DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
ではどうぞ。
部屋から顔を出した生存者たちを見た晴明は彼女たちの顔にどこか見覚えがあると思い、どこで見たのかを思い出そうとする。が、その前に彼女たちもまた晴明に見覚えがあるようで驚きの声を上げる。
「あっ! あの時の」
「圭がぶつかったお兄さん!」
その二人の驚きの言葉に晴明もまた彼女たちのことを思い出す。
彼女たちは晴明が巡ヶ丘に到着した初日、瑠璃を交通事故から守った後にホテルへと向かう道中で晴明とぶつかり倒れそうになった際に彼に抱きかかえられた少女と、その連れの少女だった。
「君たちはあの時の……。なんにせよ無事で良かった」
「晴明さん、お知り合いですか?」
その当時まだ召喚されていなかったジャンヌが晴明に確認をする。それで晴明はジャンヌに経緯を話そうとするがその前に二人に話しかける。
「ああと、それはだなぁ……。と、その前にお二人さん部屋の中に入っても大丈夫かい? 一応ゾンビたちは殲滅したはずだが、もしかしたらやり残しが居るかもしれん」
晴明の言葉を聞いた少女二人はビクリと体を震わせると、コクコクと頷いて晴明たちを部屋に引き入れる。
部屋の中はもともとバックヤードだったのか、簡易ベッドが備え付けられており辺りには物資が入っていると思われるダンボールが積み上げられ、そしてその荷物の影に青色の帽子を被った何かが隠れているようだった。
晴明はその姿を努めて無視し、しかしあまりにもわかり易すぎるために笑いそうになりながら二人の女子学生に話しかける。
「……まずは、自己紹介からかな? 俺の名前は蘆屋晴明、こっちは、えぇと……」
ジャンヌの紹介もしようとする晴明だったが、荷物の影に隠れている存在を見て困った顔をする。
晴明がそんな表情をしたことで残りの三人も晴明の視線の先を見る。
そこには青く先端が二股に別れ、後ろに向けて垂れ下がっているとんがり帽子を被った雪だるまの見た目をした悪魔、【妖精-ジャックフロスト】がいた。
そして女子学生二人のうちハーフアップの少女がジャックフロストのもとへ向かう。
「もう、ヒーホーくん。この人怖い人じゃなかったじゃないの! 隠れてないで、出ておいで」
彼女は隠れているヒーホーくんと呼んだジャックフロストに語りかけながら引っ張り出そうとする。が、肝心の引っ張られているフロストはというと。
「嫌だホッ! どうせ油断させた後にバッサリとやられちゃうんだホ!」
と、言いながら抵抗をしていた。もっとも少女を怪我させないように注意はしているようだが。
それを見て苦笑いを浮かべるもうひとりの少女。彼女は晴明の方を見ると軽く頭を下げ、苦笑しながらフロストの行動について謝罪する。
「すみません、昨日はこんなことはなかったんですけど。今日は何故かこんな調子で……」
「いや、それは別にいいんだが……」
少女の謝罪に気にしていないことを告げる晴明。実際に彼自身仲魔以外の悪魔たちからはあまり好かれておらず、また晴明自身も好戦的な悪魔に関しては、基本的にサーチ・アンド・デストロイの精神で行動しているためにある意味お互い様と言える状態だった。
その時フロストの口から本人にとっては切実な、晴明からしたら初耳の情報が発せられる。
「デビルサマナーの蘆屋晴明といったら、魔界だろうが異界だろうが目につく悪魔を片端から殺し尽くす、悪魔以上に悪魔らしいニンゲンだって評判だホ! こんなことなら大人しく魔界に引きこもってればよかったホ!」
そのフロストの言葉、主に殺人鬼のような言い様に驚愕の表情を浮かべて晴明の方を見る少女二人。しかも近くに座っているショートカットの少女に至っては、心なしか晴明から少しでも距離を取るように動いている。
最もそんなことを言われた晴明自身はたまったものではない。たしかに一部分は事実ではあるが、あくまで
ともかく、流石に救助対象に誤解されたままでは今後の行動に支障が出るので、晴明はフロストに勘違いであることを説明する。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。ジャックフロスト、よぉく考えてみろ。俺がお前さんの言うように殺し尽くしているというのならば、お前さんその情報どこからもらったんだよ?」
「…………ヒホ? どーゆー意味だホ?」
ジャックフロストは晴明が言っている意味がわからなかったようで口に手を当てながら、体ごと頭を傾げている。
そのフロストを見た晴明は苦笑しながらさらに理由を述べていく。
「どういう意味も何もそのままの意味だよ。そもそも全員殺しているならその情報が流れるわけ無いだろうに。誰も情報を持って帰れないんだから」
「………………ヒホッ! それもそうだホ!」
晴明の言葉にようやく納得がいったのかフロストは手をポンと合わせると何度も頷いている。
フロストの仕草に少女二人はどこか毒気を抜かれたように呆れた表情を見せる。
だがフロストはそのことには気にもとめずに隠れていたダンボールの影から出てくると、ハーフアップの少女とともにこちらに近づいてきた。
そしてフロストと少女はもうひとりの少女の側まで行くとそれぞれ座って話をする態勢になる。
彼女たちが話せる状態になったと判断した晴明は、改めて話を始める。
「それじゃ自己紹介の続き、といきたいんだが……。その前にそちらの話をちょっと聞かせてもらっていいか? それを聞かないと話ができない部分がありそうなんだ」
「? なんでしょうか?」
晴明の言葉にショートカットの少女が反応する。
少女の言葉を聞いた晴明はフロストの方に視線を向けながら話す。
「君たちがヒーホーくんと言った彼のことについてどれくらい知っているんだ?」
晴明の言葉を聞いたショートカットの少女がハッとした表情を見せる。そしてもうひとりの少女を見るが彼女もまたふるふると首を横に振る。
それを見たショートカットの少女は晴明にどことなく言いづらそうに告げる。
「えっと、彼のことについてはよくわからない、です。昨日、どこからともなく現れて……」
そしてショートカットの少女は説明を始める。
まず自身の名前が【
その時は美紀たち以外にも十名前後の生存者が居て彼ら、彼女らとともに避難生活をしていたこと。しかし一昨日の夜中に誰かがゾンビ化、彼女が言うには【かれら】化してその際、直前に酒盛りをしていたことも要因の一つなのか火が消されておらず、結果として生活スペースが炎上。その時運良く遠くで寝ていた二人はいち早く異変に気が付き、もしもの場合の避難所に逃げ込むことに成功するものの他の生存者はとある老婆の飼い犬であった太郎丸以外は全滅。
幸いにして避難所スペースに物資を貯蓄していたためにしばらくの合間生活に困窮することはなさそうだが、それでも自分たち以外が全滅してしまったことでこれからどうするべきか、と途方に暮れている時に急に空間に孔が空き、そこからフロストがぽとっ、と落ちてきたらしい。
美紀自身は得体のしれない存在であるフロストを最初警戒していたらしいが、圭はフロストの可愛らしい見た目だったことと、色々ありすぎたせいで彼女自身現実逃避気味なことが重なって全力でフロストをモフりに行ったんだそうな。フロスト自身は最初は抵抗していたそうだが、妖精という中庸の属性故か敵意がない存在に暴力を振るうのは流石にできなかったので最終的にされるがままになったようだ。
尤もその後にもともと社交性が高い性格であった圭と種族的に子供っぽい性格のフロストは意気投合しすぐに仲良くなった。そして美紀自身も圭経由でフロストと多少仲良くなり、さてこれからどうしようか? と、相談している時に太郎丸が居なくなり皆慌てていたが──その中でも特にフロストが慌てふためいたらしい──そんな中で太郎丸が彼らを引き連れてこそいたが無事に帰還。そしてその後に晴明たちが現れて現在に至るらしい。
それでなぜ最初の方にフロストが物陰に隠れたり、晴明に対して錯乱していたかと言うと、彼曰く。
「だって太郎丸が晴明とジャンヌという名前のすごく強い人間が来たって言ったんだホ。しかも、男の方は銃と剣を、女の方は旗を持ってたなんてことまでだホ。そこまで来ると、もうあの悪名高いデビルサマナー【蘆屋晴明】と、その仲魔であるジャンヌ・ダルク以外ありえないホ」
と、何故か自信満々に胸を張りながら得意げに話していた。
しかし今度はフロストの口から出た歴史上の偉人、百年戦争の英雄であるジャンヌ・ダルクの名が出たことで驚く二人だが、流石に同姓同名の別人だろうと思い晴明たちに確認を取るものの……。
「えっと、ジャンヌさんってお住いはどちらで……?」
「? 昔は
「…………ドンレミ村、ですか」
そう言いながら錆びついた機械のようにギギギ、と晴明の方に体ごと視線を向ける美紀。
彼女が言わんとしていることがわかっている晴明はなんとも言えない表情を浮かべながら。
「あぁ、うん。君が想像していることで大筋は間違っていないと思う、ぞ?」
その言葉を聞いた二人、特に美紀の驚きは凄まじく、口をあんぐりと開け目を大きく見開き年頃の女性にあるまじき表情をするほどで、圭の驚きはジャンヌ自身よりもむしろ美紀の醜態によるところが大きそうだった。
「ちょっと美紀、美紀ってば」
美紀に声掛けしながら彼女の頬をペチペチと叩く圭。圭に叩かれたことで正気に戻ったのか美紀は。
「──はぅぁっ!」
素っ頓狂な声を上げるとジャンヌの方をガン見する。一方見られた方のジャンヌは居心地が悪そうに身じろぎをしていた。
しかし美紀としてはそんなことは関係ない、と言うよりも彼女自身余裕がないようで晴明に詰め寄っていく。
「あ、あの! 一体どういうことなんですか! あの人が本当にあのジャンヌ・ダルクなら、なんで貴方と一緒に、と言うよりもそれ以前になんで生きてるんですか!?」
美紀の押しにタジタジになる晴明だったが、なんとか彼女を落ち着かせるようになだめようとする。
「えぇとだな、まずは落ち着いてくれ」
「私は落ち着いています!」
「いや、とてもそうは見えないんだが……」
美紀の剣幕に苦笑いを浮かべながら声を出す晴明。そこに美紀の背後から圭がにじり寄って彼女を背後から抱きしめる。すると流石の美紀もびっくりしたのか。
「きゃっ! ちょっと圭っ!」
美紀は圭に対して文句を言おうとするがその前に美紀の頬を人差し指でプニプニと突きながら。
「ほぉら美紀、リラックス、リラ~ックス。そんなにカリカリしてたら美容に悪いよっ」
「もう、圭っ! ……ありがとう」
圭の態度に毒気を抜かれたのか、落ち着いた美紀は心配をかけた彼女に対して謝罪する。そして晴明の方を向くと深々と頭を下げて。
「その、蘆屋さん。すみませんでした。ジャンヌさんもごめんなさい」
美紀は、晴明とそしてジャンヌにも謝罪する。
しかし彼女に謝罪された当の本人であるジャンヌはどこか申し訳無さそうにしながら。
「ああ、いえ、別に貴女が悪いわけでは……」
と、言いながらジャンヌは困った顔をして晴明に視線を向ける。晴明もまた困り顔だったが、それでも美紀に優しく語りかけるように告げる。
「こちらこそ困惑させるようなことになって済まないね、直樹さん。祠堂さんも申し訳ない」
そう言いながら頭を下げる晴明。そしてそのままさらに言葉を告げていく。
「こちらとしても説明をしたいのはやまやまなんだが、まずはそこのジャックフロストに話を聞かなければいけないのと、俺たちの方でも君たち以外に保護している人が居てね。できれば彼女も交えて説明をしたい。だから、そこに移動するまで説明は待ってもらってもいいかい?」
晴明の問いかけに二人のうち圭が美紀から離れつつ首肯して答える。
「はい、大丈夫ですよ。ね、美紀もいいよね?」
圭の言葉に美紀もまた首肯して晴明に対し自身の考えを告げる。
「はい、ちゃんと教えてもらえるのなら」
「ああ、もちろんだ。それは約束しよう。しかし……」
そう言って一瞬口籠る晴明だったが、意を決したように真剣な表情を浮かべながら彼女たち二人に一つの問いかけ、ある意味においては覚悟を問う。
「正直聞かなければよかった、なんて厄ネタの類だがそれを聞くだけの覚悟はあるかい? 一応聞かない、聞いても記憶を封印する、という選択肢もあることはあるが」
ある意味において晴明の脅しに顔を青褪めさせる美紀だったが、それ以上に先ほどの晴明が発した『記憶を封印する』という言葉が気になったのか彼に問いかける。
「記憶を封印、ですか……? そんなオカルトのようなことが出来るんですか?」
「ああ、出来るとも。それにオカルトと言うが」
美紀の疑問に肯定しつつも、彼女が言ったオカルトという言葉を聞いて晴明はジャンヌを見る。
「ここに、こうやって本来死んでいるはずの存在が居るんだ。それに比べたらそこまでおかしくもないだろう?」
晴明の言葉に苦笑を浮かべるジャンヌ。彼女もまたそれに続けて美紀に語りかける。
「厳密に言えば黄泉帰ったとは少し違うんですが、まぁ端から見ればほぼ同じようなものですしね……」
元の肉体は灰になってセーヌ川に流されたらしいですし、と冗談にも自虐にも取れそうな発言をするジャンヌ。
尤もそんなことを言われた他の面々、特に美紀と圭は反応に困っていたが。
ジャンヌの発言の結果、微妙な空気が漂うことになったが晴明はその空気を払拭するためにも先ほどの話題に戻そうとする。
「そ、それはともかくとしてだ。記憶に関しては心配しなくていい。とは言ってもここは設備がないからすぐに処置はできないけどな。いつその場所に行けるかも現在は不明だから、まぁ仮に聞いたとしても判断するための猶予期間があると思ってくれ」
もちろん聞かないという選択肢もあるが、と続ける晴明。
その言葉を聞いた二人はまたもや微妙そうな表情を浮かべるが。
「そういえばオイラはどうなるんだホ?」
というフロストの言葉を聞いてそう言えば、と思案顔になり美紀と圭は晴明を見る。視線を向けられた晴明はと言うと……。
「それが一番の問題なんだが、まぁその前に、だ」
晴明はそう言うとフロストの方を向き彼に対して深々と頭を下げ感謝の言葉を告げる。
「まずは結果的にとは言え二人を守ってくれていたようで感謝する。礼というわけではないが、貴殿が望むことを可能な限り叶えるとともに、身の危険が及ばないように最大限配慮するように我が名において誓おう。なにか望みはお有りか?」
晴明の畏まった態度に驚きを隠せないフロスト。
「……ヒホッ?! いきなりそんなことを言われてもホ~」
どことなく困った顔を浮かべながらあたりを見渡すフロスト。そして圭と目が合うとなにか思いついたように声を出す。
「それじゃ圭と一緒に暮らしたいホ! ……やっぱりだめ、ホ?」
フロストの望みを聞いた晴明はやっぱりか、と非常に困ったと言いたげな表情を浮かべて蟀谷を押さえながらフロストに確認を取る。
「それがどのような意味を持つか理解した上での望みだと受け取ってもよろしいか?」
「わかってるつもりだホ!」
フロストの元気の良い返事に晴明は溜息を吐きながら。
「彼女が了承するのなら、だ。そうでないのなら認められないが宜しいか?」
「ヒーホー! それで大丈夫だホー!」
確認の言葉を告げる晴明と、それに嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながら了承するフロスト。いつの間にか景品のような扱いになった圭だったが彼女は。
「あの、私ならヒーホーくんと一緒に暮らしても……」
と、控えめに了承の意を告げようとするがその前に晴明から待ったがかかる。
「その返事に関しては先ほど言った説明が終わるまで待ってくれ。君の人生そのものがかかっていると言っても過言ではないからな」
かつての自分自身のことを思い出すように、そしてそれを彼女に重ね合わせた結果、圭に憐れみの視線を向けながらそう告げる晴明。
そこまでのことと思っていなかった圭自身は晴明の態度と言葉に引き攣った表情を浮かべながら、はい、と返事をするのが精一杯のようだった。
そんな彼女を見ながら晴明は小声で愚痴るように言葉を零す。
「……しかし、そうなると君たち二人の記憶を封印する、というのは現実的ではなくなってきたかもしれないなぁ」
だがそんな晴明の言葉が圭には聞こえたようで。
「なにか、問題でもあるんですか?」
「問題と言うよりもちょっとした面倒くさいこと、と言ったところかな? こちらも後で説明させてもらうよ」
「はぁ……」
圭は晴明に質問を投げかけるがその要領を得ない答えに生返事を返す。
彼女の様子に晴明は苦笑しながら彼女たちに話しかける。
「まぁとにかくまずは安全な場所に避難しよう。それとここにある物資も一緒に回収させてもらうよ」
「回収、ですか? でもいっぱいありますよ?」
「ああ、それは大丈夫」
晴明はそう言いながら手にとった荷物を左手に装着しているガントレットに近付ける。するとその荷物はガントレットに吸い込まれるように消えていく。
美紀はそれを、まるでありえないものを見たかのように驚愕する。
それも当然だろう、端から見れば晴明が持っているものが次々と虚空に消えていっているのだから。
「えぇ?! どうなってるんですか、それ!」
驚愕の声をあげる美紀に晴明は何事かと思うが、そういえばガントレットの説明をしていなかったことに気付いた彼はその説明とついでにバロウズの紹介もすることにした。
「これはこのガントレットの機能の一つで、ゲームにもあるだろう? アイテムボックスとか、ふくろとか。そういったものと同じようなもんだよ。……それと、どうせならついでに紹介しておくか、バロウズ」
晴明に呼ばれたバロウズはガントレットからホログラムを投影しつつ、自身をついで扱いした晴明に悪態をつきつつ二人に挨拶をする。
《マスター? ついで扱いは流石にあんまりじゃないかしら? ……それで、二人ともはじめまして。このガントレット搭載の管理AIバロウズよ、よろしく》
バロウズの挨拶を受けた二人はもう何も言えないと言いそうなほどに驚いていた。
それも当然だろう。AIが人の言葉を聞いて応答する、これはまだわかる。しかしそれが搭載されているのが人の片腕程度の大きさしか無い機械、しかも身につけるタイプであるのだから実際の面積はさらに減るし、何よりも先ほどバロウズは晴明に対して悪態をつく、つまり感情、言い換えれば心が存在するのだ。
昨今、筐体に搭載されているAIが人間相手に応対する、ということで世間が騒いでいたことに対して、こちらはさらに小さい機械に搭載可能な高性能なAIが開発され存在している、なんてことは彼女たちはついぞ聞いたことがないのだから、ある意味においては自身の目の前にSF小説の物が現れたと言って過言ではない。
だがこの世界はSF世界ではなく(彼女たちが未だ知らないだけでオカルト方面は普通にある)現実世界であり、そして美紀は自身は実は寝ていて夢の世界に居るのでは? と、疑い自身の頬を抓るがその場所から痛みが走ったことにより、自分が寝ぼけているわけでもないことを理解して思わず乾いた笑みを浮かべる。
正直美紀にとっては昨日から、と言うよりもアウトブレイク後からの非日常の連続で色々と精神的に参ってきていた。
とは言っても、生者に襲いくる「かれら」と生存者の全滅についてはなんとか折り合いをつけた、正確に言うならば自身よりも精神的に追い詰められ笑顔を浮かべることすらなくなった圭がいたことにより、彼女の助けになろうと奮起していたと言うべきだが、それも昨日現れたわけのわからない存在である、自称ヒーホーくんにはじまり(だが、彼のおかげで圭に笑顔が戻ったことだけは感謝しているし、だからこそ一定の信頼をおいている)今日再び出会うことになった圭とぶつかった青年、蘆屋晴明に彼らが言うことが本当なら過去の英雄であるジャンヌ・ダルク、さらには今しがた挨拶されたバロウズと言う非常識な存在たちに自身の常識を粉微塵に粉砕されたのだから、さもありなんと言ったところだろう。
なお圭も最初は驚いていたがヒーホーくんなんて存在が居るんだし、そんなこともあるんだろうなぁ、と思い直したようだった。これが彼女自身の順応性が高いと取るべきか、もしくは現実逃避という名の一種の処世術と取るべきかは若干悩むところではあるが……。
とにもかくにも美紀が放心している合間に圭とフロストと協力して物資を収容した晴明はいつの間にか口から魂を出している美紀に話しかける。
「直樹さん、そろそろ出発するよ?」
「…………ふへ? はっ!!」
晴明の声かけでようやく現世へと戻ってこれたようで彼女は今まで呆けていた顔を見られていたことに気付きワタワタとしている。
それを見て優しげな、生暖かい目を向けていた彼女以外の面々だったが。
「ともかく出発しよう。キャンピングカーまで戻れば安全地帯まで行けるからな」
晴明の号令に改めて自分たちが助かると認識した美紀と圭は喜びながらも顔を引き締める。彼女たちにとっては助かるためとは言え今から死地へと赴くのだから警戒は怠るわけにはいかないといった心境なのだろう。
晴明にとっても護衛対象が浮ついて勝手な行動を取るよりも、彼女たちのように緊張を持って行動をしてくれたほうが動きやすいので、彼女たちの心構えはありがたいと思っている。
「それじゃ、行くぞ」
晴明はそう言うとドアノブをギィ、と回してジャンヌとともに部屋の外に出る。そして外の安全を確認すると他の面々にも出てくるように伝えるのだった。
その後は太郎丸を追うことを優先していたとはいえ、その行程で目につくゾンビたちは撫で斬りにしていたこともあり、死体が散らばっていた光景を見た美紀と圭の顔色は悪かったがそれ以外での危険は特に起きることもなく、そして晴明は最低限登るときにはできなかった物資の物色をしつつ1Fエントランスへと行くための階段付近に差し掛かっていた。
その中で未だに少しばかり顔色は悪いが、幾分か調子が戻ってきたのか圭は美紀に話しかける。
「もう少しで私たち助かるんだね、美紀っ」
彼女の言葉に美紀もまだ気分が優れないのか、影のある笑顔を浮かべながらも同意する。
「……そう、だね。圭、私たち助かるんだね」
そう発した彼女の声は少しばかり震えている。
それが本当に助かるんだという嬉しさからか、もしくは何かの危機を感じ取ってしまったが故の虫の知らせかは本人にもわからなかった。
その時、ふと美紀はなにか違和感を感じて遠くを見るように目を細める。すると彼女の視線の先には──。
「あれは……、ヒーホーくんが出てきた時の孔?」
彼女の視線の先、ちょうどエントランスロビーの吹き抜けになっているところにポッカリと空く何もかもを飲み込んでしまいそうな、そんな仄暗い闇がにじみ出てきそうな空間の孔が広がり始めていた。
美紀の異変に気付いた晴明もまた彼女の視線の先に目を向ける。
「あれは、何かの異界の入り口か? バロウズ」
《はいはい、ちょっと待っててマスター。…………これは、どうやらそんな生易しいものではないみたいよ》
「なに?」
バロウズに解析を依頼した晴明であったが、彼女自身最初は軽い調子だったものの次第に真剣味を帯びる声色になってきたことにより警戒を強める。
《この反応からすると……、何某かが魔界の入口を開く? いえ、違う。ここら一体が異界と現実世界の境界が曖昧に…………! なにか来るわ、マスター!》
バロウズの警告と同時に孔が完全に空いてそこからなにかの影が飛び出してくる。
「ギャハハ、ついに人間界に出てこれたぞ! ……うん? しかし、これはこれは、ヒト猿どもまで居るとはツイてるなぁ?」
そう言いながら美紀たちを見て舌舐めずりをする異形の存在。その姿は王冠を被った人とエイが融合をしたような姿であった。
その姿を確認した晴明は嘆息すると心底面倒くさそうに吐き捨てる。
「やれやれ、順調に進んでいたと思ったら最後の最後にこれかよ。悪いが貴様に彼女たちを喰わせるつもりはない。魔界に帰ってもらおうか」
晴明の言葉に異形の存在を気分を害されたと憤慨するが、すぐに調子を取り戻して晴明を挑発する。
「あぁん? なんだ、男か。男の肉は筋張ってて美味くはないんだが、俺様は好き嫌いはしない主義でなぁ、女ともども仲良く喰らってやるから安心して、この【堕天使-フォルネウス】様の血肉になる栄誉を賜ることを喜ぶんだなァ!」
────堕天使-フォルネウスが一体出た!
と、言うわけで次回は今作初めてのボス、フォルネウスとの戦闘回。
上手く書けるか自信はないけど、なるべく早くに書けるように頑張ります。
なぜ悪魔が出てきたか、などのことは次回か次々回に書けるといいなぁ。