DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
最初はどうするかな? とも思いましたが、こういったキャラが勝手に動く時はそのまま身を任せると面白いことになりそうだと思いそのまま放置に。
それではそんな事が起きた幕間2をどうぞ。
……ちなみに今話はもともと前後編に分ける予定でしたがそこまで文字数が目標までいかなかったので一つの話に纏めた結果、通常よりも文字数が多めとなっております、ご了承の程をお願いします。
巡ヶ丘全域が地獄の様相を呈したX-dayの翌日、アレックスは自己紹介を終えた後のことを思い返していた。
(あの後、結局状況確認も出来ずに皆寝てしまったんだっけ……)
アレックスが思っているように全員があの異常事態に強いストレスを感じていたことで、肉体的、精神的に消耗していたことから、まともに食事もせずに──食事ができたとしても食料は園芸部の菜園に栽培されている野菜と、丈槍由紀が所持していた飴菓子くらいしか存在しなかったが──就寝することとなった。
そのようなことをつらつらと考えているアレックスだったが、彼女の腹部から可愛らしい音が鳴る。どうやらいくら異常事態に陥っているとはいえ、彼女の体はいつもどおりに栄養を欲しているようだった。
お腹が鳴ったアレックス自身は顔を赤らめながら、辺りを見渡すが他の面々は全員がすやすやと未だに夢の世界へと旅立っていたままだった。
それもそのはず、辺りはまだ暗闇に、否、地平線の先から僅かに日の出が見える時刻であり、彼女が自身のスマートフォンを取り出して時刻を確認すると、時計の針は午前五時十分を指していた。
それを確認した彼女はおもむろにバリケードを築いた屋上の出入り口に近づくと、扉に耳を当てて校舎内の気配を探ろうとするが、扉の向こう側からは一切音が聞こえてこない。少なくとも今の階段付近にはかれらはいないだろう、ということは理解できた。
次に彼女は屋上フェンスに近づいて胡桃が連れてきた男性の遺体を処理しつつも校庭を確認するが、そこにもかれらの姿はまばらにしか確認できず、現在巡ヶ丘高校にかれらはごく少数しかいないのではないか? と、結論付ける。
そのことを確認したアレックスは他の面々が寝ている場所に戻るが、その時に由紀がもぞもぞと動いてこちらを見たことに気付く。そしてアレックスを見た由紀は、にへらと笑いながら彼女に話かける。
「……おはよう、あーちゃん。起きるの早いんだね」
「おはようございます、ゆき先輩。…………あーちゃん?」
由紀から挨拶をされたアレックスは反射的に返すが、その後聞き慣れない言葉を聞いたことに気付き、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしてオウム返しをする。
そのアレックスの姿を見た由紀はおかしそうに笑いながらさらに告げる。
「アレックスだとかわいいよりもかっこいいから。せっかくあーちゃんはかわいいんだからかわいい愛称で呼びたいからあーちゃん!」
その言葉を聞いたアレックスは驚いた表情になると同時に、半ば無意識に疑問を口にする。
「……かわいい、ですか?」
「うん!!」
口から溢れた疑問を由紀に肯定されたことで困惑するアレックス。
彼女はその見た目と言動からむしろ同年代からはかっこいいと言われてどちらかというと、異性よりも同性からの人気が高かった。
また彼女の母親もかわいいというよりも、かっこいいやキレイという言葉が似合う女性であり、そのことからかわいいと褒められることに関しては無縁の人生を送っていた。
そんななかでの由紀のかわいい発言は彼女にとっては新鮮であり、同時に困惑しながらも嬉しくも思うのだが──。
(でもアレックス以外の愛称で呼ばれるのは嫌だと感じる私もいる……)
事実昔のアレックスはロシアぐらしの時にサーシャなどの別の愛称で呼ばれることもあったが、友人たちには自身のことをアレックスと呼んでほしいと願い出ることが多かった。
友人たちは不思議そうな顔をしていたが彼女の頼みなら、と快く受け入れアレックスという愛称が定着した過去がある。
あの時は何故あそこまで頑なだったのだろう? と、疑問に思うアレックスだったがふと彼女の頭に鋭い、針を刺すような痛みが奔り、そして──。
──アレックス、君の次の旅には、幸いを。
聞き覚えのない、だがどこかで聞いた気がする男性の幻聴が聞こえる。
「あーちゃん、どうしたの……?」
「……え?」
「だって、泣いてる」
由紀に言われて彼女は自身の指を目元に持っていくが、そこには確かに由紀が言うように涙で濡れている。
何故かはわからない。哀しいわけでも苦しいわけでもないはずだ。しかし涙は後から後から湧いて出てくる。まるで自身の半身を失ったかのような喪失感に苛まれている。
「よしよし、大丈夫だからね」
いつの間にか起き上がっていた由紀に抱きしめられるアレックス。
アレックスはしばらくの合間、由紀に抱きしめられたまま静かに涙を流し続けていた。
その後しばらく泣き続けていたアレックスだったが、ようやく落ち着いてきたのか由紀から離れると彼女に礼を言う。
「…………ありがとうございます、先輩」
その言葉を聞いた由紀は満面の笑みを浮かべながら。
「いいんだよ。それで落ち着いた?」
瞳の奥に優しい光を湛えながらアレックスを心配する由紀。それと同時に何故泣いていたのかを問いかけない優しさがアレックスには嬉しかった。
何故ならアレックス自身が、何故涙を流していたのかを理解できなかったのだから……。
だからアレックスは──。
「ええ、もう大丈夫だと思います」
ふわりと優しく笑いながら由紀にその旨を告げる。
それを聞いた由紀も安心した、と言いたそうな表情を浮かべて。
「そうなんだ、よかったね。あーちゃん」
心底安心したように花開いた笑顔を浮かべ彼女に告げる由紀。そのことがアレックスには擽ったかったのか、少し顔を赤くして誤魔化すかのように周りを見渡すが、まだ由紀以外は眠っているようだった。
自身の先ほどの醜態と今現在火照って赤くなっている顔を由紀以外に見られていないことに安堵したアレックスだったが。
「…………ううん、どうしたの。ゆきさん、唯野さん?」
二人の声に起こされたのか、佐倉慈は眠たそうな声を上げながら二人に問いかける。
その声にアレックスはビクリと肩を震わせて慌てて慈の方を見るが、由紀は。
「あっ、めぐねえ。ごみん、起こしちゃった?」
後頭部に手をやって舌をペロッと出しながら少し済まなそうに笑いながら謝罪する。
それを見た慈は目を擦りながらも特に問題はなさそうだ、と思い次にアレックスの方を見る。
慈に見つめられたアレックスは、一瞬挙動不審になるが慌てて取り繕うと。
「どうかしましたか、佐倉先生?」
と、何も問題がなかったかのように告げる。
一瞬動揺したアレックスにどうしたのだろうか、と不思議そうに見つめる慈だったがその後すぐに普段の顔に代わったので問題はないと判断したようだ。
そして慈が起きたのを皮切りに他の面々の次々に起き出してくる。
それを見てアレックスと由紀は互いを見て少し笑うのだった。
全員が起きた後、それぞれが昨夜何も食べていないことで空腹感が無視できるものではなかったようで菜園に栽培されていたトマトやじゃがいもを使い簡単な朝食を作り食べていた。
その中でアレックスは全て食べ終わると、全員を見渡して話し始める。
「あの、皆さん。ちょっと良いですか?」
「むぐっ?」
アレックスの声に最後の一つとなった蒸したじゃがいもを口に含みながら彼女の方を見る恵飛須沢胡桃。
それを見たアレックスは、ああ、食べながらでいいですから。と苦笑して告げる。
それを聞いた胡桃は今頬張っている分を急いで噛み砕いて飲み込むと、アレックスの方を不思議そうに見つめて。
「それで? どうしたんだ急に」
アレックスに言葉を投げかける。それを聞いた彼女は気を取り直すと先ほど自身が確認したことを告げる。
「……そう、なのね。なら今は比較的安全、ということなのかしら?」
彼女の報告を聞いた若狭悠里はアレックスが言いたかったことを端的に告げる。
「その可能性はあると思います」
その悠里の言葉を肯定するようにアレックス自身も首肯しながら同意する。そして──。
「──だからこそ今はチャンスだと思います。もしいま校舎内にかれらが少ないのならここで一気に三階を奪還、制圧して生活スペースを確保するべきです」
彼女の、アレックスの提案に全員が息を呑む。そしてX-dayで彼女と行動をともにしていた柚村貴依は手を上げて恐る恐るといった様子で声を出す。
「でもよアレックス? 今すぐに行動するのは流石に危ないんじゃないか?」
その言葉に悠里と胡桃はうんうん、と頷きながら同意するが……。
「いいえ、今回に関しては早く行動したほうがいいかもしれないわね」
この中で唯一の大人である慈がアレックスの提案に賛同の意を示す。それに驚いた三人は思わず。
「「「めぐねえっ!?」」」
「佐倉先生ですっ!」
彼女のことをめぐねえと呼び、慈自身は訂正の言葉を出す。そして慈はこほん、と咳払いをすると彼女がなぜアレックスの意見に賛同したか、その理由を告げる。
「先生も皆と同じように危険だとは思いますけど、その前に三人とも周りを見渡してみて?」
彼女の言葉を聞いた否定派三人は不思議そうに周りを見渡すが、彼女がその行動をしろといた意味が理解できなかったようで……。
「なんだよねぐねえ。なにもないじゃないか」
三人を代表して胡桃がそう告げる。その言葉に慈は満足そうに頷くとその通りだと告げる。
「そうよ。恵飛須沢さんの言う通りここにはなにもないわ」
「ならなんで言ったんだよ……?」
胡桃は呆れたような顔をするが、慈の言葉で悠里は何か気付いたようでハッとした顔をして声を出す。
「……あっ! そうだ、天井がないから雨が降ったら」
彼女の呟きに慈は再び満足そうな笑みを浮かべ首肯する。
「そうね、若狭さん。昨日はたまたま雨が降らなかった、今日も今のところはまだ降ってはいない。でもこれからは? 明日降るかもしれない。もしかしたら今すぐに天気雨だなんて可能性もあるでしょう。でも先生たちは傘を持っていないのだから、そのまま雨に打たれるしか無い」
そこまで言われて最悪の自体が頭を過ぎったのか、胡桃は顔を青くしながら独りごちる。
「もしも雨に濡れて風邪を引いた場合、病院どころか薬もまともにない状態じゃ最悪そのまま死ぬ可能性だって……」
「その通りよ、恵飛須沢さん。それにここには今食料はこの菜園の分しかないわ。若狭さん、仮にこのままここに居座るとして食料はどれくらい持つかわかる?」
慈に問われた悠里は慌てたように菜園にある野菜の確認をするが……。確認を終わらせた悠里も胡桃同様に顔を青褪めながら報告する。
「……恐らく、私たち六人が食べられる量としては切り詰めても一週間。それ以前に食事量の低下からまともに動けなくなる可能性もあるかもしれません」
悠里の報告を聞いた慈とアレックス以外の面々は程度の差はあれども、改めて自分たちが危機的状況に置かれていることに気付いたようで一様に顔を引き攣らせている。
そして報告を受けた慈自身は──。
「……まぁ、そうでしょうね」
と、冷静そうな顔で頷いているが、その額には一筋の汗が流れていた。
そして慌てふためいた貴依が不安を口にすると同時に慈に問いかける。
「そんな……。そんなのどうすりゃいいんだよ! ねぇ、めぐねえ!」
そんな錯乱している貴依を安心させるように慈は柔らかい笑みを浮かべると彼女に話かける。
「もう、柚村さん。佐倉先生だって言ってるでしょう? それに、安心して。どうするべきかをさっき唯野さんが言ったでしょ?」
「……え? でも、それは」
先ほども言ったように危険ではないかと思う貴依は尻込みするが。
「大丈夫! さっき唯野さんも、今かれらは少ないって言ってたでしょう? 何故少なくなってるのかはわからないけど、唯野さんが言っているように今がチャンスなの。 それになにも彼女一人で行かせるわけでもないわ」
そして慈は一息つくと自身に活を入れるように言葉を紡ぐ。
「──先生も一緒に行きます」
その慈の決意を聞いた三年生組は一様に──。
『めぐねえは行かないほうが……』
と、消極的反対をする。それを聞いた慈は。
「なんでですかっ!」
三年生組に止められたことに対して憤慨するが。
「いや、だって、めぐねえ。前になにもないところで思いっきり転んでたじゃんか」
と、胡桃に言われ。
「園芸部の方でも以前菜園の段差に足を引っ掛けて土に頭からダイブしたことが……」
と、悠里から追撃を受け。
「ほら、めぐねえって意気込んだ時に限って失敗するから」
教材を運んでた時とかさ、と貴依に具体例を出され。
「……めぐねえ? 運動神経無いんだから、おとなしくしていようよ?」
由紀の悪意のない暴言でとどめを刺された慈は体育座りをして真っ白に燃え尽きている。
三年生組の容赦ない口撃と、燃え尽きた慈の姿を見たアレックスは乾いた笑みを浮かべる。が、いつまでもそのままというわけにもいかず、アレックスはコホンと咳払いをすると制圧を反対していた三人に話かける。
「……佐倉先生が付いてくるかどうかは別としても、三階を奪回したしたほうがいいということは理解していただけたとは思いますが」
アレックスの言葉に神妙に頷く三人。そして胡桃が口を開く。
「そうだな。で、誰が行くかだが……」
その言葉にアレックスが口を開く。
「もちろん私が提案したのだから私が行きます」
彼女の言葉を聞いた胡桃はやっぱりか、と少し呆れたような表情を見せながら。
「お前ならそう言うだろうな、とは思ってたが。まさか後輩に全部任せるだなんて先輩として立つ瀬がないからな。あたしも一緒に行くよ」
「ですが、くるみ先輩は……」
アレックスは胡桃に対して遠慮がちに話しかけるが。
「良いんだ。何もしてないと先輩のことを考えちまいそうだし」
胡桃は力なく笑いながらそんな事を言う。
「……先輩」
彼女の姿を見たアレックスたちもまた沈痛そうな表情を浮かべるがそれを見た胡桃は。
「おいおいなんだよ皆して暗い顔になって。今はそれよりもやることがあるだろ?」
不敵な笑みを浮かべて皆に発破をかけようとする。
だがその顔は、端から見ればまだまだ痛々しい様子であったが彼女にこれ以上無茶をさせるべきではないと思った悠里が声を上げる。
「くるみの言う通りね。まずは出来ることをしましょう」
アレックスも悠里の発言に乗っかる形で言葉を紡ぐ。
「ええ、そうですね。では突入は私とくるみ先輩で。他の人はある程度安全を確保できたらバリケードの構築をお願いする形で」
そこまで言ったところで貴依が意を決したように声を上げる。
「なぁ、突入のグループに私も入れてくれないか?」
「貴依先輩?」
貴依がそんなことを言うと思っていなかったのかアレックスは少し驚きながらも彼女に問いかける。
「大丈夫なんですか? 無理しなくても……」
アレックスがそこまで言ったところで貴依が割り込むように口を出す。
「私も! 私も情けないままではいたくないんだ!」
そう言いながら由紀を見る貴依。そんな貴依を不思議そうに見る由紀だったが、貴依はかまわずに話を続けていく。
「アレックスのおかげで私は死なずに由紀と再会できたんだ。なら今度は私がアレックスの手伝いをしたいんだよ」
恐らく私だけじゃ屋上に行くことも出来ずに死んでたと思うし……。と、告げる貴依。アレックスも貴依を救助したときのことを思い出し、事実そうなっていたであろうと思う。
「ですが貴依先輩。今度は死ぬかもしれないんですよ? それでもいいんですか」
アレックスの言葉に一瞬言葉をつまらせる貴依だったが、覚悟を決めた表情をして。
「それでも、だ。私だって守りたいやつがいるんだ」
「……たかえちゃん?」
由紀は覚悟を決めたと言うよりも思いつめたようにも見える貴依を心配そうに見つめる。
貴依はそんな由紀を見ると、安心させるように笑いかけながら由紀を引き寄せて抱きしめて、頬をぷにぷにと指で突き始める。
「ほらほら、どうしたんだ由紀ぃ」
「わぷぷっ、たかえちゃんっ」
一頻り堪能したのか貴依は由紀の頬を突くのをやめた後に、今度は軽く彼女の頭を撫でると、先ほどよりは余裕のある表情でアレックスを見る。
彼女の表情を見たアレックスは、彼女を説得するのは無理だと思ったのか小さく嘆息する。そして頭を振って気を落ち着かせると貴依に話かける。
「貴依先輩本当に良いんですね?」
「ああ」
「……わかりました。では改めて突入は私とくるみ先輩、貴依先輩の三人で。そして安全を確認出来次第バリケードの構築をする、というところでしょうか」
アレックスの言葉に頷く三年生組。頷く彼女たちを見たアレックスはもう一つ懸念を口にする。
「それで問題は校舎内に突入するにしても何らかの武器が欲しい、と言ったところですが……」
その言葉に悠里が反応する。
「シャベルはくるみが持っている一丁しか無いけど、プール掃除用にデッキブラシが何本かあるからそれで代用できないかしら?」
「ゆうり先輩、材質はわかりますか?」
「材質? スチール製だったと思うけど」
「なら当座の武器としては大丈夫そうですね」
悠里の言葉に安堵したアレックスは、彼女にデッキブラシの保管場所を聞くと取りに向かう。そしてそう時間がかからぬうちに戻ってくる。その彼女の手には複数のデッキブラシが握られていた。
そのうちの一本を貴依に渡すとアレックスは自身も持ってきたデッキブラシのうち一つを無造作に掴むと、握り込んだ後に全員から少し離れて軽く振って感触を確かめる。確かめた結果問題はなかったようで軽く頷くと皆のもとへ戻るアレックス。
アレックスが突入しよう、と号令を過けるその前に先程まで燃え尽きていた慈が彼女に声をかける。
「唯野さん、やっぱり私も……」
おずおずとアレックスに話かける慈だったが、彼女はふるふると首を横に振ると。
「すみませんが佐倉先生はここで待機していてください」
彼女の言葉にショックを受ける慈だが、すかさずアレックスはフォローを入れる。
「ああ、いえ、佐倉先生にはもしもの時のために屋上で待機していてほしいんです」
「でも、私は先生で。貴女たち生徒に危険なことをさせるわけにはいかないわ」
悲壮な表情でそう言う慈に近づくと彼女の両手を取るアレックス。そして──。
「先生、ちゃんと危険だと思ったらすぐに引き上げてきますので、今は私たちを信用してはくれませんか?」
真剣な表情で慈を見つめるアレックス。しばし二人は見つめ合うが先に根負けしたのは慈の方だった。彼女は深くため息をつくと。
「……ふぅ、わかりました」
と、告げる。そのことに湧く生徒たちだったが。
「──ただし、条件があります!」
急にそんな事を言い出した慈に吃驚したのか三年生組が彼女を見つめる。
「皆無茶をしないこと、そして全員無事に戻ってくること。良いですねっ!」
力強い語気で言うと彼女は笑顔を見せる。
その笑顔を見た生徒たちは、はいっ! と、返事をする。
その返事に慈は満足そうに頷くと。
「よろしい。それじゃ皆さん無理はしないように。いってらっしゃい」
そして慈たちに見送られる形でアレックスたち突入チームは屋上の扉を開けると校舎内に侵入した。
屋上の扉を開け放ち校舎内に侵入するアレックスたち三人。彼女たちの目にまず飛び込んできたのはあちこちに飛び散った赤黒く変色した流血の後であった。
「うぷっ……」
その光景を見た貴依は気持ち悪そうに口を押さえる。もしもアレックスたちがいなかったらそのまま蹲って吐いていたかもしれない。
彼女の姿を見た胡桃は貴依のもとへ寄ると背中を撫でつつ声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「……あ、あぁ。大丈夫だ。それよりも恵飛須沢、アンタも顔色が悪いぞ」
胡桃の言葉に大丈夫と答えつつも、貴依もまた彼女の顔色が悪いことを指摘する。貴依が言うように胡桃もまた顔を少し青褪めさせていた。
「何言ってんだ、あたしも大丈夫に決まってんだろ? そんなことよりも……」
顔色は変わっていないが精一杯の強がりなのか、ニカッと勝ち気な笑みを浮かべる胡桃。
そんな二人とは対象的にアレックスは淡々とした表情で、気負った様子もなく階段を降りていく。
「お、おい。アレックス一人で行くと危ないぞ」
貴依がそうアレックスに語りかけるが。
「なら先輩も早く。今は安全かもしれませんが今後も安全という保証はないんですから。先輩もこっちに来ると言った以上は覚悟を決めてください」
と、逆にアレックスに諭される。その言葉を聞いた貴依は。
「その、ごめん……」
と、縮こまって謝るが、それを見た胡桃が。
「おい、アレックス。流石にその言い方はないんじゃないか?」
アレックスの物言いに流石にあんまりじゃないかと告げる。しかし当のアレックスは。
「中途半端な覚悟では死ぬことになります。そして一人が死ねば連鎖的に私たち三人がまず死んで、その後屋上に残った人たちも後を追うことになるんですよ?」
「うっ……」
アレックスの反論に二の句を告げなくなる胡桃。
それを見たアレックスは、彼女らに気付かれないように小さく嘆息すると二人に対して頭を下げる。
「すみませんでした、くるみ先輩。貴依先輩も一杯一杯なのもわかってはいるんです。ですが──」
そこまで言ったところで貴依がアレックスに語りかける。
「いや、良いんだ。私こそごめん」
そう言うと貴依は両手で自身の両頬をぱんっ、と叩く。その姿にアレックスと胡桃は驚くが。
「うし、気合入った。……これでもう大丈夫、私もどこか楽観視してたみたいだし、さ」
「楽観視、ですか?」
アレックスの言葉に貴依は申し訳無さそうにああ、と答える。
「アレックスとくるみがいてくれるから大丈夫、なんてどこかで思ってたんだよ、きっと。でも、もう大丈夫。そんな気持ちは今の一発で追い出したからさ」
貴依のそんな言葉に胡桃はプッ、と吹き出す。
「……なんだよ、それっ」
二人の様子を見たアレックスもまた先ほどまでのピリピリとした雰囲気は溶けており肩の力を抜けていた。
そして二人も大丈夫になったと判断したアレックスは。
「行きましょう先輩方。まずは教室を開放できれば机や椅子がバリケードの部品として使えるはずです」
「おう」
「ああ」
アレックスの提案に二人が了承するとそのまま三人で教室方面に足を向けるのだった。
そのまま三人は階段のすぐ隣の2-Aの教室を窓から望みこむ。
覗き込んだ教室内には二、三体のかれらが何をするわけでもなくそのまま棒立ちしていた。
「少しとはいえ、やっぱりいるんですね……」
アレックスが小声で呟くと貴依と胡桃もそうだなと頷く。そして胡桃が教室のドアをゆっくりと開けると貴依とともに教室内に侵入する。
「あ、先輩。急に……」
アレックスが二人を止めようとするが、その前に二人はかれらのうちの一体に近づくと胡桃は手に持つシャベルをフルスイング! 勢いの乗ったシャベルはかれらの頭に強かに打ち据えられ、その勢いのまま、ずだんと地に伏せ動かなくなる。
しかし、その音で胡桃たちが侵入したことに気付いたのか残りのかれらが二人のもとに向かい出す。
それを見たアレックスは──。
「もうっ……!」
そう言いながら慌てて教室内に躍り出るがその前に。
「せぃやぁ!」
貴依の気合が入った掛け声とともにデッキブラシの一突きをかれらのうちの一体ににお見舞いする。突きを食らったかれらは体勢を崩し倒れ込む。
倒れ込んだかれらに対して貴依は胴体を踏みつけて動けないようにすると。
「このぉっ!」
頭部めがけてデッキブラシを叩きつける。その一撃で叩いている個体は動かなくなっているのだが彼女はそれに気付かずに何度も何度も叩きつける。恐怖か、興奮から正常な判断が出来なくなっているようだった。
そしてそんな彼女の背後にもう一体のかれらが忍び寄るが、近くにいた胡桃がすかさずフォローに入る。
「柚村、危ない!」
そう言いながら胡桃は彼女の背に立つと、近付くかれらに対してシャベルによる刺突を繰り出す。
その一撃はかれらの頸に突き刺さり、その勢いから止まることなく頭を撥ね飛ばす。
撥ね飛ばされた頭はそのまま中空を跳んで床にゴトンと落ちる。
その音でようやく気付いたのか貴依はかれらを打ち据えるのをやめて後ろを振り返る。そこには胡桃の後ろ姿と、その先に頭をなくし、血を噴水のように吹き出しながら後ろに倒れるかれらの姿があった。
それでようやく自身がかばわれたという事実に気付き、貴依は胡桃に礼を言う。
「う、あぁ、助かったよ恵飛須沢」
貴依の声を聞いた胡桃は安堵したような表情を浮かべて彼女に語りかける。
「ったく。心配かけさせんじゃねえよ」
そこにアレックスも駆けつけてくる。そして貴依に近付いてくる。
これはまた怒られるかな。と、思っていた貴依だったが側に来たアレックスは彼女が怪我していないか体を触りながら全身の確認をしだす。そして怪我がないことを確認したアレックスは安堵のため息を漏らすと貴依に話かける。
「先輩、あんまり心配させないでください。こんな最初から誰かがいなくなったら、佐倉先生にも顔向けできないんですから」
アレックスの様子に貴依はきまり悪げにそっぽを向いて、小さな声が口から溢れる。
「私だってやれるんだって示したかったんだよ……」
その言葉を聞いたアレックスは困ったように笑いながら語りかける。
「貴依先輩、気負いすぎですよ」
「そうだぞ柚村」
貴依の肩に肘を置きながら胡桃も貴依に話かける。
二人による励ましに貴依は苦笑しながら感謝の言葉を述べる。
「……二人ともありがとう」
気恥ずかしげな彼女の様子に二人は笑う。
その二人を見た貴依は最初こそ不貞腐れた様子だったが、二人につられて笑い出す。が、いつまでも教室で笑っているわけにもいかずに三人は互いの顔を見て頷くと、2-Aの教室から出る。
そしてその隣の教室の入り口に近付くがそこでアレックスが立ち止まる。
「どうした、アレックス?」
「おい、柚村」
アレックスの様子がおかしいと思い貴依は彼女に声をかけるが、そこで胡桃に止められる。
貴依は胡桃の方に振り返るが、彼女がドアプレートを指差してその理由を理解する。
そのドアプレートには彼女が在籍している【2-B】の表記がされていた。
そのことに気付いた貴依は気不味そうにするが、当のアレックスは。
「気にしないでください先輩。覚悟を決めていただけですから。……では、行きましょう」
彼女はそう言うと教室のドアを開ける。そこには小柄な女子生徒のかれらが一体だけ立っていた。
そのかれらを見て一瞬アレックスの顔が歪む。その姿に見覚えがあったというのも勿論ではあるが、それ以上に件の女子生徒はアレックスのことを慕い仔犬のように彼女の後ろをついてくるクラスのマスコットのような存在だった。
だが今の彼女は体こそ腐ってはいないが右腕にはかれらに食い破られたであろう傷跡や、何よりも顔には一切の生気を感じられず口からは時折体液、唾液かもしれないがポタポタと垂れていた。
彼女の姿を確認したアレックスは怒りか悲しみか、自身のよくわからない感情を募らせるとデッキブラシを握りしめて、気配を殺し背後から彼女へ近付く。そして──。
「……おやすみなさい」
その言葉とともにデッキブラシを大上段に構えて唐竹割りに振り下ろす。
真後ろから渾身の一撃を受けたアレックスのクラスメイトだったかれらは後頭部を陥没させて倒れ伏す。そして倒れた彼女の頭部を中心に血が広がっていく。
それを見たアレックスは複雑そうな表情を浮かべるが、すぐに感情を押し殺すと貴依と胡桃のもとへと戻る。
顔が能面となったようなアレックスを見て貴依は心配するが。
「おい、アレックス──」
彼女に声をかけられたアレックスは先ほどの能面のような無表情が嘘のように、貴依に微笑みかける。
「先輩、私は大丈夫ですよ。それより先に進みましょう」
アレックスはそれだけを告げると一人で先に進んでいく。
胡桃と貴依はアレックスを心配しながらも慌てて彼女の後を追うのだった。
2-Bの教室を出た三人は残りの教室も制圧するために行動を開始したが、その道中では特に問題は起きずにそのまま教室方面の制圧を完了する。
その後、彼女たちは一度屋上へ戻る。
三人の無事を確認した屋上待機組、特に慈は突入組の無事な姿を見ると安堵で緊張の糸が切れたのか、足から力が抜けてペタンと座り込む。
そのことに驚いた胡桃が慈に駆け寄る。
「めぐねえっ!」
だが途中でその歩みが止まる。
胡桃が見たものは感極まったのか静かに涙を流す慈の姿だった。
「あれっ? なんで私……」
「……めぐねえ」
「ごめんね、なんで。私は先生で、しっかりしなくちゃいけないのにぃ……」
慈は涙を止めようと自身の手で顔を覆うが、一向に泣き止むことが出来ず譫言のようにごめんね、ごめんねと繰り返す。
彼女の姿を見た由紀は心配そうに彼女に駆け寄ると背中をポンポンと叩き落ち着かせようとする。
その由紀の行動が効いたのか、少しづつ慈の泣き声が小さくなって、そのまま彼女は立ち上がる。
「ごめんなさいね、先生がこんなことじゃいけないのに。ゆきさんもありがとう」
涙に濡れた顔で笑いかけながら全員に告げる慈。そんな慈に由紀は真剣な表情を浮かべると彼女に語りかける。
「そんなことない! めぐねえだって私たちと同じなんだもん。だから! だからめぐねえだって不安に思ったっていいし、泣いてもいいんだよ?」
その言葉を聞いた慈は驚いた表情を浮かべるが、由紀はそれに構わずさらに彼女へ諭すように語りかける。
「めぐねえにとって私たちは頼りないかもしれないけど、でも、私だってめぐねえの役に立ちたいし、他の皆だってそう。だからめぐねえは私たちを頼って良いんだよ。その代わり私たちもめぐねえのことを頼りにするから、ね?」
その由紀の言葉を聞いた慈は顔をくしゃくしゃと泣きそうなように歪めながらも、気丈に振る舞おうとする。
「……そう、ね。私もゆきさんも、皆もそうだものね」
「そうですよ、佐倉先生」
そこへいつの間にか近付いてきていたアレックスもまた慈に自身の思いを告げる。
「私も先生がここにいるからこそ校舎を奪還しよう、と提案できたんですから」
「唯野さん……?」
彼女の言い様に疑問を持ったのか慈は疑問符を浮かべるが。
「先生なら私たちをまとめ上げることが出来る。そう思ったから私は私の出来ることを提案した。そう言うことですよ」
心底安心したような表情を浮かべてそう告げるアレックスを見て、慈は再び、今度は感動から泣きそうになるが、その前に由紀が全員にとある提案をする。
「それならさ、
『……部活動?』
由紀の突然の提案に目を丸くする他の面々。そんなことはお構いなしに由紀は楽しそうに笑顔を浮かべながらさらに自身の考えを告げる。
「そう、部活動! 学校で生活するんだから…………。うん、【学園生活部】!!」
彼女の言葉に驚いていた面々だったが、不意にアレックスが笑い出す。
「ふ、くく、ゆきせんぱ、い。いくらなんでも安直すぎません?」
「え~……。なら、あーちゃんにはなにか代案があるの?」
アレックスに否定されたと思ったのか由紀は不貞腐れたように彼女に代案はあるのかと告げるが、アレックスは首を横に振った後に。
「ふふ、ゆき先輩、すみ、ません。……否定してるわけじゃないんですよ。ただ、ゆき先輩は面白いこと考えるなぁ、と」
そしてアレックスは慈の方に振り返るとにこやかに笑いながら彼女に問いかける。
「それで佐倉先生どうしますか? 顧問一人に生徒五人。部活動としての最低限の人数は集まっているから創設、という意味では何も問題はないと私は思いますよ」
アレックスに問いかけられた慈は全員の顔を見渡すが、否定的な表情を浮かべるものは誰もいなかった。
それを確認した慈はハンカチを取り出すと自身の涙に濡れた顔を乱暴に拭うと力強く宣言する。
「そうね、ならゆきさんの提案どおりに部活動を設立しちゃいましょう!」
彼女の宣言に沸き立つ生徒たち。特に由紀は慈が元気になったことが嬉しいのかぴょんぴょんと飛び跳ねそうなほどに喜んでいた。
そのときに、あ、でも、とアレックスが言う。
「部活動をするとして部長と副部長をどうしましょうか?」
それを聞いた慈はそういえば、といった顔をするがすぐに。
「いえ、それはまた後で決めましょう。それよりも今は唯野さんたちが帰ってきたということは下の方は一段落したということでいいんですね?」
と、アレックスに問いかける。
「ああ、はい。一応最低限教室方面は制圧できましたからバリケードの資材には困らないはずです。ただ職員室方面はまだ未制圧なのでそちらには注意が必要ですが……」
それを聞いた慈はうんうんと頷きながら。
「なら今はまずバリケードの構築を優先しましょう。階段と職員室方面を塞げば最低限の生活スペースは確保できます」
その言葉に全員が頷く。そしてさらに慈が告げる。
「それでは学園生活部の初活動、バリケード作りを皆で頑張りましょう!」
彼女の宣言に皆がおー! と気炎を上げると突入組三人が慈たちを守る形で校舎内へと再び舞い戻り、バリケード作りや校舎内の制圧に精を出すのであった。
読了ありがとうございました。
がっこうぐらし! の原作を知らない、RTA小説の知識ではどこが原作ブレイクしたの? と、思われる方がいるかも知れないので一応そこら辺の補足をば。
今回巡ヶ丘高校組は無事(?)学園生活部を発足させましたがこの経緯が原作とは全くの別物となっています。
原作ではアウトブレイク発生後、運良く生き残った由紀でしたが親しい友人(貴依など)の死や、日常の崩壊を直視することが出来ずに塞ぎ込んでしまいます。
そのことを重く見ためぐねえは彼女とくるみ、
発足後、由紀は塞ぎ込むことはなくなりましたが、非日常の中で日常を送るようになった結果、原作で胡桃が美紀に【元気になりすぎた】と言ったように現実逃避による幼児退行化、所謂【ゆきちゃん】化してしまいます。
その後、【あめのひ】でのめぐねえの死によってさらに悪化、原作開始へと続いていきます。
ですが今作ではまず親友の貴依が生存したことにより、多少精神に余裕ができたこと。
次に、年下で後輩のアレックスという由紀からすると庇護対象が現れたこと。
その結果元々由紀自身芯の強い女性【原作のゆきちゃん化した状態でもどこかで現実を認識しており、きもだめし”=夜の比較的彼らの少なくなる習性を利用して購買部への物資調達”や、えんそく”=学校内部の物資が乏しくなる前に外部での物資調達”、また部員がストレスを貯めすぎないように何らかのレクリエーション”=うんどうかい”などの提案を行っている】だったこともあり、結果として今作の由紀はゆきちゃん化ではなく、原作最終話でのゆきねえに近い状態に覚醒。
そして精神が不安定になっているめぐねえを見た由紀は、彼女の心配、不安を取り除くために学園生活部の設立を提案するという、最終的な結果こそ同じであるがそこへ至る過程が真逆になるという原作ブレイクが起きた、ということでした。