DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
一方その頃、ランダル・コーポレーション二階の安全地帯で慈たちは突入組の無事を祈っていた。
「どうか、晴明さん。ゆきちゃんたち無事で――」
銀のロザリオをぎゅ、と握りしめ祈る慈。慈と同じく大人である透子も不安そうにソワソワしている。
そんなふたりを見て、由紀の親友。貴依は声をあげた。
「なんだよ、めぐねえに透子さん。あいつらなら、ゆきたちなら、ぜったい大丈夫だって」
そうしてからから、と笑い声をあげる。しかし、端から見ればそれが空元気であることは誰の目にもあきらかだった。
本当は不安でいっぱいだった。それに、情けなかった。
災い、アウトブレイクが起きた当初。貴依も胡桃たちと同じく実働班としてかれら相手に戦っていた。しかし、いつ頃からかペルソナ使い。ワイルドとして覚醒した由紀や、晴明たちとともに合流した後輩、美紀や圭。彼女らの後塵を拝するようになり、悠里までペルソナ使いとして覚醒。守る側から守られる側となってしまった。
かつて平和だった時。友だちとして、親友として可愛がっていた由紀が遠い場所へ行ったようで寂しく、そして情けなくなった。
なんで私は力がないんだろう。なんで、隣に立てないんだろう。あの娘を守ってきたのは、大切に思ってきたのは私なのに。
それは彼女自身が感じていた無意識の嫉妬だった。
しかし、もしもいまの気持ちを由紀が知ったらきっと誇らしげに胸を張るか、あるいは寂しげに涙をためるだろう。
いまのわたしがあるのはめぐねえと、なによりたかえちゃんがいてくれたからだよ、と。
いままで由紀が精神を病まなかったのは、教師として、そして姉のように接してくれた慈。それに、丈槍だとか関係なく接してくれた貴依がいてくれたからこそ。
それだけじゃない、
きっと、原点のように慈や貴依が死んでいたら、たとえ晴明がいたとしてもあちらの世界と同じように由紀は心を壊し、殻へ引きこもっていただろう。
そうならなかったのは慈の、そして貴依の存在があったからこそ、なのだ。
だからこそ由紀は貴依に感謝し、同時に危ないことをしてほしくなかった。無理に戦ってほしくなかった。
自身がワイルドとして覚醒したからこそ、この地獄が只人にとって抗うことすら難しい世界であると理解して。
無論、これは由紀の気持ちであって貴依の気持ちではない。彼女には彼女の言い分がある。
だが、それを理解してなお、由紀は恩人で無二の親友である貴依に無茶をしてほしくなかった。たとえ、それが貴依の気持ちを踏みにじるものであっても、だ。
だからこそ、由紀は心を鬼にして部長権限で貴依を実働班から外した。公私混同、と言われればそれまでだ。そんなこと、由紀自身、自覚している。でも、それがなんだというんだ。たとえ、そう批判されたとしても大切な人に生き延びてほしい。そう願うことに罪はない筈だ。
だが、そんな由紀の内心。気持ちを知らない貴依は自身の力のなさに憤慨する。もっと力があれば、由紀の力になれるのに、と。
これは悲しいまでのすれ違い。互いが互いを想うからこそすれ違ってしまう。ただ、ただ、より良い未来がほしいという願いのすれ違い。
そんな憤慨している貴依の肩がぽん、と叩かれる。ハッとした様子で叩かれた肩の近くにいた人を見る。
「大丈夫だって。アタシたちが保証してやるよ。あの人が一緒にいるんだ、きっと大丈夫」
にかっ、とおおらかに笑う魔法少女、佐倉杏子。側には一緒に来た美樹さやかの姿もある。
「そうそう、大丈夫だって。奇跡も魔法もあるんだから」
「奇跡も、魔法も……?」
「そっ、だから大丈夫!」
貴依がぽつり、とこぼした言葉を力強く肯定する。かつて、自身たちもまた晴明に――正確に言うなら弟子の朱夏に救われたのだから。
もしも、彼女との出会いがなければ仲間たちの何人かは死んでいただろう、ということを本能的に理解している。
事実、彼女らは過去、キュゥべぇ。インキュベーターという異性生命体に良いように言いくるめられ、操られていた。そのままであれば、きっと魔法少女どうしで殺しあっていた筈だ。
しかし、この世界では暁美ほむらの近くに蘆屋晴明。そしてなにより、鹿目まどか、美樹さやかの側に神持朱夏という特大のイレギュラーがいた。
あのふたりがいたからこそ、見滝ヶ原の魔法少女たちはすれ違いつつも、少しづつ、少しづつ互いを理解し同じ道を歩むことができた。
そして、最後にはキュゥべぇ。インキュベーターも地球から追い出し、彼女たちが最後の魔法少女。魔法少女という犠牲者を増やすこともなくなった。
それにヤタガラスや他のオカルト組織の協力によって彼女たちの宿命。いずれ訪れる死。魔女に変異することもなくなった。もっとも、魔法少女の特異性。魔法少女になってから老化の停止は解除できなかったが……。
だが、それはさやかたちにとって些細な問題。これから多くの人を見送るだろう。でも、仲間たちとなら、きっと乗り越えられる。
だから、彼女たちに絶望はない。そして、それをもたらしてくれたからこそ信用できる、信頼できる。あの人たちならきっと大丈夫、だと。
あのふたりこそ、自分たち魔法少女の希望、奇跡の体現者なのだから。
そんな彼女たちのやり取りを、遠目で見ている者がいた。白い羽をした鳩、由紀にアルノー・鳩錦と名付けられた聖霊。唯一神の側面のひとつ。
彼女たちを慈しむように、そして
――我は……。
かつて聖霊は配下の大天使-ガブリエルへ問うたことがある。なぜ己は自らを模した人を産み出したのか、と。
あの時は手慰みの問いにすぎなかった。だが、いまは違う。
学園生活部と名乗る人の子たち。そして口調こそ荒いが清らかなる心を持つ、魔法少女を名乗る人の子の亜種。
彼女らを見て気付かされた。単純、そう、単純なことだった。
――本当、窮屈そうね。
――この子はきっとかつての私なんだ。寂しい頃の私。
――そうか、我は……。
唯一とは、他に存在しない、という意味。唯一神とは、すなわちただひとつのすべての神。で、あるのならば――。
――我は、寂しかった、のだな。
自身以外に対等な存在がいない。それは、きっと不幸なことなのだろう。だが、いままで唯一神は、そんなこと、考えることもなかった。
しかし、忠実であった筈の臣下。大天使たちの裏切り。由紀たちとの交流。そして、本来許されざる転生者、蘆屋晴明の出現。それらが唯一神へ新たな価値観をもたらした。
蘆屋晴明という男によって、自身が悪魔へ堕ちる可能性を見た。大天使たちの裏切りによって、必ずしも、この世界に絶対、というものがないのを知った。下々の、そして我が子、キリストを産んだマリアの転生体、由紀。彼女らとの交流で仲間、対等という価値観を教えられた。
もし、もしも。遥か昔にそれを知っていれば。あるいは他の神話体系とも協調した歩みを見せたかもしれない。それはあり得たかもしれない未来。しかし、あり得なかった過去。
――あぁ、あぁ、寂しいものだ。もし、我がそんな当たり前のことを理解しておけば。そうすれば我が子と
だが、同時に思う。まだ、遅くない。我が子は
改めて、我は神になろう。人の子を導く――否、人の子とともに歩む神に。
それはかつての自身の否定。そして、新たな自身の産声であった。