DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
本日前後篇同時更新となりますのでこちらを先にご覧になった場合、先に前編の方をお読みいただくようお願いいたします。
男性陣との会合の結果を告げた朱夏たちは、その後女性陣でも警戒することと同時に朱夏を中心とした警邏を不定期で行うこととして解散した。
そしてその夜。
「うぅ~、寒い。いくらもうそろそろ夏になるとは言え、やっぱり夜は冷えるわ……」
「そうだね、アキちゃん」
薄暗い大学構内の通路の中、腕を擦りながら寒さを紛らわせようとしている晶と、そんな彼女を見て苦笑している篠生。朱夏はそんな二人の姿を苦笑しながら見つつ、手に持った懐中電灯で照らしながら歩いている。
そして朱夏はいくら今は安全とは言え少し気が抜けている二人を嗜める。
「二人とも、あまり気を抜きすぎるのは良くないわ。いきなり物陰から、なんて可能性もあるのだから」
朱夏の例えに、晶はうげっ、と声を出して篠生はすぐに真剣な表情になり辺りを見渡す。
晶も辺りを恐る恐る見渡して、安全なことを確認すると心底嫌そうな声を出す。
「ちょっと、アヤカ~。嫌なこと言わないでよね。あたし本当ホラーとか苦手なんだから」
晶の言葉を聞いた朱夏は不敵な笑みを彼女に向けると。
「それは残念だったわね、アキ。既にこの世界自体完全なパニックホラーな状態よ」
そして朱夏は二人に聞こえないように小声で呟く。
「……元々伝奇ホラーのような世界だったけど、さらにパニックものなんて実際ツイてないわよね。別の意味で憑いているのかも知れないけど」
「? アヤカさん、どうかしたんですか?」
彼女の独り言が少しだけ聞こえたのか篠生は不思議そうに問いかける。
「いえ、なんでも無いわ。ただの独り言……?」
篠生の問いかけに答える朱夏だったが、その時彼女にとって
その嗅ぎ取った匂いとは、鉄が錆びたような
そして血の匂いと理解した朱夏は戦闘が起きると仮定して意識を感覚を研ぎ澄まさせる。と、同時に晶と篠生に顔を向けると。
「二人はこのまますぐに部屋に帰りなさい、いいわね!」
それだけを告げて走り出す。彼女の言葉を聞いた晶は朱夏を止めようとするが。
「ちょっとアヤカ。どういう意味、って早っ!」
件の朱夏はロングスカートを翻しながら、まるで陸上のオリンピック選手もかくや、と言わんばかりの速度で遠ざかっていく。
そして朱夏を見送るしかなかった晶はと言うと。
「……もう、一体何なのよぉ!」
と、廊下に彼女の困惑した叫び声が響き渡るのだった。
血の匂いを嗅ぎつけて駆け出した朱夏が匂いの発生源で見たものは凄惨な光景だった。
「た……、助け…………あ、あぁ」
彼女の視線の先に広がったものは、ビクンビクンと痙攣しながら体から血を撒き散らしてバケモノに腸を食いちぎられている女性の生存者だったものの姿だった。
かろうじて生存者だったものは掠れた声を上げていたが、その体の損傷はどう見ても既に助かるものではなく、現に彼女の瞳からを急速に光が失われ事切れたことが見て取れた。
その彼女の姿を見た朱夏はキッ、と下手人を睨みつけると忌ま忌ましそうに吐き捨てる。
「……【幽鬼-ガキ】ね。こんなところにまで迷い出てくるなんて」
その声が聞こえたのか、女性の遺体を貪っていた、痩せ細った体躯ながら腹部だけが異様なほどに膨らんだ青い肌をした悪魔、幽鬼-ガキはゆるゆると顔を上げると嬉しそうに笑い声を上げる。
「ギギギ、マタ、新鮮ナ肉、来タ! オ前モ、他ノ人間モ、全部マルカジリィ!!」
そう言って彼女に飛びかかるガキ。
飛びかかってきたガキをヒラリ、と危なげなく躱すと同時に朱夏はスカートの裾をたくし上げて、自身の太ももに巻きつけていたケースホルダーからサバイバルナイフを引き抜く。
そしてそのままそのナイフを掌でクルリと回すと逆手に構えた。
その朱夏の姿を見たガキは、彼女を小馬鹿にしたように笑う。
「ギギィ? ニンゲン、ソンナ物デオレ様トタタカウ? ギヒヒッ!」
対して朱夏はガキの言葉は気にも留めずに逆にガキを嘲るように挑発する。
「あら、戦うなんてそんな、そんな。私とアナタみたいな雑魚悪魔とでは戦いにすらならないわよ」
朱夏のその言葉に気分を害したのか、ガキは彼女を睨みつけると再び飛びかかるような体勢になる。しかしそこで突如として叫び声が響き渡る。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「……アヤカっ! 何よあのバケモノ?!」
その声の主は先ほど朱夏が部屋に戻るように、と告げた晶と篠生のものだった。
彼女たちは先ほどの鬼気迫る表情で単独行動に入った朱夏を心配して追ってきていたようだった。
そして彼女の姿が見えたと同時にガキの、彼女たちにとっては異形の怪物の後ろ姿も見てしまい、さらにはその先にある同じ生存者であった女性の無残な姿を見て悲鳴を上げたのだった。
さらに最悪なことに二人の声を見て彼女たちの方向に振り返ったガキは、新たな餌が来たと嬉しそうに笑う。
「ギギギ! マタ来タ! 今日ハ大漁ダ!」
そう言って二人に襲いかかろうとする。
その姿を見た朱夏は呆然としている二人に叫ぶ。
「何をしてるの! 早く逃げなさい!」
彼女は二人に声をかけるとともに、自身の中にあるMAGを活性化させる。朱夏の体を中心に緑の波動が吹き出していく。
そして彼女の目前に力の波動を放つ、まるでタロットカードのようなものが具現化する。
その具現化したカードを、手に持ったサバイバルナイフで切り裂くような仕草をすると同時に彼女は咆哮を上げる。
「──ペルソナァ!!」
その咆哮とともに朱夏の背後に一つの
朱夏の背後に現れた幻影、その姿は全身黒い衣装に身を包み、顔はどことなく朱夏に似た女性だった。
その女性は微笑みをたたえながら慈しむように晶たちを見やる。そして次にガキを見るとゆっくりと腕をガキの方向へと向ける。
そのペルソナの動作と同時に朱夏もまた力ある言葉を、電撃系のとある魔法を唱える。
「ブラック・マリア! ジオダイン!」
彼女の言葉と同時に電撃系最大魔法である【ジオダイン】が彼女のペルソナ、聖母マリアのもう一つの姿であると同時に、インド神話の女神イシスとも同一視される存在【ブラック・マリア】の腕から奔っていく。
そしてその稲光はそのままガキのもとまで翔け抜けるとその身を一瞬で炭化させていく。
幽鬼-ガキは断末魔を上げる暇もなく絶命した。
ガキが炭化したことにより命の危機が去ったことを理解した晶と篠生は足の力が抜けたようにペタンと座り込む。
とりあえず二人の無事を確認した朱夏はホッと息を吐くがすぐに彼女たちのもとへ駆け寄る。
「二人とも大丈夫!」
朱夏の言葉に二人は声が出ないのか首を縦にコクコクと振って頷く。
その仕草に朱夏は一瞬気が抜けた表情になるが、すぐに口をキュッと閉めて表情を引き締めると二人を問い詰める。
「それで、二人とも? なんでここにいるのかしら? 私は部屋に戻るように、と言ったはずよ」
その言葉に以前朱夏と出会った時のことを思い出したのか、篠生はビクリと肩を震わせるが、晶は朱夏をキッと睨めつけると。
「アヤカ、アンタこそあの変なバケモノと、あの魔法みたいなのは一体何なのよ! それに、アンタを見捨ててあたしたちが逃げられると本気で思ってんの!」
晶の剣幕に少し押される朱夏だったがすぐに気を持ち直すと。
「アキ、それについては……」
と、朱夏が話し始めたのと時を同じくして、外から何か、乾いたものを叩くような音と男性たちの声が響いてくる。
「くそっ、何なんだよ。この化け物は!」
「おいおい、嘘だろ。あの化け物、感染者を喰ってやがる! もしかして墓場の感染者が少なくなってた原因はあの化け物なのかよ!」
「タカシゲ、高上! そんなことよりもまずはこの化け物や感染者を排除するのを優先しろ!」
朱夏たちが聞いた声。それは昼間会合を行った男性陣、頭護貴人、城下隆茂、高上聯弥の三人の声だった。
彼らの発言を聞いた朱夏は、その言葉で建物の外にも悪魔が出てきていることを悟る。と、同時に彼女は近場にある窓を勢いよく開け放つとそのまま外へ躍り出る。
それを見た晶と篠生も慌てて彼女の後を追うが、そこには男性陣三人と悪魔、さらには感染者たちの三つ巴の戦いが広がっていた。
その光景を見た篠生は悲痛な声で叫ぶ。
「…………コウくん!」
その言葉に高上は反射的に反応して篠生の方を向くが、その一瞬注意を反らしたスキを突き感染者が高上に襲いかかる。
「ガァァァァァ……!」
感染者の叫び声で我に返った高上であったが、その時既に感染者は彼の目前にまで迫っていた。
「うわぁぁっ!」
叫び声を上げ、本能的に目を瞑る高上。だが──。
「ハァァァッ……!」
その高上に襲いかかる感染者に対して、朱夏はガキの捕食現場へと向かったときと同じように、自身の健脚とMAGによる強化によって一気に感染者まで近付くと一息に蹴り飛ばす。
そして蹴り飛ばされた感染者はその先にいる他の感染者をまるでボーリングのピンをなぎ倒すように吹き飛ばしていった後に地面に落下する。
朱夏が起こした惨状を見た他の者達、感染者たちも含めてまるで時が止まったかのように動きを止める。
だが当の本人である朱夏は、そんな空気は知らぬとばかりに篠生たちに檄を飛ばす。
「シノウ! そんなところでボーっとしてないで高上をお願い! アキも、いつまでもそこで固まってると危ないわよ!」
「え、あ、はいっ!」
「……とりあえずアヤカ、アンタ本当どんな脚力してんのよ!」
彼女の激によって再起動した二人を皮切りに他の面々も動き出す。
その中で唯一動きを止めていなかった悪魔、赤黒い肌に藍色の衣服、そして一番の特徴として額から二本、そして頭頂部から一本と、それぞれの場所から角が生えた日本ではかなりの知名度を持つ妖怪、【妖鬼-オニ】が楽しそうな表情を浮かべながら朱夏に声を掛ける。
「姉ちゃんナニモンだ? いくらなんでもただの人間があんな馬鹿げたことを仕出かせるわけがねぇ」
そのオニの問いかけに朱夏ははぐらかすように答える。
「さぁ? 少なくとも私はただの人間のつもりよ?」
「抜かせっ!」
朱夏の答えに楽しげな表情を崩さないままオニは手に持つ金砕棒を振り上げて彼女に向けて振り下ろす。
それを彼女はバックステップを踏むことで躱すが、オニは振り下ろす勢いを止めることなく思い切り振り抜いて地面に叩きつける。すると金砕棒は轟音とともに砂煙を上げつつ地面を砕き、叩きつけられた後には局所的な地震とともに、小さなクレーターが出来上がっていた。
そしてそのオニが起こした地震により朱夏以外の面々が揃って体勢を崩す。
「うおおっ!」
「きゃあぁ!」
なんとかたたらを踏んで耐える生存者の面々だったが、感染者たちにはそれを行うだけの知性は残っておらず、その場にいる者たちはもれなく倒れ込んでいる。
それを見た朱夏は、オニに話しかける。
「ねぇ、どうせアナタは私と戦いたいんでしょう? でも外野が騒いでたら邪魔くさいと思わない?」
その言葉を聞いた鬼は哄笑を上げる。
「がはははっ! 本当に面白い姉ちゃんだな、好きにしな! その代わりちゃんと後で戦ってもらうぜ!」
「あら、ありがとう」
オニにそれだけを告げると朱夏は晶たちの方に振り向き声を掛ける。
「皆今すぐそこから離れなさい! 巻き込まれるわよ!」
その言葉と同時に彼女は先ほどと同じようにペルソナの召喚態勢に入る。それを見た晶と篠生は朱夏がさっきの女性の幻影を出すつもりだと気付き、男性陣に慌てて声をかけたり、手を引いてその場を離脱する。
「アンタたちそこにいると死ぬわよ!」
「コウくん、こっち! 急いで!」
「あ、うわっ、右原さん……!」
そして生存者たちが避難したのを確認した朱夏は再びペルソナ、ブラック・マリアを顕現させる。そして──。
「消し炭になりなさい! ──マハ・ジオンガ!」
全体化された中級電撃魔法の【マハ・ジオンガ】の雷が感染者たちに降り注ぎ、一体残らず感電させた後に発火し、残らず火葬していく。雷が降り注いだ後に残ったものはかつて感染者であった残骸と、パチパチと肉が焼ける音と匂いだけだった。
「俺、しばらく肉食えなさそう……」
「そもそも肉なんて上等なもの、そんなに残ってないでしょうが! ……言いたいことはわかるけど」
隆茂と晶の漫才のようなやり取りを聞き流しながら朱夏はオニの方に振り返ると同時に話しかける。
「お待たせしたわね、それじゃ始めましょうか?」
「姉ちゃん、ペルソナ使いだったんだな……」
オニの驚いたような声色に朱夏は挑発するように語りかける。
「あら、予想外のことに怖くなったのかしら? ならそのまま逃げ帰ってもいいのよ? そのほうが私も手間が少なくなるし」
その朱夏の言葉にオニはニィっと口角を吊り上げると。
「まさか! 楽しみが増えたってもんだ! それじゃあ死合おうか!」
喜々として金砕棒を掲げながら朱夏に突撃していく。
それを見た朱夏もまたオニに合わせるようにMAGを活性化させるとオニに向かって突き進んでいく。
戦いの先手は朱夏よりも巨躯であるがゆえにリーチが長いオニが取ることになった。
オニは先ほどとは違い金砕棒を横に振り抜く。轟音とともに放たれた一撃を朱夏は姿勢を低くすることで躱すが、それを見たオニは。
「甘ぇな姉ちゃん!」
その言葉とともに自身の膂力に物を言わせ、無理やりに力の方向を横から下に変えると朱夏がいる場所に叩きつける、が。
「残念ね」
朱夏はその行動を予期していたようにすぐさま足に力を溜めて横っ飛びに回避する。そして先ほどの焼き直しのように朱夏が居なくなった場所に金砕棒が叩きつけられる。
そして朱夏はそのスキを見逃さずに再びオニに突貫すると。
「あら、いい足場。ちょっと借りるわね」
と、言いつつ振り下ろされた金砕棒を踏むとそこを起点に跳躍。そして勢いを殺さずにオニの側頭部にローリングソバットを叩きつけ、続けざまに今度は反動を利用して体をくるりと回転させると同時に蹴りを一発、二発と連続で叩き込みつつオニを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたオニは空中で体勢を立て直すと地面に金砕棒を突き立てて減速、そのまま着地する。その顔にはしてやられたことに対する悔しさと同時に、心底楽しいとばかりに喜色に彩られていた。
「やるじゃねぇか、姉ちゃん」
そう言いながら口に溜まった血をペッと吐き捨てるオニ。そして今度はこちらの番とばかりに金砕棒を振り回す。
「オラオラオラオラぁ!」
オニの一振り一振りが暴風を起こし手当り次第に広場に植えられた樹や、ベンチと言ったあらゆるものを破壊していく。オニの物理スキル【暴れまくり】だった。
朱夏に攻撃を当てることができないのなら、面ごと制圧してしまえばいい。暴論ではあるが人間よりも遥かに身体能力が優れる悪魔にとってはある意味においては最適解の行動だった。
ただ一つオニに誤算があるとすれば──。
「鼬の最後っ屁、というやつかしらね。でも!」
朱夏は先ほどと同じようにペルソナを召喚するが、今回使うのは攻撃魔法ではない。
「ブラック・マリア! ラスタキャンディ!」
彼女の力ある言葉とともに、彼女の肉体を中心に柔らかな光が集い、自身の攻撃力、防御力、敏捷性と言ったあらゆる能力にバフが掛かる。
ただ一つの誤算、それは朱夏が純粋にオニ以上の身体能力を発揮できる、つまり
そして朱夏は只人ならばミンチになるしか無い暴風の中を、時に手に持つナイフでいなし、時には軽やかに躱しながらオニの足元まで接近する。
「──これで、終わりよ!」
「見事──!」
その言葉とともに朱夏は手に持つナイフでオニの体を逆袈裟に切り裂いていく。
切り裂かれたオニは地響きとともに地に伏せる。
それを確認した朱夏は他の敵対的な者たちが居ないかを素早く視線を巡らすことで調査し、存在を確認できなかったことでようやく戦闘態勢を解く。
その時、先ほど地に伏せ体からMAGが粒子として霧散し始めているオニが朱夏に向かって話しかける。
「なぁ、姉ちゃん。なんで魔法をもっと使わなかったんだ? 使えばもっと早く終わってただろ」
オニの疑問に朱夏はふわりと優しく微笑みながら告げる。
「だって、オニは人間との真っ向勝負が大好きなんでしょう? さっき待ってもらったお礼も兼ねてあなた達の流儀に合わせた。ただそれだけよ」
オニは朱夏の予想外の返答にはじめはキョトンとした顔になっていたが、言葉の意味が理解できると破顔して大笑いする。
「…………がははははっ! なるほど、今のオレが勝てないわけだ!」
そしてオニは嬉しそうな顔をすると。
「今の人間界にも姉ちゃんみたいな気骨のある人間がいるたぁ、嬉しいねぇ! 同胞たちにもいい土産話が出来るってもんだ!」
そう言いながら心底嬉しそうに笑い続ける。それはオニの輪郭が薄れ、姿が消滅するまで続いた。
そしてオニが消滅した後、朱夏に背後からドン、と抱きつく晶。そして──。
「アヤカ、アンタ一体本当どうなってんのよぉ……!」
半泣きになってぐずりながらも朱夏に詰め寄る晶。
その晶の状態に困った表情を浮かべる朱夏だったが。
「俺達もその話には興味があるな」
と、貴人が朱夏に話しかける。その言葉に晶と朱夏以外の他の面々も、ウンウンと頷き肯定する。それを見た朱夏は。
「あ~……。私が話してもいいんだけど……」
どこか困惑した様子で告げる。それに貴人は。
「なにか話すことに問題がある、と? それとも、俺達には知る必要がないと言いたいのか?」
貴人の詰問に朱夏は。
「そう言うわけじゃなくて……。ああ、そういえばあの人が居たわね」
朱夏はそう言うと、ついてきなさい。と、一言だけ告げて背中に抱きついた晶を背負うと踵を返す。朱夏の急な行動に晶自身は驚きの声を上げるが。
「ちょ、ちょっとアヤカ!」
「黙って背負われなさい、今、貴女腰が抜けてるでしょう」
朱夏に言われたことが図星だったのか、晶はそのまま押し黙る。それで問題なしと判断したのか朱夏は目的地へと歩みをすすめる。
それに他の面々は慌ててついていくが。
「……それで、アヤカ。目的地はどこなのよ?」
朱夏に背負われている晶が彼女に問いかける。それに朱夏は。
「ただ単に私以上に詳しい人がいるから、その人に話を聞きに行くだけよ」
と、簡潔に答える。
その言葉に驚いた晶は。
「はぁ?! そんなやつがこの大学にいたの?! だれよそいつ!」
と、朱夏に激しく問い詰めるが、肝心の朱夏は。
「学内の人間ではないわよ。偶然今ここにいるだけで」
それだけを答えると口を閉ざす。そして彼女のこれ以上口を開くつもりはない、という空気に当てられたのか朱夏以外の全員が困惑しながらも静かに歩みをすすめることになる。
「ここよ」
しばらく歩みを進めた面々がたどり着いた場所を見た篠生が驚きの声を上げる。
「ここって理学棟……! 椎子さんも関係者なんですか?!」
篠生の言葉には答えずに入り口に設置されているインターホンを押す朱夏。するとしばらくしてガチャ、という音とともに女性の声が聞こえてくる。
[……誰だ?]
「椎子さん!」
インターホン越しの声の主の言葉を聞いて、篠生が声を上げる。
[なんだ、右原か。女生徒は来ていないと言っただろう。まだなにかあるのか?]
面倒くさいという雰囲気を一切隠すことなく応対する椎子と呼ばれた女性。彼女の言葉に篠生はひぅぅ、と萎縮するが朱夏はそんなことには構わずに彼女へと話しかける。
「椎子、私よ」
[なんだ、神持。お前までいるのか、残念だが今の時点ではまだ何も判明していないぞ]
椎子の明け透けな物言いに朱夏は苦笑を浮かべつつ、そのことではないと告げる。
「
[あの人に用事なのか? 確かに起きているが……]
その時、椎子以外の声がインターホン越しに聞こえてくる。
[なんや、なんや、お客さんか? ……って、朱夏ちゃんやないか。この大っ天才になんか用事か?]
インターホン越しに大天才を自称する声を聞いた朱夏を除く女性陣が驚きの声を上げる。なにせその声は完全に男性のものだったのだから。
「ちょっと椎子! 男の人と一緒に暮らしてるの、なんで?!」
晶の言葉に朱夏はあちゃあ、というように頭を抱える仕草をするが、声をかけられた椎子は。
[お前は……光里だったか。何故と言われても共同研究をしているのだから、一緒に行動していたほうが効率がいいだろうが]
意味がわからないと言いたげな椎子の様子に、晶は何事かを言おうとするがその前に朱夏にその口を塞がれる。そして朱夏がそのまま捲し立てる。
「ともかく! ちょっとこっちで予想外のことが起きたからDr.と、あとできれば椎子も出てきてほしいのだけど!」
朱夏の言葉に椎子は迷惑だ、と言わんばかりに。
[……面倒なんだが?]
とだけ告げるが、横から自称大天才の男性が。
[まぁまぁ、朱夏ちゃんがこんなん言うなんて、それだけ大事っちゅうことやろ? それにこんな辛気臭いとこずっとおったら気が滅入るさかい、わしとしては外に出たいんやけど]
彼のその言葉に椎子はため息をつくと。
[……少し待っていろ]
その言葉とともに通話が途切れる。
そしてしばらくすると朱夏たちの前にある入口が開き、そして。
「久々のシャバの空気やなぁ」
「別にここは刑務所ではないぞ」
その言葉とともに一組の男女が姿を表す。
そのうちの女性、銀青色の髪をそのままストレートに流し縦縞の服とジーンズを着た彼女こそが椎子、【
そしておかっぱ頭に眼鏡を掛けた目付きの鋭い男性、彼こそが。
「それで朱夏ちゃん? この大天才たる【Dr.スリル】様の頭脳を借りたいなんて一体どんな緊急事態なんや?」
自他ともに認める、かつてフランケンシュタインの怪物を生み出したヴィクトール・フォン・フランケンシュタインすら認めた大天才、Dr.スリルその人であった。