DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第百十一話 正体

 メタトロンの軍勢が顕れた頃、晴明に逃がされた由紀たちは、なんとかYHVH宇宙を奥へ、奥へと進んでいた。

 しかし、その道中。決して順調だったわけではなく――。

 

「――マリア! マハ・ブフダイン!」

「ペルソナ! マハ・ジオンガ!」

 

 由紀と朱夏、二人がそれぞれペルソナを使用し、電撃と氷礫の雨を降らせる。

 彼女らの魔法に道を塞いでいた天使-エンジェルやアークエンジェル、パワーなどが屠られていく。しかし……。

 

「……っ、数が多い」

 

 レーザー銃で同じように迎撃していたアレックスが悪態をつく。だが、アレックスが悪態をつくのも当然の話だった。

 なにせ、彼女の目の前に広がる光景。それはメタトロンの時と違うが、こちらも軍勢。(YHVH宇宙)が三に対して、(天使)が七。四方八方を天使に囲まれ数えることすら億劫になるほどの光景が広がっていた。

 

「……ああ、もう! 鬱陶しいなぁ!」

 

 魔人-アリスは屍人のような青白い肌を紅潮させて憤慨している。彼女にとってここにいる天使たちは自らに集る羽虫に等しく、不快感をつのらせていく。

 

「……あなたたち、とっとと()()()()()()!?」

 

 不快感が限界まで達したアリスは、辺り構わず呪詛を振り撒く。召喚されたトランプ兵が敵を串刺しにする。テディベアが爆弾を持ったまま近づき、天使たちを巻き込んで自爆する。

 もともとアリスが扱う死んでくれる? は、呪殺属性で天使の弱点であって、多くの天使を消滅させる。だが、それでも天使の総数が多すぎることで数が減っているようには見えなかった。

 

「くっそ、本当にきりがない……!」

 

 胡桃もまたシャベルを模した斧槍で天使を斬り捨てながら愚痴る。特に彼女の場合、魔法などでの複数攻撃手段が乏しいのも理由の1つだ。

 

「このままじゃ……!」

 

 今はまだ戦力として拮抗している。しかし、そのうち天使側に戦局が傾くのは自明の理。それを理解している由紀は焦る。

 どうにかしてこの戦局を打開しなければならない。だけど……。

 

「やれやれ、こちらも少し手伝うかのぅ」

 

 古風な話し方に比べると明らかに若々しい声が聞こえる。

 驚き振り返る由紀。そこには軍服姿の少女。異界の織田信長の姿を借りた魔王-マーラがいた。

 

「いざ刮目せよ。これが異界の信長が妙技、魔王の三千世界(さんだんうち)よ!」

 

 空間に波紋が浮かび上がり、三千丁の火縄銃が現れる。その銃口から次々と火花と硝煙が立ち上り、天使たちを屠っていく。

 バタバタと墜ちていく天使の姿を見て、マーラはにぃ、と口もとを歪ませる。

 

「はっははは、愉快愉快! そぅら、つるべ撃ちよ!」

 

 次々と吐き出される弾丸。穿たれる天使たち。だが、それでも足りない。あと一手、あと一手が。

 由紀たちペルソナ使いが、胡桃たち魔人が、圭たちデビルサマナー、あるいはデビルバスターが懸命に戦っている。

 

「――――うあぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 吼える。あと一手を為すために。ペルソナ使い、ワイルドの力を解放するために。

 しかし、結果としてそれが解放されることはなかった。

 

「…………あ、え?」

 

 力が尽きた? 否、まだ力は振り絞れる。

 敵がいなくなった? 否、未だに辺りは天使が闊歩している。

 

 ならば、なぜ?

 

 それは、彼女。由紀にとって想定外が起きたから。

 

 

 

 ――ひゅん、ひゅん。

 

 次々と天使たちへ降り注ぐ矢。しかし、それは由紀がよく知る悪魔。秘神-カーマのものではない。

 だが、その矢は天使たちをハリネズミにして討っていく。

 

 ――おぉぉぉぉぉぉぉっっっ!

 

 背後から喚声が聞こえる。なにごとか、と振り返る由紀。そこには天使たちとは違う悪魔。妖鬼-オニやモムノフの姿。それだけではない。甲冑や胴丸を身に付けた人間らしき姿もちらほらと――。

 

「ほっほっ、どうやら間に合ったようじゃのぅ」

「……おじい、ちゃん?」

 

 大僧正の間に合った、という言葉に困惑する由紀。しかし、大僧正は由紀にそのことを説明するつもりはなく、あくまで優しい口調で語りかける。

 

「ささっ、由紀お嬢ちゃん。……いや、()()。ここは拙僧たちにお任せを」

「……え?」

 

 大僧正のミイラ姿がぼやける。かつて人に擬態していた時のように、老僧――の姿ではなかった。

 由紀たちよりも歳を取っていそうなのは確かだ。しかし、それにしては若々しい、三十代後半から、四十代手前の姿に見えた。

 今までとは明らかに違う姿に絶句する由紀。

 

 その時、大僧正らしき男に声がかけられる。

 

「まったく、師よ。地獄の獄卒相手に天下取りをするのではなかったのか?」

「ふぁふぁふぁ、お久しゅうございますお屋形さま」

 

 戯れのように談笑する大僧正らしき男。その彼に声をかけた人物もまた時代がかった姿をしていた。

 戦国の甲冑姿はもちろんのこと、頭には烏帽子。手には扇子を持ち、腰には刀を佩いている。

 

「師にお屋形さま、と呼ばれるのも擽ったいの」

「それとも栴岳承芳(せんがくしょうほう)とも呼ぶべきかね?」

「それは懐かしい、師とともに仏門へ帰依していたことも大切な思い出よ」

 

 由紀は大僧正と仲良く話している男を見て、なぜか懐かしい気持ちになる。まるで、遥か昔のご先祖さまを見ているようで……。

 

「それで、その娘御が?」

「左様、拙僧。いや、儂が見たところ、お主の子孫よ」

「ほう……」

 

 由紀の顔をまじまじ、と見つめる男。

 目鼻立ちの整った男に見つめられたことで頬を染める由紀。

 由紀を見つめていた男は満足そうに頷くと、嬉しそうに笑う。

 

「なるほど、なるほど。確かに余の血筋を引いているようだの。女だてらに凛々しい顔つきをしておるわ」

 

 ほほほ、と笑う男。そして、手に持った扇子をパチン、と鳴らす。

 

「にしても、耶蘇教のものどもにも困ったものよ。やつはらの野蛮な教えなど、日ノ本には相応しくないというに。これは教育する他あるまい? この余――」

 

 にぃ、と獰猛に笑う男。

 そこでマーラもようやく男に気付いたようだが、その男を見て絶句する。

 

「……げ、げぇ?! き、きさまは――!」

「ほう、きさまが異界とは言え、余を討った尾張のうつけ、か」

 

 くつくつ、と嗤った男。そして男は名乗りをあげる。

 

「まぁ、どちらでも良い。今は味方なのであろう? ならば、余と。この今川(いまがわ)治部大輔(じぶのだいふ)義元(よしもと)と轡を並べるが良い」

 

 ――かつて海道一(東海道一)弓取り(戦上手)と評された今川家最大版図を築いた当主、今川義元。

 

 そして、彼に師匠と呼ばれた大僧正。

 彼の正体こそ、桶狭間の戦いにてまだ存命であれば義元の敗死はなかった、とまで評された今川家の軍事、外交、内政すべてに辣腕を振るった宰相にして今川義元、そして江戸幕府を開いた天下人、徳川家康を育てあげた僧侶。

 

 怪僧-太原(たいげん)崇孚(そうふ)または雪斎(せっさい)。後世、黒衣の宰相とまで呼ばれた人物であった。

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