DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第九十五話 『蘆屋』という家

 いろいろなことが起こりすぎ、一度頭や体を休ませるため早めに休養した翌日。主要なメンバーたちは空き教室の一部屋に集まっていた。

 

「……懐かしいわね」

 

 朱夏は教室に入ると、比較的きれいな窓の縁を触りつつ、感慨深そうに話す。

 そんな懐かしそうに耽っている朱夏に晶は。

 

「どうしたの、アヤカ?」

「……なんでもないわ、ただ――」

 

 どこか優しげに、そして寂しげに微笑む朱夏。そんな彼女の思いを理解している者がここに一人だけいた。

 

「そうね、ここは朱夏さんの三年生だった時の教室だものね」

「……めぐねえ。ええ、そうね」

 

 慈が言うように、ここは朱夏が巡ヶ丘学院高校に在籍時、最後に通っていた教室だった。彼女からすると間違いなく楽しい思い出があった場所であるし、同時に恐らくもう会うことが出来ない級友たちとの思い出の場所。彼女が寂しげな顔をするのも無理なかった。

 在りし日の楽しかった記憶。本来であれば青春の1ページとして残る筈だった記憶。だが、それはこの災害によりもはや取り戻すことの出来ない、平和だった頃の記憶になり果ててしまった。

 もしかしたら級友たちもどこかで生き残っているかもしれない。しかし、そう考えるのにはあまりにこの世は理不尽だ。

 ゾンビが発生したバイオハザードだけではなく、いまこの巡ヶ丘では低級とはいえ悪魔が跋扈している。

 果たして、そのような地獄で只人が生き延びられるか?

 ……不可能だろう。あるいは警察機構が、自衛隊が組織的に動けていればまだ可能性はあった。

 しかし、自衛隊駐屯地は魔人-デイビットの手によって壊滅。そのことから同じように警察署なども壊滅している、と考えるのが自然だ。それに……。

 

「晴明さま、一つお伺いしたいのですが」

「どうした……?」

「なぜ、結界が破られているのです? いえ、かの魔王-マーラが顕現するような非常事態。そのようなことが起きない、とは言えませんが……」

 

 巡ヶ丘を覆う結界が破られた。そのことがさらに悪い方向へと働いた。なぜなら、巡ヶ丘の結界は本来ゾンビを、かれらを外に出さないように張られたものであり、それは同時にかれらだけでなくウイルスの拡散をも防いでいた。もちろん、ウイルスの方は当時知られておらず、結果的に、という話になるのだが……。

 だが、その結界も崩壊してしまった。結果、欧州やアジア、北米大陸で猛威を振るっていたかれらやウイルスは海のという名の絶対防衛線に阻まれていたからこその平和だったものの、内部から拡散される以上早急に手立てを講じる必要があり、今後増援の派兵は厳しいものとなるであろう。

 

 むろん、そのこと自体は不可抗力。というより想定外が連続して起きたことに起因するのだから、ある意味仕方ない面がある。

 いくらなんでも、ゾンビ程度しかいなかった巡ヶ丘に続々と、それこそ最上位クラスであるルイ=サイファー。高城絶斗、魔王-マーラなどが雁首揃えて現れるなどといったことを予想しろ、というのは流石に無理難題だ。

 そうでなかったとしても、魔人が顕現してくる時点で予想外とも言えるのだが。

 さらに言えば唯一神の側面でもある聖霊。学園生活部にアルノー・鳩錦と名付けられた存在に、現在居場所が分からない熾天使-ガブリエル。

 これだけの大物が一堂に会するなど、終末の時か。という突っ込みが入ってもおかしくない。

 

「そうだな……。天音、きみは()()()()()()()()()()だものな。気になるのも無理はない、か」

「……え?」

 

 晴明の言葉に驚いて天音を見る巡ヶ丘の面々。そう、彼女がアウトブレイク発生時、巡ヶ丘に結界を張ったヤタガラスの構成員であり、張本人の()()であった。

 そも、いくらなんでも一つの市を丸々隔離するほどの結界を張れる実力者など、そちらの方に特化した術師か、もしくは実力自体が抜きん出ている必要がある訳だが。

 それほどの実力者となると、いくらヤタガラスが超国家機関だといえども、むしろ確保予算が年々減少傾向あることも相まって実力者を確保、また維持するのが難しくなってきている。

 事実、現状ヤタガラスにいる実力者のほとんどが葛葉一族――ライドウやキョウジなど――と蘆屋家、ならびに分家――晴明や九頭竜家、峰津院家――であることからも分かる。

 二強、などと言えば聞こえは良いが、実際にはそれだけしか運用できる戦力がいないということの裏返しであり、いかに組織が薄氷の上を歩いているか、ということが理解できる。

 なお、ヤタガラスの外に目を向ければ一応築地根願寺や恐山などの勢力もあるにはあるが……。

 実情は当主、ならびに()()たちがこの場にいる由紀(Lv22)に、多少成長した(Lv16)美紀(Lv14)と同格程度の実力しかなく、平時ならともかく現状で戦力として数えるのは正直な話、少々厳しいと言わざるを得ない。

 

 そんな中で当時動いた、というよりも動けたのがここにいる九頭竜天音ともう一人。それは、峰津院家現当主。峰津院大和の双子の妹、峰津院都であった。

 

 そもそも、はっきり言えば九頭竜家と峰津院家の実力者である二人がなぜ動けたのか。それにも理由がある。

 簡潔に一言で、なおかつ身も蓋もない言い方をすれば蘆屋晴明の要請だったからだ。

 だが、これは同時にそう単純な話でもない。

 そも、晴明は前世の記憶を思い出すまで裏の世界とは一切関わらずに生きてきた。

 そんな晴明と、分家とはいえもとより名門である九頭竜、峰津院の二人がどこで出会ったか?

 それは、晴明が葛葉の里で修行し、実際に現場へ出て頭角を現してきた頃だ。

 

 そう、頭角を現してきた頃。そして、それは同時に晴明が()()()()()()だ、という噂がまことしやかにささやかれ始めた頃でもあった。

 むろん、その噂は事実ではない。……ないのだが、重要なのはそこではなく。そのような噂が流れた事実と、周囲がそれを事実だと認識したところにある。

 

 即ち、蘆屋晴明は蘆屋道満の転生体である。というのは蘆屋本家ならびに分家での共通認識であり、()()なのだ。

 そして晴明もそれを否定しなかった。……というよりも()()()()()()

 そも、現実は女神転生というゲームが存在した観測世界からの転生者であり、ある意味道満の転生体、という()()よりも荒唐無稽だったのだから、説明のしようがなかったのだ。

 実際、唯一その説明を受けた今代のライドウ。葛葉朱音すらも最初は晴明の頭を疑ったのだから、他の面々に説明したとして、晴明がどのような末路をたどるのか、想像に難くない。

 

 そのようなことから説明できなかったのだが、その真実――というよりも、仮に違ったとしても問題ない――に目を付けた家があった。

 それが天音が当主を務める九頭竜家と、都が所属する峰津院家。

 この二家はとある共通点があった。それは晴明と近しい年頃の女性がいたこと。

 ここまで言えば分かるかもしれないが、早い話。この二家、というよりも天音と都は蘆屋晴明という血を家に取り込むため、彼に最大限の便宜を図っていた訳だ。

 仮に晴明が道満の転生体でなかったとしても、これだけの実力者の血を家に取り込むことが出来れば、それだけで家の影響力は高まる。

 そして、本当に道満の転生体だったとすれば、それだけではなく同じ分家血筋ということから子供が、子孫が先祖返りする可能性だって出てくる。そうすればライドウ擁する葛葉に比肩、あるいは超えるほどの影響力を確保できたとしても不思議ではない。

 つまり、二家にとって蘆屋晴明という男はなんとしてでも手に入れたい存在。もっとも、それを命じられた二人からすれば勘弁してほしい。というのが、当初の率直な感想だった。

 だが、今となっては時間をかけての交友で晴明のひととなりを知ったことと、何より本人たちが晴明を憎からず想うようになったことでむしろ積極的に行動をしていたりする。

 天音が九頭竜家当主に就任したことがその一貫、だと言えばどれだけ乗り気なのか理解できるだろう。

 都もまた当主にこそなっていないが、兄である大和に全面的な援助の要請を引き出したことから、その覚悟がうかがえる。

 だからこそ、高々一都市に結界を張るためだけに晴明は大物二人を呼び寄せることが出来たのだ。

 ……ちなみに、現在までに晴明が二人に対してそのような関係に至った事実は一切ない。

 むろん、今後はどうなるか分からない。というよりも、今までの巡ヶ丘の生活によって可能性は高まった、という側面もあったりするのだが……。

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