DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第二十一話 二人の酒宴

 悪魔たちを難なく撃破した晴明は、その後学園生活部が避難していた放送室に赴くが、そこでの惨状を見て、元凶となったカーマに鉄拳制裁(ゲンコツ)を施す。

 それを受けたカーマは頭頂部に大きなたんこぶを拵えて倒れ伏すが……。

 その一連の流れを見て、学園生活部や美紀、圭などはカーマが言っていた意味を理解すると同時に顔を強張らせる。

 

 彼女たちの畏れや、戸惑いの空気を感じた晴明は頭をガリガリと掻きながら。

 

「あぁ……と、ジャン──。って、あいつは大学に居るんだったなぁ……」

 

 そう独りごちながら彼は申し訳無さそうな表情をして透子に話しかける。

 

「あぁ、透子さん。済まないが、少しここの後始末を頼んでもいいか?」

 

 と、彼女にお願いする。晴明としてもカーマの事に責任を感じないわけでもないのだが、流石に圭の尊厳などの問題もあるので、晴明やクー・フーリンといった男性がやるよりも同性でなおかつ同じ一般人の透子が適任だと思ったためだ

 そんな晴明の言葉に彼女はくすりと笑いつつ快諾する。

 

「ええ、いいわよ。あ、でも……」

 

 何かを思いついたように人差し指を顎先に当てながら、そう言って透子は晴明に一つだけ頼み事をする。

 

「ジャックちゃん、あの子だけはここに居て貰った方がいいかしら? そっちの方がるーちゃんも安心するでしょうし」

 

 透子の言葉を聞いた晴明は一瞬悩む素振りをするが、それもそうか、と納得してジャックに話しかける。

 

「ふむ、ジャック。お願いしてもいいか?」

 

「うん、良いよ。おかあさん」

 

「頼む。それじゃ行くぞ、ホリン。……と、大僧正。貴方はどうするんだ?」

 

 そこで晴明は姿は確認していたが、この空気で話しかけるタイミングを失っていた事と、何より学園生活部から信頼を得ている様子の大僧正に一応確認を取る。

 晴明の言葉を聞いた大僧正は、ふむ、と自身の顎をさすると。

 

「呵々、拙僧もお主に確認したき事もあるしの。何より拙僧も枯れておるとは言え男子(おのこ)故、ここには居らぬほうがいいじゃろうて。ということで同道しようかの」

 

 と、晴明の言葉に同意する。そしてそのまま大僧正は後ろにいる、先ほどの大僧正の発言を聞いて不安そうにしている学園生活部の面々に振り返る。

 

「何、お嬢ちゃんたちも心配するでない。確かにあのジャックの嬢ちゃんも悪魔ではあるが、何より純粋じゃからの。それに悠里のお嬢ちゃんや」

 

 そこで大僧正から急に話を振られた悠里はビクリと肩を震わせて返事をする。

 

「は、はいっ!」

 

 その姿が可笑しかったのか、大僧正は一頻り笑うと彼女に問いかける。

 

「ふぁっふぁっふぁっ。そう緊張するでない。獲って食うわけでもあるまいに。まぁそれは横に置くとして、じゃ。あの二人をよく見てみるが良い」

 

 そう言って大僧正は二人、ジャックと瑠璃がいる場所を顎でしゃくる。それで悠里もその場所を見るが、そこには瑠璃の事を心配そうに見るジャックと、そしてそんな彼女を信頼している様子の瑠璃が見えた。

 

「まだ会って間もないジャックの嬢ちゃんをお主が信用も、信頼もできんのは無理もない。じゃが、彼女を信頼している妹御は信頼できるのではないのかね?」

 

 大僧正に問いかけられた悠里はハッとした表情をすると。

 

「そう、そうですね。るーちゃんがあそこまで懐いてるんなら、きっと良い子なんですよね」

 

 と、自身を納得させる。そしてそんな彼女の答えを補強するように由紀も一言。

 

「うん、それに、あの子。私もすごく良い子な気がするよっ!」

 

 そのように自身が感じたことをまっすぐに告げる。それを聞いた悠里はくすりと笑い。

 

「ええ、そうね。ゆきちゃんもそう言うなら間違いなしね」

 

 と、安心したように述べて、胡桃なども彼女たちに続くように。

 

「ああ、そうだな。それにあたしは直に命を救ってもらってるしな」

 

 ニヒルに笑いながら戯けるように言う。それを聞いた貴依は、ほんとだよ、この馬鹿。と言いながら胡桃にヘッドロックを仕掛け、胡桃も、ちょ、やめろよ。と二人は笑いながらじゃれ合いを始める。

 その二人のやり取りを笑って見る学園生活部の他メンバーたち。アレックスも多少顔色は悪かったが同じく安心したように笑っていた。

 学園生活部が納得したのを見た大僧正は、うんうんと頷くと彼女たちに改めてここを離れる旨を告げる。

 

「納得してもらえたようじゃな。それでは拙僧も席を外すとしよう」

 

 彼らのやり取りを見ていた晴明も透子に話しかける。

 

「それじゃ俺たちは外に出ているから、全部終わったらスカアハに言ってくれ。彼女に連絡をしてもらうから。スカアハも頼む」

 

「まったく、儂をそんな小間使いのように扱うのはマスターだけだぞ?」

 

 晴明の言葉に呆れた表情を浮かべるスカアハだったが。

 

「はは、すまんな」

 

 晴明の悪びれる様子もない謝罪を聞くと、本当に。と、溜息を付きながらもまんざらではない様子で。

 

「良い、良い。承ったとも。本当にお主の仲魔となって此の方、飽きが来ぬの」

 

「それはよかった」

 

「皮肉じゃ、馬鹿たれ」

 

 二人は笑いながら冗談の応酬をすると、晴明はそれじゃあ頼む。と告げると倒れているカーマを担いで放送室を後にする。

 それを見送った透子は、ふふ、と楽しそうに笑う。そしてすぐにむん、と気合を入れると。

 

「それじゃ、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか? それで貴女たちも少し手伝って貰って良いのかしら?」

 

 そう言って、学園生活部、その中で唯一の大人である慈に話しかける。

 話しかけられた慈も、圭が巡ヶ丘の制服を着ていることもあって、そうですね。と快諾すると人員の割り振りを始める。

 

「それじゃ、えっと。ゆきさんはあの二人のことをお願いできる?」

 

 慈のお願いに由紀は元気よく挙手するとともにはーい! と、返事をして二人に駆け寄ると二言、三言話して二人を外へ、シャワー室がある場所に連れて行く。

 それを見た胡桃は慈に話しかける。

 

「それじゃ、あたしは一応ゆきたちの護衛として一緒に行くよ。万が一ってこともあるかもだし、さ」

 

「それもそうね。お願いできる? くるみさん」

 

「おうよ」

 

 慈の言葉に胡桃は言葉少なく返事をするとスコップを持ち、三人の後を追うように部屋を出ていく。

 それを見送った慈はアレックスに話しかける。

 

「アレクサンドラさんは、身体は大丈夫?」

 

 その言葉にアレックスは大分良くなったと告げる。

 

「はい、先生。まだ少し気持ち悪いけど、なんとか大丈夫です」

 

 それを聞いた慈は、ふむ、と少し考えるとアレックスに休むように、そして貴依にはアレックスの面倒を見るように告げる。

 

「それじゃアレクサンドラさんは少し休んでて。たかえさん、彼女のことをお願いしても良いかしら?」

 

「でも、私は……」

 

 慈の言葉に食い下がろうとするアレックスだったが、貴依は彼女の肩をぽんぽん、と軽く叩くとともに、薄く笑いながら話しかける。

 

「まあまあ、アレックス。めぐねえが言うようにゆっくりしとけよ。何よりお前は頑張り過ぎなんだよ。そんなことじゃ今度は倒れちまうよ」

 

「たかえ先輩……」

 

 貴依の言葉に不本意そうなアレックスだったが、そのまま彼女に押し切られるように休まされる。

 

 アレックスが休んだことを確認した慈はホッとした表情を浮かべて悠里と微笑みあう。そして透子を見ると。

 

「おまたせしました。それじゃ始めましょうか」

 

 と、告げるのだった。

 

 

 

 

 

 その後、放送室の後始末を終えた面々は晴明に連絡して集まることにしたが、流石に放送室では問題あるかもしれないと思い今度は学園生活部の部室へと集合する。

 しかし圭の精神状態が万全ではない事。そして学園生活部もかれらの襲撃による疲労等を考えるとこのまま話しても、建設的な意見が出ないという理由で軽い自己紹介をした後に今日は解散。翌日に改めて話し合いの席を設けることにした。

 それと同時に圭の精神状態を鑑みても彼女を学園生活部の生徒たちとともにしてなにか問題を起こす可能性や、何より彼女の精神を安定させるために晴明は美紀と圭に一室を貸してほしいと生活部の面々に提案。

 最初は二人の共通の友人であるアレックスも含めるか、などの意見も出たが彼女自身も疲労困憊の様子から彼女も行くと美紀の負担が大きくなるという理由で立ち消えとなり、その後は由紀の賛成の一声で晴明の提案は了承される。

 

 その後は実際に解散となり各々が自身がいる場所に戻り、そして夜──。

 

 慈は一人、自身が書いている日誌を書き終わるといそいそと眠るための準備をしていたが、そこで扉がノックされる。それを聞いた慈はまた生徒たちの誰かが自分を心配してきたのかな? と、思い返事をする。

 

「あ、はーい。先生もそろそろ寝るから先に部屋に戻っててね」

 

「ああ、あの子達が言うとおり、ここだったのね」

 

 しかし返ってきた声は彼女が大切に思っている生徒たちではなく赤坂透子、自分と同じく数少ない大人であり、そして学園生活部以外の生き残りの女性だった。

 そして彼女はそのまま扉を開けると室内に入ってくる。

 

「どう、したんですか?」

 

 いきなり彼女の訪問を受けると思っていなかった慈は身構えるが、すぐに入ってきた彼女の見せびらかすように胸元に上げた、その握られた手にぶら下がっている物に視線が釘付けになる。

 

「佐倉先生はいけるクチかしら? ……って、その様子なら問題なさそうね」

 

 慈の反応に苦笑する透子。その彼女の手の中には銀色の缶、この避難生活で見ることが無くなったビールなどのアルコール類、それにそのお供となるつまみが入った透明なビニール袋がぶら下がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯」」

 

 そう言って二人はそれぞれの手に持ったビール缶を軽く当てるとプルタブに指を引っ掛けてカシュ、と飲み口を開けると飲み口に口を付けるとそのまま傾けて一口だけ呑む。アルコールはそのまま喉を伝い彼女たちの胃の中をカッと熱くして、それに満足した二人は口を離す。

 そして透子は満足そうに笑うと幸せそうな声を零す。

 

「ぷはぁっ。やっぱり久しぶりに呑むと美味しいわねぇ」

 

「ええ、そうですね」

 

 透子の言葉に慈もニコリと微笑むと同意を示す。でも、と不思議そうな声を出すと。

 

「よくアルコールなんて残ってましたね?」

 

 と、透子に疑問を投げかける。それを聞いた透子は感慨深そうにしながらこのアルコールがあった場所について告げる。

 

「ああ、これ? これはね、近くにリバーシティ・トロンがあったでしょ? そこで晴明さんが確保してくれたのよ」

 

「リバーシティ・トロン! でも、危険なんじゃ……あっ」

 

 透子の口からリバーシティ・トロンという施設の名が出たことで心配そうな声をあげようとした慈だったが、そも晴明の昼間の大立ち回りを思い出して尻窄みになる。

 そんな慈の様子に透子は笑いながら同意する。

 

「ふふっ。まあ、そういうことね。でも、これ以上の収穫もあったから、本当にあそこに行ってよかったと思ってるわ」

 

 そう言って透子はビールを呑む。

 そして慈は彼女の言った()()という言葉が気になり質問する。

 

「これ以上の収穫、ですか?」

 

「ええ、昼間会ったでしょ。美紀ちゃんと圭ちゃん。二人があそこで生き残っていたのよ。だから、あの子たち二人を救助できたことが一番の収穫」

 

 わかるでしょ。と、透子は慈に同意を求めて慈もまた首をブンブンと振って同意する。彼女にとっては受け持ちの生徒ではないにしても学校の生徒、つまり守るべき子供が生き残って保護されていたという事実に感極まっているようだ。

 慈の姿に透子もまたうんうんと頷くと、本当にあの子達は運が良かった。と告げる。

 それを聞いた慈は、そうですね。と同意するが、透子は首を横に振ると慈が考えている意味とは恐らく意味が違う、と語る。

 その言葉に慈は頭の上に疑問符を浮かべると同時に彼女に質問する。

 

「それは一体どういう……?」

 

 慈の質問に透子は簡潔に答える。

 

「昼間、校庭に現れた化け物。あの化け物と同種の存在がリバーシティ・トロンにも現れたのよ」

 

 しかも晴明さんが言うには昼間のよりも遥かに格上の存在らしいわ。と慈に語ると、それを聞いた彼女は驚きのあまり絶句する。

 慈の驚いた表情に透子はさもありなん、と思いながらも更に彼女にとって、そして慈にとっても驚愕の事実を告げる。

 

「で、晴明さんが言うには、あと一歩のところで邪魔が入って逃げられたらしいわ。……逃げた、じゃなくて逃げられたなんて言うんだから、本当にあの人の強さってどうなってるのかしらね?」

 

 苦笑してその事実を語る透子にもう言葉がないのか、慈はまるで金魚のように口を開けては閉じるを繰り返す。それで、と透子は前置きをして慈に質問する。

 

「貴女たちの方は何があったのかを聞いても良いかしら? ああ、勿論話したくないのなら無理に話さなくてもいいわよ?」

 

「えっと、そうですね……」

 

 話さなくてもいいと言う透子に対して慈は特に隠し立てすることではないと思ったのか、ビールやつまみを時折つまみながら、ぽつりぽつりと自分たちに起きた出来事。アウトブレイクから生き残りアレックスを中心とした校舎奪還に、大僧正との出会いや葛城についての話をする。

 それを透子も慈と同じようにビールとツマミを口にしながら、時に相槌を打ち、時に驚きながら聞いて、また今度は自分の番と言うように自身が保護された状況や大学のことなどを話していく。

 そして一頻り話した二人だったが、話し終えた際に透子が感慨深そうに呟く。

 

「それにしても佐倉先生……。歳も近いだろうし、めぐみって呼んでもいいかしら?」

 

「ええ、良いですよ。その代わり私も赤坂さんの事を、透子さんって呼んでも?」

 

「さん付けなんて要らないわよ。呼び捨てでいいわ」

 

 その透子の返答に慈は、えへへ、と笑いながら。

 

「職業柄、さん付けで呼ぶことに慣れてて呼び捨ては逆に違和感が……」

 

「ああ、それなら仕方ないわよね」

 

 と、慈の言葉に苦笑する透子。そして透子は慈をまっすぐ見据えると。

 

「でも、本当にめぐみは凄いわね」

 

 尊敬か、憧憬を抱くような様子で透子は独りごちる。何故彼女がそのようなことを言ったのか慈にはわからないようで。

 

「え? 何故ですか?」

 

 と疑問を口にする。その事に透子は自分が感じたことを正直に伝える。

 

「いえ、ね。めぐみ、貴女はあの混乱した状態でもあの子たちの事を、ちゃんと考えてあげられたんでしょう? ……私が貴女と同じ立場だったら、きっと逃げてたと思うから」

 

「……え?」

 

 透子の独白に慈はどこか不思議そうな顔をして彼女を見る。その事に透子は苦笑して。

 

「ふふっ。まあ、普通はそういう反応よね……。でも、ね。私は実際に似たような事をやったのよ」

 

 そう言って彼女はか細い声でかつての自分自身を嘲笑うかのように、以前秘密基地で晴明やジャンヌに零したように瑠璃に対する想いと、何よりも自分自身の行いを懺悔するように語る。

 その事を聞いた慈は驚きの表情を浮かべる。

 そして透子は手に持ったビール缶の中身を一息に呷って呑み干すと空になった缶を握り潰して慈を力強く見据える。

 その視線を受けた恵みは体を強張らせて身動ぎするが、それを見た透子は怖がらせてしまったかな。と思い、安心させるようにふわりと微笑むと彼女に謝罪するように話しかける。

 

「ごめんなさい、怖がらせてしまったかしら。昔の、と言うほど前ではないけど、私自身の情けなさに憤ってただけだから」

 

「は、はぁ……」

 

 透子の謝罪に気のない、と言うよりも呆然とした様子で相槌を打つ慈。そんな彼女に苦笑しながら透子は再び話し始める。

 

「それで話は最初に戻るんだけど、そんな馬鹿なことをした私だからこそ、めぐみの、貴女があの子達を見捨てずにここまでこれたのは、本当に凄いと思うのよ。でも、ね──」

 

 そこまで言って透子はどこか真剣な様子で慈を見据えると一言だけ、彼女自身が慈に感じたことを問いかける。無理をしているんじゃないのか? と。

 その言葉を聞いた慈は一瞬狼狽した様子を見せるが、すぐに冷静になってみせると、しらを切るように返答する。

 

「……! え、ええ? 透子さんの気の所為じゃないでしょうか」

 

 慈のしらばっくれる様子に透子は妖しく微笑むと、彼女に優しく話しかける。

 

「そうかしら? でも、貴女。昼間一緒に作業してた時、悠里ちゃんに対して、いえ、違うわね。生徒のみんなに対して後ろめたいような、申し訳ないような顔をしてたわよね?」

 

 それはどうして? と問いかける透子。そして問いかけられた当人はと言うと、ほんの少しの合間顔を強張らせるが観念したように息を吐き出し、その理由を話し始める。

 

「はじめ、この災害が起きた時は私もどこか他人事、ただの被害者だと思ってたんです。でも──」

 

 そうじゃなかった。と悔恨の念を抱くかのように懺悔の言葉を口にすると、ぼそぼそと語り始める。

 

 曰く、アレックスたちと三階の奪還に成功した翌日、彼女は以前に教頭から緊急事態に開けるように、と言い含められていた冊子の存在を思い出してそれを開いたこと。

 その冊子の中身は今回の災害のことについて記載されていた。つまりこの災害は既に予見されていたことであり、もしも自分が最初教えられた時にちゃんと確認していればもっと多くの生徒を救えていたかもしれないこと。

 だから今回のことは大人たちの、私の怠慢の結果起きたことであると同時に、あの子たちはそれに巻き込まれた被害者であること。

 加害者であり、唯一の大人である私は罪を償うためにも、たとえこの生命を失ってもあの子たちを絶対に生き残らせると誓ったこと。

 だからこそ、生徒たちには絶対に自分が弱っている姿なんてものを見せるわけにはいかないことを語る。

 

 その全てを聞いた透子は無言で慈のもとへと近付く。その透子の突然の行動に恐怖で慈は身体を震わせるが、透子はそんな彼女の心境はお構いなしに側まで寄ると慈を自身の胸元に抱き寄せる。

 その突然の行動に慈はびっくりして手に持ったビール缶を滑らせる。そして床に滑り落ちたビール缶からは呑み残しのビールが溢れて広がっていく。

 呆然とそれを見ていた慈は、ああ、もったいない。とどこか他人事のような、場違いな事を思っていたが不意に透子から頭を撫でられる。そして──。

 

「良く、頑張ったわね。一人で大変だったでしょう? でも、ね。めぐみ。貴女はもうそんなに一人で頑張らなくてもいいの。今ここには貴女以外にも、私や晴明さんが居る。大人はもう貴女だけじゃない。だから──」

 

 もう自分を追い詰めなくてもいいの。そう透子はあやすように慈の頭を撫でて優しく語りかける。

 一人でよく頑張った、もう大丈夫。と、声を掛けられた慈はしばらく呆然としていたが、頭を撫でられる心地よさと、何よりも自分以外の大人が、相談できる人間が現れたということを理解する。その事で彼女の中で張り詰めていた緊張感や、全部責任を負わないといけないというプレッシャーから開放されたのか大粒の涙をぽろぽろと流し。

 

「ふっ、ぐ、うぅぅぅぅぁぁぁ……!!」

 

 透子にぎゅう、ときつく胸に抱きつき顔を埋めると静かに泣き始める。そしてそんな慈を慰めるように、安心させるように大丈夫、大丈夫。と声を掛けながら撫で続ける透子。

 

 そんな彼女たち二人を淡い月の光が室内に優しく照らすように入り込んできていた。

 まるで二人の、慈のこれまでの頑張りを見ていたぞ、と言うかのように。そしてこれから何が起きても大丈夫、と安心させるようにいつまでも、いつまでも彼女たちを照らし続けていた。

 











 読了お疲れさまでした。
 それと同時に前話に置いてのアンケートのご協力もありがとうございました。
 結果としては多くの方から需要があるとのことなので、今後そちら方面でも更新できる時に更新しようと思います。
 なお、まだ話自体は全部書けているわけではないので、書き終わった時点で改めて活動報告か、もしくはこちらの更新時に告知する形になるかと思いますので、よろしくおねがいします。
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