DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
「そうか、丈槍さ──、いや由紀さんがペルソナを、な……」
「えぇ、そうよ。貴依さんの話ではあの子がペルソナを召還する時、【ガブリエル】って言ってたそうよ」
「……ガブリエル、か」
透子から聞いた言葉にそう言って顎に手を当て考え込む晴明。
彼女から学校に残った面々の現状を聞いていた晴明。
それは、結論から言うと、彼が戻ってきた時にはすべてが終わっていた。即ち晴明は端的に言ってしまえば、かれらの襲撃には間に合わなかった、ということだった。
そのことと、何より彼が帰ってきた時に由紀と圭が倒れていること、そして太郎丸を助けるためにジャックフロストがその身を犠牲にした。という事実を知った晴明は、もしも、もっと早くにデイビットの策に気付いていれば、と臍を噛む。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない、考えた晴明は自身の不甲斐なさに対する怒りを内面に押さえ込みながら透子に話を聞いていたのだった。
その最中に聞いた由紀の
だが同時に、彼女が覚醒したことについて、心の中でどこか納得していることにも不思議と驚きを覚えていた。
「──あの子は、由紀さんは」
そこで言葉を切った晴明に訝しげな視線を向ける透子。
そんな透子の様子に気付かず、あるいは意図的に無視して晴明は独り言のように呟く。
「もしかしたらあの子は、世界に選ばれた、
「選ばれて、しまった……? それってどういう……」
晴明が発した言葉に対して不思議そうな顔をして問いかける透子。
その透子の問いかけに、晴明はどこか決まり悪げにして頭を掻きながら答える。
「あぁ、そうだ、な……。──とある例え話でもしようか」
それだけを言うと晴明は何かを思い出すように話をはじめる。
それは、晴明がかつて生きた世界で語られたとある一人の少年、
その少年はごく普通の、晴明や
そのままごく普通に両親に愛され、少年自身もまっとうに、万引きなどの軽犯罪を犯すこともない、そして友人が、知人が間違いを犯そうとするなら叱ってでも道を正そうとする正義感の強い少年として育っていった。
しかし、そんな少年に対してとある転機が訪れる。
ある日、とても不思議な夢を見た少年は後にその夢の中で出会った二人の少年と現実でも出会い、その後、数奇な運命を辿ることになる。
その中で少年たちは、時に協力して、また時には互いに相対しながらそれぞれの目的のために行動していた。
だか、ある時少年はとある悪魔の奸計に嵌まり、仲間たちを助けるためにその命を散らす。
しかし、その少年の献身を見た神の御使いは、ここで少年の命が失われるのはあまりにも惜しい、と、そして彼こそが
──自身たちの傀儡として、洗脳を施した後に、だが。
その後、少年は神の名の下に、
そして、カテドラルに於いての最終決戦。彼はかつての仲間のうちの一人、悪魔としてではなく、また救世主の道も選ばず、
最後まで洗脳が解かれることもなく、救世主、否、神の
その話、物語を聞いた透子はしばし、あり得ないことを聞いたかのように絶句するが、すぐに正気を取り戻すと晴明に掴み掛るように近づいて問い詰めようとする。
「晴明さん! それってあの子が、由紀ちゃんが、その例え話の男の子と同じ道を辿るかも知れないって言いたいの?!」
「そんなことはない、させるつもりもない。そもそもあの子の仲間、学園生活部にアレックスだってそんなことは望んでいない。それに──」
問い詰めてくる透子に対して、晴明はそう反論する。そしてさらに苦々しげな表情を浮かべて何かを話そうとするが。
「……いや、なんでもない」
そのまま途中で口を閉じる。そんな晴明の様子をどこか不思議そうに見つめる透子だったが、彼女に対して晴明は。
「本当に何でもないんだ、気にしないでくれ」
と、さらに言葉を告げる。
そのことに何かがあると考えながらも、同時に晴明は何があっても話すつもりがないことも感じた透子は不承不承ながら頷く。
そのことに、透子がしつこく問い詰めなかったことに対してありがたい気持ちと、そして申し訳なさを覚える晴明。
そもそも先ほど口をつぐんだ理由、それは由紀に対する申し訳なさと、そして自身に対する情けなさが理由だった。
実は、もともと晴明は彼女、由紀が何らかの異能に目覚めたかも知れないことを、生活部顧問の佐倉慈から相談を受けていた。
そしてその中で、由紀の口から知らない人の名前、リディアという名前と、そしてイゴールという名前を聞いたということも併せて教えてもらっていた。
──イゴール。そして
それだけあれば、彼にとって由紀がどのような力を得たのか、などということは想像に難くない。
あるいは、
いずれにせよ、由紀がかの英雄たちと同じ能力に覚醒したと言うのであれば、今後は大丈夫だろう、と安心した。
本来であれば、彼女たちを保護しなければならない自分が、その責任を只の、戦いも知らぬ女の子に押し付けて、もう死ぬことはない。もう安心だ、と。
確かに晴明にとって自身の死から逃れるために行動することは大前提ではあるが、だが、それでも悪魔召喚士として、何より人として超えてはいけない一線というものがある。
それなのに、晴明は彼女が居れば大丈夫。などといった無責任な考えを一瞬とはいえ考えてしまった。
自身が死の恐怖、というものをよく理解しているはずなのに、よりにもよって、それを丈槍由紀という一人の少女に押し付けようとしてしまった。
これがよく知らない人間、それこそ透子や学園生活部の面々に話したとしても、晴明にもそんな感情がある、と思い彼を安心させるために尽力してくれるだろう。
彼女たちの行動は美徳と言ってもいいし、晴明自身もそれに感謝することはあっても、咎めると言ったことはないだろう。
しかし、そういうことではないのだ。
曲がりなりにも晴明は裏世界の戦いのプロフェッショナルであり、実際にいくつもの異界を踏破してきた実績もある。
だからこそ、それだけの実績があるからこそ、晴明は由紀に任せれば大丈夫、などとほんの少しでも考えてしまった自分自身が許せないのだ。
晴明自身、もとは自身の出自など知らずに生きてきた人間だった。
その中で前世の記憶を思い出し、そしてかの魔神の
しかし、彼女は、由紀は偶然──もしかしたら必然なのかも知れないが──ペルソナ能力を開花させた、いわば朱夏と同じ、ただの被害者でしかない。
そんな彼女にこれ以上の重荷を背負わせるなどと、それは戦う者として、そして何より男としても情けないではないか。
だからこそ、
何よりも死と呼ばれるモノがどれほど恐ろしいか、転生という経験を以て知っているのだから。
それ故に、
そこまで自身の中の思いを再確認した晴明は、さて、これからどうしたものか?と、考える。
と、その時二人がいる部屋のドアが慌ただしくノックされ、しかし、二人が返事をする前に美紀が足を縺れさせながら入ってくる。
「どうしたんだ、美紀? ずいぶんと慌てて……」
「ゆき先輩が目覚めました!」
早口で二人に由紀が目覚めたことを告げる美紀。
その報告を聞いた透子は表情を明るくさせ、晴明もまた安堵の表情を浮かべていた。
そして晴明は、美紀に由紀の容態について確認をとる。
「そうか、それはよかった。それで、美紀。由紀さんの意識ははっきりしているのか?」
晴明の確認に美紀は何度も頷きながら肯定する。
「は、はい! たかえ先輩が看病してたんですけど、その時に起きられたようで……。今はりーさんや、くるみ先輩と話してます」
美紀の報告を聞いた晴明は、そうか、ありがとう。と、簡潔に伝えると席を立つ。
それを見た透子はどうしたの?と晴明に問いかける。
その透子の質問に晴明は一言。
「あの子が起きたのなら、俺も聞きたいこと、話したいこともあるからな。だから、ちょっと由紀さんのところに行ってくるわ」
そして晴明は美紀に、由紀さんのところまで案内を頼む。と、言って二人で由紀のもとへ向かうのだった。
晴明が由紀のいる部屋に辿り着いた時、そこでは学園生活部の面々が楽しげに喋っていた。
正直その光景を見た晴明は、あの現場に男一人で入るのは、と躊躇したくなったがそれでも確認しなければならないことがあるために意を決して部屋に入る。
「あ~、歓談中に済まない。由紀さん、少しお話を聞いてもいいかな?」
晴明の言葉にまさか自分にお呼びがかかると思わずにビクリと肩を震わせて驚く由紀。
しかし、すぐに気を落ち着かせると、晴明ににこりと笑いかける。
「どうしたの、はーさん?」
「ああ、さっき透子さんから由紀さんがペルソナを使ったと聞いてね。それでお話を聞きたいのと、もしわからないことがあれば、こちらの知りうる限りとなるがある程度説明できると思ってね」
「おおー……」
晴明の言葉に感心したような声を上げる由紀。
そして他の学園生活部の面々、特に胡桃と悠里、さらには慈も興味津々といった様子で晴明の顔を見る。
慈が興味津々と言うこと、それとイゴールにまだすべてを説明されていないことを感じ取っていた由紀はこほん、と咳払いをすると早速質問をする。
「……えっと、それじゃ、はーさん。私がペルソナを使った後に急に倒れちゃった原因ってわかる?」
由紀の質問に晴明は顎に手を当てて少し悩むと、予想ではあるが答えを話す。
「ふむ、倒れた理由、か。それなら恐らく……」
「恐らく?」
「単純に慣れていなかった、から。だろうな」
どんな理由かと興味津々に聞いていた面々だったが、晴明の答えが悪い意味で予想外だったのか、えぇ、と呆れた顔になったり、ボケを聞いたようにズッコケたりといった反応を見せていた。
そのことに晴明は、彼女たちが何かを勘違いしていると悟ったのか、苦笑してさらに説明を加える。
「ああ、恐らく皆が考えていることとは違ってだな。……そうさな。恵飛須沢さんは、たしか元陸上部だったよな? 例えば、入部した当初は走るとすぐに息切れしてたけど、ある程度練習した後、同じコースを走っても息切れしなかったり、タイムが上がったりなんて経験はあると思うんだが。どうかな?」
「え? ああ、確かにそういうことは、まぁ、普通にあるよな」
晴明の例え話に首肯しつつ答える胡桃。
胡桃の答えを聞いた晴明は一つ頷くと、改めて全員を見渡して話しはじめる。
「それと同じようにペルソナを使う時も体力や精神力なんかを消耗するんだ。そして、その消費する力を俺たちは
晴明の確認するような問いかけに全員がこくりと頷く。それを見た晴明はさらに話を続ける。
「そして生体と言う言葉が付くことからわかるとは思うがMAGとは生命力そのものと言っていい。……それで、ここからが理由となるが、由紀さんがMAGを急激に使用して生命力が低下、その結果意識を失って倒れた、と言うところだと思う」
状況を見ていないからあくまでも推測でしかないけどな、と付け足す晴明。
晴明の言葉に得心がいったのか、全員が、おおー、と感心の声を上げたり、しきりに頷いたりしている。
そこで何かに気付いた由紀が目を点にして声を上げる。
「ん? って、ことは私、もしかして結構危ない状況だった……?」
「まぁ、俺の予想が当たっていれば、という話にはなるが、な……」
由紀の疑問に晴明が苦笑しながら、直接口に出してはいないものの肯定ともいえる言葉を出したことでショックを受ける由紀。
そして、それ以上に貴依がショックを受けたようで、由紀の肩を掴むと心配そうに体の調子を確認して、そのまま布団に寝かしつけようとする。
「ゆき、やっぱりお前もう一回ちゃんと寝とけって! まだ起きたばっかりで本調子じゃないかも知れないんだから!」
「ちょっ、たかえちゃん。私は大丈夫、大丈夫だからっ!」
「お前の場合大丈夫じゃなくても、やせ我慢して大丈夫って言うだろうがっ! いいから──」
そんな様子で、すったもんだの押し問答を続ける由紀と貴依。
それを晴明は苦笑して見ていたが、流石にそのままでは話が進まないと思い、助け舟を出す。
「あぁ、柚村さん? 由紀さんの健康状態は問題ないはずだから、心配しなくても大丈夫だと思うぞ?」
その晴明の助け舟に、これ幸いとばかりに乗っかる由紀。
「ほら、たかえちゃん! はーさんもこう言ってるんだから大丈夫だって、ね?」
由紀の言葉に貴依は睨みつけるような視線を晴明に向ける。
貴依の不躾な視線に、晴明は彼女を安心させるように笑いかけながら太鼓判を押す。
「今の由紀さんはMAGが活性化、あぁ、わかりやすく言えばむしろ元気が有り余ってる状態なんだよ。だから心配しなくても大丈夫」
晴明の言葉を聞いた貴依は、今一度由紀の方を向くと確認を取る。
「ゆき、本当に、ほんっとうに大丈夫なんだな?」
「大丈夫、大丈夫。ほら元気、元気!」
そう言いながら力瘤を作るような仕草をする由紀。
そんな彼女の様子に貴依は、ぷっ、と吹き出すと一言。
「ああ、わかったよ。信じるよ」
そして次に晴明の方を向くと軽く頭を下げる。
「蘆屋さん、疑ってごめん」
貴依の謝罪に晴明は微笑みを浮かべながら、構わないよ、と答える。
「知らない以上、どうしても疑わしいと感じてしまうからね。仕方ないだろう」
実際のところ、貴依の疑問も当然のことである以上、晴明としても彼女を責める気はさらさらなかった。
そのこともあり、もうこの話は終わりと言うように今度は晴明から由紀に話しかける。
「ところで由紀さん。改めてこちらも聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「うん、いいよ。はーさんの聞きたいことってなぁに?」
晴明の言葉にこてん、と首を可愛らしげに傾けながら聞く由紀。
由紀の可愛らしい仕草に他の面々がほっこりとしている中、晴明は真剣な表情で口を開く。
「由紀さんが以前寝言で言っていた人の名前、リディアという人と、もう一人イゴールという人について聞きたいんだが」
晴明の言葉に以前リディアの名を聞いた悠里、そしてその後に寝言でイゴールの名前も聞いた慈がそう言えば、というように興味を持った視線を由紀に向ける。
その視線を受けた由紀は、冷や汗をダラダラと流して体を震わせる。そしてそのままの状態で彼女が口を開く。
「な、なななんのことかな……?」
「いや、そこまで動揺してたら誤魔化すものも誤魔化せんが……」
口吃る由起を見て晴明は思わず突っ込む。
そして晴明は、彼女の態度で得心が言ったように独り言のような声の大きさで一言呟く。
「……なるほど。やはりワイルド、か」
その言葉が聞こえた由紀の態度の変化は劇的だった。
彼女は驚愕の表情を浮かべて晴明を見る。
そんな彼女の反応を見た他の面々は、ワイルド? と、由紀が反応した単語をオウム返しのように口遊む。
そのことに由紀はしまったとでも言うように顔をしかめる。
由紀の渋面を見た貴依はどういうこと? と、言いたげな表情で由紀と晴明を交互に見る。
そのことに気付いた由紀はあ~、う~、と呻きながら何事かを話そうとするが、それでも意味ある言葉が口から出ることはなかった。
その中で晴明が詳しい情報の出どころは言えないが、と前置きしながら由紀の代わりにワイルドがどういった存在なのかを告げる。
「──ワイルドとは人と人との絆を力に変える、そんな存在だ」
「絆を、力に……?」
「ああ、あるいは想いを力に、と言い換えてもいいかもな」
晴明の言葉を聞いた貴依は、想いを力に、と反芻する。
そのことに晴明はうむ、と頷くと美紀と圭に話かける。
「二人は朱夏もペルソナ使いだということは憶えているな?」
晴明の確認にこくん、と頷く二人。
二人が同意したことに驚く慈。
慈も以前に晴明から彼女が異能を持っているとは聞いていたが、それが由紀と同じものとは聞いていなかったためだ。
それを見た晴明は今さらながら詳しく話していなかったな、と思い、慈に謝罪しながらさらに話をする。
「そういえば、佐倉先生にはそこら辺の詳しい話をするのを忘れていたな。申し訳ない。だが、それはそれとして、今は説明を続けさせてもらうよ」
そして晴明は空気を整えるように一つ、咳払いをするとイゴールが由紀に言ったことと同じ説明を始める。
それを聞いた面々は口々になるほどと声を出したり、納得がいったのか頷いている。
その中で貴依が、質問があるのか挙手をする。
「それで、絆が力になる、ってのはわかったけど、さ。ゆきは、具体的に何すればいいのさ?」
貴依の疑問に晴明は一つの解を告げる。
「それは、まぁ……。彼女が彼女らしく、心の赴くままに過ごす。言ってしまえば日常を謳歌する、ということになるかな?」
「日常を謳歌する、って言われても……」
晴明の答えを聞いた貴依は呆れたような、否定するような音色で告げる。
事実、今の巡ヶ丘は今回のバイオハザードといえる事態でどう考えても
しかし、それでも晴明は告げる。
「あぁ、柚村さんが言いたいことはわかるつもりだ。でも、だからこそ、由紀さんは学園生活部の発足を提唱したのだろう? 今の非日常の中で、それでも日常を見失わないように生きよう、と」
「それは……」
晴明の言葉に二の句を告げなくなる貴依。
彼が言ったことも彼女達にとって紛れもない事実だったのだから。
由紀が学園生活部を作ろうと提案したからこそ、今の自分たちがいるのだと。
学園生活部の仲間たちがいたからこそ、ギリギリのところで踏ん張れたのだと。
ふと、そんなことを思う貴依だったが、その時由紀が笑いながら声を上げる。
「えへへ、まぁ、私もあーちゃんみたいに戦えるわけじゃないけど──」
そこで由紀はハッとした様子で、でも今はあーちゃんやくるみちゃん、たかえちゃんと一緒に戦えるよっ! と言いながら胸を張る。
そして、由紀は自身の当時の思いを馳せるように、あの時の決意を語る。
「あの時は、はーさんやお爺ちゃんのことを知らなかったし、最悪生き残りが私たちだけ、なんて可能性もあったから。この世界には
そこで由紀は真剣な表情を浮かべると、皆を見渡し、ズビシィ! と、虚空を指差して宣言する。
「だったら、私がヒーローに成ればいい。【ヒーローなんて待ってるもんじゃない、ヒーローはなるもんだ!】って、ね」
ダリオマンの受け売りだけどね。そう言って、由紀はいたずらっ子のように笑う。
それを聞いた胡桃は、何だよ、それ。漫画かよ。と、可笑しそうに笑う。
胡桃の笑いに触発されたように他の面々も笑い出す。
その中で晴明は眩しいものを見るかのような視線で由紀を見る。
そんな視線で見られると思っていなかった由紀は照れ臭そうに身じろぎする。
が、晴明は恥ずかしがる由紀を見て笑いながら彼女に話しかける。
「由紀さんが英雄、か。由紀さんならなれるかも知れないね?」
そう言って晴明は柔らかい笑みを浮かべると、由紀の頭に手を置くと良い子、良い子、とするように頭を撫でる。
晴明の急な行動に身構える由紀だったが、頭を撫でられることが心地よかったのか、次第に目を細めてされるがままになる。
そうして頭を撫でられ続ける由紀だったが──。
「────っ!」
急にビクリと体を震わせる。
そのことで心配したのか貴依が不安そうな様子で話しかける。
「お、おいっ? 由紀、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ、へーき、へーき」
貴依を安心させるようにへにゃり、と笑みを浮かべながら由紀はそう告げる。
そう言って由紀は再び晴明のナデナデを堪能しながら、先ほど自身の頭の中に流れた不思議な声について考える。
──我は汝……、汝は我……。
汝、新たなる絆を見出したり……。
絆は即ち、希望の道標なり……。
汝、皇帝のペルソナを生み出せし時、
我ら、さらなる力の祝福を与えん。
このように聞こえてきた言葉。
これが、イゴールやリディア、晴明が言っていたコミュニティなのだろう。
同時に、これは自身が、そして晴明が互いのことを想ったからこそ絆として成立したのかも知れないとも思う。
(はーさんも、何より私も今まで互いを信頼しきれていなかったから、仕方ないのかも知れないけど……)
そう思い、内心苦笑する由紀。
だが、今回のことで少なくとも最低限お互いが、お互いに心を開いた、ということがわかったのは良いことなのだ、と由紀は考える。
そんなことを考えながら、今は、今だけはこの心地よさに身を委ねようと思う由紀だった。