DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
透き通るような晴天の空の下、巡ヶ丘学院の屋上に少女達の楽しげな笑い声が響く。
その声の主は、由紀と瑠璃に彼女の友達であるジャック、そして三人と新たに友達になったアリスの声だった。
彼女達四人ともう一人、圭の仲魔であるジャックフロストは、今、屋上にある元園芸部用の家庭菜園の近くで、おいかけっこに興じていた。
今でこそジャックフロストも彼女たちと一緒に遊んでいるが、アリスが召喚された当初、彼は彼女にひどく怯えていた。
それもそうだろう。魔人とは死の象徴。具現した死そのものであり、それと同時に彼女は二柱の大悪魔から寵愛を受けている、まさに特別と言っていい悪魔だったのだから。
そんな中で彼からアリスに対する恐怖、と言うよりもジャックフロストについていた彼女に対する色眼鏡を取り払ったのは、少ない時ながらもともに暮らしていた瑠璃の説得と、何よりも由紀の叱責だった。
特に由紀の叱責は、彼女自身が普段【丈槍】としての色眼鏡越しに見られる毎日だったこともあり、それがどんなにツライことなのかを、滾々と諭されたこと、ジャックフロスト自体も素直な性格だったこともあって、その後やはり苦手意識があるのか恐る恐ると言う様子であったが、二人が直接話すことで彼の中にあった恐怖や蟠りも消え、以後は友達として一緒に遊ぶようになっていた。
そんな五人が楽しく遊ぶ様を遠くからニコニコと、あるいは眩しそうに眺めている二人の少女の姿があった。
その二人、瑠璃の姉である悠里。そして今回の災害が起きる前、由紀の数少ない友人の一人であった柚村貴依だった。
彼女たちが遊んでいるところを、楽しそうにニコニコと笑っていた悠里だったが、ふと、彼女たちを、正確には彼女達の中にいる友人である由紀を見つめている貴依に話しかける。
「たかえさん。ゆきちゃんと一緒に遊べないのはやっぱり寂しい?」
貴依をからかうように話しかける悠里に対して貴依は人好きするような笑みを浮かべてると、認めるように返答する。
「……そうだな、確かに寂しいのかもね。でも」
「でも?」
彼女の肯定しつつも、それだけじゃないという言い様に聞き返す悠里。
そんな悠里に対して彼女はどこか嬉しそうにしながら、自身が思っていることを告げる。
「でもね、それ以上に私は嬉しいんだ。あの子が、由紀があんなに楽しそうに遊んでるところを見ることができることが、さ」
「…………え?」
彼女の発した言葉に疑問を覚える悠里。そんな彼女に貴依は一つの、今は慈と彼女だけが知っている由紀の話をする。
「……あの子は、さ。今回のことが起きる前までは、教室の中でも、休みに遊びに行く時も、本当に借りてきた猫のように大人しくてね。自己主張なんてものは、それこそめぐねえの補習授業の時ぐらいしかしてなかったんじゃないかな?」
あの子にとって、頼れる大人ってのは、めぐねえ以外にいなかったみたいだしさ。と感慨深く告げる貴依。
それを聞いた悠里は驚いた表情を見せる。
由紀の楽しそうな、本当に楽しそうな今の姿を見ると、貴依が言うかつての由紀の姿がまったく想像できなかったからだった。
確かに悠里も同学年に【丈槍】がいることは知っていたが、彼女にとっては所詮他人事でそこまで関心を持っていなかったこともある。
だが今、由紀とともに暮らしたことで、彼女の陽だまりのように色々な人を引きつけるような性格のあの子が、そんなことになっていたとは露とも知らなかったのだ。
知らなかったから、なんてことは言い訳にもならないが、でも、もしも、この災害が起きる前に彼女のことを知っていれば何かが違っていたのだろうか。と、思いつめたような表情で由紀を見る悠里。
そんな悠里に貴依は安心させるように語りかける。
「りーさん、そこまで悩まなくてもいいよ」
「たかえさん……?」
「あいつは、ゆきは、そんな小さいことで恨むようなやつじゃないし、それに」
そこで貴依は、にやり、といたずらっ子がするような笑みを浮かべると、先ほどのお返しとばかりに、悠里をからかうように告げる。
「ゆきはりーさんのこと『まるでお母さんみたい』なんて言って懐いてるから。だから、そこまで深刻にならなくていいよ?」
「……んなっ!」
まるでお母さんみたい。と言う由紀からの印象を聞いた悠里は、同学年に年上に見られた怒りからか、はたまた、彼女のような良い子に慕われるという嬉しさ、あるいは羞恥心からか顔全体を真っ赤に、それこそ湯気が立ち上りそうなほど真っ赤にする。
それを見て仕返し成功とばかりに笑う貴依。
そんな貴依に悠里は口を尖らせて文句を言う。
「もうっ、たかえさん!」
そのままポカポカと殴りかかってきそうな彼女に、貴依は両手をぱちん、と合わせると未だに半笑いの状態だったが、悠里に申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にする。
「ははっ、りーさん。ごめんって、このとーり」
貴依の謝罪にも思えないような謝罪だったが、それでも、彼女に謝られてしまった以上、この話題を蒸し返すのは憚られたのか、悠里は一応矛を収める。もっとも、矛を収めただけで不満はありそうな様子だったが。
その時、二人のもとに新たな人影が現れる。
「あれ? 二人とも、こんなところでどうしたんだよ?」
その声の主の方向に顔を向ける二人。
そこにいたのは、彼女達の仲間である胡桃だった。
ぐるん、と自身の方を向いた二人、特に先ほどまで不機嫌だった悠里に、半ば睨まれるような視線を受けることになった胡桃は、うお、と思わず仰け反る。
もっともすぐに仰け反り体勢からもとに戻るが、流石に悠里に睨まれたのが怖かったのか、つつつ、と横滑りで貴依に近付くと彼女に悠里が不機嫌な理由を聞く。
「な、なぁ、たかえ。りーさんのやつ、なんであんなに不機嫌なんだよ……?」
胡桃の質問に貴依は、たはは、と笑って頭を掻きながら自身が原因であることを告げる。
「いやぁ、ちょっと、からかいすぎた、ってところかなぁ……?」
「って、お前が原因なのかよ! お前、マジふざけんなよ! あたしは本当に怖かったんだぞ!」
原因を聞いた胡桃は貴依の襟首を掴むと、がっくんがっくんと揺らしながら文句を言う。
この頃、
だが、それに気付いていない胡桃はそのまま揺らし続けるが、そんな二人のやり取りを見ていた悠里は、貴依の顔の変化に流石にまずいと思ったのか、慌てて胡桃を止める。
「ちょっ、くるみ、手を離して! たかえさんの顔がすごいことになってるからっ!」
「えっ、りーさん? って、うおっ! たかえ、大丈夫かっ!?」
急に悠里に話しかけられたことで驚く胡桃だったが、彼女の指摘で自身が揺さぶっている貴依の様子に気づいたのか、慌てて彼女の襟首から手を離す。
だが、急に手を離された貴依からしたらたまったものではなく、ただでさえ先ほどまで揺さぶられていた影響で平衡感覚がなくなっていたところに、結果として支えとなっていた胡桃の手が離れたことで、彼女はまず、どすん、と思い切り尻餅をついて、そのまま倒れたことから後頭部まで強打するという、泣きっ面に蜂とでも言うべき状態になった。
そして尻と頭にほぼ同時に痛みが来た彼女は。
「あいっ、たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、叫び声を上げると同時に後頭部を自身の手でおさえて、その場をゴロゴロと往復するように転がる。
そんな彼女を見た二人はオロオロとしていたが、しばらくすると痛みが収まってきたのかのろのろと起き上がると、貴依は涙目になりながら胡桃に吠える。
「くぅ、るぅ、みぃぃぃぃぃぃぃ!」
貴依の鬼の形相に、胡桃は内心及び腰になりながらぺこぺこと頭を下げて謝り通す。
先ほどとは真逆になった二人のやり取りを見ていた悠里は、思わず、ぷっ、と吹き出す。
その音を聞いて悠里を見る二人だったが、その行動もおかしかったのか、悠里は我慢できずに笑い出す。
そんな悠里の姿に、完全に気が削がれたのか二人は曖昧な表情で笑う。
そしてそんな二人には構わずに悠里の笑い声が響き渡るのだった。
瑠璃たちと遊んでいた由紀だったが、そんな折に悠里の笑い声が響いてくる。
そのことに驚いた由紀は思わず足を止めて悠里がいる場所を見る。
彼女の行動に、他の面々も同じく足を止めて由紀の視線の先を見る。
そこには、お腹と口元を抑えて爆笑している悠里の姿があった。
そんな珍しいものを見た彼女たちは互いに顔を見合わせる。
だが由紀にとっては、この頃人知れず気難しい顔をしていた悠里が楽しそうに笑っていることはいいことだ、と思い顔を緩ませる。
その時、由紀が着ている上着の裾が何者かに引っ張られる。
なんだろう? と、由紀が振り向くと、そこには彼女の後ろに、ちょこんと立っていたジャックフロストの姿があった。
それを確認した由紀は笑顔を浮かべながら彼に視線を合わせるようにしゃがみ込むと、そのまま彼に話しかける。
「どうしたの、ヒーホーくん?」
笑顔で問いかける由紀に対して、ジャックフロストは自身の身体をガサゴソとまさぐると、一体どこから取り出したのか、一枚のカードを彼女に差し出す。
「ヒホッ、ユキにこれやるホ。きっといつか必要になるホ!」
そう言いながらジャックフロストに差し出されたカードを受け取る由紀。
受け取った由紀は、カードを持ち上げて裏返したりと、全体をしげしげと見る。
直感的に由紀は全体的に青みがかっているそのカードが、どことなくトランプやタロットカードのように見えた。
不思議なカードを貰った由紀は、このカードは何なのか、とジャックフロストに問う。
「ヒーホーくん、このカードって…………?」
由紀の質問にジャックフロストは楽しげに笑いながら内緒だと告げる。
「ヒホホッ、それはそのうちのお楽しみだホ。きっといいことがあるホー」
そんな風に楽しげに喋るジャックフロストを見た由紀は、まぁあの子が楽しげなら大丈夫なのかなと思い、深くは追求しないことにした。
そして、ジャックフロストはそのまま近くにいる太郎丸を見つけるとおいかけっこを始める。
それを見送った由紀や、瑠璃たちは互いの顔を見合わせて苦笑するのだった。
そのように学園生活部の面々が思い思いに過ごしている頃、晴明、慈、透子の大人たち三人と、そして学園生活部であると同時に前世のことを思い出したアレックスの四人は、職員室に集まって慈に渡された一つの冊子を見ていた。
そしてその冊子、緊急避難マニュアルを見た晴明は自身の率直な感想を告げる。
「……確かに、この冊子は秘密基地にあったものとほぼ同一、だな」
「ええ、本当に……」
晴明の感想に追従するように頷く透子。
そんな二人の様子に、慈はどこか恐る恐るといった様子で声をかける。
「……そう、なんですか?」
そんな彼女に晴明は安心させるように微笑むと、彼女の疑問を肯定する。
「ああ、現物は大学に居る信頼できる博士とその助手に預けてるが、預ける前にある程度の記述は確認してたんだ。だから、さっきも言ったようにほぼ同一だと断言できるよ」
ただ、と一言告げる晴明。
そんな晴明に他のメンバーはどうしたのか、と言いたげに疑問符を浮かべるが、それを見た晴明は自身が疑問に思ったことを正直に告げる。
「今の所判明しているのは、今回の災害、むしろ人災と言うべきか。これにランダルコーポレーションが関わっていることと、その背後にメシア教が絡んでいる可能性が高いことなんだが……」
「メシア教、ですか……?」
晴明の話の中で出てきたメシア教と言う名前に聞き覚えがない慈は疑問を口にする。
それを聞いた晴明は、そう言えばその辺りを説明していなかったと思い、かつて秘密基地メンバーに説明したこととほぼ同じ内容を口にする。
それを聞いた慈は得心がいったのか、なるほど、と頷いていた。
「それで話を戻すが、正直な話、企業にしても、メシア教にしても、今回の災害を起こすにしては色々とあまりにも杜撰すぎる気がするんだよ」
「……杜撰?」
「確かに、考えてみると、いくらなんでも行きあたりばったりすぎるわね……」
晴明の言葉に実際のメシア教を知らない透子と、天使たちのことを知るアレックスで正反対の反応が出る。
そこで天使たちのことを知るアレックスが、自身が納得した理由を告げる。
「私もメシア教については、そこまで詳しいわけじゃないんですけど。でも、私が知っている天使たちと比べると本当にやり方が大雑把すぎるんです」
そしてアレックスは一息つくと、続きを話し始める。
「天使たちはもともと秩序を重んじる、と言うよりも絶対視するんですけど、でも今回の行動はどちらかと言えばカオス寄り、今の巡ヶ丘を考えればわかってもらえると思いますが、世紀末思想、力こそがすべてと言わんばかりの世界を作ろうとしてるように見えるんですです」
アレックスの例えを聞いた慈と透子は、確かにそれっぽいと二人して頷く。
二人に納得してもらえたアレックスは満足したような顔を見せると晴明の方を向く。
晴明も彼女の我が意を得たりとばかりに頷きながら話を進める。
「ああ、そうだな。だから今回考えられる原因についてはいくつか考えられる」
そう言いながら春秋は握りこぶしを作ると、その兎地の一本人差し指を伸ばして話を続ける。
「まずは一つ目、メシア教と敵対している宗教、さっきアレックスさんが言ってたガイアが妨害工作を行った結果、今回の災害が起きた」
次に、と言うと人差し指と中指を立てながら話を続ける晴明。
「二つ目の理由はただ単に人的ミスによるウイルスの流出、並びに感染の拡散。考えたくはないけど、ある意味普通の理由だな」
そして、と今度は薬指も立てて、自身が考えたくない可能性を述べる晴明。
「……三つ目は、メシア教がわざと流出させた可能性。この場合、考えられるのはメシア教にとって都合のいい人間以外を
晴明が考えた可能性を聞いた三人、天使たちを知っているアレックスは納得の表情を、そして知らない慈と透子は、そんな人道に反することがあり得るのか、と驚愕の顔を見せる。
特に慈は信じられない、信じたくないという表情を見せながら胸元にかけている私物のロザリオを、ぎゅ、と握り込む。
それを目敏く見つけた晴明だったが、なにも言うつもりはなかった。信教は自由であるし、何より天使の中でも本当にごく少数であるが、人間の味方をする者も存在することを彼は知っているからだ。
そして晴明は不安に思っている慈を安心させるために、今言ったことはあくまで可能性があるだけだ。と話しかける。
その話を聞いた慈は、幾分か気が楽になったのか、ホッとした表情を見せる。
「まあ、美紀と圭の二人から【男土の夜】と呼ばれる過去に起きた災害についての話も聞けたから、今後はそちらも調査すれば、何らかの情報の進展があるかも知れない」
晴明からの情報に知らなかったアレックスと慈は驚いた顔をするが、晴明はそのことについて改めて共有する。
そして一通り話した晴明は、最後に締めの言葉を口にする。
「兎にも角にも、今、生存者がここまで揃ったのだから、まずは皆で生き残ることを考えよう。そのために俺も微力ながら協力させてもらうから、それじゃ、みんな頑張ろう」
晴明の言葉に皆それぞれに、はい、と返事をして全員が生き残るために頑張ることを誓うのだった。