納得していた。

 

「分かったよ、それならアヤカさん」

「うん?」

「めぐねえのこと、お願いね?」

「……ええ、任せて」

 

 そうして二人はお互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべる。それは互いにめぐねえ、佐倉慈に心を救われた者同士の確かな絆であった。

 

 

 

 

 

 

 慈にとって杏子の父、自身と年の離れた兄はどうにも苦手な存在だった。それは二人の性別が違うことも理由であったが、それ以上に――。

 

(あの人は理想――。いえ()()()だったものね……)

 

 全人類が信仰に目覚めれば世界は平和になる。そういうことを臆面もなく信じていた、その考えについていけなかった。

 そのくせ、考え方自体は保守的で良く言えば信心深い、悪く言えば狂信的なほど。

 慈自身も神に祈ったり、寄進をしたりなんてことはあるが、あそこまで出来るとはとても思えなかった。

 事実、だからこそ兄は牧師を目指したが、自身は別の道を、教師。子供を教え、導くという形でより良い明日を目指した。

 

 もっとも、慈が大学卒業前にあの保守的な兄が新たな教義を、得てすれば背信とも取れる選択をするなど驚きを通り越して、頭の心配をしてしまったが……。

 まぁ、その時は義姉が、そして生まれてきた子どもたちが、あの偏屈な兄に好い影響をもたらしたのかな。と、漠然に考えていたのだが。

 だが、その考えはある意味否定されることとなった。

 自身がいよいよ大学卒業という頃、風の噂で兄が自殺を、一家での無理心中を図った。というものが聞こえてきた。

 

 当時の慈は、流石にたちの悪い冗談だろう。と、思いたかったのだが、実際に焼け落ちた家屋から兄たちらしき遺体が発見された。という一報を聞いて崩れ落ちた。

 兄はともかくとして、義姉に彼女の子どもたち。自身にとって姪になる杏子にモモ。

 可愛がっていた、もしくは慕っていた彼女たちも死んだ、という事実は慈を打ちのめすには十分すぎるものだった。

 あの日は呆然とし現実逃避、悪い夢だと思い酒を浴びるように呑んだのを覚えている。のちに母があの日、酔いつぶれていた慈について苦言を呈していたことで肩身が狭かったのだから。

 

 ……それはともかくとして、慈にとってそれだけ彼女らが死んだのはショックだった。特に杏子とモモ。二人にはまだまだ未来があったというのに――。

 それから慈は今まで以上に教師への道を邁進した。自身はあの娘たちになにもしてあげられなかったから。罪滅ぼしという訳ではないが、それでも彼女たちの代わりに、少しでも生徒たちが幸せな道を歩くことが出来たなら。そう思って。

 その感情が表に出すぎていたからこそ、どうにも彼女の生徒たちに対する接し方が気安い感じになり、めぐねえ、という渾名に繋がったのだが。

 

 そんな慈にとって杏子が生きていた、というのは何より勝る福音だった。

 あの無理心中からどうやって生き残ったのか、今までどうやって生きてきたのか、という疑問が残りはするが、彼女からすれば杏子が生きている事実に比べれば些事でしかない。しかし、それはそれとして――。

 

 慈は動揺している杏子に近づくと――。

 

「むぎゅ……」

「本当に、良かった――」

 

 彼女を愛おしそうに胸元へ抱き寄せる。

 急に豊満な胸に顔を埋めることになった杏子は、恥ずかしさと息苦しさで慈の腕をタップ。なんとか離してもらうように行動しているが、感極まった慈は、その事実に気付いていなかった。

 彼女からすれば、もしこの地がかれらであふれかえっていなければ、今すぐにでも母に連絡したものを……。それが偽らざる本音であり未練。

 母の安否も分からない以上、これ以上身内を失いたくない慈は、もう離さないとばかりに抱き締める。

 

 もっとも、それがある意味杏子の危機的状況へ陥らせている事実には違いなく、朱夏とさやかもまさかこんな理由で動かざるを得なくなるのは予想外であった。

 

「ちょっ……、めぐねえ! そのままじゃ杏子が――!」

「杏子、アンタも少しは抵抗を――!」

 

 その間の抜けた光景を見て、ぷっ、と思わず吹き出す由紀。

 その合間にも朱夏とさやかは、杏子を慈から救出するため奮闘。

 

 

 

 ……なお、のちに正気へ戻った慈が杏子に平謝りしている光景があったことを付け加えておく。

 その後、今日一日だけで色々ありすぎたこともあり、説明などはまた後日、と全員で校舎へ引き返すのであった。

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