DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第百十二話 上総介

 天使を己の得物である斧槍で切り払っていた胡桃だが、ふと、後ろが騒がしいと思い、振り返って絶句する。

 

「お、おいおい……! なんだよ、ありゃあ」

 

 目を見開き、顔をひきつらせる胡桃。オニなどの妖怪だけならまだしも、時代錯誤の鎧武者たちが闊歩していたのだから仕方ない。

 

岡部(おかべ)丹波守(たんばのかみ)推参! 姫様の道を塞ぐ者、ことこどく討って見せようぞ!」

 

 遠くからよく聞こえる男の声。岡部丹波守と名乗った人物。今川家重臣、岡部元信の気合いに胡桃は気圧される。

 

「…………っ、いや、いやいや。姫様って誰だよ!」

 

 正気に戻るとともに突っ込みを入れる胡桃。まさか、その姫様が親友である由紀だとは分からなかったようだ。

 もっとも、そんなこと元信には関係ない。彼は佩いた刀を抜き放ち、敵――天使たちへ斬りかかる。

 見た目が人間の元信が突撃する様を見て、胡桃は危ない、と叫びそうになる。だが……。

 

「ぬおぉぉっ――!」

 

 ――気合一閃!

 

 元信は天使たちが突いてきた槍をヒラリ、と躱すと刀を振るい切り裂いていく。

 切り裂かれた傷口からMAGが漏れ出し、輪郭がぼやけていく。きっとそのままでも、そのうち消滅するだろう。

 だが、元信はそれを良しとしなかった。

 

「――ぬんっ!」

 

 負傷した、死に体の天使たちにも油断せず、元信はトドメを刺していく。そして粗方天使を片付けた元信は近くで戦っていた胡桃を見る。

 

「お主、姫様のご友人かな?」

「いや、あの……。姫様って、だれ……ですか?」

 

 得たいの知れない、あからさまに怪しい男からの問いかけにしどろもどろになる胡桃。そんな彼女の様子に内心首をかしげながら、元信は質問に答える。

 

「姫様を知らない……? あぁ、そうか。いや、失敬。この時代、あまり家は重視されないのであったな。姫様とは丈槍由紀さまのことだ」

「ゆ、ゆきぃ……?!」

 

 思わず上ずった声を上げた胡桃。彼女からしたら完全に予想外の答えだった。

 

「あの方は我らがお屋形さま。今川治部大輔様の血を引く女子だからな」

「そ、そう言えば前にそんな話してたっけ……」

 

 そこまで聞いて胡桃はようやく、前に天音からそんな話があったことを思い出した。

 だが、さすがにそのことで胡桃を責めるのは酷だろう。なにせ死人――胡桃たちがよく相手にしていた()()()もある意味死人だが――、しかも400年前の人間が現れて、しかもそれが仲間の関係者だと言われても分かるわけがない。

 

 いま、この瞬間。ここが戦場であることを忘れたかのように和気藹々したやり取り。しかし、なにかに気付いた元信は顔を引きつらせるとその場を駆け出していく。

 

「若殿、上総介(かずさのすけ)様! 危のうございます!」

「あっ、ちょっ――!」

 

 元信の豹変に驚く胡桃。そんな彼女を尻目に元信は場を去るのだった。

 

 

 

 

 元信が走り去った頃、一人の青年が天使たち相手に大立ち回りを行っていた。

 

「どうした、どうした! 上総介はここぞ! 我を討ち取り、名を上げようという剛の者はおらぬのか!」

 

 刀一振で天使たち相手に大立ち回りをして、バッサバッサと切り捨てている若武者。

 今もまた、背中から刺し貫こうとした天使の気配を感じ取り、するり、と水のよう自然な動きで躱すと返す刀で天使を切り裂いていく。

 

 

 

 その若武者の活躍を見た総大将、今川義元は嬉しそうな、困ったような顔をしていた。

 

「やれやれ、龍王丸(たつおうまる)も滾っておるわ」

「よろしいではありませぬか。生前、かのお方はそんな機会に恵まれなかったのですからな」

「むしろ、恵まれては困るわ」

 

 雪斎の指摘に、おどけるように答えた義元。彼からすればかの若武者の活躍は嬉しい反面、あまり危険なことはしてほしくない。というのが本音だった。

 なにせ、かの若武者の正体。それは――。

 

「なぁに、()()様もようやく磨いた刀の腕を振るえるのです。張り切りもするでしょう」

 

 今川義元の嫡子。12代目今川家当主、今川上総介氏真その人だった。

 

 

 

 

 

 そも、今川氏真は史実において蹴鞠に興じた暗愚や、信長よりも先に楽市楽座を行った内政官。あるいは徳川家の外交官としての面が多く取り沙汰される。

 しかし、それはあくまで一面でしかない。

 そもそも、氏真が暗愚である。というところにまず疑問がある。

 氏真の代に大名家の今川が滅んだのは確かだ。しかし、その前の状況も考えなければいけない。

 まず、始めに今川家が傾く最初の要因となり得るのが桶狭間の敗戦だ。

 この敗戦で今川家は義元をはじめとして、多くの重臣を失っている。すなわち、言い換えれば今川家の中枢がごっそり、といなくなったわけだ。

 

 ……考えてみてほしい。もし、自身が同じ立場だとして、現代風に言い換えるとある日、就職している大企業の社長、または会長と重役や幹部連中たちがゴッソリいなくなって、残ったのは引き継ぎが中途半端な若社長と後々の幹部候補と黙されていた係長、主任クラスのみ。

 果たしてこの状況で会社を維持できるだろうか?

 

 ちなみに桶狭間が起きたのが1560年。そして大名家の今川が滅亡したのは1569年。氏真はこの約9年間、家を保たせている。嫁の実家である相模の獅子、北条氏康率いる北条家の協力があったとは言え、周りが商売敵で敵対していた甲斐の虎、武田信玄率いる甲斐武田家と第六天魔王織田信長の後ろ楯があった松平、後々の徳川家相手に耐えてみせた。と言えばその異常性が分かるかもしれない。

 しかも、蹴鞠に関しても公家相手の外交。という側面があった可能性もある。そもそも本拠の駿河には度々公家が下向していたことで関わりがあった。それらの人物相手に外交をする場合、蹴鞠や歌会などは有効だ。

 実際、信長の父親である織田信秀も公家相手に蹴鞠や和歌を学んで交流を深める、方法を取っていた、とされている。

 

 そして外交官については以前――第九十七話――で語ったように功績を残している。

 しかし、今川氏真という男はそれだけではなかった。というのもこの男、剣豪将軍と呼ばれた十三代目征夷大将軍足利義輝と同じく、剣聖塚原卜伝(ぼくでん)に師事し、最終的に奥義である一の太刀を伝授されている。すなわち、最低でも剣聖に認められるだけの腕はあった、ということだ。

 もっとも、それが氏真に必要か? と、問われると必ずしもそう言うわけではない。なにせ、氏真が刀を振るう、というのは確実に本陣まで攻め込まれている負け戦であり、その中で振るっている以上討ち死には免れない。それこそ桶狭間の義元のように、だ。

 だからこそ、氏真に武勇がある。という逸話がなかったのかもしれないが。

 

 さらに言えば、この男。一度、大名に返り咲けたかもしれないチャンスにも恵まれていた。

 かつて徳川家康が信長相手に氏真を駿河へ封じてはどうか。と提案したことがある、という逸話が存在する。まぁ、それは信長自身がそんなことをしても意味がない、突っぱねて実現しなかったそうだが。

 しかし、何らかの思惑があったのやも知れないが家康がそんな提案をする程度には有能だった、という可能性も十分ある。

 また、徳川に取り込まれた今川旧臣の中には今川家が徳川家の中で領主として復帰するかもしれない、という噂が囁かれていた、とのこともあるのでそれなりに求心力もあったといえるだろう。

 

 そして、彼の血は脈々と、由紀にまで引き継がれている。あるいは由紀が学園生活部の部長として皆をまとめ上げていることも、ある種のカリスマ性を出していることも必然だったのかも知れなかった。

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