DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 お久しぶりです、作者です。
 なんだかんだとうだうだ書いているうちに、【まんがタイムきららフォワード】でがっこうぐらし! の続編、【がっこうぐらし!~おたより~】の連載が開始されたようで、作者自身はコミックス派なのでまだ読んでいないのですが、楽しみな半面新たな設定で矛盾が出てきたらどうしよう、と戦々恐々している次第です。

 それはまぁともかくとして、今回は圭たちを救助したその後のお話である第十三話をどうぞ。


第十三話 透子とかれらとウイルスと

 晴明たちが秘密基地と言っている避難所の一室。そこで晴明は椅子に座りとある冊子をペラペラとめくり読み込んでいる。

 その部屋にあるベッドの一つに女性が静かに眠っている。その女性とは赤坂透子だった。

 その時、扉から一人の少女が中に入ってくる。

 

「蘆屋さん、おつかれさまです。赤坂さんは……?」

 

 髪をハーフアップにした少女、祠堂圭はそう言って晴明に問いかける。

 晴明は彼女の方に椅子を回して向き直ると近くにある机に冊子を置いて問いかけに答える。

 

「ああ、祠堂さんか。安定しているし大丈夫だと思うよ。あとは目覚めるのを待つだけなんだが……」

 

 晴明の答えを聞いた圭は安堵したようにほっと息を吐くと、かすかな笑みを浮かべる。

 

「でも、本当に赤坂さんが無事で良かったです。それにまさかあれに治療法があったなんて」

 

 その言葉を聞いた晴明は苦笑しながら彼女の認識を訂正する。

 

「治療法と言っても、な。あれに関しては裏技みたいなものだし、誰もが使えるというわけでもないしな。……そういう意味では透子さんは本当に運がいいのかもしれないな。尤もこんな事に巻き込まれている時点で逆に運が無いんだろうがな」

 

 晴明の言葉を聞いた圭は不思議そうな顔をすると晴明に問いかける。

 

「そうなんですか……?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 そして晴明は申し訳なさそうな顔をすると圭に謝罪する。

 

「祠堂さんも済まないな。本来ならそれも含めて説明してるはずだったんだが、流石にこの状況ではそういうわけにもいかなくてな」

 

 晴明の謝罪を聞いた圭は慌てた表情で両手を前に突き出すと手をブンブンと振って否定する。

 

「ええっ! いやいや、そんな! 今はそんな状況じゃないってわかってますから」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 晴明は圭にそう返しながら先ほど机に置いた冊子を見る。その冊子の表紙には【緊急避難ファイル】という文字が印刷されていた。

 それを見ながら晴明は何があったのかを思い返していた。

 

 

 

 

 時は晴明たちが圭たちをリバーシティ・トロンから救出して秘密基地に帰還したところまで遡る。

 キャンピングカーから救出された圭たち非戦闘員が降りてくるが、その中で透子はジャンヌに肩を貸される形で降りてくる。その顔は苦痛に歪み青白くなっている。

 ジャンヌは心配そうに透子に声をかける。

 

「透子さん、大丈夫ですか? 帰ってきましたよ」

 

 しかし透子はそれに答えるだけの余裕がないのか沈黙を、否、痛みで意識が朦朧としているのか時々呻き声を上げている。

 そして透子の代わりにキャンピングカーの運転をしていたのか、晴明が最後に降りてくる。

 そしてジャンヌに透子の容態を聞こうとするが。

 

「レティシア、彼女の様子は……。どうにもよろしくなさそうだな。中に何か鎮痛剤でもあれば良いんだが……」

 

 晴明は苦虫を噛み潰したような顔をしながら忌ま忌ましげに吐き捨てる。リバーシティ・トロンを脱出した時点では何もなかったはずなのだが、秘密基地に帰る途中に彼女は突然なんの前触れもなく苦しみだした。

 その様子が尋常ではなかったことから晴明はすぐに彼女と運転を交代すると、ジャンヌに看病をするように指示を出す。

 唯一幸いと言えたのは、彼女が苦しみだしたのは秘密基地に比較的近しい場所だったということだろう。

 そのためにそう時を待たずに秘密基地に帰還することができた。そうでなければ透子の容態はさらに悪化していただろう。

 

「ともかく今は中に入るとしよう。レティシア」

 

「はい」

 

 晴明はジャンヌに話しかけると同時に彼女から透子を受け取るとそのまま横向きに、所謂お姫様抱っこの状態で抱きかかえる。そして軽く地面を踏みしめると、トンッと軽い調子で飛び上がる。

 するとそのまま晴明は軽い跳躍だったとは信じられないほどの高さ、即ち一足飛びで地表から秘密基地の入口がある屋上部分に飛び移る。

 現に晴明に追い越される形になった美紀と圭は口をあんぐりと開けて驚愕している。

 そして彼を追うように跳んで来たジャンヌを見て、もはやそういうものなんだと理解した二人は黙々とハシゴを登ることにしたようだ。

 そんな二人を待たずに晴明はジャンヌに入口を開けてもらうと、そこから内部に飛び降りて着地。そしてそのまま透子を施設内のベッドに寝かせる。

 

「レティシア、俺は他の子達と何か無いかを探してみる。お前は透子さんの体に異常が出てないかを確認してくれ」

 

 晴明の言葉にジャンヌは了承する。

 

「了解しました。こちらで確認を取ります」

 

「……頼む」

 

 晴明はそれだけを告げると部屋を退室する。それを見送ったジャンヌはベッドに寝かされた透子のもとへ向かうと彼女の衣服を脱がせ始める。そして──。

 

「なんですか、これ……」

 

 透子の体を見たジャンヌが息を呑む。彼女の体にはまるで血管が浮き出たかのような蚯蚓腫れが浮かんでいた。

 

 

 

 

 部屋から出た晴明は秘密基地内に入ってこれた美紀と圭を見ると彼女たちのもとへと赴き彼女たちに頼み事をする。

 

「済まない二人とも。本来は休んでもらいたいんだが状況が状況なのでな。できれば一緒になにか使えそうなものを探してもらいたい」

 

 申し訳無さそうに話す晴明を見た二人は、今の状況では仕方ないと理解しているのか苦笑しながら彼の頼みを受け入れる。

 

「ええ、いいですよ。ね、美紀」

 

「うん、私たちでいいなら手伝います」

 

「感謝する。ではこっちだ」

 

 二人の返事を着いた晴明は施設内の物資集積所に案内する。そこを見た二人は驚きの声を上げる。

 

「ここは……」

 

「こんなに……」

 

「ああ、それで……」

 

 そこまで言って晴明は集積所の一角を指差す。

 

「透子さんの話ではあの辺りに薬品類が多く置かれていたそうだ」

 

「ならまずはそこを探すんですね!」

 

 圭は晴明の話を聞いてフンす、と気合を入れて話す。

 

「ああ、とは言っても流石に三人も入れるスペースはないようだから、俺は念の為に別の区画を探してみるよ」

 

「わかりました、それじゃなにか見つけたら知らせますね」

 

 美紀もまた晴明にそう告げると彼自身二人にお願いする、とだけ告げて別の区画に移動をする。その晴明の余裕のなさそうな様子を見た二人もまたいそいそと捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 その後しばらく圭たちとは別の区画を捜索していた晴明だったが──。

 

「こんなことなら、もっとよく整理をしておくべきだったか……」

 

 と、愚痴とも後悔とも取れる言葉をこぼしていた。

 とは言え、晴明たち自身も数日前にここを拠点とし始めたばかりで、なおかつその後も瑠璃の救出やリバーシティ・トロンへの遠出などで物資集積所の整理をするだけの時間を捻出出来るほどの余裕はなかったという現実的な問題もあったのだが。

 だが、それでも、たらればを考えてしまう晴明は溜息を付きそうになるが、その前に晴明のもとに困惑した様子の圭が駆け込んでくる。

 それを見た晴明は、なるべく平静な表情を保とうとするが。

 

「蘆屋さん、これ一体何なんですか!」

 

 彼女の突き出してきた冊子を見て困惑する。それには緊急避難マニュアルと印字されていた。

 

「祠堂さん、これは……?」

 

「私もわからないから聞いてるんですけどっ! ……って、蘆屋さんもわからないんですか?」

 

「ああ、何分俺たちも何日か前にここに来たばかりでね。見せてもらっても?」

 

 晴明の言葉に圭は黙って頷き冊子を差し出してくる。それを受け取った晴明は冊子のページを捲っていくが次第に顔色が険しくなっていく。

 

 ──機密保持事項。

 ──人材と資源の確保、並びに非感染者の隔離をすること。また武力衝突の発生を前提とせよ。

 ──人命こそ最も優先すべきものであるがゆえに、多数の人命の危機の場合、少数の人命の損耗をためらってはならない。

 ──……生物兵器も、この例に漏れない。

 ──■■菌をベースとしたα系列、■■ウイルスをベースとしたβ系列、突然変異種であるΩ系列。

 

 そして巻末には。

 

 ──緊急連絡先、【ランダル・コーポレーション巡ヶ丘支社】

 

 さらには拠点一覧という文字とともに、生存者がいるはずの【私立巡ヶ丘学院高校】と、晴明の弟子であるペルソナ使いの神持朱夏が通う【聖イシドロス大学】の名前、さらには巡ヶ丘の自衛隊駐屯地までが記載されていた。

 

「なんだ、これは…………!」

 

 そんな言葉を出しながら晴明はかすかに震える。だが頭の冷静な部分では政府が【コレ】を何らかの理由で掴んだからこちらに仕事が回されたのか、と理解する。

 そして同時に、何故自衛隊駐屯地まで記載されているのかを訝しむ。

 そもそも晴明がランダル・コーポレーションを調査していたのは政府の依頼が発端なのだ。それなのに自衛隊、というよりも政府がランダルに協力していたというのであれば辻褄が合わないし、仮に自衛隊が独自の判断で行動していたとすればコレは立派な背信行為だ。

 そこまで考えて晴明は頭を振る。

 

(それこそ辻褄が合わない。ならば何故五島一佐がランダルの調査を行っていた? 考えろ、考えろよ蘆屋晴明。……そういえばあの時通信で五島一佐はなんて言っていた?)

 

 あの時五島が何を言っていたかを思い出そうとする晴明。そして。

 

 ──まだ確定ではないが、かの組織の裏に【メシア教】がいる可能性があるようなのでな。

 

 彼が言った言葉を思い出して思わず苦虫をダース単位で噛み締めたような顔をする晴明。

 

(最悪の場合、メシア教のシンパが自衛隊内にいて、なおかつかなり高い地位に就いている可能性があるのかよ……)

 

「あの、蘆屋さん……?」

 

 考え込んでいた結果に舌打ちをしたい晴明だったが、圭に心配そうに話しかけられたことで我に返り彼女の方を見る。圭は不安そうな表情で晴明を見つめていた。

 そのことに気付いた晴明は慌てて取り繕うと彼女に大丈夫だということを告げる。

 

「あ、ああ、済まないね。ちょっと考え事をしていたんだ。それよりも、だ」

 

 晴明は改めて冊子の記述を横目で見やると。

 

「祠堂さん、コレを見つけてくれたのは本当にお手柄だ。この記述が本当ならなんとかなる可能性が出てきた」

 

「本当ですか!」

 

 晴明の言葉に圭は興奮気味に問いかける。それに晴明は──。

 

「まだ可能性だが、そう分の悪い賭けにはならないだろう」

 

 と、圭に勝率は高いことを告げると、冊子を彼女に返す。

 

「では後はこちらに任せて吉報を待っていてくれ」

 

 それだけを圭に告げると足早に物資集積所を去っていく。圭はそれを見送ると美紀のところへと小走りで戻るのだった。

 

 

 

 

 透子が寝ている部屋と物資集積所双方に隣接している放送室では瑠璃が心配そうに透子が寝ている部屋の扉を見ていた。

 が、物資集積所から晴明が出てくるのを確認した瑠璃は、とててっ、と晴明のもとへ駆け寄ると心配そうな表情を崩さずに彼へと問いかける。

 

「ねぇ、おじさん。とーねぇ大丈夫だよね……?」

 

 その心配そうな瑠璃の様子に晴明は彼女を安心させるように微笑みを浮かべて目線を合わせるようにしゃがみ込むと、彼女の頭をくしゃりと撫でる。

 そして心配無用だと彼女に告げる。

 

「大丈夫! 透子さんの方は俺たちでなんとかするから、だからるーちゃんは休んでいなさい。いいね?」

 

 晴明の言葉を聞いた瑠璃は少し悩んだ素振りを見せるが、すぐに右手の小指を立てた状態で突き出す。それで瑠璃が何をしたいのか察した晴明は彼女に倣って同じように突き出すとお互いの小指を絡めて。

 

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます、指切った。……約束だよ、おじさん?」

 

 瑠璃の行動に晴明は笑いながら。

 

「ああ、約束だ」

 

 瑠璃と約束を交わすと透子が寝ている部屋の入り口へと歩を進める。

 扉の前に立つとそのままノックをする晴明。

 そして晴明は中にいるジャンヌに声をかける。

 

「レティシア、俺だ。いま中に入っても大丈夫か?」

 

『あ、はい。大丈夫です』

 

 ジャンヌの返事を聞いた晴明はそのまま部屋の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 部屋の中に入った晴明が最初に見たものは、体を冷やすように少し服をはだけさせた透子に寄り添うように、彼女の額に乗せた濡れタオルを交換し、同時に汗を拭き取っているジャンヌの姿だった。

 そして一段落ついたのか、彼女は晴明のもとへ向き直る。

 

「それでマスター。こちらに戻ってきたということは、なにかわかったのですか?」

 

「ああ、恐らく原因になったこととそれ他にもちょっとな。それでジャンヌの方は何かあったか?」

 

「それは──」

 

 晴明に透子の状態を聞かれたジャンヌは簡潔に彼女の状態を告げる。それを聞いた晴明は顎に手を当てるとポツリと呟く。

 

「その症状は、やはりあの冊子に書いてあったα系列の症状と似ているな、ならば……」

 

「α系列? それに冊子、ですか?」

 

 晴明の発言が気になったのかジャンヌが彼に問いかける。

 

「さっき祠堂さんが見つけてくれてな、その中に色々と書いてあったんだよ」

 

 そして晴明は先ほど見た冊子の内容をジャンヌへ告げる。

 それを聞いたジャンヌは驚きの表情を浮かべる。

 

「そんなっ! それじゃあ今回の件は政府もグルだった可能性があると……!」

 

「……それはないだろうな」

 

「なぜそう言い切れるんですか?」

 

 ジャンヌは不安を口にするが晴明は即座にそれを否定する。そのことを不思議に思ったのかジャンヌは晴明になぜか? と、問いかけるが彼の答えは──。

 

「そもそも依頼自体が政府からの依頼なんだ。アリバイ作りに依頼したとしてもそんな冊子(証拠)を残すなんて、いくらなんでも杜撰過ぎる。それに護国と天皇陛下に忠誠を誓っている五島一佐が調査に乗り出している時点で自衛隊内も一枚岩じゃない可能性が高い」

 

「…………あぁ、確かにあの方ならむしろ『その精神を叩き直してくれる!!』と言って鉄拳制裁する側ですね」

 

 実際に五島が行動している様子を想像したのか、ジャンヌは曖昧な表情を浮かべながら晴明の意見に同調する。

 

「まぁ想像でしか無いし、いまはそんなことはどうでもいい。それよりも彼女の状況がわかって、なおかつ治療ができる可能性があることのほうが重要だ」

 

 晴明はそんなことを言いながら、かつて自身の前世に存在したゲーム『真・女神転生Ⅳ』のことを思い出す。

 この真・女神転生Ⅳというゲームで一つの状態異常が新たに実装された。その状態異常の名前は【風邪】と呼ばれる状態異常。そう、現実でも人にとって一番よく罹るだろう体調不良の原因のあの風邪だった。

 さらに風邪の状態異常時に悪化と呼ばれるスキルを使うことで強制的に残りHPを1にして追撃の一撃で一掃するという経験値稼ぎという方法があったがそれは本筋とは関係ないので割愛する。

 ここで重要なのは()()()()()()が原因で、なおかつ他の病気に分類できないほど広義な意味での風邪と呼ばれる症状が状態異常として実装され、そして本来特効薬が存在しない、抗生物質などを飲んで体を休めるしか治す方法がない風邪という病気に明確な治療できる方法が存在する、というところだ。

 

 今世に置いて晴明はメガテンシリーズのあらゆる知識を使い悪魔召喚師としての腕を磨いてのし上がってきた。それは逆説的にいえば本来虚構(フィクション)であるはずのゲームの知識が、現実世界の常識として通用することを意味する。つまり本来明確な治療薬が存在しない風邪に(裏世界限定とはいえ)完全治療薬が存在している、ということだった。

 

 そして透子が倒れた原因であろうα系列。これの原因は細菌であるということが冊子の記述により判明。

 それはつまり、裏世界の治療法が今回の透子の治療や、さらに言えばゾンビ化現象ですら治療が可能であるという一つの可能性が浮かび上がってきた、ということだった。

 

「だが、流石に風邪と同じようにディスポイズンで治るという確証はない。ないが、それならさらに強力な方法を保険として使用すればいい」

 

 そう言ってジャンヌを見る晴明。見つめられたジャンヌは私? と不思議そうな顔を一瞬浮かべるが。

 

「何を不思議そうな顔をしているんだジャンヌ。お前は【アムリタ】が使えるだろうに」

 

「……あ」

 

 晴明が呆れたような表情を浮かべてジャンヌにそう言うとそれで彼女自身も気付いたのか間抜けな声を上げる。

 

 ──【アムリタ】

 

 これは本来インド神話に登場する不老不死の霊薬であるが、彼らが言っているのは霊薬のことではなく、状態回復魔法のことだ。

 その効果は味方単体の死亡以外のあらゆる状態異常を回復する、という最上位クラスの回復魔法だ。

 これを超える回復魔法は現在常世の祈り、メシアライザーとも呼ばれるPT全体のHPの完全回復と、死亡以外の状態異常回復効果を持つ魔法しか存在しない。

 そして晴明はそのアムリタであれば確実に透子の治療ができるであろうと踏んだのだ。

 

「ともかく、いまは彼女にアムリタをかけてみるしか方法はない。いいなジャンヌ」

 

 晴明の言葉に頷くジャンヌ。そして彼女は力ある言葉を紡ぐ。

 

「いきます。──アムリタ」

 

 彼女がその言葉を紡ぐと同時に透子に新緑の暖かい光が纏わり付き、その光が透子の肉体に染み込んでいく。すると、先程までの苦しんでいた様子が嘘のように静かな寝息を立て始める。だが、同時に彼女の頬に浮かぶ汗が先ほどまで苦しんでいた光景が確かな現実だったということを示していた。

 その様子を見た二人は安堵の笑みを浮かべる。

 

「どうやらちゃんと効いたようだな」

 

「ええ、本当に良かった」

 

 しかし、透子の様子をスキャンしたバロウズは楽観できる状態ではないことを二人に報告する。

 

《でも、彼女は体力をかなり消耗しているわ。最悪の事態を防げたのは確かだけど、意識を取り戻すのには時間がかかるかもしれないわね》

 

「……そう、か。いつ頃戻るかの予想はできるか、バロウズ?」

 

 晴明はバロウズにそう質問するが。

 

《こればかりは彼女の生命力次第としか……。まぁ、最低でも今日一日は眠ったままでしょうね》

 

 晴明はバロウズの答えにため息を付きそうになるのを堪えながら。

 

「…………まぁ、仕方あるまい。流石に透子さんを置いていったり、俺一人で巡ヶ丘高校に行っても意味がないし、彼女が起きるまではここで待機、だな」

 

「そうですね、彼女の看病にも人手が要りますし。瑠璃ちゃん一人を先にお姉さんの場所まで送る手もありますが」

 

 ジャンヌの言葉に即座に首を横に振る晴明。

 

「るーちゃん本人が納得しないだろう。それに仮に行くことになったとしても、お姉さん自体は嬉しいだろうが、俺は一度こちらに戻らないといけない以上、他に生存者がいた場合足手まといが一人増えた、と生存者同士で険悪になる可能性がある」

 

 晴明の予想にため息を吐くジャンヌ。

 

「それがありましたか。ならどの道一度待機しておくしかありませんね」

 

 その言葉に晴明は首肯すると。

 

「それじゃ、ジャンヌしばらくここは任せていいか? 一応このことを他の子達にも話しておくべきだろうからな」

 

「了解しました、そちらはお願いしますね」

 

 晴明はジャンヌにそう言って見送られると部屋の外へ出るのだった。

 

 

 

 

 

「…………蘆屋さん、どうしたんですか?」

 

 圭に呼びかけられることで我に返ったのか、晴明はハッとした顔をすると彼女に返事をする。

 

「なに、ここに帰ってきたときのことを思い返していたんだよ」

 

 その答えを聞いた圭はくすり、と笑いながら晴明に話しかける。

 

「そうだったんですね」

 

 圭が晴明に返事をした、その時に透子が眠っているベッドでもぞもぞとした動きがあった。それを見た圭はベッドに顔を向けて目を見開き、その姿を見た晴明も慌ててそちらに向き直る。

 するとタイミングが良かったのか、ううん、という声と同時に透子の瞼が少しづつ開いていく。

 

「──ここ、は……?」

 

 透子は小さく声を上げるが、なぜ自分がここにいるかを理解できていないようだった。

 それはともかくとして、彼女が目覚めたことを喜んだ圭は。

 

「私、皆を呼んできます!」

 

 その言葉とともにバタバタと部屋を出ていく。

 それを見送った晴明は再び透子を見ると。

 

「透子さん、体は大丈夫か? どこかおかしいところはないか?」

 

 と、呼びかける。それに透子は少しづつ頭が回転しだしたのか。

 

「え、ええ。特に問題はないと思うけど。あ、でも……」

 

「でも?」

 

 晴明が鸚鵡返しに訪ねたときに、どこからともなく腹の虫が聞こえてくる。自身からその音が聞こえた透子は赤面して。

 

「ちょっと、お腹が空いたかも……」

 

 恥ずかしそうにそう告げる。それを聞いた晴明は。

 

「そうか、それなら良かった」

 

 心底安心した、と言わんばかりの安堵の表情を浮かべるのだった。

 

 




 ちなみに圭が見つけた緊急避難マニュアルは、原作3巻の巻末についている、めぐねえが職員室で見つけたものと同等のもの(場所が場所なので教職員用ではない)という設定です。
 そしてΩ系列については今作の独自設定です。
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