DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
「アドルフ・ヒトラー……!」
天音の口から語られた第三勢力の首魁。その名を聞いた美紀は、ごくり、と唾を呑む。あまりにも、そう、あまりにも有名な独裁者の名に。
そして、晴明もまた頭を抱える。
――アドルフ・ヒトラー。
かの人物、ならびにドイツ第三帝国にはいくつか伝説がある。その中の1つに戦争末期、かの国が聖杯探索をしていた、というものがある。
……そう、聖杯だ。これだけならばまだただの与太話で済ますことができた。問題はこの世界が晴明という存在によって人理――Fate/Grand Orderで示されたコトワリ――という楔が打ち込まれつつある、ということだ。
もし、もしだ。彼らが聖杯を手にしていたら?
そうなれば最悪、この巡ヶ丘市で『聖杯戦争』が引き起こされる可能性がある、ということだ。
ただでさえメシア教、ガイア教、かれらという敵がいる状況でさらにサーヴァントが現れたら、巡ヶ丘はさらなる混沌に陥るだろう。
それだけではない、もし晴明の仲魔たちの一部。幻魔-クーフーリン、女神-スカアハ、外道-ジャック・リパー、秘神-カーマ、そして英雄-ジャンヌダルク。彼ら、彼女らが聖杯に英霊だと判断されたら。
そのとき起こるのは聖杯戦争ではなく、聖杯大戦。英霊7騎対7騎による果てなき戦だ。
そんな事態になればさすがの晴明でも手に余ること請け合いだ。しかも、問題はそれだけではない。
人理関係で付きまとう人類悪も考慮にいれないといけなくなる可能性がでてくる。現にここに魔神柱-フォルネウスがあらわれたことは記憶に新しい。そして、それに関係する人類悪といえば――。
――魔神王、あるいは人王-ゲーティア。
かの憐憫の獣がフォルネウスという
さらにいえば悪魔としての邪龍-ティアマト。かの存在がフォルネウスと同じように人類悪、回帰の獣に変質する可能性だって否定できなかった。
考えれば考えるほど嫌になる可能性がでてきて頭が痛くなる晴明。彼はずきずきと痛む頭を押さえしかめっ面になる。
「……だ、大丈夫? 晴明さん」
おろおろと、心配そうに見つめる朱夏。
「あぁ、大丈夫だ。……ちょっと考え事をしてただけだよ」
彼女を安心させるように微笑むが、内心はペルソナ使いの彼女を見て、また新たな可能性へ思い至っていた。
さきほど天音は残党のことを聖槍騎士団、と言っていた。それはつまり奴らの装備にあのペルソナ封じの槍、かつて聖者を貫いた槍の模造品。すなわち、ロンギヌスコピーを持っているであろうことを示唆している。
つまり、言い換えればあのパワードスーツ部隊。ロンギヌス13が存在していると考えるのが妥当。
あのヒンメル・フォイアーと呼称されるパワードスーツはMG34機関銃という重火器を装備していることや、単体で飛行可能という点で一部とはいえデモニカスーツをも凌駕する性能を持っている。
それらが投入されれば朱夏はもちろん、由紀や悠里たちペルソナ使いたちはもとより、美紀圭コンビ。はやく言えばアレックスを除く学園生活部には厳しすぎる存在となる。
一応、魔人化した胡桃は善戦できるかもしれないが、それもまた希望的観測だろう。
まぁ、ほかに気休めという点で言えば彼らの敵がこちらだけではなく、ガイア教、メシア教、それにかれらと多方面に渡ることから戦力が分散する可能性があるくらいだろう。本当に気休めでしかないが……。
「しかし、考えれば考えるほど頭が痛くなる問題だな」
思わず愚痴る晴明。そんな彼に朱夏がポツリと呟いた言葉が聞こえる。
「……そういえばスミコのやつ、どこへ行ったのかしら?」
「澄子、澄子だと? マヨーネの弟子のか……?」
「……え? ええ、実は――」
晴明に問いかけられた朱夏は、そういえばその事を話していなかったと思い、彼女との出来事を話す。
すべてを聞いた晴明は机に突っ伏してしまう。
それを見て慌てる朱夏。
「ちょっ、ちょっと、晴明さん!」
「……彼女がいる、ということは最悪ファントムソサエティも介入してくる可能性があるってことじゃないか」
晴明の口からでたファントムソサエティという組織名、そしてマヨーネという名前。それを聞いた圭と美紀の目が驚きで見開かれる。それは彼女らが晴明に弟子入りする前、彼から聞いた彼を殺しうる可能性がある者たちの名前だからだ。
むろん、あのときとは違いこちらにも歴戦の猛者であるアレックスと天音がいる。そうなれば、そう易々と晴明が殺されることはないだろう。
だが、敵は彼らだけではないのだ。
メシア教、ガイア教、ラストバタリオン。それにファントムソサエティが介入してくるなら現地のかれら、ゾンビを除いても五つの勢力が入り乱れることになる。
はっきり言って巡ヶ丘に未曾有の危機が迫っていると考えて問題ない、いや、ある意味大問題なのだが。
「……いや、それだけじゃない」
「……? はーさん?」
難しい顔をして考え込む晴明を、不思議に思い首を傾ける由紀。彼が言うそれだけじゃない、という意味がわからなかったからだ。
それは必然だ。なぜなら、彼女は六つ目の組織があることを知らないのだから。
その組織の名は多神連合。晴明をこの世界へ転生させたヴィローシャナを首魁とする神々。主に多神教による連合だ。
彼らもいままで裏で暗躍し続けていたがその全容を見せていない。何が目的なのかも――ある程度予測はつくが――判明していない不可思議な組織だ。
その組織について天音や、なによりメシア教の首魁の一部である聖霊。アルノーはなにか情報を持っているかもしれない、と晴明は考え問いかける。
「ここにいる皆に聞きたいんだが。多神連合と言う組織に聞き覚えは? それに少しでも情報を持っているなら教えてほしい」
「……多神連合?」
おうむ返しのように呟いて不思議そうにした由紀は他の生活部メンバーを見る。アレックスを含め、ほぼすべてのメンバーが由紀と目を合わせたときに首を横に振って否定する。
やっぱり、情報があるわけないか。残念そうにする由紀だが、その中で胡桃のみ反応がなかったのに気付くと、彼女へ問いかけた。
「……くるみちゃん、もしかしてなにか知ってるの?」
由紀の問いかけに、考え込み自身の世界へ入り込んでいた胡桃は驚きの声をあげた。
「……うぇっ?! あ、あぁ。あたしか? いや、なんか、どっかで聞いたような気がして……。どこだったかなぁ……?」
なんとか思い出そうとして眉にシワを寄せ唸る胡桃。そんな彼女へからからと笑う信長、魔王-マーラが話しかける。
「魔人の小娘よ。それはあれだな。貴様がルイ殿の手によって魔人化していて意識がもうろうとしている頃に、耳へ入ったのだろうよ」
「……ふぇ?」
マーラの指摘に間抜けな声をあげる胡桃。確かにマーラの指摘通りなら、覚えていないのも無理はない。だが、それは逆説的に指摘したマーラはなにか知っている、ということ。多くの視線がマーラに集まる。
集まる視線を心地よく受け止めながら、マーラは口を開く。
「何やら、お主たちは期待しておるようだが……。儂がそれを話す必要がどこにあるのかのぉ? そもそもヴィローシャナ――アスラおうは我らガイアの重鎮でもあるのだぞ?」
「うぐっ……」
マーラの指摘に晴明は口ごもる。確かにその指摘はもっともであった。事実、真・女神転生でアスラおうはガイア教、カオス陣営のボスとしてカテドラルへ攻め込んでいたのだから、晴明の口からはぐうの音もでなかった。
それを見てひとしきり笑った後、マーラは話を続ける。
「とはいえ、儂もお主らに協力すると言った身。それを反故にするのはさすがに不義理よな。なのでひとつだけ答えるとしよう。あやつらがいま動くつもりか否か、だ」
マーラの宣言に晴明は喉をごくり、と鳴らす。辺りに奇妙な緊張が走る。その緊張の中でマーラが口を開いた。
「あやつらはいま、動くつもりなどないの。まだ機が熟しておらぬ、とな」
「それは――」
「話はここまでよ。儂が言うのもなんだが、強欲は身を滅ぼすぞ?」
マーラのこれ以上言うつもりはない、という宣言に晴明は気圧される。それに、マーラが言う強欲は身を滅ぼす、という指摘。
それはかつてマーラ自身がお釈迦様を色欲で堕落させようしていたことを知っている晴明からすれば、説得力の塊であった。
押し黙る晴明をくつくつ笑って見つめるマーラ。そして彼女は最後にとんでもない爆弾を落とす。
「そうそう、ひとつサービスで教えておくが。ファントムソサエティ、あやつらも動かんだろうし、動いてもお主らの邪魔はせんだろうよ。なにしろパトロンの、多神連合の不興は買いたくないだろうからのぅ」
「……なっ?!」
とんでもない情報に絶句する晴明。それをマーラは愉しげに見つめているのだった。