DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 こちらは後編となりますので、前編から読まれるようよろしくおねがいします。









第十八話 出会いと別れ、そして『あめのひ』 後編

 屋上入り口から中の踊り場に入った大僧正と慈だったが、その先には急な二人の登場に驚いたのか、ひっくり返ったり、慌てて逃げ出そうとしている残りの学園生活部の面々の姿があった。

 その姿を、気配自体は感じていたが、改めて確認した大僧正は嘆息すると。

 

「やれやれ、お嬢ちゃんたちや。出歯亀はあまり感心せんぞ」

 

 と、言いながら慈の腕を離して屋上の扉の手前で座り込む。

 先ほどまで、ある意味強制連行されていた慈は、大僧正を見て何をしているのかと、問おうとするがその前に、彼自身が勘付いたのか。

 

「何、あの者との約定でな。胡桃お嬢ちゃんとのでぇとが終わり次第、改めて彼岸に送るためにここで待っておくのよ。それに出歯亀したいお年頃のお嬢ちゃんたちも多いようだしのぅ」

 

と、慈に話しかける。それを聞いた彼女は。

 

「それは、わかりました。……でも、こう言ってはなんですが、彼は、葛城くんは大丈夫なんですか?」

 

 大僧正の行動に納得するとともに、葛城についての質問をする。と、言うのも彼の生前、慈は胡桃から恋の相談を受けており、それから彼女はそれとなく二人を気にかけていた。

 しかし今回、この大規模災害が起きたことにより二人は望まぬ結末を迎えたことから、胡桃が彼の後を追ったり、逆に葛城が胡桃を連れて行かないかを危惧しているようだ。

 それを聞いて不安がる女生徒の面々。しかし大僧正は呵々と笑うと、慈たちに大丈夫だと語る。

 

「それなら心配いらぬよ。あの者は自分の死を自覚しておるし、何よりお嬢ちゃんが大事だったんじゃろうなぁ。だからこそ、自分の後を追わないように釘を差したいと申しておったよ」

 

「……それ、は」

 

 大僧正の言葉を聞いて絶句する慈。

 もし、今回の災害がなければ。もしも平和な日常が続いていれば、彼女は、胡桃は自身の想いを遂げていたという事ではないか。

 それなのに、現実は二人は死に別れ、なおかつ死んだ想い人から生きてほしいと告げられる。それはなんて残酷なことか。

 確かに胡桃は葛城の【生きて欲しい】という祈りを叶えて生き続けるだろう。だがそれは同時に、胡桃に、彼女の中に葛城の記憶(想い出)がある限り、絶対に生きなければならないという【呪い】になるのだから。

 その事を理解した慈は、揺れ動く焦点の合わない瞳で大僧正を見つめるが、彼は何も表情を浮かべていない顔で小さく横に顔を振ると慈を諌める。

 

「佐倉先生や、その考えを持つのはやめなされ。その思いは誰も幸せになれぬよ」

 

「な、ぜです──」

 

 慈が吃りながら何事かを話そうとするが、その前に大僧正が彼女の考えていること、そしてそれを行ってはいけない理由を告げる。

 

「大方、あの者の魂だけでも現世に残せないか。と言ったところじゃろうが、確かに我が法力であれば、その程度のこと造作もない」

 

「っ! ならっ!」

 

「じゃが、それをすれば、あやつの魂は何れ悪霊ないし、怨霊となりて人々を殺めるようになるじゃろう。それは即ち、あの者が再び討伐、殺されることを意味するのじゃぞ? それとも、お主はもう一度あやつが殺されることを望むのかね? 佐倉先生や」

 

「そ、んなこと……」

 

 大僧正の言に衝撃を受けた慈は、喘ぐように言葉を絞り出す。

 

「……そんなの、望むわけないじゃないですか」

 

「で、あろうな」

 

 慈の絞り出した言葉に、気のない様子で相槌を打つ大僧正。事実、彼にとって葛城を送る事は只の既定路線であり、彼女たちの願いについても、ただ単に我侭を諌めている程度にしか感じていない。

 その時、大僧正の背後にある扉が開き、葛城とともにいた筈の胡桃が顔を覗かせる。

 

「……爺ちゃん、先輩が呼んでるよ」

 

 どうやら胡桃は大僧正を呼びに来たらしい。彼女に声を掛けられた大僧正は一言声掛けをする。

 

「胡桃お嬢ちゃんや、お別れは済んだかね?」

 

 大僧正にそう問いかけられた胡桃は、直綴の裾を掴んで小さく頷くと同時に答える。

 

「……うん。でも、爺ちゃん。先輩を送る時、あたしも一緒にいてもいいかな?」

 

「そのような事であれば構わんとも」

 

 大僧正の同意を得た胡桃は小さく、ありがとう、と告げると踵を返す。大僧正自身もまた彼女を追って屋上へ、葛城のもとへ向かうのだった。

 

 

 

 

 再び屋上に出た大僧正は、思念体の葛城と対面する。そこで大僧正は今一度葛城に確認を取る。

 

「では、お主はもう良いのじゃな?」

 

『はい、お願いします。大僧正さま』

 

 その言葉を聞いた大僧正は、ゆるりと頷くと次に胡桃を見る。

 そして彼女にも最後の確認を取る。

 

「胡桃お嬢ちゃんも良いな?」

 

「……本当は、良くないけど」

 

『くるみ──』

 

 思わず本音を零す胡桃を諌めようと葛城は声を掛けようとするが、その前に胡桃はふるふると、首を横に振って。

 

「でも、それじゃ先輩が危ないんだよな。爺ちゃん」

 

「そうじゃな、その通りじゃ」

 

「なら、爺ちゃんお願い。もう、先輩には危ない目にあってほしくないから……」

 

 はらはらと涙を流しながら、大僧正に懇願するように告げる胡桃。

 その姿を見た大僧正は悠然と頷き、そして。

 

「任せよ。この者はちゃぁんと送り届けてみせるでな」

 

 そう言うと大僧正がお経を唱えると同時に、彼の周囲から淡い碧色の光が広がってくる。

 その幻想的な景色に見惚れる胡桃だったが思念体、葛城の姿が足元から少しづつ、まるで編み物が解れるかのように、薄くなってきていることに気付く。

 その事に気付いた胡桃は葛城に思わず腕を伸ばそうとするが、苦しそうな表情を見せながら(すんで)のところで思いとどまるように腕を下げる。

 そんな彼女が葛藤している合間にも儀式は進み、どんどん葛城の姿が霞んでいく。

 その時、葛城が胡桃を見つめて口を開く。

 

『くるみ……』

 

「先輩……?」

 

『くるみは、君は、どうか思いつめないで』

 

 葛城が何を言いたいのかが分からないのか、彼女は葛城に問おうとするが。

 

「先輩、一体何を……?」

 

『僕はもうそろそろ逝かなくちゃ。それじゃあ、くるみ。()()()

 

「っ! ……うん、またね。先輩っ!」

 

 葛城の言葉に胡桃は、どこか痛々しい様子を見せ、涙を流しながらも笑みを浮かべる。

 その胡桃の笑みを見た葛城は安心したように柔らかな表情を見せると、その姿は完全に消え去っていった。

 

 その時、ザリ、と何かを踏みしめた音が響く。胡桃は涙を流しながら音がした方向を向くと、そこには胸で手を組み、心配そうに胡桃を見つめていた慈の姿があった。

 彼女の姿を見た胡桃はか細い声で。

 

「めぐねえ……」

 

 と、一言だけ呟く。そんな弱々しい胡桃の姿を見た慈は。

 

「くるみさん」

 

 と、彼女に呼びかけると同時にすぐ側まで近づいていくとそのまま抱きしめる。

 

「……え? めぐ、ねえ?」

 

 急に抱きしめられると思っていなかったのか、胡桃は困惑した声を上げるが、慈はそんなことには構わずに、彼女の頭を撫でながら優しく語りかける。

 

「くるみさん、よく頑張ったわね。でも、もう頑張らなくていいの」

 

「な、にを、言ってるん──」

 

「もう、いいの。今は嫌なこと、悲しいことを吐き出して。先生が、おねえちゃんがちゃんと受け止めてあげるから、だから今はもう我慢しないで」

 

 慈にそう語りかけられた胡桃はとうとう、否、既に感情の限界を超えていたのか、慈の胸にしがみつくと、堰を切ったように滂沱の涙を流す。

 

「めぐねえ。あたし、あたしはぁ……」

 

「くるみさん。もう大丈夫だからね……」

 

「あ、あぁ、うわあぁあぁぁぁぁ………………!!」

 

 屋上に胡桃の悲痛な叫び声が木霊する。それはあたかも、死んでいった葛城を送る鎮魂歌のようであった。

 

 

 

 

 大僧正が、そして胡桃が葛城の死出の旅を見送った翌日。空はあいにくの、もしくは胡桃の心を反映したのか、ざぁざぁと大粒の雨が降っていた。

 

「……嫌な天気だな」

 

 そんな外の様子を、窓際から憂鬱そうな様子で見る胡桃。そしてそんな彼女に同意するように、隣で相槌を打つ由紀は、ふと外の様子に違和感を覚える。

 

「うん、そうだね。……あれ?」

 

「……どうかしたのか、ゆき?」

 

 由紀の不思議そうな様子に、気怠けな表情で問いかける胡桃だったが。

 

「あ、えっと。なんかいつもより外の──」

 

 彼女が話している時に、廊下からドタドタと走る足音が聞こえると同時に、教室の扉が開け放たれる。そして扉を開けた本人、貴依がぜぇぜぇと息を切らせて切羽詰まった表情で叫び声を上げる。

 

「お、おい! お前ら大変だ! かれらが大挙してバリケードに押し寄せてきてるぞ!」

 

 その言葉を聞いた胡桃は反射的に近くに立て掛けてあったスコップを掴むと、貴依の横を通り過ぎていく。

 

「あ、おい、くるみ!」

 

 貴依はそんな胡桃に声を掛けるが、しかし彼女はその声が聞こえていないのか、そのまま走り去っていく。

 その胡桃の様子に貴依は苛立ったように頭をかきむしると。

 

「ああ、もう! ゆき!」

 

 急に彼女に呼ばれた由紀はビクリと肩を震わせるが、当の貴依はそんなことにはお構いなしに更に言葉を告げる。

 

「お前は放送室に避難するんだ!」

 

「たかえちゃんはっ!」

 

「私はこの後、爺さんとアレックスが防衛してるから、そこに合流する!」

 

 それを聞いた由紀は貴依を止めようとするが、その前に。

 

「たかえちゃ──」

 

「私は大丈夫だ! それにあの爺さんも居るんだ、早々ひどいことにはならないよ! だから由紀も早く!」

 

 そう貴依に急かされる。そのことで由紀は不承不承ながらも了承すると。

 

「──わかった、でも。たかえちゃん。無事に帰ってきてね!」

 

 由紀の切実なお願いを聞いた貴依は、ニカっと気持ちのいい笑みを浮かべると。

 

「勿論っ!」

 

 力強く宣言すると、彼女は踵を返しアレックス達がいるバリケードへと向かう。それを見送った由紀も避難するために動こうとするが──。

 

 

 

 ──我…………、汝…………。

 

 

 

「──え?」

 

 ふと聞こえてきた声らしきものを聞き振り返る由紀。しかしそこには何もなかった。

 由紀は首を傾げながらも、今は時間がないと慌ててその場から避難する。

 そんな由紀を見送るように、先程まで彼女が見つめていた場所で一匹の()()()がひらり、ひらりと舞っていた。

 

 

 

 

 

 ガシャンと何かを叩く音と同時にあちらこちらから呻き声が聞こえてくる。

 かれらが、学園生活部の面々が築いたバリケードを破壊せん、と(おの)が腕を、体を叩きつけている音だった。

 そんな中、悠里は少しでもかれらをバリケードから引き剥がそうと、モップなどの長物を使って押し返そうと奮闘していた。

 

「このっ! 離れなさい!」

 

 彼女は気合の入った掛け声とともに、再び引いた腕を突き出すことでまた一体の彼らを突き飛ばす。しかし──。

 

「これじゃ切りがない……!」

 

 事実、彼女が言うように一体のかれらを突き飛ばす間に、他に数体のかれらが取り付いてしまうため、まさに元の木阿弥と言うべき状態だった。

 それでも彼女は抵抗をやめるつもりはない。言わずもがな、諦めた瞬間に皆が死んでしまうということもあるが、それ以上に彼女を突き動かす衝動、それは。

 

「私は、もう一度、るーちゃんに会うの! だからっ!」

 

 自身が不甲斐ないばかりに助けることが出来なかった妹。その妹が生きてこちらに向かっている。なら姉である自分が諦めるなんてこと、出来るわけがない。

 もう一度、妹と笑い合う。ただそんな当たり前の幸せのために彼女は不退転の決意を固めていた。だから──。

 

「あなた達は邪魔なのよ…………!」

 

 だからこそ、なんとしても生き残る。その決意を胸に悠里は抵抗する。例えそれが無駄な抵抗だとしても、それこそ石に齧りついてでも、泥水を啜ることになろうと必ず……!

 

「りーさん、無事か!」

 

 その時、悠里の背後から胡桃の声が聞こえてくる。その声に悠里は振り返ることなく。

 

「ええ、こっちはまだ大丈夫! それより、めぐねえ達の方は!」

 

 凛とした声で胡桃に問いかける悠里。その問いかけに胡桃は大丈夫だと告げる。

 

「あっちは爺ちゃんが片付けてくれてる! 後はこっちさえどうにかしてしまえば……!」

 

 そう語る胡桃だったが途中で言葉が途切れる。その理由は彼女たちの前にあるモノが原因だった。

 

「バリケードが……!」

 

「りーさん、逃げろ! 倒れるぞ!」

 

 かれらが群がっていたバリケード。破壊こそされなかったが、攻勢の末にかれらの物理的な圧力に耐えることが出来ず、結果的に悠里を押し潰そうと彼女の方へと倒れてきたのだ。

 

「くっ……!」

 

 悠里は直前に胡桃から逃げろと言われたこともあり、反射的にバリケードから逃げ出す。

 その直後、バリケードが倒れたことによる極大の破砕音が周辺に響き渡るとともに粉塵が周囲を舞う。

 

「りーさんっ!」

 

 胡桃は周囲に舞う粉塵を散らすように手で払いながら悠里に声をかける。

 

「く、るみ……。痛ぅ」

 

 そんな時弱々しい悠里の声を聞いた胡桃は慌てて声が聞こえた場所に向かうが、そこには。

 

「これは、しくじっちゃった、かな……」

 

 そこには、倒れてきたバリケードに足を潰された悠里の姿があった。尤も潰されたと言ってもバリケードの原料となった学習机自体はそこまで重い素材ではなかったために、重量によって足が千切れ飛ぶという最悪の事態だけは避けられた。

 無論このままの状態でも打撲などの症状はあるだろうが、時間さえあれば何の問題もなかっただろう。そう、時間さえあれば。

 

「ヴゥゥゥ…………」

 

 せっかく獲物が動かないのに、ご馳走を前にかれらが待ってくれるわけがない。

 そんなかれらの姿を見た胡桃は、悠里をかばうように前に出ようとするが。

 

「くるみ、逃げなさいっ!」

 

 悠里は苦痛で顔を顰めながらも、胡桃を叱るように怒鳴りつける。

 その言葉を聞いた胡桃はただ一言だけ吐き捨てるように告げる。

 

「そんなこと出来るかよっ!」

 

 しかし、次の瞬間。悠里の口から出た言葉に肩を震わせる。

 

「約束を、破るつもりなの?」

 

「そ、れは……」

 

 悠里の言葉に動揺から青褪めると同時に、瞳が揺れ動く胡桃。そんな彼女を優しく諭すように悠里は優しげな表情を浮かべながら語りかける。

 

「私は……、大丈夫だから。だから、ゆきちゃんたちをお願いね?」

 

「りーさん、あたしは……」

 

「急いでっ! そしてあの子達を、めぐねえをっ!」

 

「く、うぅ」

 

 悠里から叱責を受けた胡桃は、涙を浮かべながら一歩、二歩と後ずさると、そのまま踵を返し走り去っていく。

 その後姿を見送った悠里は無意識に伸ばしていた手を降ろすと。

 

「あ~あ、ここまで、なのね」

 

 諦観の中、どこかスッキリとした清々しい表情を浮かべながらそう独りごちる。しかしその直後に俯くとポタポタと雫が落ちるのと同時に嗚咽を漏らす。

 

「ごめんね、るーちゃん。ダメダメなお姉ちゃんでごめんね……」

 

 そんな彼女の心中に構うことなく、かれらが悠里に覆い被さろうとする。

 その時、彼女を中心に()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 胡桃にバリケードが突破されたこと。そして悠里のことを聞いた面々は、現在のバリケードを放棄して次のバリケードに防衛線を下げていた。だが──。

 

「……そんな、ゆうりさん」

 

「りーさんが、くそっ。くそぉっ!」

 

 若狭悠里の死。

 

 その非情すぎる現実が彼女たちの心に重くのしかかる。

 あるものは信じられない、否、信じたくないと思い。あるものは自身の非力さに嘆く。

 しかし彼女たちにそれを嘆く時間はない。まだかれらの襲撃は終わっていないのだから。

 

 その現実を示すように遠くからかれらの呻き声が少しづつ、少しづつ近付いてきている。

 そしてかれらの呻き声を聞いた胡桃は昏い表情を浮かべると。

 

「おまえ達が、おまえ達がいなければ先輩も、りーさんも……! おまえ達さえ、いなければぁっ!」

 

 そのまま己の激情に身を任せて、二人の仇を取ると言わんばかりにかれらに突撃する。

 その無謀すぎる行動に貴依は驚きの声を上げる。

 

「お。おいっ。くるみ、早まるな!」

 

 しかし、その貴依の声が聞こえていないのか胡桃はバリケードを乗り越え、それを背にすると握りしめたスコップをかれらに向かって我武者羅に振り回す。

 

「……あの馬鹿!」

 

 貴依は一言そう吐き捨てると、彼女を守るために自身もバリケードを乗り越えようとするが、その前に大僧正に止められる。

 

「呵々。待て、待て。お嬢ちゃんまで行ってどうするね?」

 

「だからって、見捨てろってのかよ、爺さん!」

 

 貴依は大僧正の物言いに激昂するが、当の本人は飄々とした態度を崩さずに。

 

「そもそも、胡桃お嬢ちゃんが来たバリケードから、あのモノらが一切来ないのはおかしいとは思わんのかね?」

 

「──あぁ?」

 

 大僧正の言葉に不思議そうな声を上げる貴依。

 確かに現在かれらが押し寄せてきているバリケードは貴依や慈、大僧正がいた方向からのみであり、もう一方のバリケードは閑古鳥が鳴いている状況だった。

 そして、大僧正が更に告げる。

 

「それに、どうやら来たようじゃのう。全く、遅すぎるわ」

 

 彼がそう零した瞬間。貴依たちの頭上を、襤褸切れをまとった銀色の何かが通り過ぎていく。

 その何かは、徐々に追い詰められバリケードに背を預けていた胡桃の眼前に鋭利な物を投げ付け、かれらを処理して安全を確保すると、そのまま前方に降り立つ。

 

「────()()()()()っ」

 

 その降り立った存在から、童女のような甲高い声が聞こえてくる。

 そして言葉と同時に銀閃が幾度となく煌めくと、近場にいたかれらは宣言どおりに例外なくバラバラに解体される。

 それを見て、あまりの光景に怒りも忘れ絶句する胡桃。

 そんな中、降り立ったモノが胡桃の、正確にはバリケードの方に向き直る。その姿は銀色の髪色の、そしてその小さな肢体には不釣り合いな大型のナイフを二振り、それぞれの手に握った幼き少女だった。

 

 その時バリケードの奥、現在一向にかれらが現れない通路の先から声が響いてくる。

 

「おぉ~い、ジャックちゃん。はやいよ~……」

 

「待って、圭。生存者が居るっ!」

 

「えっ! ……ホントだっ! それじゃ、あの人達が()()が言ってた……?」

 

 驚きの声を上げる圭と呼ばれた少女。その声を聞きながら胡桃は他に生存者がいた喜びと、そしてもし目の前の少女を含めた彼女たちがもう少し早く来てくれたのなら、と八つ当たりじみた感情が鎌首をもたげるが、次に聞こえてきた声に彼女はまだ安全が確保できていないにもかかわらず、声が聞こえてきた方向に振り向くことになる。

 

「……ええ、そうよ。皆まだ無事で良かった」

 

 聞こえてきた、そして聞こえるはずがない声に驚いて振り向いた胡桃の視線の先。

 そこには後輩らしき二人に肩を貸され、そしてそのすぐ側に彼女とよく似た小さい女の子がぴったり寄り添っている、かれらによって噛み殺された筈の若狭悠里の足を引き摺りつつも無事な姿がそこにはあった。

 

「……りー、さん」

 

「くるみ、心配をかけたわね。でも、もう大丈夫よ」

 

 その優しげな声色に胡桃はようやく悠里が無事だと実感できたのか、目尻から一筋の涙を流す。

 しかしその涙は先ほどの悲しみの涙とは違い、喜びによるものであった。

 

 その後、彼女たちの安全はジャックと呼ばれた少女。外道-ジャック・リパーと大僧正、そしてカーマと名乗ったもう一人の少女の手によって確保されることとなるのであった。

 









 今回も本作独自設定として

 ・実は頭が良かったゆきちゃん。
 ・原作よりも(比較的)メンタル強めなりーさん。
 ・(投稿時書き忘れ)巡ヶ丘の名家、丈槍家

 というのが出てきました。

 ……因みに、胡桃の先輩の名字が葛城というのは独自設定ではなく、実写版『がっこうぐらし』から採用しています。
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