DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第百一話 わたしの夢と、未来への覚悟

 マーラが話した事実に衝撃を受けた翌日。晴明は自身に宛がわれた部屋で、考えをまとめるようにぶつぶつ、と独り言を呟いていた。

 

「ファントムソサエティと多神連合が繋がっていた? ……いや、それは別に良い。そもそも大幹部に魔王-アザゼルがいる以上、そういった繋がりがあったとしてもおかしくない。それに――」

 

 考えをまとめるため、こめかみをとんとん、と指で叩く。

 

「ファントムソサエティはたしか、大いなる存在に――、大いなる存在?」

 

 自身が口に出した言葉にたいして疑問を抱く。そもそも、大いなる存在。とはなんなのだろうか、と。

 考えられる可能性としては聖書陣営の神。唯一神-ヤハウェ。または深淵魔王-ゼブルの直接の上司に当たる創造神-ホシガミ。こちらのどちらか、もしくは晴明すら知らない別存在、というのも十分あり得る。

 

「どちらにしても、情報が少なすぎる。これでは、な……」

 

 確かに晴明は転生者であり、他の人間にはない情報ソースを持つ。事実、ホシガミはそこから得た情報であり、もしその情報がなかったら晴明はヤハウェこそが大いなる存在だと考えただろう。

 だが、それゆえ晴明は今回頭を悩ませている。

 そもそも、()()()()だけで考えるならヤハウェが一番近しい。しかし、晴明は知っている。世界がこの世界だけで構成されているわけではないことを。

 

「……エトワリア、という異世界があったんだ。他にも世界がない、などと考えるのは早計。というよりも愚考だ」

 

 かの世界で出会ったランプに教えてもらった女神-ソラ、と呼ばれる存在。彼女の口ぶりからすると、ずいぶん人間と近しいようだが、それでも女神と呼ばれる権能は持ち合わせているだろう。

 それらと同じような超越存在が他の世界に存在していない、などと考えるほど晴明は楽観主義者ではない。

 

「いかん、考えが逸れたな」

 

 ふたたびかぶりを振る晴明。いま考えるのはそこじゃない。考えるべきは他にある。

 

「ランダルが天使たちによって要塞化している可能性がある、か……」

 

 むろん、晴明の杞憂。という可能性の十分ある。しかし、楽観して良いかと問われればそういう訳じゃない。

 そもそも、何の因果か聖霊。アルノー・鳩錦がこちらにいる以上天使たちが、特に四大天使のうちミカエル、ラファエル、ウリエルが何かしている可能性は十分ある。

 と、なると仮に晴明が単身ランダルに潜入したとして、こちら。巡ヶ丘学院高校が危険にさらされる可能性は十分あり得る。かといってランダルへ連れていくのも危険性が高い。なにせ、敵の本丸なのだから。

 

「しかし、なぁ……」

 

 晴明の脳裏に浮かぶのは由紀の顔。彼女がワイルドである以上、こちらに残そうがランダルへ連れていこうが、何らかのトラブルに巻き込まれるのは必定。晴明は、そう判断している。

 

「だいたい、ピースが揃いすぎている。これでなにもない、何て考えるのはバカだ」

 

 ゾンビ化によるバイオハザード。悪魔の跋扈。大天使、聖霊の降臨。人類悪の顕現。そして、ワイルドの出現。もはや、役満と言って良いレベルだ。

 そしてワイルドの回りにはベテランの悪魔召喚師が二人。新人の悪魔召喚師とデビルバスター。ベテランと新人のペルソナ使い。そして、親友の魔人。それだけではなく、歴戦の魔法少女が二人。

 これだけの人員がワイルドの、丈槍由紀のもとへ集っている。まさしく彼女が世界の中心で、由紀を起点として世界が巡っているように。

 

「あり得ない、と一蹴するのは簡単だが――」

 

 くく、と自嘲する晴明。どう考えてもそれは思考停止でしかない。

 

『――はーさん、いる?』

「由紀さん? あぁ、起きてる。開いてるよ」

 

 晴明の耳に響く由紀の声。彼女のことを考えているときに彼女が来るのは運命染みたなにかを感じるが……。

 晴明が鍵は開いてることを告げると、由紀はおずおずと部屋の中へ入ってくる。

 

「どうしたんだ、由紀さん?」

「うん……。なんか、はーさん。悩んでる、って思って」

「……っ! そう、か」

 

 この娘は本当によく人を見ている。晴明はそう思った。

 以前、美紀と圭にも聞かされたことだが、アレックス。彼女がシュバルツバース、かの地の記憶を取り戻す前、一時期不安定になっていた精神を慮っていたのも由紀だった。

 

 立場がそうさせるのか、それとも境遇がそうさせたのか。

 

 あの話し合いの後、ひそかに天音から聞き出した丈槍家についてのこと。

 彼女たちの家が巡ヶ丘市で村八分にされた理由。そして陛下が、いと畏き御方が丈槍を特別視する理由。それを聞かされた晴明は、なるほど、と納得するしかなかった。

 彼女の優しさ、それは彼女生来のものであるが、それとともに家系ゆえのものでもありそうだ、と理解して。

 

 そのことを思い返し、難儀なことだ。と、苦笑いする。血筋が離れているとはいえ、血脈を保ち、今川の姫と言えなくもない彼女。彼女の()()()が人格者だったゆえに、業を背負うことになってしまった丈槍、という家。それに――。

 

「どうしたの、はーさん?」

 

 不思議そうに晴明を見上げる由紀。

 行動自体は幼さを感じさせるが、その心根はどこか彼女が慕う恩師の姿を思い浮かばせる。佐倉慈の姿を、だ。

 

「弟子は師に似る、とは言うが……」

「わぷっ、ちょっ、はーさん……?」

 

 猫耳キャップの上から由紀の頭を撫でる晴明。

 晴明の急な行動に目を白黒させる由紀は、しばらくされるがままになっていたが、気を取り戻すと彼から離れ、自らの身を守るように身体をかき抱く。

 

「そんなことされると流石に傷つくんだが?」

 

 苦笑しつつ、由紀に突っ込む晴明、しかし――。

 

「……でも、はーさんだし」

「おいおい、俺をなんだと――」

「みーくんとけーちゃん」

「うぐっ……」

 

 ジト目の由紀が放った言葉でひくっ、と表情がひきつり二の句が告げなくなる晴明。

 実際、望まれたとはいえ彼女より年下の、後輩たち二人に手を出しているのだから言い訳しようもなかった。

 しかも、それだけではなく、彼女の恩師や恩師の友人に卒業生の先輩。他の女性にまで手を出し、最近では友人から意味ありげな視線をもらう始末。

 どこをどう見ても女にだらしない男の図であった。恐らく、彼が巡ヶ丘に来るまで経験がなかった、という事実を話しても由紀は信じないだろう。

 それでも言い訳してしまうのが悲しき男の性で……。

 

「いやいや、誤解だって」

「本当にぃ……?」

「本当、本当だって。ただ、その、なんだ。由紀さんが慈に似てるなって、そう思っただけだから」

 

 晴明の言葉にぴくり、と反応する由紀。そして彼女は不安そうな表情で彼に問いかける。

 

「めぐねえに、似てる。わたしが……?」

「あぁ、その……。心意気、というか。心根が、な」

「……そっ、か。ねぇ、はーさん。わたし、めぐねえみたく、なれるかな……?」

「慈、みたく……?」

「うん、わたしの……夢なんだ」

 

 そう言うと由紀はぽつり、ぽつり、と話し出す。慈に心を救われたこと。自身も慈のように心を救う、そんな教師になりたい。そんな夢を。

 彼女の独白を聞いて、晴明は破顔する。

 

「由紀さんならなれるさ」

「ほんとう……?」

「あぁ、本当だとも」

 

 晴明の脳裏に浮かぶのは、慈と同じくらいに成長した由紀が、子供たちに囲まれ穏やかな笑みを浮かべる姿。

 そんな姿が楽々と想像できるのだから、なれないわけがない。

 それに由紀がちゃんと未来を見ているのだ。大人である晴明が、いつまでもうじうじしている訳にはいかない。

 もはや、覚悟は決まった――。

 

「よし、決めた!」

 

 勢いよく立ち上がる晴明。そんな晴明に由紀は声をかける。

 

「はーさん、わたしも着いていくからね? それに、他のみんなも、きっと……」

「あぁ、分かっているとも」

 

 はにかみながら由紀に手を差し伸べる。

 

「手伝ってくれるか、由紀さん?」

「当然、だよ」

 

 そして、手を取る由紀。二人の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

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