DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第二十五話 ともだち

 

 

 

 

 晴明は学園生活部のメンバーと改めて互いの状況確認をした日の夜、念の為に仲魔であるカーマと校舎内の見回りを行っていた。

 そして晴明は、その見回りの途中にバロウズに話しかける。

 

「…………バロウズ、通信を頼む」

 

《通信? ええ、了解。相手は朱音ちゃんかしら?》

 

「ああ、頼む」

 

「それじゃ、私は見張っておきますねー」

 

 そんな二人のやり取りにカーマは自身の得物である弓と矢を顕現させると、素早く辺りを警戒する。

 その間に通信が繋がったようでバロウズ越しに第十七代目葛葉ライドウ(朱音)の声が聞こえてくる。

 

[もしもし、ハル兄。今回はどうしたの]

 

「夜分にすまない。今回、色々と動きがあったから連絡と情報交換をしたいと思ってな」

 

 そう言って晴明は今回、学園生活部と合流したことによって得た情報や、なによりも彼女たちと合流する前に美紀と圭によってもたらされた新情報を伝える。

 その新情報とは、かつて彼女たちがリバーシティ・トロンで他の生存者と生活していた時、太郎丸の飼い主であった一人の老婆から聞かされた昔話だった。

 

 ──曰く、約半世紀前、この巡ヶ丘の地が男土という名称の時に、一夜にして当時の総人口が半減するほどの大災害。通称【男土の夜】と呼ばれる災害が起きた、というのだ。

 老婆が言う男土の夜と今回の大災害が同じものかはわからないが、少なくともまったく違うものだという保証はないのも確かだ。

 即ちそれは、現在、全世界規模で起きているゾンビパンデミックの原因がこの地にあるかも知れない、という一つの指標になり得る情報だった。

 

 しかも、その男土の夜という災害を巡ヶ丘出身の透子をはじめとした面々は誰も聞いたことがなかった。つまり、当時の人間たちによって情報統制が行われた可能性すらあるといういわくつきの情報だった。

 

 それらのことをライドウに説明した晴明は深い、深いため息をつく。正直な話、男土関連の情報はもっと早くにもらいたかったというのが彼の偽りざる本音だったが、だからといって彼女達も精一杯の状況では伝えるのを忘れてしまうのも無理はない、と理解はしている。

 それでも、と思ってしまうのは詮無きことだろうが……。

 

 そんな晴明の心情を理解したライドウもわずかに苦笑しながら語りかける。

 

[まあ、流石に一般の子達にそこまで求めるのは酷だと思うよ?]

 

「わかってはいるんだけどなぁ……」

 

[まあまあ]

 

 頭を抱えている晴明に慰めるように声をかけるライドウ。

 そしてライドウは今度はこちらの情報を、と現在判明していることを話していく。

 とはいえ、やはり巡ヶ丘が隔離されている以上情報源が乏しくなり、海外の被害や、なによりわずかばかりに手に入るデータのみが判明しているだけだった。

 端的に言ってしまえば、状況解明にさほど進んでいない、ということだ。

 

 その中で唯一、良くない意味でだが新情報が彼女の口からもたらされる。

 

[これは五島さんから聞いた話だけど、どうやら巡ヶ丘の駐屯地からの定時連絡がなかったみたいなの。ただ単に連絡を忘れただけなら良いんだけど……]

 

「連絡がない、か……」

 

 彼女の言葉に晴明は苦虫を噛み潰したような口調で愚痴をこぼす。

 ライドウが言うようにただ連絡を忘れただけならまだ笑い話になるが、もし、本当に駐屯地が何らかの存在に陥落されられたとしたら……。

 その場合は、かつてホテルから脱出した後に保護してデモニカ部隊に預けた避難民達の生存は絶望的だろう。

 

「いや、今は考えても仕方がない、か……」

 

[それでなんだけど、ハル兄?]

 

「ああ、わかっている。駐屯地の調査に向かえば良いんだろう?」

 

[うん、お願いできる?]

 

 ライドウのお願いに晴明はわかっていると答える。だが、同時に今すぐにはできないと彼女に告げる。

 

「本当に駐屯地が陥落しているのだとしたら、ここの生存者の数を大僧正一人に任せるには流石に人手が足りなさすぎる」

 

 彼の不安、それは本当に駐屯地が壊滅していた場合、それを行った存在ないし、元避難民のゾンビたちが自身が調査に出て不在の時に、高校を襲撃する可能性を捨てきれなかったからだ。

 確かに今、ここの防衛戦力としてはかつてのシュバルツバースを駆け抜けたアレックスに魔人である大僧正がいることはいるが、二人だけで残りの人間をすべて守れるかというと流石に疑問が残る。

 彼の仲魔を学校に残すことができればまた話は別だろうが、単独行動ができる仲魔に関して言えば英雄や造魔カテゴリ、そして魔人カテゴリの悪魔しか単独行動できないのだから……。

 せめて、あと一人だけでも超常の存在がいれば話は別だろうが……。

 そこまで考えた晴明は何かに気付いたかのような表情をする。

 

「そうか、いや、しかし……」

 

[どうしたの、ハル兄?]

 

「いや、なんでもない。とりあえずこちらでも早急に調査でいるように努力してみるよ」

 

[そう? それじゃ、お願いね]

 

 そう言ってライドウとの通信が途切れる。そして晴明は気を落ち着かせるように深呼吸をする。

 そんな晴明に対してカーマが話しかける。

 

「それでマスター? マスターが考えた解決策ってもしかして……」

 

 カーマの質問に対して晴明は言葉少なく首肯することで答える。

 それを見たカーマは少し顔を引き攣らせながらさらに問いかける。

 

「マスターは本当にできると思ってるんですか?」

 

「……確かに()()()は気紛れなところがあるが、それでもるーちゃんと、それに丈槍さんだったかな? 彼女たち二人であれば、あるいは、と思ってしまったんだよ」

 

 特にるーちゃんはジャックとお友達になりたい、なんて言う子だったからな。と告げる晴明にカーマは呆れた表情を浮かべながら疑問を呈する。

 

「それは理解できますが、それでも博打が過ぎるんじゃないです?」

 

「まあ、最悪の事態にならないように備えはするよ。それに、もしも駄目だった場合は、その時はその時でなにか別の方法を考えるさ」

 

 後、もし、本当にそうなればあの子のためにもなるしな。と、晴明は肩を竦めながらそう答える。それを聞いたカーマは天を仰ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、早速晴明はジャック・リパーとともに校舎の屋上にいる瑠璃達のもとに赴いていた。

 そこには瑠璃以外にも、彼女とともに遊んでいた由紀にジャックフロスト、太郎丸。そして彼女たちを見守るように姉である悠里の姿もあった。

 彼女達の姿を確認した晴明は、まず久しぶり、と言うほど離れていたわけではないが、それでも瑠璃のことで多少なりとも縁ができた悠里に話しかける。

 

「やあ、若狭さん。お久しぶり、とでも言うべきかな? なんにせよ無事で良かった」

 

 晴明に話しかけられた悠里は、彼の方を向くとふわりと微笑みながら返答する。

 

「ええ、お久しぶりです、蘆屋さん。私もるーちゃんも、一度ならずに二度まで助けてもらって、本当にありがとうございます」

 

 そう言って悠里は晴明に対して深々と頭を下げる。

 そんな悠里に晴明は押し留めるような仕草をしつつ、彼女に語りかける。

 

「ああ、いや、そんなことしなくていいよ。事故になりそうな時に助けたのは偶然だし、御守を渡したのも、もしもなにか起きた場合後味が悪くなるから、なんて自己満足からだったしね。……それがまさか、こんな事態になるなんて想定外だったけどね」

 

 そう言いながら照れくさそうに自身の頬をぽりぽりと掻く晴明。

 それを見た悠里は口を上品に隠しながら可笑しそうにくすくすと笑う。そして晴明の横にいたジャックに視線を合わせるためにしゃがみ込むと、彼女の手を両手で優しく包み込みながら語りかける。

 

「ジャックちゃんもありがとう。私もるーちゃんも、貴女に助けてもらっちゃったね。それに、るーちゃんと友達になってくれたのも。あの子、すごく嬉しそうにしてたわ」

 

 だから、本当にありがとう。と優しい口調で礼を言う悠里。

 そんな悠里に対してどうしていいかわからずに、オロオロとするジャックだったが、そこで晴明が彼女の頭を優しく撫でつつ話しかける。

 

「なに、お前さんが頑張った結果、感謝されたってことなんだから、素直に胸を張ればいいんだよ」

 

「…………うん。えへへ」

 

 晴明に誇って良いことをした、と告げられたジャックは少し照れくさそうにしながら微かな笑みを浮かべる。

 ジャックの笑みを見た晴明と悠里はお互いの顔を見ると、二人もまた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 一頻り雑談に興じた二人だったが、そこで悠里は何かに気付いた様子で晴明に問いかける。

 

「そう言えば蘆屋さんは、なにか用事があったんじゃないですか?」

 

「ああ、ちょっとるーちゃんにね。あの子、丈槍さんだったかな? 彼女も一緒にいてくれたのは正直ありがたかったが」

 

「るーちゃんとゆきちゃん、ですか?」

 

 二人の取り合わせに意味がわからず首を捻る悠里。これが瑠璃だけならば、彼がほぼしていたこともあり何らかの連絡ないしお願いかな? と理解できるが、そこにこれまで瑠璃とまったく面識もなかった由紀が入ることによって、途端にどういった意図があるのかがわからなくなる。

 そもそもあの子達二人に共通点なんてあったかしら? と考え込む悠里だったが、そんな彼女に晴明は薄く笑うとそこまで考え込まなくてもいいよ、と告げる。

 

「ただ単に、彼女達二人ならきっと大丈夫。なんて直感が働いただけだからね。だから二人の関係性とか、そういうのはないよ」

 

「はあ…………?」

 

 晴明の言い様がよくわからずに生返事をする悠里。そんな悠里を見ながら晴明は再びジャックの頭を撫でつつ、さらに告げる。

 

「それに君の妹、るーちゃんはこの子と友達になりたいって言ってくれたからな。だから、もしかしたら、あの子とも、本当の意味での友達になれるかも知れないと期待してるんだよ」

 

 あの子も本来悪い子ではないんだが、無邪気過ぎるのと、彼女自身もある意味においては被害者のようなものだからな。と誰に聞かせるわけでもなく独りごちる晴明。

 

 そんなことを話しているときに、どうやら瑠璃が二人のことに気付いたようでとテテ、と走り寄ってくる。そして彼女に釣られるように由紀たちも同じように晴明達のもとへ集合する。

 晴明のもとへ走り寄った瑠璃は上目遣いに彼を見つめて話しかけてくる。

 

「おじさん、どーしたの? るーになにか用事?」

 

 瑠璃はそのまま首をコテンと傾げながら問いかける。

 晴明はそんな彼女の様子に、しゃがみこんで彼女に視線を合わせると、笑いかけながら今回ここに来た理由、とあるお願いを告げる。

 

「うん、今日はちょっと、るーちゃんにお願いしたいことがあってきたんだ。それと──」

 

 それまで告げると次に由紀を見る晴明。

 急に見つめられた由紀は居心地悪そうに身動ぎするが、そんな彼女の姿を見た晴明は安心させるように笑いかけながら話しかける。

 

「怖がらなくていいよ、というのは無理な話かな?」

 

「えっと…………」

 

 話しかけられると思っていなかった由紀は、どう答えたものかと思案していたが、そこに瑠璃が彼女の手を握りながら助け船を出す。

 

「ゆきおねーちゃん、おじさんは怖い人じゃないよ?」

 

「…………うん、そうだね」

 

 彼女の真摯な態度と、なにより一切警戒をしていない態度に安全なのだろうと判断した由紀はにへら、と表情を崩す。

 そして今度は自分から晴明に話しかける。

 

「それでどうしたんですか、えっと…………?」

 

 彼女が言いよどんだことで晴明は自身が主に慈との情報交換を行っていて、彼女達生徒とは悠里を除き、そこまで交流をしていなかったことに気付く。

 そのことに気付いた晴明は、面目なさそうな表情で頭を掻くと改めて自己紹介をする。

 

「蘆屋、蘆屋晴明だよ。蘆屋でも、晴明でも好きに呼んでくれ」

 

 そんな言葉を聞いた由紀は、ん~、と考え込んでいたがなにか思いついたようで、ぱん、と拍手するとにこやかに笑いながら晴明に対しての呼び名を告げる。

 

「それじゃ、はーさんでっ!」

 

「は、はーさん? はーさんか……。ま、まあ呼び方に問題があるわけでもないし、良いのかな……?」

 

 由紀の考えた呼び名に面食らう晴明だったが、特に呼び名に問題があるわけではないし、なにより自身が好きに呼べと言った結果だったこともあり、そのまま許容する。尤も困惑自体は隠せていなかったが……。

 そんな困惑した晴明を見ていた由紀は、してやったりと言わんばかりににこにこと笑いながら、改めて今回の用件は何なのかと尋ねる。

 

「それで、はーさん。今日は一体どうしたの? 私にも用事があったのかな?」

 

「あ、ああ。丈槍さ──」

 

「ゆきだよっ、ゆきってよんで」

 

 由紀の問いかけにたじたじになりながら彼女の名字を呼ぼうとするが、その前に由紀自身から、名前で呼んで、と訂正が入る。

 先ほどから由紀にペースを握られっぱなしの晴明は、こほん、と咳払いをして空気を入れ変えると再び、今度は名前で由紀を呼びながら二人に話しかける。

 

「──ゆきさんと、るーちゃんに一つお願いしたいことがあるんだ」

 

 晴明の言葉に名指しされた二人はうんうんと相槌を打つ。それを見た晴明は今度こそお願いの内容を告げる。

 

「そのお願いっていうのは、とある女の子と友達になってほしいのと、本当の意味での友達というのを教えてあげてほしいんだ」

 

 晴明の奇天烈なお願いを聞いた由紀は、人差し指を顎先に当てながら、頭中に疑問符を浮かべて困惑する。

 

「友達になるのはわかるけど、友達を教えて、っていうのは何……?」

 

 他の子達も同じような疑問を持ったようで、皆でうんうんと唸っていた。

 全員をそんな状態にした元凶の晴明は、苦笑しながら簡潔に、本当に簡潔に答えを告げる。

 

「その子はちょっと特殊な環境にいたもんだから、色々と勘違をしてるんだよ。それに、過保護な保護者がそれに拍車をかけてしまってね……」

 

「え? 保護者の方がいるんですか?」

 

 晴明の保護者発言に悠里は疑問を呈する。それこそ、保護者がいるのならば友達を教える、などと言った意味不明な状態にならないのではないか。と思ったのだろう。

 その疑問に晴明は頭が痛そうに顔を顰めながら答える。

 

「ああ、その保護者から、あの子を預かっているんだが、ね……。でもその保護者連中がその子を好きすぎることと、何よりその子のお願いを斜め上のぶっ飛んだ方法で叶えてたもんだから、その子自身も常識が歪んでしまってるんだよ」

 

 そこまで答えると吐き捨てるようにため息をつく晴明。その姿には哀愁が漂っていて、本当に苦労していることが見て取れた。

 そんな彼を見て表情を引きつらせる悠里。昨日の戦いで無双をしていた姿とのギャップがあまりにも激しすぎたし、何よりそんな人物を憔悴させるなんてただ事ではないと思ったからだ。

 

 だが、そんな悠里の思いとは裏腹に二人は晴明のお願いに乗り気なようで、表情には多少の好奇心が見え隠れしていた。

 そして由紀が晴明に話しかける。

 

「それで、それで? その子は今どこにいるのっ?」

 

 わくわくしたかのような楽しげな由紀の物言いに相槌を打つ瑠璃。そんな由紀の雰囲気が伝播したのか太郎丸も尻尾をふりふりと楽しそうに振っていた。

 その様子に晴明は安堵すると、とあるアイテムを彼女たちに渡しながら件の()()を召喚する。

 

「まずは皆にこれを渡しておくよ。そして今から連れて──いや召喚する。バロウズ」

 

《アイアイ、マスター》

 

 バロウズの返事とともに屋上の床の一部に幾何学的な文様が刻まれると同時に、まるでその場に太陽が現出したかのように激しく発光する。

 召喚の様子を興味深く見ていた面々だったが、召喚反応の光がおさまるとそこには、一人の青いワンピースを身にまとい、金髪にリボン型のカチューシャを身に着けた白人の少女が現れた。

 

 現れた当初は目を瞑っていた少女だったが、薄っすらとまぶたを上げていく。その瞳は綺麗な紅眼であり、まさしくお人形のような可憐さを持つ美少女だった。

 ただし、その身には不釣り合いな禍々しいほどの死を体現したかのような雰囲気も放っていたが。

 

「…………ん」

 

 その美少女は辺りを見渡して晴明を見つけると、にこにこと笑いながら話しかける。

 

「あれ、ハルアキ。アリスを喚んだの?」

 

 自らをアリスと名乗った少女。彼女こそがとある二柱に魂を歪められた被害者であると同時に、あらゆるモノに死を振りまく魔人のうちの一体、【魔人-アリス】だった。

 アリスは晴明以外の存在には興味がないようで、由紀たちを完全に無視して、なおも晴明に話しかける。

 

「ねーねー、赤おじさんと黒おじさんはー?」

 

 まるで駄々っ子のように晴明に詰め寄るアリス。

 そんなアリスに晴明は済まなそうに顔を歪めると彼女に話しかける。

 

「ああ、済まないね、アリス。二人は今ここにはいないんだ」

 

「えー? ぶーぶー」

 

 晴明の答えを聞いたアリスは不満そうに文句を言う。

 そんなアリスの姿に悠里たちは苦笑を浮かべ、そして瑠璃は彼女の可憐さに憧れを持ったのか目をキラキラさせて話しかける。

 

「ね、ねっ! るーは、若狭瑠璃。貴女のお名前を聞いて良い?」

 

「えっ? アリスは、アリスだけど……貴女、なに?」

 

 瑠璃が話しかけてきたことに煩わしそうにしながらも一応名を告げるアリス。尤も瑠璃にはアリスの名前を聞いたことでついに()()()()()()()()()()

 

「るーはね、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 その言葉を聞いたアリスは、先ほどとは打って変わって表情を綻ばせると瑠璃に話しかける。

 

「へ~、アリスと()()になりたいんだぁ。なら、アリスのお願いを聞いてくれるよね?」

 

 その言葉に不穏なものを感じた悠里は瑠璃を止めようとするが、その前にアリスは願いを口に出す。

 

「ねぇ、死んで──」

 

「アリス、そこまでだ」

 

 が、すべてを口に出す前に晴明に止められる。そのことが不満なのか、アリスは口を尖らせながら文句を言う。

 

「ハルアキ、なんで邪魔するのっ」

 

「アリス、それは駄目だと毎回言ってるだろう?」

 

 文句を言うアリスに対して、晴明は身をかがめてアリスと同じ目線に立つと彼女の両肩を軽く押さえながら諭すように言う。

 だが、それでもアリスは不満なようでぶー、ぶーと文句をたれている。

 その一連の流れで流石にアリスの異常性に気付いたのか、悠里は妹をかばうように抱きしめる。

 だが、その妹の瑠璃は何を思ったのか、彼女の抱擁を振りほどくとアリスのもとへと歩く。

 

「るーちゃん、そっちに行っちゃ駄目!」

 

 瑠璃に対して静止するように声を掛ける悠里。しかしそれでも彼女の歩みは止まらない。

 しかも何を思ったのか、彼女の後を追うように由紀まで続いていってしまう。

 

「…………ゆき、ちゃんまでっ!」

 

 そのことに驚愕して声を荒げる悠里。

 しかしそんな姉のことには構わずに、由紀たちはアリスのもとへたどり着くと、彼女の手を取って諭すように話しかける。

 

「ねぇ、アリスちゃん。今、この手をどう感じてるのかな?」

 

 由紀の質問の意図が読めないアリスは怪訝そうな顔をしながら答える。

 

「え? ん、と、少しあったかい…………? それがどうかしたの?」

 

 その答えを聞いた二人は顔を見合わせると、コクリと頷き、次は瑠璃が彼女に話しかける。

 

「アリスちゃんは温かいって言ったよね? それは、るーたちが生きているからなんだよ? でも、アリスちゃんはるーに死んでって言ったよね? もしも本当にるーや、皆が死んだら、るーたちも、それにアリスちゃん自身ももうこの温かい感覚を感じれないんだよ? それで本当に良いの?」

 

 そう言いながら彼女はアリスを抱擁する。

 急に抱きしめられたアリスは、目を白黒させるが、瑠璃から聞こえてくるトクン、トクンという心臓の音を聞くことによって、精神が少し落ち着いてきていた。

 そこで瑠璃は急に彼女から離れる。抱きしめるのをやめられたアリスは名残惜しそうに彼女に手を伸ばすがすぐに引っ込める。

 彼女たちが、瑠璃が何を言いたいかを理解したからだった。

 

 だが、その方法(人を殺すこと)でしか友達の作り方を知らないアリスは小さな声で独りごちる。

 

「…………でも、おじさんたちはアリスが間違ってるなんて言ってなかったもんっ」

 

 そう言って座り込んでメソメソと泣き出す。

 その呟きを聞いた悠里は彼女を訝しげに見る。人の常識で言えば、彼女の行動はありえないものなのに、保護者と見られる【おじさん】なる人物は、むしろその行動を推奨しているように感じられたからだ。

 その疑問を氷解させるように晴明が彼女に気付かれないように、アリスの身の上について話す。

 

「……アリス自身も、本来は既に死んだ身なんだ」

 

『……え?』

 

「だが、彼女の魂に目をつけた悪魔たちがいた。それがアリスが言った赤おじさんと黒おじさん。【魔王-ベリアル(赤伯爵)】と【堕天使-ネビロス(黒男爵)】だった」

 

 そして晴明はそのまま皆を見回すと続きを話していく。

 

「最初は、かの大悪魔たちの戯れに過ぎなかった。だが、途中でアリスに対して情が湧いたんだろうな。あの子のため、とあらゆる行動を始めたんだ」

 

「あらゆる行動……?」

 

 悠里が緊張でカラカラに乾いた喉から、絞り出すようにオウム返しをする。その悠里の声の春秋は頷くと、とある世界、この世界とは極めて近く果てしなく遠い世界での出来事を話す。

 

「あの二柱はアリス一人だけのための楽園を作り出そうとした。……その楽園とは、住人たちが永久に朽ちることのない体を持つ楽園」

 

「そんなことが、可能なんですか……?」

 

 晴明の言う楽園が本当に可能なのか問いかける悠里。その問いに晴明はある意味において絶望的な答えを返す。

 

「君たちは、まず受け入れられないと思うが、考え方によっては、この巡ヶ丘自体が二柱が用意した楽園と大差ないものになっているよ……」

 

 その答えで楽園というものがどういうものか察した悠里は絶句する。

 

「そう、若狭さんが考えたように箱庭にゾンビたちを、とは言っても実際には君たちが考えている以上にたちが悪いが……、ともかく、ゾンビたちを永久に朽ちぬ住人として飼っていた。それが楽園の正体だ」

 

 そこで由紀が手を上げて晴明に質問する。

 

「はいっ! はーさん、たちが悪いってどういうこと?」

 

「ああ、それはな。身体こそゾンビ化しているものの、意識自体は人間の意識がそのまま残されていたんだよ。もちろんゾンビ化されたことに疑問に思わないように洗脳された上で、だがね」

 

 晴明の口から絶望的な答えを聞いたことで、由紀も目を見開いて絶句する。

 

「そしてアリスはそこで二度目の死を迎えるまで安穏と暮らしていた。もちろん今ここにアリスがいることで、楽園の終焉があったってことは理解できるとは思うが……。だからこそ彼女は普通の友達というものを知らないんだ」

 

 そして晴明は深呼吸をすると優しい瞳で瑠璃を見て語りかける。

 

「だからこそ、彼女に本当の友達というものを知ってほしかったんだ。そしてジャックに対して友達になりたいと言って、本当に友達になったるーちゃんなら、できるかも知れないと思った」

 

 俺では本当の意味での友達にはなれないからな、と自嘲するように呟く晴明。

 瑠璃がどうしてと言うような視線を向けるが、それを感じ取った晴明は自身が悪魔召喚師である限りはどうしても線引ができてしまうと話す。

 

 それを聞いた瑠璃はどこか決意のこもったか表情をすると、未だに泣いているアリスに話しかける。

 

「ねぇ、アリスちゃん。友達になろう?」

 

「でも、アリス、友達のなり方なんて…………」

 

 そこで瑠璃と同じようにアリスに近付いていた由紀が彼女に話しかける。

 

「そんなの簡単だよっ! ただ名前を呼び合えば良いんだよ」

 

 由紀の言葉を聞いたアリスは驚きのあまりキョトンとする。そんなことでいいのか、と。

 そのアリスの顔を見た由紀は笑顔で頷きながら、そうだよ、と告げる。そして──。

 

「だから、アリスちゃん。私達と友達になってくれますか?」

 

 そう言いながら由紀と瑠璃はアリスに手を差し出す。

 それを見たアリスはしばらく呆然としていたが、花開いたような笑顔を浮かべると。

 

「うんっ、ゆき、るりっ!」

 

 彼女達の手を取って立ち上がる、その顔は年相応の少女のものだった。

 そんな三人の姿を見た晴明は、ホッとした表情を浮かべつつ、手に持った保険(ホムンクルス)が無駄になって良かったと内心安堵していた。

 そして、そのまま悠里に話しかける。

 

「済まなかったね、若狭さん。でも、君の妹さんのおかげで、あの子が真の意味で救われた。本当にありがとう」

 

 晴明の感謝の言葉を聞いた悠里は、緊張の糸が解けたのかそのまま倒れそうになる。

 それを支えた晴明はゆっくりと彼女を地面に座らせる。

 座り込んだ悠里は縋り付くように晴明に抱きつくと、妹はもう大丈夫なのかと問いかける。

 

「るーちゃんは、もう本当に大丈夫なんですよね…………?」

 

 その問いに晴明は安心させるように柔らかい笑みを浮かべると、三人のいる場所を指し示しながら、もう大丈夫だと答える。

 

「あの子達の表情を見てくれ。あんなに一緒になって、それでいて心の底から笑っているんだ。だから、もう大丈夫だよ」

 

 その言葉を聞いた悠里は今度こそ大丈夫だと確信できたのか、あるいは安堵したからか小さく涙を流す。

 そんな姉の心配をよそに妹は、こちらに振り向くと力いっぱいに手を振っていた。

 

 

 

 

 後に、巡ヶ丘学院の校舎で三人、または四人の少女達のよく遊ぶ姿が目撃されるようなった。

 そして、その少女達が遊んでいる場では、常に笑顔が絶えなかったという。

 

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