DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 お久しぶりです、作者です。
 色々とリアルの事情や、モチベの低下などで更新が遅れましたが、なんとか書き終えたので投稿いたします。
 今後は、少しは更新を早くできると良いなぁ……。


第三十一話 コンゴトモヨロシク

 

 

 

 

 

 圭は太郎丸についてまだ望みがある、と言ったジャックフロストを、涙混じりであるが驚いた表情で見つめ返す。

 己がマスターに見つめられることになったジャックフロストは、彼女の藁をも掴む表情に気圧されそうになるが、それでも、と力強い目線をもって頷く。しかし──。

 

「でも、それにはマスターの、けいの協力が必要だホ」

 

「私の……?」

 

 ジャックフロストの言葉に首を傾げる圭。

 そんな彼女にジャックフロストは再び頷くと自身の方策を告げる。

 

「マスターが持つGUMP。その中にあるアプリ【悪魔合体プログラム】を使うんだホ」

 

「……悪魔合体、プログラム?」

 

 ジャックフロストが言った言葉をオウム返しのように口遊みつつ、圭は太郎丸を近くにいる美紀に預けると、GUMPを操作して目的のアプリを調べる。

 すると程なくして目的のものを発見できたのか、圭は、これ? と口に出してジャックフロストに確認を取る。

 確認を取ったジャックフロストもそれで問題ないとばかりに頷く。

 それを見た圭は早速アプリを起動しようとするが、その時今まで沈黙していた大僧正が唐突に話しかけてくる。

 

「待たれよ、お嬢ちゃんや」

 

 急に話しかけられた圭は驚いて動きを止める。

 そうして圭が動きを止めたことを確認した大僧正は、次にジャックフロストに話しかける。

 

「妖精よ。お主も、だ。それが、どのような結果をもたらすのか、分かった上で言っておるのか?」

 

「どういうこと、ですか?」

 

 大僧正の言い分に不穏なものを感じた圭は問いかける。

 圭の問いかけを聞いた大僧正は、嘆息しながら悪魔合体についての説明をする。

 

「お嬢ちゃんや、悪魔合体とは本来、二種の異なる悪魔を融合させることで新たなる悪魔を降臨させる秘術であり、間違っても本来は生者の治療に使うようなものではないのじゃ」

 

 そして、大僧正は真剣な面持ちで自身を見る圭にさらなる苦悩となり得る言葉を投げかける。

 

「そして、さらに言えば悪魔合体の材料となった悪魔は消滅、新しい悪魔になるのだから当然じゃの。それは肉体だけではなく精神についても同じことじゃ」

 

 かろうじて記憶だけは継承するようじゃがの、と告げる大僧正。そのことを聞いた圭は驚愕の表情を浮かべると一言。

 

「……え?」

 

 反射的にただその声だけを口から漏らすと、ジャックフロストを見る。

 圭から見つめられたジャックフロストは、彼女の瞳の奥底にある否定してほしいという願望を無視して自身の覚悟を告げる。

 

「……そんなこと承知の上だホ」

 

「────ヒーホーくん!!」

 

 ジャックフロストの言葉を聞いた圭は、半ば怒声のような悲鳴を上げると考え直すように語りかける。

 圭にとって太郎丸も大事な存在であるが、ジャックフロストも友人として、そして精神的に追い詰められていた自分を救ってくれた大切な存在なのだ。

 圭自身もそういった大切な存在であるジャックフロストを犠牲にしたくないし、何より太郎丸だってそんなことを望んでいないはずだと思った彼女は、半ば懇願するように説得する。

 

「ヒーホーくん、いくらなんでも、そんなことをしたらだめだよ! そんなことをしても、太郎丸だって喜ばないよ……」

 

 しかし、その言葉にジャックフロストは首を横に振って否定すると。

 

「他に方法はないんだホ、それに──」

 

 それだけ言うとジャックフロストは圭に近づいて自身の掌で彼女の手を包み込むように握る。

 

「オイラは太郎丸を、大切な友達を助けたいんだホ。でも、オイラだけじゃ無理なんだホ。だからお願いだホ、マスター。オイラに友達を、大切な親友を助けるために力を貸してほしいんだホ」

 

「っ、そんなこと──」

 

 できるわけがないよ。と、言おうとする圭だったが、その時、少し前に出会った車椅子の紳士、STEVENとの会話が頭を過る。

 

 ──君は近々、選択を迫られることになるだろう。その選択は君にとって苦しいものになるだろうが、気を強く持って後悔しないような選択をとってほしい。

 

 彼との会話を思い出した圭は混乱する頭で、何故あの人はそのことをわかっていたんだろう、とも、こんなの選択できるわけがないよ、などと考えていた。

 しかし、いくら圭がそんなことを考えていたとしても、それで太郎丸が救われるわけでもなく、何より彼女の決断が遅れれば遅れるほど太郎丸が死ぬ確率が高くなる。

 そのことを理解しているジャックフロストは圭に今一度お願いをする。

 

「マスター、お願いだホ。もし、もしも太郎丸が死んじゃったら、オイラは死んでも死にきれないんだホ。だから……」

 

 そう言いながら圭の手をぎゅう、と握るジャックフロスト。

 彼の握る力に少し痛みを感じて顔をしかめる圭だったが、自身の手を包む彼の手が小刻みに震えて、ジャックフロスト自身のいろいろな不安と戦っていることがわかった。

 それと同時に彼の手からひんやりとしながらも、どこか温かい想いが伝わってくる。

 そのことを感じた圭は、頭の中で色々な考えが、想いがぐるぐると渦巻いていく。

 

 それで半ば混乱しているい状態の圭は、ほぼ無意識に助けを求めるように美紀の方を向くが、そこには先ほど彼女に預けた太郎丸の苦しげな姿が目に入る。

 太郎丸の姿を見た圭は次に、再びジャックフロストの顔を見る。

 彼の顔は可愛らしい顔立ちながらも、どこか圭に懇願するような表情を浮かべていた。

 そんな彼の姿を見た圭は不意に目から溢れ出そうになる涙を堪えると、自身も覚悟を決めたのかジャックフロストをまっすぐに見つめて声を掛ける。

 

「……うん、わかったよ。ヒーホーくん。太郎丸のこと、お願いしてもいい?」

 

「──! 任せるホー!」

 

 圭の言葉を聞いたジャックフロストは力強く頷く。二人のやり取りを聞いた大僧正は、どこか優しげな表情ながらも、諦めるように首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 

 決断した圭のその後の行動は素早かった。

 再びすぐさまGUMPを操作して悪魔合体アプリを起動するとそのまま展開。合体の準備を進めていく。

 すると、圭の前方の地面に二つの魔法陣が展開された。

 そして準備が整うと圭は美紀に話しかける。

 

「美紀、太郎丸を右側の魔法陣の上にお願い」

 

「うん、わかった」

 

 圭の指示を受けた美紀は、その言葉通りに行動し、太郎丸を指定された魔法陣へと横たえさせる。

 それを確認したジャックフロストは太郎丸とは逆側の魔法陣に移動する。

 ジャックフロストの移動を確認した圭は、彼に最後の確認を取る。

 

「ヒーホーくん、行くよ? ……本当に良い?」

 

「大丈夫だホ、マスター」

 

 圭の確認にか可愛らしい顔に笑顔を浮かべて同意するジャックフロスト。

 彼の言葉を聞いた圭は、合体のプログラムを開始する。

 すると、二つの魔法陣が目映く発光し、そして悪魔であるジャックフロストのみ足元からMAGの光に分解されていく。

 そして、分解されたMAGは太郎丸に集っていき、少しづつ体の中に取り込まれていく。

 そんな中で、既に胴体部分まで分解されたジャックフロストが不意に口を開く。

 

「マスター、オイラはマスターとみき、それに太郎丸と出会えて、一緒に遊んで、暮らして幸せだったホ。だから──」

 

 ──ありがとうだホ。

 

 その言葉を最後にジャックフロストは完全にMAGに分解された。

 それと同時にジャックフロストだったMAGをすべて取り込んだ太郎丸の体にも変化が起きる。

 彼の体から爆発的なMAGの奔流が、まるで暴風のように噴き上がる。

 その凄まじさに皆、反射的に己が身を守るために目を瞑る。

 

 しばらく後に、治まったと感じた圭はなぜか先ほどよりも体に不調を感じるが、それを無視して目を開いて太郎丸がいたであろう場所を見る。

 そこには胸元に収まるほどの小さく可愛らしい子犬ではなく、人間を軽々しく組み伏せることができるほどの体躯を持つ、白銀の獅子、それでいて尻尾のみが蛇のように硬質化した異形の存在が佇んでいた。

 

 そしてその異形の存在が口を開く。

 

「我ハ魔獣-ケルベロス。マスターノ敵ハ、全テ我ガ牙デ喰ラッテヤル。コンゴトモヨロシク」

 

 そう宣言するケルベロスと名乗る異形の存在(アクマ)

 ケルベロスの言葉を聞いた圭は、もう子犬の、太郎丸の意識はないのかもしれない。それでも、と一縷の望みを託してかつての、太郎丸の名前を呼ぶ。

 

「……太郎丸、私のこと、わかる? 圭だよ、祠堂圭」

 

 圭の祈るような言葉に、グルル、と唸り声を上げるケルベロス。

 その仕草に体をビクリ、と震わせる圭だったが。

 

「無論ワカルゾ、我ガマスター(飼い主)。朧気ナガラ覚エテイル。アノ大キナ建物(リバーシティ・トロン)デ出会ッタコトモ、ヒーホート一緒ニ遊ンダコトモ」

 

 と、端的に太郎丸として圭と出会ったときのことを覚えていることを告げる。

 そしてケルベロス(太郎丸)はさらに告げる。

 

「ソレニ我ガ倒レタ後ノコトモヒーホーノ記憶ヲ通シテ理解シテイル。……マスターガ無事デ良カッタ」

 

「太郎丸……」

 

 ケルベロスの言葉を聞いた圭は、彼の名前を呼びながら安堵するが、それで緊張の糸が切れたのか膝から崩れ落ちる。

 その後、圭は腕に力を入れて起き上がろうとするが……。

 

「あ、あれ? おかしいな……」

 

 彼女がそう呟いたように、何故か体に力が入らずの腕を立ててもすぐに力が抜けてまともに起き上がることもできなくなってしまっていた。

 それを見た美紀とアレックスは流石におかしいと感じたのか彼女に駆け寄り容態を確認する。

 

「ちょっと圭、大丈夫?!」

 

「しっかりしなさい、ほら」

 

 そう言ってアレックスは圭に手を差し伸べて彼女を立たせようとするが、足にも力が入らないのか、そのまま圭は尻餅をついてしまう。

 その様子を見ていたジョージは彼女の現在の状況を解析して、結果をアレックスに報告する。

 

《アレックス、まずいぞ! その娘の体力が急激に低下している》

 

「……ジョージ?」

 

 ジョージの報告に意味がわからないと言った感じで疑問の声を上げるアレックスだったが、その答えは意外なところから齎される。

 

「……我ガマスターノ負担ニナッテイルノダロウ」

 

「太郎丸……?」

 

 その様に喋った太郎丸に対して疑問の声を上げる美紀。

 不思議そうな顔をしている美紀に、太郎丸は今の圭の状態について解説する。

 

「我ガ悪魔ニナッタ故ニワカルコトダガ、本来、今ノマスターニ我ヲ従エルダケノ力量ガナイノダ。ダガ、ソノ状態デ無理矢理我ヲ維持スルタメニ、マスターハ現在ドンドンMAGヲコチラニ回シテイル。ソノ結果、今ノマスターハ急激ニ体力ヲ消耗シテイル」

 

そこまで言って太郎丸は圭に語りかける。

 

「ダカラ我ガマスターヨ。我ヲ従エルニ相応シイ力ヲ身ニ付ケヨ。……期待シテイルゾ、ケイ」

 

「たろう、まる……」

 

「デハ、マタナ」

 

 それだけを告げるとケルベロスはその身の実体化を解き、自らGUMPの中に入っていく。

 それを見送った圭は、そこで完全に体力を消耗しきったのか倒れ伏す。

 彼女が最後に見た光景、それは美紀とアレックスが焦りの表情を見せながら自身に何かを呼びかける光景だった。

 

 その中で皆が圭に注目していた結果、意識を失っているはずの由紀。彼女の胸元が淡い青色に輝いていることに気付くものはいなかった。

 それと同時に胡桃が昏く淀んだ目で悪魔合体を果たし、ただの子犬から魔獣となった太郎丸を見つめていたことも……。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、圭が太郎丸を救うために合体の準備をしている頃、由紀は微睡みの中にいた。

 そんな時に彼女の肩を何者かがゆさ、ゆさ、と揺さぶってくる。

 その刺激が不快だったのか、由紀は顔を顰めながら、ううん、と声を上げて重い瞼を上げる。

 そして半ば眠気眼であたりを見渡す由紀。そこは一面、青の景色の教室。かつて夢の中で訪れたベルベットルームだった。

 

 そのことに驚きガバリと体を起こして再びあたりを確認する由紀。

 すると自身の直ぐ側に彼女が敬愛するめぐねえのそっくりさん、リディアと名乗った女性がいることに気付く。

 件のリディア自身も由紀が無事に起きたことを確認すると、彼女を安心させるようにニコリと微笑むと自身の主であるイゴールの元へ移動する。

 そしてイゴールはリディアが自身の横に立ったのを確認すると、由紀に向かって楽しげに語りかける。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ。再び相見えましたな」

 

 イゴールに続くようにリディアも由紀へ微笑みながら語りかけてくる。

 

「ここは何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋。貴女様は見事力を覚醒させたようですね」

 

 リディアがそこまで告げた時、由紀の眼前に光が集い形を成していく。

 そして完全な形、鍵のような物になると由紀が座っている席にゆっくりと降りてきてカランと転がる。

 その自身の目の前にある鍵を不思議そうな顔で見た由紀は疑問の声を上げる。

 

「これは……?」

 

 その彼女の疑問にイゴールが答えを告げる。

 

「それは契約者の鍵と呼ばれる物。今日、この日から丈槍様、貴女様はこのベルベットルームの正式なお客人となられたのです」

 

「お客人?」

 

「左様、このベルベットルームは、本来特別な力である【ワイルド】の能力を持つペルソナ使いの方のみが訪れることができる場所」

 

 イゴールの言葉を引き継ぐようにリディアも由紀に語りかける。

 

「ワイルドとは、数字のゼロのように何者でもなく、そして何者にも成れる特殊な素養を持つ方のこと」

 

「それがワイルド……」

 

 リディアが発したワイルドという言葉を噛みしめるように呟く由紀。

 そんな彼女の姿に満足したのか、イゴールは嬉しそうに笑いながら告げる。

 

「左様でございますな。そして我らベルベットルームの住人は、これから丈槍様の旅のお供としてともに行きたく思っております」

 

「旅?」

 

 イゴールが言った旅という意味がわからずに首を傾げる由紀。

 それを見たイゴールは、ふふふ、と笑いながら机の上にタロットカードを広げつつ、自身が言った旅というものがどういった意味なのかを告げる。

 

「丈槍様は今も過酷な道を歩んでおられるようですが、これからはさらに過酷な、ともすれば命を失いかねないほどに危険な道を歩まれることになるでしょう」

 

 そう言いながらイゴールは占いは信じられますかな? 由紀に問いかけつつ指を鳴らすようにスナップすると、彼の行動とともにカードの一枚、現在を司る部分が捲られる。

 そのカードは、塔の正位置。

 それを見たイゴールは低く笑いながら、次は未来を示すカードを捲る。

 そこには悪魔の正位置が置かれていた。

 二つのカードを見たイゴールは彼女が現在置かれている境遇について語る。

 

「どうやら丈槍様の未来には、何らかの誘惑、ないしは裏切りの憂き目に合い、その結果命を落とす可能性があるのかも知れませんな」

 

 そんなイゴールの言葉を聞いた由紀は息を呑む。

 尤もイゴールは由紀の強張った顔を見て、タロットカードを消し去りつつさらに告げる。

 

「しかし、未来とはちょっとした行動で変わるものでございます。なればこそ丈槍様には絆を紡いでもらいたいのです」

 

「絆……?」

 

 由紀が疑問の声を上げるが、その言葉に補足するようにリディアが話しかけてくる。

 

「ええ、そうです。ワイルドは人と人の絆、【コミュニティ】を育むことによって、さらなる力を覚醒させることができるのです」

 

 ですが、とリディアが告げると、手に持っている分厚い書籍の頁を捲りながら、彼女にとって寝耳の水ともいえる言葉を放つ。

 

「既に丈槍様はいくつかの絆の力、コミュニティを開放されているようですね……」

 

「……え?」

 

 リディアの言葉を聞いた由紀は思わず目を点にして彼女を見つめる。

 だが、リディアはそんな由紀の様子を見て、それでも関係ないとばかりに話を続ける。

 

「丈槍様が築いたコミュニティは魔術師(胡桃)女教皇(悠里)法王()節制(貴依)運命()正義(美紀)太陽(瑠璃)、そして刑死者(アレックス)を開放しているようですね」

 

「……そうなの?」

 

「ええ、このペルソナ全書に確かに記されていますので」

 

 リディアの話に首を傾げる由紀に対して、本人は自身が持っている書籍、ペルソナ全書を彼女に見せつけるように掲げて告げる。

 

「これはペルソナ全書と呼ばれる物。丈槍様のペルソナと、そして丈槍様の旅の歩みが記されている書物です」

 

 そう言ったリディアの言葉を聞いた由紀は、おぉ~、と興味深そうに彼女が持つペルソナ全書をまじまじと見る。

 そんな由紀の様子がおかしかったのか、リディアはくすり、と薄く笑う。

 その時、由紀の胸元からほんのりと青い光が漏れ出す。

 そのことに驚いた由紀は慌てて光の根源を弄ると、原因となった物体を自身の眼前に持ってくる。

 眼前に持ってきたものを見た由紀は、何故これが光ったのか、と不思議そうにする。

 その物体とは──。

 

「これ、ヒーホーくんから貰った……、カード?」

 

 由紀が言うとおり、その物体は以前彼女がジャックフロストと遊んでいた時に、彼からいずれ必要になる、と渡された仮面の絵が描かれたタロットカード、のようなものだった。

 何故光っているのか不思議に思いながら、仮面が描かれた反対側をひっくり返して見る由紀。

 すると、先ほどまでは真っ黒く塗りつぶされていた部分に何かが描かれていく。

 その描かれた()()を見て息を呑む由紀。彼女が見た描かれたモノ、それは──。

 

「……ヒーホーくん?」

 

 由紀が呟いたように、描かれたモノは右手を上げて、まるでバイバイと手を振っているようにも見えるジャックフロストの姿だった。

 手に持ったジャックフロストが描かれたカードをまじまじと見つめる由紀。そんな彼女にイゴールが感心したというように話しかける。

 

「ほう、丈槍様は既にペルソナカードも入手しておられるご様子。ますます興味深いですなぁ」

 

 急にイゴールに話しかけられたことで、由紀は肩を震わせてびっくりしながら彼の方を見る。

 そして、彼が言ったペルソナカードというのがどういうものなのかと問いかける。

 

「……ぺるそなかーど? それって?」

 

 そんな彼女の疑問にイゴールは少し笑いながら答える。

 

「フフ、先程も申したとおり丈槍様が覚醒した力はワイルド。何者でもなく、そして何者にも成れる能力です。ここまではよろしいですかな?」

 

 イゴールの問いかけにこくん、と頷く由紀。彼女の様子に満足したイゴールはさらに話しかける。

 

「ペルソナ使いは本来一つの特化したペルソナしか扱えませんが、ワイルドまるで仮面を付け替えるがのごとく、ペルソナを付け替えることができるのです。そして付け替えるための鍵が、今まさに丈槍様が握っているペルソナカードなのでございます」

 

 イゴールの説明に、そうなんだ、と頷こうとする由紀だったが、急に視界が明滅したことで頭を抱える。

 それを見たイゴールは彼女に時間が来たことを告げる。

 

「どうやら現実での丈槍様が目覚めようとされているようですな」

 

 イゴールの言葉を聞いた由紀は、定まらない視線をイゴールの方に向けようとするが、既に目を開けていることすら億劫なのか、そのまま机に突っ伏しそうになっている。

 そんな由紀にイゴールは優しく語りかける。

 

「ですが、その契約者の鍵があれば、次回からは丈槍様のご都合の良い時に訪れることができましょう。……では、また相見える時まで、ごきげんよう──」

 

 そのイゴールの言葉を最後に由紀の意識は闇に堕ちていった。

 

 

 

 

 

 次に由紀が目覚めた時、彼女は自身がいつも使っている布団の中で横になっていたことに気付く。

 そして彼女の隣には、うとうとと舟を漕いでいる貴依の姿があった。

 そのことを不思議に思い彼女に声を掛ける由紀。

 

「……たかえちゃん?」

 

「んぅ、うん? ゆきぃ?」

 

 由紀に話しかけられた貴依だったが、半分寝ぼけたように声を返すが、すぐに由紀が起きたことに気がつくと、眠気が吹き飛んだのか驚いた顔で由紀を見たあとに涙を浮かべて感極まった様子で抱きつく。

 そのことに目を白黒させる由紀だったが、ふっ、と優しげな表情を浮かべると一言。

 

「おはよう、たかえちゃん。心配かけてごめんね」

 

 と、優しい声色で貴依を安心させるように告げるのだった。

 

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