DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
色々とリアルが立て込んでいたのと、精神的に参ってたのがあってなかなかに筆が進んでいなかったのですが、ようやく書き上げたので久々の投稿となります。
それではよろしくおねがいします。
自身の心の鎧と呼べるペルソナを呼び出した由紀だったが、先ほどまでの無表情ではなく、瞳の中には確かな知性が宿っているのが見て取れた。
そして遅まきながら、自身の背後に幻影が浮かんでいることに気付いた由紀は驚きの声をあげる。
「えっ? あ、えぇ! ど、どうなってるのっ!」
素っ頓狂な声をあげる由紀を心配した貴依は、振り返って彼女に声をかけようとするが。
「ゆき、大丈夫────、何だよそれぇ!」
由紀の背後にいるペルソナ、【ガブリエル】を見て驚きの声をあげる。
その声を聞いた他の面々も、かれらを蹴散らしつつ由紀の方を見て驚きの表情を見せる。
その中でも悪魔の存在を知るアレックスは、緊張で顔を引き攣らせながら由紀に、正確には由紀の背後にいるガブリエルを警戒する。
だが、皆の中で圭と美紀はここに、巡ヶ丘学院に来る前に訪れた聖イシドロス大学で彼女達の姉弟子兼ペルソナ使いの神持朱夏に出会っていたことで彼女の異能について知っていたこともあり、警戒しているアレックスに対して美紀は落ち着くように諭す。
「アレックス落ち着いて! ゆき先輩の背後にいるのは悪魔じゃないよっ!」
それを聞いたアレックスは未だ警戒しながらも視線だけを美紀に向けて、どういうことなのか、と先を促す。
それを感じ取った美紀は、イシドロスでの朱夏との出会い、そしてペルソナ使いという存在について話し、さらには由紀自身もそのペルソナ使いになった可能性があることを告げる。
美紀の言葉を聞いたアレックスは彼女が冗談を言う質ではないことを理解しているがゆえに警戒を解き、由紀も話を聞いて、そうなんだぁ、と相槌を打つ。
そんな由紀の姿を見た美紀は、なんで先輩がそんな反応なんですか、とツッコミを入れる。
ツッコミを入れられた由紀は頭を掻きながら、えへへと笑って自身も急にペルソナ能力が発現して驚いていることを告げる。
「えへへ。まぁ、私にこんな隠された力、みたいなのがあるとは思ってなかったから……」
と、言いながら照れくさそうに笑う由紀だったが、すぐにそんな場合じゃない、特に太郎丸の安否が気になり真剣な表情になる。
それと同時に、由紀の中にペルソナ能力の使い方、のようなものが思い浮かぶ。
それが本当にそうなのかわからない由紀だったが、今は一刻を争う事態だと思ったために、ぶっつけ本番となるが自身の力を行使する。
「行って、ガブリエル。太郎丸の元へ!」
その掛け声の通りにガブリエルは太郎丸の元へと向かう。
そして太郎丸のもとにたどり着いたことを確認した由紀はさらなる力、自身のペルソナが告げる癒やしの力を使う。
「ガブリエル、お願い! ディア!」
すると、先ほどまでピクリとも動いていなかった太郎丸が、少しだけ身じろぎをするように動く。
それを確認した由紀は安堵のため息をつく。
そして、元凶こそジャックフロストの手によって葬られているが、他にもかれらはまだまだ近づいてきていた。
由紀は、そんなかれらの群れにこれ以上大切な人達は傷付けさせないと気炎を上げると、ペルソナにさらなる命を下す。
「ガブリエル、スラッシュ!」
その言葉とともにガブリエルはかれらに突撃していくと、手に握った剣で、ある者は唐竹割りに、またある者は上半身と下半身が泣き別れになるように次々に斬り捨てていく。
それを間近で見た胡桃と貴依は感嘆の声を上げる。
「なんだよ、あれ……。すげぇ」
「ゆきがやってるのか……」
しかし、胡桃は感嘆の声を上げながらも、どこか悔しげな表情をしていた。
そんな胡桃の様子には気付かず、由紀はさらに畳み掛けるように力を行使していく。
「まだまだっ! ──ブフ!」
彼女が発した命令を受け取ったペルソナはMAGを氷の礫に変換して放っていく。
それを見たジャックフロストは驚きの声をあげる。
「ヒホッ! ユキも魔法を使えるようになったホ?!」
ジャックフロストの感嘆の声を聞いた由紀は、どこか誇らしげな様子で彼に微笑むが、同時に何故かその顔には疲労の色も見える。
そして、由紀はジャックフロストに何事かを話そうとするが、その前にぐらり、とふらつくと、そのまま膝をついてしまう。
それと同時に由紀のペルソナ、ガブリエルもまるでガラスが砕けるような音とともに姿がかき消える。
「あ、あれ? おかしいな……?」
由紀はそれだけを呟くと、そのまま意識を失い倒れ込んでしまう。
その姿を見た面々は驚きの声を上げる。
特に貴依は親友の由紀が急に倒れたことで、慌てて彼女の元へ駆け寄り抱きかかえて声を掛ける。
「おい! ゆき、ゆきっ! しっかりしろよ!」
「…………ぅ」
しかし意識を失っている由紀は彼女の問いかけに答えることはない。
だが、それでも由紀が呻き声を上げることで、少なくとも死んではいないことを理解した貴依はほんの少しであるが安心する。
「心配かけさせるなよ、このバカ……」
そう言って微笑みながら悪態をつく貴依。
だが忘れてはいけない、未だに彼女達がいる場所はかれらが大挙として押し寄せてきている戦場だということを。
そして、由紀はもともと別の防衛箇所担当だったからまだ問題ないが、彼女を守るために貴依が離脱したことで防衛戦力が少なからず低下したことを。
また、胡桃も表情にこそ出していないが由紀が倒れたことで動揺しており、普段に比べると動きに精彩を欠いていた。
そのことを見たアレックスは胡桃に指示を出す。
「くるみ先輩、一度下がってください」
アレックスの指示を聞いた胡桃は、驚愕の表情を浮かべるとまだあたしは戦えると反論する。
しかし、胡桃の反論も虚しくアレックスは彼女に足手まといだと告げる。
「くるみ先輩、今の貴女だと万が一があるかも知れません。だから下がって!」
「──でも!」
「でも、じゃ、ありません!」
アレックスの一喝に思わず怯む胡桃。
そんな彼女を見たアレックスは一瞬、言い過ぎてしまったかと思うが、それでも彼女に死なれるよりはマシだと思い直し、再度胡桃に下がるように告げる。
「私は大丈夫です。だからくるみ先輩はゆきさんを守ってあげて」
胡桃を安心させるように笑いかけながら告げるアレックス。
そんな彼女の表情、覚悟を見てしまった胡桃は二の句が告げなくなる。
そして何事かの言葉を発しようと口をもごもごさせる胡桃。
「────わかった、死ぬなよ!」
次に胡桃の口からはそんな言葉が飛び出してくる。
もともと胡桃自身も、アレックスがジョージと再会してシュバルツバースの記憶を取り戻した後に、ともにかれらを討伐している際も彼女が動きづらそうにしていた事自体は理解していた。
それが、記憶を取り戻した結果、アレックスと自分たちの戦力が隔絶してなお、彼女は自分たちと合わせるためにあえて力をセーブしていたことも。
だからこそ胡桃はそんなアレックスの足手まといにならないように必死に食らいついていた。
そうしないと、あの心優しい後輩は、絶対に無理をすると思ったから。
(でも、やっぱりあたしじゃ力になれないのかよ……!)
内心そう思いながらアレックスに気付かれないように、ギシリと拳を握る胡桃。
そうでもしないと、自分自身に対する苛立ちと情けなさで、どうにかなってしまいそうだったからだ。
自身の拳を握ることでなんとか心を落ち着かせようとする胡桃だったが、彼女はそんな中でも、否、そんな状態だったからこそ心の底からの願いを吐露する。
「……強くなりたい、なぁ。アレックスの足手まといにならないように。そして、役立たずにならないように──」
己が渇望を口にしながら胡桃は覚悟と、ほんの少しの嫉妬が籠もった目でアレックスの後ろ姿を見つめていた。
そんな胡桃に見つめられているアレックスは、彼女が納得していないながらも由紀を守るために引き下がったことに安堵していた。
そしてすぐさま精神を戦闘のそれに切り替えるとバリケードの近くに来ていたかれらに向かって突撃する。
その時、突撃しているアレックスに対してジョージが語りかけてくる。
《アレックス、君は本当にこれで良いのか?》
ジョージの言葉が何を意味するのか、アレックス自身は彼の心配も気遣っていることも理解しているが、それでも、と思い問いかけを黙殺する。
それと同時にこの行動こそが答えとばかりにさらに加速すると、今度は跳躍してかれらの中心に躍り出る。
そのことに気づいたかれらがアレックスに襲いかかろうとするが、その前にアレックスはその場で回転するようにレーザーブレイドを振るう。
すると彼女の一閃は、まるで熱したナイフでバターを切り裂くかの如く周囲のかれらを屠っていく。
そのことに本能的な危険を感じたのか、かれらの進軍が一瞬とはいえ止まる。
それを見たアレックスは忌々しげな表情を浮かべて独りごちる。
「チッ、どうやら彼が言っていたことは本当だったようね」
《……どうやら、そのようだな》
アレックスの独り言にジョージが同意するように答える。
彼女が舌打ちをした理由、それは晴明が自衛隊駐屯地の調査に行く前に、アレックスだけに告げた一つの事実が原因だった。
その事実とは、以前彼が圭たちを助けた時に判明したかれらが
本来、晴明はその事実を他の人間に明かすつもりはなかったのだが、アレックスにジョージを返還したことで彼がその事実に気づきアレックスに報告、その結果、不信を抱かせる可能性があると判断したために先んじて情報の共有を行った、というのが真相だ。
尤も、知りたくもなかった事実を知ることになったアレックスからするとたまったものではないだろうが……。
それはともかくとして、アレックス個人としては晴明の情報に半信半疑だったのだが、今のかれらがした行動、本能的に取った恐怖による硬直を見て、少なくとも生物的な行動を取るということは嫌でも理解できた。
それはつまり、かれらは
「……ということは、なおさら先輩たちにこれ以上、手を汚させる訳にはいかないわ」
《アレックス……》
そんなアレックスの決意の籠もった言葉に、ジョージは彼女を心配するように声を掛ける。
だが、肝心のアレックスは、彼の心配を何の問題もないと言わんばかりに安心させるように薄く笑う。
そして、そのままかれらを軽く蹴散らしながら彼女は言葉を続ける。
「あの人たちは私とは違うの。……そう、本来は手を汚す必要なんてないんだから──!」
そう言いながらアレックスは次々にかれらを斬り捨て、撃ち抜いていく。
そんな彼女の脳裏には今世ではなく前世、遥かな未来世界において多くの同胞たちが殺され朽ち果てていく中、ほぼ唯一の生き残りとなって、なお生き足掻いて自身の、そして仲間たちの未来のために抵抗を続けていたことが過る。
その中でアレックスは、自身のために、仲間たちのために無関係の人間を屠ることもあった。
だからこそ、アレックスはいまさら自身の手が汚れようとも構わないと思っている。それこそ、今回は運良く輪廻の輪に入れたが、今世を生き抜いた先に地獄に落ちようとも納得できるから。
「でも、あの人たちは違うっ!」
アレックスはまるで血反吐を吐くように悲痛な叫びを上げる。
「あの人たちは、ゆきさんは、こんな地獄で手を汚す必要なんてないっ!」
かつて、シュバルツバースの記憶を取り戻す前のアレックスは一つの焦燥感に囚われていた。
もともと今世の友人たちからは、アレックスって真面目すぎるから、と言われ自身も優秀な両親に恥じない人間になるべく努力するべきだ、と追い込んでいたのだと思っていた。
だが、かつての記憶を取り戻した今となってはなんてことはない、ただ単に前世において未来世界の障害になるという理由だけで屠ろうとした人間である唯野仁成とゼレーニンの娘に生まれて後ろめたかったのだ。
自身の勝手のために殺そうとしていた人物たちの子供に生まれ、その結果、本来二人の間に生まれるはずだった子供すら殺してしまったかもしれないという罪悪感。
そして何よりも自分のような罪人が彼等の子供になってしまったという後ろめたさに無意識のうちに突き動かされ、せめてもの罪滅ぼし──それも自己満足に過ぎないが──のために、二人の誇れる人間になろうとした。
そんな浅ましい愚者である自分が地獄に落ちるのは自業自得でしかないし納得できる。
──だけど、彼女たちは、学園生活部の仲間たち、そして親友である美紀と圭は違う!
あの人たちはこんな浅ましい、無意識のうちに壁を作っていた自分に対しても大丈夫だと、みんなで生き残ろうと笑顔で手を引き、闇の中から引き上げてくれたのだ。
そんな日常の象徴と言える彼女たちを、これ以上地獄に身を置かせることはない。
幸いにして自身は既に汚れきった身であるし、いまさら気にする必要はないのだ。
ならば、自分が為すべきことは既に決まっている。
──あの人たちの障害になるものは、すべて薙ぎ払う。たとえその結果、この身が地獄に落ちようとも。
アレックスはそのたった一つの想いを標として敵対者を滅ぼしていく。
そして、それからそれほど時も立たずに、かれらは修羅となったアレックスの手によって殲滅されることになる。
アレックスがほとんど単独でバリケードの防衛を成したのと時を同じくしてもう一つの防衛箇所、由紀が本来防衛していた場所から慈をリーダーとした他のメンバーたちも戻らぬ由紀を心配して合流しに来ていた。
そこで由紀が意識を失っていることに驚く面々だったが、貴依から状況説明を受けたことで一先ずの納得を見せる。
しかし、その中で逆に説明をしていた貴依がそちらこそ大丈夫だったのかと問いかけるが、それを聞いた慈は苦笑を浮かべると終始安全だったことを告げる。
「えぇっと、正直、先生たちの方はアリスちゃんだけで防衛できた、というか過剰戦力だったと言うか……」
「はぁ……?」
慈の煮え切らない言い草に疑問の声を上げながら、ドヤ顔で胸を反らしている
そんな彼女の疑問に答えるようにこの中で、ある意味において唯一の巡ヶ丘学院の関係者ではない透子があちらで起きたことを説明していく。
「まぁ、なんだかんだで、あの子も間違いなく晴明さんの仲魔、同類だったってことになるのかしらね」
最初に引き攣った顔を見せながらそんな感想を述べる透子。
そして、こほん、と咳払いをすると改めて彼女が成したことを順に説明していく。
まず、アリスが行ったことだが、最初の時点で既に加減や躊躇を一切せずに──透子たちは知る由もないが──自身の固有であると同時に彼女を体現するスキル、呪殺系最高峰スキルの【ねぇ、死んでくれる?】をかれらに対してぶっ放していた。
スキルが発動すると同時に、虚空から槍を持ったトランプ兵やテディベアが召喚されて、とあるかれらはトランプ兵の槍に貫かれ、またあるかれらは抱きついたテディベアの自爆に巻き込まれると言った様子で次々と蹂躙されていく。
その後、透子たちにとって驚愕の事態が発生する。
なんと、アリスに屠られたはずのかれらが起き上がると、何故か仲間であるかれらを襲い出したというのだ。
その理由は、アリスが人知れず発動していた魔法【ネクロマ】でかれらを完全なゾンビ化させて、自身の
その一連の行動ですらオーバーキルだったのに、さらに大僧正までが参戦したことにより、瞬く間に透子たちの防衛戦にいるかれらは一掃されることになり、そのことの伝令として由紀がアレックスたちのもと、すなわちここに走ったのだった。
その後のことは、いまさら言うまでもないだろう。
そのことを聞いたアレックスを除く面々は引き攣った表情でアリスを見る。
だが、そのような感じで皆の視線を集めていたアリスは、そのような些事に気にすることはなく、それどころか何かに気づいたようで通路の端に駆け寄るとその場にしゃがみ込む。
そして彼女が疑問に思ったのか圭に対して語りかけてくる。
「ねぇねぇ、けいお姉ちゃん?」
まさかアリスに語りかけられると思わなかった圭は一瞬身構えるが、それでも彼女が晴明の仲魔であり、そして瑠璃と親しくしていることから危険はないと思い直して、アリスの元へ駆け寄る。
そこで圭は、アリスの視線の先を見ることで何故彼女が自身に声をかけたのかを思い知ることになる。
それと同時に圭はアリスの視線の先、ぐったりとして洗い息を吐いている太郎丸を自身の胸に抱きかかえると、切羽詰まった声で美紀に呼びかける。
「みき、太郎丸が、太郎丸が……!」
その問いかけと同時に振り返った圭の胸元に収まる太郎丸の様子に呼びかけられた美紀だけではなく、他の面々も驚き彼女のもとに駆け寄る。
そしてその中でも美紀はオロオロとしている圭の胸元の太郎丸、その体の一部を見て絶句する。
太郎丸の前足付け根部分に血が滲んでいるのとともに見慣れない、しかし同時にかつて一度だけ見覚えがある斑点を見つけてしまった。それは──。
「これ……。まさか、そんなっ」
「どうしたの、みきさん?」
彼女の動揺を不思議に思ったのか、慈は怪訝そうな様子で問いかける。
慈の問いかけに美紀は、明らかに平静ではない、瞳は小刻みに揺れて声を震えた状態で返答する。
「もしかしたら、だけど、太郎丸が感染してるかもしれないんです……!」
美紀の予想を聞いた他の面々は息を呑む。
しかし、その中で胡桃はそんな馬鹿な、と言いたげに美紀に食って掛かる。
「おい、待てよ! 冗談にしても、その言葉は笑えないぞ! だいたい太郎丸は別に噛まれたわけじゃ──」
「感染は! 感染は、噛まれたときだけするんじゃないんです……」
胡桃の抗議の言葉を遮るように感染はかれらに噛まれた場合だけではないことを告げる美紀。
それを聞いた胡桃、そして緊急避難マニュアルの存在を知るアレックスと慈以外の学園生活部の面々は、初めて知る事実に絶句する。
「どういう、事だよ。どういう事なんだよ、それはぁ!」
「それは──」
胡桃の激昂に美紀は気圧されながらも、自身が知る内容を、かつての秘密基地で見た冊子に書かれていた内容を告げる。
その内容は事実を知らない面々には衝撃的だったようで、皆、程度の違いはあれど絶句していた。
その中で、まだ比較的冷静だった悠里が、ふと一つの疑問を抱き美紀に問いかける。
「ねぇ、みきさん。感染経路が複数あることは、その、納得したくはないけど一応わかったわ。でも、なんで太郎丸が感染したと思ったの?」
悠里の疑問にそういえば、と疑問に納得する学園生活部の面々。これには、避難マニュアルの存在を知っているアレックスと慈も含まれていた。
その質問の答えを告げようとする美紀だったが、その前に透子が彼女の声を遮るように答えを告げる。
「えっと、それ──」
「それは、私が一度感染してたから、その時にみきちゃんは症状を確認していたんだと思うの」
「透子、さん……?」
透子の喋った内容が衝撃的だったのか、慈は吃るような様子で彼女の名前を口に出す。
その声を聞いた透子は苦笑して慈たちに謝罪の言葉を告げる。
「黙っていてごめんなさい。でも、下手に事実を告げると皆、混乱するだろうと思って黙ってたの」
「お、おいおい。感染してたって大丈夫なんだろうな?」
透子の返答に不安に思ったのか、貴依は意識を失っている由紀をぎゅう、と抱きしめて警戒するように彼女を見る。
そんな貴依の様子に、美紀は文句を言おうとするが、その前に透子に肩を掴んで止められる。
肩を掴まれた美紀は思わず透子を見やるが、当の本人は美紀の顔を見つめた後に、チカラのない笑顔を浮かべながら否定するように首を横に振る。
二人がそんなやり取りをしている中、一人、瑠璃が貴依の前に立つと目に涙を浮かべながら、大丈夫だもん、と啖呵を切る。
「おじさんが約束を守ってくれたから、とーねぇはちゃんと元気になったんだもん!」
だから大丈夫なんだもん、と涙ながらに告げる瑠璃。
それを見た貴依は、流石に悪いと思ったのか瑠璃と透子に謝罪する。
「ああ、るーちゃん悪かったよ。それに、赤坂さんだっけ? 疑って悪かった」
「いや、いいのよ。こればっかりは仕方がないから」
貴依の謝罪に透子は苦笑いを浮かべながら問題ないと告げる。
その問答で先ほどまでのピリピリした雰囲気は霧散する。
そのことで全員に余裕ができた時に、少しばかり平静さを取り戻した圭が何かを思いついたのか、ぶつぶつと独り言をつぶやく。
「まってよ、あの時、透子さんの体を治したのはジャンヌさんで、それで──」
そして考えがまとまったのか、圭は大僧正に話しかける。
「あの、大僧正さん!」
「ふむ、どうかしたかの?」
「もしかして大僧正さんも感染の治療ができるんじゃないですか?」
圭の疑問を聞いた他の面々、特に学園生活部の者たちは一斉に大僧正の方を向く。
図らずも女性たちの視線を一心に集めることになった大僧正だったが、その子とに何ら感慨を抱くことはせずに、圭の疑問に答える。
「そうじゃのう、確かに──」
そこまで言って透子に視線を向ける大僧正。急に彼から見つめられることになった透子は身動ぎをするが、そんな彼女を見て大僧正は視線を外して今度は圭を見つめ。
「かの娘御について、さまなぁ殿から聞いておる故断言できるが、まず間違いなく拙僧であれば治療は可能であろうな」
その言葉を聞いた圭の表情は、ぱぁ、と明るくなり。
「それなら──」
「じゃが無駄であろうな」
「……え?」
圭が大僧正に治療をお願いする前に、恐らく無駄であることを告げる。
大僧正の返答に不思議そうな声を上げる圭だったが、彼の言葉が理解できると慌てた様子で問いかける。
「な、なんでですか?!」
そんな圭に対して、大僧正は彼女を宥めるように語りかける。
「お嬢ちゃん、けい、と申したか?」
大僧正の言葉に首肯する圭。彼女の行動に満足そうに頷くと話を続ける。
「お主は、そこの娘御の看病をしていたはずじゃったな?」
「…………はい」
大僧正の問いかけに不思議そうにしながらも肯定する圭。
圭の答えを聞いた大僧正は、何故透子が良くて太郎丸が駄目なのか、その理由について告げる。
「彼の者の時は、一日ほど生死の境を彷徨ったと聞くが、それでもなんとか持ち直したのじゃったな」
「はい、だから太郎丸も……!」
「じゃが、そこの子犬と娘御では明確な違いがある。わかるかの?」
「……えっと?」
大僧正の問いかけにウンウンと唸りながら頭の上に疑問符を浮かべる圭。
そんな彼女に変わって美紀が少し顔を青ざめながら答えを告げる。
「もしかして、透子さんはまだ大人で体力の余裕があったから耐えられたけど、太郎丸は子犬でなおかつ怪我までしてるから、体力的に耐えられない……?」
「左様」
「そんな……」
美紀の答えに大僧正が正解だと告げたことで、圭もまた顔を青ざめさせる。
「そんなの、どうにか、どうにかならないんですかっ!」
圭は悲痛な声で大僧正に問いかけるが、彼はただ首を横に振って否定すると、彼女に優しく声を掛ける。
「……死とは誰にでも平等に訪れるものよ。今回はその子犬の番であった、ただそれだけのことよ」
大僧正の言葉に俯いて首を横に振りながら、太郎丸をぎゅう、と抱きしめる圭。
その圭の耳に、一つの、福音か、あるいは悪魔の囁きが聞こえてくる。
「……方法ならある、ホ」
聞こえてきた言葉に驚いて顔を上げる圭。
彼女の涙に濡れた目に声を発した存在、圭の仲魔であるジャックフロストが決意の籠もった目で彼女を見返していた。