DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第二十三話 死を告げるモノ

 晴明はジョージを、アレックスの前世で愛用していたデモニカスーツを手渡すと、彼女が着替えられるように、自身はその場から一時退室する。

 そしてアレックスもすぐに、シュルシュルと布擦れの音を響かせて巡ヶ丘高校の制服を脱ぐとデモニカスーツに着替える。

 デモニカスーツの着心地を確かめているアレックスの姿を見た由紀は、目を輝かせて彼女のもとへ突撃すると、さらによく見るために、周りをぐるぐる回って興奮した様子で声を上げる。

 

「あーちゃん、かっこいぃ~~! ダリオマンみたいっ!」

 

 由紀の勢いに気圧されたアレックスは、仰け反りながら不思議そうな声を出す。

 

「…………ダリオマン、ですか?」

 

「うんっ!」

 

 アレックスの疑問に、満面の笑みを浮かべて同意する由紀。

 

《──検索完了。どうやらそのダリオマン、とは架空のヒーローの事のようだぞ、アレックス》

 

「そう、ジョージ」

 

 由紀の代わりにアレックスの疑問の答えを口にするジョージ。それを聞いたアレックスは、なるほど。と納得するが、ふと、不思議そうな顔をした後に、驚きの表情を浮かべると同時に声を上げる。

 

「……ちょっと待ちなさい、ジョージ! 今、検索って言ったの? それって、つまり最低でもネット関係のインフラは生きているってこと?!」

 

 アレックスの言葉を聞いて、その意味を理解した他の面々も一様に驚きを見せる。彼女たちにとって、現在この学校こそが全てであり、ネット回線が生き残っている。つまり、インフラが整備できるほどの生存者が生き残っているとは、露ほども思っていなかったのだから。

 

「そういえば、そうだよな……。それなら、もしかして学校のパソコンも使える、のか?」

 

 驚きから、いち早く正気に戻った貴依はふと思いついた、本当に思いつきの言葉を口にする。

 彼女の言葉を聞いた慈も、その可能性に気付いたのか口に手を当てて思案顔になる。

 

「確かに、そうね。……今まではそんな余裕がなかったけど、後で確認しないといけないわね」

 

 慈が貴依に同意するように頷いている時に、部屋の扉がコンコンとノックされる。

 

「もうそろそろ大丈夫かな? 大丈夫なら入室するが……」

 

 扉の奥から先程退室した晴明の声が聞こえてくる。彼の言葉に学園生活部の面々は、彼がアレックスの着替えのために部屋を出たことを思い出して、お互いに顔を見合わせる。

 そして全員で頷くと代表して、慈が大丈夫だと声を掛ける。

 

「あ、はいっ。もう大丈夫ですよ」

 

 慈の言葉を聞いた晴明は扉を開けると入室してくる。

 入室した晴明は学園生活部や、何よりもデモニカに着替えたアレックスの姿を確認すると小さく頷いて話し始める。

 

「よし。それじゃ、改めて話をさせてもらうから、よろしく頼む」

 

 そう言うと晴明たちはそれぞれ席につくと、昨日の化け物、悪魔と呼ばれる存在たちのことと、アレックスが着ているデモニカスーツの概要についての情報を、触り程度であるが説明していく。

 それを聞いた学園生活部の面々は、とある二人以外は一様にそんな化け物が存在していたという事実に顔を青ざめる。

 残る二人のうちの一人、由紀はデモニカスーツの存在に瞳を輝かせ、そしてもう一人のアレックスは。

 

「……蘆屋さん、で良かったわよね? 一つ質問があるのだけど」

 

 と、神妙な表情で晴明に対して、質問していいかを問いかける。その言葉に晴明は頷いて続きを促すと、彼女は自身の疑問に思ったことを告げる。

 

「これだけは確認しておきたいのだけど。……南極は今、どうなっているのかしら?」

 

「は? 南極ぅ?」

 

「おいおい、アレックス。なんでまた南極なんだよ?」

 

 アレックスの質問が予想外過ぎたのか、胡桃と貴依の二人は素っ頓狂な声を上げる。

 しかし、晴明は彼女が何を危惧しているのかが理解できたので、彼女に一つの情報を告げる。

 

「君が何を危惧しているのかはわかった。……結論から言おう、()()()()()()()()シュバルツバースは発生することはないと断言する」

 

『しゅばるつばーす?』

 

 晴明が言ったシュバルツバースという言葉に聞き覚えがなかった面々は、首を傾げながらオウム返しのように口に出し、アレックスだけはどこか安心した表情を見せる。が、そこでなにかおかしいという表情を浮かべると、訝しげに晴明に対して質問する。

 

「待って、発生していないというのなら、貴方は何故シュバルツバースを知っているの? それに、何故発生しないと断言できるの?」

 

 アレックスの質問に晴明はカバーストーリーとしての事実と、そして彼女にとって絶望的な情報を告げる。

 

「一つ目の何故シュバルツバースの名前を知っているのかは単純だ。ジョージに情報提供をしてもらったから。そして二つ目の何故発生しないと断言できるか、だが、こちらも単純だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ」

 

「多大な労力、それに僻地って、その言い方じゃまるで……」

 

 晴明の答えを聞いたアレックスは青ざめた顔でうわ言のように呟く。

 そんな彼女の様子を見た晴明は、神妙な表情で頷くと彼女にとって死刑宣告ともいえる言葉を口にする。

 

「ああ、そうだ。シュバルツバースと呼ばれる大型の異界が発生しない理由は、そもそもこの世界のあらゆる場所に彼らが出入り口を作れるような場所、龍脈や霊地と呼ばれる場所が既に存在するからだ」

 

 つまり、この世界では悪魔はある程度の制約はあるが、どこでも発生しうる存在となっているんだよ。と晴明は告げる。

 その言葉を聞いたアレックスは、ショックのあまり体がぐらつくものの、なんとか耐えると、額を手で押さえながら深呼吸をする。

 そんなアレックスを心配するように、由紀は堰を立ち上がり彼女のもとに駆け寄ろうとするが、そんな由紀にアレックスは手で静止して彼女に着席するように促す。

 そして彼女を安心させるように語りかける。

 

「ゆきさん、心配しないで。大丈夫、ですから」

 

 そう由紀に告げるアレックスの瞳には確固たる意志、なんとしてでも私が皆を守らなければ、という意志が垣間見える。

 そんなアレックスの様子を見た晴明は、彼女が無茶をするかもしれないという懸念から、念の為に釘を刺す意味も兼ねて彼女たちに、とある情報を開示する。

 

「あ~、アレックスさん? 意気込んでいるところ悪いが、そこまで思いつめなくていいぞ。そもそもそういった対悪魔関連の部署は既に存在するからな」

 

「……はい?」

 

 晴明の声に鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くするアレックス。晴明は、あちら(転生前)の世界の彼女に対して、どちらかと言えばクールや冷徹と言った印象を持っていたが、その彼女がそんな表情をするのは予想外だったようで、思わず出そうになる笑みを我慢すると、この世界に存在する所謂対悪魔組織、自身が身を置く超國家機関ヤタガラスや、クズノハについて、こちらも触り程度であるが説明する。

 その情報を聞いた面々、特に秘密基地組は悪魔関連については以前聞いていたが、個人で動いていると考えていた晴明のバックに、まさか国家がついているとは露とも想像していなかったのか、驚きの声を上げる。

 

「ちょっ、蘆屋先生ぇ?!」

 

「晴明さん、それマジな話なの……? いや、まぁここで嘘を付く必要はないんだろうけど……」

 

 衝撃的な情報の開示に素っ頓狂な声を上げた圭に対して、晴明はニヤリと笑いながら冗談めかして喋りかける。

 

「良かったな、圭。これで無事に生き残れたら、国家公務員に就職で給与面は安定するぞ?」

 

「えっ、そうなんですか? よかっ────、じゃなくてぇ!」

 

 晴明の冗談のような言い方に圭は一瞬納得しかけるが、すぐにハッと正気に戻ると、私、聞いてませんよ! とノリツッコミのようなやりとりをする。

 そのやりとりを見ていた面々は一様に笑い、場の空気が少し弛緩するが、その中でアレックスだけは険しい表情を浮かべると圭の肩を掴み、万力のような力で締め上げる。

 

「ちょっと、圭。どういうことか詳しく話してもらえるかしら……?」

 

「ちょっ、アレックス。痛いっ、痛いってば!」

 

「ちゃんと言えば離してあげるから、とっとと話しなさい?」

 

「わかった、わかったから、離してっ!」

 

 圭が半泣きでアレックスに懇願すると、ようやく彼女は圭の肩から手を離す。離された圭は、未だにジンジンと痛む肩を見て、手形が付いているんじゃないかと心配しつつも、晴明との出会いや、悪魔召喚師として晴明に弟子入りした経緯を説明する。

 すべてを聞いたアレックスは圭が悪魔関連のことを隠していたわけではないことに安堵すると同時に、彼女の運が良い、もしくは悪すぎることに呆れたような、困ったような表情を浮かべる。

 そして晴明の方に顔を向けると、挑戦的な顔を見せて。

 

「もしも、私が貴方の代わりに圭を守る。と言ったら、その時、貴方はどうするのかしら?」

 

 晴明を挑発する、あるいは自身がその任務を引き受ける、と言いたげに語りかける。その言葉を聞いた晴明は、否定するように首を横に振る。

 

「俺としてはそれも一つの手だとは思うが。しかし、残念ながらやめておいたほうが賢明だろう。……圭が少なからず悪魔と縁を紡いでしまっている以上、彼女から少しでも目を離した場合、すぐに悪魔が集ってくる可能性がある。無論、君が四六時中、それこそ寝る時もともに暮らせるというのなら何も問題ないが」

 

 晴明の言葉に、アレックスは不敵に笑いながら、なおも告げる。

 

「なら、何も問題はないわね。圭も、ここで暮らせばいいだけの話なんだから」

 

 したり顔でそう語るアレックスだったが、晴明は呆れた表情を浮かべながら再び否定するように首を横に振ると。

 

「そういうことじゃないんだ、今はそれでいいだろう。しかし、俺が言っているのは、この災厄が終わった後の事を言ってるんだよ」

 

 嘆息した後に晴明がその言葉を告げると、アレックスを含めて全員が驚いた表情を見せる。

 それもそうだろう。彼女たちは今のことを話しているのに対して、彼だけは、一人災害が終わったときのことを話しているのだから。

 他の人間がそんな事を言っても大言壮語にしかならないだろうが、国家がバックについている晴明がそんな事を言うと意味が変わってくる。

 彼がそれだけ言うということは、国が行動を起こしているか、もしくは既に何らかの解決策があると公言しているとも取れる。

 その事に気づいた由紀は自身の席から身を乗り出すと彼に問いかける。

 

「つまり、私たちは助かるの?!」

 

 由紀の驚きの言葉を聞いた他の面々も、その言葉でようやく思考が追いついたのかそれぞれ喜びの表情を浮かべる。

 そして貴依は先ほど話していた、ジョージがネット回線を使っていた事実を思い出し、拳を握りながら興奮した様子で喋る。

 

「そうだよ! ネット回線が生きてるってことは、自衛隊だってこの事態を把握してるんだろっ! なあ、そうだよな!」

 

 貴依はそう言って晴明に同意を求める。それを聞いた晴明は少し苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、すぐに彼女たちに微笑みかけて、そうだ、と肯定する。

 

「……ああ、そうだな。自衛隊も今回の事は認識しているし、東京では既に政府による対策本部も設置されているそうだ」

 

 彼の言葉を聞いた学園生活部や、晴明や仲魔たち以外の秘密基地のメンバーはわぁっ、と喜びを分かち合う。

 自分が助かる、という確信が持てたのであればそうなるのも道理だろう。

 しかし、唯一その中で美紀だけが、一瞬だけ晴明が浮かない顔をしていたことを見ていた。だが、すぐに彼が微笑みを浮かべたことで、見間違いだったのかな、と頭の隅に追いやる。

 

 ──もしも、本来時間の流れにたら、れば、はないが、それでも、もしもその時に美紀が疑問に思い、晴明に確認を取っていれば、また違う展開があったかもしれない。そんな残酷な現実が、彼女たちに襲いかかってくるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時に、巡ヶ丘陸上自衛隊駐屯地。

 

 多くの避難民たちが集うこの場所は今、敷地内のあらゆる建物が倒壊すると同時に火災が起きているのか、もうもうと煙が上がり、そして元避難民だったかれらが闊歩する。まさしくこの世の地獄と化していた。

 

 本来であれば、最新式の対悪魔装備であるデモニカスーツを多数所持する五島麾下の部隊がいるこの基地は、巡ヶ丘でも有数の安全地帯であった。

 事実、多数のかれらが押し寄せてきた時も、幽鬼-ガキに代表される悪魔たちが攻め込んできた時もデモニカ部隊の奮戦により多少の損害はあれど、問題なく撃退できていた。

 

 そう、あの悪魔(死神)が現れるまでは。

 

 その悪魔、楽士服を身にまとい、ヴァイオリン(ストラディバリ)で演奏している人型の、しかし全身が骨だけの容貌の悪魔は狂々(くるくる)と回りながら、嬉々として演奏を続ける。

 

 すべての生きとし生けるものに、自身の芸術を惜しげもなく披露するように。

 すべての存在に自身が主催する、死の舞踏を踏ませるように狂々、狂々と。

 

「ふふふ、あのお方に演奏依頼を受けた時は、退屈な演奏になると嘆きましたが。しかし、中々どうして、面白そうなことも起きるものです」

 

 骨の悪魔は、カタカタ、と顎を震わせながら愉しそうに告げる。

 

「まさか、今の世にわたくしとは違う存在とは言え、()()を従えるだけの力量を持つ召喚師がライドウ以外に居るとは本当に面白い」

 

 悪魔は嬉々として踊り狂い、そして。

 

「我が魔宴とその者の力。どちらが上か、いずれ確かめるとしましょう」

 

 その果てにその者に、死の舞踏を踊らせるのもまた一興。と、嗤いながら独りごちる。

 そう言って骨の悪魔、あらゆるものに対して、本来は死を告げるモノである魔人。そのうちの一体、【魔人-デイビット】は惜しげもなく魔の演奏を続ける。いつまでも、いつまでも……。

 


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