DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 毎度のことながらお久し振りです、作者です。
 今回は約一ヶ月ぶりの更新となりますが、いくつか本作での独自設定が出てきます。
 では第十七話をお楽しみください。







第十七話 再会

 晴明たちの話し合いが終わった後、全員は透子所有のキャンピングカーに乗り、一路生存者がいると思われる【聖イシドロス大学】へと向かっていた。

 そのキャンピングカーの中で晴明は、瑠璃に話を、正確に言うなら彼女に対して姉に逢わせることが遅くなることを平謝りしていた。

 

「ごめんな、るーちゃん。本当なら巡ヶ丘高校に行くはずだったんだけど、おじさんの用事を優先することになっちゃって……」

 

 瑠璃自身は晴明の用事、弟子である神持朱夏と巡ヶ丘で消息を絶ったDr.スリルの安否の確認を優先したことに対して、なにか思うということは無いようで首を横に振って、大丈夫なことを告げる。

 

「ううん。大丈夫だよ、おじさん。りーねえは、るーと同じ御守持ってるから大丈夫なんでしょ?」

 

「ああ、勿論だとも。それにあの御守を肌身離さず持ってるなら大丈夫。それにきっと頼りになる人もお姉さんの元に行ってるはずだからね」

 

「そうなの?」

 

 晴明の言葉に首を傾げる瑠璃。その姿を見た晴明は本当だよ、と告げる。そしてそのやり取りを聞いていたジャンヌはふわりと笑いながらからかい混じりに告げる。

 

「そう言うことですかマスター。いくらあの子達が心配とは言え、私情を優先させるのはらしくないと思っていましたが……」

 

 からかい混じりのジャンヌの言葉を聞いた晴明は顔をしかめながら。

 

「あまりからかってくれるなよ。俺としてもどちらを優先すべきか悩んだんだからな」

 

 そう告げると、ジャンヌは少し微笑ましいものを見たような顔をしながら謝罪する。そして──。

 

「ふふ、すみませんマスター。でもよくそちらを優先する気になりましたね?」

 

「ああ、もし本当にあの大天才がイシドロスにいるのなら、流石に朱夏だけに護衛を任せるわけにもいかないからな」

 

 晴明の物言いに、ジャンヌは彼が何を言いたいのかを察したのか、先程までとは違い真面目な表情をすると。

 

「なるほど、そういうことですか。なら現状、私しか適任がいませんね」

 

「そういうことだ、頼めるかジャンヌ?」

 

「ええ、任せてください」

 

 その二人のやり取りに疑問を持ったのか、晴明に弟子入りすることになった圭は二人に質問する。

 

「あれ? でも、蘆屋先生。仲魔は基本、サマナーから離れられないって言ってませんでした?」

 

 圭の質問を聞いた晴明は、頷き肯定する。

 

「そうだ、基本、仲魔たちは契約したサマナーの遠くに離れることはできないが、まぁ、何事にも例外はあるんだよ」

 

 何事にも例外がある、という言葉を聞いた圭はほえぇ、と気の抜けた声を上げながらちょっと驚いた顔をしている。

 その間に今度は美紀が晴明に質問する。

 

「それじゃジャンヌさんが、唯一その例外だったりするんですか?」

 

 美紀の質問に晴明は腕組みをしてキャンピングカーの壁に背を預けると、首を横に振って否定する。

 

「いや、これはジャンヌだけではない、かな。一部種族の特性だ」

 

 そう言って晴明は講義のように美紀と圭にその種族についての説明を始める。

 そもそもジャンヌたちが属するカテゴリ【英雄】は、とある特殊なカテゴリの悪魔を経由する事で初めて仲魔にすることが出来る、所謂レアや隠しなどと言われるような悪魔だ。

 では、その経由する大元の種族とは?

 

 それは【造魔】と呼ばれる種族だ。しかしこの造魔と呼ばれる種族も近年になって現れた種族である。

 なぜ神話生物や、都市伝説などと言った遥かな過去から存在するはずの悪魔でありながら、造魔は近年まで発見されなかったのか?

 その理由は単純だ。そもそも造魔というカテゴリは本来存在せず、近年とある大天才の手によってこの世界に生み出されたからだ。

 

 その大天才の名は【Dr.スリル】、現在イシドロスに居ると噂されている人物だ。

 

 彼は、かつて過去の錬金術師が発明し、現在失伝したドリー・カドモンと呼ばれる特殊な素材を自身の技術で再び世に生み出した。

 そのドリー・カドモンと悪魔を合体させることで生み出される種族こそが造魔であり、さらにその造魔をある特殊な法則のもとに合体させることにより、初めて英雄というカテゴリの悪魔を顕現させることができる。

 

 ──英雄(ヒト)悪魔()に昇華させる外法にして偉業。

 

 その偉業は悪魔研究の第一人者にして、今現在も生きている天才にして怪人、フランケンシュタインの怪物の生みの親、ヴィクトール・フォン・フランケンシュタインをして、なし得なかったことから彼は、裏に関わる人間から大天才であると称されている。

 

 その説明を聞いた圭は、ほへぇ、と理解したのか、していないのか判りづらい、ちょっとばかり間が抜けた顔をして聞いていた。

 逆に美紀はまさかフランケンシュタインが実在していたとは思わず、驚きの表情を浮かべて晴明に問いかける。

 

「あれって創作じゃなくて実話だったんですか?!」

 

 その美紀の言葉に晴明は顎に手を当て、しばらく悩んだ表情になると美紀の質問に答える。

 

「うぅん、一応実話と言えば実話だが、今もヴィクター(ヴィクトル)博士は生きてるし、本人監修の創作物って感じかねぇ……?」

 

 晴明の言葉を聞いた美紀はしばし絶句するが、ふと正気に返るといやいやいや、とばかりに手をパタパタと振ってありえないでしょう、と言い募る。

 

「いやいや、ちょっと待って下さい蘆屋()()。あの小説が出版されたのは十九世紀前半ですよ?! それなのに現在も生きてるって、それじゃ、どんなに若く見積もっても二百歳以上ってことになるじゃないですか!」

 

 美紀が現代の常識的な観点でそう告げると、晴明は、まぁそうなるよなぁ、と面倒くさそうに頭を掻きながら嘆息する。

 

 余談ではあるが、美紀が晴明を先生と呼んだのは、圭が弟子入りする際に彼女だけが危険なところに行くのは看破できないから、と美紀も同じように弟子入り志願したのが要因である。

 しかし、幸か不幸か彼女自身に悪魔召喚師としての才能がなかったために、彼女は圭とはまた別の方向での修業をすることになるのだが、現在はその前段階、前提とする知識の勉学という状況になっている。

 

 それはともかくとして、晴明は真剣な表情を浮かべると美紀に忠告する。

 

「まぁ一つ言うことがあるとすれば、美紀。仕方ないとは言え君は少し常識に囚われすぎだな。常識を捨てろ、とまでは言わないが、裏の世界では常識が通じないことは多々あるから、もう少し頭を柔らかくすることだ。でなければ最悪生死に関わるからな」

 

 真剣な表情をしている晴明の脅しとも取れる忠告を受けた美紀と、ついでに側で聞いていた圭はゴクリと唾を飲み込むと、コクコクと首を縦に振る。

 それを見た晴明はよろしい、と一つ頷くと言葉を続ける。

 

「ま、流石に昨日の今日で意識を切り替えろ、というのは酷だからな。そちらは少しづつでも慣れていけば良い」

 

 そんなこんなを話しているうちにも旅路は順調に進んでいたようで、透子から晴明の声が掛かる。

 

「晴明さん、目的地が見えてきたわよ」

 

「お! そうか、今行く!」

 

 そのまま晴明は透子が居る運転席へと向かうのだった。

 

 

 

 

 のちに知った話だが、悪魔と呼ばれる存在、妖鬼-オニと朱夏が戦った翌日、ニット帽を被った小柄な青年、高上聯弥はボウガンで武装した状態で、他数名とともに校舎の外の見回りに出ていた。

 その見回り自体は問題なく終わりそうだったのだが、ふと虫の知らせなのか、イシドロスの正門が気になった高上は、他の面々と離れて正門へと向かう。

 そこで彼が目にした光景は、正門近くに止められている大型の自動車と、そして既に校内に入っている、左手になにか鉄製の籠手のようなものを装着した不法侵入者の姿だった。

 それを確認した高上は即座にボウガンを構えて威嚇行動に出る。

 

「──誰だ!」

 

 高上の声を聞いた不法侵入者は彼を脅威だと思っていないのか、特に警戒した様子もなしに彼に問いかける。

 

「生存者か。ちょうどよかった、ちょっと聞きたいんだが──」

 

 侵入者が何かを話しているが、高上はその言葉に耳を貸さずにボウガンのトリガーに指をかける。それを見た侵入者は。

 

「おいおい、俺はゾンビではないし、敵対する気もないんだが?」

 

 それでもなお、軽口を叩き続ける。その事に自分がナメられている、と感じた高上は。

 

「なら、手を上げろ! その籠手も外してだ!」

 

 と、不法侵入者に要求する。それを聞いた侵入者は手を上げながら。

 

「あ~、手を上げるのは良いが、これを外す訳にはいかなくてな」

 

 その事に侵入者があくまで要求を飲むつもりはない、と理解した高上は脅しも兼ねてトリガーを引いて矢を発射するが。

 

「ふぅ、何を気負っているのかは知らないが、少しは冷静になるべきだったな」

 

 トリガーを引いた次の瞬間、フッと侵入者の姿が掻き消えて高上が放ったボウガンの矢は虚しく、なにもない空間を突き進んでいく。

 そして、自身の背後から首筋になにか刃物らしきものが添えられると同時に、声を掛けられる。その声は忽然として消えた侵入者のものだった。

 

「さてと、動かないでもらおうか」

 

 刃物を突きつけられた高上は、なるべく動かないようにするが、その時。

 

「──コウくんから離れて!」

 

 と、高上とともに見回りをしていたライダースーツの女性、右原篠生が侵入者に吠えるとともに飛び掛かって、手に持つアイスピックを突き立てようとするが──。

 侵入者は篠生の存在に気が付いていたのか、すぐさま高上から離れると彼女が侵入者自身に突き立てようとしていた腕を掴み、彼女の力を利用しつつ怪我しないように、細心の注意を払って投げ飛ばす。

 

「きゃっ!」

 

「うん? 君は……」

 

 投げ飛ばした拍子に篠生の顔を見た侵入者は、不思議そうな顔をするが。

 

「シノウッ! ……こんのぉ!!」

 

 彼女に少し遅れてこの場に駆けつけた最後の一人、光里晶は握りしめていた鉄バットを大上段から篠生を投げ飛ばした下手人に振り下ろす。

 振り向きざまに、手に持つ剣で彼女の攻撃を防いだ侵入者だったが、晶の顔を見て驚いた声を上げる。

 

「やはり君もかっ! 確か、光里さん、だったな!」

 

 侵入者の声に、晶は彼の顔をまじまじと見て驚きの声を上げる。

 

「……えっ? て、あぁ! 確か、蘆屋さん!」

 

 そこで起き上がった篠生が後ろから侵入者、朱夏の想い人である蘆屋晴明に攻撃を仕掛けようとするが、その前に晶が慌てて彼女に攻撃を止めるように言う。

 

「ちょっと待って、シノウ! ストップ、スト~ップ!!」

 

 晶の静止に篠生は驚きながらもなんとか攻撃を取りやめる。そして、なぜそんなことを言うのか、と晶に問いかけようとするが、その前に振り返った晴明の顔を見て。

 

「あ、あぁぁ! あの時の……、蘆屋さん!」

 

 と、篠生もまた驚きの声を上げるのだった。

 

 

 

 

「スミマセンでしたっ!」

 

「いや、まぁそこまで思いつめなくてもいいから……」

 

 聖イシドロスの校舎内の一室に、晴明を始めとする秘密基地の生存者メンバーと、イシドロスの会合メンバーが集まっていた。

 そして先ほど、謝っていたのは先走って晴明に攻撃していた高上であり、晴明はそんな彼に気にしすぎないようにと告げていた。

 そんな二人のやり取りを篠生と晶以外の大学生メンバーは高上を呆れるように、秘密基地メンバーはどこか不思議そうに見つめていた。

 

 そして高上の謝罪が一段落ついた時点で晴明は朱夏を見ると、安堵した表情を浮かべて彼女に話しかける。

 

「それで朱夏、大丈夫だとは思っていたが、改めて良く無事でいてくれた」

 

 晴明の声かけに、朱夏もまたふわりと微笑みかけながら語りかける。

 

「晴明さんこそ、無事で良かったわ。でも──」

 

 と、そこまで告げて彼女は少し眼光を鋭くすると、晴明の近くにいる瑠璃以外の三人の女性を見る。

 そして絶対零度、とまでは言わないが冷たい声色で晴明に話しかける。

 

「──生存者が女性しかいない、というのは流石に解せないのだけど?」

 

「と、言われてもなぁ……」

 

 事実、ここに居る晴明が救った生存者に関しては女性しかいないが、それ以前のデモニカ部隊に保護を依頼した生存者の中には男性も含まれていたのだから、自身がまるで女好きで生存者を選り好みしてたかのように言われるのは流石に心外だ、と思う晴明。

 そこで少し微妙な空気が流れるが、その中で圭がおずおずと朱夏に話しかける。

 

「あの、えっと、神持朱夏さん、ですか?」

 

「え? えぇ、そうだけど、貴女は……?」

 

 急に名前を呼ばれると思わなかった朱夏は、怪訝そうな表情を浮かべて圭に問いかける。

 その言葉を聞いた圭は、どこか緊張した表情を浮かべながら朱夏に挨拶する。

 

「えっと、私は祠堂圭です! 朱夏さんと同じく蘆屋先生に弟子入りしたので、よろしくおねがいしますっ!」

 

「え、えぇ。圭ね、よろしく……。って、弟子入りしたぁ! え、本気で?」

 

 彼女の挨拶を聞いてそのまま返す朱夏だったが、聞き逃がせない一言を聞いて思わず正気かと問いかけてしまう。

 その問いに圭は元気いっぱいに答える。

 

「はいっ! 朱夏さんとは違う形ではありますけど、蘆屋先生には『朱夏さんは姉弟子になるから、顔合わせぐらいはしておくべきだろう』と言われたので、この話し合いにも参加させてもらいましたっ!」

 

「そ、そうなのね……」

 

 圭の言葉に、朱夏は微妙そうな表情を浮かべて曖昧に頷く。

 

 

 ──因みに、のちの話になるが、この時なぜ朱夏が圭の事をまるで、これから屠殺場に向かう養豚を見つめるかのような表情を浮かべていたのかを身を以て理解できた、とは本格的な修行が始まった時の圭と、ついでに美紀の談である。

 

 

 そんなかつて自身の修行時代を思い出してアンニュイな気持ちになる朱夏だったが、いつまでもそんな感傷に浸っているわけにもいかず、予想はできているが一応イシドロスに来た要件を晴明に問いかける。

 

「それで、晴明さんがここに来た理由はやっぱりDr.の事に関してかしら?」

 

 朱夏のその言葉に、晴明は本当にいたのか、と頭を抱えながら肯定する。

 

「あぁ、朱音のやつから『スリルが巡ヶ丘で消息を絶った』と、連絡を受けてなぁ……。で、朱夏の言い草だとやはりここにいるのか」

 

「ええ、そうね」

 

 晴明の言葉に、朱夏が同意すると同時に部屋のドアが開き二人の人物が中に入ってくる。そしてその中の一人が晴明に話しかける。

 

「おお! ハルやんやないかぁ! 自分もこっちに来てたんか!」

 

「スリル! 無事だったか!」

 

 その言葉と同時に立ち上がってスリルと抱き合い、笑顔を浮かべてお互いの背中を叩き合う二人。

 そしてそのまま二人は離れると、晴明は心底安心したとばかりに言葉を零す。

 

「しかし朱音の、ライドウからお前がこっちに来てるって聞いた時は、流石に肝を冷やしたぞ。本当に無事で良かった」

 

 晴明の言葉にスリルは驚きの表情をあらわにするが、ふと納得の表情を浮かべて何度も頷き始める。

 

「なるほどなぁ、ハルやんがこっちに来るのが嫌に早いと思うたら、ライドウはんの差し金かいな。それなら納得やなぁ」

 

 納得したとばかりに頷くスリルだったが、それを見た晴明は冷や汗をかきながらどちらかと言うと、と否定の言葉を告げる。

 

「あぁ、いやぁ。早い、と言うかむしろ遅かったと思う、ぞ?」

 

「へ……? どういう意味や、ハルやん?」

 

 気の抜けた表情を浮かべるスリルの疑問に晴明はアウトブレイクよりも前に巡ヶ丘入りしていたことや、その後のことについても掻い摘んで説明していく。

 そして説明を受けたスリルはなるほどなぁ、と言いつつ晴明に話しかける。

 

「しっかし、ハルやんがトチるなんて珍しいなぁ。それに、結界かぁ……。まぁ、ハルやんの立場からすれば、仕方のないことなんとちゃうん?」

 

「まぁ、それに関しては私も同感かしら、ね?」

 

 スリルの率直な感想に朱夏もまた自身が同じ感想なのを告げる。

 その事にスリルとともに部屋に入ってきた女性、青襲椎子は何故か、と冷静に質問する。

 

「なぜ神持とDr.の二人は問題ないと思うんだ? 素人考えでは、ただ単に現場の危険度を悪化させた行為でしかないと考えるんだが……」

 

 椎子の質問にスリルは頭を掻きながら答える。

 

「別に問題がない、ってわけではないんやけどなぁ。ベストな選択肢がないからベターを選ぶしかなかった、ってな状況なわけやし……」

 

「それに、仮に晴明さんが結界の手配をしていなかったとしても、ここまでの災害となると遅かれ早かれ悪魔が顕現する状況になったと思うわよ? 特にランダルの背後にメシア教がいたのなら尚更ね」

 

 スリルの答えに朱夏が補足するように告げると、彼女が放ったメシア教という言葉を聞いた晶が、意味がわからないとばかりに質問する。

 

「そう、そこよ。その、メシア教? ってのは一体何なのよ。まるで胡散臭い新興宗教っぽい感じだけど」

 

 晶の言葉を聞いたスリルと朱夏は、メシア教が新興宗教呼ばわりされたことに思わず吹いてしまう。

 

「くっくく。アキちゃんもなかなか言うなぁ……!」

 

「ふ、くっ。え、えぇ、まったくだわ。……それで、メシア教についてだったわね」

 

 そこでなんとか笑いを収めた朱夏は、メシア教に対しての説明を始める。

 

「メシア教に関して、さっきアキが新興宗教と言ったけど、それ自体は間違いではない、というのは確かなのだけど、その教義に関しては世界最大の宗教であるキリスト教を母体としたものとなっているわ。そしてメシア教が表に出てきたのは、所謂世紀末、今から二十年近く前の九十年代後半と言われているわ。……で、良かったわよね? 晴明さん」

 

 朱夏の確認に晴明は首肯すると、その説明を引き継ぐように話し始める。

 

「ああ、そうだ。更に詳しく言うのであれば、メシア教の教義は他宗派よりもさらに先鋭化した狂信的なものだ。このご時世に十字軍やレ・コンキスタ(再征服運動)を大真面目にやろうとしていると言えば理解できるんじゃないかな?」

 

 晴明の言葉を聞いた、メシア教のことを知らない面々は顔を引き攣らせる。まさか今の時代に、そんな時代錯誤な連中がいるとは思わなかったのだろう。

 晴明としても、その思いは痛いほど理解できるし、いっそ冗談の類であれば助かるというのが率直な感想なのだが、そんな現実逃避をしても意味はないので、話を先に進めていく。

 

「更にメシア教は他宗派とは目的も違ってきている。他宗派が唯一神の教えを伝えて民衆を導いていくことを是としていくことに対し、メシア教の目的は【救世主(メシア)の降臨を以て神の千年王国(ミレニアム)を建立すること】が、最終目標となっている」

 

神の千年王国(ミレニアム)、ですか?」

 

 晴明の物言いになにか不穏なものを感じたのか、美紀はオウム返しのように晴明が発した言葉を零す。

 美紀が思わず零した疑問に、ああ、そうだ。と、答えつつそれが何であるのかを告げる。

 

神の千年王国(ミレニアム)、争いのない平和な楽園なんて謳っているが、その実態は完全なる管理社会としてのそれだ」

 

 晴明が発した完全なる管理社会という言葉に息を呑む面々。そして晴明は一息溜めると更に話を進めていく。

 

「その構造は、全てを治める王としての立場に唯一神を、その下に唯一神の配下である天使たち。更にその下、労働者階級に人間たちを配置して、その上の監督者としてメシア教徒に監視させる。そして、もしも労働者階級の人間が、メシア教の教義に疑問を持った場合は、断罪という名の粛清を行う。といった徹底的な、そして神や天使たちに都合の良い管理社会となるだろうよ」

 

 晴明が吐き捨てた言葉に絶句する面々。その中で隆茂だけがカラカラに乾いた喉を無理やり震わせて言葉を発する。

 

「な、んだよ、それ。それじゃ楽園じゃなくて、ただの地獄じゃねぇか……」

 

 隆茂が発した言葉に、晴明は首肯すると、なぜそうなるのかの理由を告げる。

 

「そうだな。だが、狂信者たちは神に奉仕することこそが己の使命であると言って憚らないし、天使たちもまた人間が唯一神に対して奉仕することは、絶対的な義務にして、それこそが最大限の幸福である。と言う考えだから、そもそも一般的な感性では地獄になる、なんてことはそもそも思いつかないから意味はないだろうな」

 

 そんな晴明の言葉を聞いた隆茂は今度こそ沈黙するのだった。

 

 

 

 

 そしてしばらく全員が沈黙するが、その中で再び晴明が言葉を発する。

 

「まぁ、ちょっと無駄話をしちまったが、本題はそこじゃないから話を進めさせてもらうぞ」

 

「そう言えば、ここに来たちゃんとした理由を、聞いていなかったわね」

 

 先ほどのメシア教関連の話で完全に空気が死んでいる中、何事もなかったかのように話を続ける晴明と朱夏を見た、スリル以外の面々はまじかよ、と驚きの表情で二人を見る。

 その視線を受けた二人は、彼ら彼女らの考えは分かっているが、正味自身らの経験からまたメシア教か、程度の感覚でしかないので構わず先に進めていく。

 

「ここに来た目的は朱夏が言うようにスリルの安否確認がまず一つ、そして本当にスリルがここにいた場合は……」

 

 と、言って晴明は自身の近くにいるジャンヌに目配せをする。

 するとジャンヌは一歩前に出て彼の言葉を引き継ぐように目的を告げる。

 

「わたしがここで手伝い、並びに護衛任務のために残る。といったところですね」

 

 そのジャンヌの言葉を聞いて驚くとともに、本当なのかと確認を取る朱夏。

 

「え、ジャンヌさんが残るって本当にいいの、晴明さん? こと防御方面に関しては、仲魔の中でも随一だった筈だけど……」

 

「ああ、だからこそ、ここに残ってもらうんだ。残念ながら俺自身は、また別の生存者が確認された場所に向かわないといけないし、現状単独行動ができる仲魔で、なおかつ安心して運用できるのが彼女だけだからな。それに……」

 

「それに?」

 

「ほんのちょっと前だが、彼女が今回のゾンビ化現象の、まだ完全に進行していない場合は治療が可能であると判明したんだ」

 

「…………はあっ?!」

 

 晴明の言葉を最初は理解できなかった朱夏だったが、その意味をようやく咀嚼できたのか、驚きの声を上げる。

 また大学生組とスリルとしても、寝耳に水の情報だったために各々に驚きの表情を浮かべている。

 そしてその事が事実であることを証明するために、晴明は透子の治療に関することや、秘密基地で見つけたマニュアルなどを見せるとともに、自身の知りうることを説明していく。

 その事を聞いたイシドロス大学の面々はなんとか自身の中で折り合いをつけたようだった。

 その中で朱夏だけが一つの疑問を呈する。即ちジャンヌをここに残したとして、秘密基地メンバーや、これから向かう生存者たちの治療は大丈夫なのか、と。

 

「それは、……凄いわね。でもジャンヌさんがここに残るとして他は大丈夫なの? ほら、治療に関して、とか」

 

「その点なら問題ないさ」

 

 そう晴明は自信満々に告げると、その根拠について述べていく。

 

「そもそも現状俺の手元から離れて、なおかつ治療行為ができるのがジャンヌだけなのであって、俺たちの方に関してもカーマが同じ方法を使えるから何も問題はない。それにこれから向かう生存者がいる場所。巡ヶ丘学院高校には今から向かうし、なんならもう一人単独行動を行っている彼が向かっている筈だしな」

 

 その晴明の言葉。その一節に反応した朱夏はガバリと身を乗り出して詰め寄りつつ確認する。

 

「──巡ヶ丘高校、ですって! それは本当にっ!」

 

 彼女の豹変に驚く晴明だったが、その豹変ぶりに対する心当たりを思い出したのか、納得の表情を浮かべて首肯するとともに、彼女がそうなった理由を述べる。

 

「うん? お前が言っている巡ヶ丘高校で間違いはないはずだが……。ああ、そう言えば巡ヶ丘高校はお前のかつての母校で、恩師も居るんだったか」

 

「……ええ、そうよ。尤も最初はまだ教育実習生で、私が二年になると同時に正式に教師として赴任してきたんだけど……」

 

「そうだったか。しかし、教育実習と赴任場所が同じというのは珍しいな」

 

 晴明の言葉に朱夏は照れくさそうに告げる。

 

「あ~、うん。何でも私のことが心配だったとかで、本人が巡ヶ丘に来ることを希望した、らしいわ。私自身、又聞きだから真偽の程はわからないのだけど……」

 

 朱夏の言葉を聞いた晶と篠生は、その教師に対して共感したのか、あ、なんかわかるとだけ告げると更に自身が思ったことを口に出す。

 

「確かに少し前の、蘆屋さんと出会う前までのアヤカの印象だと、どこか儚げとか放おっておけないとか、そんな感じだったもんねぇ」

 

「そうだねぇ、アキちゃん」

 

 そうやってしみじみと頷く二人。それを見た朱夏の頬に少し朱が差すが、次の晶が発した言葉に、今度は別の意味で頬を紅くする。

 

「でも、今はどこか残念というか、親しみやすくなったのは良いけど、神秘的とかそういうのはなくなったわよね」

 

「ちょっ、アキちゃん!」

 

「へぇぇっ? そうなんだぁ、アキィ?」

 

「……あ、やっべ」

 

 そのままイシドロス女子メンバーの、きゃいきゃいと姦しい騒ぎに発展するが、それを見た秘密基地メンバーは微笑ましそうに、そして男性陣はどこか頭を抱えながら見ているのだった。

 

 

 

 

 そんな姦しいイザコザが収まった後、再び話し合い、と言うよりも最後の確認が行われていた。

 

「それで、ジャンヌにはこれを渡しておく」

 

 そう言いながら晴明は、彼女に淡い翠色の透き通った鉱物を一つ手渡す。

 その鉱物を受け取ったジャンヌだったが、それを詳しく見ると珍しく驚きをあらわにして、本当に良いのかと問いかける。

 

「これは……、チャクラ金剛丹じゃないですか! こんな貴重なものを、本当に良いんですか?」

 

「ああ、大丈夫だとは思うが、今後は離れて行動するわけだからな。保険というやつだ」

 

 そう言って大丈夫だから持っていろ、とジャンヌに促す。

 

 因みに、チャクラ金剛丹とは、所謂チャクラ、言い方を変えればMAGが凝縮して鉱石化した物体であり、これがあれば、ほぼ無限にMAGが補給できると言う代物だ。

 とは言え、そんな貴重品が早々転がっているわけがなく、現在、その存在を知るものはここに居る晴明たちと、葛葉ライドウとヴィクトル両名の限られた人間のみである。

 

「相変わらずハルやんは豪気やなぁ、それにこんなもんまでもらうとは……」

 

 そんなことを呟くスリルの手元には、秘密基地にて発見したマニュアルが握られていた。

 それも晴明が、自身が持っているよりもスリルに渡して原因究明してもらったほうが良いだろうという判断からだった。

 

「ま、俺が持っているよりも、スリルの手元にあったほうが有用だろうからな。こちらでもなんとか調査をしてみるが、もしなにか分かったら教えてくれ」

 

「おう、分かったわ。それじゃ椎子ちゃん、今後は忙しくなるでぇ?」

 

「ふ、望むところだともDr.」

 

 そんなスリルと椎子、二人のやり取りを見た晴明は、今更ながら驚きの表情を浮かべる。

 

「さっきの、二人で部屋に来た時も思ったんだが、まさかスリル。その娘を助手として使っているのか?」

 

 晴明のその言葉にスリルは首肯すると。

 

「そうやで、この娘、なかなか優秀でなぁ。今ではこの娘抜きでの研究なんて考えられへんぐらいや」

 

 その言葉を聞いて、驚き絶句する晴明。そして少し経った後に再起動して。

 

「あ~、青襲さん、だったな」

 

「うん? ああ、そうだが……」

 

「この騒動が終わった後にお互い無事だったらの話なんだが、正式にスリルの助手になる気はあるかい?」

 

 晴明の提案を横で聞いていたスリルは、予想の斜め上の話に吹き出す。

 そして椎子自身も目を白黒させて、晴明に確認を取る。

 

「は? いや、申し出事態はありがたいのだが、貴方にそういった決定権があるのか……?」

 

「直接はないが、ある程度の要望やらは捩じ込める立場だし、何よりスリルが絶賛したと言えば、向こう(政府)の方からオファーが来るとは思うぞ」

 

「…………流石に今すぐの返答はできないから、しばらく考えさせてもらっても?」

 

 と、流石に気が動転したのか、それだけを告げる。

 その事を聞いた晴明は。

 

「ああ、流石に今すぐ返答してくれとは言わないよ。ただ、できれば前向きに検討してもらえると助かる」

 

 とだけ告げる。

 その晴明の言葉に椎子はコクリと頷くだけだった。

 それで一応の話が終わったと思った、晴明たちは改めて聖イシドロスから出発しようとするが、その前に。

 

「……あの、晴明さん」

 

 遠慮がちに朱夏に止められる。

 そのしおらしい姿の朱夏に疑問を持ったのか晴明は振り返って、どうかしたのか、と確認を取ると、朱夏は意を決したように一つのお願いを口にする。

 

「もし、もしよ。私がお世話になった先生がまだ生き残っていたら助けてほしいの。それと、もし、手遅れだった場合は……」

 

「ああ、その時はちゃんと向こう(あの世)に送ってやるさ」

 

 と、それだけ告げて透子のキャンピングカーに乗ろうとするが、その前に朱夏の恩師の名前を聞くことを忘れていたことに気付いた晴明は再び振り返ると、朱夏に問いかける。

 

「そう言えば朱夏。その恩師の名前は何ていうんだったかな?」

 

 その問いかけで朱夏も、恩師の名前を告げていないことに気付き、慌てた様子で質問に答える。

 

「あっ! そうだったわね。その人の名前は──」

 

 そこで朱夏は一瞬迷った素振りを見せるが、意を決して名前を告げる。

 

「佐倉、()()()。生徒の間では()()()()なんて渾名で慕われてたわ」

 

「了解だ、出来る限りの努力はしてみるよ」

 

 朱夏から恩師の名前を聞いた晴明は、そう告げると今度こそキャンピングカーに乗り込み、秘密基地のメンバーたちとともに一路、巡ヶ丘高校を目指すのだった。

 










読了お疲れさまでした。
前書きでも書いていたように今回。

・神持朱夏が巡ヶ丘学院高校のOGである。
・神持朱夏の高校の担任教師が佐倉慈である。
・カテゴリ「英雄」「造魔」の悪魔は単独行動が出来る。

と言うのが本作での独自設定となります。
原作では明言されていない部分ですので、よろしくおねがいします。

……一応原作最終盤にて、かれら化した朱夏が巡ヶ丘高校に現れたために、生前の習性を持つという意味では、OGである可能性は高いのですが、明言はされていないのであくまで独自設定です。あしからず。
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