DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第九十七話 『今川』という家

駿河(するが)、今川家――」

 

 天音が答えた言葉をおうむ返しする由紀。ある意味自身のルーツを知ったことで、噛み締めるように呟いたのか、と思った晴明だったが……。

 

「駿河、ってなんだっけ? 駿河屋? サ○エさん?」

「あぁ……。そうなるかぁ……、あとそれは三河屋さんな? ある意味近くはあるが」

 

 直後、キョトンとした様子でそう話す由紀に、晴明は頭痛を覚えたのか、突っ込みつつ頭を抱える。

 まぁ、ある程度歴史や郷土に興味があるならともかく、そういうこともない女子高生が昔の領国名を知るはずもないのは道理だ。

 そんな由紀に、慈は駿河、駿河国について簡単に解説する。

 

「えぇっと、ゆきちゃん? そういうのじゃなくて駿河は、今の静岡県の中部、北東部のことよ?」

「へえ、そんなんだ。めぐねえ、よく知ってるね?」

「あのね、ゆきちゃん。私、先生ですからね?!」

 

 まさか知ってるとは思ってなかった、と言いたげな由紀の言葉に傷付いたのか、慈は半泣きで声を荒げる。

 二人のコントじみたやり取りに、今度は慈と比較的親しい朱夏と、そして親族である杏子が呆れたように嘆息している。

 もっとも、怪我の功名とでも言うべきか、一連のやり取りで色々と張り詰めていた空気がある程度弛緩していた。

 その中で一人考え込んでいた美紀は、自身が考えが正しいのか確かめるため、晴明に話しかける。

 

「今川家、というのはもしかして歴史の授業で出てきた今川義元の、ですか?」

「あぁ、その今川で間違いない」

 

 そのやり取りでようやく自身たちが知る歴史上の出来事、その関係者であることを知った学園生活部の面々は驚きに目を見開く。

 そして、圭が他の面々の思いを代弁するように口を開く。

 

「……それって、桶狭間の?」

「まぁ、世間ではそれが有名だわな」

 

 圭の疑問を肯定する晴明。しかし、肯定されたことで逆に疑問を覚えたのか、悠里は晴明に問いかける。

 

「でも、ゆきちゃんがその今川家の分家? なのは解りましたけど、そんなにすごい家なんですか? 天皇陛下から直々に心配されるほどの――」

「……まぁ、歴史とかそこら辺りをよく知らないとそんな反応になるわなぁ」

 

 悠里の疑問を聞いた晴明はどこか苦々しげな表情を見せる。

 そして、まずは恐らく彼女たちが誤解している点を訂正するべく説明を始める。

 

「まず、始めに言っとくとだな。信長の桶狭間でかませ犬みたいな印象を持ってると思うが、その時点で既に間違いだからな?」

「……そうなのかよ?」

 

 晴明の物言いを聞いて純粋に疑問を抱いたのか、胡桃はそう問いかける。

 その問いかけに、晴明は首肯すると。

 

「あぁ、当時の今川家は全盛期。駿河、遠江(とおとうみ)、三河。今の静岡県のほぼ全域と愛知県の中、東部を支配下に置いてたんだ。それに対して信長は尾張、愛知県西部を、しかもまだ完全に支配していない状況だった。ここまでは良いか?」

 

 皆に確認を取るように語りかける晴明。その言葉に面々は頷くことで答える。それを確認した晴明はさらに話を続ける。

 

「それを成したのが、いま美紀が言った今川義元。東海一の弓取り、戦上手と呼ばれた戦国大名だ」

「ほへぇ……」

 

 由紀が感心したように、あるいは呆けたような声を上げる。

 

「そして当時、天下に近い呼ばれた大名家は二つあった。一つは当時日本の中心だった京、山城(やましろ)国や摂津(せっつ)国を中心に支配下に置き日本の副王とまで評された三好長慶率いる三好家。そしてもう一つが――」

「……今川家」

 

 今までの振りで予想できたのだろう。悠里は小さな声でぽつりと呟く。

 その呟きに晴明は頷く。

 

「もっとも、今川家は桶狭間の戦いで、そして三好も後に分裂して衰退していくことになるが……。ま、そこは関係ないわな」

「……関係ないんだ」

 

 そこまで聞いた胡桃は、関係ないのかよ。と言いたげな胡乱げな顔を見せる。

 そんな胡桃に晴明は苦笑すると。

 

「まぁ天皇家。というよりも朝廷とも桶狭間が起きる前からある程度関わりがあったのは確かだが、関わりが深くなったのはむしろ戦国大名としての今川が滅びた後なんだよ」

「そうなのか?」

「あぁ、今川氏真。今川家が滅びた時の当主はその後、各地を転々としたが最終的には徳川家。江戸幕府へ仕えることになったんだ」

「……それで結局、今川家と天皇陛下の関わりってのは?」

 

 晴明の勿体ぶるような言い方にいい加減焦れてきたのか、胡桃は若干苛立ちながら続きを促す。

 

「それは、だな……。氏真の孫となる今川直房、彼は幕府と朝廷を繋ぐ外交官として働いていてな。死後、神格化された徳川家康。東照大権現を祀る東照宮。その宮号(ぐうごう)宣下を成し遂げたんだ」

「成し遂げた……? それに宮号ってのは……?」

「あぁ、それはな。当時、朝廷と幕府――というより徳川家康の関係は、家康が無理に朝廷に介入しようとしていたこともあって関係が冷えきっててな、当初は難色を示してたんだよ。それをなんとか外交努力で成功させた人物の一人が今川直房だったんだ」

 

 そこまで話した晴明は一息つくと続きを話す。

 

「そして宮号宣下についてだが。ざっくばらんに言うと日本では神を祀る社を、文字通り神社と言うわけだが。それよりも力、というか位が高い神宮がある。有名なのは伊勢神宮か。ま、早い話が東照大権現の信仰、力を高めるために徳川将軍家はそれを行いたかった訳だ」

「それで先ほどの話に戻る、と……?」

 

 晴明へ確認を取るように話を振る朱夏。晴明も認めるように首肯すると。

 

「当時の日本にとって朝廷と幕府。権威と軍事力の関係が冷え込む、というのは色々な意味で問題にしかならなかった。特にその当時、基督教や南蛮商人による奴隷貿易が問題になってたしな」

「……奴隷貿易?」

「あぁ、当時の基督教布教は思想による植民地支配の一面もあったし、南蛮商人たちは日本人を奴隷として外国に売っていた。だからこそ豊臣秀吉による伴天連追放令が起きた」

「そんなことが……」

 

 悠里の顔が驚きに染まる。対して話した晴明自身、そして天音の顔は苦虫を噛み潰したようなしかめっ面になる。

 基督教、即ち、キリスト教はメシア教の母体でもあり、昔から一貫して迷惑をかけられていることに辟易としていたのだ。

 しかし、いつまでもそうしていても話にならない。晴明は気を取り直すように頭を振ると、再び口を開く。

 

「まぁ、そうでなかったとしても朝廷は単独での武力は持ってなかったからな。万一にでも幕府が朝廷へ敵対行為を取った場合、対抗手段がない。そういった意味でも今川直房、今川家の行為に助けられた訳だ」

「そこまでかよ……」

 

 流石にそこまでがっつりと関わると思っていなかったのか、胡桃は先ほどまでとは打って変わって呆然としている。

 そんな胡桃を見て、晴明は苦笑すると恐らく彼女らへさらに衝撃を与える言葉を口にする。

 

「だからこそだろうな。朝廷は直房に歴代今川家の中でも異例の官位、左近衛少将(さこんえのしょうしょう)を授けた」

「異例、ですか?」

「あぁ、佐近衛少将は内裏の警備を仕事とする官職だ。……それほど権威が高い、というわけではないが、それでも大名でも公家でもない一個人が得るには異例すぎるだろう」

 

 慈の疑問に答えた晴明。慈もまた、晴明の答えを聞いて思うところがあったのか黙り込む。

 

「ふぅ……。まぁ、今川家と天皇陛下の関わりはこんなところか」

 

 一通り話を終えた晴明はため息をつく。

 自身の家、その始まりの一部を聞いた由紀は呆然とした様子で晴明を見る。確かによく知らなかったのは自分自身であるが、それでも自身の中にそのような由緒正しい血が流れている、というのは予想外だった。

 そんな彼らの耳に、聞き慣れない()()の声が聞こえてくる。

 

「――ほう、()()()()()()()面白い話をしておるのう?」

「――誰だ!」

 

 驚き振り返る晴明。振り返った彼が見た少女、その姿は――。

 

「……朱音?」

 

 どことなく血の繋がらない妹分を彷彿とさせる軍服らしき服装と帽子を身にまとい、外套を羽織った小柄な少女の姿。

 

「――いや、違う。お前は……!」

 

 だが、それは葛葉朱音、ライドウではなかった。少女もまた、その考えを肯定するように言葉を放つ。

 

「……わしこそ第六天魔王こと、そうわしじゃよ!」

「――いや、誰だよ!」

 

 そう言ってにやり、と笑い、同時に胡桃の突っ込みが辺りに虚しく木霊するのだった。

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