DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
アリスが召喚されて数日が過ぎた。その間、彼女の行動で危険なことを起こさずに、むしろ瑠璃を友達として、由紀を姉として慕っている様子から問題はないだろうと判断した晴明は、以前ライドウに依頼されていたことを解決するために行動を起こすことにした。
ライドウの依頼、それは巡ヶ丘駐屯地の調査のことだった。
本来はすぐにでも行動を起こすべきだったが、直接晴明が動く以上、彼の仲魔達は、魔人である大僧正とアリス、そして現在別行動として大学に居る英雄、ジャンヌ・ダルク以外の仲魔は彼から離れられないことから、どうしても学校の防備が手薄になってしまう。
無論、学校に残る人間の中でもかれら相手ならある程度戦える胡桃や貴依、本人は気付いていないがジャックフロストを仲魔としたことで、少しだけMAGが表面に出てきた結果、身体能力が向上している圭、そして、何より前世の記憶、かつてのシュバルツバースや絶望の未来の記憶と経験を取り戻し、なおかつ相棒であるジョージがともにいる超人クラスのアレックスが居るのだが……。
しかし、悪魔が襲撃してきた場合、今挙げた人物の中で対抗できるのはアレックスと、圭の仲魔であるジャックフロストのみとなり、そこに大僧正を入れてもたった三人。これでは防備が手薄と言っても仕方ない。
なので、晴明は暴走する危険があることを承知しながらも瑠璃や由紀の人柄でアリスが絆される可能性に掛けて彼女を召喚した。
その結果は彼にとって、満点と言っていい状態であり、まだ多少の不安があるものの彼は駐屯地の調査に踏み切ることにしたのだった。
晴明はその旨を大人組に伝えると、単独行動を取る準備をして、そして今はアリスの元へ会いに来ていた。
「……アリス」
晴明に話しかけられたアリスは、一緒に遊んでいた瑠璃や太郎丸に断りを入れて彼の元へ駆け寄る。
「どうしたの、ハルアキ?」
首をコテンと傾げながら彼に問いかけるアリス。
そんな彼女を見た晴明は、視線を合わせるようにしゃがみ込むと、彼女の肩を軽く掴んで真剣な表情で語りかける。
「アリス、俺は今からちょっと外にいかなきゃいけないんだ。つまり、しばらくの間俺が皆を守ることが出来ない。だから、その合間、アリスにるーちゃんや由紀さん、皆を守って欲しいんだ。もちろん、大僧正もいるが、どうしても彼一人では限界がある。でも、そこにアリスがいれば皆を守れる可能性がぐんと高くなるから、ね。頼んだよ?」
晴明からの真剣なお願いを聞いたアリスは、にこにこと笑いながら首肯する。
「うん、要は危ない奴らを全部やっつければいいんでしょ? なら、アリスに任せて。全部、死んでもらうから」
楽しげに、そうのたまうアリスの言葉を聞いた晴明は、顔を引き攣らせそうになるが、それを我慢してよく出来ました、というように彼女の頭を軽く撫でると、もう一度、頼むぞ、と言って立ち上がる。
そして晴明はそのままアリスの元から立ち去る。それを見送ったアリスは瑠璃と太郎丸の元へと戻るのだった。
学校を足早に出発した晴明は、行きがけの駄賃とばかりに校舎の一階と校庭に屯していたかれらを処理すると、そのまま自身の脚力をフルに使い跳躍。比較的無事に残っている民家の屋根に飛び移ると、まるで忍者のように次々に飛び移って移動していく。
ごうごうと風を切りながら屋根を飛び移って移動する中で、周辺を観察する晴明だったが周りには生者の気配はなく、崩壊した街中のそこかしこをかれらが徘徊するのみだった。
そんなかれらの中でも、時々屋根に居る晴明に反応するものもいたが、当の晴明が凄まじい速さで移動していることもあり、すぐに目標を見失って周囲を徘徊することになる。
そうした移動を繰り返した晴明は、昼頃には目的地である巡ヶ丘駐屯地が視界に見えてきていた。
そこで晴明は初めて駐屯地の惨状が見えてくる。
煙こそ上がっていないが各所で倒壊した建物に、明らかに人が成せないであろう破壊痕。
そしてなによりも晴明に異常を知らせる一助となったのは、駐屯地から聞こえる音。破壊された場所には不釣り合いなほどの荘厳な音楽だった。
それを訝しげに思った晴明は、駐屯地に近付くのをやめてそのまま民家の屋根上に留まる。
そして晴明はガントレットを操作するとバロウズに話しかける。
「バロウズ、エリアサーチ」
《オーライ、マスター》
晴明の指示通りに付近をスキャンするバロウズ。しかし次の瞬間には彼女は焦った様子で晴明に報告を上げる。
《マスター、拙いわ! 駐屯地に悪魔の反応、しかもこれは──、魔人の反応よ!》
「…………そう、か」
バロウズの報告に言葉少なく答える晴明。
確かに駐屯地には悪魔と戦えるデモニカ部隊が即応できる形で待機していた。
しかし、悪魔と戦えると言っても、あくまでも想定していた悪魔は妖精や幽鬼などのいわゆる下級悪魔たちであって、まかり間違っても魔王や大天使ともやりあえるような魔人などという規格外の存在に対してではない。
一応デモニカ自体も学習型パワードスーツなので修羅場を幾度となくくぐり抜けることができれば、アレックスやシュバルツバース調査隊のように上級や大悪魔と言えるような面々と正面から切った張ったをできるようになるが、この日本は前世の晴明が遊んだメガテン世界とは違い、曲がりなりにも平和な日本だった。
そして同時にデモニカ自体もまだ生み出されて間もない技術であるからして、圧倒的に対悪魔戦闘を行う回数が少なかったのだ。
そのような状態では、如何に
もし、例えるとするのなら、RPGゲームでようやくチュートリアルを終えてレベル上げを始めたら、ランダムエンカウントで本来ラストダンジョンに出てくる中ボスクラスが現れた、とでも言えばわかりやすいかも知れない。
もしその場にクズノハやファントムの熟練サマナーや、それに類する超能力者たちがいれば善戦、あるいは撃破できる可能性もあったかも知れないが、少なくとも晴明が保護した避難民にはそのような人物はいなかったし、その後のデモニカ部隊の活動内で保護していた場合は五島からライドウ、そして晴明にと連絡が来るはずなのでその線もない。
即ち、現有戦力であるデモニカ部隊だけで魔人と戦った可能性が高く、その結果、魔人に敗北して駐屯地は壊滅したのだろう。
そこまで考えた晴明だったが、ふと、駐屯地の様子がおかしいことに気付く。その理由とは駐屯地が壊滅したにしては、
晴明は、壊滅した以上静かなのは当たり前のはずなのに、そのことに違和感を覚える理由を探して、すぐに思い当たって納得する。
かつて晴明が壊滅した場所で、透子を、瑠璃を、美紀と圭、そして太郎丸を助けた場所では共通点があったのに、この場所ではそれがないからだ。
この場所には無くて、他のメンバーを救助したときにあった共通点、それはかれらの存在だった。
透子の時、彼女はかれらに食われる寸前だった。
瑠璃の時、校庭や校舎は大人のかれらと、子供のかれらに占拠されていた。
美紀、圭、太郎丸の時、彼女らは避難所に籠城してかれらの襲撃を耐えていた時に、晴明に救助された。
と、いったように彼女たちを救助した時は多かれ少なかれ、かれらが関わっていたのに対して、晴明の眼前に広がる駐屯地の様子はと言うと……。
まごうことなく一部建物は倒壊し、また以前火災が起きていたのか焼け焦げた建物などもあることから、壊滅していることは簡単に見て取れるが、しかし、そんな状態にも関わらず人っ子一人どころか、かれらの姿まで見えないのだ。綺麗さっぱり掃除しました、と言わんばかりに。
つまり、今の状態は本来異常なのだが、しかし、フォルネウスが行ったようにここにいる魔人がすべてのかれらを喰らったとしたら……?
その場合は、ただでさえ強い魔人という悪魔が、晴明ですらも即時撤退を選択しなければならないほどの難敵になっている可能性が高い。
そのことに気付いた晴明は、口の中に溜まった唾を飲み込んで、音を立てずに駐屯地の近くに降り立つと仲魔を召喚する。
「来い、クーフーリン、カーマ──」
彼の号令とともに送還されていた仲間たちが再び召喚される。
しかし、彼が告げた名前は
残り一つの謎の光。その答えを告げるように晴明は最後の仲魔の名を告げる。
「──そして、ピクシー!」
晴明が最後の名前、彼の初めての仲魔にして数多くの死線をともに潜ってきた相棒の名を告げると同時に、小さな体に虫のような翅、そして青色のハイレグスーツに身を包んだ少女、妖精-ピクシーが姿を表す。
もしも、この場に圭の仲魔であるジャックフロストがいた場合、彼女の姿を見たら驚愕し、腰を抜かすこと請け合いだろう。
なぜなら、彼女は本来ジャックフロストよりも弱い下級悪魔であるはずなのに、実際のところ彼女が身にまとうMAGは、上級クラス、下手をすれば魔王などの大悪魔クラスと同等だったからだ。
そんな通常からしたらありえないピクシーは、久々に外に出たことで気持ちよさそうに体を伸ばすと、ニヤニヤと晴明を見て話し出す。
「ん~、久々の娑婆だわぁ……。で、マスター? 私を出すなんてトンデモ案件なの?」
ニヤニヤと楽しそうなピクシーに対して、晴明は真剣な表情を浮かべて答える。
「ああ、どうやら魔人がいるようだ。……それで、なおかつ音楽が聞こえてくる、となるとある程度は予想はつくけど、な」
晴明の言葉を聞いたピクシーはなおさら楽しそうに顔を歪めながら、晴明の予想を答える。
「へぇ、つまり魔人-デイビットってわけね。これはまた一筋縄ではいかなそうね」
「ああ、それに今、ここには人はいないから思い切り暴れることも可能だろう?」
それがお前の望みだろう? とでも言うようにピクシーに語りかける晴明。
それを聞いたピクシーは、心底可笑しそうに笑いながら首肯する。
そんな二人のやり取りを見ていたカーマは、げんなりとしながら愚痴をこぼす。
「もうやだ、このバトルジャンキーども。本当何とかしてくださいよ……」
「そいつは無理ってもんだろうよ?」
カーマの愚痴を聞いたクーフーリンは無理だろう、と一刀両断する。
言葉を聞いたカーマはのろのろと彼を見るが、そこには年甲斐もなくキラキラとした笑顔を浮かべるクーフーリンの姿があった。
彼の楽しそうな姿を見たカーマは、そうだ、ここにもバトルジャンキーがいたんだった。と絶望的な表情を浮かべる。
そんな様子でじゃれている二人を尻目に、晴明は警戒しながら駐屯地へと歩みを進める。
そして晴明を追うようにピクシーも移動を開始すると、流石にカーマとクーフーリンの二人も気付いたのか、慌てて追いかける。
そのまま中に入った四人は駐屯地の一角、元は訓練にでも使われていたであろう開けた場所で一心不乱にストラディバリを弾いている魔人、デイビットを発見する。
気持ちよさそうに己が楽曲を披露していたデイビットだったが、突然の乱入者の存在に気付き演奏を止める。そして──。
「おやおや、音楽家の楽屋裏に突撃訪問などと、あまり感心しませんな。ですが……」
急な乱入者、晴明達に苦言を呈しながらも興味深げに見やるデイビット。
興味深げに見ていたデイビットだったが、合点がいったのか楽しそうに頷きながら晴明に話しかける。
「ふぅむ、その容姿からすると、貴殿がデビルサマナー、蘆屋晴明殿ですな?」
「……俺を知っているのか?」
デイビットの言葉に警戒しながらも、彼の質問に肯定しつつ、自分のことを知っているのか、と問いかける。
それを聞いたデイビットは、当然、と笑いながら答える。
「貴殿のことは依頼主から聞いていたのでね」
「依頼主、だと?」
「左様。しかし、誰のことかは教えるつもりはない。なにより今は、貴殿とわたくし達の舞踏を楽しむとしよう!」
それだけを言うとデイビットは問答無用とばかりに、ストラディバリで演奏を開始する。
しかし、先ほどの演奏とは明らかな差異があった。それは──。
「これは……楽譜? なにっ!」
音楽の演奏で用いられる楽譜の書き方である五線譜、それが中空に描き出されると、まるで魔法陣のように円状になり、その中から悪魔が顕現する。
「まさか、軍勢を召喚するとはっ……!」
晴明はまさかデイビットが多数の悪魔を召喚するとは思わずに驚愕する。
そんな晴明の眼前には、複数の妖魔-ヴァルキリー、妖精-ローレライ、妖鳥-セイレーンの群れが現れる。
驚愕している晴明をよそに、デイビットは骸骨でありながら、ニヤリと笑ったのがわかりそうな雰囲気をまとわせ、演奏を激しくしながら語りかけてくる。
「ふふふ、我が死の演目によくぞ参られた。……それでは存分に楽しむといたしましょう! 貴方達の命が尽きる、その時まで!」
デイビットの宣言とともに、悪魔の軍勢、そして魔人-デイビット自身が襲いかかってきた!